嫌われ勇者さま ー嫌われる程強くなる俺は、王女と嫁のヘイトを溜めつつ、魔王城を目指すー 作:スイーツ阿修羅
ニーナと俺は捕まった。
シュルトが死んだ。
俺たち家族は、崩壊した。
ガタガタと袋詰めで馬車に揺られる。
山を越え谷を越え、喉が渇いて腹が減っても止まらない。
でも不思議なもので、腹が減っていても寝向けはやってきた。
馬車に揺れながら、俺はウトウトと目を閉じた。
辛い現実から逃げるように。
俺は、夢の世界に逃げたかった。
★★★
「お目覚めのようですね。"嫌われ勇者"さま」
女の人の声がして、俺は目覚めた。
まぶたを開くと、何もない、真っ白な空間。
自分の肉体すら存在しない、意識のだけの世界。
ただ目の前には、明るい太陽みたいな光があって、そこから女の声がした。
「私の名前は女神ヘスティア。
私との会話を、目覚めた後でどの程度思い出せるか分かりませんが……
"嫌われ勇者"の力について、説明しようと思います」
ヘスティア?
どこかで聞いた響きだ。
この場所も、見覚えがある……
"嫌われの勇者"……
ユウシャ……
嫌な響きだった。
あれ……? どこで聞いたんだっけ?
俺はどうしてこんな場所に……?
「あなたには、"嫌われ勇者"の力があります。
【人に嫌われるとレベルが上がり、強くなれる能力】です。
逆に、【人から好意を向けられるとレベルが下がり、弱くなる能力】でもあります」
嫌われた分だけ、強くなれる??
俺は強く……なりたい……
だって俺は、守れなかったから……
俺は守れなかったんだ……
……シュルトをっ!!
その瞬間、すべての記憶が蘇った。
赤白マントの仮面二人組、
シュルトを殺し、ニーナと俺を捕まえたマナ騎士団ども。
……シュルトは、もう死んだんだ。
灰となって、空へと還ったのだ。
「あなたは今から、勇者としての新たな人生を歩んでいきます。
その際、”誰からも好かれないように、全ての人間に嫌われるように”生きてください。
貴方はやがて、魔王を凌駕する存在となります……」
い……嫌だ。
冗談じゃない……
勇者? 嫌われる?
なんでそんな事、俺がしなくちゃならないんだ。
なぁ頼む、お願いだ。
みんな俺とニーナを、そっとしておいてくれよ……
親も友達も、兄弟も故郷も、全部人間に奪われて、
最後に残った大切な家族なんだっ。
なぁ頼む誰か、助けてくれ。
俺は人間の心が読めるんだ。
人間が嫌な奴らばかりじゃなく、良い奴もいるって事くらい知ってる。
人間に復讐したいだなんて、これっぽっちも思わない。
確かに人間は、父を殺した、母を殺した。
兄ちゃんも。爺ちゃんも。シュンもハルルもアイリスもっ!
でも俺は、復讐なんか望まない。
人間にも危害は加えないっ……
ただ小さな世界で、ニーナとシュルトと、幸せに暮らしたかっただけなのに……
それも人間は奪うのかよっ……
「私は人間ではありません。この世界の観測者であり支配者。
女の声する光の球が、クスリと笑った気がする。
彼女の感情は読めない。
カミってなんだ? 紙??
何も分からないまま、意識が遠のいていく。
眠りたくないのに、どんどん意識が薄れていって……
視界が暗転した―――
★★
「おい起きろ!」
男の怒鳴り声がして。
後頭部にガンと鈍い打撃を与えられ、
俺は現実世界へと引き戻された。
変な夢を、見ていた気がする。
「!!?」
俺の全身に、鳥肌が立った。
俺の正面に、明らかに"異質"な、"人間の意識"があった。
"人間の意識"は、ソイツ以外も存在していたが。
無数の人間が、ぐちゃぐちゃに混ぜられ苦しんでいるみたいな。
俺は反射的に、目を開けてソレを見た。
視界に写ったのは、石に囲まれた薄暗い部屋で、大きさは俺たちの棲む小屋ぐらい。
俺の周囲には、赤白マントに仮面をつけた憎きマナ騎士団どもが10人ほど、
左右に分かれてビシッと整列していた。
そんな事はどうでもいい。
明らかに異質な気配。
俺の正面。真っ黒な禍々しい
胴体や腕、足など、パーツごとに別れて敷物の上に広げられた
"人間の意識"のけたたましい叫び声が、絶叫として襲いかかってきたのだ。
『許さない殺す諦めないお前らなんかおれがダメでもあとは頼んだ末代まで呪うぶっ殺してやる次はお前だ呪ってやるすべて消し去ってなぜお前らはぶっ飛ばすくそったれゆるさねぇ』
怨念、呪詛、憤怒……
黒く染まった強い感情が、その鎧から絶え間なく溢れてくる。
俺は思わず目を閉じて、意識を
なんだアレは……恐ろしい……
なぜ鎧から、人間の声が聞こえる?
不気味のあまり発狂してしまいそうだ。
そして、俺は素っ裸だった。
裸のまま、両腕を男達に拘束されていた。
この岩屋の中には、赤白マントを羽織ったマナ騎士団が10人程。
模様の異なる仮面越しに、みな俺を見ていた。
怖い、怖い、身体が動かない。
俺の脳に焼きついていたトラウマ。
マナ騎士団がたった3人で、シュトラド族の村を殺戮していく記憶……
「目が覚めたんですね。新たな
それでは、マナ公国第一王女ジェシカが、勇者に最初の命令を
目の前の
女の子の声がした。
私と
他の仮面よりも高い台座に立つ、背の低い仮面があった。
幼い女の子の声だ。
たぶんニーナより若いんじゃないか?
ゴンッ!!!
俺の背中が、突然鈍器でぶん殴られた。
俺は裸のまま、全身を床に叩きつけられた。
石が冷たい、痛い痛い痛い……
「聞こえなかったか? 王女様の命令だ。今すぐに"呪いの鎧"を着ろ」
俺の上から、怒気の籠った男の声がした。
呪いの鎧……だと?
目の前の鎧を着ろというのか? 冗談じゃない。
「ニーナは、どこだ? 無事なのか……?」
涙目になりながら、
俺を見下げてくる仮面男を、睨みつける。
「無駄口を叩くな!!」
男は叫び声を上げて、
グサッ!!
と、俺の太ももに何かを刺した。
「うぎゃぁぁあああ!!!」
と、俺は絶叫してしまう。
痛い、痛い、痛い痛い痛い……!!
「ほら立て。 いい実験だ。
俺が10秒数える間に、あの鎧を着ろ。
間に合わなかったら、ニーナの命はないと思え」
断る選択肢はないようだ。
俺は、太ももを深々と刺された足でフラフラと立ち上がり、
近づけば近づくほど、呪詛の声はどんどんと強くなる。
『いなくなれ消えろやり直したいふざけるな死にたくない殺してくれ……』
痛い、苦しい、気が狂いそうだ……
「10……9……8……7…………」
男のカウントダウンが進んでいく。
俺は強くと目を瞑りながら、
その鎧へと、足を通した。
胴体をつける、腕を通す。
最後に頭を被って、俺は全身を
まるで生き物に巻き付かれているかのようだ。
ゼロ距離で"意識の声"がする。
気持ち悪い、気持ち悪い、吐きそうだ。
おえぇ……
『無念俺はまだやれる諦めたくないせめて道連れに許さないなんで行かないでくれぇ好きだぶっとばす愛してる消えてしまえっ!!』
頭がキンキンと痛む……
どうして、
じゅぅぅぅぅ!!
突然、太ももに焼けるような痛みが走った。
そして次の瞬間。
太ももを刺された痛みが、消えていた。
信じられない事に、傷が治っていた
「ふむ……【回復】は発動するようだな。ヤツの足が治った」
男の声がする。
パチパチパチパチパチパチパチ……
そして地下室に、拍手が鳴り響いた。
「おめでとうございます。あなたは新たな勇者です。 これからは我々のために、魔王の討伐に心血を注いで下さい」
王女の声がした。
俺は彼女の方を向いた。
一段高い場所から見下ろす彼女は、顔に付けた仮面を外していた。
そして赤白装束のフードをフワリと後ろへやった。
仮面が外れた彼女、王女ジェシカは、ふわりと栗色の髪をなびかせた。
ジェシカ王女は幼い少女だった。
しかしその眼には威厳があった。
蒼く澄んだ瞳が蝋燭の火に揺られていろめき、赤みがかった茶髪がさらりと落ち着く。
人形みたいに顔立ちの整った女の子だった。
「ジェシカ様いけませんっ! シュトラド族は目を見て人間の心を読みます!!」
「読めませんよ。 ですよね勇者?」
慌てて近寄る、年寄りの声。
女の子は、右手でその男を制して、
口角をニヤリと上げながら、俺の顔を覗き込んできた。
「あぁ。なにも聞こえない。なんだこのうるさい
俺は、彼女に疑問をぶつけた。
怨念の声がうるさすぎて。
その他の"意識の声"が何も聞こえない。
一刻も早くこの
「敬語を使えこの無礼者っ!!」
「構いませんよ」
後方で怒鳴り声と殺気がしたが、ジェシカ王女の一喝によって落ち着いた。
「それは"呪いの鎧"。
魔王に敗れた戦士たちの
”呪いの
おまけに、強すぎる
唯一の欠点は、魔王を倒すか命尽きるまで、その
脱ぐことができない?
嘘だろ?
「試しに脱いで見せなさい。脱げませんけどね」
ジェシカ王女はクスクスと、口元を押さえながら笑った。
俺は慌てて、まずは頭部の鎧を外そうとした。
しかし、脱げない。
ビクともしないのだ。思いっきり上に引っぱっても、まるで抜ける気配がしない。
次に腕を抜いてみる。
五本の指を引っ張ってみたけど、ビクともしない。
次に胴体、ダメだ。
足……ダメだ。
脱げない、脱げない、脱げない脱げない……
ふざ、ふざけるな……
とんでもないモノを着させやがって、
魔王を倒すか死ぬまで脱げないだと??
それじゃあ俺はっ!!
ニーナとしばらく、キスができないじゃないかっ!!
子供もできないっ!!
シュルトも殺されたっ!!
許さない許さない許さないっ!!!
「うぁああああ!!!!」
俺は怒りが頂点に達して、ジェシカ王女に襲いかかった。
マナ騎士団には敵わないけれど、コイツには勝てる気がする。
俺は喧嘩が強い方じゃないが、意地ぐらいは見せてやる!!
ジェシカ王女に飛びかかり、右手を握りしめて振りかぶり、
その顔面に、思いっきりっ!!!
ドゴォォォォ!!!!
次の瞬間、視界がブレた。
直後、腹に激痛が走った。
俺は地面に這いつくばって、腹に刃物を刺されていた。
「ほう……なかなかの動きだ。
これは勇者の力か? それとも
とにかく、鍛えがいがありそうだな……」
俺の串刺しにした人物は、女だがドスの効いた声でそう吐き捨てた。
「迅速な護衛、感謝します。剣聖第二位」
ジェシカ王女は、安堵のため息をついて、
真顔で俺を見下ろした。
「私に飛びかかるとは、いい度胸してますね。
罰として、あなたの愛するシュトラド族の女の子の小指を切り落とすことにします。
理解しましたか? あなたに選択権はないんです。
大人しく我が王国に従い、命を懸けて魔王を倒してください」
王女さまは
「やめろっ……ッッツ!! ニーナには、手をだすな……」
刃物が腹に刺さったまま、
拷問のような痛みが続く。
「だったら頑張って下さい。期待していますよ。勇者さま」
王女さまは意地の悪い笑みとともに、そんなセリフ吐き捨てて、また仮面を被った。
俺の腹に刺されていた刀が抜き取られる。
俺は、ゴホゴホと血を吐いた。
俺はそのまま、地上に連れられていった。
石づくりのらせん階段を出た先には、キラキラと輝く大きな廊下があった。
天井が身長の10倍近くある。
壁は木でも石でもなく、真っ白で滑らかなモノだった。
この世の景色とは思えない、まるで天国に来たようだった。
もっとも、こんな綺麗な廊下なんかより、
俺はニーナと一緒に歩く田んぼ道が大好きだ。
あの川の匂い、草音の匂い、気の匂い。
俺が夢見る天国は、きっとあんな場所だ。
俺は幸せだった。
ニーナと二人で、あの場所に帰りたい……
「これから新しい勇者の
隣を歩く仮面の声に、俺は現実に引き戻される。
そのあと俺は、年配の男性の元に連れていかれて、
歩き方や礼の仕方など、さんざん教えこまれた。
どうやら俺は今から、沢山の王国国民の前に立ち、王女さまから"勇者の剣"を受け取るらしい。
赤みがかった石のトンネルのなか、俺は階段を登っていく。
鎧の怨念の声がギャアギャアとうるさい。
階段を、一歩づつ踏みしめていく。
俺の両側には、二人の屈強な男が並ぶ。
俺の見張り役、マナ騎士団である。
登っていくと、出口から明るい空が見え、大歓声が聞こえてきた。
鎧の怨念がうるさくても分かる、
無数の人間が、階段を出た先にいる。
「ここでとまれ。余計な真似をするなよ? もし王女さまに恥をかかせたら、大事な彼女の腕はないと思え」
また、ニーナの事で脅された。
俺はコクリと頷いた。
ニーナが人質にされている以上、俺はコイツらに従うしかない。
ニーナは、近くのど何処かに捕まっているのだろうか?
出口の向こうから、大歓声とジェシカ王女の演説が聞こえてきた。
「……魔王軍の侵略に、我々も備えなければなりません。
マナ王国の安寧を守るべく、今ここに、新たな勇者の誕生を宣言します!!」
どわぁぁぁぁぁ!!!
と、場内に大歓声が響き渡る。
すごい数の人間だ。
「それでは、勇者よ。私の前に!!」
ジェシカ王女が、俺を呼ぶ。
「行け」
と冷たい声で仮面男に背中を押されて。
俺は階段トンネルの出口をくぐった。
そこは闘技場のような円形の舞台だった。
周囲の段々になった観客席には、溢れんばかりの観客がいる。
石造りの舞台には、黄金の鎧の騎士、そして赤白装束マナ騎士団が整列していた。
中央には、一段高い舞台の上に、ジェシカ王女が座っていた。
…………?
俺が登場すると、会場の空気が一変した。
鎧……?
全身鎧じゃないか?
なんで鎧?
顔見れないの?
あれが勇者??
弱そうなんだが……?
やったぁぁ!!
イカついな…
ひゅーー!!
がんばれぇぇ!!
困難と悲鳴、奇声歓声が入り混じる。
場内が生き物のようにザワザワと揺れていた。
「静かになさいっ!!」
ジェシカ王女の叫び声が、耳を切り裂くような轟音に拡声されて響き渡った。
途端に会場は、通夜のようにシーンと鎮まりかえった。
「心配しなくて結構です。勇者さまが
パチパチパチパチ………!!
お姫さまの優しい声で、会場は静かな拍手に包まれる。
《好感ポイントが2000上昇しました、レベルが20下がります》
「では勇者さま。こちらにいらしてください」
ジェシカ王女は地下室の時と別人のように、優しさ籠った声で俺を呼んだ。
俺は背筋はまっすぐに
ジェシカ王女の前に
《好感ポイントが1000上昇しました。レベルが10下がります》
「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い呼吸の音がした。
荒れているのが、自分の呼吸だと気づいたときには驚いた。
あれ? 身体が重い。重くなっていく。
息が切れる、疲れた、疲れた、疲れた……
「では勇者よ。あなたは我が公国のために、心身をとして魔王と闘うことを誓いますか?」
「誓います……」
頭がクラクラするなかで、何とか答える。
気持ち悪い。
身体に力が入らなくなった
でも我慢だ。
いまここで、倒れる訳にはいかない。
この認証式でヘマしたら、ニーナの身に危険が及ぶからっ!
「……魔王を倒した
ん? 結婚?
一瞬、耳を疑ったが。
俺に「誓います」以外の選択肢はなかった。
「誓います……」
「……よろしい。私、王女ジェシカは、あなたを3代目勇者と認め、勇者の剣を授けます」
王女さまの言葉を聞いて、俺は顔を上げる。
あれ?
まてよ、結婚って? 約束と違うじゃないか。
魔王を倒したら、俺はニーナと再び幸せになれるんじゃないのか?
ドァァァァァァァァ!!!!
会場全体が、嵐のように盛り上がった。
ひゅーひゅーという口笛が飛び交う。
俺は
《好感ポイントが3000上昇しました。レベルが30下がります》
《嫌悪ポイントが100上昇しました。レベルが1上がります》
王女さまは顔を真っ赤にして、眉はピクピクと
人を殺す目で俺を睨んでいた。
両手には立派な大剣を持ちながら。
俺は大歓声の中、意識が朦朧としながら、
王女ジェシカから"勇者の剣"を受け取った。
「今ここに、新たな勇者が誕生しました。 巨悪に挑む未来の英雄へ、盛大な祝福あれっ!!!」
ジェシカ王女は、とびきり明るい声で拡声器に向かって叫ぶと、歓声はいよいよ最高潮になった。
あれ、ダメだ……もう座っているのもキツイ。
重い、重い……鎧が重い……
《好感ポイントが5000上昇しました。レベルが50下がります》
「どうした? 早く立ちなさい勇者。 私と手を繋ぎ、観客に手を振るのです」
ジェシカ王女の
だめだ……早く、立たないと……
でも、ドンドンと力が抜けて……
クソォ、立て、立て、立てぇ……
《好感ポイントが2000上昇しました。レベルが20下がります》
ズルっ、と俺は力尽きて、俺は膝から崩れ落ちた。
続いて意識も曖昧になる。
「おい、なんのつもりだ?」
ジェシカ王女が、冷えきった声色で激怒した。
す……すいません……
意識が……薄れて………
…………
………
……
…
《好感ポイントが3000上昇しました。レベルが30下がります》
《好感ポイントが2000上昇しました。レベルが20下がります》
《嫌悪ポイントが500上昇しました。レベルが5上がります》
《好感ポイントが5000上昇しました。レベルが50下がります》
…………
………
……
…
次の朝、俺はベットから起き上がれなかった。
《好感ポイント:98929》
《嫌悪ポイント:13500》
《合計ポイント:ー85429》
《現在レベル:ー854》
「フフッ、"新たな勇者"は新聞一面を飾り、現在マイナス854レベルですか?
常人なら確実に死んでますが、"呪いの鎧"の支えで、何とか生きてるみたいですね。
これはどうなりますかね……?」
女神ヘスティアは、"世界の外"で不敵に笑った。
「外出た瞬間、終わったわ」