自称吉良吉影(TS高校生)の奇妙な冒険   作:キラークイーンは既にISに触れている…

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私の名は『吉良吉影』 年齢15歳(女)。

早朝。人の気配の欠片もない街を進む。

 

夜中に雨でも降ったのだろう。心地よい涼しさを感じる。先ほど連れ添った人物と『手を切った』こともあり、普段より少し晴れやかな気持ちで行きつけのパン屋を訪れ、お気に入りの玉子サンドを買う。

 

そしてそのまま近所の公園のベンチに座り、水筒に入れた水を飲み、買ってきた玉子サンドを一口。甘い。うむ、絶品だ。

 

ほどほどの都会と言うべきだろうか。空気が薄汚れている都心部からは遠いが、かといって1時間かけなければスーパーや飲食店に着かないほど不便でもない。総人口も多くはないが少なくもない、高校に行っても中学校の顔触れとあまり変わらない程度の人口。

 

そんな街の中で、ポツンと一人で食べる朝食。この公園には特に木が植えてあったりするわけでもなく、視界が開けて見えるため、美しい町並みが目に入る。自分が今この素晴らしい景観を一人占め出来ていることに僅な優越感と幸福感さえ感じることが出来る。

 

「美しい街だ。」

 

女はそう言いながら、もう一口サンドイッチを口に運ぶ。やはり美味い。変わらぬ味。変わらぬ景色。やはりこの街は美しい。景観だけでなく、生きていく上で心地よく、平穏な日常を送ることが出来る。

今日からこの生活から少しおさらばすると思うと、非常に残念だ。

 

一口、もう一口と口に運び、ものの数分でサンドイッチ3つを平らげてしまった。空腹感が満ちたことを感じ、ベンチから立ち上がる。現在の時刻は6:34。まだまだ登校するまでは猶予がある。散歩でもしながら家に帰ろうかと歩みを進めようとしたとき、後ろから声がかかる。

 

「あの、道に迷ってしまいまして…。コンビニってどこにありますか?」

 

「…何かね?」

 

「ええと、コンビニに行こうと思っていたんですが、道に迷ってしまいまして…。スマホの充電も切れてしまい調べることも出来なくって。この辺りのコンビニまで、案内して頂けませんでしょうか?」

 

女の前に現れたのは、20才前後に見える女性。その女性を注意深く観察する──特に、手を良く見る。

爪は揃っていて綺麗に整えられている。毛が生えている様子は無し。肌も白く、実に自分好みだと言うことを確認し──なるほど、やはり運は味方しているらしい、と顔に笑みを浮かべる。

 

「なるほど…。では、案内しますよ。少し近道をしていきますので、離れないでください。ああ、それと雨が降った後のこの辺りは滑りやすいから、足元に気を付けて。決して走らないように。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

行動を決定したら、後は迅速に。女性が着いてきていることを確認した上で、コンビニとは全く逆の方向へと歩く。

狙いをつけていた人物とは違ったが、これもまた奇妙な運命。今ここで出会ったこの女性の美しさを見れるのがこれきり、と言うのは余りにも寂しいし、悲しい。であるなら、少しでも時間を共に過ごすためにもこちらの道を選んだのである。

 

そして暫くたった頃。女性が流石に不信感を抱いてきたことを感じ取った、先導していた女は、立ち止まる。そして、急に口を開く。

 

「わたしは…子供のころレオナルド・ダ・ビンチの『モナリザ』ってありますよね…。ご存知ですか?」

 

「え?ああ、はい。知っています。…どうかしましたか?」

 

「いえ、今から少し昔話をしようと思いまして…。歩き疲れたでしょう?ほら、ここのベンチにでも座って聞いてくださいよ。」

 

困惑した様子で、しかし断るわけにもいかず、渋々ここまで案内した女の隣に座る。

 

「あの絵…画集で見た時ですね

あの「モナリザ」がヒザのところで組んでいる『手』…

あれ…初めて見た時…

なんていうか…その…下品なんですが…フフ…興奮してしまいまして…いえ、ね。あなたの手もとても美しいので、つい…。」

 

「は、はぁ。」

 

不味い、何か不味い。この女からは底知れない悪意と気持ち悪さを感じる。即刻ここから立ち去るべきだと本能が警鐘を鳴らす。

 

「わ、私、そろそろ移動したいんですが…。」

 

「ああ、そうでしたか。では行きましょうか。」

 

意外なことに、すんなりと女は受け入れた。そして手を差し出し、立ち上がらせる。ニコリと微笑む女。ふと、その美しく整った顔立ちに魅了される。ふわりとした甘い匂いも髪から漂ってくる。後ろで束ねた金髪もまた美しい。同性の筈なのに、妙に意識してしまう。少し気まずくなって、思わず目をそらしてしまう。

 

その直後、絶望することも知らずに。

 

「ええ、行きましょう…。『貴女の手』だけね…。」

 

「…え」

 

その瞬間、手だけを残して女の身体が爆発四散する。血の一滴。布の一片すら遺さず消滅する。残されていたのは取り上げられた手一つ。

女は手を広げ、天を仰ぎ笑う。

 

「ああ、なんて美しい手だ…。わざわざ監視カメラのない道を通り路地裏まで連れてきたかいがあったというものだよ…フフ。この『吉良吉影』に不可能はない…!フフ。ハハハハ!」

 

支えを失った手がガクンと垂れる。

 

路地裏には狂った人間がポツンと取り残されているだけだった。

 

◆◆◆◆

 

IS学園──IS使用者を育成する国際機関。ISの操縦者育成を目的とした教育機関であり、その運営及び資金調達には原則として日本国が行っていると言う──さて、ここでは『平穏』な生活を送ることが出来るのだろうか。そう考えながら入学式に出席する。

そう言えばこの代は男性操縦者も居るのだったか──?

 

それにしても、詰まらん話だ。なぜこんな話を聴かなくちゃあならないのか…全く、私の望む平穏にたどり着くための、その過程として必要とは言え、なかなか面倒だ。

 

ふと、自分の腕に巻き付けた腕時計に目が行く。

髑髏マークが刻まれた時計が、カチ、カチと秒針を刻む。その音に平穏を感じながら、時が流れるのを待つ。

 

やがて入学式も終わり、クラス分けを確認──ふむ、1-A。他のクラスメイトを確認すると、不穏な気配をビンビンと感じるが、それはそれ。この吉良吉影、必ず争いやトラブルなく生き延びて見せる。

──最も、闘ったとしても私は誰にも負けんがね。

 

廊下を歩み、既にチラホラと人が入っている教室に一歩足を踏み入れる。自席を確認、窓際。日の光を浴びながら過ごせることが確定したな。良いじゃあないか。

自席に座り込み、持ち込んでいた本を読み始める。

『レオナルド・ダ・ビンチ──天才の生み出す芸術に迫る──』そんなチンケなタイトルの本だ。しかし、私はあの日以来──モナリザと出会ったあの日からこれに取り憑かれてしまった。今や美しい『手』を懐に持っていないときの精神安定剤のようなものにまでなってしまっている。美しい手。それだけで私には魅力的に写るのだ。

その点この環境は素晴らしい。どこを見ても美女ばかり。美しい手の持ち主も数多く存在している。

──とくに、あの金髪の女性の手。少し見ただけであるが、相当手入れされている。実に私好みの手だ。今すぐにでも『手を出し』てしまいたいが、それはもう暫くして、平穏な確固たる地位を確立してからだな──

 

読書に耽りながらそう考えていたとき、教室の雰囲気がガラリと変わる。

 

いったい何事かと顔を上げると、そこに立っていたのは一人の男子。

 

なるほど、彼が男性操縦者『織斑 一夏』か。案の定と言うべきか、やはり注目の的になっているようだ。あのような状態では『平穏』とは程遠いだろう。

 

彼の入室で空気が変わったのも束の間、チャイムが鳴り響く。一限の始まりを告げる鐘だ。

カツカツ、と音を響かせ一人の女性が教卓へと歩いてくる。

 

「皆様、御入学おめでとうございます!私はクラス副担任を務めさせていただきます、山田真耶と申します。一年間、よろしくお願いいたします!」

 

「よろしくお願いします!」「よろしく頼むよ。」

 

おや、反応したのは私と彼だけか。クラス副担任、山田先生か…。きちんと覚えなくちゃあ、失礼になってしまうな。

 

「っはい!ありがとうございます!それでは、名前順に簡単に自己紹介してくださいね!」

 

そう言われ、順に自己紹介をして行く。正直詰まらない。レオナルド・ダ・ビンチの画集を眺めていた方が有意義に感じてしまう。彼の番が来たとき、少し盛り上がりを見せたがそこまで。織斑千冬──最強のISパイロットにして彼の姉、そして一応私の上司…だが、実のところそこまで興味はない。むしろ平穏な日常を送る上では邪魔になる、トラブルに巻き込んでくる人物である。私の立場が割れてなければ始末していたものを…。

 

「次、吉良さん!お願いします!」

 

──私の番か、やれやれ。

画集を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「私の名は『吉良吉影』 年齢15歳。自宅は杜王町北東部の別荘地帯。仕事は『日本代表候補生』。毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。

炭酸は飲めない。ゲームは嗜む程度。少なくとも夜11時には床につき、必ず8時間は睡眠をとるようにしている…。今日は10時に寝たから6時には起きた…。寝る前にあたたかいミルクを飲み、20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床につくと、ほとんど朝まで熟睡さ…。

赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに朝目を覚ませるんだ。健康診断でも異常なしと言われたよ…。私は『平穏な日常』を…争いやトラブルのない日常を過ごすことを目標としている…よろしく、頼むよ。」

 

この吉良吉影、どんなピンチだろうと切り抜けてきた。今回もそうだ。私は必ず、平穏に生き延びて見せるぞ…!

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