天上の人類ーThe celestial mankindー   作:ピエロギ

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最後に残ったマッチ

 静寂に包まれた部屋の中で、「Lab_Data_file:A.R.C初期構想とA.R.G運用可能段階への経緯」を開く。周りに並んでいるベッドには誰一人横たわる人影はない。レオは他の空いている個室、アベルとカインもどこかの空いている部屋で休んでいるのだろう。

 

 サービジョンによって映し出された文字の羅列には、次のように書いてあった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 A.R.Cの初期構想について

 

 Acient residents coffin以下A.R.Cは一部の第一人類が保有していたの超常現象的能力の再現のために開発が行われている特異技術である。

 

 この技術自体は第一人類によって生み出されたものであるが、我々が利用することで第一人類に対してのリーサルウェポンと変化させることが可能であろう。

 

 

 

 問題は、その汎用性だ。現状では、能力を所有した第一人類の死体が無ければ制作は不可能であり、数が限られている。

 

 

 

 まさしく、coffin(棺桶)の名に相応しいが、別のアプローチを考える必要がある。

 

 A.R.G運用可能段階への経緯

 

 やっと解を見つけることができたのかもしれない。座標を特定し、膨大な情報処理の可能な空間があれば、過去の第一人類を現世へと召喚することができる。

 

 しかし、問題の時間座標の特定には既存の光回線では不可能だ。

 

 第一人類の超技術である虚素空間の時間回線が必要だ。だが、これには危険な橋を渡ることになる。

 

….

 

….

 

….

 

 結果は成功だ。だが、問題が生じた。顕現した思念体、以後

 

 A.R.G (Acient residents ghost)は尋常ではなかった。顕現しているものは、虚素の抑制によって本来の出力を出せないはずなのにだ。

 

 彼らの死体を直接利用するのではなく、彼らから我々に協力をするように仕向ける必要がありそうだ。彼らの力を利用することで、他のA.R.Gに対して武力を使用し、A.R.Cとして利用する循環を作ることができれば、汎用的な兵器として運用できると考えられる。

 

―――――――――――――――――

 

 報告書というより、この著者自身のログのようなものであった。しかし、書いてあることによるとやはり、A.R.Cは第一人類由来のものだろう。

 

 自分の胸を叩く。アベルが言っていた。

 

 「お前の心臓に埋まっているのも、どっかの第一人類だろう」と

 

 二人の話を聞くにアッシャー以上だと、第一人類が依代となっている場合がほとんどであり、それ以下のA.R.Cはただ虚素放出によって生み出される現象であり、その効果に大きな隔たりがある。

 

 加えてアッシャークラスから侵蝕されるリスクがある。以前にレオが過負荷状態になって倒れたが、使用したA.R.Cがアッシャーであったならば、敵味方判別できずに周りを手当たり次第に攻撃していたはずだ。

 

 だからこそライセンスで使用者を都市は管理するのだろう。

 

 寝返りをうつ。体の痛みがひどいが、目覚めたときより酷くはない。明日一日中を休養に費やせば、痛み止めで誤魔化せる。

 

 そうこう考えていると瞼が重くなってくる。残りのタイムリミットまでにやることを終わらせなければならない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シャワーのハンドルを捻ると、最初は冷たかった水が徐々に温まり、心地の良い温度に変わる。

 

 シャワーヘッドから流れ出した温かい水が肩から背中に流れ落ちるたびに眠気と疲れが洗い流されているようだ。

 

 火傷で生じた瘡蓋が疼くが、朝からシャワーに入ることは至上の心地であった。

 

 全身の水気を真っ白なタオルで拭く。すると、カインが入ってきた。

 

 「お前たちも体を洗うことがあるのか?」

 

 「機能的には不要です。しかし、機会があるときには入ることを推奨されています」

 

 「推奨?誰かに命令されているのか?」

 

 目の前の子供に命令できる立場ではアダムが思いつくが……

 

 「推奨というよりも、私たち自身の意思で行っている部分があるのも事実です」とカインが答える。彼の言葉にはわずかに感情といったものが含まれていた。

 

 「そうか。俺は先にカフェテリアに行く」

 

 「了解しました。私は少し後で合流します」

 

 カインがそう言い、俺はシャワー室を出た。カフェテリアに向かう途中、自分の体の調子を確かめつつ、携帯食料をレオの分まで取り出す。

 

 するとレオとアベルが一緒にカフェテリアに出てきた。レオの額には汗がにじみ出ていた。

 

 「おはよう!」

 

 「おはよう、レオ。どうした?朝から何か作業か?」

 

 「あぁ、ちょっとトレーニング設備がちゃんと動くどうかの確認をな」

 

 すると、アベルが

 

 「レオが施設内の設備をチェックしてくれたおかげで、今日の計画が立てやすくなったな」

 

 「それじゃ、朝食を取ったら、始めるか」と提案した。

 

 朝食を取ったあとに、レオがシャワーを浴びにいった。

 

 「アベルはいいのか?」と聞くと

 

 「私はいい。別に浴びなくてもいいからな」

 

 (カインとは違うってことか)

 

 この二人についてはまだわからないことも多い。兄弟らしいが、性格はかなり異なる。

 

 「取り合えず、今日は体を動かすぞ。程よく走ってもらうからな」

 

 「了解した」

 

 

 

 

 「ふぅ…ふぅ…ふぅ」

 

 足にランニングマシンのベルトが接触するたびに、体の芯にリズムが伝わる。

 

 心臓が次第に早く鼓動し、額には汗が浮かんできた。前方のディスプレイには走行距離と速度が刻一刻と数字を変え、表示されている。

 

 朝食の活力が、今のランニングに生かされているのが感じられる。レオも横で黙々と走っているが、その表情には疲労の色は見えない。

 

 自分のペースで走る。体に徐々に熱が伝播していく。

 

 「よ~し、午前中はこんなものでいいだろ」とアベルが運動着のような服とホイッスルと首にかけたいつものと異なる服装で地面に突っ伏した俺たちに声をかける。

 

 レオが絶え絶えの息の合間に

 

 「いい汗かいたな…はぁ…はぁ」

 

 「ずいぶんと…サイバーウェアに頼ってたから…生身の鍛錬が…足りてなかったな」

 

 すると、アベルが

 

 「午後は、レオは溜まった蟻たちの搬送、ジャックは休息を取れ」

 

 「了解。午後も頑張るよ」とレオが笑顔で答えた。

 

 「俺も少し休んでおく」

 

 そうして、午後はレオと別れた。その間、俺は昨日得たファイルの中で価値のあるものはないかと読み漁っていた。

 

 (どれもこれも専門用語が多すぎて理解できない…アベルかカインに聞いてみるか?)

 

 そう思い、ベッドから立ち上がる。アベルがレオのサポートに回っているならカインに聞くのがいいと思い、連絡すると

 

 「いいですよ」と短く返ってきた。ファイル画面を共有し、中身が何を意味するのかを聞く。

 

 「オービットネットワーク構築初期の技術的な問題点についてですね。元々は第一人類が宇宙活動にあたり、大量の情報を発信、授受するために開発された技術を流用したものですが、コストがかかり過ぎるといった点がありました」

 

 「…待ってくれ、宇宙?」

 

 「あぁ、そういえば貴方たちの時代には、もうすでに空は閉じていたのですね」

 

 空、つまり宇宙とは、空もしくはその先の空間を意味しているのだろう。

 

 「空は、天使たちの領域だ。低高度なら目を付けられないが、高速で空を移動するものを見つければ、すぐにスクラップにする。あれらは手に負えない」

 

 ホードが脅威になる理由だ。制空権がないから空から攻撃ができない。攻撃ヘリといったものなら低空度で攻撃できるが、その程度の高さなら飛行型の変異種や対空攻撃を有した変異種の的になる。

 

 「あれらは第一人類の産物です。突破できるような技術をもっていたなら、第二人類より優れていたことになります」

 

 「…第二人類でもどうしようもなかったのか?」

 

 「空が未だにあれらの領域であることが何よりの証拠でしょう」

 

 未だ量りしれない、過去の旧人類たち。その痕跡を集めることが俺の目的の達成の一助になることを願うしかない。

 

 

 

 

 「ヨッシャ!蟻の死骸処理以外の外出だッ!」と横のレオがボロボロになった出口シャッターの前で叫ぶ。

 

 「あぁ、体は十分に休ませてもらった。足引っ張らない程度には動いて見せる」

 

 「ぶっちゃけた話、俺一人だけ外の金属を集めてもよかったんじゃないか?アベル?」とレオが通信機越しでしゃべる。

 

 『これは、A.R.Cの試験運用も兼ねているんだぞ。ちゃんと実戦で使えるかどうかを見とかなければならない』

 

 そう、アベルが返す。俺の左手には、杖、いやワンドといった方がしっくりくる赤い球体が先についたものが握られていた。

 

 時間にして数刻前、傷を癒し、鍛錬を続けていたとき、アベル、カインから顕現室前に案内された。

 

 入るときに気付かなかったが、何かしらの排出機構がついた装置があり、その液晶にはタイマーが付いていた。

 

 00:00:40と、点いていて、すぐに40から30、25と減っていった。

 

 「これは?」

 

 「A.R.C形成機だ。もうそろそろ完成する」とアベルが笑顔で答えた。

 

 するとタイマーが0を指し示し、煙が一気に立ち込める。すると、この機械は上部が開き、中身が露出する。

 

 その中には、ネームプレートがあり、その名が刻まれていた。

 

 Last hope match 最後に残ったマッチ

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