天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
ハンターの日常
周りは血の海だ。ありとあらゆる人間が肉塊となり、転がっている。その死体の山の中、一人の男が、今にも死にかけて横に倒れている女性を介抱していた。
女性はその男にやっとの力を振り絞って、言葉を紡ぐ。男は女性の手を取り、その言葉を涙ながらに聞いていた。だが、その時はやってくる。その女性は力を無くし、動かなくなった。そこにはただ、がらんどうの瞳があるだけ。
その時、男から焔が湧き出た。それは暖かな光となるような神聖な火の光ではなく、すべてを焼き尽くさんとする、ドス黒い火焔であった。最早、彼の世界の光は消え、底冷えするほどの深い悲しみと強い後悔だけが残った。
◆
「なんで、支給される携行食の味にチョコミントがあんだよ。歯磨き粉食ってるみたいじゃないか」とぼやく。
「俺は好きだぜチョコミント、食った後の清涼感がたまらん」とオレンジの髪を前に流した男_レオ_が長方形の板状携行食を食べながら返答した。
「マジで言っているのか?とりあえず、この不味い携行食を食わずに済むよう今日こそは成果を出すぞッ!」と自分を奮い立たせるように言う。
「そうだな、1週間もボウズじゃレギオンの連中にどやされちまうぜ...そろそろ面だけでも拝みたいもんだぜ」
「ああレオ、今日でこの森から出るぞ」と返し、俺たち二人は日没後のうっそうとした森の中に入っていく。
森に入って15分は経過した。初日に入った頃よりかは森の地形を覚えてきたが、それでも薄暗い中、自分がどこにいるかを正確に把握するのは困難だ。しかし、俺たちは迷わず動くことができる。
「レオ、ここら辺で一度痕跡があるか確認したい、トレース頼めるか?」
「オーケイ相棒、サービジョン、トレース」そうレオが言うと彼の青い瞳に灰色の文様が浮かぶ。
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これはいわゆる拡張現実用のデバイスであり、今も
「何か見つけることができたか?」
「むむ、小さな破片が無数にあるな、こりゃ五類甲殻多足種スケイルセンチピード、でかいムカデの殻だな。何かに襲われたんだろうか?」レオが首をかしげながら言う。
「4類、もしくは俺たちが探している奴かもしれん、ここにもカメラを設置しておくか」とレオに聞きながら小型のカメラを置けるような広く俯瞰できる位置を探す。
「いや、ここより東にいったE4あたりに設置した方がいい、殻の散らばり方からそっちに逃げたみたいだ」 とレオが提案し、乗ることにした。
「了解だ相棒」
「持っているカメラは全部仕掛けたぞ、今日はF6の監視塔で見張りだろ?」 とレオが言い、
「今までの調べた痕跡、地形から今日仕掛けた場所に現れるはずだから気引き締めていくぞ」と返答する。
俺たち二人は森の中に建てられた監視塔に向かう。監視塔はかなり古めかしく周りの景色に溶け込むよう造られている。しかし、監視塔というだけあって、高さは大きめの針葉樹くらいある。この中でカメラを通して監視する。反応があり次第、現地に向かう。
「最初の三時間は俺が見張りをするから、レオは眠っていいぞ。」
「そんじゃ、お先に仮眠室にいってきますわ」とすぐさま仮眠室(熟睡しないように固いベッド)がある部屋に行った。
俺は監視を始めるため、仕掛けたカメラ映像を視覚情報にトレースした。
カメラは動体センサーが仕込まれているため動きがあれば、ピックアップしてくれる。
単純な作業であるからこそ睡魔と闘わなくてはいけない。
俺は眠気覚ましに変異種(オルタネイトビオレンツ)のとある図鑑を視覚上に投影した。
前書きには以下のように書いてある。
【オルタネイトバイオレンツ】
第一人類史から発生したとされる既存の生物から大きな変異をした生物らの総称。現在では人類の活動領域の外は彼らが生態系の頂点として君臨している。
様々な生物の変異が確認されており、その多くは人間に対して敵対的であり危険である。こうした変異が起こった理由として有力視されているのが*虚素の大規模な運用による産業革命である。
現在の人類も利用している最重要資源である虚素は莫大なエネルギーを生み出し環境に様々な影響を与えたとされる。地質学者として著名なジェームズ・リリーは虚素はその時代の人類に膨大な力を与えたが、後の生態系を大きく変えたため人類が力を行使できる範囲は狭くなったと述べている
変異種は現在その危険度を表す指標として五段階の大区分とそれぞれの段階にさらに5つの小区分を設けた。
1、2、3、4、5類と大区分があり、その後にⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴと小区分をつける。数字が小さいほど危険度が高い。4類上位からは体内の虚素量を調整することで本来ではありえないほどの治癒力を有していることが多い。本書では、目撃が多いタイプと、過去に確認された1,2類の変異種の詳細を記載する。
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(この図鑑には、監視の時、かなり世話になったな。実際に遭遇する職に就いているからか興味深く読ませてもらった)
五類甲殻多足種スケイルセンチピード
外骨格の強度が高く、貫通力の乏しい銃器や弾丸では大きなダメージを与えられないだろう。また、牙は特に固く、麻痺毒シンドロミル、神経毒セロトニンが含まれている。しかし、地面に面している腹の部分は柔らかく、弱点となる。
(レオが今日見つけた殻の持ち主、俺たちなら対処可能であるができるだけ消耗したくはない。持ってきた弾薬や供給される物資には限りがある)
トリビア
スケイルセンチピードの味について
見た目で倦厭されているがその肉は水分量が多い、淡泊な白身魚のような口当たりである。確実に火を通しておいたほうがいいぞ。寄生虫を腹の中で飼うことになる。
(この作者はノースランダーの人らしいが、味の感想とかも入っていることがあるんだよな。こうしたトリビアが面白い)
そうこうしているうちに時間は過ぎていった。
時間にして一時間ほどだろうか。動きがあった。場所はスケイルセンチピードがいたE4だ。木々を避けながら巨大な何かが凄まじい速度で動いている。
「レオ、カメラに動きがあった。多分ターゲットだろう。すぐに現地に向かうぞッ」
「おっけ、ついに奴さん姿を現したか」と寝起きであるのにも関わらずレオはてきぱきと行動を開始している。
「対象の脅威度が致命的だった場合は即撤退、森外縁に停めたバイクまで一直線だ。討伐は容易であると判断できない限り諦める」と言うと
「了解、いつも通りの手筈で行こうぜ」とレオが返答する。
そうこうして森を走り、E4の周辺地域にたどり着いた。そして見つけた。
それはトカゲのような姿をし、両目を四方八方に動かしていた、顔は見る人によってはかわいらしいと思うかもしれない。しかし、それは小さかったらの話だ。
(全長、8メートル、肩幅2.5メートルぐらいの爬虫類タイプか)と目測で測る。
「レオ、遠距離から支援を頼む、俺は近中距離から奴の気を引く、隙をみてネイルを打ち込め」と伝える。
「後ろは任せろ」とレオは背負っている対物ライフルを構えた。
「頼りにしている、お前のファーストアタックで開戦だ」と俺はレオの少し前に隠れる。
目の前のトカゲが頭を上げ、こっちに片方の眼球を動かし俺たちの方を見た瞬間、後方から聞きなれた、重低音の爆発がする前に、その爬虫類が動かしていた目の片方がつぶれた。
(ナイスショットだ、これでかなり楽になる)
その後、何発かの銃弾が放たれ、トカゲの体を傷つける。もう片方の目は暴れるターゲットのせいもあり、流石のレオも当てられずにいた。弾倉が空になったのと同時に前に出る。携帯している小銃で弾幕を張る。
だが、小銃では皮膚の表面部を削る程度しかできない。そこでレオのライフルでできた傷口や目に向かって攻撃をする。
「GYUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」 とトカゲが咆哮をする。俺がよほどうざったいらしい。その瞬間後方、レオのいる方から鉄の槍のようなものがトカゲの体を用意に穿つ。
銃弾が通らない体にこうもあっさり傷をつけるのはこの槍(ネイル)は奴らが変異した原因から形作られているものだからだ。
ネイルが体に刺さったかと思うとすぐに抜け、放たれた方に向かって戻っていく。炭素繊維の紐でネイルは括り付けられており、ネイル自体も返しがついていない。
トカゲはとっさにレオの方を見たがすぐ反対方向に逃げ出した。俺はすかさず、使い捨ての探知機が付いた粘着性の弾丸を奴の体に放った。
ひとまず、対象を追うのにこれさえあれば問題はない。
相棒の狙撃手が走ってきて提案する。
「あのトカゲ、かなりの手負いだぜ、このまま討伐できるんじゃないか」
「確かに、3類にしては弱く感じたな、追跡も可能、しかもあの体じゃ、他の生物に狩られるかもしれん。」
そうして俺らは討伐をすることを決定。
後を追ってみれば足を引きずり弱っているのが見つかった。体の傷は徐々にふさがっているが目は血が止まっているだけである。目などの重要器官は治癒できないのだろう。
「レオ、仕留めきれるか?」
「もちろん、楽に逝かせてやるよ」といいながら、奴の急所、おそらく目から脳に弾丸を打ち込めるよう狙いを定めている。そしてすぐに発砲音と巨大なトカゲが地に伏せた音が聞こえた。
「GJ、レオ、今回は頼りっぱなしだったな」
「じゃ、今度のおごれよ、オアシスにでもいったときに」
「いいぜ、俺も行きたいと思っていたしな」
「よっしゃ」と話しながら、監視塔にある通信機から討伐した報告と死体の運搬の手筈を確認しようと戻る。
今回は運がよかった。相手の脅威度が思ったより低かったこと、こちらが一方的に攻撃できたのが大きい。報酬も期待できるだろう。
最近はレギオンの動きが活発になっており、人員不足という噂もある。面倒な仕事は俺たちハンターに任せられることが多くなるはずだ。危険度も大きくなることがあるが、割のいい仕事も回ってくることがある。今回のがいい例だ。
「こちらチームハウンド。ターゲットの討伐を遂行。死骸は外縁部の収集所まで運ぶ」
「了解だ、ハウンド。素晴らしい仕事ぶりだな。ご苦労だハンター。収集所までの運搬に車両の使用を許可する。終了すれば、シティーに帰還し、コージーから報酬を受け取ってくれ、以上だ」
「了解。通信を終了する」
そうこうして、レオと合流して運搬用の貨物を収集所からとってくる。運搬する途中、死体に群がる生物もいたが、大体は発砲すれば逃げていく。あとはバイクで戻るだけだ。
「レオ、次の仕事はどうするか?」
「おいおい、仕事が終わった後に新しい仕事の話はやめてくれ。ワーカーホリックになっちまうぞ」
「悪いな。だけど帰ってもすぐに新しい仕事が来るかもしれん。気分的に最悪だが心構えはしといていいだろ。とりあえず、今日、明日は休むが」
「よし、そんじゃ飲みに行こうぜ、一週間ぶりだからな」
「オッケーだ、シティーに帰還するまで気を抜くなよ」
そうして、バイクに跨り、荒野に向かって走り出す。
バイクで数時間後、林道を抜け、平地の比較的整備された道路に出た時、シティの摩天楼が遠くの方で露わになる。
「しかし、やっぱりでかいなシティは」とレオが通信装置越しに言う。
「あぁ、セントラルタワーは第二人類が残した遺産らしいからな、どうも超長距離間を移動する装置ってのが最近の噂のトレンドらしい」
「前は対空兵器とか言っていなかったか?」
「どのみち、俺たちが中央に行くことはないから確かめることも必要もないだろう、おいレオ、東5番ゲートから入るぞ、そこが最速だ」
「了解だ」
そうして、EAST5と書かれたゲートまで移動する。予測通りあまり混んでいなさそうだ。バイク通行用のステーションに入ると天井から音声が再生される。
「所属レギオン、IDノ提示モシクハ許可証ヲ提示」
「許可証、グリーンハーモニクスから発行されたものだ、照会頼む」
「認証中、・・確認完了、徐行シテ内部ゲートマデ進ンデクダサイ」
そうしてゲート内部まで移動し、住居区に繋がるゲートを通る。
目前には見慣れた白を基調とした丸みを帯びた曲線的なデザインの住宅が目に映る。
「レオ、
シティの中央方向に向かって住宅区から離れるとレギオンのオフィス街となっている。ここでは兵器の売買も可能であり、専用の店舗も同じレギオンのオフィスビル内にある。GHのビルに入り、手荷物の検査、引き渡しをし、受付のAIにコージーの居場所を教えてもらう。
「コージー様は、現在3階の銃器販売所の商談室Dにおられます。ただいま、商談中ですので30分後に再びお越しください」
「了解、どうするレオ?」
「なら、商品でも見て時間をつぶすか、どうせ販売所で報酬を受け渡すだろうし」
「そうだな...買い換えたいものもある」
提案に乗って、3階にエレベーターで向かう。
ずらっと左右にある3階の販売所は何人かのトレーダーが格子を挟んだ形で物の売り買いを行っている。
「やぁ、商品を見せてくれるか?」とサイバーパーツとバイオインプラントが多数埋め込まれている、顔にはコネクテッドグラスを掛けた店主に声をかけるとサービジョンから商品の情報が映し出される。
「なにか掘り出し物はあるか?」
「EKシリーズは最新作まであるな...俺が使っているのも2世代前の物だから、買い替えてもいいかもな」
「なら、作業場であとでMODも付けて調整するか」
「店主、これの実物を見せてもらっても?」
そういうと店主の後ろから機械音がして、大きくGHと書かれた緑のガンボックスが運ばれてきた。カウンターに置かれるとサービジョンから
「クリアランス、イエローB、ボックスを開錠します」という音声と共にボックスが開かれ、商品を実際に手に取ってみる。もちろん弾も入っていないし、セーフティも掛かっている。
「どうだ、持った所感は?」とレオが聞く
「かなり軽量化されていて構えるのが楽になっている。グリップとサイトをいじればかなり使い勝手が良くなるだろう」
「じゃあ、購入決定か?」
「あぁ、店主、TP社のサイトとグリップ、40連マガジンを見繕ってくれ」
そうすると、また機械音がし、それぞれのアタッチメントが運ばれてくる。
「それぞれ含めて結構するな。こっちで一括で決済する」
サービジョンから決済用のアプリケーションを起動し、支払う。
「俺たちがビルから出るときの持ち物返却時に渡してくれ」
そうして俺たちはトレーダーの元から離れた。
「レオは何か買わなくていいのか」
「俺は今の装備が手に馴染んでいるからいいわ、しかし今回の報酬額の取り分の半分は使ったんじゃないか」
「金を出し惜しみして死にたくないからな」と話して時間を潰していると通信が入った。
「大変お待たせ致しました。コージー様は5階応接室にて、お待ちしております。」
いつもは、3階の商談室にて報酬の受け渡しがされるのに今回は5階、GHのオフィスでか......
「いやな予感がする」とレオが言う
「俺もそうだが、行くしかないからな」
そうして、エレベーター、入ったことがない5階フロアを目指し移動する。