天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
ロビーにエレベーターが着いた。6階担当、3名帰還という無常なアナウンスが流れる中、気絶したレオを背負い、脚を怪我したエレノアに肩を貸し、出てきた男、ライがGHの職員に医務室に運ぶように頼んでいた。
二人が職員によって運ばれていったのを確認して、ロビーの椅子に座る。すると、声が掛かった。深いパーカーを着ている、馴染み深い同業者からだ。
「君のそんな顔、初めて見たよ。仲間たちは見たところ全員無事じゃないか?といってもあの損傷度合いからするに、すぐには満足に動けないと思うがね」と
「救助に来た二人の内、一人を失った。しかも、今日が最初のバンカーだった。それで、最後は俺たちの命を優先して、自身の命を捨て去ったんだ。気に病まない方がおかしいだろう?」涙ながらに聞き返す。
「ずいぶんと英雄思考をもった勇者だな。おっと、気を悪くしないでくれ。そんな同業者は珍しい。バンカーのような仕事を受けるほど、この業種についているなら他者の命など構っていたら長続きはしないことは百も承知だったろうに」
「ああ、すげぇことをやったんだよ。あいつは。俺はそんな雄姿に縋ることしかできなかった」と答えると
「今日はもう休め、あとの引継ぎは私がやる。明日の正午あたりで出立だ。それまでの間、割り当てられた部屋で休め」と言われ、続いて
「私は、君たちが帰ってきて嬉しいよ。数少ない、昔からの知り合いだからね。だが、死人に後ろ髪を引かれるのはやめておいた方がいい。そんな覚悟じゃ、次に死ぬのはあんただよ」というと去っていった。
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「――各班、割り当てられた部屋で休むように。それと、休息の間に勝手な行動はマジで慎めよ、ここの兵士たちと殺し合いになるぞ」と目の前のパーカーを着ている性別不詳の者から指示が出された。
最初の時より、人数が減っている。そのほとんどは医務室にいるのだろうが、一緒に3階を制圧した2人の同業者がいないことに違和感があった。その二人がいないことの理由はすぐにわかった。
ブリーフィングに出ていた他の同業者が話していた。
「6階でジャガーノートが出たって話だ、それで6階担当だった班は、全員生還したがボロボロらしい」
「マジかよ、だが、誰も欠けなかったのは救いだよな」と答えると
「いや、実際は3階を担当していた奴、二人が救助に行って、一人が死んだらしい」と
「わざわざ助けに行って、死んだのか。なんともわからんな。自分の命を何だと思っていんだか」
「あぁ、俺なら救助には行かないな」と会話をしていた。
(そうか、そうだったのですね)とローシャは一人で納得する。
この仕事では人が死ぬのは珍しくない。知り合った人間が明日には亡くなっているなんてよく転がっている話だ。だけど
(まだ、慣れないものなのね)と心の中で自身がショックを受けていることを自覚する。
(今日は早く休みましょう)と考え、割り当てられた部屋、ミンリがいる所へ戻る。
すぐにベッドに横になり、瞼を閉じた。
夜中に目が覚めてしまった。喉の渇きを感じて、ベッドから起き上がる。隣のベッドではミンリは静かな寝息を立てて、熟睡していた。
(ミンリの精神的な強さは、見習わないとね)と考えつつ、起こさないよう静かに部屋を出る。飲み物は、ロビー中央にある大広間にあるウォーターサーバーで済まそうとし、エレベーターホール前を横切る形で向かうと人影があった。
(GHの兵士かな?)と思ってけど、違った。その人は一緒に仕事をしたレオであった。
つまり、犠牲になったのはもう片方、的確な指示をしていたあの人だろうと予想できた。感傷的な気分となり、足が止まっていると
「誰かいるのか?」とレオから声が掛かった。
「ローシャです、3階でご一緒した」と返事をする。
「そうか、引き留めて悪い」とレオが言う。その声は悲しみに溢れていた。
耐えられなくなって、彼に近づくと、レオも予想外といった表情をとっていた。仲間が死んでしまった人にかける言葉など、生憎持ち合わせていない。だが、話ぐらい聞いて、その痛みを分けることぐらいはできると決意した。
「その、今回のことは本当に残念でした。もし、何か話がしたいのなら聞かせて下さい」と
「いや、あんたに何か話すことは…」とレオが考えていると
「そうか、ありがとう」と続けた。
「でも、俺は相棒が死んだとは思えない。そんくらいタフで強えぇからな」と少し口角を上げて話してくれた。
「そんなに強いのですか?」と問うよ
「なんせ、六爪の研究施設から、実験体として殺されそうになった時に俺を救ってくれたんだ」と答えてくれた。
六爪は六つの有名な犯罪組織で、都市の脅威として広く知れ渡っている。そんなものと闘えるような人物には見えなかったが、話を合わせて相槌を打つ。
「俺はシティ以外の都市の貧民区域出身で、ガキの頃からその地区の身寄りのないやつを集めて、小さいながらもその地域を仕切っていたんだ」と故郷に思いを感じさせる表情で話し続けた。
「だけど、ある日、仲間の子供が、そこに足を運んでいた紳士服をきた奴、そいつとぶつかったらしい。聞いたところによると、そいつはぶつかった子供に
「大丈夫か?怪我はなかったかい」と優しく聞いてきたんだと。そのあと、幾ばくかの通貨を渡したんだ。それで美味しいものでも食べなさいと。
だが、その子供の両親、俺の仲間だった奴は次の日から行方不明になった。俺たちは痕跡を調べ、犯人を追い詰めようとした。そして、紳士服の男が爪の幹部だとわかったときには、俺たちは全員捕まるか、殺された。
生きている奴は実験場送り。あの時の後悔を忘れたことはない。施設の中は多くの人間がいた。子供から老人まで、そのほとんどが声にもならない悲鳴を上げていた。
俺はここで死ぬと思ったんだが、そこに俺の相棒が現れた。びっくりしたよ。その理不尽なまでに強力な力に。俺たちを追い詰めた爪が持っていたのも圧倒的な理不尽な力だったけど、相棒がもっていたのはより強く、どこか悲しげだった。だからかな、一緒に連れて行ってくれと懇願したんだ」と彼の壮絶な生い立ちを教えてくれた。
すると
「ありがとう、話したら少し楽になったよ。何か用事があったんじゃないか?」と問われ、喉が渇いているのを改めて気づいた。
「失礼します」といって、大広間に向かい、水を飲んで、部屋へと戻る。ベッドに転がるとすぐに、睡魔に沈み、眠りについた。
廊下が騒がしい、何人もの騒がしい足音がする。すぐに目が覚め、何が起こったのか確認に行こうと廊下に出ると、GHの兵士がせわしなく走っていた。皆、エレベーターホールに向かっている。
ミンリは寝ぼけながらもこの騒動に気付いて、眠そうな瞼をこすっていた。彼女の準備を待って、廊下に出るとエレベーターホールが騒がしく、人だかりができていた。なんとか何が起きているのかを確認しようとすると辛うじて見えた。
死んだはずの人がエレベーターの中にいて、GHの兵士たちが銃を向けられていた。その人は両手を上げ、その前にいたレオが必死に声を上げていた。その中、アナウンスが流れる。6階担当、1名帰還と。