天上の人類ーThe celestial mankindー 作:ピエロギ
「…存在しているだろうと予想していました」
「自分たちだけが特別だと思わないのは殊勝な心掛けだ」
声の色からして、こちらからの質問も答えてくれそうだ。
「どれくらいいるのですか?」
「…悪いが確実なことが言えない。生存を確認できないほど昔に契約者になった者や他の脅威によって亡き者にされた可能性もある。だから、次の答えで満足してくれるか?」
そう言うとゴホンと咳を付いてから続けた。
「各地のアダムという存在と出会い、契約者として協力を取り付けられた回数は君たちを含めて8回目、この中には、同期化作業中に死んだ者や探索で死んだ者も含んでいる」
「…アベルとカインとの会話の中で、食事についての知識がありませんでした。もし、支援者として二人を毎回付けているとしたら、他全員が食事を取らない人物となってしまいます」
矛盾点を指摘する。おかしいと思ったのはこれだけじゃない。
アダムの声色が軟化する。
「息子二人の話をよく聞いてくれているのだな…」
「答えをお聞かせ下さい。私も貴方を信頼したい」
「フム、こちらも情報を開示しよう。7回目の契約者によってオービットネットワークは広範囲をカバーするに至った。しかし、目的達成まで後少しという所で襲撃者が現れた」
「襲撃者?」
「所属不明、拠点不明の強力な集団だった。情報戦、地上戦ともに私は破れオービットネットワークは強制的に断絶、サルベージできたのは記憶を失ったアベルとカインだけだ」
「貴方が敗北?それに、そこまで強い存在なら都市で名前を聞かないはずがない…」
「そうだ。完全に足掛かりがないということが彼らの正体への手掛かりだ。つまり、私と同様に顕現室を作動させることができ、自軍を強化して、我々に害をなそうする存在。旧人類だ」
これからは、変異種だけではない。恐ろしい力を持った者達と殺し合いになる。
「その中に、アイツも…?」
「可能性は高いだろう。指揮を執っていたとしても不思議じゃない」
だが、その答えで十分だ。やってやる。相手が世界を支配していた旧人類だろうと。
「もう一つ、君に聞かせたことがある。バンカーに来た時だ。施設内へエレベーターで降りてきた時に、君のA.R.Cを検知した」
「体内に埋め込まれたA.R.Cですら感知できるセンサーがあるのですか?」
これには、驚きだ。A.R.Cは起動しなければ、ただの置物。外見が特徴的なら判断できるが、それ以外だと起動している状態を見るしかない。
「いや、起動状態でなければ流石に分からない。A.R.C自体は第一人類によって生み出された技術の結晶。まして、本当に第一人類が宿っているものは完全なブラックボックスだ」
「なら、どうして?」
「前に、君が器として壊れかかっていると言っただろう。漏れていたんだよ」
ハッとする。俺自身のせいでアレが引き起ったのだと。
「3階は通路が狭く、大型の兵器を置けるような場所ではありませんでした…あのバンカーは強力な装備を付けている侵入者がいるほど警備システムが強力になる…」
「察したか。君たちが率いた場所もそうだが、あの時は全体的に難易度が上がっていた。3階、5階にいた者は練度の高い人材がいたから切り抜けられたが、特に6階、奇襲を受けた方は危機に陥った」
「どうして?俺だけを狙わなかったのですか?」
罪の意識からアダムを責めてしまう。本当は私情でA.R.Cを隠し、皆を危機に晒した自分にこそ非があるのに。
「警備システム自体は、外に私、アダムという存在を隠蔽する為に自動化している。さっきの話で出た敵対者へ存在を知られるわけにはいかないからだ。一方、新たな契約者が必要なことに変わりなかった。裏切らない、敵を屠る力を持った人間を」
「それを調べる為に、ジャガーノートを?」
「君が6階に来てくれて良かったよ。本当の力を持った、志さえ同じ協力者に出会えて」
そうか…俺のせいでライ、エレノア、負傷した二人が。
「恨むかい。私のことを」
「…いえ、そちらの事情も知った上、私が隠し事が発端で起きたことです」
「そう自分を責めるな。少なくとも、悪いことばかりではない。私を出会い、君の目的を果たせる道が鮮明になった。違うか?」
「…そのことについては感謝しています」
「なら、良い。それに、私が体を再生した時に、その割れた部分は修復しておいた。同じような施設に行く場合に検知はされないだろう」
ずいぶんと長い間、アダムと話した。アダムの目的、他の契約者、襲撃者の存在、そして俺の中にあるA.R.C。
「少し…疲れました」
「いきなりこのような情報を与えられて困惑するのも無理はない。それに、時間だ」
すると、意識が加速する。最後に
「君を選んで正解だった。感謝するぞ、ジャック」
そう言われた気がした。
◆
『忘れ物はないでしょうか?』
「すでに何度も確認した。大丈夫だ」
『それじゃ、行ってこい。今からこの施設は閉める。必要最低限の電力で動けるようにしてステルス状態に移行するから、よっぽど接近されなければ分からない』
「多分、シティの人間に怪しまれているだろからな…」
レオの言うように、目の前に広がる景色は草木に侵蝕された廃墟群から、クレーターがいくつもある焦土へと変化していた。
「…早めに去ろう。レーダーで高エネルギーの反応を察知されているはずだ。調査隊も送られているだろう」
『既存のデータから、遠回りになりますがシティまでの道程をナビゲートします。調査隊との接触もないような道を案内します』
「了解」
俺たちは、戦い、煤に塗れたこの地から去る。きっとこれからはさらに過酷なものになるだろう。
バイクを加速させ、廃墟の間を駆ける。廃墟群を抜け直線な道に入ると、右手を捻り、アクセルを回す。エンジンが咆哮し、振動と共に心地の良い風を感じながら、荒野へと突き進む。