鬼入りが決まり。無惨の血を飲まされた梅は兄が目を覚ますのを見届けてから寝込んだ。
飲んでからというもの。地獄にいた頃を思い出してかなわない。気持ち悪くて何度も吐いていた。
兄はそんな妹を見かねて人間を殺しに行こうとしたが、梅は許さなかった。
「い、妹がこんなーに苦しんでるのに。お兄ちゃんってば、離れるの??正気??」
等々。
他にも離れかける度に罵詈雑言を被せた気がする。記憶が曖昧で思い出せないが持ち前の汚い言葉は使えるだけ使った気がした。今でも脳裏に兄のショック顔が思い浮かぶ…。
「うっ」
「!梅おきたか」
そうして、ようやく梅が目覚めたとき、兄は鬼ではあるものの痩せ干そっていた。時々思い返していた健康な(?)姿ではないので、結論ご飯ちゃんと食べてないのっ!?とそれはそれは大きな声で梅は他人事のように叫んでしまったのだ。数ヶ月にわたる梅の世話と空腹感で兄の堪忍袋の尾が切れたのは言うまでもないだろう。ひと悶着は起こったのだが、数日には仲直りをし、お互いに落ち着いた生活をとるように約束した。
とりあえず、ご飯食べようという話になって。
兄が人間を刈ってきた。
梅の分も出されたが、どうにも鬼だった頃の調子が戻らない。兄が出した食事に梅は無理だと伝えて食べてもらった。
そこから三ヶ月たっても梅はまだ食べれていなかった。
どうしても地獄を思い出して食べれない。空腹感はある。けれど食べようという気になれない。それを幾度となく繰り返していた。
仕舞いに兄が梅の気を遣って食事を最低限にするようになった。兄の健康に悪いと思いながら、一度口に含んでは吐き出す。その繰り返し。どう頑張っても喉を通る気がしなかった。
(これじゃあ、どこぞの欠陥鬼と一緒じゃないの!?)
……欠陥鬼?
梅はふと気づく。もしかして同じではないのか?梅は思わず自分のお腹を擦った。
兄は食べていて痩せ干そっていくのに梅はなんともない。
思えば不自然だ。確かに、梅は空腹感はある。人肉を見るとヨダレは垂れるし食事だと思うことも出来る。
(じゃあ、なんで…)
ー食べれないのだろう。
ー体に異変がないのだろう。
目の前がパッと開けた気がした。今までただの精神面だろうと思っていたことが急に原因があるように思えたからだ。
(髪だって白いし)
自分の身から生える髪をつまみ上げる。人間の頃と変わらない髪質だ。前の鬼の時では真っ黒にもできたはずなのに…。
「良かった。梅ちゃん起きてるね」
「っ!!び、びっくりさせないで!!心臓が止まるかと思ったわ!!」
突然の声に梅は思考を一旦止めた。気弱な性格ではなくても梅は鬼の中では最弱に近い部類に入る。なので、突然声をかけられれば小者らしく声をあらげ、怯えてしまうのだ。自分で言ってはなんだが慎重に扱ってほしい。
(まぁ、もういいか。今はコイツの相手をしよう)
先ほどの思考に戻りかけて…、けれど考えることをやめることにした。梅はお世辞にも頭は良くないのでそこら辺は兄か無惨に考えてもらうことにしよう。
「で、今日はなんのよう?ー童磨」
そう言うと、童磨は嬉しそうに笑みを深めた。閉じられていた扇子がパッと開く。
梅たちの居住に頻繁に顔を出す童磨は上弦かと疑うほど気楽にやってきていた。梅が上弦のときはそれなりに多忙だったのに、童磨はかなり暇そうだ。
(…そういえば教祖様だっけ)
童磨は梅たちと同じでテリトリーを持つ鬼だった。特に童磨は教祖なので餌を自分で刈るのではなく、刈ってもらうことが多い。それでノルマは問題なく達成できているのだろう。
「いやあね、君らには暫く俺と一緒に住んでもらおうと思ってさ」
「はぁ!?」
どういうこと!?と梅が詰め寄ると童磨はまあまあ落ち着いてと手を上げた。
「えーと、こないだね、無惨様がねぇ。梅ちゃんだけ繋がり悪いから監視しろって言われててね。しかも何日も食べてないからさぁ様子見様子見」
「はぁ」
それはまだ納得はできる。けれど、お目付け役が童磨なのが問題だ。適材適所もくそもない。無惨なら分かっていそうなものだが、何か考えがあるのだろうか。そうは思うも、全くといっていいほど童磨である意味がわからない。
(いいや、お兄ちゃんに聞こう)
また、早々と梅は諦めることにし、そろそろ帰ってくる兄に丸投げすることにした。
「ただい…うわっまたかぁ」
「お兄ちゃん、おかえり」
「うめぇ、ただいまぁ」
案の定、梅の予想通りに帰ってきた兄は童磨を見ると顔をしかめた。ただ、梅には柔和な笑みを浮かべて頭を撫でてくる。それが梅にはかなり嬉しい。
「お兄ちゃん引っ越す準備しないと」
「は?」
「俺の家に引っ越すのぉ~」
「は?」
脳死で兄に童磨の用件を伝えると便乗して童磨も話に乗ってきた。突然の内容に兄は梅を撫でていた手を止める。
(あ、キレた)
梅は兄の肩がわなわなと震えるのを見て苦笑いを浮かべた。普段から距離感の計り方を知らない童磨を目障りしく思っていた兄のことだ。こんなことを言えば兄がどうでるのか予想していなかったわけではない。
「今度の今度こそはお前をぶっ殺してやるっっっっっっ!!!!」
「えーー!」
梅をたぶらやかしやがって!!!と鎌を振り上げ応戦し始めた二人に梅はお茶を準備して一息をつく。兄の力は強いので上弦の鬼相手でもそう簡単にやられはしないだろう。ましてや、兄も強さから無惨からの期待を受けているのだ。上弦の(無惨に近い)鬼である童磨から兄を殺すことなど出来やしない。
そして、梅としても前世の辟易から多少童磨には痛い目にあってほしい気持ちがあったので、命の恩人だろうが助けるつもりはない。
(ま、お兄ちゃんが元気なのはいいことね)
二人の喧嘩で家が潰れようとも梅は兄の首が飛ばない限りニコニコとご機嫌よく眺めていた。
△▽
「聞いてなかったけど、あんたの信者にはどう説明するのよ」
「えー、なんか適当かなぁ」
「コイツ……」
梅は早々と呆れてしまい、どっと倦怠感に包まれた。
「梅、三枚下ろしかザク切りどっちにしたい」
「どっちもダメよ。お兄ちゃん。無惨様に怒られちゃうわ」
「二人とも、俺って命の恩人なんだからねぇ~」
「「うざい」」
「わぁ、息揃ったねぇ。兄弟みたい~兄弟かぁ」
(うぜぇえ……)
梅も兄もお互いに苦味をした顔をして見合わせる。この男と過ごす生活を考えるとお互いにストレスが溜まりそうだった。
「…けど、お兄ちゃんと一緒に入れるならどこにでも行くわ」
「梅……っ!」
脈絡のない言葉だが、兄には十分に思いが伝わった。ひしっと手を繋ぐ二人を見て、なんか酷くない~?と童磨が笑顔で突っ込む。知るか。ほっとけ。
「だから、絶対これからも“一緒“よ。お兄ちゃん」
「ウワーひどい~」
童磨の嘆きを尻目に梅は兄に確認するように放った。
△▽
「梅ちゃん、今日は俺とデートしない?」
「…なによ、またお兄ちゃんに殺されたいわけ?」
月明かりの夜。梅が大人しく本を読んでいたら童磨にそう声をかけられた。ここに住み初めてからもう随分日が経った。鬼の血で衰えない所為か、日の流れに鈍感になっている。それでも、兄と離れている期間は長く感じるのだから不思議だ。
「ネェ~~。デートしよう~」
再度声をあげる童磨に梅は溢れるように息をついた。
一度寝てあげてからこういうお誘いが増えた気がする。最も童磨は、ごっこ遊びをしたいだけというのは梅も周知の下だったので特別なにかあるわけではない。まぁ、兄が危うく勘違いしそうにならないかだけは心配なところであるが。
(お兄ちゃん意外と初心だからなぁ)
妹として世話してあげるべきだろうかとつい思考が別に行きかけたところで喚き始めた童磨にまた意識を戻す。
「いいジャーン、どうせ妓夫太郎は無惨様の命令で暫く帰ってこないわけだし、繁華街行ってなんかしようよ~」
そう、梅の兄は最近無惨に気に入られたのかあっちこっちに連れていかれて梅とは離れている。無惨の命令なので致し方ないことではあるがそれを言われると(今日もお兄ちゃん帰って来ないのかぁ)と梅の気を悪くさせた。さながら、帰りの遅い夫を待つ嫁の気持ちである。
「……はぁ」
梅は仕方なく本を閉じる。気が滅入る前に外出でもなんでもした方が憂さ晴らしにはなるだろう。
「やっ…いてて!いたいいたい!」
ただ、その様子にパッと顔を輝かした童磨を見てイラッとはしたので眉間をギューっと引っ張った。
「ふん、あんたにしては気が利くじゃない」
出されたカステラを頬張るって甘さににやけながら梅は童磨を見る。童磨も表情は嬉しげに此方を見つめていた。
「でしょー、前の女の子もここに連れてくると嬉しそうにしてたんだよねぇ」
「あらそー、その女の子のお味は?」
「とっっっても、美味しかった!ふわふわしててね。肉がびーっしりつまってって柔らかいんだよ。たーっぷり油が…」
「ふーん」
梅は途中からどうでも良くなったので黙々とカステラをぬさぼる。童磨は思い出したのかうっとりとした様子で続々と他の女の子についても語っていた。
「あーあ、話してるとお腹すいちゃった。食べてきてもいい?」
「別にいいけど、時間までには戻ってきてよね。私の足じゃ戻れないわよ」
「はーい」
そう言って童磨は立ち上がる。梅はふと思い出してその裾を引っ張った。
「ん?「金」…」
「遅い…」
梅は腹立たしく、地面を踏んでいた。とっくの昔にカステラは食べ終えている。しかも、体感でいえばもうそろそろ空が白染めていく頃である。
「だから、あいつは嫌いなのよ。言ったことを守りもしないし…」
ぶつぶつと文句を言いながら歩く。童磨からの連絡はないし、そもそも梅の脳内に童磨からの伝達されるかは不明だがそれでも何か音沙汰はほしいものだ。
「………」
(血の匂い)
突如鼻に掠めた匂いに梅は立ち止まる。丁度、今の梅から隣にある小屋から匂ってくるようだった。その証拠に梅を迎え入れるように戸口が開いていった。
(あー、いやだいやだ。人間に気づかれたらどうするつもり?)
「ねぇ!ちょっと、もうそろそろ朝に……!」
なるわよと声を続けかけたところで止まる。づかづかと踏みいった部屋に、見覚えのある制服を着た人間が倒れていたからだ。久しく見なかったー
「ーき、鬼殺隊?」
「あれ?梅ちゃん知ってたんだ~」
思わずゾッとして足が後ずさる。今の梅は引きこもりもいいところなので見たことはなかった。
「どういうことよこれ。もう死んでるの?」
「いやぁー多分まだ生きてるんじゃない?」
「ひっ」
前世の記憶がフラッシュバックして咄嗟に童磨の後ろに抱きつく。背丈の大きい背中は珍しく弱々しい梅の様子にちょっと驚いたのか細やかに笑った。うるさい、お兄ちゃんに言いつけるわよと内心梅は思う。本来なら梅はどっちにも近づきたくはない。童磨も血で濡れて汚いのでそっと距離を取りたいレベルだ。しかし、まだ奴等に近づくよりは安全ではある。前世と比べて随分と弱い梅は致し方なくその背中に頼るしかなかった。勿論、いざとなれば、盾にするつもりである。
「見たことない?」
「お、お兄ちゃんが毎回倒してたもん。それにコイツら嫌いよ。妙にしぶとくって人の食事を邪魔するし…」
「…ぷっ、梅ちゃん人を食べれないのに邪魔される感覚あるんだ!!」
「あ、あるわよ!!お兄ちゃんは食べるんだから!!」
実際前世では食べていたが、今の梅は食べてないので理由は兄に丸投げする。ただ、思っていたことでもあるのであながち間違いと言うわけではない。
「はいはい、お兄ちゃん大好きだもんね。梅ちゃんは」
「当たり前でしょ!…ねぇさっさとこんなやつほおっておいて帰るわよ。どうせもう死ぬんだから。それに私が塵になったらあんたが怒られるんだからね」
「はいはーい」
この人間を朝日までに童磨が食べる時間は十分にあるが、梅はなんとなくそれが鬱陶しくて背を押した。単純に、梅が食べれるわけではないので童磨を待つのがめんどくさいという気持ちもある。
(お気の毒)
せめて、遺体を残しているのだ。成仏ぐらいはしてもらいたい。地獄のときを思い出して、梅は目を細める。憐れむ気持ちにハッとして首を降った。
(もう神様なんて信じてないんだから)
兄を見放した神など梅はとうに見放してやったのだ。
▽△
本を読んだり童磨と話したり外出したりしながら、梅はのんびりと日々を過ごしていた。ただ、梅の遊び相手が最近では8割ほど童磨になっていることが普通に気に食わない。無惨様に会うことがあれば異議を答えよう。そう決意を新たにする一方で、初め以降梅は一度たりとも無惨に出会った記憶がなかった。
(会ったとしても、それは……)
梅が遠くを見つめると物音が耳に入る。
「お兄ちゃん!」
後ろを振り返ると、兄が静かに立っていた。暗がりの中で、荒い呼吸がよく聞こえる。至近距離故に一瞬気づかなかったがよく見ると兄の体には擦り傷が多くあった。いつもならそんな姿を見せることがない兄の様子に梅は怪訝に思う。
「お兄ちゃん?急に…」
「逃げるぞ梅」
ボロボロのお兄ちゃんに両腕を掴まれる。二の次を繋ぐ前にあっという間に体を抱えられて屋敷から飛び出された。
「ちょ!ちょっとお兄ちゃん!!怒られちゃうよ!!」
勝手に外に出るなんて許されないことだ。
「無惨様はお前を食べる気だ」
「え?」
思わず考えていた思考が止まる。なんでと声が出ずとも動いた。それを兄が知って今逃げているのだって"謎だ"。
「…兄ちゃんはな。お前を連れてくるように言われた…けど無理だ。無理なんだよ」
「お兄ちゃん…」
本音を言うと兄の口からそんな言葉が出てくるのは意外だった。日に日に兄は梅と違って鬼に近付いていたからである。無惨に命令される日も増えて食べる量も増えたからか。抑えようとはしていたが、兄は時々梅に物騒な言葉を使うときがあった。きっと、前の梅の時のように鬼の感情に飲み込まれているのだろうと思っていた。
(生きてくれてるだけで…よかったのに)
それが寂しいとか悲しいとか思うことはあったが梅は兄が生きていたから許容していた。仕方ないと。それが自分の過ちでもあるのだと。
(嬉しい…嬉しいよお兄ちゃん)
梅は抱えてくれる体に顔を押し付ける。その汗臭さが梅の鼻腔をいっぱいにしてー、梅は一粒だけ涙を流した。覚悟を決めなければならないのはーきっと梅の方だから。
「簡単に逃げ切れると思う?梅ちゃんはともかく妓夫太郎はねぇ。無惨様に場所筒抜けだよ?」
気づけば、兄の前に童磨がいつもの調子で立っていた。その笑みは梅が死ぬことをなんとも思っていない様子だ。
「お前は俺の妹だ。この世にたった一人の妹だ。傷つけさせやしねぇ。取り立てられやさせねぇ」
梅を強く抱き締めて兄は自分の武器を構える。戦いにくいのに絶対に梅を手放す気のない力は強くて暖かかった。
「かかってこいよ。俺は必ず梅を守る」
その姿は、梅にとって最高に格好良かった。
「ーーーお兄ちゃんならいいよ。私を食べても」
梅は兄の服を掴みながらそう言った。兄の肩が揺れる。ぜえぜえと息を切らしてヨダレが出ていた。先程の戦闘できっと肺も痛めているだろう。梅は兄のお陰もあってなんともないが兄の治りは食料がないとめっぽう遅くなるのは知っていた。
「無惨に食べられるのはぜっったい嫌!…だからお兄ちゃん。私を全部食べて」
梅は自分の首筋を食べやすいように髪を流す。覚悟は出来ていた。
「に、逃げろお前だけなら……」
いまだにそういう兄に梅は遮る。
「嫌!ずっと一緒って約束した!!覚えてないの?!お兄ちゃんッッ!」
「お前だけなら逃げれるんだ…。分かってくれ…」
それでも、兄はそう言いきって梅と距離を取った。今にも走り出しそうな兄に梅は必死にその腕を掴む。
「……そう。お兄ちゃん逃げるのね。いいよ。逃げても。けど私は絶対ここで死ぬから」
「分からないのか!?兄ちゃんはお前に」
「分かってないのはお兄ちゃんのくせにッッッ!!!」
梅はそう言って流した大粒の涙を拭う。その感情に思わず兄は絶句したように口を開いていた。どこか間抜けな様子が妙に愛おしい。
(好きだよ。大好きだよ。鬼になってもずっと一緒に居たいよ)
「分からないの?このままいけばお兄ちゃんが死んじゃうのよ!私だけ置いていかれるのよ!"また"!"またよ"!そんなの絶対にいや!!!」
置いていかれかけた記憶がフラッシュバックする。あの時も、あの時も。どれも梅にとってはトラウマものだ。
「お願い!一人はいや!一緒がいい!!……ひっく…いい加減分かってよぉ…」
梅の本心で心からの叫びだった。甘えるように肩に顔をすりよせる。
ずっと梅を置いていこうとしてくる兄の背中を何度止めたかわからない。必死になって捕まえて漸く兄は立ち止まって歩幅をあわしてくれる。けれど、一度気が抜けたらあっという間に置いていくのだ。ー自分なんていらないみたいに。
それが、ずっと怖かった。定期的に例え梅の精神年齢が兄を越していても、梅にとって兄は兄だ。一度だって置いていかれたくない。離したくない大切な兄でたった一人の家族なのだ。
「梅、でも、ホントに……」
それでも尚いい淀む兄に梅は無言で力強く抱き寄せる。
「っ!……わかった」
数分のつかの間、兄はとうとう諦めたように口を開いた。
「ごめんな、兄ちゃんがこんなんで」
「そうよ。約束は破ったら怒るわよ」
「…ああ」
「ーでも、大好き」
「ま…ず……」
「え、え、お兄ちゃん!?…………そ、んなに不味いの私」
倒れて動かなくなった兄をひとまず呼吸だけ確認する。生きてはいるようだ。けど、それなら梅の肉が気絶するほど不味かったということになる。決死の覚悟だったのに、不味いとは酷すぎやしないか。梅はかなり傷ついて泣きそうになった。あんまりだと思う。
数分の後、兄の目が覚めた。……覚めたと思ったら地面に大量に汚物を吐いた。不味いと叫びながら吐きまくっているのは本当に不味かったのだろう。けれど、腹は立つのでその背を梅は半泣きで足で蹴った。
「信じられない!!妹の肉を不味いだなんて!!」
「うぐぅ…不味いぃい…不味いぃいウボロロロ」
「キーーーー!!!」
甲高い声でキレる梅と兄は結局その日も一晩を過ごしていた。ー周囲なんて気にせずに。
「ねぇ、お兄ちゃん可笑しくない?」
「あぁ?」
漸くまともに喋れるようになった兄に梅はそう言う。先に異変に気付いたのは怒りが落ち着いた梅だった。
「だって私たち殆ど移動してないよね?」
「はぁっ?!じゃあ!!!」
「お兄ちゃんうるさい、落ち着いて。だから、変なのよ」
兄が慌てて動き出そうとしたのを梅は腹を殴って落ち着かせる。溝に入ったのか青い顔をして兄は震えていた。それに構わず梅は続ける。
「ー追手が来ないの」
昨日の一晩は、ずっと兄は吐いていたし、梅は大声で叫んでキレていた。
「一昨日からここにいるけど、誰も来ない。それって可笑しいよ。こんなに猶予を無惨様なら与える前に私たちを殺してる」
「それは……」
兄も流石に疑問に思うのか悩むように言葉を区切る。
「多分だけどーお兄ちゃん。お腹空いてる?」
「え、いや。その……」
「早く言って、はっきりして!」
「………食欲は沸かないなぁ」
流石に、まだ口の中に妹の肉の不味さが残ってるとは言えず兄はそっと目を反らした。多分だがそれで食欲はない。しかし、梅はそうは思わず嬉しそうな顔で頷く。
「ほら!やっぱり!!お兄ちゃんも私と一緒になったんだよ!人を食べなくても生きれる鬼にね!!」
「…そうかぁ?」
間違いなく口の中が不味いからだと思うが。兄は黙って置いた。不味いと言われ大層、妹が傷ついていたので。一等大事な妹の傷口をわざわざほじくりかえす必要もないだろう。
「ほら、外行こう!」
「う、梅!?今はあ…さ……!?!!」
兄は梅に手を引かれる。反射的に梅を日光の下から退けようとするが、既に梅の片足は光に出ていた。
(消、えてない……)
しっかりと灰にもならず立てている梅に兄はピシリと固まった。空いた口が塞がらない。その驚きのまま、梅に腕を引かれて自分も光の下に出る。一瞬、生暖かい感触に本能的に目を閉じた。ーそして、ゆっくりと繋がれた手を見るため瞼を開ける。"やはり消えていない"。
「ね、日の光でも一緒に入れるでしょう!」
妹の透き通った白髪が日の光を浴びて輝く。どういう原理なのかわからないが、恐らくこれが妹が狙われた理由なのだろうと兄は察した。けれど、薄汚れた着物なのに、輝く瞳も、太陽に照らされる肌も、とても美しくて、キラキラしていて、ー兄はその全てに目を細めた。
「…ああ、眩しいな」
▽△
一人の隊士が横になっていた。腸は引き摺り出され、呼吸するのもままらない。今にも絶命しそうだ。
「ー人っを食べないおに…が、いる!!」
それでも尚、隣に止まった鴉に涙を流しながら訴える。覚えている限りの特徴を打ち明けた。
(あのこはきれいだった…)
隊士の知る限り、最も美しかった。今振り返っても、きれいで美しい、鬼と相対するが天使のような子だった。あの子が何故敢えて自分を放置してくれたのかはわからない。ただ、あるのはある意味あの子に助けられたのだろうという空虚な確信。
(いも、うとが迎えに来たかとおもった)
脳裏に焼き付けるのはあの鈴のような声だった。ちょっぴり怒ったような声は隊士の懐かしい妹の声にそっくりなような気がしたのだ。
(ちがうってわかってるだろうに)
隊士は窓から差し込む月を見て思った。そろそろ意識がなくなりそうだ。
『お兄ちゃんがー』
『お兄ちゃん!!』
あの子が言った言葉と妹の言葉が重なる。
"なんだ!辻子!"
漸く返事が出来る気がした。
▽△とうとう、梅ちゃん&お兄ちゃん太陽克服。
人間界に突入します。
次回は、善逸出します。頑張ります。
梅ちゃんは元々自分の体に疑問を持っていたので実は童磨と同居時"にも"暇潰しで自分の体を太陽に晒してました。
本当は梅ちゃんが長い間寝ている際に無惨が勝手に訪ねて梅ちゃんの足の親指を切って太陽にさらしていました。
その時はサラッサラになくなりました。
ので、梅ちゃんはバレずに生きてました。
ただ、何かあれば戦力になる兄と逃げるだろうと思ったので一様慎重に兄の鬼化を進めるように頑張りました。兄の方も人を殺していれば無惨とすれ違い通信の電波が良くなったので(殺してない頃は梅よりましだがかなり悪かった)
余談ですが、兄にもっと人を食べさせれば展開は変わってます。
そして、再度梅が童磨との同居時に、無惨は、ほぼ同じ手口で梅ちゃんを太陽にさらして残っていたので食べなければならんとなりました。
のが、今回の流れです。
脳死で書いてるので日本語がおかしい。
いつもだけど。