天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
一瞬で心臓が、筋肉が、骨が幾重にも裂けるような苦痛が全身をくまなく駆け巡る。その後に肺、腸、脊髄が、
「ゔッァアッアアッァ」
どこかを特定することさえできない。全身のありとあらゆる箇所が擦れてねじれ切れてしまうような苦痛が叫ぶ。
辛うじて耐え忍んだ意識の中、ソレが発現したのを確認した。
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侵入者を排除しようと、近づいたジャガーノートMk2の光学レンズには奇妙なものが映っていた。
それは侵入者の体から焔のようにたなびく、黒と灰色の炎であった。しかし、その機械に近い兵器は恐怖など感じることなどない。
手部に取り付けられた
外部装甲はバイオ装甲とカーボンファイバーと合金からなる装甲であり、生半可な攻撃では傷さえつかない。気にもせずに相手に突撃をすべきと判断し、相手を見定める。
しかし、次の瞬間にはそのジャガーノートのレンズは何も移さなくなった。その巨体は断面が融解したような、高温の刃でもって切られたようにして二つに分離していた。
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――全身が痛い、今にも意識がトビそうだ。早く、片づけないと
今しがた、切った奴の後方にいる、ジャガーノートの方に指をさす。指の先に体に纏わりつく焔が集まり、点となると、それは線ととなり、稲光の如き速度によって二体目の巨躯を撃ち抜き、巨大な骸を作った。
(―――上だ、上にさえ向かうことができれば…)と薄れゆく意識の中、それだけを意識し、鋭い触手のような形に焔を変形し、壁に突き刺すことで天井に向かう。
邪魔な天井を破壊しようと触手型の焔を振るおうとすると足が思いっきり引っ張られ、地面に激突する。
何が起きたかと思い、足を見ると何やら黒い糸が巻き付いており、その発生源をみると太い脚を複数もった巨大な蜘蛛。上の階層では見たことがないタイプのそれが、糸を放出していた。
鉄の蜘蛛、まさしくアイアンスパイダーと呼ぶべきそれらは一体だけではない。どこかから、この倉庫部屋に続く廊下からうじゃうじゃと這い出てきた。その数、目視だけで30体以上はいる。
「アァァ!、この焦げカスどもがッ!」と悪態をつく。すぐに足に着いた糸を焔でもって焼き切ると、周囲を取り囲んでいた蜘蛛が一斉に襲い掛かってきた。
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赤い蛍光灯が爛々と照らす廊下を走り抜け、エレベーターまでただ走り抜ける。
背にはエレノアと気絶したレオを担いで、全速力で脚を動かす。遺志を託されたのだ。この二人は何が何でも助けると強い決意をした。脚に強い痛みが奔るが、それがどうしたと言うのだ。彼はその命でもって俺たちを救おうとしたのだ。
エレベーターのある部屋が見えた。あと少し。
エレベーター前になんとか辿り着き、エレベーターの扉を開けるために、ボタンを体を使って、無理やり押す。俺たちの救助に来た二人がエレベーターに乗ってきたためすぐに扉が開く。体を無理やり扉の間に押し込み、こじ開け、二人をエレベーターの床に置く。
全力で走ってきた疲労感が一気に全身を襲う。倒れこんでしまいそうになり、なんとか床に手をついて耐える。だが、それ以上に、途方もない無力感が襲ってくる。
「クッソッ、なんでこんなにも俺は情けねぇんだぁぁ!」とライが声を荒げ、床を思いっきり殴りつける。ずっしりとした痛みと、金属製の床の冷たさが殴った拳から伝わってきただけだった。
エレノアは唇を噛み締めて、静かに涙を流している。
その昇降機の中に響いたのは、静かな泣き声と小さな嗚咽だけであった。