紅が神社で見つかってから三日目の朝、段々と体の傷も癒えてきて、ある程度生活ができる程度には腕や体を動かせるようになってきた彼は、二日目の時は得られなかった永琳の許可を得て魔理沙と共に外出する。
これほどまでに早く体が治りつつある事実は少なからず永琳の何かしらが作用してると思い、魔理沙は少し身震いしたのだった。
幻想郷の空で、紅は魔理沙の箒の後ろに乗り、腰に手を回して落ちないようにしがみついていた。
「・・・んで、なんでお前もいるんだよ。」
「藍様の命令で、その人間から目を離しちゃいけないからね!」
箒で移動する魔理沙に並行して橙も空を飛んで着いてくる。そんな橙に溜息をつきながらも魔理沙は遠くに見える山を目指して飛んでいた。
「あ、あの、今どこに向かってるんですか?」
「あそこにデカい山が見えるだろ。妖怪の山・・・物騒な妖怪がわんさかいる賑やかな所だぜ。」
紅は妖怪に襲われ妖怪に救われ・・・結局のところ妖怪とは善なのか悪なのかイマイチ理解できていなかった。
この幻想郷にとって、妖怪とは何なのか・・・理解するにはまだまだ時間が必要だった。
しばらくして妖怪の山に近づくにつれて、大きな川が見えてくる。夏も終わりがけのこの時期、少し前まで真緑だった山は少しづつ秋の支度を始めているように見えた。
魔理沙は箒のスピードを落として川の近くに降りる。その後に続いて橙も地面に着地した。
「・・・よっと! さーてどこにいるかな。」
「・・・・・・え?」
紅は、何か音のようなものが聞こえた茂みの方に目を向ける。そこには何も無い。なのに、何故かそこが気になる。
「どうしたの?」
「いや・・・分からない。けど、何かいる・・・気がする。」
橙が興味津々な様子で紅に話しかける。そして彼の言葉で魔理沙は何かを思い出したように「あぁ」と声を漏らす。
「全く・・・そういえばアイツ人見知りするんだったな。おーい、コイツらは大丈夫だから出て来いよー。」
すると紅の見ていた茂みの中からガサガサと草をかき分ける音が聞こえる。そして次第に空間が人型に歪み始め、何も無いところから誰かが現れる。
「な、なぁ魔理沙・・・なんでその少年は透明な私の位置が分かったんだい・・・?!」
「私に聞かれてもなぁ。紅、よく分かったな。」
その少女は青い服に青いツインテールの髪、そして緑の帽子を被っていた。
「私は河城にとり・・・河童だよ。あんたは・・・人間かい?」
「紅っていいます・・・人間、だと思います・・・何も記憶が無くて・・・」
その言葉ににとりは思いのほか食らいついた。紅の全身を舐め回すように見て、顔を覗き込む。
「へぇ〜・・・そりゃ面白い。記憶、取り戻してみたくないかい?」
それを聞いた橙が会話に割って入る。
「ちょっと勝手なことは許さないよ! 他の妖怪から守るって命令されてるんだから!」
「あぁ〜ん? 私と弾幕勝負でもしようってのかい?」
「げげっ! 水の弾幕?! 私の天敵じゃん!!」
橙は咄嗟に紅の後ろに隠れる。そんな橙に乾いた苦笑いを浮かべて、にとりの話を聞く。
「記憶を取り戻すって・・・何か方法があるんですか?」
「もちろん! 地底の悟り妖怪から着想を得た新発明 、『記憶呼び戻し機』さ!」
先ほどまでの人見知りはどこへやら、知的好奇心旺盛なにとりは、関心を持った相手にはとことん積極的だ。魔理沙はにとりであれば興味を持ってくれると思ってここへ連れて来たのだ。
「な、なんかこの河童妖怪怖いんだけど・・・?!」
橙はその態度の変わりように恐怖を覚える。しかしそんな事はお構い無しににとりは自身の工房へと案内し始めた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
にとりの工房には多数の機械や工具が散乱しており、お世辞にも綺麗とは言い難い。そしてそんな散乱した機械の一つにヘルメットのような形のものがあった。
「な、なんか凄いですね色々あって・・・」
「おぉっ! 流石は盟友お目が高い! まずはこのヘルメットを被ってくれ!」
そのヘルメットには無数に管が繋がれており、その先には画面の付いた大きな機械があった。橙は不安そうに腕を掴み、首を振って止めた。
「や、やめとこうよ・・・」
「・・・ありがとう橙さん。でも、俺記憶を戻したいんだ・・・」
紅は優しく笑いかけ、そのヘルメットを被る。するとにとりが機械の電源を入れる。ゴゴゴゴと鈍く唸る音を立てながら画面が光る。
「よし、じゃあまずは・・・何について知りたい?」
「え、えっと・・・俺が幻想郷の人間なのか、外の人間なのか・・・です。」
「あいよ! しっかり質問を意識してくれよ? 『あなたは、幻想郷の人間ですか、それとも外の人間ですか?』・・・さぁどうだ~?」
にとりが少し声を強調して質問をする。しかし、機械に変化はない。相変わらず機械は鈍い音を立てながらブルブルと震え、画面にはただ灰色の何も無い画面が映し出されてるだけだった。
「およ? おかしいね・・・コイツはね、質問をする事で深層心理を刺激して無意識に浮かび上がるイメージを映し出す・・・はずなんだけど。」
「おいおい、壊れてるんじゃないのか?」
しかしにとりが点検すれど異常は見当たらなかった。結局根本的な部分が駄目だということにして諦める事になった。
「おいおい頼むぜ・・・他になんかいい物ないのか?」
魔理沙は他にも面白い機械がないか聞いてくる。だが橙は全力でそれを阻止した。
「ちょっとー! 紅は実験道具じゃないよ! 守らないといけないんだから、これ以上勝手な事しないで!」
「分かった分かった。先に本題について話しとくか。」
魔理沙はにとりに紅の現状について教え、彼が何を望んでいるのか伝えた。その話を前のめりで聞き、静かに相槌を打っていた。
一通り教えた後、にとりはしばらく考え込む。
「・・・・・・なぁ盟友、悪い事は言わない、やめといた方がいいよ。」
「な、なんで・・・!」
「古来からの盟友である人間が傷付く所なんて見たくはないのさ。弾幕ごっことはいえ、戦いに身を置くという事は危険な事だよ。」
しかし紅は引き下がらなかった。
「俺は・・・守られてばっかりは嫌なんです・・・橙さんにも、魔理沙さんにも・・・傷ついて欲しくないんです。」
その拳は強く握られている。少し俯いたその目には悔しさが滲み出る。腕や頭部に巻かれた包帯、それを見てにとりは先ほど魔理沙から聞いた妖怪から襲われたという話を思い出す。
紅の目は、本気だとにとりは感じ取った。彼女は引き出しの中から一丁の銃を取り出す。
「・・・・・・分かったよ、少し時間をくれ。」
「に、にとりさん・・・」
「盟友がこれ以上傷つかない為に作るだけさ! 戦う為の道具じゃないって約束してくれよ!」
にとりはその銃を工具を使い分解する。少し考え、立ち上がって部品を取りに行く。そんな様子を橙と紅は興味津々で見つめる。
「何なんだろこれ。」
「これは『ケゴンガン』っていう私専用の銃だよ。私の妖力を銃弾に変換して発射する武器なんだけど・・・」
片手で持てる程の大きさのケゴンガンを分解し、全く別の機構を試しに当ててみる。そして紙を取り出し万年筆でその形を書き出し、試行錯誤しながら即興で設計図を作っていく。
「・・・悪いけどかなり時間がかかるよ。見てても面白くはないだろう?」
「いえ・・・凄く面白いです。俺こういうの見るの初めてだから・・・」
そう言われて嬉しかったのかにとりの表情が少し柔らかくなる。そして嬉々として自分の発明について語り始めた。
「まだ子供なのに本当に見る目があるねぇ。この銃はね、実は指名手配されてた天邪鬼相手に使った武器なんだけど・・・」
「・・・え、天邪鬼って・・・確か、鬼人正邪って妖怪ですか・・・?」
「おっ! よく知ってるね、そうそうソイツだよ。」
紅とにとりは会話に花を咲かせた。魔理沙はそんな様子を見て少し安心したように笑い、外に出る。
橙は少し退屈そうに適当な椅子に座り、紅達の様子を見守りながら欠伸をする。
「この怪我もその天邪鬼にやられたんです。」
「それで対抗手段が欲しいって事かい。」
「ですね・・・でもにとりさんの発明品、どれも凄そうですし、きっと皆を・・・いえ、まずは自分の身を自分で守れるようになれると思います。」
「そんな褒めてもキュウリくらいしか出せないって! ちなみに、どの発明が興味あるんだい?」
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
にとりが武器を作り始めてからどれくらい時間が経ったのだろうか、金属を削る凄まじい音のせいで橙が居眠りから目覚めた。
しかし光景は居眠りする以前と変わっておらず、にとりと紅は楽しそうに話しながら作成を続けていた。
「ちょっと握ってみてくれるかい?」
「こうですか?」
「うんうん・・・引き金の位置が合ってないかな・・・」
金属を削る音が再び響いて橙は耳を塞ぐ。そして放ったらかしにされてる感覚に少し嫌気が差す。
「むぅ~~~・・・・・・」
「持ち方はこうだよ。」
「あっ、は、はい。」
「ははっ! なんだい盟友、記憶と一緒に女性経験も忘れてしまったのかな?」
銃の持ち方や構え方、指の位置やマガジンを排出するボタンの位置などを教える為ににとりは紅の手を握る。
それに一瞬動揺した紅を少し小馬鹿にしたようにからかう。
「紅っ! 暇っ!」
橙が耐えかねて、駆け寄って紅の両肩に手を乗せて顔を覗き込む。少しムッとした表情が相当退屈させていたのだと思わされる。
「ご、ごめん・・・ど、どうしよ・・・」
「あははっ! なんでい、君は人間と仲のいい妖怪なんだねぇ。八雲の所の妖怪だからもっと人間に冷たいものかと思ってたけど。」
「う"ぅ~・・・!」
威嚇のようにも思えるその仕草を見て、紅は橙の相手をする事にした。
「それなら少し散歩でもしてきたらどうだい? この辺、自然は豊かで綺麗だからねぇ。」
「ありがとうございます・・・少ししたらまた帰ってきます。橙さん、行こっか。」
「はーい!」
さっきよりかは幾分か楽しそうな様子の橙を見て安心する。そんな紅達が出ていくのをにこやかに見送ったあと、にとりは開発を続けた。
「そういえば、魔理沙さんはどこ行っちゃったんだろ。」
「アイツは妙に強いから、大丈夫だと思うけど・・・一言言ってくれたらいいのに!」
橙と紅は少し川の上流の方を目指して歩いていく。
「この先はね、天狗が仕切ってる場所だから、あんまり行き過ぎたらダメだよ!」
「天狗? それも妖怪なの?」
幻想郷の事においては橙の方が知識は優れているので、なんだか優位な位置に立っているような気がして気持ちよくなっている。
得意げに天狗や妖怪の山について知っていることを話すと、紅もそれに真剣に耳を傾ける。
「そろそろ危ないかもだから、今度は下流の方に行ってみようよ!」
「うん、そうだね。」
特に何をするでもなく、ただ山の頂上を見上げて、そして来た道を戻る・・・本当にただの散歩を紅達は楽しんだ。
まだ夏の暑さが残るこの時期に、川の近くというのは涼しく過ごしやすいのだと実感した。
川を覗き込むと中を泳ぐにとりのような姿を見かける。
「えっ、にとりさん・・・?!」
その声に反応してか、水面に上がって紅の方を見てきた。全体で見ると服装や髪色などが確かに似ているかもしれないが、明らかに同一ではなかった。
にとりではないその河童は笑顔で大きく手を振って、紅も手を控えめに振り返すとまた川の中へと潜っていってしまった。
「他にも河童がいるんだね・・・さっきの子も、河童ってことは妖怪ではあるんでしょ?」
「そうだよ! でも別に人間を襲う訳じゃないみたい!」
こうして優しい妖怪と出会うと、鬼人正邪に襲われた事をすっかり忘れそうになってしまっていた。事実、人間と友好的な妖怪がいるのもまた事実で、必ずしも危険な存在という訳でもない。
しかしふと橙を見ると、まだ所々に残った包帯があの時の戦いを思い出させて、不甲斐なさを思い出す。
そして、今の自分はまた何か危険を犯していないかと疑心暗鬼になり始める。
「・・・橙さん、ちょっと急いで戻ろっか。確か天狗の住処が近いんだったよね?」
「うん・・・」
紅の少し不安な様子は、表情から橙にも伝わっていたようだ。
しかし遥か遠く妖怪の山の中にある木の上から、紅達を見つめる白狼がいた。
「・・・引き返したか。」
その白狼の目は千里眼と呼ばれる特殊な力を持ち、遥か遠くまで視認できるというものだった。
そんな彼女の元に黒い翼を持つ少女が舞い降りる。
「椛さん、結局誰だか分かりました?」
「・・・知ってる妖怪ではなかった。」
メモ帳を片手に木にもたれかかり、ペンの上の先を唇に当てて考え事をする。
「・・・何をしにわざわざ来たんでしょうね?」
「さぁな、散歩だろう。だが隣に人間がいた。」
「人間? なんでまたこんな所に。」
椛と呼ばれた白狼は木の上でしゃがみ、目を閉じる。
「いずれにせよあと一里進んでいたら追い返したが、出番は無くなったようだ。」
「妖怪と一緒に散歩する人間ですか・・・まぁ、ネタにはなるかもですねぇ。」
彼女は烏天狗、そして最速のジャーナリストである射命丸文。少し退屈していた日々が、動き始める事を彼女はまだ知らない。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「おかえり、盟友! もっと作り込みたいけどとりあえず完成したよ!」
あれから数時間後、一度下流の方まで散歩してから帰ってきた紅達を出迎えるようににとりが手を振りながら工房から出てきた。
紅も小さく手を振って合流する。
にとりから手渡されたのは水色を基調とした少し大きめの片手銃で、銃身がやや太めとなっている。多少バランスは悪く見えるが、手に持った時の感覚はかなりしっくりくるようになっていた。
「それは『ダンマクシューター』! 弾倉に装填した霊力、魔力、妖力に応じて弾幕を発射するんだ。」
そして今度は淡く青色に光る弾倉を手渡される。それをダンマクシューターの下から装填する。
「試しに打ってみようか! 川の向こう側のあの木を狙ってみてくれ。」
紅が両手で支えながら狙いを定める。そして引き金を引く。
すると反動と共に水で形成された球状の弾が高速かつ連続で発射される。紅はその反動に押し倒されて尻もちをつく。
「うわっ!」
「今は私の妖力が込められてたから、基盤になってる元々のケゴンガンと似た弾が出たんだね。誰が力を込めるかによって発射される弾は変わるから気をつけてね!」
多少の反動があるとはいえ、自分の意思で弾幕を放てるようになった事に感動を覚える。もう一度立ち上がって今度は倒れないように気をつけて引き金を引いた。
しっかり気をつけて力を込めれば意外と反動は小さく、まだ子供である紅でも扱えそうな代物だった。
そしてそんな発射している様子を見て橙は目を輝かせて見守っていた。
何発か撃っていると、弾が出てこなくなる。
「悪いけど構造上、弾数には限界があるんだ。弾が無くなったらこうやって・・・」
にとりが弾倉を取り出させ、手に取ると青い蒸気のようなものが弾倉を包んでいく。すると再び淡い青の光を取り戻す。
「どうやらやっぱり私の妖力だと弾は六発が限界みたいだねぇ。つまり弾幕ごっこの最中は六回しか撃てないって事さ。」
「ろ、六回・・・?!」
申し訳なさそうな表情をするにとりに、いかにも少ない事に驚いてそうな言い方で『六回』と言ってしまったことを紅はすぐに詫びる。
「いや、気にしなくていいさ。これからも、その銃は改良したいとは思ってるし、いずれはもっと撃てるようになるかもしれない。」
そんなやり取りをしている中、足元を何かの影が通り過ぎる。一度足元を見た後、それが空にいる『何か』だと気が付き、上を向くと黒い翼の生えた少女がいた。
急降下して紅達の元に降り立つと、風圧で思わず目を細める。
「どうもー、『文々。新聞』の射命丸文と申します。」
「おっ、なんだい烏天狗が私に用かい?」
文は人差し指を立ててチッチッチッと指を振る。そして紅の方に目を向ける。
「用事はこちらの殿方にありまして、ちょっと取材の方させてもらっても宜しいですかね?」
「しゅ、取材?」
「いくつか簡単な質問に答えてもらったり、写真を撮るだけですので!」
「は、はぁ・・・まぁ、それは・・・」
にとりは納得したように頷く。
しかし橙は訝しげな表情で文を見つめる。それに気がついた文は何かを思い出したようだ。
「・・・あぁ! 貴方は前に突撃取材した式神の式神ですね?」
「紅、コイツがさっき話した天狗の妖怪だよ。取材はお断り!」
「しかし彼は『いいよ』と言ってますしねぇ・・・取り敢えずまずは写真を・・・・・・ッ!!」
カメラを構えた瞬間、影が甲高い音を立てて高速で紅達の元へ接近してくる。近づくにつれてその影が魔理沙だと分かるようになってくる。
急停止して文のカメラの前方を手で塞ぎ、撮影できないようにする。
「おっと悪いな。コイツは取材禁止なんだぜ。」
「別に悪いようには書きませんよ?それとも何か知られると不都合な事でも?」
「あぁ、不都合も不都合さ。コイツのことが幻想郷中に知れ渡れば、更に命を狙われる事になる。」
それを聞いて文は咄嗟にメモ帳を開き、書き始める。
「やはり私の見立て通り彼は外来人な訳ですね!」
「明言は避けさせて貰うぜ。とにかく身の安全の為、ここは身を引いてもらわないとな。」
魔理沙にそう言われると、文はペンの上の先で自分の頭をトントンと軽く叩き、溜息をつく。
「そういう訳にはいかないんですねぇ。最近読者を惹き付ける面白い記事がなかなか書けなくて、そんな中で久しぶりの外来人となれば・・・」
「ダメったらダメッ!」
橙が紅と文の間に割って入る。その表情はやや怒りが溢れていた。
突然の反発に文は少し驚くが、その後少しニヤリと笑ったような気がした。
「とにかく私とこの化け猫との二対一の多数決で取材はお断りだぜ。」
「・・・・・・もしその二対一の弾幕勝負に勝てたなら、話は別では?」
「なんだと?」
文は不敵に微笑み、スペルカードを何も無い所から呼び出して手に持つ。そういう事ならと魔理沙と橙もスペルカードを取り出し、今にも戦い始める勢いだった。
そんな文達の様子を見て紅は正邪との弾幕ごっこを思い出し、慌てて止める。
「ま、ままま待ってくださいっ・・・!! あ、当たったら怪我するんですよね?!」
「まぁ全くの無傷とはいかないが・・・ここは幻想郷なんでな、そういうもんだ。」
その次の瞬間に、文は風を巻き上げながら空高く飛んでいき、臨戦態勢に入る。魔理沙も瞬時に箒に跨り、橙と同時に空へ舞い上がった。
「おいおい私の工房の目の前でなんてやめてくれよ・・・」
「ど、どうしよう・・・!」
魔理沙は虹色の星々の描かれたスペルカードを掲げて発動する。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!!」
魔理沙を中心に濃密な虹色の小さな星の弾幕を展開し、逃げ道を無くす。そして魔理沙に向かって集まる星のアーチが無数に展開される。
文はその隙間を縫って高速で飛び抜ける。
「ちっ・・・まだこれでも高速で動けるのか。」
「これでも私は幻想郷最速のジャーナリストですからねぇ・・・そう簡単には当たりませんよ!」
しかしそこで橙がスペルカードを使用せずに弾幕を放つ。
複数のスペルカードを同時に発動するのは、かなりの連携が取れる事が前提であり、『不可能な弾幕は禁止』というルールが存在する故に即興で同時に発動しようものならルールに違反してしまう可能性が高いのである。
「猫さんの方が弾幕を撃つことを見越して魔理沙さんは敢えて弱い方のスペルカードを発動したんですかねぇ。」
「気味悪いくらいに鋭いな! 見透かされてるみたいだぜ!」
針の糸を通すように繊細に、それでいて風を切るように弾幕を避けていく。幻想郷最速を自称するだけあり、弾幕回避能力は間違いなく最強格であった。
それに加えて・・・
カシャッ!!
シャッター音が鳴り響く。すると長方形に弾幕が完全に消え失せる。
「おっと・・・今のは危なかったですねぇ。」
「もぅ! 厄介なおもちゃ!」
「玩具じゃなくて本物ですって!」
そして魔理沙の弾幕が消滅し、間髪入れずに文がスペルカードを構える。風が彼女を取り巻き、その竜巻のような風を切り裂くようにスペルカードを発動させる。
「・・・『無双風神』。」
刹那、初速ですら魔理沙と橙の目では追い切れない程の速さで空間を駆け巡る。そして次第に更に加速していき、それと共に無数の小さく淡い緑色の弾幕が雹のように降り注ぐ。
「相変わらず厄介なスペルだぜ・・・おい橙! 勝手に当たってくれるなよ?」
「そっちこそ!」
魔理沙達はそれぞれ目先の弾を的確に回避していく。時間にして十数秒、とにかく時間いっぱいまで回避し続けることを強制されるスペルカードであり、言うなれば攻撃の意味がない。単純な回避力が求められるのである。
初めこそ順調であったが、ある時橙は目の前の弾を躱そうとしてその裏から接近する弾に気付けなかった。身体を逸らした瞬間、目の前には既に弾があった。
「あっ・・・」
被弾を覚悟したその瞬間、橙の目の前に一本のレーザーが横切り、当たるはずだった弾とその周辺の弾を消滅させた。
「恋符『ノンディレクショナルレーザー』・・・!! ボサッとするな!」
「わ、分かってるよ・・・!!」
そして文が急停止をかけてようやく弾幕が消滅した。橙は被弾しそうになったのが悔しく、スペルカードを発動してやり返そうとした。
するとその瞬間、目の前に巨大な水の壁が現れた。
「水符『河童の幻想大瀑布』!! 一旦やめぇい!!」
橙はハッとして発動をやめ、魔理沙と文も突然大声を上げたにとりの方に視線を移す。にとりが大きく手を振ってアピールしていた。
「紅が言いたいことがあるらしいから、聞いてくれよー!!」
にとりは手をまた大きく振ってこっちに来いと伝えたいようだった。魔理沙と文は顔を見合わせてから地面に降り立つ。橙も少し息を切らしながらゆっくり降りてきた。
「なんだよ、あんたの為に戦ってるんだぜ?」
「こ、こんなのやっぱりおかしいです・・・!! 俺なんかの為に皆が怪我するかもしれないなんて・・・」
しかし魔理沙達は納得していない。何故ならこの弾幕ごっここそが幻想郷においては揉め事を解決する方法なのだから。
紅はもちろん皆が納得しないことは分かっていた。だからこそ今まで止めずに必死に代わりの案を考えていたのだった。そして、勇気を振り絞って話を始めた。
「・・・・・・魔理沙さん、俺を後ろに乗せて弾幕ごっこはできますか?」
「できなくはないが・・・それは流石に危険だって・・・」
「えっと・・・文・・・さん? は俺の写真が欲しいんですよね?」
「えぇまぁそうですが。あと取材も。」
またしばらく考え込み、紅は一つの案を出した。
「お、俺に関係ある揉め事なのに、俺が参加してないのはおかしいです・・・だ、だから、俺もこの弾幕ごっこに参加します・・・」
その発言にその場にいる紅以外の全員が驚愕する。
「お、おいそれで私の箒に乗れないか確認したのかよ?」
「俺はできるだけ皆に傷ついて欲しくない・・・だから、少し変則的なルールを希望します・・・」
さっきまでの短い時間で考えたものなので、自分の中でもしっかり整理しきれていない為に一度ゆっくり深呼吸をしてから話し始める。
「文さんは俺の写真を撮る事ができたらその写真を使っても大丈夫です・・・」
「なるほど、弾幕ごっこの最中の写真を撮らせてくれるなんて、躍動感のあるいい写真が撮れそうですねぇ!」
文はその提案にはかなり乗り気な様子だった。
「そして、文さんの回避能力がすごい事が分かってるので・・・一発でも弾が当たったら俺達の勝ちにさせてください。」
「ほう。」
「・・・そして、文さんは攻撃をしないでください。」
「うーん、それはちょっとそちらが有利すぎませんかね? その勝負を受ける利点が無いように感じますが・・・」
流石に実力に関してはそれなりに自信のある文でさえ、その条件はおいそれとは受け入れられなかった。しかし、紅は一呼吸置いたあと、まっすぐ文の目を見て覚悟を決める。その言葉を聞いた魔理沙は肩を掴んで問いただし、にとりと橙は驚きで言葉を失い、文は怪しく微笑んだ。
「・・・・・・お、俺は幻想郷の妖怪が欲しがる存在らしいですから・・・俺を、好きにしていいです・・・」
第五話を読んで頂きありがとうございます。
風神録勢は公式設定から既に人間と仲良くできる子達ばっかりなのがいいですね。あとにとりが二次創作においてあまりにも便利キャラ過ぎる...主人公の方向性が決まった段階でにとりの出演は確定してました。