精霊の御子 カレは美人で魔法使い   作:へびひこ

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第二話 魔法使いたち

 夜の世界樹広場には魔法関係者が集まっていた。

 

 電灯で照らされた世界樹広場は昼間とはまた違った空気を感じさせた。いかにも魔法使いが生きる世界だと思わせるような冷たく静けさに包まれた世界。

 

 都会の喧噪よりも司としては慣れ親しんだ空気だった。司は生まれながらのこちら側の住人なのだ。

 

 一帯に結界を張って一般人の侵入を防ぐなどの処置もおこなっている。その手際はさすが大都市に本拠を構える大組織の魔法使い達だと感心するものだった。

 

 どうやら今日はそれほど重要な話もなく。ただの魔法関係者の顔見せのようなものらしい。

 学園長、近衛近右衛門が「また今年一年がんばりましょう」的な挨拶をしているところを見ると毎年やっているのかもしれない。

 

 それぞれ互いに挨拶を交わしている数十名の魔法使いの輪から離れ、司はなるべく目立たないように隅っこでおとなしくしていた。

 

 事前に制服姿で良いと伝えられていたので司も男子中等部の制服のままだ。

 周囲を見るとスーツ姿の教師たちに混じってちらほら中等部や高等部などの制服姿も見かける。女性も多い。あの私服姿は大学生だろうか?

 

 この場に来てもいまだに麻帆良の魔法関係者とどう接したらいいのか。司は密かに悩んでいた。

 周囲を見ると初対面と思われる者同士も親しげに挨拶を交わしている。自分もそうすべきなのだろうかとも思うのだがどうにもそういうのは苦手だ。

 

 ほとんど一族の中で身内に囲まれて過ごしてきた司はあまり社交性が高いとはいえない。

 いずれは藤宮の一族として最低限の社交性を身につける必要があるだろうと考えながらも誰に声をかけるでもなくその様子を眺めていた。

 

「久し振りね。司くん」

「あ、刀子さん。お久しぶりです」

 

 顔見知りに声をかけられて反射的に頭を下げて挨拶する。

 

 葛葉刀子。

 神鳴流の剣士で母の知り合い。

 

 きりっとしたいかにも厳しそうな女性に見えるが、親しい相手には優しい人物だ。

 昔稽古をつけてもらったこともあるので司としては話しやすい。

 

 その後ろに女子生徒が立っているが、いやにきつい目をしているなと司は感じた。

 なにか気に障るようなことをしたのだろうか、それとも機嫌が悪いのだろうか。

 

「この子は桜咲刹那、私が担当している魔法生徒で近衛木乃香さんの護衛よ」

 

 麻帆良では教職に就いている大人の魔法使いを魔法先生、生徒として在籍している魔法使いを魔法生徒と呼ぶと事前に説明を受けている。

 

 大抵の麻帆良の魔法使いは魔法先生と魔法生徒という身分に就くらしい。たまに大人でも教職に就かずに別の職業に就いていたり、あるいは表の職業には所属せずに裏の仕事に専念する人もいるらしい。

 子供はよほどの例外でない限り学校に通うらしいが。

 

「護衛?」

 

 司は昼間会った近衛木乃香の顔を思いだし、さて彼女はあの場にいたかと自問した。

 少なくとも司は気がつかなかった。ということは司さえ欺ける腕利きか、あるいはあの場にいなかったかのどちらかだろう。女の子と遊ぶのに夢中で司がうっかり気がつかなかった可能性もある。

 

「近衛木乃香さんというのは先生のお孫さんのことですか?」

 

 念のため確認する。それ以外に誰がいるのだろうと尋ねてから自分の質問の馬鹿さ加減に呆れた。

 

「先生?」

 

 桜咲と呼ばれた生徒がいぶかしげな声を出す。

 刀子がそんな桜咲刹那に説明する。

 

「刹那、彼は学園長の弟子なのよ」

「学園長の……」

 

 少し驚いたような顔をする。どうやら知らなかったらしい。

 

「学園長自慢の弟子よ。それに彼のお母さんは青山の家の出身で神鳴流も習っているの。そういえば聞いたわよ。皆伝を受けたそうね? お祝いが遅れたけれどおめでとう」

「か、皆伝!?」

 

 桜咲刹那が大声で驚く。

 刀子は少し悪戯っぽく笑った。

 

「見かけで判断したら痛い目に遭うの典型よ、彼は。青山宗家から免許皆伝を許された神鳴流剣士でもあるから、今の刹那ではたぶん勝てないわね」

 

 どうも高く評価されているなと苦笑が漏れる。確かに皆伝は受けた。政治的なしがらみではなく実力で得たのだから胸を張れと青山宗家の人にも言われたが、司としては母に手も足も出ていない現状では皆伝をもらっても素直に喜べないのだ。

 

「いえ、僕なんてまだまだですよ。いまだに母に勝てないですし」

「恵さんは神鳴流の達人だもの、あの方に届かなくてもあなたは私が手合わせした時点ですでに一流だったわ……そうね、今度久し振りに稽古でもしましょう。刹那も一緒にどう?」

「よろしければご一緒します」

 

 心なしか桜咲刹那が司に向ける視線が柔らかくなった気がする。

 

「彼女も神鳴流なのですか?」

「ええ、なかなかの使い手よ。女の子だからと甘く見ると怪我をするわよ?」

 

 刀子がまるで妹でも見るかのように刹那に視線を向けると自慢げに褒める。

 

「女の子だからと甘く見たりしませんよ。僕の知っている剣術最強は母ですから」

「それもそうね」

 

 司の言いように刀子の方が苦笑する。あの人に女は弱いなどと馬鹿にしようものなら笑顔でぶっ飛ばされるだろう。

 

「あの、それほど強い方なのですか? その方は」

 

 おずおずと桜咲刹那がたずねる。彼女から見れば刀子でさえ自身が敵わない使い手なのだ。皆伝を受けた少年が最強と称し、刀子も認める人物とはどれほどなのだろう。

 

「現在の神鳴流のトップクラスね。昔私と司くんの二人がかりで試合したことがあるけど……あれはひどかったわねぇ」

「そうですねぇ」

 

 二人で夜空の星々に視線をやる。まるでなにかを思い出すような。それでいてその事実から目をそらしたいような妙な空気だ。

 

「ど、どうなったのですか?」

「瞬殺されたわ。その上にこにこ笑いながら『まだ立てるでしょう?』ってそのまま気絶するまで叩きのめされたわね」

「そ、それは……」

 

 桜咲刹那は少々顔をしかめた。

 やりすぎだ。と思ったのだろう。

 

「刀子さんがいけないんですよ。母に向かって『ご結婚なさって腕がなまったのではありませんか?』なんていうから母がむきになっちゃって……」

「悪かったと思ってるわよ。つい口が過ぎちゃって……」

 

 ほんの冗談のつもりが相手を激怒させてしまったのだ。

 二人で地獄を思い出してどんよりしていると桜咲刹那が顔を青ざめさせていた。

 

「すごい方なのですね……」

「正直、一生勝てる気がしないわね」

 

 刀子の言葉に桜咲刹那の顔からますます血の気が引く。それはいったいどんな化け物だと表情が語っていた。

 

「まぁ、それはともかく刀子さんみたいな知り合いがいてよかったです。正直どうしたらいいのかわからなかったですから」

「あら、どうして?」

「だって、僕これでも一応藤宮一族の後継者候補ですよ? 西洋魔法使いの本拠地に来てなにをしろと?」

 

 刀子は少し真面目な顔で肯いたあと元気づけるように微笑んだ。

 

「上には上の考えがあるのでしょうけど、司くんは自分の思うように学生生活を送ればいいのよ。だいじょうぶ。ここは別に司くんにとっての敵地ってわけではないし、司くんの味方もたくさんいるから」

 

 桜咲刹那がなにか聞きたそうな顔をしていたが、刀子がその場を離れると司に綺麗な一礼をして去って行った。

 

「なにかあったら刀子さんに頼るか……なにもないのが一番だけど」

 

 司は周囲からの視線を感じつつ再び目立たないように隅の方で立っていた。

 

 神鳴流の免許皆伝。

 藤宮一族の後継者候補。

 

 そんな言葉が視線と共にちらちら耳に届く。もう手遅れかもしれないなと再び精神的な腹痛を感じてお腹を撫でた。

 

 

 

 

「刀子さん、さっきの方ですが……何者です?」

「司くん? 彼は藤宮司。関東に拠点をもつ『精霊術』の藤宮一族の長男よ」

 

 刹那の疑問に刀子は簡単に答える。詳しく説明するには事情が複雑すぎるし現状刹那にどこまで明かして良いか判断もつかない。彼の存在は麻帆良側でもデリケートな問題と認識されていた。うかつなことは言えない。

 

「かなりの使い手に見えました。いえ、剣士としてもありますがそれよりも魔法使いとして優れているように思えました」

 

 刹那はそれほど魔法や魔術に優れていない。そちらの修行に力を入れておらず剣術の補助程度にしか使っていないから最低限必要な術しか修めていない。

 

 それでも相手の魔力から実力を推し量るくらいはできる。自分の感覚が確かならば彼はほぼ完璧に自身の魔力を制御していたように見えた。

 当然魔法の腕もそれに見合ったものがあるだろう。つまり魔法使いとしても優れているだろうと感じた。

 

「彼は剣士と魔法使いの両方に才能がある子よ。なにしろ関東最大の魔力をもつ魔法使いだもの」

「彼が?」

 

 刹那は今度こそ驚愕する。あの少年が自身の大切な『お嬢様』と日本において唯一肩を並べる存在であると気がついたのだ。

 

 それを肯定するように刀子は説明する。最低限の説明はした方がいいと判断した。

 そうでないとこの不器用で頑固で無鉄砲な少女はまかり間違って司を危険人物と敵視しかねない。神鳴流の皆伝と聞いて態度を軟化させていたがそれも西につながっていると勘違いすれば十分ありえる事態だ。

 

「そう、この国で木乃香お嬢様と同等の魔力をもつ唯一の少年よ」

「そんな彼がなぜ麻帆良に?」

 

 当然の疑問だ。木乃香が麻帆良にいることだって西を統べる関西呪術協会では問題視されているのだ。その上もう一人の極東最大の魔力保持者を麻帆良に招くなど爆弾を抱え込むようなものだ。

 日本の魔術組織から才能のある二人を取り上げようとしていると西や関東の魔術組織が騒ぐだろう。

 

「学園長が呼んだらしいわ。理由は……彼にはいろいろと期待しているらしいわね」

 

 言葉を濁す。刀子さえすべての事情を説明されたわけではないし、生真面目な刹那には言い難いものもある。

 

 まず関東で歴史のある一族が跡継ぎを麻帆良に預けるという政治的効果。

 関東最大の魔力の持ち主を一時的にではあっても自分たちの陣営に引き込むという目論見もあるだろう。

 

 さらに藤宮一族は関西にも顔が利く。

 これを機会に藤宮一族の力を借りて関西との融和を進めたいのだろう。

 

 同じように関東の有力な魔術師の家系の子供たちが麻帆良に招かれてもいる。

 関東の結束を強くし、さらに関西との交渉役も手に入れる。

 

 さらに言えば『闇の福音』の問題もある。

 

 いろいろと思惑はあるだろう。

 刀子の知る司は温厚な人の良い少年だが勘のいい子でもある。そんな微妙な空気を感じて戸惑っているのだろう。

 

「あの子は木乃香お嬢様と同じくらい微妙な立場の子だから、刹那も良かったら気にかけてあげてちょうだい」

「はい、青山家に連なる方となれば無下にもできません」

 

 刹那にとって青山家は特別だ。

 神鳴流の宗家であり、自分を木乃香の護衛に抜擢した関西呪術協会の長、近衛詠春の実家でもある。

 その血縁であり神鳴流の皆伝を受けるほどの人物なら、刹那にとっては重要人物だ。

 そんな堅苦しい刹那の力を抜くように刀子は軽く刹那の肩を叩いた。

 

「そんなに難しく考える必要はないわ。司くんの友達にでもなって愚痴の一つも聞いてあげなさい。それだけでもあの子にとっては助かるはずですから」

「と、友達など畏れ多い……」

「もう、本当にあなたは……もう少し頭を柔らかくしなさい」

「……申し訳ありません」

 

 軽く頭を下げたあと少し躊躇したが意を決して尋ねてみた。

 

「あの先ほどの司様ですが……」

「様って……せめて普通に呼びなさい」

 

 少し頭痛を感じたかのように眉間に指を当てる刀子に刹那は気になっていたことを聞く。

 

「先ほど『長男』と言っていましたが……本当に男性なのですか? 私には女性にしか見えませんでした」

 

 それもかなり美人の女性だ。

 刹那のクラスメイトも美女美少女が多い。その中に混じってもあれはトップランクの美少女だろう。

 胸はないように見えたが中学一年という年齢ならそう不自然ではないし、どう見ても女性にしか見えない容姿だった。雰囲気も男性的とは言いがたい。

 

 刀子はいよいよため息をついた。

 

「それはあの子に面と向かっていってはだめよ。傷つくから。それと司くんは間違いなく男の子よ。昔私も疑問に思って確かめたもの」

「確かめた?」

 

 どうやってと刹那が首をかしげる。

 

「別にたいしたことではないわ。修行のあと一緒にシャワーで汗を流しただけよ。ちゃんとついてたわよ」

「だ、男性とシャワーを浴びたのですか!」

「男性といっても子供よ? 小学生の頃の話だし、いろいろと可愛かったわよ?」

 

 お、大人だ……。

 自分ではとうてい出来ない表情で悪戯っぽく微笑む刀子に刹那はそう慄いていた。

 

 

 

 

 世界樹広場での顔見せの後、学園長室では近衛近右衛門と来客の金髪の少女が向き合っていた。

 

 日頃はこの部屋に招かれても不機嫌さを隠さない金髪の少女が実に楽しそうな笑顔を浮かべているのに近右衛門としては気が気ではない。だが下手につつけばやぶ蛇になると無視していた。

 

「ふん、今年はおもしろそうなのがいるじゃないか」

「ふぉっふぉっふぉ、じゃろう? わしの自慢の弟子じゃ」

 

 さっそく目に止まったかと内心ため息をつく。

 あれは正直よく目立つ。目立ちすぎる。あの場に集まった魔法関係者も興味津々だったが声をかける者は少なかった。事情を知るものはいろいろとデリケートな問題だと理解していたし、知らない者もあの雰囲気では声をかけづらかっただろう。

 

 司も立場を理解しているのかいないのか積極的に動く事なく無難に時間が過ぎるのを待っていた。

 

 近右衛門としてはもう少し麻帆良の魔法使いと交流を持って欲しいと思うが、徐々に慣れてもらうしかないだろう。追々その機会をつくっていけばいい。

 

「魔力はたいしたものだ。それと制御能力もいい。問題は実戦に使えるかどうかか……ひとつ腕を見てやろうか?」

「そいつは勘弁しとくれ、あの子が襲われたなどと藤宮の連中に知られたら面倒ごとになる」

 

 予想通りの反応に近右衛門は顔をしかめた。

 彼女は退屈な日常を長く過ごしていたため興味を引くものに対しては多少執着する傾向がある。おおかた思わぬ実力ある子供を見かけてその実力がどの程度か知りたくなったのだろう。

 

 しかし司の麻帆良進学は結構骨を折ったのだ。

 それを台無しにされたくはない。

 

「たかが極東の魔術一族相手に弱気なことだ」

 

 そんな近右衛門をせせら笑うエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 来客用のソファーに行儀悪くあぐらをかいている姿は一見ただの気の強そうな少女だが『闇の福音』と呼ばれる自称『悪の魔法使い』であり、事情があって全力が出せない現時点をもってしても麻帆良の最大戦力に数えられる人物だ。警備員として働きながら女子中等部に通う女子生徒でもある。

 

「藤宮の『精霊術』は馬鹿にできん。それにあそこは関西にも影響力がある。藤宮一族の機嫌一つで関西との融和の成否が決まるといって良い」

「ふん、わたしには関係のないことだな」

「そっちは確かに関係ないかもしれんが、忠告しておくが彼の機嫌を損ねないほうがいいぞ?」

「ほう、なぜだ?」

「お主の呪いをとけるかもしれない人材として招いたのに、お主が気に入らないからときたくないと駄々をこねられたら困るじゃろう?」

 

 エヴァンジェリンの目が冷たく光った。呪いの解呪が出来るかもしれない人材。とうてい聞き流せない言葉だ。

 

「じじい……冗談口ではすまんこともあるのだぞ? じじいですらとけない呪いをあんな小僧がとけるとでもいうつもりか? おい『関東最強の魔法使い』よ?」

 

 近右衛門は飄々と肩をすくめて見せた。

 

「じゃから言ったじゃろう? 藤宮の『精霊術』は馬鹿にできんと……それに彼はナギ以上の魔力をもち、かつそれをほぼ完璧に制御出来る。わしは『精霊術』も使えなければ、魔力もナギに劣る」

「ナギ以上の魔力と、極東に歴史ある魔術体系か……確実にとけるのか?」

「やらせてみなければわからん。なにせナギのかけた呪いは極悪なデタラメさじゃからのう」

「他の魔法使いが騒ぐのではないか?」

 

 エヴァンジェリン的には解呪さえされればどうでも良いことではある。しかし解呪したあの子供まで『闇の福音』に与したと討伐でもされたらさすがに目覚めが悪い。

 

「もう説得済みじゃ。なにしろお主はかのサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドからの期限付きでの預かり物でしかもその期限はすでに切れておる。お主が麻帆良に害をなさないと約束さえしてくれれば問題ないわい」

 

 説得には骨を折っただろうと察せられる疲れ切った口調だった。だがそこで労うのでなくさらに鞭打つのが彼女の彼女たる由縁だ。特にこの老人に対しては労う気など欠片もない。

 

 そもそもこの『関東最強の魔法使い』がさっさと解呪出来ていればなんの問題もなかったのだ。おそらくナギも万が一自分が解呪出来なくても近右衛門がいればと麻帆良に預けたのだろうと考えている。それなのにこの老人はさんざん時間をかけて研究した結果自分では不可能とさじを投げた。正直それを聞いたときは殺そうかと思ったほどだ。

 

 エヴァンジェリンが意地悪くにっと笑った。

 

「害をなしたら?」

「そのときはわしの首が物理的に飛ぶの。わしとタカミチ君でお主を討伐することになる。呪いがとけたお主ならわしらを返り討ちにするのは容易かろう」

「タカミチも道連れか!」

 

 エヴァンジェリンが大笑いするが近右衛門にとっては笑い事ではない。

 

「わしとタカミチ君、二人がかりでようやく押さえ込めるというのが麻帆良の魔法使いの認識じゃから仕方あるまい。だからくれぐれも問題を起こしてくれるなよ。わしが死んだらタカミチ君と一緒に夜な夜な枕元に立って恨み言を延々とささやき続けるぞい」

「じじいの夜這いなんぞいらん。それにわたしはそんなに暇ではない。麻帆良の半人前どもと遊んでも退屈なだけだ」

 

 エヴァンジェリンの言葉に少し安心した近右衛門は今後の予定を話す。

 

「いまは入学したてでごたごたしておるじゃろうから、少し落ち着いたら彼に話すつもりじゃ」

「やつが断る可能性は? わたしは『悪の魔法使い』だぞ?」

「司くんは日本生まれじゃ、お主の悪名などしらんじゃろう。それにあの子は風評で人を判断するような愚か者ではない」

「ずいぶん高く買っているな」

「当然じゃろう? わしの弟子じゃぞ?」

「ふん、では期待しないで待っていてやろう……ああ、挨拶くらいはしてかまわんだろう?」

「くれぐれも穏便にの、彼にへそを曲げられたら困る」

「一応気をつけよう。それにしてもいい駒を手に入れたな、じじい」

「将来有望な弟子をもってわしは幸せ者じゃよ」

 

 エヴァンジェリンの皮肉にも動じずに近右衛門は静かに目を閉じた。

 思い出されるのは西洋魔法の基礎を教え込んだ時の光景。

 

 飲み込みのいい生徒だった。

 あっという間に基礎を身につけた少年に気をよくした近右衛門は様々な魔法書を贈った。きっと独学でも一流に手が届いてしまうのではないかと思わせるほどの才能だった。

 

 人間性のタイプが違うが司はナギ・スプリングフィールドと同じ、ある意味世界や時代に選ばれ愛された人間なのだろうと考えている。将来はきっと自分など及びもしない大きなことをなせる人物だと期待していた。

 

 あるいは彼ならば確執の深い西洋魔法使いと日本の魔術組織の融和さえ出来るかもしれないとも夢想する。

 歴史有る血筋と傑出した実力。これから時間をかけて大人になり人格と能力を磨いて十分な味方を得れば不可能ではないだろう。

 

 あれからもう数年。

 どれほどの才能に成長したか楽しみだった。

 

 できればのびのびとこの麻帆良でその才能をさらに伸ばして欲しい。

 ここは子供たちが学び、成長する場なのだから。

 

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