精霊の御子 カレは美人で魔法使い   作:へびひこ

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第十二話 露天風呂

 司の実家、与えられた客間で夕映は拳を握りしめた。全身から気合いが立ち上っているのがのどかにも見える。

 

 昼間の魔術のお披露目は大成功し、夕映ものどかも褒められた。

 藤宮一門への入門も問題なく受け入れられ、夕食の席では司の家族にも挨拶した。

 

 温かい歓迎ムードに緊張もほぐれ、不安はもう感じない。

 

 そして夜。

 一夏の思い出、親しい男の子の実家に旅行というシチュエーションに夕映のテンションはマックスを通り越して大噴火していそうだった。

 

「ここが勝負所なのです!」

 

 力強く断言する友人にのどかは少しだけ引いた。

 普段はとても冷静で、落ち着いていて、頭の良い友人がなんとも言いがたいことを提案していた。

 

『司と一緒にお風呂に入って仲良くなろう。なんなら色仕掛けも可』

 

 こんなの夕映じゃない。

 そう思うが、ここ最近の友人を思い出す限りあるいはこちらが本性かとも思う。

 

 控えめなのどかを扇動し、手応えのない司にアタックを繰り返させたのはこの親友だ。

 

 のどかは司のことが好きだ。好きなのだろう。あの時のことは決定的だった。

 

 精神的にこれ以上ないほど追い詰められたとき、ずっと傍らにいて昔話をしてくれた。ちょっと不器用だけど必死に自分たちを気遣ってくれたのだとわかると胸の奥が熱くなってもう抑えきれなくなった。

 

 すごく綺麗で、すごく優しくて、しゃべることが得意ではない自分とも嫌な顔をせずに話してくれる。

 

 放課後のエヴァンジェリンの別荘で、丸一日を一緒に過ごす男性だ。

 いやでも親しくなるし、親しくなれば好意も持つ。さらにあの一件は決定的だった。

 

 のどかや夕映にとって司以上に親しい身近な男性など存在せず。そして彼はすごく魅力的であった。なにしろ女性と間違うほどの美貌と、温和で優しい人となり、ついでに実家はこのとおり大邸宅をもつ家の跡取り息子だ。

 

 正直彼のことを詳しく知らない女子でも惹かれる条件がごろごろしているレベルの男子だ。特にのどかにとっての彼はそんな条件すら霞むほどの魅力的な男性だ。

 

 同じ歳の男子にあの奥深い優しさと包容力は絶対に期待できないと夕映も同意してくれた。高等部の先輩ですら無理だろうと思う。

 

 そして夕映も、口には出さないが同じように彼に惹かれているのだろう。

 司に触れられたとき、頬を染めて恥じらっていたのを知っている。その手が離れたとき切なそうな寂しそうな顔をしたのを見ている。

 

『のどかの恋を応援するため』

 

 そうは言っているが彼女自身も司に恋い焦がれ、彼の近くにいたいと願っているのだろう。彼に少しでも良いから想われたいという想いがあるのがわかる。

 

 それを口にするとあわあわとうろたえながら否定するのだが。

 

 夕映が司に惹かれるのはいい。

 なぜかそれはかまわないと思える。

 

 もし司の横に夕映が寄り添うことになってもおそらく自分はそんな親友の幸福を祝福するだろう。

 もちろん多少の寂しさや悲しさはあるだろうが、なぜかすとんと納得も出来るのだ。

 

 何食わぬ顔で休日にデートをしているらしい木乃香やときおり猛禽の目つきで舌なめずりしそうなエヴァンジェリンよりかはマシだ。

 

「いきなり裸というのはハードルが高すぎるので、水着を着用するです」

 

 友人の言葉に『ああ、これは旅行前から計画されていたのか』とのどかは納得した。

 旅行の支度をしているときになぜか水着をもっていくように言われたときは『なんで?』と不思議がったものだが、はじめから風呂場に乱入する予定だったのか。

 

 なんとも度胸があるというか、なんというかそれは犯罪ではないだろうかと心配になる。

 

 男女を逆に置き換えたら問答無用で変質者扱いされる。

 女性が入浴中に風呂場に乱入する男。これはダメだろう。たぶん世界の常識だろうと思う。

 

 逆はいいのだろうか? ダメな気がする。

 

「いいですか? あの鈍感男にはこれくらいしないと効果がないのです! なんならおさわりもオッケーとします。それでも効果がないときは覚悟を決めて脱ぎましょう!」

 

 もはや変なテンションというより大暴走を引き起こしている夕映がとんでもないことを宣言する。

 

 のどかは想像する。

 

 司にお風呂場で身体を触れさせる?

 しかも目の前で水着を脱ぐ?

 

 もはやそれは……なんというか変態さんではないだろうかと思うが夕映の気迫が怖くて口に出せない。

 

 確かにそれぐらいしないとアピールにならないかもしれないとも思う。

 

 司は中学生の男女だというのにエヴァンジェリンの別荘の中で寝食を共にしてもまったく『あやまち』など起こる気配もない男性である。……実は女の子というオチはないだろうかとのどかでさえ疑う。本当についているのだろうか?

 

 二人でそれなりにアプローチはしたつもりだが、どうもまったく気づかれていないような気がした。

 

 でもだからといって彼の前で脱ぐのはさすがに度胸が足りないし、自信もない。

 発育のいい一部のクラスメイトと違い。のどかは平均的な女子中学生程度の体型でしかない。たぶん色気が足りないだろうことは自分ではっきりとわかる。

 

「ゆ、ゆえ~、それはやりすぎじゃ……」

「なにをいうのです! あんな顔をしていても彼も男です! 女の子と一緒に入浴し、かつその身体に触れることを許され、さらには裸まで見せてもいいといえば本丸陥落は間違いないのです!」

 

 むしろ引かれないだろうか?

 

 司と自分たちの仲はせいぜい友人程度だ。

 そんな男の子向けのマンガでやるような色仕掛けはかえって逆効果ではないか?

 

 今まで友人と思っていた女の子が、旅行先でなぜかいきなり風呂場に乱入してきた。

 あなたはどうしますか?

 ……悪い結果しか出ない気がする。

 

「とにかくやるです! チャンスは今しかありません。好機は自らつかみとるものなのです!」

 

 ふんぬと支度も万全に立ち上がる親友に、流されがちなのどかは見事に流されて荷物から水着などを取り出した。

 

 だいじょうぶ。

 一緒にお風呂に入るだけだし、水着も着ているんだし。

 

 そうひどいことにはならないんじゃないかな……。

 

 いくらなんでも脱ぐというのは冗談だろう。そうだきっと冗談に違いない。

 自分も色気が足りないが、夕映はさらに低年齢に見られかねない小柄かつ発育の足りない身体なのだ。まさか本気で脱ぐなど言わないだろう。

 

「司さんの入浴時間はあらかじめ聞いておきました。敵は露天風呂にあり! いくですよ!」

 

 やたらテンションの高い親友に引きずられてのどかは露天風呂に向かった。

 

 なんだかんだいいつつ胸が高鳴る。実はちょっとだけ、司の裸というものに興味があったりした。

 なんだかんだで男の子と一緒の旅行、しかも行き先は男の子の実家ということでのどかも夕映に負けず劣らずテンションが上がっているのだ。

 

 

 

 

「なぜあなたが……」

「ふん、抜け駆けとはいい度胸だな?」

 

 藤宮本宅の露天風呂。その脱衣所でばったりとエヴァンジェリンと鉢合わせした。

 驚きを隠せない夕映ににやりと笑うエヴァンジェリン。

 

 貴様ら如きの浅知恵などお見通しだと嘲笑われているようだった。

 

「えーと、エヴァンジェリンさんは確か別棟のお風呂が貸しきりだったんじゃあ?」

 

 のどかが尋ねる。貸し切りのお風呂があるのになぜわざわざ離れた本宅の風呂に来ているのか?

 

 司たち家族が住んでいる本宅から少し離れた場所にある別棟の一つがエヴァンジェリンに貸し出されていたはずで、そこにも露天風呂はあるという話だった。

 

「なにこちらの方が広いと聞いてな。少しばかり堪能しに来ただけだ」

 

 わざわざ司さんが入っているときにデスカ?

 胸の内から黒いなにかが漏れそうになるのをのどかは抑えた。

 

「……旅行中くらい譲ってくれてもいいじゃないですか?」

「ふん、なんのことかわからんな。私は湯を楽しみに来ただけだ。まぁ偶然あいつの裸を見るかもしれないし、ついでに裸の付き合いでもするかもしれないがな」

 

 その言葉に二人の少女は落雷に撃たれたように身を震わせた。

 

「ま、まさかあなたは……裸で行くつもりなのですか!?」

 

 夕映が慄く。

 エヴァンジェリンはなにを当たり前なことをといいたげに鼻で笑い。こちらの荷物の中に水着を見とがめるととたんに見下すような目になった。

 

「はっ、温泉に水着着用など風情のわからん小娘たちだな。その貧相な身体をさらす覚悟がないのなら尻尾を巻いて部屋に帰れ、ここからは大人の時間だ」

 

 はっはっはと勝ち誇って服を脱いでいく。

 その哄笑に夕映は顔を引きつらせ、ついに決断した。

 

「のどか……この万年幼児体型にここまでいわれては私たちも覚悟を決めなければなりません」

「夕映……そんな、無理だよ。いくらなんでもそんなことをしたら」

 

 女の子として大事なものが死んでしまう!

 

 もうすでに何百年も生きている実質ご老人の万年ロリ体型ババアの金髪吸血鬼はともかく自分たちは花も恥じらう乙女なのだ。変に意地を張って女を捨てるようなことをしては!

 

 さりげなく胸の内でエヴァンジェリンを罵倒するのどか。入学当初から比べればだいぶはっちゃけてきた。本性が見えてきたかもしれない。

 

 夕映は優しい眼差しでのどかに笑いかけた。

 

「私は行くのです……けれどのどかには強制はしないです。あなたは犠牲になる必要はない」

 

 万の軍勢が待ち受ける戦場に丸腰で特攻する兵士のような笑顔で夕映は服に手をかけた。

 

「私の覚悟、見届けるです!」

「ゆえ!」

 

 ぶわっとのどかは涙を流して夕映の手を取った。

 

「のどか……」

「私たちは一緒だよ。親友だもの」

「のどか……!」

 

 ゆえ……痴女と蔑まれるなら、せめて二人一緒に散ろう……。

 なんというか二人とも雰囲気に酔って盛大に流されていた。

 

 

 

 

 長い黒髪をゴムで束ね、司は岩づくりの温泉に肩までつかって思いっきり手足を伸ばしてくつろいでいた。

 空には星空、涼しい風が髪を撫で、温かい湯に包まれて身も心も温まる。

 

「やっぱりうちのお風呂はいいね……」

 

 麻帆良の男子寮も大浴場があり、広い湯ではあるのだが司はずいぶん不自由をしていた。

 他の男子が入っている間は司は入れないからだ。

 

 司は気にしなかったのだが、周囲の男子たちから懇願されて司だけは入浴時間を決めて別で入浴することになっている。

 

「身体が持たない」

「欲望を持てあます」

「情熱が鼻から溢れて止まらない」

「股間がマックスパワーになってしまって恥ずかしい」

「というか女湯に行け、そのほうがきっと違和感がない」

 

 などなどひどいことを言われて司は男湯から追放された。

 司が入浴するときは脱衣所には『司くん専用』という暖簾が掛けられる。

 イジメなのではないかとさえ思うが、『俺たちが道を踏み外す前に自重してくれ!』と泣いて懇願されればしかたがない。

 

 なんというか、目が血走ったり鼻息が荒い男どもに混じって風呂に入るのも居心地が悪かったのも事実だ。

 

「男に見えないらしいから……」

 

 自分の身体を見下ろしてため息をつく。

 

 瑞々しい白い肌。

 柔らかく細い手足。

 華奢で、なだらかな曲線を描く腰のライン。

 股間さえ見なければ女と言って通用する。というか男と言っても信じてもらえない。

 

 プールでさえ、司は上半身裸を禁止された過去を持っていた。

 一人だけ上半身にTシャツを着せられ、水に濡れて張り付くTシャツ姿も色っぽいと何人かの男子生徒が股間を隠して動けなくなったりもした。女子はそれを見ておもしろがっていた。

 

 麻帆良に来たら来たで、近右衛門から特注の水着を与えられていた。

 タンクトップとショートパンツ……デザインこそ控えめだったが女性用水着とそう変わらない。

 

「お主の裸は男子生徒には刺激が強すぎる」

 

 真面目な顔で断言する近右衛門を心底殴りたいと思った。

 試しに部屋で着てみれば同室の信繁は気まずそうに目をそらして「すまん……女にしか見えん」と謝ってきた。

 

 もはや力なく笑うしかない。

 

「おのれ、やはり大神の加護は呪いなのか……!?」

 

 この身を蝕む大神の加護が恨めしい。というか絶対にそんな司を指さして笑っているに違いないのだ。あの女神は。

 

 日中の検査では身体に異常はなかったが、外見だけはあきらかに異常だ。この年齢になっても男性的特徴が現れない身体はあきらかに普通ではないのだ。

 しかたがないともう諦めてもいるが、やはり悲しい。

 

 ふと脱衣所の方で声が聞こえた気がした。

 目を向けると脱衣所の扉が開かれて裸体姿を堂々とさらしたエヴァンジェリンと目が合った。

 

「邪魔するぞ」

 

 なんら後ろめたいことはないという態度でかけ湯をして湯につかる。

 前も後ろも隠す気はいっさいないとばかりのあまりの居直りっぷりに司は言葉が出なかった。

 

 それでも『エヴァンジェリンだし』と納得も出来た。

 

 なんと言っても六百年生きた吸血鬼だ。

 いまさら十代の子供に裸を見られたところで騒ぎはしないのだろうと。

 

 しかしすぐその後に二人の少女が手ぬぐいを片手に入ってきて司は思わず湯船の中で滑りそうになった。

 

「な、なにをやっているんですか?」

「お、お風呂に入りに来たのです!」

「……お邪魔しますぅ」

 

 夕映とのどかはさすがに恥ずかしそうに手ぬぐいを身体の前に垂らしているが、身体は隠しきれていない。

 むしろ一歩歩くたびに手ぬぐいが揺れてちらりちらりと膨らみはじめた胸や下半身の隠すべき場所、すらりとした身体のラインなどが見え隠れして余計に扇情的だった。

 

 さすがに凝視出来ずに目をそらす。

 二人は顔を真っ赤にしながら湯につかり、こちらをちらちらと見てきた。

 

「なにを考えているんですか……一応僕は男ですよ?」

「はっ、貴様に女を襲う甲斐性はあるまい。気にするな」

 

 エヴァンジェリンが鼻で笑う。

 

「夕映さん、のどかさん、あなたたちまでなにを……」

「ゆえ~、やっぱりやりすぎだったんじゃ?」

「ここまできたら女は度胸です! のどかももっと堂々とするのです。エヴァンジェリンさんに負けてしまいます!」

 

 司の非難など耳にも届かずに二人でこそこそ言い争っている。

 

 はぁとため息をつく。

 

 昔から司に肌をさらすことに抵抗感のない女性は多かったが……女性の裸が見られてラッキーと思うよりも、男扱いされていないと落ち込んでしまうのが司であった。

 

「なんだ元気がないな? いやむしろこの状況なら元気が有り余っているのか? なんならすっきりさせてやろうか?」

 

 エヴァンジェリンが右手でなにかを握るようにしてそれを上下にゆっくり振ってみせる。下品だった。

 

「くっ……エヴァンジェリンさん、あなたはどこまで勇者なのですか!? さすがにそれは……」

「あわわ、司さんが裸で、司さんのをにぎって、司さんが気持ちよく、司さんがすっきりと……」

 

 夕映が戦慄し、のどかが沸騰してぶつぶつと自分の世界に旅立つ。

 

 露天風呂はそれなりにカオスになってきていた。

 司は女性陣を見ないように視線をそらせて、少しお小言を言った。

 

「女の子なのだからもう少し慎みを持ってください。何度も言うようですが僕は男ですよ」

「ふん、いまさらガキに裸を見られたぐらいでどうということはない」

 

 エヴァンジェリンは『見たいなら見ろと』胸を張る。

 

「えっと……司さんなら、見られてもいいかなぁ、なんて……」

 

 普段からは考えつかないような大胆発言をしてのどかが耳まで真っ赤になって縮こまる。

 

「いいではないですか、女の子と一緒にお風呂に入るなんて他の人が聞けばうらやましがるようなことでしょう? もっと素直に喜んでください」

 

 口では開き直りつつ顔を真っ赤にして司から視線をはずし、もじもじとお湯の中で身体を隠す夕映。

 

 三者三様の有様に司はふと。

 ひょっとして今僕はモテているのか?

 

 旅行先の露天風呂で――といっても司の自宅だが――女の子たちが裸で一緒に入浴してくれる。

 

 ひょっとしなくても好意がなければ出来ないことだろう。

 

 そういえば三人とも、普段から司に良く近づいてきたりしていた。

 いままで男と見られていないから距離感が狂っているのだろうと寂しく思っていたが、アレはひょっとして男性として好意を持っているから近寄ってきていたのではないのか?

 

 しかしさんざん女子たちにおもちゃにされた経験が司の思考を後ろ向きにする。

 

「あんまり僕をからかわないでください。僕だってそのうち我慢出来なくなって襲いかかるかもしれませんよ」

「ふむ、そのときは優しくリードしてやるぞ?」

 

 エヴァンジェリンが妖艶に笑い。

 

「はわわ、襲われるってナニがナニをナニされるの……」

「おう……これは、この破壊力は……もはやこれまでです……」

 

 のどかは思考回路が暴走してかなたの世界に飛び去り、夕映は顔を赤らめてふてくされたような『襲っちゃうぞ?』宣言に魂を直撃されて情熱が鼻から漏れないようにするので手一杯だった。

 

 

 

 

 情欲やら欲望やら情熱が暴走したり溢れそうになったりしながらの混浴体験が終わり部屋に戻った夕映とのどかはぼーっと布団の上で二人向き合っていた。

 

「司さん、綺麗だったね」

 

 のどかがぽつりと呟く、脳裏には湯につかる司の姿が鮮明に浮かぶ。温泉旅館のパンフレットに使えそうなくらいに美人だった。

 

 えへへと口元が緩む。

 

 なにしろ女の子でもつばを飲むほどの色っぽさだった。この記憶は永久保存決定だ。可能なら時間をさかのぼってあの場にカメラを持ち込みたい。きっと生涯の宝になっただろう。

 

「そうですね。肌が白くて、触ったら気持ちよさそうでした」

 

 夕映も先ほどの光景を思い浮かべるようにうっとりとした。

 あのすべすべの肌に触れ、抱きしめられたらきっと天国に召されてしまう。その光景がもんもんと頭の中で再現されて夕映は身体がとろけるような気がした。

 

「女の子にしか見えなかったね……」

「私たちより色っぽかったかもしれません……」

 

 確かに女の子にしか見えなかった。しかもすごく色っぽかった。

 湯で暖まり朱が差した肌。男の子とは思えないほど華奢な身体を湯の中で丸めるように膝を抱えて座っていた。

 

 心が揺さぶられ、理性が決壊し、欲望がみなぎってしまいそうだった。男だったら間違いなく股間を隠してうずくまっていただろう。

 

 女として少し敗北感も感じるが、この二人はただでは起きなかった。

 

「……でも男の子だったよね」

「……可愛いぞうさんでしたね」

 

 しっかりと司が男の子である証を記憶領域に最高画質で保存していた。

 

「ちょっと可愛かったね」

「ええ、あれは良いモノでした」

 

 他と比較するほどに知識はないが、二人の目には司の男の証は可愛らしいものに映った。多分に恋心補正が効いているだろう。

 

 実際、刀子もそれを見て『可愛らしい』と評価したことを二人は知らない。それは小学生の頃の話だが、司は事情があって身体に男性的特徴が非常に出にくい体質だ。股間だけは男らしく逞しく成長するなどという都合のいい現象は起きない。

 

 自分の裸を見られたことも、司の裸を見たことで相殺されてそれほど心理的抵抗もダメージもなかった。

 

 むしろ自分の裸を見て司が魅力的に思ってくれたかどうかが気にかかるほどだ。

 

 もともと司は男性的イメージを抱きにくいため肌をさらすことや触れることに抵抗をあまり感じない。

 そうでなければいくらエヴァンジェリンに挑発されても裸を見せることはしなかっただろう。

 

「可愛かったね……」

「可愛かったですね……」

 

 すっかり湯ではないものにのぼせあがった二人は上の空で顔を真っ赤にさせていた。

 今日は幸せな夢が見られそうだった。

 




混浴イベントです。
温泉ならこれをやらなければならないと燃えました。おかげで書いていて楽しかったです。

夕映大暴走、流されるのどか。

いままであまり恋愛関係は書いてなかった気がするので唐突な感じかなと心配ですが。
今までろくに描写せずにいきなりマッパで混浴は唐突すぎるかもしれません。

今回、ちょっとやりすぎたかなと思ったので新たにR-15タグをつけました。いらない気がするのですが、この程度なら全年齢でもオッケーですよね?

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