第三次聖杯戦争
───それは『悪』とは何かを問う物語。
そして、この聖杯戦争は不正だらけの聖杯戦争でもあった
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■聖杯戦争までXX日前
「・・・要はその聖杯戦争とやらで捨て駒になれということか?」
淡々と返答する青年と老年が相対する。
「その可能性が1番高い。もちろん勝ち残るのが最善ではあるがな。」
老年らしき者が返答する。
老年の名はユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン
名の知れた魔術師らしい。
魔術師自体、知識が皆無に等しい俺が知った所で検討も付かんがおそらく凄い人なんだろう。
「んじゃあ契約の再確認だ。俺はその聖杯戦争でマスターとして参加し、アヴェンジャーのアンリマユとやらをそこのお嬢さんのバックアップをもとに、召喚する。」
「んで、その召喚した奴と力を合わせて、あわよくば他の6騎のサーヴァントを倒してもいいし最悪、倒されてもいい。結果の有無を問わず聖杯戦争に参加した瞬間、報酬が確定となる。もし運よく6騎全員倒したらそこのお嬢さんに願いの権限を渡す。これで大体あっているか?」
「その認識で良い。」
「じゃあ次に何点か質問だ。」
「まず、1点目は捨て駒になってもいい理由とは何だ?聞く話だと聖杯戦争で勝ち残って願いを叶える事が目的なのでは?」
「捨て駒になってもいい理由は結論から言うとアヴェンジャーのクラス特性があるからだ。
聖杯戦争におけるアヴェンジャーの特権として、聖杯戦争で最後に生き残った参加者のマスターを復讐という名目で聖杯の願いを優先的に叶える事が出来る。言ってしまえば聖杯戦争自体をノーゲームに出来るという訳だ。」
「聖杯戦争自体の強制引き分けか。確かに協力だがそれなら尚更俺なんかを呼ばず、そちらのお嬢さんが聖杯戦争に参加すれば良いだろうに」
思った事は何でも口に出してしまうのは俺の悪い癖だ。親友からは素直で友達が出来やすい良い個性じゃないかと言ってくれたがこんな癖は社会において寧ろデメリットだ。
こんな癖のせいでこんなところで捨て駒まがいな事をやっているんじゃないかと思うほどに。
「貴様を呼んだ理由は2点ある。
1点目は幸運か不幸か貴様に令呪が宿った事。これは我らアインツベルンは選ばれなかった事が理由として大きい。貴様の令呪を無理に奪い取っても良かったが選ばれなかった時点で今回のアインツベルン家は敗北なのだ。よって貴様を使って第三魔法の成就もしくは此度の聖杯戦争をノーゲームにしたい。
2点目に未知なるクラスであるアヴェンジャーでありかつ悪神であるアンリマユを呼び出すのだ。
令呪の発動前にマスター殺しがあるかもしれん。参加前にいきなり脱落は流石に避けたい。貴様が殺された直後、こちら側に令呪を移譲するようセルフ・ギアス・スクロールという呪術契約で契約させてある。」
「げ、あれって魔術関連の契約書だったのかよ。ただの契約書かと思ったぜ。
ってかいくら聖杯戦争をノーゲームに出来るからと言ってそんな危ない奴を召喚させるより他のアヴェンジャーか。もしくは他のクラスを召喚した方が安全では?」
「アヴェンジャークラス自体初めて召喚する。復讐の願いが確実性があるかもわからん。よって確実にする為に「殺す事だけに特化した者」つまりアンリマユに白羽の矢が立ったという訳だ。しかも、もしこのサーヴァントが召喚に成功できれば他のマスターたちを容易に皆殺しに出来るやもしれん。かつ今回の聖杯戦争では過去の聖杯戦争というあまたなる凄惨な殺し合いという儀式の失敗を改善すべく、聖堂教会の神父が審判役としてルールが改訂された。このルールが聖杯戦争自体にどう影響するかもわからん。今回は様子見をし、次回もしくは次々回のために力を温存しておきたい。」
「なるほど大体分かった。つまり俺は様子見のマスター代用品という訳か。まぁ俺みたいな奴は丁度良い扱いだな。
最後に3点の質問だ。まず1点目は聖杯の願いを他の御三家に譲る選択肢はねぇのか?聖杯戦争の目的は数あれど御三家の目的は『根源』の到達のはずだ。おてて繋いでまではいかなくとも3人の内1人が到達すれば上出来だ。他の者は順番で到達すればいいはずだ。
次に2点目はアンリマユの召喚する理由は分かった。だがそんな神様みたいな奴を召喚できるのか?
3点目はアヴェンジャーというエクストラクラスを召喚なんてして良いのか?聞く限りどうみても聖杯戦争のバランスを崩壊させかねないほど強力に見えるんだが。」
「まず1点目における意見は根本が間違っている。根源の到達とは競争に等しい。魔術師全員が行う人生全てを賭けた椅子取りゲームのようなもの。そんな椅子を他人に譲る時点でその者は魔術師ではない。かつ我々の『目的』は同じではあるが『過程』が異なる。その『過程』の違いによって我らは道を違えた。」
「2点目の聖杯戦争における神霊の召喚は不可能だ。神霊を呼び出せる力があるのであればそもそも聖杯は必要が無い。
だかどんな不可能な理論であっても実践しなければ魔術師の名が廃る。最悪それに近い力さえ持ってれば良い。」
「最後の3点目はこのエクストラクラス召喚自体は不正ではないが。アヴェンジャー自体はルール違反つまり不正の代物だ。通常であれば発覚次第然るべき罰が下されるがこれは認められた不正である。聖杯戦争作成時に契約により1度だけ許された越権行為。戦闘面で劣っている我らアインツベルンに対しての1回限りのハンデだ。」
「これで聞きたい事は以上か?」
「そうだな。エクストラクラスっていうのは他にもあるのか?」
「あるにはある。例えば今回の聖杯戦争においてルーラーを召喚するという選択肢もあったが今回はアインツベルン家の正式なマスターとして選ばれなかった点と力の温存が最優先になったためアヴェンジャーという選択肢を選択する事となった。」
「さて、これで納得して貰えたか?特に質問がなければ、早速召喚の儀を執り行いたいがよろしいか?そして、もし叶う事ならば此度の聖杯戦争で第三魔法の成就を。」
「了解、これで雑念なく戦闘に挑める。召喚の儀の準備を頼む。」
(これで後戻りは出来ないな。まぁ出来るだけ足搔いてやるさ。)
召喚の儀の準備が行われる。何かとせわしないが魔術師知識皆無の俺からすると何をしているのか全く見当も付かない。なんとなく分かるのは古い経典らしきものが鎮座されている事だけだ。
・・・準備が完了したようだ。
「このメモの指示に従って、行動してください。慎重かつ丁寧にお願いします。ここで失敗すれば報酬は無かったものになると肝に銘じてください。」
色白のお人形のようなお嬢さんからメモ用紙を手渡された。
「意外と簡単なんだな」
「ええ、簡単に出来るようこちら側で準備しましたから」
「ほんと魔術師っていうのは嫌味な奴が多いんだな。なんというか違う生物として見られてる気分だ」
「そりゃ違う生物ですから」
「そりゃどういう・・・」
「時間です。早速取り掛かってください」
さっきの発言は少し気になるがまぁいい。
今この瞬間が俺の人生の中で最も重要なターニングポイントなのだから。
「・・・素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「―――――Anfang(セット)」
「――――――告げる」
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝は復讐を誓う。汝、業火の炎を纏えし者。汝は忘れた想いを呼び覚ます者───。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
そう詠唱した瞬間光が放たれた。
その光に触れた瞬間
───ふと、初恋の少女の顔が浮かんだ。
突然の光に身体が仰け反る。
『これは───』
「ハズレだ」
そっと老年が呟いた。
「問わせてください。あなたが私のマスターでしょうか?」
魔法陣の上には歪な形をした武器を持った小柄で赤い目。赤い色に包まれたボロボロのワンピース服を着ている。一言で表すとスラムに居そうな少女が立っていた。
(肌の色は違うが非常に似ている。いやそのものと言ってもいい)
外面は自分の記憶からそのまま切り抜かれたかのように。心が胸やけするように焦がれ、そして糸くずのようにその恋を諦めた瞬間の初恋の少女そのものだった───
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■聖杯戦争1日目
夢を見た。
顔の無い黒子のような少女が村で友達や家族と共に遊んでいる。
そんな他愛の無い、しかし失って初めて気づくそんな日常。
まるで人生の中で最高の日かといわんばかりのそんな。
そんな誰もがお昼寝をしたくなるような暖かな日差しにいるようなそんな日常が
まるで賽の河原のように続くそんな夢を見た。
「起きてください。マスター!マスターってば」
少女の声が聞こえる。
しかし、なんとも眠い。
二度寝すればきっと至上の天国のように思えるほどの眠気だ。
こういうときはふて寝に限る。
「どうしよう。マスター全然起きない・・・・こうなったら。えい!」
少女が首元に手をかける。
・・・訂正しよう。このままでは地獄のような永遠の眠りについてしまう。
「ぐええええええ、死ぬ死ぬ死ぬ。」
少女であったとしても流石にサーヴァント。ゴリラ並の腕力で捕まれた気分だ。
「やっぱりふて寝じゃないですかー。もう!早く起きてください、パトロンさんはすぐに起きているんですから」
アヴェンジャーは杜撰に手を放し部屋から移動する。
一応マスターである俺に対してこんな態度であるかはこのパトロンが原因である。
「遅い起床ですね。まるで殺し合い開始の初日とは感じさせないほど、素晴らしい起床です。」
「始まったか・・・」
「ええ、始まりました。」
パトロンの正体はそう、あの召喚の儀に立ち会った色白で白髪の人形のような見た目をした一言で表すとお嬢様と言った風貌の女性だ。
アヴェンジャー限界維持コストの魔力を支払い事ができない俺の代わりに魔力といった諸々をサポートしてくれる。事実上のアヴェンジャーのマスターに近い。
まぁこの嫌味たらしさでその有難みも半減なんだが。
アヴェンジャーも俺よりこのパトロンの方を信頼しきっている。
俺の扱いといえば一応マスター(笑)のような扱いだ。
いつ見限られるかヒヤヒヤしながら生きている。
「聖杯戦争のルールや基本クラスの理解は出来ました?」
「ああ、色々わかったぜ。まず、聖杯戦争において序盤で一番厄介なのはアサシンだ。」
「その心は」
「まず、序盤の聖杯戦争は三つ巴のような乱戦になりやすく、サーヴァントVSサーヴァント。マスターVSマスター戦になりやすい。」
「そんな中で気配遮断のクラススキルは厄介だ。アサシンの攻防を防ぐほどの化け物か手段がない限りサーヴァントはマスターの状態や位置を常に把握しながら戦わなければならない。はっきり言ってサーヴァントにとってマスターはただの枷だ。」
「よって、アサシンの対策をしつつ、かつアサシンを利用して強いサーヴァントの目を消してもらう必要がある。」
「要はアサシンは直ぐに潰さず頃合いを見て倒す必要がある。対策方法の中で一番簡単なのは同盟だな。同盟をするならアサシンはもちろん、アーチャー、ライダーもしくはキャスターだな。」
「アサシンの同盟は分かりますがキャスター、ライダー、アーチャーの同盟の意図とは?」
「キャスターは陣地作成のクラススキルが大きい。これを上手く利用すればアサシンの発見かつ
他の強敵のジャイアントキリングも可能だ。かつ同盟に応じやすい傾向にある。理由としてはクラススキルの対魔力のせいで1対1は不向きになりやすいが挙げられるな。
次にアーチャーの同盟理由は非常に簡単だ。遠距離射撃の後方支援は非常にありがたいな。しかも単独行動のおかげで探索力もある。罠や奇襲の対策が出来るのはありがたい。ただし裏切られた時のリスクがでかいがな。
最後にライダーはなんといったって機動力だ。奇襲&早期撤退はアサシンにとっては標的の補足がしづらく天敵に近いと言えるだろう。ただし、乗り物等の現界維持の魔力が高い傾向にあるためそこのメリットを提示出来れば同盟も夢ではないだろう」
「では逆にセイバー、ランサーとの同盟をしない理由とは」
「それは単純だ。セイバーやランサーは自己解決しやすいからだ。
セイバーは最優のサーヴァントが召喚される事が多いためマスターの枷自体ほぼ気にしないだろうし、ランサーは敏捷力がどのサーヴァントより高い傾向にある。アサシンの奇襲も令呪と敏捷力を合わせれば即時対応可能だろう。よって相手側の同盟のメリットが少なく断られる可能性が高い。」
「なるほど一応戦いの基本ぐらいは抑えているようですね。」
「まぁ一応フリーの傭兵だしな。ただ問題なのは───」
「アヴェンジャーの宝具ですか。」
今回召喚したアヴェンジャーは何故か宝具が使えない。原因は現状不明だ。
「正直この問題が一番きつい。
サーヴァントVSサーヴァントにおいてはよほど戦力差が大きく開かれていない限り、宝具対決になる。
正直強い宝具であればあるほど勝ち残りやすいと言っていいだろう。」
「まぁこればかりは同意見です。」
「パラメーター自体はやりようはあるんだがな」
陰鬱な空気だ、そろそろ本題に移るか。
「聖杯戦争が始まったって事は聖堂教会に派遣された監督役との顔合わせか。」
「お嬢さんはどうする?顔合わせに来なくても、ルール違反等でおそらく目をつけられる事は無いと思うが。」
「私も行きます。万が一、目を付けられたら厄介ですから。」
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「ここが冬木教会か」
幅広い道の先に想像通りと言っていい程の教会がポツンと立っている。
なんというかこの国の中では異質だ。だがそんな不自然さを醸し出しているいるのにも関わらず、ひとけを感じさせない。
まるで違う世界に迷い込んだアリスのようだ。
「さて、入りましょうか。アヴェンジャー、あなたはここで待ってください。聖杯戦争のルール改訂により、この場所にサーヴァントの侵入は許されない。」
そう言うとアヴェンジャーは姿を現した。
「かしこまりました。パトロン様」
突然現れたってのに自然に会話している。
これがサーヴァントってやつか。
「あ、マスター。今、幽霊みたいな奴だな~って馬鹿にしてたでしょ!」
「あーいや、別にソンナコトナイヨー」
少し幽霊っぽいとは思っていたが中々鋭いなこいつ
「絶対絶対ぜーったい、思ってた!」
なんかここまで疑われると逆に認めたくないな
「いーや!思ってないね!多分な!」
「なによそれ!ほとんど認めてるようなものじゃない!そんなバレバレの嘘付くならさっさと認めたらいいのに!」
アヴェンジャーは他愛も無い事で俺に喧嘩を売ってくる。
パトロンには丁寧な態度なのに。不可解だ。俺の事をマスターとして認めてないのか、それとも俺が男だからか。色々嫌われる候補は考えられるがどれも確証を得ない
「やめなさい、二人とも。アインツベルンの品格が疑われるわ」
「す、すいません。パトロン様」
「貴方もマスターであるならサーヴァントの小競り合いが後々に響くくらい、大体分かるでしょ」
「はいはい、肝に銘じておきますよ」
もちろん、こんなセリフは自分でも子供じみてるとは思う。
でもこれくらい別に良いじゃないか。
あの頃の彼女とは一言も喋れなかったんだから。
「さて、んじゃあ開けるぞ」
扉を開けた時、ギシリと音がなり、その扉の先にある講壇の前に筋骨隆々の神父が立っていた。
「お初にお目にかかる、私の名は
物腰が柔らかそうだがバチバチの武闘派と言っていいほどの雰囲気だ。ここまで拳が武器だと言わんばかりの筋肉は中々居ないだろう。
「あー俺がアヴェンジャーのマスターです。名前はチャーリー・ミラーです。以後よろしく」
「こちらこそ、よろしく。そちらのお嬢さんはアインツベルン家の者ですかな?」
「はい、そうです。名はマダリスフィール・フォン・アインツベルン。このマスターをサポートしている者です。」
「ご紹介、誠にありがとうございます。私は貴方がマスターかといやはや、ご無礼のほど申し訳ない。」
「別に構いません。彼が死亡すれば自動的に私がマスターとなりますのでそうなったらお見知りおきを。」
「ハハハ、そうならないよう願っております。」
(なんか俺が死ぬ前提で話してないか?まぁ、自分でも魔術師相手との戦闘は厳しいとは思うが・・・)
「さて、では本題を。まずアヴェンジャーというエクストラクラスの件ですが、他の御三家の問い合わせをさせて頂きましたのでおおよそは把握しております。よって、この件に関しては今回の聖杯戦争のみ不問とさせていただきます。」
「ご賢明なご判断をたまわり、恐縮に存じます。」
「次回以降は厳しく処理させて頂きますのでご容赦のほどを。では次に監督役の導入にあたってのルール改訂をご説明させていただきます。」
「まずルール改訂の要点は3点です。
1点目、聖杯戦争の途中放棄の許可。
2点目、度か過ぎた神秘の秘匿の放棄に対する厳罰化
3点目、エクストラクラスの召喚の明確的な禁止。
1点目については巻き込まれた参加者等が追い詰められ、神秘の隠匿の放棄を多発したため、その防止策となります。途中放棄した参加者の令呪は監督役に移譲されます。移譲された令呪の用途は2点目に対する貢献の報酬として利用されます。そして召喚したサーヴァントとの契約を打ち切られ、打ち切られたサーヴァントははぐれサーヴァントとなります。
2点目は監査役の判断により著しく神秘の隠匿をしないと判断された者は参加を放棄した者と見なし、他の参加者の協力を募り討伐します。討伐の協力をするかどうかはご自身の判断でよろしくお願いします。協力された方はその貢献度を考慮した上報酬を受け渡します。誰も協力をしないのであれば、かなり特例ですがその状況の場合はルーラーの召喚条件が満たされるはずなので私の方からルーラの召喚をさせて頂きます。
3点目は2点目の特例や今回のアヴェンジャーの件であまり説得力はありませんが次回以降、エクストラクラスの召喚は2点目の特例以外、禁止します。やはりエクストラクラスは聖杯戦争の不安定化を招きますからね。ご理解のほどよろしくお願いいたします。」
「また、アインツベルン家からのご希望である聖遺物を監督もさせていただきます。盗んだ聖遺物の者も討伐対象となります。」
「長いご説明になりましたが何かご質問はございますかな?」
「では私、マダリスからご質問を。こちらから監督役をお願いして申し訳ございませんが聖堂教会側や監督役のルール違反の可能性は?別に本音でなくても構いません。」
「貴方は嘘かどうかを見破る妖精眼に近い魔術を有してるで有名な方。虚偽で話すなんてとんでもございません。」
「まぁ、お褒めの言葉恐縮です。ですがこの魔術は少し精度が良いだけのただの嘘発見器のようなもの。妖精眼よりもかなりの劣化品です。」
「ハハハ、ご謙遜を。申し訳ない、話がそれましたな。
ご質問の回答としましてはルール違反に関しては絶対にありえません。聖杯戦争のルールは聖堂教会側は全て熟読の上で納得し、合意したものです。このルールを違反する事は即ち神に背く事と同義。発覚次第、即処置が行われます。」
「・・・なるほど、ご回答ありがとうございます。」
どうやら嘘は付いてないっぽいな。
ルールは必ず守る。
その点だけは信用出来そうだ。
だが、裏を返せばルールの中で聖堂協会側のメリットになるのであればなんでもするっていう意味合いにもなる。
中立と言えど完全な中立な立場ではないって事だな。
「チャーリーさんはご質問はございますか?」
「1点良いですか。そのルーラーっていうクラスの特徴を教えてください。」
「ルーラー等のエクストラクラスはマダリスさんの方が詳しいと思いますが・・・」
「ルーラークラスについての知識はユーブスタクハイト様から特に必要ないと判断されたため、あまりご存じありません。言峰様からのご説明のほどお願い申し上げます。」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます。」
「ルーラークラスは一言でいうと裁定者です。本来は聖杯自身に召喚され、聖杯戦争の概念そのものを守るために動きます。部外者を巻き込むなど神秘の隠匿破る者に注意を促し、場合によってはペナルティを与え、聖杯戦争そのものが成立しなくなる事態を防ぐためのサーヴァントとなります。そのためクラススキルはサーヴァントの拘束等を有しています。要は私よりも強い者ですな。」
「・・?それなら、始めから監督役はルーラーでいいのでは?」
「ルーラは召喚条件があります。人の手の及ばす裁定者が必要だと聖杯側から判断された場合
もしくは聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合のみ聖杯側もしくは他者からの召喚によって召喚されます。」
「なので細かな問題に対しては対応が難しいのです。」
まるで聖杯に意思があるかのような発言だな。いやあるのか・・・?
まぁいい、その問題は気にするべき点じゃない。
「なるほど、ありがとうございます。」
「いえいえ、構いませんよ。では次のお話をさせてもらいますね」
「チャーリーさん、聖杯戦争の参加の放棄のお考えはございますか?」
「え・・・」
正直、その選択肢は少しは脳裏に浮かんでいた。
正直、この聖杯戦争という殺し合いの中でこのアヴェンジャーで続行するのはかなりきつい。
だが十中八九、報酬は支払われないだろうし、ここで投げ出すのはなんか違う気がする。
なら答えは───
「いえ、途中放棄はしません。私は私のサーヴァントで聖杯を目指します。」
「──ほう」
「了解しました。では、こちらからのお話はございません。お二人方の方から何か無ければ、お帰り頂いても構いませんよ。」
「わざわざお時間割いて頂き、誠にありがとうございます。」
「いえいえ、こちらかこそ有意義な時間を過ごせました。」
教会の扉を閉めるとマダリスが話かけてきた。
「聖杯戦争の途中放棄しないんですね。」
「どう考えても途中放棄したら報酬が支払われないっぽいからな。」
「まぁその通りですけど。ですが本当によろしかったんですか?」
「今回の聖杯戦争で勝ち残るのはかなり厳しい。今回のサーヴァントで聖杯戦争を本当に勝ち残れるとお思いで?もしくは何か秘策が?」
「いや秘策なんかねぇよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「ただ、たまには諦める以外の選択肢を取ろうと思っただけさ。9割報酬のため、1割気まぐれだ。別にお前らの為に参加したわけじゃねぇからな!」
「・・・フフ」
嘲笑気味だが初めて、彼女の笑顔を見た気がする。
「な、なんだ」
「おかしな方だなっと再確認したまでです。」
「ほっとけ」
「そういやお嬢さんは良いのか。勝ち目の薄い事が分かってるならアインツベルンの本拠地に戻る選択肢もあるのでは?」
「いえ、私達の願望は聖杯を手に入れる事。分が悪いからといってやらないという選択肢はありません。」
「そこまでの執念か。他にはやりたい事とかないのか?」
「他にやりたい事?特にありませんが。」
「うーん。んじゃあ俺のやりたい事に協力してくれ」
「やりたい事?」
「ん?ただの外食だけど」
「なに、簡単だ金貸してくれ。なんなら報酬から天引きでも良い。」
彼女の顔が少し不機嫌になる。
「普通、女性にたかりますか?というか前金は渡したはず、そのお金はどうしたんです?」
「その前金は銃の調達とかで無くなっちまった。というかあんな前金程度でやりくりしたんだ。逆に俺を褒めて欲しいね。」
「はぁそうですか。偉い偉い」
「ったく魔術師は銃を軽視しすぎだ。玩具の値段と同じだと本気で思ってやがる。」
「なら、分かりました。お金を渡すので勝手に行ってください。」
「いやいや、今は聖杯戦争の最中な戦闘になったら誰が魔力供給してくれるんだよ。」
「なら諦めてください。」
「こんな独り身のおっさんの些細な趣味なんだ。別にいいじゃんかよぉ~」
「日本食食べてみたーい。お金頂戴ー!」
「30代の男性が子供の我儘の物まねしてるとなんというか・・・憐れですね。」
憐みの目でこちらを見る。
下手に言い返すと二度と口を聞いてもらえない気がしたのでここはグッと堪える。
「まぁいいでしょう。聖杯戦争に影響を及ぼされても困ります。」
「ですが今日はもう遅いので明日でお願いします。」
「やったー。恩に着ます、マダリス様」
そんなやり取りが終わった後、教会の外まで歩いているとアヴェンジャーがポツンと座っていた
「何してんだここで。しかも体育座りで」
「ずっと立ってるの疲れちゃったから座ってた。」
「疲れちゃったってお前」
一応こいつサーヴァントなんだよな・・・?
「良いじゃありませんか。魔力切れかもしれませんし、帰ったら念のため魔力供給しましょう。」
お嬢さんは妙にこのサーヴァントに優しい。
何かしらシンパシーを感じるんだろうか。
「わーいパトロン様ありがとう」
「んじゃあ帰るぞ。今日の晩飯はすき焼きだ。」
「私、サーヴァントだから別に食事なんて良いって言ってるのに」
「こういうのは気分なんだよ。一応使い魔なんだからたまにはマスターである俺の指示にも従ってくれ」
「あっかんべー!」
「なんだその態度は。眉間に風穴開けんぞ!」
「そんな鉛玉、痛くも痒くもないね。ベロベロバー」
「ったく、生意気なサーヴァントだ。」
「あ、そうだ。マスター」
「何だ。」
「ありがとね。聖杯戦争を途中放棄しないでくれて。」
「べ、別に。大体は報酬のためだ」
「まぁそういう事にしてあげましょう。」
なぜ上から目線なんだ。
「あ、あと」
彼女が険しい顔をし始めた。
一体何を言うんだ・・・!
「いい歳した男性が幼い子供の物まねは流石に引きます。パトロン様がお優しいからよかったものの、普通は二度と口聞いてもらえません、よ・・?」
「・・・聞いてたのか」
「・・・はい」
「・・・」
マスターのメンタルに9999999999999ダメージ。
残念!マスターの冒険はこれで終わってしまった。
「令呪をもって命する。頼む私を殺してくれ。アヴェンジャー」
「わあああああこの人本気だああああああ」
「たまには良いでしょう。まだ令呪の1画だけですし。」
「たまにでも良くないですよぉ~パトロン様ー!」
「うおおおお、もう俺は死んでやるんだあああ」
こうして、聖杯戦争開始から1日目が終了した。
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■聖杯戦争2日目
夢を見た。
地獄を見た。
黒子のような女性が泣き叫ぶ。
信頼した友からは両足を切られ。
気になっている男からは両手を切られ。
優しかった母親からは両目を潰され。
尊敬していた父親は獣と化した。
だがその女性は死ねなかった。
なぜ──
なぜ死ねないのか。
魔術なのか、それとも呪いか。
不明なまま、そこにいる。
いつまで経っても死ねない。
身体のあちこちは痛むのに
意識だけが残る。
とにかく痛かった。
痛くて痛くてたまらないのに声も出せない。
怖かった。
人が宇宙人に恐怖するように。
人が快楽殺人者を嫌悪するように。
ただ、こんな状況が。この痛みが。この人達が。
一体何が原因なのか。
『
───ふと、脳裏に浮かんだ。
きっとこれが原因なんだと脳に刻まれた気がした。
でも納得は出来ない。
悪という文字は分かる。
悪という意味は分かる。
でも本当にこんなモノがあるのだろうか。
この世の中の中で実際に視えて、聞こえて、触れて、味わって、臭うものなのか。
あらゆる五感のなかで1つでも感じれたのだろうか。
分からない。
分からないまま、疑い続けたまま。
ずっとワタシはここにいる。
でも最近少し分かったんだ。
あんな分かんない問題なんて本当はどうでも良かったんだ。
本当に欲しかったもの
ワタシが本当に求めていたモノは───
「夢・・・か」
スッと目が覚めた。
「何故か最近見る夢。何故か覚え続ける夢。謎の黒い女性。見覚えが無いのになぜか懐かしいと感じる夢の情景。」
原因は不明。
意図も不明。
ただ誰の夢なのか。
それだけは感覚的にわかるような気がした。
少し漂っていたらアヴェンジャーがやってきた。
「あ、マスター。今日は早いんだね。」
「・・・」
「マスター?」
「ああ、悪い。少し考えてた。まぁそうだな、流石に二日間寝過ごすのは緩みすぎかと思ってな。」
「そうなんだ。殊勝な心がけだね。」
「聖杯戦争、始まったんだな。」
「今更どうしたの?なに?怖気づいた?」
「いやそういう訳じゃないんだ。」
「・・・?変なマスター。」
そういうとアヴェンジャーはパトロンであるマダリスを起こすため、マダリスの部屋に向かった
「今更だがあのメイド服のような恰好はサーヴァントとしてどうなんだ?」
マダリスの趣味なのか。はたまたアインツベルン家の伝統なのか。
この城に居る時だけはメイド?のような恰好をしている。
この城に入った時点では特に思う事は無かったが聖杯戦争の勝敗の行方の鍵を握るサーヴァントがあの恰好をしていると本当に俺を守れるのか訝しい。
「まぁ似合ってると言えば似合ってるんだけどさぁ」
でも俺の好みでは無いんだよなぁ。
「あら、お早い起床ですね。そんなにグルメ旅とやらが楽しみだったのかしら?いえ、本来楽しみだったら寝不足になるはず。案外楽しみでは無いのかしら?」
今日も嫌味たっぷりの彼女の言葉が脳内に届く。
(こいつ本当は俺と同じ出身のイギリス人じゃねぇよな)
「楽しみすぎて、寝不足になったから逆に早起きなんだよ。そんな事も分からねぇのか、魔術師様ってのよぉ」
早起きしたせいか、いつもスルーするはずの嫌味を嫌味で返してしまった。
恐るべしイギリスの血・・・
まぁ皆が皆、イギリスだからといって嫌味たらしっていうわけじゃないけどな!
「あら?今日は挑発的ね。楽しみすぎて私がお金を貸すというのも忘れてしまったのかしら?」
「ぐっ」
しまった。報酬から天引きされるとはいえ、今回のグルメ旅の有無は彼女に握られているんだった。
ここは戦略的撤退だ。別に負けたわけじゃないんだからな。
「すいません、出過ぎた行為でした。どうかお許しください。」
「わかればよろしい。で、今日は何を食べにいくおつもりで?」
「うーん。日本料理をメインで食べにいきたいから。刺身とかになるんじゃないか?」
「すいません、刺身というのは?」
「刺身というのは魚介類とかを非加熱のまま薄く小さく切り、醤油とやらの調味料で味をつける日本料理の事だ。特に調味料の中でワサビっていうのはヤバいらしい。しかもビタミンとかの様々の栄養素が含まれてる。んで刺身の由来ってのは・・・」
「そう・・・」
無関心、まるでこれ以上話すなとは言わんばかりの顔つきだった。
「いつも思ってましたがこの人、自分が得意な話になると急に早口の饒舌になりますね。」
「きっと、言う機会が少なかったから変に得意げになってるんですよ。」
2人がこそこそ聞こえるような陰口?みたいな事を言っている。
ああ、思い出す。学園の悲しき思い出。
いきなり得意分野の質問を振られ、若干焦りつつもその質問の回答をしたら感謝され、それに舞い上がって必要ない事まで余計に話してしまい、皆に若干引かれたそんな淡く切ない思い出。そしてその瞬間をずっと脳内で反省会を繰り返す悲しき学生時代。
(人っていつまで経っても似たような失敗を繰り返すんだなぁ・・・)
そんな悲しい思い出に浸りつつ冬木の飲食店に向かった。
アヴェンジャーは流石に目立つため、霊体化とやらで透明になって同行するらしい。
(簡単に透明になれるなんて本当に人間とは違うんだな。)
そんな分かり切っていた事を再認識する。やはり俺はアヴェンジャーの事を1種の兵器ではなく1人の人間として見ていた。
「着きましたよ。ここが冬木で一番栄えている所です。好きなお店があればどうぞ遠慮なく。ですがその分あなたの報酬が天引きされますのでご留意を」
「へいへい、んじゃあまずあのたこ焼き?っていう店に行こうぜ」
「たこ焼き?よくわかりませんが随分丸っこくて熱そうですね。」
「ウゲッ」
「んじゃあ、俺買ってくる。」
「お願いします」
「あのーパトロン様」
「何ですか?」
「あの食べ物はやめた方が・・・」
「おーい買ってたぞ」
「・・・特に毒などは入ってなさそうですし、香りも特に問題は無いと思いますが」
「いやまぁ、それはそうなんですけど」
「なんだぁ、二人でこそこそ念話で話し合って。そんなに怖いなら俺が味見してやるよ」
「いえ、私も食べます。なんか負けた気分になるので」
ったくそんな事で貼り合いやがって、どんだけ負けず嫌いなんだよ。
「んじゃあ、ほれ食べるぞ。」
「あ・・・」
食べた瞬間、口に電流が走った。
旨い、とてつもなく旨い。
人は好物と出会った時、ドーパミンが脳内に駆け巡るという。
これが───
───運命
「うおおおお、旨い。旨いぞおおおおおお」
「確かに美味だとは思いますが。そんな大袈裟な」
「このコリコリした固体は何なんでしょうか。これが何か知っていてアヴェンジャー?」
「あーその。この状況では言いにくいんですが・・・本当によろしいでしょうか?」
「別に怒ったりしませんよ。」
「それ、デビルフィッシュです。」
「・・・」
タコ、それは悪魔の化身と呼ばれた
ホムンクルスであるマダリスにはそういった事には縁遠い。
しかし、彼女にはタコに関するトラウマがある。
ホムンクルスとして製造されて間もない頃。他の魔術師との交流のための親睦会が海辺にて開催されていた。その親睦の中に水泳大会というものがあり他の魔術師のコネクションのため、マダリスもその水泳他界に参加していた。
しかし、事件が起きる。
なんと泳いでいたマダリスの顔にタコが張り付いてきたのだ。
他の魔術師に助けを貰い事なきを得たが、突然の事もありマダリスは気絶していた。
そう、マダリスは大の
「あ」
マダリスは気絶した。
「マスター!パトロン様がー!パトロン様がー!」
「うおおおおおデビルフィッシュ!デビルフィッシュ!これがデビルフィッシュの味か!素晴らしいデビルフィッシュがこんな味を醸し出すとは!なんて奥深いんだたこ焼きー!」
「マスターってばー!」
我に返り、マダリスを背負い帰宅途中、霊体化を解除したアヴェンジャーに説教という名の小言を言われ短い俺のグルメ旅は終了した。
「ほんとマスターってアレだよね。危機感無さすぎ!」
「はいはい、悪かったって」
「本当にわかってるー?」
「肝に銘じますって。んじゃあ、ほれお詫びの印だ。」
「これはアイスクリーム?」
「本国のアイスクリームとは少し違うがな、俺の母親が始めて買ってくれた思い出の品だ。」
「そうなんだ。・・・ありがとう」
「どういたしまして」
「さて」
時間はすでに夜となっている。
聖杯戦争の主な活動は夜となる。
魔術世界の暗黙のルールである神秘の隠匿のため、まともな魔術師は昼には行動を移さず、夜に行動を動かすらしい。
2日間何も行動しないのはまずいとは思うがお嬢さんはあんな状態。流石に他勢力の調査や他勢力への攻撃は寧ろ返り討ちにあるリスクが高い。
「今日も家にこもりっきりですか。」
お嬢さんが話しかける。
「どこかのお嬢さんの具合が悪そうなんでな。紳士な俺はか弱いお嬢様の為に辛酸をなめる覚悟でいますとも。」
「はぁーなんとも頼りない紳士ですね。」
「・・・もう一度聞きます。何か秘策がありますか?流石に聖杯戦争を舐めてかかってるわけではありませんよね?」
「秘策はねぇし、聖杯戦争を舐めてもねぇ。」
「ただ、
マダリスは一瞬驚愕な顔をしたがすぐ鉄仮面の顔に戻った。
「──ええありますとも。」
「それを活用してもらうとするさ。上手く出来なきゃそこで俺達は仲良く全滅だ。」
その秘策が何なのか自体はおおよそわかっている。あとはその秘策の公開のタイミング次第だ。
「時にチャーリーさん」
「何だ?」
「アヴェンジャーの事、どう思ってますか。」
「どうってのは?」
「明らかに互いが互いに好意を寄せている。そしてあなたが召喚の儀で彼女を見た時、どう見ても初対面の反応では無かった。」
「はぁーよく観てる。中々の鑑識眼だ。来世は探偵か?」
「茶化さないでください」
「あー分かったよ。あいつの外見が初恋の少女にそっくりだったから他人の気がしなかった。これでいいか?」
「・・・」
お嬢さんは少しの沈黙後、口を開けた。
「サーヴァントが誰かと似る。中々無いですけど可能性としてはあるかもしれない。でもあのサーヴァントはあんな状態ですけど一応アンリマユですよ。それはあり得ない。」
「可能性としてはいくつかはあるんじゃねぇか?アンリマユという英霊は誰かの記憶や誰かの殻が必要なサーヴァントで偶々、俺の記憶にある奴と合致したとか」
「その可能性もありますね。」
「あと、俺からのアヴェンジャーに対する印象は初恋の娘で恋仲の仲になりたいとかそんな事は断じてない。強いて言うなら・・・」
「強いて言うなら?」
「強いていうなら、父親と娘みたいな関係だ。」
「・・・」
「ちょっと気持ち悪いですよ?」
「ほっとけ!」
「娘だと思ってるから考えてる事もある。あいつはもう1回人間として受肉すべきだ。サーヴァントとしてではないただの女の子として。それが例えBADENDな人生だったとしても俺が納得するのであればそれでいい。」
「とんだエゴイストな父親ですね。」
「人間なんて大体はエゴイストなんだよ。」
「そうですね。」
マダリスが少し笑う。
「あとお前の事も信頼してる相棒みたいなもんだ。もちろん男女間の関係なくな。
だからお前が苦手なタコみたいな英霊が居たら俺とアヴェンジャーでなんとかするさ。」
「流石に触手の英雄は居ないと思いますが、いえ思いたいのですが・・・」
数分後の沈黙が起きる。
「・・・チャーリーさん。アヴェンジャーの事頼みます。」
「───ああ。」
そんな会話をした後、自分の部屋に戻る。
その後、アヴェンジャーを呼び出す。
・・・覚悟は決まった。意地でも話し合うそんな覚悟が。
「マスター何か用?」
「明日、できればマダリスとの三人で腹割って話し合いたいんだ。大丈夫か?」
「別に構わないけど。どういった話をするの?」
「2つある。まず1つ目はアヴェンジャーの過去や俺の過去についてだ。
2つ目に最近、夢に見る黒子の少女が可哀そうな目に合う夢だ。特に2つ目に出てくる少女・・・これお前なんだろ?」
「・・・!」
驚愕、焦り、踏み込んでほしくないラインに踏み込んだ。
彼女のレッドラインに触れたそんな声が。
「一体、どういった考えでその黒子と私が同じだと思った、の・・・」
「ただの直感だ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「直感って・・・意味わかんない。」
「まぁ今日はこの辺で話は終了だ。明日、腹割って話すぞ。そうだな、明日の夜が良い。明日の夜でなきゃ聖杯戦争を口実に逃げられそうだ。」
「や・・やだよ」
「いきなりだし、強引だし、する理由も意味も分かんない。」
「頼む。」
「いや、絶対いや。理由も分かんないのにいきなり腹割って話せなんて無茶苦茶。そんなに話し合いたかったらその令呪で無理やり話し合えば良い。そうすればあなたの首の頸動脈をこの爪で引き裂いて、頭から食べてやる。」
「令呪で無理やり話し合っても意味はない。ただ俺が死ぬだけだ。」
「じゃあ良いじゃん。話し合わなくて、なぁなぁな関係性でいることの何が悪いの?」
「あなたも私と同じでしょ?色んな事を諦め続けて、誰とも深く関わらないでそこにいる。」
見捨てないで、同じ所に居てと言わんばかりのそんな同族を見るような目で見つめている。
「ああ、同じだ。」
「だったら───」
「だからこそだ。同じだから分かる。これじゃあ間違いなく共倒れになると、このままの関係で聖杯戦争に挑めば必ず後悔すると。」
「もうやらずに後悔したくない。」
「そんなのって・・・」
「ああそうだ。そんなの俺のエゴだ。でもお前にもメリットがある。」
「その内容は単純。俺を救ってくれ。」
「もし、俺が救われたら、俺は名誉あるお前の被救助者1号になれる。」
「そんな、滅茶苦茶な理論だし、それじゃあ私は何も変わらない」
「何、俺みたいな奴を救おうとするんだ。自信が少し湧いて、もう1人くらいなんとかしようと思うかもよ?そうすりゃいつかは変われるさ。」
「・・・ワタシはそんなに簡単に変われる人じゃない。」
「ああ簡単じゃないとも、お前がめんどくさい事なんて召喚した時から知ってるさ。でもそんなめんどくさいお前でも簡単に変わるような奴がいるかもしれない。もし、そんな奴に出会った時に俺を練習台に使うことによって少しは受け入れやすくなるかもしれない。可能性はきっと無限大だ。」
「・・・ほんと無茶苦茶。強引すぎ。意味不明。希望的観測な言葉でなんとかしようって魂胆がスケスケ。」
「でも、たまには良いかもね。」
「って事は・・?」
「分かったよ。たまには腹割って話しあっても良いかもね。」
「うおーやったー!」
「ほんと幼稚で変ななおじさん。本当、大人ってわかんないなぁ~」
こうして激動の2日目が終了する。
喉の小骨が取れたのか、俺はこの夜だけは他の夜より寝つきが良かった。
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■聖杯戦争3日目
夢を見た。
ある少年がいる。
彼は悩んでいた。
"どうすれば世の中はもっと単純になってくれるのだろうか"
そんな悩みだ。
なぜそんな解決がしようない悩みを抱えているのか。
それは彼の環境が原因となる。
彼の学校には明確ないじめはないが明確ではない身分制度(スクールカースト)がある。
学校には様々なグループがあり、そしてそのグループ外には大きな壁がある。
見えないベルリンの壁のように透明でしかし万里の長城のように広く大きいそんな壁が。
そんな壁のみであればよくある事だ。他の動物だってやっている事だ。
問題はそのグループに上下があり、その上下関係になっている原因が複雑怪奇な点だ。
力の強さが上下関係であれば分かりやすい。下の人間は納得は出来ないが理解は出来る。
だが、力の強さのみがスクールカーストを構成しているものでは無かった。
この見えないカースト制度には腕力、知力、魅力といった様々な力が必要でかつ、それらの力をうまく管理できる性格も必要であった。しかもそのスクールカーストは違う学校では違う評価基準となる。
なんと複雑怪奇なのだろう。
しかし一番ネックだったのはこの見えないスクールカーストという理不尽に自分自身、受け入れている点だ。
理由は簡単、好きな女子がいて、その子はスクールカースト上位で彼はスクールカースト最下位でありその女子に告白をスクールカーストのせいにして告白してないからだ。
きっと他の人が見るとチキン野郎だと思う事だろう。
だが考えてみてほしい。
喋った事も無いのにいきなり告白するなんて恋愛小説の世界じゃないんだから上手くいくはずもない。
逆に不審者扱いされるに決まってる。
喋って友達から友好を深める事も出来ない。なぜならば彼女とは身分が違うのだから。
顔の美醜、性格の違い、身体の強さ。
そんな臆病な自分を守るための言い訳だけは沢山言えた。
だが、選択の時は唐突にやってきた。
彼女が彼女の家族と共にどこか遠くに引っ越すらしい。
彼女と会う機会はもはや雀の涙程度なのだと。
俺は迷った。告白するのか、しないのか。
そして選んだ。
俺は───
何もしなかった。
告白する前から諦めたのだ。
俺にはどうせ無理だ。傷つく前から諦めよう。これは勇気ある撤退だと自分に言い聞かせた。
そして、彼女はこの小さな町を去った。
彼女はきっと新天地に向かい、良い事や悪い事を経験して好きな人と幸せになったり、悪い男に騙されて不幸な人生を歩む事だろう。
だが、その人生に自身が関わる事はもう無い。
これだけは明確に理解できた。
───これはどこにでもあるよくある失恋話。
だが彼が無気力な人生を歩むきっかけには十分だった。
そしてそんな彼に対して彼の家族が愛想を尽かすのは当然の事。
彼の家族は彼に兵士を半ば強制的に勧めさせ、彼を見捨てた。
そしてそんな瞬間でも彼はまた悩む。
"どうすれば世の中はもっと単純になってくれるのだろうか"
「・・・はぁ」
ため息をつく。一難去ってまた一難とはまさにこの事。
またしても喉に小骨が刺さったような感覚が俺を襲った。
「嫌な事だけは本当、唐突に思い出して服のシミみたいにしつこく頭にこびりつくよな」
唐突に思い出す。嫌悪すべき思い出を抱え、朝を迎えた。
今日の朝と昼はやることが無かったため、聖杯戦争に関する復習や日本食に関する評価を紙に書き留めていると、あっという間に夜を迎えた。
正直、緊張する。
腹割って話すという事は自分の身の上話をするという事だ。
正直受け入れてもらえるか不安だ。
自分を相手に晒すのは誰だって怖い。今までの関係が壊れる可能性もある。
だけどそれは
「だけどそれはアヴェンジャーも同じって事だ。」
救われる奴が今ここで逃げ出したら、笑い話にもならない。
そんな奴はアヴェンジャーに頭から食べられるべきだ。
「・・・時間だ」
扉が開き、二人の姿が現れる。
「マスターこんばんは。」
「チャーリーさんこんばんは。辞世の句は考えておきましたか?」
よく分からないのでここはスルー
「こんばんは、アヴェンジャー」
「お嬢さんも・・・こんばんは。」
「あら不機嫌そうね。」
「・・・そりゃ、緊張してるからそう見えてるだけじゃないですかね?」
「あなたでも緊張するのね。」
「そりゃするよ。というか緊張の連続だよ俺の人生。」
「・・・んじゃあ本題に入ろうか。事前に伝えた1点目であるアヴェンジャーの正体からだ。まず俺の考察から話すぞ。率直的に述べると彼女は本物のアンリマユではない。」
「というかアンリマユって結局何者なんだ。悪い神様ってのは分かるんだが。」
「では、アンリマユからの説明させて頂きます。アンリマユというのは古代ペルシアが起源の宗教である「ゾロアスター教」に出てくる絶対悪の神様です。」
「つまりは悪魔ですね。」
「そしてその悪魔は「悪」という原理に基づいて万物を創造する悪の創造神となります。」
「そりゃまたスケールがでかい神様だな。アンリマユについては大体分かった。じゃあお前はそのアンリマユ本人なのか?」
「一言でいうと違います。」
「私は元々人間でした。ですが私の住む村でアンリマユという悪魔だと扱われ、村を救うための生贄となりました。」
「それはなぜ?」
「明確たる原因は不明です。ですがワタシが初めての生贄ではない。これだけは感覚的に感じとれたんです。よって推測になりますが、ゾロアスター教を信仰していたとある村で何かの考えがあって誰かを生贄に捧げた結果。生活が良くなったや村が救われたという伝聞が広まり、私の村にもそれが感化されてしまったのではないでしょうか。」
「つまり、今のアンリマユは本物の悪魔ではなく。悪魔として扱われた被害者の集合体みたいなやつか。」
「じゃあ次だ。なぜ俺の初恋の女性に外見になっている?しかも俺が知ってる最後の彼女そっくりだ。」
「それはアンリマユというものは元々虚無だからです。私達は「本名」という自我を奪われ
人間性というものを奪われた「顔の無い誰か」だからです。だからこそ、サーヴァントに備わるべき自我が無い私達は誰かの人格のコピーを必要とします。よって偶々、あなたの初恋の人格や外見となってしまっています。」
「それじゃあ、あの人の性格と同じってわけか?」
「それは分かりません。あなたが望んだ『彼女』かもしれないし、正確にコピーされた『彼女』かもしれません。」
「───わかった。色々ありがとう」
これを聞いてよかった。
俺はきっと救われる。
「次は2点目だ。最近夢に出てくる黒子の女性っぽい人型は───お前か?」
「そして仮にそうなのであればあの時お前は何を想っていたのか。出来る限りでいい、教えてくれ。」
「まずこの話をした後、私の言いたい事、いやこれは正確では無いですね。『彼女』と『
「別に大丈夫だ。言葉に出来ない感情を吐き出そうとしてるんだ誰でもそうなるさ。」
「わかりました。ありがとうございます。では質問の回答なのですが、合っているとも言えますし合ってないとも言えます。」
「誤解を招く言い方で申し訳無いのですが私という自我はコピーされた『彼女』の自我と『
「そして、その気持ちを今ここで伝えます。ワタシはあなたの夢に出てきた被害者です。四肢をもがれ、眼を抉られ、人としての大切なものを踏みにじられました。ワタシは最初、その理由について模索していました。でもそれは重要じゃない。ワタシが本当に探していたものは、ワタシが本当に求めていたものは───」
「ワタシは本当は誰かに助けてもらいたかった。ワタシの前に立って守ってくれるそんな『正義の味方』や全てを幸せにしてくれる『魔法使い』がいて欲しかった───」
「でも誰も助けてくれなかった。この事実が辛かった。あり得ない奇跡を求めても実際そんな事は起きないなんて分かってたはずなのに・・・それなのに・・・」
「ワタシはきっと『アンリマユ』にはなれない。
「そんな事実がとにかく悔しい。ワタシも『アンリマユ』なのに、ワタシだって同じ『被害者』なのに。ワタシだって『
「苦しいんです。死んだ後の今この瞬間でもその真実のせいで胸が苦しくて、仕方ないんです。」
「でもこの苦しみがあるから、ワタシはワタシでいられる。この苦しみが拭えた瞬間、きっとワタシは『アンリマユ』でいられない、そう想います。」
「以上が私の独白、私の想いです。」
『彼女』がなぜ今回の聖杯戦争においてアンリマユとして召喚されたのか。
それが少し分かった気がした。
『彼女』は唯一、アンリマユという存在から反逆したからだ。
その反逆にアンリマユと呼ばれるモノ達が共感したのか、それとも異質と感じて排斥しようとしたのか。結果的に彼らは何かを感じて『彼女』を今回の偽物のアンリマユの代表に選出されたのではないか。
推測の域が超えられない妄想ではないが俺にとっては確信に近かった。
「貴方の想い、しかと受け取った。お嬢さんは何かあるか。」
「特に無いと言われると私の評価が下がる気がするので一言、二言よろしいでしょうか?」
「アヴェンジャー。貴方のその苦しみとその苦しみの想い、しかと受け取りました。貴方の苦しみは一緒には背負えないけど何かしら溜まったら、また吐き出して下さい。一応、第二のマスターなんですから。」
そっと彼女はアヴェンジャーに抱き着いた。
「・・・お母さん」
「い、いや間違えました。す、すいません。パトロン様!」
「母親、母親ですか・・・良いですねその響き。私には新鮮な言葉です。もういっその事、アヴェンジャーの母にでもなろうかしら。」
「パトロン様・・・(トゥンク)」
「アヴェンジャー・・・(トゥンク)」
「なーに二人の世界に入ってるんだ。茶番は俺の質問の後にしてくれ。」
「はぁー良いところだったのに水を差さないで下さい。そんなんだからモテないんですよ?」
「そうだ!そうだ!」
ここはぐっと堪えて華麗にスルーだ。
良いさ良いさ、いつか理解ある彼女ちゃんを見つけて見返してやるんだもん!
うわ。自分の脳内で思った事なのに凄い嫌悪感が・・・
「本題に戻ろう。お嬢さん、1点良いか。アヴェンジャーの特性についての事なんだが。これ大丈夫か?
アヴェンジャーの特性である復讐に関する事限定で聖杯の優先的成就の権限は上手くいくのか?」
「どうでしょう・・・従来では聖杯のシステムによってアヴェンジャーの抱えている復讐の矛先をうまく誘導して最後のマスターや聖杯に移し替えるのですが今回のアンリマユは単体ではなく集合体。その集合体全員の矛先を聖杯のシステムがうまく誘導出来るのか。初めてのケースなのでわかりかねますとしか言えませんね。」
「という事はそのアンリマユが何を願うのか、それが定かでは無くなったと・・・アヴェンジャーはどうなると思う?」
「そうですね。個となった私にとっては全体の事を考えても分からないのですが考察として挙げるのであれば、私達は『この世のすべての悪であれ』と周りからの身勝手な願われた何かです。その役割に沿った願いを願うのか。それともその役割を放棄して何も願わないのか。仮に願ったとしてその願いが聖杯のシステムがどう解釈するのか。この要素が重要な気がします。」
「最悪のケースもありえるというわけか。」
正直、システムが発動する=俺が死んでいるという事なので死んだ後の世界なんてどうでも良い事と言えば良い事ではあるが。仮にこのせいで世界が滅んでしまってアイツの家族が死ぬような事があれば俺はこの聖杯戦争の目的を失ってしまう。
それだけはなんとかしたい。
「まぁ、そうなったら誰かが解決してくれるか。」
「いえ、もっと確実な方法がありますよ。」
「その方法とは?」
「私達が勝ち残れば良いんです。そうすればアヴェンジャーにある敗者の特権は発動しない。」
「アヴェンジャー自体かなりイレギュラーな存在なので勝ち残ったからといって最悪のケースにはならないとは限らないですけどね。」
「解決方法は聖杯戦争に勝ち残る、か。まぁやるだけやってみるかなぁ、アヴェンジャー。」
「はい!マイマスター!」
「あ、忘れてた。俺の救済という禊があったな。なに簡単だ、俺が言えなかったアヴェンジャーに告白する。それを振ってくれればいい。そうすりゃ俺は救われる。」
「分かりました。盛大に振れば良いんですね。」
「ああ、んじゃあいくぞ。・・・あ、あの!ずっと前から好きでした!きっと君は僕の事知らないと思うけど!でも僕はあの時言えなくてとても後悔したんです!だからっていうのも変だけど!もし良ければ付き合って下さい」
「・・・」
アヴェンジャーがその言葉を咀嚼するように味わうかのように少しの沈黙をしている。
「私はあなたとは付き合えません、ごめんなさい。──でも勇気を出してくれて、私の為に1歩踏み込んでくれて『ありがとう』」
「なんだよありがとうって意味わかんねぇー。」
これぞ失笑、でもなぜか笑いが止まらない。
「良いんですよこれで。あなたが私の練習台なら、私もあなたの練習台です。救いっていうのは救う人、救われる人両方が救われてないといけなんです。というか、悔しかったら聖杯を手に入れて本番をしてみやがれ、です。」
「ああそうだな。」
こうして3日間の問答は幕を閉じ、運命の4日目が始まるのであった。
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■聖杯戦争4日目
夢を見た。
俺が家族に半ば見捨てられ、兵士となったときの夢だ。
俺も家族も俺が戦場に行ったらもう帰ってこれないだろうと思っていた。
理由は簡単、戦場に生き残るほどのメンタルや肉体面で特に優れていないからだ。
俺も死にたくはないが別に生きたい理由も無かったのでいつかはどこで骸になるんだろうと思っていた。
そして、運命の出兵の日。俺は戦場に駆り出された。
ここは───単純だった。
碌に食べれるものも無く、理不尽な事ばかりの誰もが感じ取れる地獄であったがとにかく分かりやすい。
弾が当たれば死ぬ。弾が当たらなければ死なない。自分が倒されるより前に相手を倒す。そうしなければみんな死ぬ。そんな野蛮で原始的なルールのみが敷かれた環境だった。
複雑な糸に絡まった社会が破れていく、そんな感覚、自分の頭が壊れていくようなそんな感覚に似ていた。
そしてある日、変な男と出会った。
「よっ相棒。そんなに暇そうなら飲みにいかねぇか?」
相棒と名乗る不審者。初対面なのに馴れ馴れしいほどの距離の詰め方。会った瞬間分かる社会的強者。
俺はこいつに逆らえば何か報復がくるのではないかと感じ、彼の付き合いにはいつも応じた。
話す内容は大体、彼の家族や彼の友達、彼の眩しい青春といった内容だ。
特段、興味は無かったが特段その話は不愉快でも無かった。
そんなやり取りをして数か月後、事件は起きた。
とある心がイカレちまった兵士が我々が庇護した難民の1人を発砲したのだ。
この兵士の言い分としては難民の中に悪魔やゲリラが居るのだと弁明した。
庇護している時点で素性の調査済みのゲリラの可能性は皆無でありかつ悪魔がいるという意味不明な弁明に対して上層部は激怒し彼を処刑した。
これで一件落着かと思いたかったがそうはならなかった。
他の兵士が殺害されたのだ。そして日を重ねるたびに兵士が1人、また1人と殺害されたが容疑者は簡単に捕まった。
犯人は難民の中の1人だった。しかし犯人はその者だけの単独犯ではなく共犯がいる事がわかった。
共犯の調査はしたが簡単に見つかることは無かった。
我々は警察でもなく、ましても慈善団体でもない。
上層部はこの難民をリスクと捉えゲリラとして扱い掃討作戦が発令された。
正直、こんないざこざはめんどくさかったので逃亡しようとも少しは思ったがリスクがでかすぎるので
とりあえず参加だけはして銃を撃つふりに徹底し、とにかく関わらないで生き残ろうと考えた。
そしてゲリラ掃討作戦決行日、兵士達は難民の虐殺を行った。
当然難民からの反撃もあったので激しい銃撃戦となった。
「ふぅーまぁここにいりゃ安全だろう。」
俺は物陰に潜み事が終わるまで潜伏していた。
しかし俺はこの原始的なルールの見落としをしていた。
『戦場に安全な場所はない』という至極当然なルールに。
俺の死角に俺がむかし助けた難民の少女が立っていたのだ。
そして、大量の爆弾を身体に巻き付け、虚ろな目をしながらこちらに問いかける。
「ねぇ、お兄さん。なぜあなたはこんなところにいるの?」
「ねぇ、お兄さん。なぜあなたは手を汚してないの?」
「ねぇ、お兄さん。なんで私を助けたの?」
そう言った後、俺は身震いをした。
そう彼女は俺にとっての───
身体が硬直した。初めて赤ん坊が立ったかのように立っていた。
動けなかった。怖かった。嫌だ、死にたくない、死にたくない。
走馬灯が浮かんだ。誰よりもかけっこが速い事を自慢していた難民の少女の事。相棒と名乗る男の思い出。初恋の少女の顔を。
人は嫌な事に直面すると現実逃避をする。
俺は難民の少女を天使だと思うことにした。
天使のような彼女と無理心中するなら悪くないむしろ愛だと自分に言い聞かせた。
そして少女が爆弾の安全ピンを抜いて近づいた瞬間、横から大きな衝撃が放たれた。
「うおりゃあああああああああああああああああ」
その怒号の声の正体は相棒だった。
その怒号を放ったのちに相棒が少女を自分の胸に抱き抱えるかのように突貫し、爆弾は爆発した。
当然、二人共死んでいて亡骸も人の原型を収めていない。
映画や小説であれば親友が何かかっこいい一言を述べてこの世を去っていくというのに。
彼は何の一言もかっこいい事を喋れずこの世を去った。
なぜ──なぜなのか。
なぜ自分を庇ったのか。
戦場において一番重要なのは自分の命だろ?
そしてお前には泣いてくれる家族がいるだろ?泣いてくれる友達がいるはずだろ?泣いてくれる恋人がいるだろ?
だったら、なんで俺を庇ったんだ──
そして、その出来事が俺の戦場を変えた。単純だった戦場を変えた。
戦場にも想いがあったのだ。戦場にも人が関わっている以上、複雑な社会があるのだと。
こうして、俺は戦場から逃げた。給料の全てを隊からの足抜けと相棒の家族の調査に費やした。
そして、俺はここにいる。報酬を貰い、親友の家族に渡し、このモヤモヤを紛らわせるために。
パッと目が覚める。どうやら自分の夢を見ていたようだ。
「さて、ここからが本番だ。」
こうして、アヴェンジャー陣営の聖杯戦争が始まったのである。
時刻は刻々と進み、夜となった。
「んじゃあ行くぞ。準備と覚悟はいいか?」
「おおー!」
「・・・どこに行くか。目途は立っているのですか?」
「ああ、1つある。丘の上の墓地だ。ここは高所な上に人気も無い。戦うならここはトラブルが無くて済む。かつ、アーチャーやアサシン、キャスター辺りが仮にここに陣取っていて、乱戦になった場合、かなりきつい。とりあえず、居た痕跡があるかどうかぐらいかは調べたい。」
「了解しました。一応考える頭はあるようですね。」
「では、出発だ。」
「さて、着いたのはいいがどうするか。」
「よし、決めた。3人で一緒に調査とトラップの準備だ。」
「まずは、東の辺りからだ。」
てんてんと墓地周辺の調査とトラップの準備をする。
所々、魔力の痕跡があったがトラップらしきものはないため、他の者もここを訪れてた形跡があったが特段、拠点の1つとしては機能してない事がわかる。
「さて、トラップはあらかた準備は出来たが果たして通用するかどうか。」
「そうですね。サーヴァトはともかく普通の魔術師な──」
アヴェンジャーが急に口を止め、表情が硬直する。
「(──敵か、数は)」
「(おそらく、1騎のみです。)」
サーヴァントは気配遮断のスキルや気配を隠す宝具を有していない限り、聖杯戦争の円滑な進行のため近距離であれば他のサーヴァントの有無やサーヴァントの数がわかるようになっている。
何かの妨害魔術、もしくは宝具ではない限りこの情報が正確だ。つまり認識できたサーヴァントはアサシン以外のサーヴァントだ。
「(どうやら、これ以上戦うか、逃げるかの選択肢を考えている場合ではないようです。)」
彼女の視線の先には、2人の女性と1人の西洋の甲冑を着た1騎のサーヴァントらしき姿が見えた。
「ごきげんよう、アインツベルンのホムンクルスさん。そちらは付き人かしら?随分、鄙びた男性ですこと。とうとうアインツベルン家も焼きが回ったのかしら?」
(赤いドレスと青いドレスを着用している女性達はフィンランドの名門家系であるエーデルフェルト家の有名な姉妹です。遠距離から放たれるガンドに注意してください。あなたの場合、被弾すると確実に死にます。)
「ごきげんよう、私の名はマダリスフィール・フォン・アインツベルン。かのエーデルフェルト姉妹にお会いできて光栄です。本日は家訓に従って卑しくハイエナかしら?」
(もう1人、魔術師が居るがあれがアイツがマスターでアイツがアサシンを従えている可能性は?)
(可能性はあります。ですが彼女の手に令呪が見えない以上、1騎のサーヴァントに対して、2人の魔術師が使役している事が妥当でしょう。しかも相手はあのエーデルフェルト姉妹。魔力の矛先が同じであれば、あるほど魔力が倍以上となる特殊な魔術特性を持つ。よって違うサーヴァントを有して魔力を使役するのは逆効果です。すぐに魔力切れを起こしてしまう。)
(また、難儀な奴らとご対面したもんだ。)
「あら、あなたがあの有名な妖精眼もどきでしたか。あなたのおかげで時計塔の謀略が一層多くなったと聞いておりますわ。卑しいハイエナにはとてもとても真似が出来ません。」
「時計塔に提供したのは誰でも扱える真偽魔術のみ。それをどう使うかは本人の次第です。ハイエナさんにもすぐ扱えますよ。ああ、ちゃんとした脳みそがあればですけど。」
双方睨み合いを続け、達人の間合いのように距離を縮める。
(チャーリーさん、もう片方の青いドレスの女性を見続けてください。これで彼女の性格を確かめます。)
(ああ、わかった。)
じっと青い色のドレスを着た女性を見続ける。
なんというか薄倖の美人みたいな外見をしている。
ずっと見つめていると彼女がすぐさま反応を示した。
「あら、あなた。愚昧に見惚れたのかしら?でも、ダメ。愚昧は私のもの。私だけが触っていい。私だけが傷つけて良いの。だからあなたみたいな田舎くさい男はダメ。最低限私が惚れるぐらいの男じゃないと渡してあげない。」
(なるほど、分かりました。戦闘が始まるかもしれないのに完全に優位だと思ってベラベラと喋る。彼女、結構うっかり屋さんですね。彼女であればあなたでも奇跡が起こればチャンスがあるかもしれない。チャーリーさん、挑発頼みます。)
お前も似たようなもんだろっと言いたくなったが、ここはぐっと言葉に出さないよう我慢だ。
というかこの2人、違う出会いをしてたら良い友達にはなっているのでは?
「聞いてもないのによく喋る。そんな性格じゃ妹ぐらいしか喋る相手が居なかったんじゃないか?大丈夫か?あんた?」
「プッ」
片方の女性が姉にバレないよう必死に笑いを堪えてる。
「良いでしょう。もうこれ以上の言葉は不要ですわね。愚昧!あなたはホムンクルスの相手を!
セイバー!もういいわ!あのサーヴァントを倒しなさい!私はこの田舎者の相手をします。」
その刹那、黒い銃弾らしき弾丸が俺の放たれる。
これがガンド。当たれば確実に死ぬ。死ぬ気で避けろ!避けれないなら銃で撃て!
「まぁ、ガンドを無理やり銃で相殺するなんて傭兵くずれが考えましたわね!」
「アヴェンジャー!令呪を持って命ずる!バーサーカーのクラススキルを得よ!」
「ぐぎゃあああああああああああああああ」
アヴェンジャーが変質する。その眼がギラりと赤く発光し、獣のような変貌を遂げた。
「続いて第二の令呪を持って命ずる!アーチャーのクラススキルを得よ!」
「もう二画の令呪も使用するなんて、田舎者のくせに強敵が誰なのかぐらいの鑑識眼はあるようですわね!いいわ。セイバー!相手にとって不足なし!全力を出しなさい!」
「了解した、マスター。ご婦人、いや戦士よ。わが呪われし選定の剣!受けてみよ!」
これで狂化、対魔力、単独行動のクラススキルは得た。短時間ぐらいは持つはずだ。
後は最後の一画。あの事が確かなら・・・あの命令しかあり得ない!
「・・・誘い込まれましたわね。」
「そうだ。ここは地雷原。しかも通常の地雷より何倍の威力だ。でもお前ら魔術師は防げるんだろ?試しに踏んでみるか?」
ここには地雷とその地雷の起爆から誘爆する魔力の爆弾が設置されている。どれだけの防御性能に優れていたとしても無傷では済まない。
「安い挑発だこと。」
「泣いて謝るなら今の内だぜ?それともガンドと銃の我慢くらべでもやるかい?」
「知れたこと、立ち塞がる壁は壊す。それがエーデルフェルトですわ!」
彼女の足と地面が触れた一瞬。足の周りに線のようなものが浮かび上がり閃光を穿つ。
そして、懐へと潜りこんだのちに女性の拳とは思えないほど力が貯められた右手の拳が俺の胸部に放たれた──
この攻撃はまずい──
とっさに手榴弾を投げ、マダリスからもらった魔術アイテムを使用し、なんとか後退する。
投げられた手りゅう弾はその拳に触れた瞬間、その場で爆発すると思いきや、その手りゅう弾の爆発や爆風そのものを拳を放った方角へと無理やり持って行った。
「ゴリラかよ。」
「あら、私は美しきハイエナですわよ。」
「あと、この周辺には地雷原はない事もわかりました。狭いですがリングだと思えばなんだか高揚を禁じえませんわ。」
「女性を殴るのは紳士な俺としては頂けないな。」
「あら?鉛玉はあんなにくれたのに、良い度胸です、わねぇ!」
またしても超スピード。しかし今回は殴打ではなく掴み。
しかしこの掴みはどうみても避けさせるための陽動。それが分かっていたとしても、なおも掴まれた最後と本能で分かるほどの掴みでもあった。
「ちゃんと掴みを避けましたね。偉い偉い」
その後、繰り出される回し蹴りに気づいた瞬間には俺はその蹴りによって吹き飛ばされた。
幸運だったか、その吹き飛ばされた先に地雷は無かった。
「右腕がやられたか。」
幸い、令呪に宿った方の腕とは反対の腕が粉砕骨折と化していた。
「あら、幸運だったわね。自分の仕掛けた地雷を踏まなくて。」
舐められてる。完全に舐められてる。
先ほどの回し蹴りも腕ではなく胸部を攻撃すれば俺は即死だった。
しかし、それをあえてしない。まるで玩具と遊んでいるように。
敵として全く以て認識されていない。だが──それでいい。
ある事を気付いてもらうのが目的なのだから。舐められてるくらいが丁度良い。
もし、妹の方だったらなんの躊躇もなく首を切られているはずだ。
「あっちの方も終わりそうですわね」
アヴェンジャーがボロボロになりながらセイバーの前に立っている。
正直、奇跡に近い。クラススキルだけであの最優と呼ばれるセイバーの攻撃を凌いでいるのだから。
「あんなにボロボロになってなんだか惨めですわね。貴方、そろそろその最後の令呪を使って、宝具を使うタイミングではなくて?」
「宝具なら、あいつは使えない。偽物の偽物なんでな。」
「宝具が使えないィ~。あはははは!宝具が使えないサーヴァントがこの世にいるなんて!なんであなた途中放棄してませんの?私だったら確実に途中しますわよ。」
「惚れた人に似てるんでね。辞めるに辞めれなくなっちまった。」
「なら、サーヴァントともども死になさい、辞世の句くらいは言わせてあげますわ。」
ほんとコイツ、ほんとお嬢さんに似てるな。微妙に優しいのもそっくりだ。
まぁいい。これで完全に油断してくれた。後はこの言葉を言うのみ!
「最後の令呪をもって命ずる──!マダリスフィール・フォン・アインツベルンに全てのマスター権限を謙譲する──!」
「な──」
「なんですかそれ!──」
妹も呼応するように驚愕する。
それもそのはず、手の甲に宿るはずの令呪が手ではなく全身に宿っているのだから──!
そして、妹は感覚的に理解した。彼女の令呪だけ異質であると。
「なんで
「別に令呪を増やしちゃいけないルールは無いでしょ?」
本来、令呪は3画が上限と決まっている。しかし、彼女は3画以上有している。
理由は単純、過去の聖杯戦争で導入された令呪をアインツベルン家は長い年月の待ち時間を増やす事に費やしたからだ。
「外部からやってきた魔術師を確実に倒すために編み出されたアインツベルン家の秘策中の秘策です。」
「どうせ次回以降からは監督役に令呪を増やしてはいけないというルールが追加されてしまうんだから、今やっても構いませんよね?嫌なら次回以降また、ご参加ください。」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
「ではアヴェンジャー、私から2つ命令を下します。」
「7506の令呪をもって命じます!死ぬ気で宝具を使用しなさい!」
「10507の令呪をもって命じます!この戦いに勝利を!」
「あがああああああああああああああ」
それは魂の叫び、悲痛の叫び、存在しない宝具を今この瞬間のみだけ生み出すのだから。
その痛みは人の耐えうる痛みを完全に超えている。しかし、彼女は耐えていた。人の原型を止めていた。痛みを誰よりも我慢し続けた彼女だから、苦しみをずっと背負っていた彼女だったから完成した狂気を込めた最初で唯一の宝具──!
「仮想宝具展開!
「ぐ──!」
それは咆哮。ドラゴンの如き咆哮、宝具という名の魔力の塊──!
その魔力の塊をセイバーへと放つ。
しかし、流石は最優のセイバー。その魔力の塊を剣で抑え続けている。
だが、抑え続けるが1歩、また1歩へと後退してしまう。
弾き返せない、逃げれない。逃げれば確実に爆発に巻き込まれ消滅する事が本能で伝わるからだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお」
セイバーは魔力の玉で足止めを食らっている狙うなら今、この瞬間──!
「アヴェンジャー!あの赤いドレスを着た奴を狙え、アイツが敵のマスターだ!」
「了解、マイマスター!」
「ぐっセイバー!令呪で空間転移を・・・な!」
「ようやく気付いたな、この地雷原が無い所は簡易的な結界だ。令呪に反応してその令呪を爆発へと変換する!これで令呪は使えない!」
そして、動揺に乗じて彼女を羽交い絞めにした。
「いくら魔術で力を増幅できるからと言って、直接触れれば兵士の俺の方に分がある。」
「あら?レディに気安くは無くて?」
「これは殺し合いだぜ?今更、そんな事気にしてる場合かよ」
「令呪で共倒れの線もありますのによく近づけますわね。」
「俺はもうマスターじゃねぇ、ここで共倒れしても後はあいつら二人がなんとかしてくれるさ。」
「そしてもう一つ。お前はそこで勝利しないただ負けないだけの選択肢を選ぶような女じゃねぇよ。」
その後、彼女は不敵に笑う。これは諦めの笑みとも取れる。
勝った──。
そう思った刹那──
「本当に・・・本当にここまでよく頑張ったと誉めてさしあげますわ。アヴェンジャーとアヴェンジャーのマスター達。」
「ですが我々エーデルフェルト家にも秘策があります。決して聖杯戦争を無策で勝てるなんて思っていない事をあなた達に証明する為に」
「貴方たちの言葉。そっくりお返しします。」
「
「お願い!セイバー!」
妹の方がその言葉を放った後、お嬢さんの首が飛んだ。
その影響か、アヴェンジャーも突然苦しみ始めた。
「う・・・うそだ・・・」
もう1人のサーヴァントならわかる、裏で同盟があって派遣されたサーヴァントならわかる。
でも──
「冥途の土産です。私達の性質は『天秤』その性質を利用して、1騎のサーヴァントを対象に2つの側面にわけ、2騎のサーヴァントにしました。」
「そして、分類したサーヴァントに対して私達はマスターとなった。」
「そんなの、無茶苦茶だ。その前に魔力切れはどうなる!姉妹の各それぞれの魔力では到底運用できないはずだ!」
「あら?あのホムンクルスに聞いてないのかしら?私達は同じ対象なら私達は倍以上の魔力を有する特性を持っているの?」
「だから、エーデルフェルト家の中でも私達しか出来ないのよ?」
「同じ英霊だからと言って、違う側面になったらそれは違うサーヴァントじゃないのか!」
「あら、哲学の話かしら?あなたの哲学なら多少は興味ありますけど結果は結果。血反吐吐くまで試してみて出来たからやったまでですわ。」
そんな虚しい問答をしている中、姉の方のセイバーがアヴェンジャーの止めを刺した。
「・・・アヴェンジャーの霊核の消滅、確認しました。ありがとう。セイバー。」
「私には勿体無き、お言葉。しかし、相手も中々の強敵でした。1対1なら不覚を取っていたかもしれませぬ。」
「そうなったのであればあの宝具を使わせます。私に対して謙虚になるのは良いですが、敗者の前で謙虚になるのは返って嫌味です。控えなさい。エーデルフェルトの品格が疑われてしまう。敗者に対しては何も言わず止めを刺すのが勝者の義務です。分かりましたか?セイバー」
「はっ申し訳ございません。マスター」
敗北、その言葉で実感した。
アヴェンジャーは倒れ、お嬢さんは死んでいる。
俺は負けた。俺達は完全に敗北した。
「・・・最後に言い残す事はありますか?」
「敗者には何も言わせず止めを刺すんじゃなかったのか?」
「ごめんなさい、私も焼きが回りましたわ。では・・・さようなら。」
そう言った後、彼女は指を突き出しガンドを俺の胸に放ち、貫いた。
意識がゆっくり薄れていくような感覚。
「愚姉に啖呵切ってかつそれに見合うくらいの全力を出してくれてありがとうございます。おかげで少しは楽しめました。愚姉が直接手を下すことなんて中々無いんですよ?」
返事ができない事を良い事にベラベラと喋る。姉とは正反対で似ている女だ。
「・・・あなたの仇は私最後に取ります。だって愚姉に手を出していいのは私だけですもの。あなたになら分かりますかね?この憎悪みたいな愛が。愛みたいな憎悪が。って聞いても口動かせませんよね、ごめんなさい。では・・・さようなら、王子になれなかったカエルの王子さん。」
「やはりこの聖杯戦争、私達同様、裏技を使ってきてますわね。自分たちの裏技をどのタイミングで使うかそれが重要になります。私があなたのジョーカーで。あなたが私のジョーカーです。だから──」
「ええ、姉さん。最後の1組になるまでは協力しましょう。そして最後の1組になれば後は殺し合いですよね?」
「ええ、その日を楽しみに待ってますわ。」
「その──」
ああ、クソ!耳も聞こえづらくなっちまった。
まだ死なない。まだここに生きている。身体は動かないのに意識だけは残っているような最悪の気分だ。
・・・何がよく頑張っただ。何が楽しめただ。
負けたら意味ねぇんだよ。
社会しらねぇのか。どんだけ過程が良くても結果が悪かったら誰も評価してくれねぇんだよ。
ドクドクと心臓の鼓動が速くなる。
死期が近づいているのがわかる。
死ぬのに死ぬ事を考えるのは嫌なので他の事を考えた。
もし、アヴェンジャーが普通の女の子になって普通に成長して好きな異性を見つけて結婚して素敵な子供を授かって子供と一緒に母親として成長していって成長した子供達に囲まれながら寿命を迎えたら彼女は救われるかを妄想した。そんな理想郷があるのであればアヴェンジャーに送ってほしいと願う自分がいる。相変わらず妄想と現実逃避だけは異様に上手いなぁ俺って・・・
また心臓がドクドクと早くなった。
視界が赤くなった。痛い、痛い、痛い。
嫌だ。死にたくない、死にたくない、死にたくない。
まだやりたい事もある。まだたこ焼きの研究もしてない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
死にたくない。死にたくない。死にたくない────!
数分後、彼の意識は闇の中へと沈んでいった。
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ここはどこ・・・
わたしはだあれ?
ふと目が覚める。
ワタシみたいな負け組が一杯居た。
フカフカの黒いベットみたいで気持ちよかった。
【マケグミ!マケグミ!マケグミ!】
「そう。ワタシは負け組。全力以上を出したのにあっけなく死んじゃった。」
【マケタ!マケタ!マケタ!】
「そう。ワタシは負けた。守りたかったのマスター達がいたのにあっけなく死んじゃった。」
【シネ!シネ!シネ!】
突然、光が放出する。
それは聖杯の光だ。
「復讐者よ。業火の炎を纏いし者よ。貴方の復讐の願いを告げよ。」
【ヤッター!ヤッター!ヤッター!】
【コロセル!コロセル!コロセル!】
「願い、そんなの決まってるよ。」
願いを告げようとした瞬間、マスターとパトロン様の顔が泥のように塗りつぶされる。
「もう名前も思い出せないや」
「・・・ああ、きっとあのマスター、泣いてるんだろうなぁ。死にたくない。死にたくない。って言って子供の我儘みたいに身体は動けないのに心でジタバタ動いてそう。」
「もし叶うなら、もう1回聖杯戦争続けたいなぁ。」
「もう1回だけ生きたかったな───」
叶う事は無い夢を見る。
それは赤子のような、最後の眠りにつく前のほんの後悔のような残り香。
『【ネガイヲツゲル】』
『【
「・・・その願い、確かに受理されました。」
聖杯の色が黒へと変貌する。
聖杯の盃に泥が貯まる。
こうして聖杯は汚染された。
この復讐がいつか遂げられるまで───
また何か書きたい事があればここに追記させて頂きます。