東方紅邪譚   作:東へ旅立つ

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第一話 : 紅

それは日本のどこかに『境界』によって隔たれた世界・・・『幻想郷』。そこは現世で存在を否定され、忘れられ、追いやられた、人ならざる者達の最後の楽園。

 

人間と妖怪が共存し、危うくも奇跡的な均衡の上に成り立つ悠久の安寧・・・そんな約束されたはずの幸せな時間に小さな亀裂が入った。

 

これは、幻想郷の歴史から消されたとある『異変』の一幕である。

 

 

秋の始まりを予感させるとある日、空が一瞬眩い光に包まれた。晴れた日中ではその光を認識していなかった者も多かっただろう。しかし偶然にも縁側でお茶を飲みながら空を呑気に見ていた幻想郷の巫女、博麗霊夢はその光を目にした。

 

 

(・・・なに? 今の・・・)

 

 

雷にしてはどこか間延びしたような不思議な光だったように見えていた。

 

そしてその正体についてぼんやりと考えていたその直後、博麗神社の裏手にある物置付近から異様な気配を感じ取る。

 

 

「・・・ッ?!」

 

 

即座に立ち上がりながら陰陽玉を召喚し、ホーミングアミュレットを懐から取り出す。そして霊夢の意思に呼応して、自らの意思があるかのようにお祓い棒が回転しながら飛んできて、彼女の手に納まる。

 

今出来る最大限の臨戦態勢、彼女にそこまでさせる直感があった。

 

肌をジリジリと刺激する重圧感、妖術や魔術といった類の物とも異なる異質な気配・・・さらにそこには確かに『敵意』と認識出来る程の何かがあった。

 

首筋を汗が伝い、音を出すことすらはばかられる空気感・・・自らの気配を消しつつゆっくりと裏手に行く為に移動する。

 

 

その時、背後の上空から甲高い音を立てながら接近する影があった。

 

 

「霊夢ーーーっ!! 今の見たか?!」

 

 

空を飛ぶホウキの上でサーフボードに乗るかのようにバランスを取りながら高速で移動している。地面が近づくにつれて減速をかけながら慣れた動きで地面に降り、ホウキを手に取って肩に置く。

 

 

「なんか変な感じがしな・・・」

「静かにッ・・・!! 魔理沙はこの異様な気配感じないの・・・?!」

 

 

突然お祓い棒の先端を突きつけられた魔理沙は降参のポーズのように空いてる手を軽く上げて抵抗しないことを伝える。

 

 

「な、何言ってんだよ霊夢・・・あの光の事じゃないのか・・・?」

「何って・・・この・・・あ、れ・・・?」

 

 

しかし今改めて意識を向けても、異様な気配は察知できなかった。魔理沙が来る直前まであんなにも感じ取れていた敵意にも似た何かは今となっては夢を見ていたのかという程に曖昧なものになっていた。

 

 

「大丈夫かよ?」

「・・・ごめん、気のせいかも。」

 

 

構えを解いて軽く息をつく。さっきまで強く奥歯を噛み締めていた事に気がついて、顎の痛みと肩の疲れがドッと押し寄せてくる。

 

手に持っていたホーミングアミュレットを空中で消し、肩を揉みながら首を左右にコキコキと鳴らす。

 

 

「あーもう・・・なんだったのよあれ・・・」

「なんだよ、気になるな。」

 

 

魔理沙は手に持っていたホウキを魔法で消し、腕を組んで霊夢の話を聞く。

 

 

「・・・裏の物置から、変な気配を感じたのよ。妖怪とかそういうのとも違う・・・今まで感じたことの無い感覚だったわ。」

 

 

霊夢はそう説明しながら念の為裏を確認しに行く。好奇心から霊夢の後を追って魔理沙も様子を見に行く事にした。

 

 

「なんじゃそりゃ。でも別に今は何も無いんだろ?」

「本当にさっきまで感じたのよ。でも今じゃ嘘みたいに何も・・・ッ?!」

 

 

話の途中で裏の物置が視界に入る。そして明らかに見慣れない・・・うつ伏せで倒れた人間の姿があった。

 

 

「おいマジかよ?!」

 

 

魔理沙も咄嗟に八卦炉を構えて発射する準備をする。霊夢も陰陽玉に霊力を込めて臨戦態勢に入る。霊夢の言う通りならばこの倒れている人間こそが彼女の感じ取っていた『何か』の正体だからだ。

 

しかしその倒れている人間・・・と思われるモノからは敵意はおろか、生きているという確証すら得られない。

 

薄汚れた布に包まれた、成人男性よりは身長が低く見えるその人間は微動だにしない。

 

 

「なぁ霊夢・・・本当にコイツがお前の言ってた『変な感覚』の正体なのか? どー見ても普通の人間にしか見えないぞ。」

「・・・分からないわ。とりあえず助けるわよ。」

 

 

構えを解き、二人はその人間と思われるモノに近づく。もちろんここは幻想郷、必ずしも人間に見えるからといって人間とも限らないので警戒は怠らない。

 

 

「なによ・・・まだまだ子供じゃない。」

 

 

その人間と思われるモノはパッと見で10代前半くらいの男の子だと予想できた。真っ黒の髪はサラサラとしていて、時折通り抜ける風がその綺麗な髪を撫でては流していた。

 

 

「おーい、生きてるかー?」

 

 

魔理沙は手でペシペシと叩く。

 

 

「ちょ、ちょっと怪我でもしてたらどーすんのよ?!」

「んぐ・・・うっ・・・」

 

 

意識を取り戻し、少し苦しそうな表情をしたあとゆっくりと目を開く。

 

 

「うぐ・・・な、にが・・・」

「喋れるみたいね。あんた、早速で悪いんだけど・・・何者?」

 

 

意識があると分かった途端、強めの態度に出る。例え相手が意識が朦朧としていようと、隙を見せる訳にはいかなかったからだ。

 

 

「お、れ・・・は・・・」

「霊夢の方が大概酷いんだぜ。ゆっくりでいい、ちゃんと話を聞かせてくれよ?」

 

 

時間が経つにつれて意識がはっきりとしてきたのか、頭を抑えながらも姿勢を変えて、地べたに座る。

 

 

「・・・ごめんなさい・・・俺が、誰なのか・・・分からない・・・です・・・」

「・・・演技・・・には見えないわね。はぁ・・・参ったわ。」

「まぁまぁ、私は霧雨魔理沙っていうんだ、よろしくな。こっちのめでたい色の巫女は博麗霊夢っていうんだ。で、あんた自分の名前はわかんないか?」

 

 

少年は申し訳なさそうに首を横に振る。

 

 

「霊夢、私には少なくともコイツは人間のように感じるぞ。」

「そうね・・・魔力とか霊力とか・・・特別な力は感じない。さっき感じたものはともかくとして、彼自身は人間とみていいでしょうね。」

 

 

異変解決のプロである二人は今までにも人間によく似た妖怪などを多く見てきた経験があるが、それを踏まえても人間としか思えなかった。

 

 

「でも彼が幻想郷の住人なのか外の世界から来たのか・・・それが分からないと私にはどうする事もできないわよ。」

「それならサクッと調査しちまうか?」

 

 

二人の会話に入れないせいか、ソワソワしている彼に気が付き、手を合わせて軽く詫びた後、魔理沙はある提案をする。

 

 

「あぁそうだ。折角だから私の知り合いの所に連れてってやるよ。」

「えっ・・・あ、うん・・・」

「まさかその下に実はとんでもなく豪華な服着てる・・・って訳でもないだろ?」

 

 

魔理沙が少年の着ている薄汚れたローブのようなものを指さすと、少年は恥ずかしそうにする。

 

魔理沙が声を出して笑い、霊夢は軽くため息をつく。

 

 

「まぁその子については一旦魔理沙に任せるわ・・・」

 

 

少し首を回してストレッチをしながら霊夢は歩き始める。

 

 

「私はあの光が何だったのかを調べる。そのついでに・・・さっきの変な気配も調べてみるわ。」

「おうよ! じゃあ行くぜ! 乗りな!」

 

 

魔理沙は何も無いところからホウキを召喚し、流れるように跨る。

 

少年がどうしたらいいのか分からず困惑していると、魔理沙は「ここに乗れ」と言うように背中側を親指で示す。それでようやくふわふわと浮かぶ不思議なホウキに跨る。

 

 

「え、えっと・・・」

「おいおい、ちゃんと掴まってないと振り落とされるぜ? 腰に手ぇ回すんだよ。」

 

 

恥ずかしそうに腕を回すと、魔理沙は前を向き、ホウキは上昇を始める。

 

 

「それじゃあ霊夢、また何か分かったら教えてくれよ?」

「あーはいはい、気が向いたらね。」

 

 

その言葉を皮切りに、魔理沙のホウキは一気に加速して、少年は振り落とされそうになる。

 

 

「あははっ! だからちゃんと掴まってないとって言っただろ?」

 

 

向かい風があまりにも強く感じられ、少年は目を閉じて魔理沙の背中に隠れる。

 

 

「なぁ、お前歳はいくつなんだ?」

 

 

そう聞かれても彼には分からなかった。しばらく返事がない事からそれを察した魔理沙もまた少し考える。

 

 

「うーん、まぁ見た目は12、13って所か? まだまだガキンチョって感じだな!」

「そ、そう・・・なんだ・・・」

「しかし記憶喪失ってのも、年齢まで忘れる事もあるんだなぁ。」

 

 

必死にしがみつきながらも、どう返事したらいいのかを考える。しかし一向に返事は思いつかず、沈黙が続いた。

 

 

「・・・しかしあれだな、お前なんか花みたいないい匂いするな!」

「え、えっ・・・?!」

 

 

褒めてるのか馬鹿にしてるかすら分からない謎の感想を述べられて余計に困惑するが、魔理沙の中では別段貶しているつもりはなかった。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

「あうん! 出てきなさい!」

 

 

博麗神社にて、霊夢は声を上げる。すると何も無い空間から煙が上がり、そこに高麗野あうんが現れる。

 

 

「どうしましたか~。」

「どうしましたかってねぇ・・・あんた、ここを守ってるならさっきの変な気配感じなかったの?」

 

 

そう聞いてもまるで何の話をしているのかすら理解していない様子だった。

 

そして違和感を感じてから時間もかなり経過し、こうなるとますます夢のように記憶が定かではなくなってくる。

 

 

「うーん・・・まさか本当に私の気のせいだったの?」

「魔理沙さんと男の子以外に侵入者らしき人はいませんでしたね。」

 

 

一応一部始終は見ていたようだが、肝心のあの気配についてはまるで何も知らない様子だ。

 

 

「あんた・・・あの男の子がいつどうやってあそこに来たか見てない?」

「うーん・・・ちょうど目を離した隙に、って感じなんですよね。私もあの空の光に気を取られてたので。」

 

 

その言葉から、やはり彼の現れた原因はあの光で間違いないと確信した。そして考えられる可能性の一つが・・・

 

 

「結界・・・に何かあったと見た方がいいわね。紫!! いるなら出てきなさい!!」

 

 

しかしどれだけ待っても何も起こらない。ため息をつき、霊夢は異変解決に向かうための装備を整える。

 

 

「あうん、留守は頼んだわよ。」

「はい! 誰一人侵入させませんよ!」

 

 

(・・・でもさっきはあの子が入ってきた瞬間を見逃してるのよね・・・本当に留守を任せて大丈夫かしら?)

 

 

霊夢は陰陽玉やスペルカード、ある程度の戦いなどに備えた装備をかき集めて鳥居の外へ出る。

 

一度地面を踏みしめてからジャンプをすると、そのまま着地することなくふわりと浮かび、飛んでいく。

 

目指すははるか空高く、光の発生源だった。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

魔理沙と少年は、物が溢れかえる寂れた店に来ていた。

 

『香霖堂』

 

そう書かれた少し薄汚れた木製の看板は年季を感じる。

 

 

「お、おぉ・・・」

「なかなか似合っているね。」

 

 

少年は、俗に甚平と呼ばれる和服を着せてもらっていた。その用意と着付けをしていたのは、この香霖堂の店主である森近霖之助という男性であった。

 

元々着ていた古びた布切れのような服は本人の了承も得た上で処分し、店の裏手にある霖之助の自室にて着替えを終えた。

 

 

「い、いいんですか、こんないい服・・・」

「はは、構わないよ。なんたって君はこの店に来てくれた数少ない男だ。浮かれるのも分かるだろう?」

 

 

喜びを隠しきれない表情を浮かべながら眼鏡をクイッと上げる。その会話を聞いてか自室に魔理沙も入ってくる。

 

 

「おぉ〜、終わったんだな! いいじゃん、普通の人間みたいだ。」

「どこからどう見ても普通の人間だろう・・・」

「それがそうとも限らねぇんだな。コイツはさっき空が光った時に、神社にぶっ倒れてたんだぜ?」

 

 

魔理沙がそう言うと霖之助は目を輝かせて少年の方を見る。

 

 

「・・・へぇ、それはまた興味深い話だね。」

「だろ? 何かしらあの光に関係ありそうだよな。というわけで重要参考人として保護するって訳だぜ。」

 

 

想像以上に冷たい理由に少年は少しショックを受ける。しかしそんな様子を察してか、霖之助が声をかける。

 

 

「気にしなくていい。彼女も別にただ君を参考人って理由だけで扱ってる訳じゃない。ここに連れて来たのも、君を心配してるからだ。」

「そ、そんな事わざわざ言うもんじゃないぜ・・・」

 

 

照れるというよりかはどこか呆れたような表情で、ため息をつく。

 

 

「あ、ありがとう・・・」

「なんて事ないぜ! ちゃんとあんたが誰なのか調べて、記憶も取り戻してやるからな。」

 

 

その瞬間、空間が重苦しい空気で埋め尽くされる。肩に重くのしかかるような、そして見えない所から見られているような視線・・・魔理沙にはこの感覚に覚えがあった。

 

何も無いはずの空間に突如目のようにも見えるモノが現れる。そしてそこから一人の女性が現れた。

 

 

「悪いけれど、その子は私が預かるわ。」

「八雲紫・・・やっぱあんたかよ・・・」

 

 

『スキマ』と呼ばれる異空間から降り立ったのは、八雲紫・・・幻想郷の創始者の一人である妖怪の大賢者であった。

 

 

「僕も首を突っ込むようで悪いけど、君はこの子を知っているのかい?」

 

 

霖之助は真っ直ぐと睨みつけるように紫を問い詰める。紫は扇子を取り出して口元を隠しながら答える。

 

 

「えぇ勿論。名前だって知ってるわ。」

「・・・っ!! お、教えてください・・・!! 俺は・・・誰なんですか・・・」

 

 

自分を知っていると言う人物が現れた事に驚きと喜びの入り交じった表情で教えを乞う。しかし紫はそんな少年を冷ややかな眼差しでしばらく見つめる。

 

そしてしばらくして口を開いた。

 

 

「・・・あなたは『(くれない)』。そしてあなたはここにいるべき存在ではないわ。」

「どういう、ことですか・・・?」

 

 

しかし紫はそれ以上何も言わなかった。それに対して魔理沙は食らいついた。

 

 

「おいおい、そりゃないだろ。コイツの正体は私だって気になってんだ。知ってる事は全部吐くんだな。」

「・・・まぁ何も今すぐ外界に送り返そうって訳じゃないわ。その前にやらないといけないことがあるから。」

 

 

そう言うと紅の横にスキマを作り出す。その中は暗闇が広がり、どこへ繋がっているのかは分からない。

 

 

「さぁ、そこへ入りなさい。」

「おい紅・・・!!」

 

 

止めようとする魔理沙に紅は首を横に振ってなだめる。

 

 

「俺の事を知ってるのは現状この人だけなら・・・俺は行きます。えっと、魔理沙さんに、霖之助さん・・・ごめんなさい、ありがとうございました。」

「・・・君を止める権利はない。またいつでも来てくれ。」

 

 

霖之助は眼鏡を上げて少しだけうつむく。魔理沙はまだ納得はしていないようだったが、紅と霖之助の様子を見てようやく観念したようだった。

 

紅は頭を下げてそのスキマに入る。その様子を魔理沙と霖之助は寂しそうに見届けた。

 

 

「大丈夫よ、悪いようにはしないわ。」

 

 

紫が無表情にそう言うと、魔理沙は睨みつける。今にも戦闘の始まりそうな一触即発な雰囲気だが、紫は扇子を閉じて、背後に作り出したスキマに何も言わず入っていった。

 

 

紅も紫もいなくなり、香霖堂に静寂が訪れる。

 

 

「・・・彼、大丈夫なんだろうね?」

「まぁ紫の事だし、何か考えあっての事なんだろうけどな。気に食わないな。」

 

 

魔理沙は気疲れから部屋にあった適当な椅子に座る。

 

 

「しっかし・・・アイツ、外の世界から来たんだな。」

「あの言いぶりは確かにそうだったね。でも何か含みのあるような、嫌な言い方だ。何もかもが曖昧だった。」

 

 

考えても考えても今以上の事は分からない。そしてしばらくの間、二人は何も言えなかった。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

紅がスキマを抜けた先には江戸時代を彷彿とさせるような古びた木造の家が並び立つ村のような場所だった。

 

しかしその家々からは人の気配はおろか、生活の様子さえ見えない。

 

 

「ようこそマヨヒガへ。あなたがしばらく暮らす場所よ。」

 

 

紫が音も立てずに背後から現れる。それに呼応してか、無人のように感じた色んな家から猫が出てくる。

 

警戒してるのか、かなり距離を取って様子を見ているようだった。

 

 

紫が歩き始めて一軒の家に向かう。それについて行くと、周りの猫達は鳴き声一つ上げずに紅達をジーッと見つめていた。

 

 

そしてたどり着いたのは、他の家よりも少し大きく見える家だった。

 

 

少し建付けの悪い木製の玄関を開けると、そこには九本の尻尾の生えた女性が立っていた。

 

 

「紫様、結界の調査、完了致しました。」

「藍、ご苦労さま。紅を部屋に案内しておいて、私は少し寝るわ。」

 

 

そうとだけ言うと一人玄関から外に出ていった。気になって外を覗いてみたが、もう既に紫の姿はどこにも見当たらなかった。

 

取り残された紅と藍は軽く会釈をする。

 

 

「初めまして、私は八雲藍・・・さっきの八雲紫様の式神だ。」

「式神・・・?」

「まぁ下僕みたいなものだと思ってくれていい。ついてきてくれ。」

 

 

大きな尻尾の束をなびかせながら奥へと進んでいく。紅は尻尾に当たらないように後ろを追いかけた。

 

黙々と進んでいく藍に耐えかねて、紅は質問を投げかける。

 

 

「あ、あの・・・俺の事、知ってるんですか?」

 

 

そう聞くと少しだけ顔を向けて返事をする。

 

 

「いや、紫様からは本当に何も聞いていない。だから私自身、まさかマヨヒガに招き入れるのが人間だったとは夢にも思っていなかった。」

「そう、ですか・・・」

 

 

少しがっかりしつつも、後ろをついて行く。

 

すると藍が思い出したように「あぁ」声を出し、再び顔を僅かに向ける。

 

 

「ただ・・・少し妙な命令をされたよ。」

 

 

おもむろに立ち止まり、振り返る。改めて正面から向かい合い目と目が合うと、金色に輝くボブカット風の髪が揺れ、瞬きの度に目を引く長いまつ毛がキリッとした自信と威厳に満ちた目を美しく彩る。

 

紅は思わず目をそらしてしまうが、それを気にもとめず、藍は話を続けた。

 

 

「貴方と一緒にいる間は、誰のいかなる失態も笑って許しなさい、怒りや憎しみに囚われるなと・・・」

 

 

あまりの意味のわからなさに、逸らしてしまっていた目を戻す。しかしその表情から、藍もまたこの言葉の意味を理解出来ていない事だけは伝わった。

 

 

ここは幻想郷、人と人ならざる者が共存する楽園。そしてそこは、人の常識など通用するはずのない世界だった。

 




第一話、読んで頂きありがとうございました。
キツい言葉でなければ、アドバイスや設定ミスなど指摘して頂けるとより良い作品にできると思います。また感想なども頂けると励みになります。
大まかな話の流れや最終話付近の構成などは練ってありますが、そこに至るまでの道筋はかなり行き当たりばったりになるかと思いますが暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。
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