東方紅邪譚   作:東へ旅立つ

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第六話 : 最速の攻略

文との勝負のために魔理沙の箒の後ろに乗る紅は、緊張で体に力が入る。

 

 

「大丈夫だぜ、作戦通りいけば、な。」

「は、はい...やりましょう...!」

 

 

橙はまだまだ不安でいっぱいだが、全力で守らないといけないと思い、気持ちを高める。

 

紅はにとりから貰ったダンマクシューターを構えて文に銃口を向ける。

 

 

「文さん、一つ言っときます...俺のこの六発で倒し切ります!」

「ふふっ、いいですねぇ。威勢がいい人間ほど美味いものなんですよ。」

 

 

改めてルールの確認として紅はいくつかの事項について説明する。

 

射命丸文は、

記事に使う為の紅の写真を撮れたら勝ち

一発でも当たったら負け

攻撃をできない

 

しかしこのルール、文には覚えがあった。

 

 

(...一見私にばかり不利なように見えますけど、これ...私が前にした取材と同じ状況なんですよねぇ...)

 

 

幻想郷の妖怪や有名人に取材をし、スペルカードを写真に収めるという経験のある文にとっては、実はむしろ最も得意とするルールであった。

 

 

(まぁあれは私が負けた気がするからって理由で勝手に縛りを設けただけですが...まさかこんな所でまたあの時みたいになるとは...)

 

 

「一つお願いなんですけど、手で顔を隠すのはやめてくださいね?」

「わ、分かってます...でも、動くのは許してくださいね...」

「それは大丈夫ですよ。皆動いてますし、躍動感が出ますからねぇ...」

 

 

地面にいるにとりが大きく手を振って紅に合図を送る。

 

 

「め、盟友!! ほ、本当に始めるからなぁー!!」

「は、はい! いつでもお願いします...!!」

 

 

文はカメラを手に持つ。そして基本戦術として、やはりまずはスタート直後の弾幕が薄いタイミングを狙う...なぜなら今回は美しい弾幕を撮影する必要は無いからだ。

 

必要なのは、紅の写真だけである。

 

 

「よーい、はじめぇ!!」

 

 

にとりの声が響く。それと同時に文は一気に加速し距離を詰めた。

 

 

(こういう時に危険な魔理沙の高威力広範囲のマスタースパークは、後ろに彼がいては使えないでしょうし、機動力も落ちているはず...なら...!)

 

 

文は魔理沙が写りこまないように、目前で九十度向きを変えた。

 

撮るならやはり、横からである。

 

 

「星符『飛び重ね鱗』!!」

 

 

そんな文の目の前に橙が高速で飛び出しながら黄色の弾幕を配置してくる。そしてそれで減速した頃には、魔理沙の弾幕が展開されていた。

 

 

(魔理沙さんもですが、この化け猫もなかなかに素早い...この子を何とかしない限り近づくのも難しそうですねぇ...)

 

 

文はここで初めてシャッターを切った。目の前に展開された橙の弾幕を一度消すためである。そして、フィルムを巻き取りながら今一度作戦を考える。

 

事実、スペルカードは無限に出し続けられるものでもない。だからこそシャッターを切り弾幕を消す事で再展開を誘発させ、消耗させる事ができる。

 

 

つまりは、橙のスペルカードは移動が多く、その高まった機動力で紅の撮影を邪魔する事が可能だが、それらを枯渇させれば自ずとチャンスは巡ってくると文は考えた。

 

 

(今集中して狙わないといけないのは...この化け猫の方ですね!)

 

 

そう考えて視線を橙の方に向けた瞬間、文は気配を察知し、フィルムを巻くのをやめて瞬時に一歩後退した。

 

さっきまでいた場所に、一列の水の弾が高速で横切った。

 

 

(...私が他の方に集中した瞬間を狙って...?)

 

 

紅はダンマクシューターを一発、狙いを定めて撃っていた。しかし思いの外逸れてしまい、命中とはいかなかった。

 

文は久しぶりに焦りを感じた。なぜなら、今の一撃、紅の狙いの逸れ次第では当たっていた可能性もあったからだ。

 

所詮遊び程度に思っていたこの弾幕ごっこに、文は少し昂りを覚えた。自然と笑みが零れる。

 

 

(攻略、したくなってきてしまいましたねぇ...)

 

 

文はフィルムを巻き終わった。

 

魔理沙の後ろにいる以上、正面からの撮影は意味が無い。

 

つまり一度魔理沙の星の弾幕を掻い潜ってかなり内側に潜り込み、フォーカスを使って隙間を縫って撮影するしかない。

 

 

(あの化け猫の俊敏性で邪魔される可能性が高い以上、撮影するチャンスは間違いなく魔理沙さんのスペルカードの時のみ...)

 

 

ならば今は耐えるしかないと思い、橙を挑発する。

 

 

「おやぁ~? 子猫さんの攻撃じゃ当たる気配がないですねぇ。」

「むっ...!」

 

 

魔理沙の星型の弾幕は彼女を中心に拡散していくように展開されている。つまり近ければ近いほど密度が上がる。更にそこに橙のスペルカードも加われば確かに難しいだろう。

 

そして今は耐えて待つ時であり、ならばこそ今は距離を取りつつ時間を稼ぐ必要がある。

 

 

(少しでも化け猫と魔理沙さんを引き離さなきゃですねぇ...)

 

 

挑発された橙はまた高速で文の目の前を横切るように移動し、黄色の弾幕を配置する。しかし配置された弾幕はすぐさまシャッターを切って消滅させる。

 

 

「ぐぬぬぬ~...」

「もう限界じゃないですかね?」

 

 

次のシャッターは魔理沙に近づいてからやると決め、一気に巻き取りに集中する。

 

 

橙にも限界が来たのか、数往復したところで展開していた弾幕が消失する。

 

 

「魔符『ミルキーウェイ』!!」

「橙さんっ! こっちに来てください!」

 

 

(ここからが本番ですね...)

 

 

魔理沙を中心に反時計回りに旋回する星の渦を発生させる。それを見た文はすぐさまその回転に合わせて体を捻り、風に乗って急接近する。

 

そしてその勢いと流れのままに渦の中心部にいる紅を目指す。シャッターに指を添えながら、星の渦の死角から更に急加速して不意打ちをかけるつもりだった。

 

 

しかし、カメラを構えて紅を視認できる位置に出た瞬間、目の前にはダンマクシューターから放たれた水の弾が既にあった。

 

 

「ッッ...!!」

 

 

文は咄嗟に弾を消す為にシャッターを切った。その写真には紅は写っていないが、消していなければ被弾していた可能性が高かった。

 

文のこめかみに汗が伝う。今このタイミングで来る事が分かっていたかのような撃ち方...思わず「ふっ...」と感嘆の笑いが漏れる。

 

 

「化猫『橙』ッ!!」

「なっ...?!」

 

 

まだ魔理沙のスペルカードが終了していないこのタイミングで、橙はスペルカードを発動する。彼女はその為に弾幕を展開せず準備をしていた。

 

橙が縦横無尽に、瞬時に移動と急停止を繰り返す。その結果、文はこのミルキーウェイの渦から離れる事ができなくなった。

 

しかし、その密度は決して高くない。

 

 

魔理沙と橙は回避不可能にならない程度に手加減しながら発動したからだ。

 

 

(全くいつの間にこんな連携を...やはり魔理沙さんが合わせてるんでしょうか。場数が違いますねぇ...)

 

 

フィルムを巻き直しできていないこの状態のままミルキーウェイの渦に取り込まれ、持ち前の高速移動を封じられる。

 

そしてそのタイミングを狙い、紅はダンマクシューターを構える。

 

 

(そして最も厄介なのが...彼はまだ私を的確に狙えないこと...この超至近距離、いっそ真っ直ぐ狙ってくれた方が躱しやすいのに...)

 

 

二発目が撃たれる。文はその弾が僅かに左にズレている事を瞬時に判断し、素早く反対側に身体を逸らす。

 

通り過ぎる弾に帯びた妖力と、文が飛ぶ為に纏っている妖力とが擦れ合い、微弱な火花のようなものが発生する。

 

そして三発目、四発目は連続して放った。

 

 

(左右は星の弾幕、後ろは化け猫の高速移動...これも油断してると当たる可能性もあるのに...正面から連射とは容赦がないですねぇ!)

 

 

フィルムを巻きながら最低限の動きで紅の弾を躱す。狭い空間ながら動ける場所を満遍なく活かして避ける。

 

 

(しかしあの六発を耐え切れば...いえ、嘘の可能性もありますが...その後がチャンスですね!)

 

 

「お、おい紅っ! 早く当てないとマズイぜ!」

「わ、分かってます...!」

「やぁっ!!」

 

 

橙が文の背中を、妖力の帯びた弾幕扱いの爪で引っ掻くつもりで高速で移動する。もちろん当たれば被弾扱いだ。

 

文は咄嗟に空中で上半身を瞬時に下げて避ける。再び妖力同士がぶつかり火花が散る。

 

そのタイミングを見て紅は五発目、六発目を連続で放った。

 

 

「最悪のタイミングですがッ...私なら避けられますッ!!」

 

 

空中で翼を捻り、旋回、急停止、そして急加速を流れるようにしてみせる。

 

紅はカチッカチッと何度も引き金を引くが、弾はもうない。彼と魔理沙の表情からは焦りが見て取れた。

 

 

そして、それと同時に魔理沙のスペルカードが終了する。展開されていた星の弾幕は全て消滅してしまう。

 

 

「今ですッ!!」

 

 

フィルムを巻き終えた文はカメラを構える。最早紅への接近を邪魔する弾幕は無く、この至近距離、撮影は簡単だった。

 

 

「私のスペルカードは終わってないよッッ!!」

 

 

橙は紅と文の間に割って入るように爪を構えて超高速で攻撃する。しかしカメラを構えてシャッターを切るかと思われた文は冷静に後ろに下がった。

 

 

「知ってましたよ、来る事は。」

 

 

橙は焦る。完全に動きを予想され、最低限の動きで避けられる。しかし一度踏み出した超速の一歩はすぐには止められず、紅達の間を通り過ぎる。

 

 

魔理沙が箒を発進させて撮らせないようにしようとする。しかし文の視点からはその動きさえスローに見えていた。

 

 

魔理沙の視界から文が消える。周りに弾幕が何も無いからこそできる文の本気の超速移動、瞬間移動にも見間違うその速さに魔理沙は息を呑む。

 

 

文は紅の左手側に回り込み、シャッターを切りかける。しかし、その時既に紅は文と目が合っていた...ダンマクシューターを構えて。

 

 

(何故動きを読まッ...)

 

 

空間全てがスローに感じられる中、文は何故かかつて取材した地底の悟り妖怪、古明地さとりを思い出す。

 

 

(まるで全てを先読みされているような...いや、そんなことを考えている場合じゃないッ!! シャッターを切るなら今しかないッ!!)

 

 

その瞬間、弾切れのはずのダンマクシューターから星の弾幕が一つ発射される。文は驚くよりも先に反射で咄嗟にシャッターを切る。

 

紅は反動からか魔理沙の箒の上でバランスを崩す。

 

 

魔理沙は困惑した。突如腰に回されていたはずの紅の腕の感覚がないことに。

 

橙は落ちかける紅が視界に入ったので慌てて全力で方向転換しようとしているが、そのあまりの速さにまだ完全には停止し切る事すらできていない。まるで身体を何かに引っ張られているような感覚だった。

 

 

 

そして紅は、落ちた。

 

 

 

「わあぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

(紅が、落ちたのかッ...?! クソッ、旋回が...間に、合わねぇッッ...!!)

(早くッッ...!! 早く止まってよッッ!! 行かないとっ、行かないとッ...!!)

 

 

その瞬間、風が切られる。漆黒の翼によって。

 

 

落ちていく紅に向かって、空気抵抗を最低限にする為全身を真っ直ぐに。

 

魔理沙が瞬間移動と見間違う風神の超速移動。

 

 

そしてそのまま、紅を空中で受け止め、衝撃を逃がす為に抱きしめたまま空中で旋回しながら勢いを弱めていく。

 

 

文は息を切らす。失敗の許されない極度の緊張状態から解放され、肩で息をする。そしてお姫様抱っこ状態の紅は申し訳なさそうな表情で口を開いた。

 

 

「ご、ごめん、なさい......文さん...」

 

 

 

 

「作戦通りです...」

 

 

 

文はハッとした。紅の手には、ダンマクシューターが握られ、文の腹部に突きつけられていた。

 

そして、引き金を引く瞬間、文とは関係の無い方向に星の弾幕を放った。

 

 

「直接当ててはないですが...当てれたって認めてください...」

「あ...貴方...ま、まさかわざと落ちたんですか...? この状況を作る為に...」

 

 

文はゆっくりと下降して、地面に着地する。地面に降ろしてもらった紅は、腰を抜かしているのかその場でバランスを崩し、片膝をついてしまう。

 

 

「は、はい...正直最後の一発が当てられなかった時点で写真を撮られていた可能性は高かった...撮られた時点で俺の名前が広まってこれから他の妖怪に襲われるなら...死んだも同然です...」

 

 

魔理沙や橙も大急ぎで地面に降りて駆け寄って来る。

 

 

「だから...俺の写真の価値を無くす事にしました。落ちて死ねば...その情報に価値は無い、ですよね...?」

「それを恐れて、私が助けると...?」

「そこまで打算的だとは思ってないですが...妖怪の優しさを信じました...」

 

 

その時、魔理沙が紅の胸ぐらを掴んだ。そして、誰かが止める間もなく、思い切り頬を叩いた。

 

 

パァンと甲高い破裂音のような音が静かな山に響いた。周りの皆は言葉を失い、唖然とする。

 

 

魔理沙の目には、怒りが溢れていた。

 

 

「ふざけるなッッ!! 一歩間違えば死んでたんだぞッッ!!」

 

 

怒りが溢れると同時に、涙も溢れる。

 

 

「あんたをな...守りたいってヤツらが...いるんだよっ...!」

 

 

魔理沙は両膝をついてその場に座り込む。そして、橙も何かが外れたように声を上げて泣き始める。片膝をついている紅の首に後ろから抱きつき、頭を紅の肩に押し付けるように泣きじゃくった。

 

それを見て、にとりも少し泣きそうになる。

 

 

紅は、途端に罪悪感に満たされる。皆を怪我させないように、傷付けないようにと考えたのに、結果として皆の心を傷つけたのだとようやく気がついた。

 

 

「ご、ごめっ...ごめんなさい...」

 

 

紅もまた、涙が溢れてきていた。自分がここまで大切に思われていた事実への嬉しさ、死の直前を経験した恐怖、そして自分の軽率な行動による罪悪感が頭の中をぐちゃぐちゃにし、何も分からなくさせた。

 

 

「......はぁ...まぁ、私も写真は撮れませんでしたし、あの状況では当たったと認めざるを得ませんしね...」

 

 

文はため息をついて、困った表情のまま軽く笑う。

 

 

「約束通り、取材はやめましょっか。」

 

 

文はポラロイドカメラで撮って出てきた写真を見る。そこには、ダンマクシューターを構え真っ直ぐとこちらを見据える紅が綺麗に映っていた。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

日が沈みかけ、緑の木々さえもオレンジ色に染まる頃、ようやく紅達は解散する流れになった。

 

 

助けてくれたという事もあり、記事にはしない約束で紅の事について色々教えたり、説教をしていたらいつの間にかそんな時間になっていたのだ。

 

 

「あやや、もうこんな時間ですか。私はこの後も色々とありますので帰りますが、皆さんもですかね?」

「そうだな...にとり、邪魔したぜ。」

「あいよ、また来な。特にあんた、私は気に入ったよ。ガッツがあるからねぇ。」

「お、俺ですか?」

 

 

にとりはニコッと笑い頷く。

 

 

「皆の意見もごもっともだけど、皆を傷付けない為にって考え方は凄いと思うしね。」

「あ、あのなぁ私だってその考え方が駄目とは言ってないけどよぉ...ミルキーウェイと橙のスペルで逃げ場を無くして当てるって作戦だったよなぁ?!」

「い、いや本当にごめんなさっ...! ほ、ほほ本当はあそこで当たってくれたら良かったんですけど...!」

 

 

そんな様子を見て文が思わず笑ってしまう。にとりもすっかり安心して笑い、魔理沙は呆れた表情ながら、口元は笑っているようにも見えた。

 

 

「私が強すぎたって事ですかねぇ。じゃあ、お先に失礼しますね~。」

「あっ、くっそー...また今度とっちめてやるぜ。おい、私達も帰るぜ。」

 

 

魔理沙と紅は立ち上がり、黙ったままの橙も立たせてにとりの工房を後にする。

 

川の前で魔理沙の乗っている箒に乗る紅ににとりは声を掛けた。

 

 

「外から来た盟友! また来てくれ、あんたみたいな面白い人間は歓迎だよ。」

「は、はい! 絶対来ます!」

 

 

魔理沙と橙はゆっくりと浮上してにとりに手を振り発進した。

 

次第に妖怪の山から離れていく魔理沙達は、他愛もない話をしていた。

 

 

「今度は落ちたら駄目だぜ?」

「ご、ごめんなさい...」

 

 

紅をいじるようにそう言った魔理沙は笑っていた。

 

しかし、ここまでずっと黙り込んでいた橙がようやく口を開いた。

 

 

「ねぇ、紅...」

「あ、橙さん...あの、大丈夫?」

 

 

橙は少し俯き、落ち込んでいるように見えた。そして空中でゆっくりと紅に近付き、魔理沙の箒に乗っかった。

 

 

「うおぉっ?! ちょ、ちょっと待て三人は流石に定員オーバーってもんだぞ?!」

 

 

明らかに箒の速度が落ちて、高度も下がる。しかし橙はお構いなく紅の腰に手を回した。

 

少しくすぐったく感じ、紅は笑いそうになるが、心配そうに橙を見ようとする。しかし後ろという事もありその表情は伺い知れない。

 

 

背中に顔を埋め、腰に回した腕に力が入る。

 

 

「...ごめんね、橙さん。」

 

 

紅が謝っても、橙は何も言わなかった。魔理沙はため息をつき、仕方なく箒に更に魔力を込めてそのまま永遠亭を目指した。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

「あら、取材終わったの?」

「あやや、椛がバラしたんですかねぇ...仮にも同業他社なのは知ってるはずですが。えぇそうですよ。」

 

 

文は解散した後天狗達の住処に戻ると、同じ天狗仲間の姫海棠はたてと遭遇した。

 

どうやら椛から取材について聞いていたようで、興味を示していた。

 

 

「で、どうだったのよ。ちょっとくらい教えなさい。」

「取材は断られましたよ。」

「え、何、それで諦めて引いたの? なんか珍しいじゃない。」

 

 

そう言われて文は不敵に微笑み、はたては少しイラッとした。

 

 

「...面白い人間ではありましたよ、本当に。」

「人間に対してそんなふうに言うなんて珍しいわね。余計に気になるじゃない。」

 

 

しかしあまり多くは言わず、さっさとどこかへ行ってしまった。はたては困惑しつつも、諦めて別々の所へ行った。

 

 

(しかし...彼の自己犠牲はやはり危険ですね。まぁ...人間の事を心配してあげる義理もないですが、見てて本当に危なかっしい人間ですねぇ...)

 

 

文はメモ帳の間に挟んだ紅の写真を見て、あの弾幕ごっこを思い出す。久しぶりの緊張感を伴う駆け引き...最近少し退屈に感じていた日々に色が灯ったような感覚がしたのだった。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

「隠岐奈、いるんでしょ!」

 

 

扉の中の世界にやってきた霊夢は、その奥にいるであろう摩多羅隠岐奈を探していた。そしてその声に反応するように空間に突然現れた扉から隠岐奈が出てくる。

 

 

「なんだね、私の部下をいじめ倒してまで何の用だ。」

「とぼけないで、誰かが結界を破壊する事無く通って入ってきたわ。誰が入ってきたの?」

 

 

その話を聞いて隠岐奈は高らかに笑う。霊夢は黙って答えを待ち続けた。

 

 

「妖怪の賢者ともなればそれくらいの事はできる。我々も出入りくらいはするのだからな。」

「えぇ、それだけなら気付きもしなかったわ。でも、あの光は何? まるで何か警告か合図を送るようなあれは...」

 

 

隠岐奈はどこからともなく椅子を召喚し、そこに座り肘をつく。

 

 

「巫女の勘か?」

「えぇ...何かこう、嫌な事が裏で起きてる気がしてならないのよ。」

 

 

隠岐奈は神妙な面持ちで霊夢を見つめる。そして観念したように口を開く。

 

 

「変に動かれて余計な事をされても困るだろうな。答えられる範囲で答えようか。」

「あの光は何なの?」

「まさに勘の通り、あれは警告だ。幻想郷の危機を知らせる為のな。」

 

 

しかし今までそのような光を見た事がない。それの意味するところは...

 

 

「...じゃあ、まさか今までに無いやばい事が起きてるって事?」

「ご名答。他には?」

「じゃ、じゃあ何が起きてるのよ?!」

「それには今は答えられない。」

 

 

隠岐奈は冷ややかに答える。そんな態度に霊夢も苛立ちを隠せなくなってくる。

 

 

「これは私達のワガママだ。自分達の失態は、自分達で解決したい、それだけの事だ。」

「失態...?」

「他にも聞きたい事があるんじゃないのか?」

 

 

霊夢は少し考える。そしてハッとなり隠岐奈の方に顔を向けた。

 

 

「あの男の子...!!」

「一つ言えるのは、彼は決して外の世界に出してはいけない、という事だ。」

「...出したらどうなる訳?」

「幻想郷は終わる。だからもしお前が彼を外に出そうものなら、私はお前を殺す。」

 

 

その目は冗談を言っているようには見えなかった。だとしても、結局彼が何者で、どうしたらいいのかは分からないままでモヤモヤとした気持ちだけが残る。

 

 

「そして付け加えるなら、幻想郷の中で勝手に死ぬ分には構わない。妖怪に襲われようと何だろうと、外の世界に出さなければ問題ない。」

「はぁ?」

「むしろ私は、彼は殺した方が良いと考えている。」

 

 

その表情は当たり前の事を言っているかのようで、霊夢は一瞬理解が遅れる。

 

 

「その理由は、教えては貰えないんでしょうねきっと。」

「時が来たら話そう。今話せる事はもう無いだろうな。」

「......なんて言って引き返すとでも思ったかしら?!」

 

 

霊夢は陰陽玉を召喚し、ホーミングアミュレットを両手に構える。

隠岐奈はため息をつき、霊夢を睨みつけながら無数の扉を展開する。

 

 

「これもまた幻想郷を守るため、今はお前には負けてもらう。」

「ふんっ、舐めんじゃないわよ!」

 

 

霊夢は霊力を練り上げる。そして、一気に距離を詰めて、弾幕ごっこが幕を上げたのであった。

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

「...あっ、霊夢さんおかえりなさい!」

 

 

狛犬のあうんが出迎える。そして霊夢は疲れきった肩をグリグリ回してマッサージし、中に入っていく。

 

 

結論としては、この上なく完膚無きまでに負けた。

 

部下である二童子の後継者を探していた時とは違い、今回は幻想郷を守る為だと彼女は言っていた。つまりは隠岐奈が本気、または本気に近い力を出さねばならない程の状況だったのだと霊夢は思い知った。

 

 

(そこまで必死に隠して、どうするっていうのよ...)

 

 

この三日間で殆ど成果のない現状に苛立ちを感じつつも、冷静に考えれば考える程結局今できること無さを痛感する。

 

 

「はぁ...風呂入ろ...」

「霊夢さん、何だかおじいさんみたいですよ?」

「なんだってぇ?」

 

 

あうんの両こめかみを拳でグリグリと痛めつける。涙目になるあうんがごめんなさいを連呼し、霊夢は「ふんっ」とだけ反応し風呂の準備をし始めた。

 

三日目にしてようやく隠岐奈と話す事ができたが、肝心な情報が何一つとしてない。今分かることを整理しようと風呂の準備を始める。

 

 

火を起こしながら頭の中で整理する。面倒だが集中して考え事ができる、決して嫌いではない時間だった。

 

 

(...今私に調べれる事といえば、やっぱりあの男の子よね...魔理沙に任せたけど、大丈夫かしら...?)

 

 

そして、空が光ったあの後、突然感じた殺気...隠岐奈の言う『幻想郷の危機』というのと掛け合わせると、やはり彼自身が原因、または原因と何らかの関係がある事は明白だった。

 

 

そうなれば、明日からする事は決まっている。

 

 

(アイツを...探さないとね...)

 

 

いい湯加減の風呂が湧くまでは、まだもう少しかかりそうだった。

 




第六話を読んで頂きありがとうございます。

文花帖とダブルスポイラーを制している訳ですから射命丸文は間違いなく幻想郷でも上位の実力者だとは思うんですが、大天狗も原作で登場してますし、実際どれくらい強いんでしょうかね?
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