天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
この夜宴で多くの人と話しをした。ローシャやミンリといったバンカーで関わった者もそうでない者ともだ。フードを深く被った車で見た人物からは
「お前たちの勇気によって、古い友人を失わずに済んだ。感謝する」と言われ、電子名刺を渡される。
「困ったときはここのオフィスに行けば力になれるかもしれない」というらしい。
そうして、時間が過ぎた。もう、解散といった雰囲気の中、外の空気を吸うためにバルコニー出るとエレノアがベイプ(電子タバコ)を吸っていた。
彼女も外に出ていたようだ。この機会に“姉”について聞こうかと考えているとあちらから声をかけてきてくれた。
「君も吸うんだっけ?」
「前は吸っていましたけど、今はやめました」
「へぇ、よくやめられたわね。私は無理だと思う」
「まぁ、私も他人から強くやめるように言われてやめた口なんで、一人だったらやめられなかったと思います」
「そう、大事に思われているのね」とどこか遠くを見ながらそう呟いた。
「聞きたいことがあります」と言うと
「プライベートな連絡先?レオくんが言ってたけど」と少しおどけた感じで返された。
「ハハ、そのためならもっと気軽に聞けていたのですけどね。貴女の姉についてです」と本題を切り出すと、少しだけ表情が曇った。
「そう、誰から聞いた?」
「バンカーで会った兵士からです」と返すと
「確かにそれなら知っている人もいるかもね」と言うと続けて
「私もあの日までは知らなかったのよ、まさか姉さんが翠煌の涙になったなんてね」
「あの日とは?」
「月蝕禍星よ。あの日、私は姉さんに命を救われたわ。ただ、姉さんは…」と彼女の生い立ちについて話してくれた。
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私はシティ近くのコロニーで育った。と言っても幼少の頃だけ。そのコロニーはホードで壊滅的な被害にあって私の両親もその時に…。地下壕に隠れていた生き残りの子供たちは救援に来た都市の企業が保護することになったの。
今思えば、都市の企業が人道的な支援をしているというのは対外的な宣伝だけではないと思うの。
そこで姉さんに会ったの。つまり、血縁的な繋がりはないのよ。いきなり大人たちに連れられて姉妹を演じるように強制させられたわ。歪な関係だとずっと感じていたけど、そうするほかなかったし、実際、姉さんは姉として妹の私を大切にしてくれた。
姉さんは優秀だった。企業の保護下において様々な試験や測定を行ったけど、頭脳明晰で運動神経も抜群。起動できるA.R.Cも他に姉妹を演じるように強制されていた子供たちと比較しても、頭一つ抜けていた。成績が悪かった私と一緒に勉強や訓練をしてくれた。
少しだけ嫉妬もしてしまったわ。だけど、それ以上に自身の能力不足が情けなかった。
ある日、大きな検査が終わった時にもう姉妹の真似をする必要がないと伝えられ、GHの下請けハンターとして働くことを打診された。私にとって故郷を奪った変異種を駆除する仕事を選んでよかったと思ったし、不満があるわけでもなかった。
姉さんの成績なら、大手都市企業へ就職するだろうか、協会の専属としてサーヴレイブになるのかなと考えていたわ。だけど、その後、あの日まで会うことはなかった。
GHからライを紹介され、仕事をこなしていったわ。攻撃用のA.R.Cも起動できたから役に立てた。自分も活躍できることが嬉しかったわ。だけどシティに帰ってきたあの日、月が真っ赤になっていた。その後、月は陰っていったわ。そして、現れた。
≪蝕人≫、変化前は元々、都市企業の重役だったらしいその人物はその日、化け物になってしまった。その化け物は不可視の攻撃を行い、すべてをねじれ切った。人も建物も。
あの時、シティの一級サーヴレイブや軍事企業の特殊鎮圧部隊が投入されたけど、そのほとんどが戦闘不能になってしまった。十分に戦っていられたのは、当時のブリアークラス、翠煌の涙、沈潜する白銀と、彼らを支えるために作られた団体、翡翠会と銀泉会の側近だけだった。
戦闘はシティ内部から、外殻近くの私たちがいる方へ流れていった。あの時はひどかったわ。尋常ではない死に方をした死体や崩れた建物が周りに広がっていた。すぐにその死地から逃げようと思ったわ。
だけどあの時、戦闘の嵐の中、見たのよ。必死に戦っている姉さんの姿を。少しだけ足が止まってしまった。それが致命的だったのよ、姉さんもその時、私に気付いた。その後、化け物は滅茶苦茶に暴れていて、その攻撃から私を守るために姉さんは傷を負ってしまった。その時に負傷したせいで、姉さんは…
ずっと後悔している。なんで、私をかばったのだろうと。私たちは本当の姉妹じゃない。ただ、演じていただけ。それなのに、なんで?この都市で必要とされているのは姉さんであって私じゃない。なのにどうして、かばったの?本当は大好きだった姉さんが代わりに死ぬことなんてないじゃない。
私の心はずっとそのことに囚われている。無意識に姉さんに似たしゃべり方や振る舞いをしてしまったのはそのころからだろう。
だからだろうか、命を懸けて救ってくれた目の前の人物に対して話してしまった。状況は違えど、姉さんのように、命を懸けて救ってくれた彼に。
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エレノアは話してくれた。最初は血の繋がりのない、演じていただけの姉妹であったのだろうが、血の繋がり以上の絆をもち、死別した姉の話を。
「申し訳ない、辛いをさせてしまって」と眼尻に少し涙を浮かべているエレノアに言葉をかける。
「ううん、話したら楽になったわ、お礼を言いたいぐらいよ」と涙を拭いて笑顔で応えた。
「姉妹を強制して演じさせられていた理由は…」とここまでの情報から一つの辿り着いた結論を話そうとすると、エレノアが次に続く言葉を言ってくれた。
「えぇ、翠煌の涙というA.R.Cを起動できる人間を人工的に作ろうとしたのよね」
「A.R.Cの起動には人格の同期が必要があり、そうした人間を作り出すためにそうした取り組みをしている所は多いでしょう。翠煌の涙は姉妹というのがトリガーになっているのかもしれません」
「そうね、他にも適合するかどうかを決める要素があるんでしょうけど…」と話すと
「私の話ばっかね、そういえば貴方はどうなのよ?度々、他の都市の話はするけど、自分のことは詳しく話さないわよね。使っているA.R.Cも前聞いたときは、はぐらかされたし。それに、翠煌の涙の情報を嗅ぎまわってるとしたら、都市企業は何してくるか分からないわよ。私もGH専属なんだし」と話しを返された。
「ほらほら、早く吐きなさい」と詰め寄ってくる。
洗いざらい話してくれたであろう、エレノアに何も言わないのは気が引ける。だから、
「俺も同じです。あの日の後悔を後悔だけで終わらせないために、必死にあの日に起きた出来事を調べているんです」と答えるとエレノアは少し不満そうな表情をしたが、バンカー帰りで疲れていたのだろうか詰問はされず、帰ることにしたようだ。
俺も酔っていたレオを連れて、外に出ることの多いサーヴレイブ用の宿場に向かう。そうこうしているうちに、時刻は0時を過ぎ、ベッドに入る。いろいろなことがあったからか、すぐに眠りについた。
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どこかの長いトンネルを凄まじい速度で駆け抜けていく。そして出口の光が見え、その光の中に消えていく。視界が広がると、真っ白な天井と今自分が腰かけているだろう繭型の装置から伸びている赤と青の配線が見える。見慣れた天井だ。
「ボッサっとするな、お父様の御前だぞ!」
「早く起きなさい、契約者」と子供の声が聞こえ、正面を向くとそこには、前にどこかの書物で見たことがある惑星のようなものが頭の、スーツを着た人間が立っていた。
「早い再会だったな、契約者よ」という威厳と博愛を感じられる声が、どこから出ているか分からないその異形頭から発せられた。
異形頭イイよね!