「…そうか。よく選択した。なら、ブリーフィングを始めよう」
■ ■
アスティカシア高等学園は平和だった。何かが変わる事もなく、学生達は普通の生活を送っていた。
その―――筈だった。
ドカァァァァンッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
劈く様な爆音と共に、爆風と強い揺れがアスティカシア全体を襲う。
悲鳴と戸惑いが生徒たちを支配する。
恐怖によって体が硬直する彼らの目には―――見た事のない機体が写った。
右腕にアサルトライフル、左腕にパイルバンカー。右肩部に2連装式のグレネードランチャー、左肩部に小型の3連装デュアルミサイルを装備したAC―――『ナイトフォール』。
彼が受け継いだ、「レイヴン」という意思の表象。彼らが乗り続けた機体である。
『MS管理室を確認。スレッタ、MSに搭乗を』
「はい!」
『他のMSはこちらで破壊しておく。搭乗が完了次第、此処を出るぞ』
スレッタ・マーキュリーは、やり返しを選んだ。彼女達の望みからは遠くかけ離れた選択―――自ら彼女達を消す答えを選んだ。
その答えの為に、彼女は傭兵を雇った。この世界において、最も敵に回してはいけない傭兵を。
独立傭兵レイヴン―――辺境の惑星ルビコンにおいて活躍し、ルビコンの守護者と呼ばれる伝説の傭兵。
壁越えを果たし、惑星封鎖機構の主力を落とし、コーラルを用いたワーム兵器を殺し、たった一人で50ものMT部隊とベイラムのAC部隊『レッドガン』の総長を相手取り、勝利を収めるなど数多くの戦歴を持つ男だ。
『レイヴン。今回のミッションは、あくまでもスレッタと共にアスティカシアを出る事です。無駄な戦闘はなるべく避けましょう』
『あぁ。だが、立ち塞がるなら討つ。例えそれが、彼女の友人であろうと』
『…そうですね。立ち塞がるなら、誰であろうと。…! 敵性反応、高速で接近する機体が居ます!』
『…了解、迎撃する』
《メインシステム、戦闘モード起動》
COMの声と共に、ガシャンッ…と、ACの顔を覆う様に降ろされるバイザー。
三つしかない目を補い、視界を大きく広げる高性能センサーであると共に、顔面への攻撃を防ぐ盾にもなる代物だ。
赤く光る無数の目が、ソレを捉える。それだけで、彼女は己の死を脳裏に思い浮かべ、体を震え上がらせた。
だが、彼女は吠えた。
『テメェ、スレッタに何しやがったッ!』
ライフルの銃口を、まるで鈍器の柄を握る様にして構えたまま突撃してくる機体。
見た事のない機体だが、その性能が決して良いものではないという事は、目に見えて明らかだった。
『目標を確認しました。MS デミバーディング。識別名 チュアチュリー・パンランチです』
「チュチュ先輩…」
『……迎撃する』
右腕に装備したベイラム製のアサルトライフルを構え、『アサルト・ブースト』を使用して、ナイトフォールは一気に彼我の距離を詰める。
引き金を引く。ドンドンッッ、ドンドンドンッッッ!!!! と、轟音と共に5発の弾丸がその機体へと飛んでいく。
ベイラム製アサルトライフル『RF-025 SCUDDER』。
ベイラムの開発した火力型アサルトライフル。単発の攻撃性能を重視し、調節を施したバリエーション。
発射サイクルは長くなっており、使用には精度が要求される代物。
ベイラム社が誇るのは、その圧倒的な『火力と物量』による『制圧』。
彼らが創り出す品々は全てが等しく高出力かつ高威力、そして高強固だ。
MSのそれとも、全く遜色ない。
『くっ…!』
『…敵の装甲は、どうやらあまり硬くはないようです。距離を詰めて、確実に仕留めましょう』
『あぁ』
閃光が空を穿つ。
デミバーディングが持つビームライフルから放たれた閃光の弾丸が、ナイトフォールを襲う。
警告が鳴る。ブースターを横に動かし、左へとクイックして回避する。
距離は縮まるばかり。デミバーディングとナイトフォール、否―――チュチュとレイブン。
その両者の実力差は―――歴然だ。
『テメェか! テメェがスレッタを唆したのか!?』
『……』
『知ってるぞ、その機体…独立傭兵レイヴンだろ! 星を救った英雄サマが、一人の女を唆して何をするつもりだ!?』
『……』
『だんまりかよ…なら、直接聞き出してやる!』
意気込む様に、デミバーディングは手に持ったビームライフルを連射し、弾幕を張る。
が、それら全てをまるで予知していたかの様に、ACナイトフォールは軽々と避けていく。
30、20、10―――距離が、完全に縮まった瞬間、
ガンッ!!! と、鈍い音が空を叩いた。
振り上げられた右脚が、鋭い蹴りをデミバーディングへと放ったのだ。
ブーストキック。アサルトブーストによる超加速が乗ったその蹴りは、デミバーディングを呆気なく後方へと吹き飛ばした。
『がっ!?』
『ACS負荷限界です。レイブン』
『……』
ガコンッ―――扉が開く。太く鋭い鉄杭が、その顔を奥へと引き込める。
体勢を崩し、もはや隙だらけとなった敵機へと、クイックブーストを以て、鴉は一瞬で近付いた。
力を抑え込み、溜め込み、震える弓の弦の様に待機し続けるその杭を―――遂に、解き放った。
バゴッッ、ドゴッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
溢れんばかりの全力を解き放たれた鉄杭が機体を貫き、爆風を引き起こして吹き飛ばす。
炎が揺れる。命が燃える。電流が走り、燃え出す―――かつての仲間の最期を、スレッタ・マーキュリーはその目で見た。
『スレッ……タ……』
ノイズが混じり、上手く聴き取れる筈もない呟き。
だが、スレッタは確かにそれを聞いた。聞き取った。
…スレッタの心に罅が入った事は、彼女自身すら気が付かなかった。
『敵MSの排除を確認。…スレッタも機体に乗り込んだ様です』
『了解した。行くぞ、スレッタ』
「………はい。行きましょう」
そうして、魔女と猟犬は箱庭を出たのだ。
アステカシア学園は、たった一人の傭兵によって壊滅的な被害を受けた。
学園に配設されていたMS、盗まれた一機を除いた全機破損。学園の一部破壊。
幸いな事に、負傷者は数名、死者はたった一人で済んだものの……
チュアチュリー・パンランチ。彼女の死を知った友人は、その死と、スレッタ・マーキュリーの生死不明に衝撃を走らせた……