天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
「少し待って下さい」
スカベンジャーたちの火葬を終え、研究所(シェルター)に戻ってすぐにカインに呼び止められた。
「どうした?……不満に思っていたら謝る。あいつらの物資を泥棒して、弔いたいなんて馬鹿もいい所だと自分だって思っている」
自己矛盾。俺が行なった行為は偽善の風上にも置けない恥ずべき行為だと認識している。
カインはきっとそれを咎めるのだろうと。そう言われても仕方ないことだと自分が一番よく分かっていた。
しかし、目の前の少年は口を少し開けて「…??」と疑問に満ちた表情をした。
「何か勘違いをしていますね。私が貴方のみっともない所を非難したい気持ちがあるのは事実ですが…今回は別件です。確認することがあります」
「何をすればいい」
「血液を採取させて下さい。嫌とは言わせませんからね」
「死なない程度の採血なら」
カインに連れられ、研究室の一室に入った。そこで、一つのインジェクターを取り出すと躊躇わず一刺し。
「何か言ってから刺してくれ」
「痛かったですか?」
「いや、痛み自体は…「終わりです」
「…」
言葉を遮られ、抜かれた血は何かの装置に挿入される。
「これで、何が分かるんだ?」
「小さい研究所でしたが、遠心分離があって良かったです。後は解析に回せば、虚素を見れます」
「なぜ、今になって調べる?」
すると、翡翠色の瞳がこちらを向き一つ咳払いをして
「貴方の生体情報について、A.R.Cを使用した時に特異な変化が現れました。本来はA.R.Cを使用すれば虚素が体外に放出されます。しかし、貴方の体内では逆の反応が見られた」
「つまり…」
「予測が正しければ、貴方のA.R.Cは炎だけを吸収しているのではない。使用者に燃やした対象の虚素を与え、より長く、使用できるようになっているのでしょう」
「この検査で知りたいのは、俺の体内にある虚素が蟻由来が知るためか」
少年は小さく頷いた。
「これは、物量攻めで攻めてくる変異種にとって有効な武器となるでしょう」
…
…
…
黒の群れの先頭を走っていた蟻は、すでに灰に帰った。続々と群れが、俺を飲もうとなだれ込む。
燃やす、燃やす、燃やす。
黄色い線が入った、大型の蟻、ここに来た時に見た戦士タイプが雑兵では相手にならないと判断したのか群れで来る。
その刹那。熱線が群れを割る。開放された熱でデカイ戦士の死骸にも炎が移り、巨大な炎となる。どうやら、普通の蟻よりもよく燃えるようだ。
すぐに、宝珠に熱が溜まる。また太いレーザーが群れを襲い、その数を減らす。女王に向かっても放射するのだが…
(女王に纏わりつく蟻がバリアになっているせいで、殺せないッ!!)
よく見れば、クイーンの近くの高い建物から全体を見て触覚をせわしなく動かす、紫色の蟻がいる。指揮蟻か。
(クソッ!!ここで女王に逃げられるのが一番ヤバい。二度同じ手は通用しないだろう)
体は煤と灰に塗れ、慟哭しながら、蟻を燃やし続ける。
火力が足りないッ!!。もっと燃やせ!!、もっと!!、もっト!!、もッと!!、モット!!、モット!!、モット!!、モット!!
ヒガタリナイ!!
その時、懐から何かが落ちる。甲高い音、缶の倒れる音が足元から響く。
それは、不格好なおもちゃ。”ガイ”と書かれたそれは、熱せられた頭を冷却した。
「ハァ!!、アァアア!!」
(危うく持ってかれるところだったッ!!)
侵蝕される。そうなれば戦いどころではない。
(しかし、何故?過負荷までの余力はあったはずだ!?)
その疑問はすぐに解消される。違う。俺が深くこのA.R.Cと繋がったのだ。侵蝕と異なる。
黄金の炎が少女の姿を創り出す。しかし、その表情は悲痛そのものだった。
「泣いているのか…?あの少年と少女のために…?」
炎はより濃くなり、蒼に移り、水のように垂れる。
確かにそれは、火の中でしか存在しえない涙だった。
「…俺も同じ思いだ。だが、それは同情じゃない。そんな、憐れ者を蔑む感情じゃない。これは、もっとドス黒い感情…」
これを怒りと言うべきか、狂気と言うべきか。理不尽への反抗。
「これは、燃料だ。目の前のデカイ害虫を燃やすためのォ!!」
A.R.Cの形が変化する。
煌煌と輝くマッチの先端に、黒く焼けた鉄の枠が巻き付けられる。
柄は深く削られ、手に馴染むように。
先の宝珠は、赤々と燃えながらも、時折、蒼い閃光が奔る。
その光は、見るものに希望を与える。
ー深化ーIntensification 最後に残ったマッチ
…
…
…
焔の色が変わる。黄金色のそれは、蒼白に。たちまち、炎の付いた死骸たちは燃え去り、その炎は一か所に集中する。
自身の手に持った松明の先、その一点に。熱が、光が、感情が。
目の前の女王蟻は、今になって気付いたのか、手下に穴を掘らせて逃げようと背を向ける。だが、やつの醜く肥え太った腹部が納まるほど巨大な穴は直ぐには掘ることなどできない。
全速力で、距離を詰める。大量の蟻が襲ってきたが、炎で一気に燃やし、構うことなく突き進む。
あと一歩と言う所で、クイーンを守ろうと蟻たちの中でも体躯がもう一回り大きい指揮蟻が、崩れた建物の上から命を投げ打って攻撃を放つ。
炎に飲まれながら、地面からの振動を感知し、”下から生えた牙”を火焔で包み、炭化させ、落ちてきた蟻にはグラップリングフックを噛ませる。
足のサイバーウェア、全身の筋肉を使い、紫色の蟻を地面に叩きつける。
体を捻り、この力を利用する。入れ替わりで今度は俺が、空中へ羽ばたく。
———見えた。奴の背中。必死になって逃げようと足掻いている。
松明を天に掲げる。ここまで溜めたすべてを今、開放する。
この現象に名称を付けるとしたら、きっとそう呼ばれるだろう。
宝珠から解放された無数の蒼の炎は、流れ星のように、地面へ爆撃を。
未だ、黒く塗りつぶされた地面が一気に熱により赤くなり、空から降る蒼を引き立たせる。
直撃をした生物は言わずもがな、恐ろしい回復力を持つクイーンの3つある腹の1つが一気に溶け落ちた。
喧しい音と共に、更なる熱線を松明の先から吐き出し、女王に食らわせる。
その熱線は美しい蒼で、簡単に化け物の半身を消し炭にした。
…
…
…
機械音の鼓動のようなリズムが鼓膜を揺らす。
徐々に光に目が慣れ、周囲の光景が明らかになる。
最近に同じ目覚め方をした記憶がある。見慣れた部屋であった。
違うのあの時よりも体は楽であるということだ。と言っても全身に包帯が巻かれている。
『おや、起きましたね』
音声が入る。カインのものだ。
「作戦はどうなった?やり切れたのか?」
『まぁ、待って下さい。今、女王の素材を採っているのですから』
「…そいつが死体になっていることは、喜んでいいことだよな」
『数時間経っても、あの青い流星が落ちた所はアッチチだったんですよ』
「そこまでして、回収したいものはなんだ?」
『前、虚素純度の高い物質が必要と言いましたが、どうやらこの牙がそれに該当するようです』
「そんなうまいことがあるのか?何かしらの鉱物だと考えていたが」
『女王はずっと動かなかったので、生物だと思いませんでした。その件は私の落ち度です』
「…いや、責めてない。それで使えるのか?」
『必要量以上に入手できそうです。これなら貴方たちの装備を強化することが可能かと。武器としても使えるグラップリングフックとかに』
「…あぁ、アレ壊れたか」
最後の蟻を突破するためにかなり無理な使い方をした。壊れていたとしてもおかしくない。
「すまない」
『いいです。気にしていませんから』
若干刺があるような…いや気のせいか。
『今日はあまり動かないように。できる限り措置しましたが、火傷の跡が残るでしょうから』
「いまさら、傷の一つや二つ増えたとしても気にしない」
『変な傷が増えたら、シティの人間に怪しまれるのでは?」
「痛い所を付くな。大人しく治してから帰るよ」
『なら、いいです』
通信は切れ、空虚の時間が過ぎる。横になり、瞼を閉じる。
ジリジリと痛みがあるが、全身の怠さの方が強い。
意識を手放すのに時間はかからなかった。
Cp.2終わりまで毎日更新!!