自称吉良吉影(TS高校生)の奇妙な冒険 作:キラークイーンは既にISに触れている…
自己紹介が終わり、なんやかんやトラブルが起こったりしつつも時は流れ、三時間目に突入する。担任の織斑千冬が壇上に立ち、号令をかける。
この時間はホームルーム、今後のクラス内での役職決めなどをやるそうだが…私に回ってこないことを祈っている。
「これよりクラス代表を選出する。自薦他薦は問わない。誰か居るか?」
「はーい!じゃあ織斑くんを指名します!」
「私もー!」
なるほど、まあ代表と言う観点において、唯一無二の男性操縦者だからにしても人望が高い方が良いだろう。彼がここに居続ける限り、このクラスは纏まり続けるだろう。彼にはそのような『格』を感じる。
そして、手の美しい金髪の女性。確か名前はセシリアと言ったか。誰かに他薦されないかと周りをキョロキョロと見回しているな。正直少し滑稽で面白かったが、口は災いのもと。変なことは口に出さずに生きていくのが平穏に生きるコツだ。
彼女も賢しいのならそうするだろう。声を荒らげ怒鳴り散らすなど、英国淑女として失格であるだろうしな。ここは私も様子見で──
「待ってください!納得がいきませんわ!!」
──ダメじゃあないか。初手でそんなことを言ってしまえば、クラス内でいずれ孤立するぞ?
まあその時はその時で『手を出す』が、今はまだそうすべきではない。
織斑一夏とセシリアが口論をしているのを外から眺める。
若いってのはこうも熱くなりやすく、トラブルを呼びやすい。私はそうならないように、平穏に生き延びなければ…
「そして貴女!日本代表候補生なのでしょう!?なぜ声をあげないのですか!!」
──ここで私に矛先が向くか。面倒なことになったが反論しなければより面倒事が舞い込んでくるだろう。
「私は平穏な日常こそに価値があると思っている。私は別に自薦することも出来た。やらなかったのは単に私が『闘い』の嫌いな性格だったからだ…。他人と争うのはきりがなくムナしい行為だ。『勝ち負け』にこだわったり、頭をかかえるような『トラブル』とか、夜もねむれないといった『敵』をつくらない…というのが、私の社会に対する姿勢であり、それが自分の幸福だということを知っている…。」
「はぁ、そうですの。…なんと意気地無しなのでしょうか、失望しましたわ。もう結構です。」
ピク、と私の手が意に背いて反応する。
ここで言い返せば、間違いなく面倒事に巻き込まれる。私の望む『平穏な日常』とは程遠い人生を送ることになってしまうだろう。
しかし、この『吉良吉影』。今だ完璧な人間には成れず、思春期特有の幼さもまだ有している。端的に言おう。苛立っている。知り合いの漫画家風に言うのであれば、『この吉良吉影が舐められてたまるかァ──!!』と言ったところだ。
だから、今は。いずれ成長した私が若気の至りだと判断したとしても、このムカつく女に吠え面をかかせてやらなければ気が済まない…!
「もっとも──闘ったとしても、わたしは誰にも負けんがね。」
「…!言うじゃあないですの…!!決闘ですわ!!」
「乗った。つべこべ言うより話が早い。」
「…君たちは私の睡眠を妨げる『トラブル』であり『敵』というわけさ。私のことを誰かにしゃべられたり、話題に上げて『平穏』がこれ以上乱れてしまう前に…君たちを始末させてもらう。」
「決まり、か。では一週間後にアリーナで決闘を行い、クラス代表を決定する!!それで良いな!」
ふう、なんとかなったようだ。…それにしても、何てヒドイ日なんだ…。これ程私の平穏が乱されたことがあっただろうか…?いや、なかった。私は常に平穏な日常を過ごすことを最優先にして生活してきた。ここまでコケにされたのは初めてだったからつい言い返してしまったが、今考えると私を巻き込む必要はあまりなかったんじゃあないのかと思ってしまう。
まあいい。ここまで来てしまったからには、せめてこれ以上巻き込まれないための『圧勝』をし『挫折』ってものを味わって貰わなきゃな…。
◆◆◆◆
「今日はここまで、明日から本格的な授業だ。きちんと仕度しておくように。…とくに織斑、予習復習は済ますんだぞ?
それと、寮の鍵が無い奴は私か山田先生に伝えるように。では、解散!」
響く騒音。やかましい、鬱陶しいぞこのアマと叫びたくなるくらいの声量でバカ騒ぎするクラスメートの波を掻き分け自室へ繋がる廊下を歩む。
確か二人部屋だったか?良好な関係を築くことのできる人物であるなら良いのだが…。
そんな事を考えている内に、いつの間にか部屋の前に辿り着いていた。コンコン、と軽く戸を叩いてから鍵を開ける。
「おや…君か。簪。」
「あ、吉影。ってことは、同室?」
「そう言うわけさ。よろしく頼むよ。」
「此方こそ、よろしく。」
なんと、同室は奇妙な縁のある更識 簪だった。同じ代表候補として割と深めに関わっている人物で、言ってしまえば友人関係にある。なにより美しい手をしている。このような心も美しく、外見も美しく、手も美しいような完璧な女性と共に居られると考えると、興奮が止まらない。
フフ…やはり『運』はこの吉良吉影に味方してくれている…!なんと言う幸運!
私にとって平穏な日常とは激しい喜びもなく、深い絶望もない植物のような人生だが、彼女の横と言うのも追加しても良いかもしれない。それくらいには居心地の良い場所である。
「あ、そう言えば、決闘するって聞いたんだけど…吉影らしくもない。どうしたの?」
「おや、知っているのかね。…まあ、若気の至りと言う奴さ…今になって少し後悔をしている…。」
「なにやってるの本当に…。まあ、吉影と『打鉄 真打』なら勝てるでしょ。」
「勿論。負ける気はない。それと『キラークイーン』だ。そんな名前にした覚えはない。」
「…そうだったね。うん。久しぶりに会うから吉影がそんな感じなのを忘れてたよ。」
はぁ、と溜め息をつきながら眉間のあたりを少し揉んでいる簪。今から眉間にシワを寄せると将来シワが残るぞ、と言いたくなったが堪える。女性にそのような発言はよくない。デリカシーに欠けるからな…。
しかし、相当疲れているようだな。ここ最近寝れていないのか隈も出来ている。こう言う時に私が取るべき行動は一つ。
「…おいで、簪。」
「…ん。」
手を広げる。それに気づいた簪がフラフラとした足取りで此方に来て、私の胸へと倒れ込むようにして飛び込んでくる。あまりの勢いに後ろにあるベッドへと倒れ込んでしまいながらも、抱き締める。そして頭をゆっくりと撫で、背中をポンポンと叩いてやる。
「君はよくやっているよ。あれだけの仕打ちを姉と企業から受けても、立ち上がるその『黄金の精神』…それは並大抵の覚悟で持てるものではない。その『覚悟』を持つ君はとても素晴らしい女性だ。『覚悟』とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開くようなことだ。自暴自棄にならず冷静に物事を見つめ、向き合うこと…。それが出来る君は、美しく強かだ。私がそれを保証する。」
「…うん。」
簪が私の背中へと手を回し、胸に顔を埋める。やれやれ、と思いながらも此方も抱き返す。ちょうど簪の整った髪が顔の前に来る。…ワッフルのような甘い香りだ。鼻と脳が刺激される。…不味い、不味いぞ…!いつの間にこんな破壊力を身に付けていたんだ…!!この吉良吉影一生の不覚…!同性の同室の破壊力が果てしない…!
「…簪。私のベッドでこうしていると言うのは、第三者から見れば要らぬ噂が流れかねんぞ。そうなるのが嫌なら私のベッドから──」
「嫌だ、ここが良い。」
「…そうかい。」
…私の心の平穏が乱れなくなるのは、遠い未来のことなのかもしれない。今更ながらそんな事を考えていた。
◆◆◆◆
「…簪。もうそろそろ一時間経つぞ。流石に風呂に入りたいんだが。」
「…じゃあ、一緒に入る?」
ナチュラルにとんでもないことを言ってくれるじゃあないか…!この吉良吉影に不可能はないが、抵抗はあるぞ…!これまでも何回か共に入ったことこそあれど、それはまだ二人きりではなく温泉に一緒に行った時位…!ここはやんわりとお断りし、何とか別の事に意識を持っていかなければ…!
そう、間を空けて考えていたとき。
「…ダメ?」
「キミがそろそろ悪い男とか引っ掛けそうで怖いぞ…。」
思わず溜め息を溢してしまう。
上目遣いで涙ぐみながらものを頼むんじゃあない。自らが美しいことを自覚していないのか──いや、姉のせいだったか。全く、この美しさの化身のような美人兼愛情モンスターを私に預けることに抵抗がないのであればそのまま簪が歪むことの無いように幼少期からして欲しかったものだよ…。
「…仕方ない。一緒に入ってやるから放してくれ。まだ荷解きも出来ていないんだ。」
「分かった。」
私の胴を抱き締めていた腕の力が少し弱くなり、名残惜しそうに簪が離れる。
這うようにしてベッドから出て、段ボールのテープを剥がし、中から愛用の洗顔料、シャンプー、リンスなどなど一式を取り出し、手早く身体を洗い風呂に入る。
心地よい温度…穏やかだ。風呂は精神を安定させる。錯乱したときや混乱したときも風呂に入れば冷静になり、おのずとチャンスに変えることが出来る…。大切なのは、冷静になること。落ち着いて細やかな『気配り』と大胆な『行動力』で対処すれば…けっこう幸せな人生をおくれるような気がするのだ。
だかしかし!この吉良吉影最大のピンチが今目前に迫ってきていることを忘れちゃあいけない。さあ近づいてこい…!風呂に入ってみろ!!その瞬間に私はこの風呂から離脱して見せる…!
扉が開いた…!今だ!!湯船から身体を起こし、扉へと歩こうとしたその瞬間──
ガチャリ。鍵の閉まる音。どこの鍵だ?いや、まさか──
「逃がさないから。」
「…とんでもない奴だよ、キミは。」
◆◆◆◆
「…ふぅ。」
「ハァ、ハァ、ハァ…体力の無さを、実感したよ…。」
結局あの後捕まり、好き勝手された。お陰で体力がもうすっからかん…。こんなに疲れたのは久しぶりだよ…。
だがもう歯磨きは済ませた。あたたかいミルクを飲んでから20分ほどストレッチをした。入眠の準備は万全だ。1つ、問題があるとするなら
「吉影、寝よう。」
モンスターが私のベッドに寝転がっていることだった。
「…簪?そこは私のベッドなのだが。」
「一緒に寝る。」
「赤子のように熟睡とは言ったががそう言うことじゃあないんだよ。」
しかしこうなった簪が止まらないのは分かっている。やむを得まい。
簪と同じ布団に潜り、明かりを消す。向かい合う形になりながら上から毛布を被る。
「目覚ましはかけなくて良いんだったね?」
「うん、必要ないから。」
「そうか。…おやすみ、簪。」
「吉影も、おやすみ。」
簪を抱き抱える。一瞬、ビクッ、と反応したが、少しすると簪も抱き返してくる。簪は頭から私の胸に飛込むように抱き付き、私簪の髪に顔を埋める。
仄かに薫る簪の髪の香り。心地よさを感じながら目蓋を閉じる。
安心して、熟睡できそうだ。