天上の人類ーThe celestial mankindー   作:ピエロギ

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マッチの火

 「ヤバいぞッ!このままじゃあいつら全滅だ!」

 

 「上から援護しろッ!俺が到着まで時間を稼いでくれッ!」

 

 『ッ!!そこから右!!窓から外へ飛び出してくださいッ!!』

 

 割れていないガラスに向かって走りながらバースト射撃。粉々になったガラス窓を越え、外に体を放り投げる。

 

 地面まで高さがあったが、前転で勢いを殺し殺戮場に急行する。

 

 ある建物の屋上からレオの放った光弾が線のように見える。その着弾地点に着くまでにA.R.Cを手に取る。

 

 「アンナ…力を貸してくれッ!!」

 

 意味がないことかもしれない。しかし、言わずにはいられなかった。

 

 

 

 現場を到着すれば、動いている人間はいなかった。地面に倒れているか、穴の奥に連れていかれたか、そのまま喰われたかだ。

 

 レオに気を取られていたが、新たな獲物が近くに現れたことを認識した蟻たちはこっちを見定めた。

 

 マッチの先を蟻に向ける。すると先端の宝珠が一閃の輝きと共に淡く光る。

 

 その瞬間に、蟻の頭部は炎に包まれた。そしてその蟻は力尽き、地面に伏す。周りの蟻たちも、脅威に気づいて集団で襲ってきた。

 

 俺は、周りの蟻をスカベンジャーが巻き込まれないように引き付け、蟻に次々とマッチを向けた。死骸になっても燃えだしたら最後、灰になるまで止まらない。

 

 マッチ先の紅い珠はその度、より光を纏い、明度が高くなっていく。

 

 蹂躙していた蟻がいなくなるまでに時間はかからなかった。銃だけでは、この屋外という場において制圧力が足りなかっただろう。

 

 『地下から高虚素反応ッ!!注意して下さい!!』

 

  「ッッッ!!」

 

 サポーターからの助言に従い、今立っていた地面から飛び去る。

 

 すぐに、そこから紫の牙が飛び出し、脚を掠めたが、間一髪奇襲を避けられた。

 

 出てきた頭部に向かってマッチを向ける。今までと同様に発火したが…

 

 新たな敵は直ぐに地面に潜り、火を消す。

 

 「小賢しいッ!!」

 

 『離れてください。次が来ますッ!!』

 

 また、地面から牙が生え、こちらを食い千切ろうと迫る。

 

 牙を蹴って、攻撃をいなすが…

 

 ボコッ!ボコッ!という音と共に新たな穴が出現し、別の蟻が出てきた。

 

 『同時に攻撃された場合、回避は不可能でしょう』

 

 「正確な予測ありがとうッ!!それで?何か突破口あるか?」

 

 すると

 

 『そのA.R.C本来の火力が出てないぞ。何かしらの条件がある!』と横からアベルが割り込んでくる。

 

 「条件?」

 

 同期化作業の時に見たアンナの記憶、そして手に持ったマッチを注意深く見る。

 

 先の珠が未だに淡く光っている。

 

 何かしらを吸収している。

 

 「炎を吸収しているのか…!?」

 

 半信半疑であったが、幼い二人の声は

 

 『それだッ!!』

 

 『可能性としては高いでしょう。所有者は凍死したことからも炎を拠り所にするのは合理的です』

 

 そのカインの言葉は、あの少女の記憶を見た俺の心が違うと否定する。炎は結局、少女を見捨てたのだから。

 

 しかし、今はそんなことを考えている暇ではない。

 

 目の前に迫った蟻を燃やしながら、地下からの攻撃を躱し、炎はより大きく、苛烈に。

 

 それでも足りないのなら、レオやここのスカベンジャーが倒した蟻の死体にさえ火を付ける。

 

 周りは火の海となった。あの少女が見た街のように。

 

 黄金の煤がマッチに集まり、光と熱がより一層強くなる。

 

 地下の変異種は、俺を喰おうと地下を掘り抜いて追ってきている。今まさに俺に食いつこうとした瞬間。

 

 垂直に跳躍し、地面に向かってマッチを向ける。手はマッチの高温で焼ける痛みが奔る。

 

 そんな時、周りの灰がアンナの幻影を作り出し現れた。

 

 俺の焼けた手を取り、マッチに触れる。

 

 ――その瞬間、一気に熱が発散した。

 

 光は二本の螺旋が纏った熱線となり、地面に放射された。

 

 あまりの熱と反動で体のバランスが崩れ、熱線が上へ飛び上がった。

 

 地面に落下する前に、体を捻り、背面から地面の衝撃を吸収。その後に目に入った景色は…

 

 熱線が直撃した紫の牙をもった蟻は言わずもがな、光線に当てられた地面とビルでさえ融解するほどに。

 

 「ハァッハァッ!ハァハァ!!」

 

 汗が全身から吹き出ていた。高温に熱せられた空気、地面が肌を焦がす。

 

 『よくやりました。このA.R.Cの特徴は…』

 

 「…とりあえず、腕を治療してもいいかッ?」

 

 言葉を遮り、熱を放出した時に火傷したであろう手を見る。

 

 しかし、想像よりも深刻ではなさそうだ。いや…

 

 (皮膚の表面が灰に覆われているだけで、火傷を負ってない?)

 

 地面さえ融解させるほどの熱量でダメージを負っていないのはおかしい。

 

 『最後まで言わせなさい、無礼者。どうやら、このA.R.C使用時は熱によるダメージを軽減されるようですね』

 

 「助けてもらったのか...」

 

 そう直感してしまう。あの時の灰が創り出した少女の姿は幻ではなかったのかもしれない。

 

 『おい!!終わったなら早く用事を済ませろッ』

 

 「あぁ、生存者を探さないとな。レオ、そっちは大丈夫だったか?」

 

 「アベルが狙撃のサポートしてくれたおかげで、大丈夫だったぜ」

 

 すると『ふふん!』と上機嫌な返答が帰ってきた。

 

 何はともあれ、目標の試験運用で分かったことがある。明らかに、アッシャーに分類されるA.R.Cの中でも破格の火力。

 

 扱い方を間違えれば、周りの味方にさえも巻き込むほどに。

 

 蟻たちの灰が吹きすさぶ中、スカベンジャーの中で息がある者を探す。

 

 しかし、そのほとんどが喰われており、死体さえまともに残っていない者もいる。

 

 「生体反応は?」

 

 『…まともな反応はないぞ』

 

 「そうか…」

 

 結局の所、俺たちの最優先目標は救助ではなく、試験運用である。だから落胆することなどしなくていい。

 

 こうした現実は今まで嫌と言うほどに見てきたのだから。

 

 『…ッ!!生体反応掴めました。ここから少し離れた所に微かな反応があります』

 

 「逃げているのか?」

 

 『いえ、ずっと同じ座標に居ます』

 

 「レオ、そっちから見えないか?」

 

 「丁度、建物の影になって確認できない」

 

 「そうか…」

 

 相手は生き残ったスカベンジャーではないかもしてない。

 

 十分な警戒をして、その反応のあった場所へ。

 

 瓦礫の山となったコンクリートブロックが立ち並ぶ中、赤が点々と物陰へ続いていた。

 

 慎重に近づき、銃口を突き付けながら相手を確認した行為は結局、無意味だった。

 

 つまり、相手はただの子供、10才も満たない。それに、気を失っている。

 

 「…生存者を発見。子供だ。腹部から出血している」

 

 『治療できそうですか』

 

 俺は少年に近づき、襤褸をめくって傷を見ると金属の破片が。

 

 出血することを考え、抜くことはできない。それに…

 

 「腹に金属片、逃げている最中に転ぶなり、落ちたなりして刺さったのだろう。加えて、体がかなり細い」

 

 『外科手術に耐えられなさそうな程に?』

 

 「無理だろう。例え蘇生薬があったとして体への負荷が大きすぎる」

 

 『分かりました。戻ってきて下さい』

 

 「あぁ…」

 

 後ろを振り向き、立ち去ろうとすると

 

 「…ォㇳゥ…サ…ン?」

 

 微かだが、確かに聞こえた。振り返れば、少年は灰色の瞳を開いていた。

 

 「悪いが…俺は…」

 

 「プㇻ…チナ…無…事?」

 

 今にも散ってしまいそうな命から紡がれた名を知っている。あの地下のおもちゃに書かれた子供の名だ。

 

 「ミンナ…オイテ…モドス…ケド…イキ…テタ…ォ…トゥ」

 

 涙ながらに少年は伝えてくれた。

 

 「もう喋るな…」

 

 俺は、自身の医薬品をしまったバッグに手を突っ込んだ。

 

 

 

 

 「お~い。遅かったな」

 

 遠くの方から、スナイパーとしての仕事を終えた相棒が手を振っている。

 

 『その手に抱えているのは何ですか?』

 

 カインの声だ。

 

 今、俺に抱えているのは…

 

 「あぁ、倒れていた少年だ。……今はもう…死んでいる」

 

 死体だった。

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