目覚めているはその魂   作:いろはす小野寺

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少し前にドスケベなリューさんがアズレンに実装されたので初投稿です
あとなげぇ(


7 理由(リリルカ・アーデ)

ひょんなことから布団にくるまって嗚咽を漏らすベルを尻目に、ヘスティアも起床した

布団にくるまっているベルを見て「???」と疑問符を浮かべた彼女に対しショウイチは「そっとしといてあげよう」と小さい声で言う

とりあえず朝ごはんでも作っていればそのうち落ち着くだろうと簡単なサンドイッチを作りヘスティアが食器などを用意する

やがて落ち着いたのか普段より気落ちした様子のベルが布団をたたんで起き上がってきた

 

「そういえばベルくん、あの本を見せておくれよ。今日はお昼まで暇なんだ」

「? いいですよ」

 

朝食後

食後のひと息の最中、ヘスティアがベルに向かってそんなことを言った

彼女の言葉にベルは快諾し先日ショウイチからもらった本をヘスティアに手渡す

 

「ふーん、見れば見るほど変わった本…───んん?」

 

表紙を見て眉をひそめた彼女は改めて中身を見ると「うあっ」と変な声も発した

 

「…神さま?」

「べ、ベルくん、この本誰から借りたんだい…?」

「え、しょ、ショウさん、ですけど…?」

 

ベルから彼の名前が出るとぱたんっ本を閉じて一直線に台所で食器を洗っているショウイチの元へ駆け出した

何事か、と思いながらベルもヘスティアの後を追う

 

「しょ、ショウくんっ、この本どこでもらったんだいっ?」

「それ? 知り合いに貰ったんだよ。いらないから読んでみればッて言われてね」

「い、いらないから!? 魔導書(グリモア)をかいっ!?」

「…ぐ、ぐりもあ?」

 

ヘスティアの口から聞き慣れない言葉が出てきた

ベルは首を傾げながら言葉に出したその単語を口にする

 

「簡単に言えば、魔法の()()()()()。〝発展アビリティ〟の〝魔道〟と〝神秘〟とかいう二つの希少スキルを極めた人たちにしか作れない著述書をいらないなんていうやついるのかい!? こいつってばヘファイストスのところの一級装備に匹敵する値段がするんだぞ!?」

 

冒険者であるベルはその言葉を聞いてひゅっと一瞬変な声が出る

発展アビリティを二種類持っている、ということは少なくともこの魔導書とやらを作成できるのはレベル3以上の冒険者に限られる

その辺の冒険者より遥に格上の冒険者の執筆作品なのだ

オマケにウン千万だというのだから正直もう気が気でない

 

「大丈夫だよ。請求とかは来ないから」

「ほ、ホントに大丈夫なんですかショウさんっ!?」

「大丈夫だって。もう心配性だなぁー」

 

嘘は言っていない

流石に彼女も神ではあるし請求なんて後からしてこないだろうし

もやもやしたような二人を尻目にショウイチは特に気にせず食器洗いに専念するのだった

 

 

積極的にダンジョンに行くわけではないが、それでも一応ポーションは備蓄しておいた方がいいとは思う

そんなわけなのでヘスティアファミリアとおんなじくらい貧乏なファミリアであるミアハファミリア運営のお店にショウイチは足を運んでいた

 

「ごめんくださーい」

 

そんな声を発しながらショウイチはお店の扉を開けて中に足を踏み入れる

するとカウンターの方で何やら作業していた女性が身体を起こしてショウイチの方へと視線を向けてきた

 

「おや。久しい顔だね。ショウイチ」

 

ナァーザと呼ばれる獣人の、ミアハファミリアの唯一の眷属だ

 

「や。ポーション買いに来たよ」

 

ミアハファミリアも色々な事情で家計が火の車の状態であり先も言ったがだいぶ貧乏なのである

ショウイチ自身は新作のポーションとかにはあんまり興味もないので備蓄用に何本か買っていくだけではあるが

 

「ちょっと前にベルも来てさ。あの子には断られたんだけど、あんたもどう? こっちのハイポーション、使ってみない?」

「使う予定ないからいらないよ。ベルにもまだ早いと思うしね」

 

適当に言葉を返しながらポーションを五本ほど手に取るとそれをカウンターに持っていく

それらを見たナァーザははぁ、とあからさまなため息を吐いて

 

「釣れないなぁ、私と君の仲じゃんか」

「今のところ店員と客の間柄の関係しか築けてないと思うけど…」

 

ミアハとはたまに会ったりするしタイミングが合えば料理も振舞ったりするがそれでも基本的には顔見知りくらいの仲だ

 

「はい。代金二千五百ヴァリス丁度ね」

「まいどありー、今後ともごひいきにー」

 

全く持って感情のない言葉にショウイチは相槌をうちながらそのお店を後にする

店を出て少し歩いてから購入した一本のポーションを取り出してそれを開けて軽く口に含み、それらを軽く味わいながら嚥下させた

 

「…顧客が少ないとはいえ、まだぼったくってるのか」

 

味や甘味を確認すると、ショウイチはちらりとさっきの店に視線を見やる

ベルが定期的にポーションを購入しにあそこの店に通い詰め始めた時、備蓄もしておこうとショウイチも何本かポーションを購入し始めた

しかしあそこの最低価格のポーションは五百ヴァリスだが、正直こいつはその値段に見合ってない

なぜか、それはこの購入したポーションは薄められているからだ

独特の甘味も調味料かなんかで誤魔化している有様だ

そのうちバレるときが来るだろうな、とは思いながらショウイチはそれを指摘する気はない

 

そこまでしてあげる義理はないのだから

 

 

とりあえず買い物を終えたショウイチはヘスティア・ファミリアに足りなくなってきた食料を買い足すために街に出た

基本的にヘスティアが貰ってきた余りもののじゃが丸くんが多いため必然的に野菜多めな感じはする

今日は何を買っていこうか…としたとき、言い争ってる声が聞こえた

ちらりと目線を向けてみると、そこにはベルのパートナーをしてる例の女の子の姿が見える

もう三人は…どっかのファミリアの構成員か?

ここで見てしまったのも何かの縁、とりあえず助けてあげよう

 

「穏やかじゃないですね。何してるんです、嫌がる女の子から無理やり何かを取ろうだなんて」

「ああ!? テメェにゃ関係ねぇだろ、引っ込んでろ!」

「そうはいかない。一応冒険者の端くれなんでね。アンタみたいなのがいると冒険者全体の民度ってもんが下がってしまうから。とりあえず大人しく今日は帰ってよ」

 

無理やり間に入って、少女の壁になってやる

揉めてた男は眉間にわかりやすい青筋を浮かべながら、躊躇なく剣の柄へと手をやろうとし───

 

「ねぇ」

 

低いショウイチの声がその動きを止めた

 

「街中でそんなの抜くってんなら手加減できなくなるよ。…いいの?」

 

僅かに殺気を込めて男を睨んだ

睨むこと数十秒、ちらほらとまばらに人の目ができ始めていた

やがて最初に剣に手をつけようとしていた男は苛立ちながら「ちっ」と舌打ちをして横の二人に目配せすると潔く去っていった

 

「大丈夫?」

「え、えぇ…すみません…」

 

とりあえず後ろにいたベルのパートナーに目をやった

見えるところに傷とかはなさそうだ

 

「まぁ、深くは聞かないよ。これからもベルをよろしくね」

「! もしかして貴方様は、ベル様の…」

「うん。一応先輩かな。ダンジョンにはそんなにいかないけどね」

 

はっはっは、と笑いながらベルのパートナーを見る

冷静に考えればこの子の名前知らないな…言いたくないならそれでいいのだけれど

こっちも名乗ってないし

 

「リリ! ショウさんっ!」

 

不意に聞こえてきた耳に慣れた声

そちらを向くとベルがこっちに向かって駆け足で近づいていた

 

「やぁベル。これからダンジョン?」

「は、はいっ。合流しようとしたら、なんかリリが絡まれてるのを見て止めようとしたんですけど、僕もまた絡まれちゃって…ショウさんがリリを助けてくれたんですか?」

「一応、そういうことになるかな、怪我もなくてよかったよ」

 

そうショウイチが言うとベルは安堵のため息を漏らす

 

「なるべく人通りの多いとこで待ち合わせなよ、今日みたいに僕がいるとは限らないんだから」

「は、はいっ!」

「その、助けていただきありがとうございます」

 

二人のそんな言葉を耳にしながらショウイチはその場を離れることにした

とりあえずベルのパートナー…リリ、といったか

十中八九訳アリなのは間違いない

とはいえ自分もさっき言ったように必ずしもベルの近くにいれるわけじゃあないしと思った時、一人の男性の姿が思い浮かんだ

…あの人にちょっとお願いしておこうかな

 

 

「とまぁそんなわけで、ちょっとの間ベルを見守っててほしいんですよコウタロウさん」

「いきなり呼んで何を言ってくるかと思えば」

 

豊穣の女主人にて

今回ショウイチは客としてお店に入り、テーブル席にてご飯をつついている

対面の席にいるのはコウタロウ・ニシジマだ

彼はアーニャが持ってきた飲み物を受け取りつつぐいーっと気持ちいくらいの飲みっぷりを披露しつつ、コップをテーブルに置くと

 

「なんで俺なんだ。自分で行くって発想は」

「もちろんあるよ。だけど必ず行けるってわけじゃないし…僕に比べてコウタロウさんならフリーの時間多いかなって…」

「一応俺もやることはあるんだが? …まぁいい、その子のことは俺も気にはなってるからな。気にはかけてやる」

「ありがとうコウタロウさん、お詫びに今度美味しいもん作るからさ」

「言ったな、期待させてもらうぜ?」

「任しといてよ。あ、シルさーん、注文いいですかー?」

 

たまたま近くを通りかかったシルに注文を頼む

やがて飲み物を飲み干したコウタロウもおかわりをついでにシルに頼むと

 

「それで。そのベルのパートナーはどんな奴なんだ」

「ん? そうだね…たしかでっかいリュックを背負ってたパルゥムで・・・リリ、って呼ばれてたかな」

「───リリ?」

「? 聞き覚えがあるの?」

「まぁな。別人かもしれないが…。仮に俺の知ってるやつだとしたら、また面倒な目に合ってるぜ、その子」

 

コウタロウにもそう言われてしまった

ある種トラブルメーカーでもあるのかもしれない

平穏に終わるのだろうかと思いながらその日の夜は過ぎていく───

 

 

ある日の夜の出来事だ

ダンジョンから帰ってきたベルはついに今まで一緒にダンジョンを潜っていたサポーターの存在をヘスティアに相談した

絡まれていたことも含めて包み隠さずだ

ヘスティアは神であるから嘘は通じないし、きっとそれは英断だろう

話を一通り聞いてヘスティアは、真剣な面持ちで呟く

 

「ベルくん。本当にそのサポーターくんは、信用にたり得る人物なのかい?」

「えっ?」

 

ゆっくりと問い返したヘスティアに、ベルは何かを言おうとするが、じっと見つめる双眸にベルは黙ったままだった

ここら辺は腐っても神、ということなのだろう

 

「ショウくんはどう思う? 今のベルくんの話を聞いて」

「───そうだね。ベルには悪いけど、どうにも少し…〝きな臭い〟感じがする」

 

まっすぐベルを見つめて、ショウは言葉をつづけた

 

「君がナイフを無くしたときも、その日共にしてたその女の子に理由があると思えてしまう。もちろん君を責めてるわけじゃない。…でも、どうしてもそう考えちゃう」

 

色々自分の身に起こった出来事をベルは自分の中で考えているのだろう

言葉がでないベルに向かって、ヘスティアが言葉を発した

 

「ごめんね、こんなことを言って。だけど僕はその子をしらないから、どうあっても客観的な物言いになる。直接見た君の意見の方が正しいのかもしれない。だけど、君が心配だから、あえて嫌な奴をやるよ。───絡まれるような後ろめたい何かを、そのサポーターくんは持っているんじゃあないのかな」

 

見透かすようにヘスティアはベルに向かって問いかけた

ベル自身も何か心当たりがあったのか、一瞬考えるように顔を下に向けて思考する

やがてベルはまっすぐにヘスティアとショウイチの顔を見て、己の考えを言ってのけた

 

「───僕は、僕はそれでも…あの子が今困ってるのなら、助けてあげたいです。神さまやショウさんが、僕を助けてくれたみたいに」

 

まっすぐに、そう彼はベル・クラネルは言ってのけた

そんな言葉に、ショウイチは小さく笑みを返すのだった

 

 

遠目からショウイチに頼まれていたベルという冒険者を見守っている人影が一つ

それはコウタロウ・ニシジマというゴルゴム・ファミリアの冒険者だ

 

「…なるほどな」

 

現在彼が引き連れているサポーターはやはりリリルカ・アーデで間違いなさそうだ

今彼はそのリリルカに勧められバゼラードを受け取って、本来の得物をどこに仕舞うか、考えているようだった

最終的にはレッグホルスターにナイフをしまうとベルはリリルカと一緒に歩き出していく

そんな彼の背中を遠目に見守りながらコウタロウは遠い距離を保ちながらこっそりと後をつけていくのだった

 

 

食材の買い足しショウイチは出かけていたのだった

今日の献立はどうしようか、とか明日は何を作ろうか、とかロキ・ファミリアへの遠征のお弁当はどんなのがいいか、などとひっきりなしに頭の中でぐるぐると考えながら歩く時間は割と楽しい

〝待ってる時間が楽しい〟とはよく言ったものだ

 

ふとのんびり歩いている時に、気になった姿が目に入ってきた

確か少し前にベルの相方のサポーターに詰め寄ってた底辺の冒険者だ

そして横には三名ほどの別の冒険者…防具のエンブレムを見るに、〝ソーマ・ファミリア〟の冒険者みたいだ

 

そして僅かに聞こえる会話の内容

 

───手筈通りに───

───しくじるなよ…───

───アーデの方は…───

 

などなど聞こえる不穏な会話の内容に顔をしかめる

 

(…せっかくコウタロウさんにお願いしたのに、意味がなくなっちゃうなぁ)

 

ふぅ、と一つ深呼吸をしてから気配を消しつつ連中を尾行することにする

まだ何も買ってなくてよかった、何かを買ってたらまた〝豊穣の女主人〟に預けないといけないところだった

 

 

リリの提案に乗って、ベル・クラネルはダンジョンの十階層にやってきていた

経験を積んだベルは、これまでの道中でのモンスターとの戦いは比較的楽に攻略が出来ていた

リリから受け取った両刃のショートソード…バゼラードも案外しっくり来ている

何より違うのはやはりナイフとは違うリーチだ

安全圏、とまでは言い過ぎかもしれないが、それでもナイフとは比べ物にならない

その分威力はナイフに劣るが、十分すぎる

 

「ブモォォォォ…」

 

不意に霧と一緒にモンスターの咆哮が聞こえる

今いるこの十階層はランドフォーム…迷宮の武器庫は生きてるダンジョンがモンスターに天然の武器を提供する厄介なものだ

十階層で初めて発現するこの現象はダンジョンをまた一癖も二癖も面倒なものになる

目の前に現れたオークはその辺に生えている木を引っこ抜くと即席のこん棒へとし、装備する

その姿に、かつてのトラウマ(ミノタウロス)がちらつく

 

「逃げてはいけませんよ、ベル様」

 

リリがベルに言ってくる

そう、これは避けては通れない道

これが乗り越えられないようじゃあ、ミノタウロスなんて夢のまた夢、あの人の隣になんてもっと夢だ

だから…ビビってなんかいられないんだ

 

 

「ほぉ。なかなかいい動きだな…」

 

ベルとオークとの戦いを遠目で眺めていたコウタロウはベルの戦いぶりに感心していた

動きもよくなり、判断力も向上している

かつて闇雲にダンジョンで暴れていたあの時よりも洗練されていると言っていい

身のこなし、得物を扱う技量、重ねて言うが判断力

色々経験してきたのだろう、けど本来使っているのはナイフと聞いたが、今回はバゼラードを使っているのが少し気になった

まぁ今のパートナーであるリリに渡されたから、というのも大きな理由だろうが…こういうダンジョンでは慣れた武器を用いる方が結果的に生存率が上がることもある

 

結局のところ、自分を生かすのは経験なのだ

やがてベルの一撃がオークの脇腹を斬り裂き、オークが叫び声をあげながらゆっくりと倒れ伏す

直後もう一匹別の方から襲い来るが、ベルは冷静に右手を突き出すと、叫びと共に炎の弾丸が別のオークを襲う

問題なく撃破できたようだ

 

「あれが速攻魔法とやらか。…魔法使い涙目だ」

 

詠唱がいらないというだけで破格なのに

と、思っていたら近くのいたベルのパートナーであるリリの姿が見当たらない

そろそろ行動を起こす頃合いだろうか、と判断したコウタロウは足を動かしてベルの方へと近づいていく───

 

 

いなくなったリリを探すそうとベルは周囲を見渡していた時、不意に異臭が鼻腔を襲う

散策するとその異臭の原因はモンスターを呼び寄せるための血肉だと判明する

アイテムショップで売っていたのをショウイチと一緒に見たことがある、狩りの効率を上げるためのトラップアイテムだ

 

───ということは

 

地響きが耳を襲う、一体だけじゃない、四匹ものオークがこっちに向かって歩いてくる

一体ならともかく、四匹同時なんて流石に無理だ、敵いっこない

だけどいないリリをここに置いてくわけにもいかない

どこにいるんだ

そんな時、風を切るような音と共に、何かが飛んできた

それはベルのレッグホルスターの留め具を貫き、ホルスターが宙に投げ出された

そしてそのホルスターに一本の矢が突き刺さり、それがふわりとどこかに飛んでいき───リリの手元に収まった

 

「リリ!?」

 

ようやく見つかった、と安堵の声色と状況が分かっていない困惑の声色が入り混じった叫びがベルの口から漏れ出した

それに対してリリはにっこりとベルに向かって笑みを浮かべて

 

「ごめんなさいベル様、もうここまでです」

「な、何言ってるの!?」

「…ベル様はもう少し疑うっていうことを覚えた方がいいと思います」

 

どこか寂しそうに笑みを浮かべたまま、リリはそのまま踵を返す

そのまま大きいバックパックを背負いなおすと、最後の助言を残すかのように

 

「隙を見て逃げてくださいね」

 

そのままリリは小走りで行ってしまった

「リリ!? リリィ!」

 

思わず手を伸ばそうとするが、周りのオークがそれを許してくれない

鬱陶しいのでとりあえず周囲の敵の殲滅からしようとしたその矢先

 

「───ふんっ!」

 

不意に現れた黒い誰かがオークを一体蹴り飛ばしてくれた

 

「…え?」

「やっぱりアイツか。おい、怪我はないか? ベル・クラネル」

「は、はいっ…あれ、なんで僕の名前を…」

「ショウイチに頼まれたからだ。俺はコウタロウ」

 

コウタロウとしては一度ダンジョンで遭遇したことはある

だがその時はベルは息も絶え絶えだったのであんまり覚えてはいないみたいだ

 

「とりあえずここを切り抜けるぞ、お前のナイフはそれから───」

「───いいえ、切り抜けたら、リリを追いますっ」

「…なんだと?」

 

想像してなかったわけじゃないが、やはり面と向かって言われると戸惑いが勝つ

コウタロウはベルへと視線を向けて、言葉を投げかける

 

「アイツはお前を騙していた、ずっとお前のナイフを狙っていたんだよ。金目になりそうだったからな。悪く言えば盗人さ」

「───それでも、です。寂しかった時、神様やショウさんが僕を助けてくれたみたいに、今度は僕があの子を助けたいんです、ずっと寂しそうな顔してたあの子を! 間違ってたならそれでもいい、でも、もし間違いじゃなかったら…!」

 

そうまっすぐな瞳で言ってくるベルに、コウタロウは少し面食らった

まさか今どきこんな馬鹿正直に素直な奴なんて見たことがなかったからだ

どこまでも純粋で、まっすぐで…優しいやつ

コウタロウは小さく笑みを浮かべながらベルの頭を軽くたたき

 

「甘いやつだ。───だが、嫌いじゃない甘さだ」

「…え、え?」

「だったらこんなところで時間は食えないな。ベル、お前口は堅い方か」

「え? は、はいっ」

 

不意によくわからない言葉を投げかけられ、ベルはそう答えた

少なくとも安易に言いふらすような性格ではないと自分では思っている

 

「そうか。ならば信じよう、ショウイチの所の奴だしな」

 

そう言った彼の腰に、おもむろにベルトのような装飾が浮かび上がる

中央が水晶のようでいて真っ黒く、妙に機械的な、ナニカ

 

「他言無用だ、アイツ以外に言ってくれるなよ」

 

そう言って彼はまず自分の顔の横に両手を持っていき、拳を握りしめる

ぎぎぎ、と力強く握りった拳の右手を腰に、左手をそのまま開き、右斜め前へ

 

「変…!」

 

そのまま左手をゆっくり半円を描くように左側に動かしつつ、拳の右手をベルトの上部に添えるように動かしていく

 

「身っ!!!」

 

その言葉と共に、両手を再度右斜めにへと突き出した

刹那、ベルトの中央が輝き、紅い光が宿る

周囲の部品が紅い光を宿す石を守るように、動く

コウタロウが、変わる

 

一瞬のあと、そこにいたのはアギトのような、しかしアギトではない真っ黒い生命体───

 

別の場所では、ブラックサンとも呼ばれる存在が、降誕した

複眼が赤く発光したと思うと、その複眼が黒くなる

 

「こ、コウタロウ…さん?」

「行くぞ、ひとまずここを突破する」

 

そう言ってオークを裏拳一撃で消し飛ばしながら先を進む

色々起きて頭がぐるぐるでよくわからない

だけど中身まで変化していないところを見ると、そういうスキルなのだろうか? ベルはそう納得してブラックサンのあとを追いかけた

 

◇◇◇

 

気づいたらそこにいた

生まれた時から、そこにいた

 

両親はダンジョンであっけなく死んで、そこからはただ生きるためにもがいた

いたぶられ、なじられて

逃げても、隠れても、見つけ出され、居場所を奪われる

 

リリルカ・アーデは冒険者が嫌いだ

 

リリルカ・アーデは、冒険者が、嫌いだ

 

 

ソーマ・ファミリアのカヌゥは首尾よくリリルカ・アーデから金目のモノのほとんどを奪い取ることができた

取引を持ち掛けてきた冒険者の一人も適当に謀殺し取り分も無事こちらのものとなった

これがあればあの〝酒〟を飲めるかもしれない

謀殺につかったモンスターたちの相手は少し面倒だったが、それもリリルカに押し付けて事なきを得た

あとは帰るだけだ…と思ったその時目の前から一人の男が歩いてくるのが見えた

たまにギルドの受付で見たことがある…ショウイチ、とかいう奴だ

 

「もう一人いたと思ったんだけど…まあいいか」

「なんだよ兄ちゃん、何か用か?」

「いえ別に。一応聞きますけど、あのちっこい子を見ませんでした?」

「ちっこい子ぉ…? あの役立たずのサポーターのことか? アイツは俺たちのために囮を買って出てくれたんだよ、今頃死んでるかもしれねぇけどな」

「そう。…───あんた達みたいのがいるから、品位が下がるんですよホント」

「あぁ? テメェ今なんつった───」

 

掴みかかろうとしたとき、振るわれた裏拳がカヌゥのこめかみに突き刺さった

ダンジョンの壁にぶつかり、そのまま気を失うカヌゥ

 

「か、カヌゥ!!」

「てめえ何しやがる!」

「流石にあの子の持ち物は持ってかない方がいいかな…」

 

激昂している二人の冒険者を無視し、カヌゥの荷物をあさるショウイチ

恐らくリリルカはきっとベルのいい仲間になってくれる

推測でしかないがもしそうなってくれた場合ソーマ・ファミリアかぶっちゃけ枷だ

だからいっそ死んでるかもしれないと思わせられればいいのだけれども

 

「無視してんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ!」

「やってみなよ、アル中風情が」

「んだとこの野郎!!」

 

その後

冒険者二人の悲鳴がダンジョンにこだました

 

◇◇◇

 

くやしい

 

それがリリルカの胸中に出てきた最初の言葉だった

同じファミリアの同僚に物資は全部奪われて、そして最後は囮として放られて

あんまりだ

だけど、これがベルを騙した報いだというのなら、少しは気がまぎれた

周りにはファミリアの同僚たちが集めてきたキラーアントがわらわらと蠢いている

 

「…かみさまぁ…なんでリリをこんなにしたんですか…」

 

不意の呟きもキラーアントの足音にかき消される

誰かに名前を呼ばれたかった

誰かに必要とされたかった

誰かに頼ってもらいたかった

リリルカは、リリルカではない誰かになりたかったのだろう

発現した魔法も、きっとその胸中が形になったのかもしれない

 

これまで何度死のうと思ったことか

そうすればもっとましな自分になれるのではないかと何度考えたことか

けど結局は弱虫だった自分はその一線を越えることはできなかった

 

モンスターたちは近づいてくる

・・・そうだ、これからその一線を越えてしまう…思考したって無駄なのだ

視界の中にいるキラーアントが近づいてくる

最期がまもなくやってくる

 

「…寂しかったな」

 

ふとこぼれた言葉に、リリルカは驚いた

こんな最後の最後にこぼれた自分の胸の内

───そうか、自分は寂しかったんだ

慣れたと思っていたが、そんなことはなかったのだ

 

「そうなんだ…リリは───誰かと一緒にいたかったんだ」

「キシュアァァァッ!」

 

自嘲気味に笑い、迫る最期を受け入れようとしたそのときだった

 

 

 

「ファイアボルトォォォォッ!!」

 

 

 

声と共に、炎が荒れる

見覚えある赤い緋色がモンスターを焼き尽くしていく

 

「リリっ!!」

 

どうやら彼は別の人と一緒にいるようで、瞬く間にモンスターを蹴散らしてリリルカの所にやってくる

 

「どうやら五体満足のようだな」

「!!!!?」

 

ベルの隣にいた黒一色のモンスターみたいな人はそう言葉を発した

そしてそれを見て固まったリリに向かってベルは慌てながら説明する

 

「あ、あ! その、この人はモンスターじゃないんだ! その、なんていえばいいかな…」

「説明は後にしろ。リリルカ・アーデ、そいつにナイフを返してやれ」

「は、はいっ」

 

黒い人───ブラックサンに言われリリルカはずっと締まっていたナイフをベルの方へ差し出す

ベルはそれを受け取り、慣れた手つきで身構える

 

「待ってて」

 

笑顔と共に、リリルカにそう言った

 

 

あの後思いのほか決着はすぐだった

ベルの強さもあるが、黒い人もかなり強く、ほとんどを素手の一撃だけで粉砕していったからだ

討ち漏らしたベルの敵を、黒い人がサポートするように蹴散らしていく

そんなことが数回続き、あっという間に敵は全滅した

得物を鞘に戻し、安堵したような表情を浮かべて、ベルはリリルカの前に歩いていく

 

「ベル様、どうやってここに…」

「あの後いっぱいモンスターが集まってきたけど、この人が助けてくれてさ」

「直後、他の冒険者が来たのか知らんが、モンスターの数も減ってきたからな。だからすぐ追えた」

 

補足するように黒い人が呟いた

ベルは「立てる?」とリリルカに手を伸ばし、思わずリリルカはその手を掴んで立ち上がる

 

「…どうして、ですか」

「え?」

「どうしてリリを助けたんですか」

 

紡ぎだす言葉がほかにあったはずなのに、漏れた言葉はそんな言葉だった

 

「どうしてリリを助けたんですか。どうして見捨てようとしないんですか…?」

「え、えっと…」

「まさかご自分が騙されていたことに気づいてないんですか!? リリがベル様を驚かしてやろうとナイフを持ってったなんてこと考えてるんですか!」

「り、リリ、落ち着いて───」

「リリは…! リリは悪い奴です、盗人なんです! サポーターの風上にも置けないような、最低のパルゥムです! …それでも、それでもリリをベル様は助けるんですか!?」

「う、うん」

「なんでっ!」

 

言葉を荒げ、息を切らしながらリリルカはベルを見つめる

彼の言葉に何を期待してるのかわからないまま、肩で息をしながらリリルカはベルの顔を見つめた

その横で、黒い人もまた、ベルの言葉を待っているようにも見える

 

「お、女の子、だから?」

 

かぁ、とリリルカの顔が赤くなった

ついでに黒い人は思わず吹き出し笑ってしまった

 

「お、女の子ならだれでも助けるんですかっ! だとしたらさいていですっ! 女の敵っ!」

「───じゃあ、リリだから、だよ」

 

不意にぽん、とベルの手がリリルカの頭の上に置かれた

思わず目が見開かれる

 

「僕は、リリだから助けたかった。いなくなってほしくなかったんだ。理由なんてないよ、リリを助けることに」

「───うぇ、あ」

 

ついに限界だった

今まで聞いたこともない優しい言葉にリリルカの涙腺は限界だった

両目からボロボロと涙を流し、衝動と感情のままにベルに抱き着く

 

「困ってることがあったら相談してよ、僕はバカだから、言ってくれないと分かんないんだ」

「ぅぅう、ぐすっ…ぇぇぇぇぇぇんっ!」

「ちゃんと助けるから。ね」

 

知ってた

知っていてんだ、彼が自分を思って駆け付けてくれたこと

黒い人が手伝ってくれたからか、鎧の傷は少ない

それでも、傷がないわけじゃない

 

「ごめんなさい・・・っ! ごめんなさいっ…!!」

「うん…」

 

泣き声はずっと続く

薄暗い闇の中に、少し前にベルが放った炎の魔法は、モンスターの残骸をまだ燃やしてる

ベルはリリが落ち着くまで、ずっと彼女の法要を受け入れていたのだった

 

◇◇◇

 

そんな彼らを少し遠目から覗く人影

こっそりついてきてしまったショウイチである

 

「よかった。僕の出る幕はなさそうだね」

 

えんえんと泣き叫ぶ彼女の声をBGMに、ショウイチは踵を返し帰っていく

そんな彼がいた方向を、ブラックサンはちらりと視線だけ移し、見送った

その変身を解きながら

 

「…結局来てるじゃないか」

 

小さく笑みながら、コウタロウは改めてベルとリリルカを見守るのだった

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