嫌われ勇者さま ー嫌われる程強くなる俺は、王女と嫁のヘイトを溜めつつ、魔王城を目指すー   作:スイーツ阿修羅

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連行(れんこう)される勇者さま

 

 目が覚めると、不思議な場所にいた。

 上を見ても下を見ても、真っ白なのだ。

 空間は柔らかい光に包まれていて、熱さも寒さも感じなかった。

 ただ、心地がよかった。

 身体の感覚も、まるでなかった。

 自分の身体に触れることも、見る事もできず、

 ただ意識だけが、ここにあった。

 

 あれ? ここはどこ?

 

 そんな疑問が生まれた時、視線の先、遥か遠くに。

 強い光の玉が生まれた。

 

 それはとても明るいけれど、なぜか眩しいとは感じなかった。

 

 

「………あなたは、勇者に、選ばれました………」

 

 

 強い光の玉から、女性的な声がした。

 とてもゆっくりと、落ち着いた声で、言葉がここに届いてくる。

 

 

「……私はあなたに、勇者としての力と使命を授けます」

 

 

 その語りはゆっくりだったけれど、もどかしいとは感じなかった。

 むしろ、もっと聞きたいほどに、彼女の声は心地よかった。

 

 

「あなたは新たな勇者です。 この世界を災厄へと導かんとする魔王の企みを、阻止するのです」

 

 

 でも、まったく理解が出来なかった。

 ユウシャ? マオウ?

 今までの人生の中で、一度も聞いたことのない単語だった。

 

 

「私の名は女神ヘスティア。 絶対神イデア様の盟約に誓い、あなたに"嫌われ勇者"の力を授けます」

 

 メガミ? ヘステア? 何語だよ?

 嫌われの、ユウシャ?

 

 

「あなたはこれから、出来る限り、皆に嫌われる人生を歩んで下さい」

 

 

 え??

 何を言っているのだ? 

 皆に嫌われる人生を歩めだって?

 ふざけるな。

 

 

「そうすれば、あなたは、誰にも負けない力を手に入れて、魔王を殺すことが出来るでしょう」

 

 

 彼女の最後の言葉は、ぐわんぐわんと反響して、すこしずつ遠ざかっていく。

 頭の中にモヤがかかったように、視界がぼやけていき……

 

 まぶたがゆっくりと降りてきた。

 ゆるやかに意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 んんっ……

 

 暖かい光に包まれて、俺は布団の中でまどろんでいた。

 うっすらと目を開けると、

 俺の顔に影を落とす、君がいた。

 

 目の前には、俺の新妻(にいづま)、"ニーナ"の顔があった。

 寝ぼけた俺を覗き込みながら、

 ぽっぺたを膨らませて、ニコニコと笑っている。

 

「おはよう…… ねぇ、……してもいい」

 

 ニーナは、恥じらいながら、長いまつ毛の瞳を細めながら、

 扇情的な様子で、俺の顔色を伺ってくる。

 

「もう、朝っぱらからニーナはエッチだなぁ」

 

 俺は、そんな事を口にしながら、ニーナのぷっくらした唇に、キスをした。

 

 んちゅ……

 

 やっぱり、柔らかいな。  

 すごく興奮する。

 一週間前、俺とニーナは結婚したのだ。

 

「うはぁ、やっぱり恥ずかしいなぁ……」

 

 キスが終わると、ニーナは口を両手で押さえてそう呟いて、赤く火照った顔を隠した。

 俺も恥ずかしくなって、ニーナから目をそらしてしまう。

 

「でも、毎日欠かさずキスしてるのに、なかなか子供ができないな……」

 

 俺がそう言うと、

 ニーナは俺を見て、ギュッと抱きついてきた。

 

 ニーナの細くて柔らかい身体が、俺の体を包み込んだ。

 

「そうだね。いっぱいシテるのにね……… 私も、早くあなたとの赤ちゃんが欲しいよ」

 

 ニーナは、自身のお腹を撫でながら、

 俺と抱き合いながら、甘ったるい声で囁いた。

 

 

 

 

 

 俺と"ニーナ"が、子供の作り方を知ったのは、10才の頃であった。

 あれは、近所の友達と川で遊んで、びしゃびしゃに濡れた帰り道。

 

 俺たちは、見つけてしまったのだ。

 "ニーナ"のお姉さんが、彼氏の男と手を繋ぎながら、森の中の小屋に入っていくのを。

 俺とニーナは、興味深々で、窓から小屋の中を覗きこんだ。

 そこで俺たちは、信じられない光景を目にしてしまった。

 

「ねぇ、〇〇、赤ちゃんいっぱい作ろ?」

 

 そう言って二人は、なんと唇を重ね合わせたのだ。

 

 俺とニーナは、もう顔じゅう真っ赤にして、すぐに森の中へと逃けだした。

 見てはいけないものを見た気がした。

 俺達は、その時、知ってしまった。

 

 キスをすると、赤ちゃんが出来てしまうのだと、知ってしまったのだ。

 

 女の子と唇を重ねるなんて、あの時は、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

 あの後、俺とニーナは、しばらく気まずくて、何も話せなかったのをおぼえている。

 

 あれからもう、4年たった。

 俺達は、14才になった。

 この4年間、いろいろな事があった。

 なんだかんだあって、俺達はつい先週、結婚したのだ。

 

 先週から毎日、欠かさずキスをしているのだが、ニーナに妊娠の気配はない。

 

「まぁ、そんなにポンポンと生まれても、面倒が見切れなくなるしな。じっくり待とうぜ」

 

 俺は、そう言って、敷布団から身体を起こした。

 

 

 

 

 

 

 ここは、古びた山奥の、小屋の中であった。

 俺達は、三人で、ここでのんびりと暮らしていた。

 ざざざざざ……と、木々の間を風が吹き抜け、

 ちゅんちゅん……ちちちち……と、鳥たちが朝の訪れを告げる。

 ざぁぁぁぁ……と、小川の穏やかな流れが聞こえてくる。

 

 心地のよい晴れた朝だ。

 春の早朝。

 ひんやりとした冷気に満たされて、俺はスッキリと目が覚めた。

 

「朝ごはんにしよ」

 

 ニーナが伸ばした手を掴んで、俺達は立ち上がった。

 

 朝ごはんができた。

 今日の朝食は、焼き魚とつくし炒めである。

 町の商店で手に入れた醤油で味をつけると、なかなかに美味しくなった。

 

「うぅ………ぎゃぁあ、おぎゃああ、おぎゃああ……!!」

 

 二人きりの静かな時間に、赤ちゃんの泣き声が響き渡った。

 ニーナは勢いよく立ち上がり、泣き声のする方にかけていく。

 俺達の、もう一人の家族のお目覚めである。

 名前はシュルト、男の子であり、年齢は一才である。

 

「おはようシュルト。今日も元気だねぇ。待っててね、ミルク、作ってるから……」

 

 ニーナは慣れた手つきで、粉ミルクの粉末を、水に溶かていく。

 哺乳瓶に入った、出来上がったミルクを、シュルトの口に近づけると、

 シュルトは泣き止んで、コク、コク、コク……と、ミルクを飲み始める。

 

「ねぇ、ミルクがもう切れそうだから、新しいヤツお願いしていい?」

 

 ニーナが、胸の中でシュルトをあやしながら、横目で俺にそんな頼みをしてきた。

 

「分かった」

 

 俺は了承して、再び食卓の料理に口をつけた。

 

 シュルトは、俺達が育てている赤ちゃんである。

 しかし、俺達の子供ではない。

 シュルトは、ニーナのお姉さんの子供なのである。

 

 ニーナのお姉さんと、その彼氏さんは、二人とも他界してしまったから、

 俺達はシュルトを引き取って、こうして二人がかりで育てているのだ。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、深夜のこと。

 俺は久しぶりに、人間の街へとおりていた。

 粉ミルクと、その他もろものを調達しにきたのだ。

 俺は草むらの陰に隠れて、街中の様子を伺った。

 

 俺は、人間に見つかる訳にはいかないのだ。

 俺は自慢の赤い瞳で、恨めしき赤い瞳で、じっと街の様子を観察した。

 

 生き物の心の中を見る、赤い瞳。

 シュトラド族しか持たない、読心眼である。

 この力によって俺達シュトラド族は、生き物の意識をのぞく事が出来るのだ。

 ただし、同じシュトラド族同士で、心を読む事はできない。

 俺は、ニーナの心の中を、読むことはできないという事だ。

 

 流石に夜だからか、人間の意識を覗いても、夢の中にいるものがほとんどだった。

 起きている人間の意識を避けながら、俺は街の中へと忍び込んだ。

 そして閉められた商店に忍び込み、大きな袋の中の粉ミルクを、少し(すく)って、持ってきた袋の中に入れるのだ。

 

 商店には、果物や菓子など、舌鼓を打つような美味しそうな食べ物がたくさんあった。

 ほんとは全部持って帰って、ニーナに美味しいものを食べさせたいのだけど、

 あまり取りすぎるとバレてしまう。

 だから俺は、ニーナのために、ぶどうという、小さな粒が集まったみたいな、珍しい果実を、一つだけとって、

 街を出て帰路についた。

 

 

 ニーナの待つ小屋に着く頃には、朝日が山の端から顔を出し、新しい一日の始まりを告げていた。

 

 やっと帰ってきた。

 もうニーナは起きているだろうか?

 今日は徹夜だったから、疲れたな。

 ニーナのキスで癒してもらおう。

 そんなことを考えながら、小屋へと、一歩一歩近づいていった。

 

 んん??

 俺はそこで、異変に気づいた。

 

 小屋の中に、誰かいる。

 

 小屋の中からは、本来聞こえるはずのない声がした。

 "人間"の意識の声が、二つあった。

 

「ニーナっ!!!」

 

 俺は走り出した。

 なぜここに人間がいる?

 まさか見つかったのか?

 どうして見つかったんだ?

 ここは王国から離れた山奥だ。

 見つかる筈がないのだ!!

 

 心臓が、バクバクバクと暴れ出す

 寒気と痺れが全身を駆け巡る。

 焦燥感に駆られながら、俺は玄関の扉を、思い切り開いた。

 

「ニーナっ!!」

 

 俺は妻の名を叫んだ。

 部屋の中には、二人いた。

 真っ白な下地に赤い線が装飾された長いマントの二人。

 彼らは二人とも。人の顔を模した仮面が付けていた。

 顔が見えないから、意識の中身までは読み取れないが、間違いなく人間だった。

 それに……

 

 このマントと仮面、見違える筈がない。

 人間の大国"マナ王国"の誇る、最強精鋭部隊。

 "マナ騎士団"の制服であった。

 

 "マナ騎士団"とは、 

 俺達シュトラド族を壊滅させた、最強の戦士団である。

 オレの父さんも母さんも姉ちゃんも弟も爺ちゃん婆ちゃんも友達も。

 みんな彼らに殺されたのだ。

 俺とニーナとシュルトにとって、肉親と同胞を殺された(かたき)である。

 

「ようやく来たか。コイツで合ってるか?」

 

 背の高い仮面が口を開いた。

 男らしく精悍そうな声、年齢は20才くらいだろう。

 

「はい、彼で間違いありません」

 

 背の低い仮面が、女性の声で答えた。

 可愛らしい声だった。まだ幼さの残った声、俺達と同い年ぐらいだろうか?

 そしてオレは、

 ニーナとシュルトを見つけた。

 

 ニーナは、シュルトに覆いかぶさるように、床に倒れていた。

 真っ赤な血だまりの中で、二人は重なるように倒れていて、

 身動きひとつ取っていない。

 

 ニーナとシュルト、二人が沈んだ血だまりは、まだ鮮やかに、赤く輝いて……

 

 

 

 

 な……ん……で?

 

 目の前の景色が遠のいていき、恐怖のあまり発狂しそうになる。 

 目の前の現実が、受け入れられかった。

 

「なん……で? 人間が、ここに……」

 

 この場所が、見つかる訳がない…… 

 だって、ここは人里離れた山奥だ。

 王国の都からも遠い。

 人里に下りた時も、見つかるようなヘマはしてないはずだ。

 

 俺はこの場所で、あの戦いを生き残ったニーナやシュルトと共に、

 遊んで、働いて、子供を作って、

 寿命が尽きるまで、穏やかに暮らせるのだと、信じていたのに。

 

「天啓を受けたのですよ。この場所に。新たな勇者が現れたと」

 

 仮面の女がそう言った。

 ユウシャ、という言葉が、頭のどこかで引っ掛かった。 

 最近どこかで、聞いた気がする。

 

「本来なら皆殺しにするところだが、お前は勇者に選ばれた。

 この女を殺して欲しくなければ、俺達の言う事を聞け」

 

 仮面の男はそう言って、ニーナの身体を抱え上げて持ち上げた。

 そして、ニーナ下敷きになっていたシュルトの全身が目視できた。

 シュルトは、腹に大きな風穴を開けられて、惨殺されていた。

 

 うそだ……

 

「うあぁぁあああ!!!」

 

 俺は、仮面の男へと飛びかかった。

 勝てないなんて分かっている。

 マナ騎士団は最強だ。

 常人が100人がかりでも歯が立たない程に。

 でも、許せなかった。

 シュルトは、ニーナの姉ちゃんから死に際に託された。俺達の家族だったんだ。

 

「リト!!」

 

 仮面の男が叫ぶと、女の方が動いた。

 目にも見えない速度で、俺の目の前に現れると、

 気づいたら俺は、仮面の女に、床に組み敷かれていた。

 両手を押さえつけられて馬乗りにされて、身動き一つとれない。

 一生懸命抵抗しても、仮面女の細くて柔らかい腕は、ビクともしなかった。

 

「お前らぶっ〇してやるっ!!! シュルトを返せっ!! 死んで償えっ!!

 俺達がお前ら人間に何をしたっていうんだよっ!? 何か一つでも迷惑をかけたのか!? あぁ!!」

 

 悔しくて、許せなくて、絶望して、涙がポロポロと溢れ出す。

 シュルトとニーナは、最後に残った俺の生きる意味なんだ。

 それさえも、お前ら人間は奪うのかよっ。

 

「すまないな。殺す予定はなかったんだが。赤子の方はうるさく泣くので仕方なく殺した。

 人質は一人で十分だからな。 そしたら女の方も泣き喚くもんで、今は気絶させている」

 

「は……?」

 

 俺は、仮面の男の台詞に、一瞬理解が及ばなかった。

 泣いたから、殺した??

 うるさいから殺した。

 そんな理由でシュルトは、殺されたのか??

 

「だが安心しろ。この女は生きている。お前が俺達の命令に背かない限り、殺す予定はない。

 

 そう言って仮面男は、気絶したニーナを俺にみせた。

 嫌だ。嫌だ。

 

「うわぁぁぁあああ!!! あぁああああ!!!」

 

 俺は現実を受け入れられずに、大声で泣き喚いた。

 心の中はぐちゃぐちゃだった。

 もう、昨日までの日常は戻って来ない。

 シュルトの命も戻って来ない。

 ニーナと俺は殺されなかったが、

 この先に幸せなんてあるのだろうか?

  

 もう、〇にたい……

 いや駄目だ。

 ニーナが生きている限りは、俺が……

 

「うるせぇよっ!! どいつもこいつも泣きやがって!! ぶち殺してやろうか!!!」

 

 仮面の男が大声で怒鳴り、床に組み伏せられた俺を睨みつけてくる。

 

「やめてください。彼は勇者ですよ? 魔王を倒して貰わないと困ります」

 

 激高して剣を振りかざす仮面男に、俺を押さえつける仮面の女がそう言ってなだめた。

 

「ちっ……早く泣き止ませろ。俺は外に出てる」

 

 男は舌打ちをして、ニーナを抱えたまま玄関から出て行った。

 俺は、シュルト赤ちゃんのみたいに赤ちゃんのように、大声で泣き続けた。

 止めようと思っても止まらない。

 泣いていないと、気がくるってしまいそうだった。

 

「勇者さま。お子さんの事は申し訳ありませんでした。彼は気性が荒いのです」

 

 仮面の女が、俺の四肢を押さえながら、優しい声で語りかけてきた。

 申し訳ない? 申し訳ないだと??

 ふざけるなよ。シュルトは死んだ。謝ってすむ問題じゃねえんだよ。

 

「あなたは勇者に選ばれたんです。あなたには、世界最強の戦士になる素質があります。

 だからどうか、この世界の為に戦ってほしいんです。

 あなたが魔王を倒した後は、私達はあなた達二人の幸せを保証します。

 だから、頑張ってください」

 

 仮面の女は、出来る限り優しい声で、俺に語りかけてきた。

 でも、仮面を外して素顔を見せてはくれなかった。

 当然だ。

 仮面を外せば、俺の赤い瞳の力で、心の中を具体的に読まれてしまうからだ。

 

 シュトラド族の赤い瞳は、人の心を覗く事が出来るが、それはあくまで目を見た場合。

 表情が見えない状態では、心の動きは、ぼんやりとしか見れないのだ。

 

 俺達シュトラド族は、この読心眼を持つために、

 人間から嫌悪され、迫害され、マナ王国によって滅ぼされた。

 

 俺とニーナとシュルトは、シュトラド族の生き残りである。

 俺達以外の生き残りの存在については、俺は知らない。

 

 

 

 

「ユウシャって……なんだ?」

 

 俺は、仮面の女に尋ねた。

 この女が言うには、どうやらオレはユウシャに選ばれたらしい。

 

「世界の壊滅を企む魔王を倒すため、神々から特別な力を授かった者のことです」

 

 思い出した……

 そういえば昨日の朝……ユウシャとか、同じような夢を見ていた気がする。 

 俺には、特別な力があるのか?

 

「ユウシャが、俺なのか?」

 

「はい」

 

「特別な力って、なんなんだ?」

 

「私には分かりません。勇者さまの力は、勇者のみぞ知る力です」

 

「そうか…… 俺がマオウって奴を倒せば、俺とニーナは許して貰えるのか?」

 

「はい。二人の望みには出来る限り応えると、約束します」

 

 俺はまた、悲しくて辛くて涙を流した。

 

「分かりました、俺がマオウを倒します」

 

「……よくぞ決心してくれました。では早速。王宮行きの馬車に向かいましょう」

 

 仮面女は、俺の拘束を解き、泣き止んだ俺を立ちあがらせた。

 抵抗する気はなかった。 

 絶対に勝てない上に、ニーナという人質がいるのだ。

 彼女を信じて従うしか、選択肢はなかった。

 

 俺は腹をくくった。

 最後に残った俺の生きる意味、

 ニーナを守るために。

 

「待って下さい……シュルトの葬式を、させてくれませんか?」

 

 俺は力ない泣き声で、仮面の女に尋ねた。

 

「そうですね。あの人に聞いてみましょう」

 

 仮面女は、また優しい声色で答えてくれて、俺と共に玄関を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタガタガタ……と馬車が揺れ動く……

 俺は袋に詰め込まれた状態で、口も塞がれて、馬車の荷台に揺すられていた。

 

 結局、シュルトの葬式は出来なかった。

 仮面の男が許可しなかったのだ。

 シュルトは仮面男の火魔法で、一瞬の内に燃やされて、灰となって消えた。

 

 気絶したニーナと俺は、それぞれ袋に詰め込まれて、馬車の荷台に積み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 ガタガタと、馬車が揺れる度に、床や荷物に頭を打ちつける。

 真っ暗で何も見えない。

 俺は恐怖で涙を流して、尿を漏らしてしまっていた。

 馬車は止まることなく、まだまだ止まらず進み続ける。

 喉が渇いてお腹も減った。

 いつになったら止まるのだろう。

 

 俺の人生は、この先どうなるのだろうか?

 ……まったく分からない。

 

 でも……

 俺は強く誓う。

 

 ニーナとの甘々な結婚生活を取り戻すために、

 俺は、仮面の女の言葉を信じて、進むしかないのだ。

 俺は勇者として、必ず魔王を倒してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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