クローゼットからミカ出てきた【完結】   作:おとしあな

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朝と夜と、星に願いを。

 目覚ましの音で意識が覚醒した。目を開くと、寝起きでぼやけた視界にミカのとんでもなく整った顔が飛び込んできた。

 思わず悲鳴を上げたがミカは起きる気配がない。目覚ましはなおも鳴り続けている。外はすっかり明るくなって、もう朝が来たことを示していた。

 

「ミカ起きて、ミカ、ミカさーん!」

 

 揺さぶろうにもわたしの体はがっつりホールドされている。ちょっとジタバタしたくらいじゃテコでも動かなそうだ。冗談じゃない、今日も大学があるんだ。ミカだって学校があるだろう。

 唯一自由に動かせる腕を伸ばすが目覚ましには届かない。どうしよう、このままだと苦情が来る。目覚まし鳴りっぱなしだとかなりうるさいはずだし。

 通報されでもしてミカと一緒にいることがうっかりバレたら一巻の終わりだ。ミカはよく分からない研究所とかに連れてかれて、なんかよく分からない実験とかされちゃうんだ。ミカはわたしが守る。

 寝起きの頭はあらぬ方向に全力回転を始めた。とにかくミカを起こさなくては。

 

 ニキビどころか毛穴どこにあんのかレベルのもちもち美白つるつるミカほっぺを摘んだ。ひぇ、めっちゃ柔らかい。そのまま顔を耳元に近づけて「ミカ起きてー!」と小声で叫ぶ。

 んぅ、とちょっと唸ったミカが嫌そうに目を開けた。

 

「ミカおはよう、起きた? 起きて? お願いだから」

「おはよー……?」

 

 半目のミカが首を傾げる。ぱちぱちと瞬きして焦点が徐々に合っていく。目が合った。

 

「おはよ、乙花」

 

 いつもよりはっきりしない呂律で、ふにゃふにゃした笑顔を浮かべている。かわいい。

 少しだけ力を込めてギュッと抱きしめられたあと、名残惜しそうにその腕は離れていった。

 目覚ましを止めてようやく一息つく。

 

「もうキヴォトスに戻る?」

 

 時計をチラッと見たミカが「まだ大丈夫」と答えた。日本とキヴォトスの時間は連動しているらしく、こっちが朝7時ならキヴォトスも朝7時なのだ。

 

「8時までに戻ればいいかな」

「おっけー。朝ごはん食べてく?」

「いいの?」

「大した物は出せないけどね」

「ううん嬉しい、ありがとう」

 

 顔を洗おうと流しに向かうとミカが雛鳥みたいについてきた。自分の洗顔を済ませてから、「これ使っていいから。嫌なら自分の持っておいで」と洗顔料とスキンケアセットを押し付ける。一通り銘柄を見てまあいいかと頷いたミカは大人しく顔を洗い始めた。安物で悪かったわね。

 

 昨夜の味噌汁を温め直して、ラップをかけた昨日のおかずの残りの皿をレンジにかける。弁当にしようと多めに作っておいたけど、二人分の朝ごはんにはなるかな。昼ごはんは学食行くか。

 いつもの白いドレスみたいな制服じゃなくて、昨夜貸したわたしのパジャマを着たミカが、背後からご飯をよそう様子をひょこひょこ覗いている。

 

「お米だ」

「お米だよ。あんまり食べたことない感じ?」

「トリニティじゃそんなに頻繁には食べないかも。ここだと朝からお米なんだ」

「日本でも人によるけどねー。わたしは米派」

「なるほど。……あーでもキヴォトスだと百鬼夜行とかなら食べてそう」

「百鬼夜行って?」

「キヴォトスの学校の一つ。百鬼夜行連合学院っていうのがあるんだ」

「へー、なんか和風な名前だね」

 

 そんな話をしていたら、ミカが突然「あっ点呼!」と叫ぶものだからわたしはびっくりして跳ね上がった。耳元で急に大声を出すな。ついでに言えば火を使ってる時に。

 

「ごめん、ちょっと戻って点呼に行ってくる。ついでに朝ごはん私の分いらないですって言ってくるね」

「はいはい、いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

 

 ミカがいない間に着替えちゃおう。ついでに髪も整えて、と。

 ミカはそんなに経たないうちに帰ってきた。待ってる間にご飯が冷めなくてよかった。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 

 にこにこしたミカの服装はさっきと違って制服だ。わたしのパジャマは抱えて持ってきたようで、拙い手つきで畳んでわたしに「ありがとう」と渡してきた。

 

 そうこうしているうちに盛り付けが終わった。食卓代わりの丸いローテーブルを向かい合って囲む。わたしは正座、ミカは正座をちょっと崩して座った。

 

「洗い物が面倒だからおかずは大皿から取って」

「はーい」

 

 予備のお茶碗とお椀があってよかった。普段使わない皿を使う機会がようやく来たから、一人暮らしを始めた時に一応買っておいた甲斐がある。入学前のわたしが聞けばきっとびっくりするくらい、これまで家に人を招く機会がなかったからなぁ。

 これ以上皿を増やすのも後が面倒だし、お行儀が悪いかもしれないがミカにも大皿からおかずを取ってもらおう。

 二人で手を合わせる。

 

「「いただきます」」

「箸は使えるんだ」

「まあね」

 

 お米をあまり食べないらしいから箸も使えないんじゃないかと心配していたが杞憂だった。

 おかずと米を口に運ぶ。うん、まあ人に出しても大丈夫な味でしょう。味噌汁も美味しい。

 

 案外食事中の会話は少ない。二人とも口に物が入った状態では喋らないからだろう。わたしはともかくミカは育ちの良さがあらわれている。お茶碗の中のご飯が半分くらいになったところで、ようやっとミカが口を開いた。

 

「おいしい」

「そりゃよかった」

「なんか、うーんと……、おふくろの味、って感じ?」

「無理して食レポしなくていいのに。ま、ありがとう」

「えへへ、乙花ママ」

「やめい」

「また作ってほしいな」

「気が向いたらね。せっかくなら今度ミカもなんか作ってよ」

 

 露骨に視線を逸らされた。あ、この子さては料理できないな? まあ節々からお嬢様感が漂ってきてたし、納得っちゃ納得なんだけど。

 ちょっと意地悪してみるか。

 

「もしかしてミカ料理できない?」

「……そ、そんなことないもん! 私だって朝ごはんのひとつやふたつくらい!」

「無理しなくていいのに」

「無理なんかしてないってば」

「ふーん。……具体的には何が作れるの?」

「え! えっとね、えーっと……トーストを焼くでしょ、ジャムとバターを塗るでしょ……。サラダ、は……うーん。……あとは、ミルクをコップに注げる?」

「うん、分かった。よーく分かった。わたしと朝ごはん作ろうか。こっちだったらキヴォトスのみなさんには迷惑かけないし」

「いいの!? じゃなかった。……私だって頑張れば朝ごはんくらい作れるから期待してて。明日の朝ここで作るから!」

「はいはい、食パン買っておくから」

「それくらいなら向こうから持ってくるよ!」

「ほんと? ならお言葉に甘えて。……ジャムもマーガリンもないからその辺も持ってきといてくれると助かるな」

「分かった!」

 

 別にお金に余裕があるわけではないのでミカが持ってきてくれると助かる。食パン普段は食べないから買わないんだよな。

 

 というか料理、本当に大丈夫だといいんだけど。わたしが横から口を出せばなんとかなる範囲であることを願う。なんせ相手は異世界人、ダークマターを生成する可能性もなくはないのだ。

 そもそもキヴォトスの食品ってわたしが食べても大丈夫なのかな。……まあ今更か。ミカが日本食を食べてもなんともないし、聞く限りだと食生活が大きく違うわけではなさそうだし。

 

 二人とも食べ終わって、ごちそうさまをして食器を洗った。ミカがなにか手伝いたいというので洗い終わった皿を拭いてもらった。……ちょっと食器洗いはまだハードルが高いんじゃないかなって。

 

 それからクローゼットの前に立って、「またね」の挨拶をしたらミカは帰っていった。さて、わたしも出かけないと。

 

 ミカを元気づけよう大作戦、開始だ。

 

 

 

 

 

 

 大学が終わった後、色々と買って帰っていたらだいぶ遅くなってしまった。すっかり日が暮れている。ミカはもう家に来ているだろうか。チャリを飛ばして帰ったせいで息が切れている。鍵を開けて「ただいま!」と叫んだ。

 

 ミカは部屋の隅っこで体操座りしていた。何もしていないように見えてちょっとギョッとしたが、よく見るとミカは何やら本を読んでいた。あれはわたしが棚に置いておいたハリポタじゃないか。

 そばに近づくと、ミカは本から顔を上げた。

 

「あ、おかえり」

「ただいま。ハリポタ読んでるの?」

「ハリポタ……あー、なるほど。この本の略称がハリポタなのかぁ。ねえねえ申し訳ないんだけどさ、しおりある?」

「ほい」

 

 最近はもっぱらインテリアと化していたしおりを手渡す。ミカはそれを挟み込むと、そっと本を閉じた。

 

「だいぶ烏滸がましいのは分かってるんだけど、しばらくこの本借りていい? もちろんこの部屋からは持ち出さないから」

「好きに読んでいいよ。なんなら向こうに持っていっても……って、やっぱりそれはまずいかな」

「うん。異世界の本、っていうリスクもあるし、それに私が持ってたら乙花に綺麗なまま返せなくなるかもしれない」

「それは……」

「とにかく、普段こんな分厚い本を読むことなんてあんまりないんだけど、すごい面白かった! うっかりずっとこの体勢で読み続けてたから腰と背中とお尻いたーい」

「大丈夫? ストレッチする?」

 

 ミカが立ち上がって伸びをした。ぱきぱきと軽い音がして、本当に長いこと待っていたことを察してしまった。どれくらい待っていたのかは聞けなかった。

 

「私もさ、憧れちゃうなぁ。魔法が使えるなんて絶対楽しいよ」

「魔法が使える人はキヴォトスにはいないの?」

「うーん、魔法使いはさすがにいない気がする。というかこの状況の方がよっぽど魔法かも」

「確かに」

「あっ、でも魔法みたいなことなら私もできるよ! いつか見せてあげる」

「じゃあ楽しみにしてようかな」

 

 ミカの魔法か。きっと綺麗なんだろうなと勝手に想像してみる。いつか見ることができる日は来るのだろうか。

 いけない、ぼーっとしていた。とにかくミカのためのプレゼントを渡さなきゃ。通学用リュックの中身を漁る。

 店員さんに包んでもらった袋が二つ出てきた。よかった、潰れてないしシワにもなってなさそう。チャリを全力で飛ばしてきたからちょっと心配だったんだよね。

 

「なになにー? なにしてるのー?」

「実はミカにプレゼントがあるんだよね」

「えっホント!?」

「はい、まずはこれあげる」

「開けてみていい?」

「どうぞ」

 

 大きい方の袋をまず渡す。小さい方は今は冷蔵庫にしまっとこうかな。冷蔵庫を開けると食パンとジャムとバターが鎮座していた。ミカ、忘れてなかったんだ。……というかすごい高級品に見えるのだが。この食パン、冷凍庫に入れていい? ダメかな。

 キッチンから戻ると、ミカはこぼれんばかりの笑顔で袋を開けた。翼が機嫌良さげにすごくふわふわしているし、心なしかヘイローも輝いている気がする。

 

「これ、折り畳み傘と……雨合羽?」

「そうそう。名付けて、ミカちゃんおでかけセットです」

「おでかけ……嘘、本当に!?」

「夜ならバレないかなーって。折り畳み傘をさしてヘイローを隠すでしょ、それに雨合羽で翼を隠す。フードを被れば髪も隠れる。今晩は雨降ってないから不審者になっちゃうけど……」

「乙花だいすきー!」

 

 飛びついて抱きつかれた。ちょっと重いってば。仕方ないのでミカの頭を撫でる。もっと撫でろとばかりに頭をすり寄せてくる姿は、だんだん大型犬に見えてくるから不思議だ。

 

「ま、おでかけはするにしても後でね」

「はーい! 楽しみにしてるね!」

「実はプレゼントはもう一つあるんだよねー」

 

 ミカを引っ付けたままずるずる引きずって冷蔵庫を開ける。うーん、もう少し冷やしたほうがよかったかなぁ。

 

「その袋はなーに? もしかして食べ物?」

「せいかーい。開けてみる?」

「やった」

 

 ミカは袋からそれが入ったパックをそーっと取り出して眺めた。

 

「わーお、綺麗……。透明なゼリー? いやでも……なんだろうこれ? ねー乙花、これなぁに?」

「それはね……」

「それは?」

「わらび餅っていうスイーツ。たぶん食べたことないんじゃないかと思って」

「わらび餅……。これお餅なの!? 透明だよ!?」

「さては白い餅しか見たことなかったな?」

「うん」

「これどうやって食べるの? 味するの?」

「ここにきな粉と黒蜜があるでしょ? それをかけて食べるんだよ」

「なるほど!」

「まーもうちょい冷やしてからかな。夕飯の支度するから待ってて」

「私の分もいいの?」

「当然でしょ。夕飯いらないって向こうの寮監さんとかに伝えてきたほうがいいんじゃない?」

「……実は、もう伝えてあるんだよね……」

「なーんだ、ミカもここで食べる気でいたんじゃん」

 

 それなら一安心だ。夕飯どうしようかな、できるならミカの好物作ってあげたいんだけど。

 

「夕飯何がいい? 作れる範囲ならリクエスト聞いて作るよ」

「……乙花の好物がいい」

 

 そう来るとは思ってなかった。わたしの好物かー。二人で食べれば二倍美味しいとも考えられるし、要望が来たならせっかくだし作ろう。ちょうどひき肉もあることだし。

 

 ミカにハリポタの続き読んでていいよと言って、エプロンを付けて手を洗う。

 卵二個に顆粒だしと酒とみりんを突っ込み混ぜる。フライパンに油を敷いて今の溶き卵を投入。菜箸でかき混ぜていい感じになったら火を止めて、どんぶりによそったご飯の上に直接のせる。間髪入れずにフライパンにひき肉を投入して、余計な油をキッチンペーパーで吸いつつ色が変わったらタレを投入して、汁気が飛んだらこれまたご飯に乗っける。

 この辺りになるとめちゃくちゃいい匂いがするので後ろでミカが待ち切れなそうにソワソワしている。最後に刻み海苔を乗っけて二色そぼろ丼の完成だ。

 

「ほれ出来たぞ、腹ぺこミカちゃん」

「むっ、その呼び方は可愛くないからナシ」

「はいはい」

 

 いつものようにローテーブルに乗せる。

 

「美味しそう! いただきます」

「いただきます」

 

 卵の甘みがちょっと濃いめの肉そぼろのタレを中和して最高なんだ。楽だし美味しいし、そぼろ丼が一番好き。

 お互い無言で丼を食べ進める。ミカの表情も輝いているのでお気に召したようだ。……よかった。

 にしてもどんぶり飯を食べるミカの図は結構面白いかもしれない。異世界のお姫様みたいなミカが冴えない大学生のわたしとそぼろ丼で夕食かあ。ま、ミカがいいなら構わないか。

 あっという間に食べ切り、ミカの第一声は「おかわりある?」だった。ないよ、まだわらび餅もあるからねと答えると露骨にしゅんとしたので、また作ることを約束した。

 

 よく冷えたわらび餅を冷蔵庫から出してザルにあけてざっくり水洗いする。水をよく切って皿に移して持ってくる。爪楊枝もいるかな。

 

「おぉー、待ってました!」

「きな粉と黒蜜、ミカがかけなよ」

「えっ私? 失敗しちゃうかもよ?」

「いいからやるんだ。ミカならできる」

 

 案外器用にミカはきな粉と黒蜜を開けてみせた。「やった! できた!」というつぶやきが聞こえてきたのでミカの頭を撫でておいた。

 

「えっこの餅、爪楊枝は刺さっても口まで持って行けないんだけど」

「ふはは、わらび餅を捕まえられない者にわらび餅を食う資格はないのだ」

「ひどいっ! もー、刺さってるのに落ちる! きな粉が舞う!」

 

 ミカはしばらくわらび餅と格闘していたが、そのうちコツを掴んだらしく一つ目の餅を口にした。

 

「ん!」

 

 ミカの表情がぱーっと輝いた。

 

「よく噛んで食べなよ」

「んん」

 

 しばらくもぐもぐしたミカは餅を飲み込んだ後、「なにこれすっごく美味しい!」と叫んだ。よかったよかった。

 

「あとはミカのものだからゆっくり食べな」

「え、もう食べ終わったの?」

「ミカがもたもた格闘してる間にね。わらび餅のプロだぞこちとら」

「むーっ、もっとうまくなってみせるんだから」

「はいはい頑張れ頑張れ」

 

 しかし実際ミカはメキメキと爪楊枝でわらび餅を食べるのがうまくなっていった。わらび餅を食べるたびにドヤ顔するのが可愛くてしょうがない。

 そして最後の一個まで来たところで、ミカはおもむろに餅を刺した爪楊枝をわたしに向けた。

 

「はい、あーん」

「いいの? 最後の一個でしょ」

「いいから食べて、落とす前に、はーやーく!」

「あむっ」

 

 うまうま。ありがとうミカ。

 

 

 

 

 

 

 ミカに雨合羽を着せて傘を持たせ、21時を回った外に出た。流石にこの時間だとあまり人がいない。無事誰にも会わずに近所の公園までたどり着く。

 ジャングルジムのてっぺんに登って腰掛けた。もう喋っていいよとミカに小声で言う。

 

「すごい」

「どうしたの?」

「空に何もない。どこまでも宇宙だ」

「ん?」

「私の知ってる空には光の輪があって、こんなに何もない空は初めて見たかもしれない」

「空に光の輪」

「うん、だから私今すごく感動してるの。分かりづらいかもしれないけどね」

「そっか」

「この宇宙は私の声に答えてくれるのかな」

「ん?」

「こっちにおいで」

 

 なんかミカが電波みたいなことを言い始めた。え、何?

 ミカが空に手を伸ばした瞬間、遠くの方でキラッと流れ星が瞬いた。

 

「わ、流れ星。綺麗」

 

 ミカは黙って笑顔を向けてきた。

 ん? あの流れ星だんだん近づいてきてないか? いや近づいてきてるな?

 

「危ないかも、逃げよミカ」

「大丈夫、私に任せて」

 

 ジャングルジムを降りようとしたが、ミカに引き止められてしまった。その間にも流れ星はどんどん近づいてくる。最初に見た時より燃えてずいぶん小さくなってしまっているが、こちらにぶつかりそうになって──。

 

「よいしょっと」

 

 ミカの手に収まった。

 あのー、流れ星って素手で掴んで大丈夫なんですかね。

 

「あげる」

 

 そしてその隕石をミカはわたしに手渡した。

 いやいやいや。待ってくれ、理解が追いついていないぞ。ミカさんあなた流れ星呼びました?

 

「え? え? あ、ありがとう」

「どういたしまして。……私にできる魔法なんて、これくらいだから」

「これくらい? キヴォトスだとこれが普通なの?」

「私以外にはできる人を見たことがないかな」

「よかった」

 

 いや何がよかったんだ? ミカが星を墜とせるスーパー能力持ちということは分かったけども。なんかすごいものを目にしてしまった。

 

 手の中の隕石は未だ熱を帯びている。大きさに似合わぬずっしりとした重さを持つそれを、そっと手を開いて眺めてみた。よく見ると小さい穴が空いている。これ、加工してアクセサリーにできないかな。後でやってみるか。

 

「帰る?」

「うん、帰ろうか」

「ミカ、ありがとう。流れ星、すっごく綺麗だったよ。それにこの隕石も、大事にするね」

「ふふ、どういたしまして。こちらこそ、色々もらっちゃったから。……大事にするね」

「うん」

「にしても、街並みはあんまりキヴォトスと変わらないんだね」

「そうなの?」

「うん、でもロボットの姿をあんまり見ないような気がする」

「ロボット? 実用化されてるロボットは一部のお店くらいでしか見ないかも」

「そうなんだ。その辺の発展具合は違うみたいだね」

「そうなのかな?」

「そうなのかも。にしても、この夜空を見られただけで幸せ」

「今日が晴れててよかった。それでもこの辺は都会だから、山の上とかなら星ももっと綺麗に見えると思うけど」

「ううん、私はここで二人で見たから幸せなんだよ。……いつか青空も見てみたいな」

「うん。ちょっと考えてみる」

 

 片手に隕石を握り締め、もう片手でミカと手を繋ぐ。

 電灯に照らされた二人のシルエットが、楽しげに弾んで宵闇の中に溶けていった。

 

 ──きっと明日も楽しい日になる。

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