人間と妖精は真の意味で分かり合える事は無い
そんな事を思ったのはいつの頃だったのだろうか
幼い頃に仲が良かった妖精がほんの興味本位で自分の母親がバラバラに惨殺された頃なのか。
それとも我が王が少女の道を捨て誰もがやりたくないと思えるほどの苦難な王道へと進まんとしようとしているのにも関わらず下劣な妖精共が我が王を玩具のようにしようと近づいた時なのか。
それは死んだ今となってはわからない。
ただ、これだけは分かる。
妖精は一匹残らず根絶やしにしなければならいないと───
----------
男は悩んでいた。
その男の名は遠坂 抑守(とおさか おさもり)
聖杯戦争を作った御三家の1つ遠坂家の三代目当主だ。
その悩みは3つある。
1つ目は魔術師の後継者である。
彼には未だに跡取りの子供がいない。
後継者が居ない状態の魔術師はかなり危うい。
理由は簡単、魔術師とはどんな状況下であっても最小の死のリスクがある。だからこそ自身の保険のために後継者が必要だからだ。
よって彼の状況は他の魔術師にとってはただの馬鹿と称されても仕方ない。
しかし、特段彼の実力不足で後継者を作れない訳では無い。
やろうと思えば今までに培った魔術師のコネや我が大師の名を使えばある程度の魔術回路を持った人と子を成せるだろうし、それで無理なら其の辺にいる女性を暗示にかけ、子供を作ればいい。
一般的な魔術師なら誰だってやってることだ。
しかし彼はそれをしなかった。その理由は2つある。1つ目は親と自分の倫理観が魔術師の倫理観ではなくまともだった事。そして2つ目は───
(他の魔術師と同じ事をして本当に根源へとたどり着けるのか?)
根源とは魔術師が目指す最終目標である。
根源を目指さない魔術師はもはや魔術師と呼ばないと言っても過言ではない。
根源の目指し方には様々なアプローチがある。聖杯戦争もそのアプローチの一環だ。
そして聖杯戦争を除いて遠坂の根源のアプローチ方法は1つ
それは『武』である。
遠坂家は人類最強になれば根源にいけると考えた。
他の魔術師から見れば遠坂家はたまたま魔法使いの弟子にしてもらった運の良い赤子未満の胎児だ。
しかもそんな胎児が人類最強になろうとするなんてのは笑い話を超えて怒りが込み上げてくるだろう。
───だがそんな夢に俺は憧れたのだ。
そしてその夢は2つ目の悩みへとつながる。
それは自分の強さである。
先ほど遠坂家は魔術師としては赤子以下の胎児と称していたがそれが必ずしも本人の強さには直結しない。
理由は単純、自分には特殊な力、超能力が宿っているからだ。
だからといって自分が世界最強だとは思ってはいない。
直死の魔眼を保有した者や脳みそを完全マニュアルにされた者。
自分より強い者に出会ったことは何度もある。
では何に悩んでいるのか。
それは強さの【目標】である。
強いやつには今後も出会うだろう
だが自分には目標とするべき型
つまり目標とする人物が居ないのだ。
「強くはなりたい。だが目指すべく最強とは何か───!」
「どうすれば強くなれるのか!」
そして最後に3つ目の悩み。
それは聖杯戦争である。
彼は未だサーヴァントを召喚していない。
なぜならば彼にとってのサーヴァントとは強さの象徴であり自分が目指すべき形なのだ。
「強いサーヴァントを召喚するにはそれに見合った触媒が必要」
ふと、自分の手に持っている石を見る。
それはどこにでもある石ころにしか見えない。
しかしこれは母はこの世を去る前に聖杯戦争の触媒として渡された第2の形見だ。
「何の変哲も無い石だ。こんな石で本当に聖杯戦争に挑むのか───?」
自分自身に問いかける。
しかし、答えは既に決まっていた。
手に持っていたその石と首にかけていた無色のペンダントを両手で握り締める
「母上‥‥俺やるよ‥‥!」
首にかけていた無色のペンダントがほんの一瞬赤く光った気がした。
-----------
男は嗤っていた。
その男の名は間桐臓硯(まとう ぞうけん)
御三家の間桐家の初代当主である。
「アインツベルンの人形共!とうとう壊れ始めてきよった!」
「アヴェンジャーを呼び出せば聖杯が穢れる事も忘れたか!」
聖杯戦争のエクストラクラスであるアヴェンジャー
聖杯戦争においてアヴェンジャーの最大の利点は聖杯戦争の優勝者を聖杯によって再召喚される事によって強制引き分けを行える権利を持つ。
その成功率はそのサーヴァントの意思や能力によって上下する。
しかしアヴェンジャーにはデメリットがある。それは聖杯が穢れる事である。
この穢れは聖杯戦争のバグのようなものであり、アヴェンジャーの召喚以降の聖杯戦争の願いはすべてアヴェンジャーの解釈によって引き起こされる。
このバグを治すにはサーヴァントレベルの優れた魔術師が必要となる。
「おおよそ、自分達が選ばれなかった腹いせに今回の聖杯戦争を強制終了したかったんじゃろうが、それで聖杯が穢れれば元の子も無いじゃろうに」
「アインツベルンの器が穢れた以上、間桐の器が必要になるかのう」
「そうは思わんか、【抑止力】のライダー」
突如、臓硯の後ろに人形の実態を成した。
その風貌は西洋の王族かと思えるほどの服装をした金髪の男である。
手には赤い糸玉らしきものを持ち、虚ろな目をしている。
「私が抑止力に受け取ったオーダーはキャスターの撃破のみです」
「では穢れた聖杯については関与せんと?」
「穢れた聖杯については「まだ」人類の危機ではないだけです。そして貴方の願いならどれだけ聖杯が汚れていようと人類の危機にはならない」
「カッカッカッ!抑止力が敵にならないのであれば尚更今回の聖杯は手に入れんとのぉ!我が不老不死のために!」
その高笑いのつかの間、玄関から鈴の音が鳴る
「よぉ爺さん」
「やっときよったか、遠坂家の小僧」
「ここも久しぶりだな」
忘れかけていた小さな頃の記憶がよみがえる。
この場所も憎悪を超えてもはや懐かしいと思えるくらいには彼にとっては時間が過ぎていた
「時守様・・・」
臓硯の後ろに細身の女性らしき人が不安そうに立っている。
紫よりの青髪のウェーブがかかっている髪質であり風貌はハーフらしい美しい顔立ちをしていた。
「時子‥」
かつての初恋の相手が目の前に立っている。
昔抱いた色んな感情さえも、もはや過去のものだ。
「今回の聖杯戦争、我々御三家はかなり危うい」
「ダーニックの件か」
「あやつめ、聖杯戦争をどこで知ったかは知らぬが令呪を宿したあと色んな国に聖杯戦争の情報を横流しにしよった。」
「そして、皮肉にも令呪は国のお抱え魔術師の手に渡った。」
「流石に儂も国3つを相手するのは少々骨が折れる。」
「更にアインツベルン勢力が敗れた今、我々御三家は圧倒的に不利」
「でだ。どうだ?ワシと組まんか?お主も国相手じゃと分が悪いじゃろ?」
「‥‥」
「悪いが断る」
「ほう、その理由は?」
「俺はある程度なら協力してやってもいいと思ったが師匠が言うにはそれは戦士として『かっこよくない』らしい」
「師匠?」
「ああ、俺のサーヴァントの事だ。」
「使い魔を師匠呼ばわりとはお主‥‥英雄に毒されたか。」
「ああ、俺は師匠にホレた。師匠のためなら何だってやってやる」
一瞬、時子から嫉妬のような感情をむき出されたような気がしたが多分気のせいだろう
「では仕方あるまい、時子にはまた苗床になってもらうしかないのぉ」
「はいお爺さま!」
純粋無垢な笑顔を見せる。
昔と同じ醜悪な光景だ。
「他人の家庭に口出しは野暮だが」
「もし仮に時子を死なせたら、じじい。てめぇを一生動けない身体にしてやるよ」
「おー怖い怖い。惚れた弱みかのぉ?」
「お爺さま!ご冗談を!」
間桐家は歪である。
魔術師としての側面と家族としての側面を無理やりくっつけたかのような歪さだ。
現に今、彼女は当たり前のように虫に凌辱されようとしており、それを彼女はごく自然な日常の1つとして過ごしている。
その苗床に彼女の母親の遺体があったとしても、だ。
「まぁいい、同盟については次の一騎のサーヴァントがやられる前まではお互いに手を出さないでいいか?」
「まぁそこが落とし所じゃのぉ」
------
「‥‥これで自己強制証明の契約は完了。んじゃあ俺は帰る。」
「アインツベルン家のようにいきなり脱落の無いようにのぉ」
「俺の師匠はそんな程度じゃねぇよ。」
「かっかっか。見ものじゃのぉ」
そう言うと臓硯は虫へと変じ、何処かへと去っていった。
「収守様、お疲れ様です。」
「‥‥ああ、お疲れ」
「申し訳ございません。お爺さまったらあんなお戯れを」
「別に気にしてない」
「そういえば、間桐家のマスターあの爺さんなんだな。」
「元々は私がマスターでしたが私の体質を考慮し、お爺さまにマスターの権限を譲渡しました。」
「体質?ああ、妖精憑きか」
妖精、それは神秘の1つ
特異な力を持ち、魔術師を簡単に凌駕するほどの存在。
中には神霊にも匹敵する力を持つとも言われている。
しかし、神秘が薄れた現代にはその存在は稀有である。
では妖精は今現在どこにいるのか。
実に抽象的であるが彼女の話によると人間が知覚できない地球の裏側とやらに居るらしい。
そして、妖精憑きはその地球の裏側にいる妖精の情報のみを引っ張り出し自身の魔力をリソースに妖精を召喚し、自身や他人に憑かせる超能力だ。
いわゆる憑依型のサーヴァント召喚のようなもの
しかし、召喚できる妖精も完全にランダムであり、持続時間も彼女の魔力依存になる上に召喚のタイミングも彼女自身うまくコントロール出来ていない。
たが、擬似的であれ妖精は妖精。誰かに憑依すればサーヴァント以上とまではいかないがサーヴァント並の厄介さはあるだろう。
「確かにリスキーな超能力だが見方を変えれば強力な武器じゃないか?魔力不足に陥るような魔力量でも無いだろうに」
「そこまで褒めて頂けるのは有り難いですが妖精を完全には操れない上に刻印虫と妖精では相性が悪いとお爺さまは仰っておりました。」
「ああ、なるほど」
時子には擬似的な妖精眼がある。
その眼は相手の嘘を見抜く力を保有している。
魔術協会で流行った嘘発見器魔術よりも精度が高い能力だ。
つまるところ、臓硯が言っていたことはおおよそ真実だろう。
しかし、意図は違う。
妖精と刻印虫の相性は悪いこと事体は真実だ。
しかし、それは刻印虫が妖精に対して一方的に滅法弱い事だ。
‥‥あのじじい、家族の信頼より自分の保身を優先しやがった。
「間桐は悔しくないのか?このままじゃ、妖精の国に行く夢は遠のくぞ」
「そんな昔の事を覚えてくれて嬉しい。でも良いんです。この家はお爺さまが絶対ですから」
「‥‥」
臓硯は魔術師の強さとしてはかなりの上位に入る。
あの爺と1対1でやりあえるとしたら、現状サーヴァントかダーニックぐらいだろう。
「自分自身の中で納得してるならいい。だが俺は間桐がマスターなら協力しなくもなかったがな」
「それはどういう‥‥?」
「はぁ鈍感め」
初恋の未練を断ち切れぬまま、アインツベルン家の森へと向かった。
その帰り際、間桐の家から彼を見つめている二人がいる。
それは臓硯とライダーであった。
「あのマスター、おおよそ対魔力に近しいスキルを持ち合わせていますね。」
「ほう、初見で見抜くとは流石は英雄じゃのう」
「じゃがあやつの力は少し違う。」
「というと?」
「あやつの力は【変換】じゃ」
────────
森林が揺らめく秋の季節。
その森林はまるで帰れと警告しているかのように見える。
「んでマスター。いや僕の弟子?だったっけ?いやなんかめんどくさいし弟子一号で良い?」
「アーチャの師匠になれるなら何て呼ばれても良いですよ。」
「はあーなんでこんな事に」
それは数時間前に遡る。
「クラスはアーチャ。で、君が僕のマスターって事であってるかな?」
「‥‥子供?」
見るからに子供の姿だ。
背丈も自分の半分ぐらいしか満たなく顔もかなりの童顔だ。格好も赤タイツの軽装備に見える。
見かけで判断してはいけないとは思うが自分の思っていたサーヴァント像とはあまりにもかけ離れていた。
「あれ?君、僕のマスターじゃないの?」
「‥すまない。俺が君のマスターであってる。では真明について聞いても」
「あ、それは無理。」
無理?
無理というのはどういう事だ?
「理由を聞いても良いかな?」
「まぁ理由なら大丈夫か」
「理由はゲッシュっていう縛りのせいなんだよね。この縛りを破ると弱体化しちゃうんだ。」
「つまり出来なくは無いが破ると聖杯戦争に名乗る事は難しいという事か。」
「そうそう、マスターも聖杯戦争には勝ち残りたいでしょ?」
縛りがある事はわかったが1点気になる事がある。
(ゲッシュって何だろう───?)
クソ!こういう事が起きるなら世界の歴史をもっと勉強すればよかった
しかもステータスの開示でも真明は見れないし‥‥どうやって戦略を──
その刹那。致命的な見落としに気づく
「それはわかったが‥‥もしかして宝具にも制限があったり?」
「そうだよ。宝具にも真明解放があるから最大出力は初回のみになるね。」
「───なんてこった」
「ああ!でも2回目以降でも平均的なサーヴァント並の宝具威力は出せるよ!対界から対軍になるだけだし」
その言葉が通り抜けるように彼の頭には絶望しかなかった。
(こんな子供でしかも宝具は一回限り?こんなんで本当に地獄の聖杯戦争に勝ち残れるのか───?)
その絶望は驕りや傲慢という感情に支配される。
「────棄権だ。」
「はい?」
その刹那、背筋と空気が凍った。
「宝具は一回限り、真明も不明。見た目は子供、分かってる事はクラスがアーチャとゲッシュとかいうよくわからんワードのみ、」
「こんなんで地獄の聖杯戦争に勝てる訳ねぇだろ!」
そう言い放つとアーチャは冷ややかな目線を向ける
「ふーん、まぁ僕はどっちでもいいけどね。でも僕はまだ戦いたいし、棄権するなら教会に行った方が良いんじゃないかな?」
「ああ!そうして貰うぜ!俺も命は大切なんでな!」
「ふっ、それなら始めから聖杯戦争に参加するなよな。」
「なんだと!?」
「この際、言わせて貰うがな。てめぇ本当に強いのか?俺にはにわかには信じられないね」
「まぁ君よりかは絶対に遥かに強いと思うよ。」
「ほーん、言うじゃねぇか。んなら俺と決闘だ!負けたらてめぇの言う事何でも聞いてやる。」
「決闘!?いいね!それならすぐにやろう。」
「決闘のルールはこうだ。武器は無しで使用していいのは基本的に素手のみ。勝敗は相手を気絶させれば勝ちだ。」
「別に君は武器使ってもいいし、君が僕に君の武器や君の手を触れただけで勝ちでもいいよ」
「すいぶん舐められたものだな。」
彼の胸元のポケットから小さな宝石を数個手に握る。
「君こそ、サーヴァントを気絶させるなんて舐めてると思うけどね」
「‥‥」
俺は別にサーヴァントに対して舐めてかかってるわけじゃない。
サーヴァントは自分達より遥かに強い化物。そう親に耳がタコになるくらいまでは聞かされていた。
だからこそ、許せず挑みたくなる。
本当にサーヴァントは強いのか。
そして、自分たちは本当にサーヴァントに勝てないのか、と。
(ああは、言ったがやっぱりこいつ強いな。)
「開始の合図は俺から言う。───始め!」
開始の合図と同時に構えた瞬間───アーチャが自分の背後へと移動した。
(───は!?)
そして、背中をさするように手を前に押すと強い衝撃波が発生する。
「へぇ、それ避けれるんだ。」
感心するかのように頷くアーチャ。もはやこれは勝負として成立していない。格闘の達人と非力な素人の戦いに等しい。
(瞬間移動か───?いや、あいつが元々いた足元の地面がえぐれている。力のみで跳躍してわざわざ背後に回ったのか?)
完全に舐められているがその行動すら目に負えなかった。
「ただの人間としては中々見どころあるよ。」
「俺が知らないくらいの知名度の奴に褒められても嬉しいくないけどな。」
「それなら一生忘れられないように次で完全に仕留めてあげるよ!」
アーチャが地面を削った瞬間、大量の土煙が噴き出る。
「そんな目眩まし俺にはきか‥な!?消えただと!?」
収守の目の前から姿から消えた。
(どこだ?どこに隠れた‥‥まさか地面に‥‥?)
その刹那、上から音がした。
「上か!?」
「残念下だよ」
地面から突然アーチャが這い出る。
そして収守の顎に指2つ分でごずいた瞬間───
───彼の意識は消えた。
「まぁ、こんなもんか。さーてなんの願いにしようかなぁ。この人中々やるし令呪の使用権ぐらいで勘弁してあげようかなぁ。」
しかし、運命はそうはいかなかった。
上から降ってきた宝石にアーチャは気づかず、そのまま頭にヒットする。
「あいた!え?これマスターの‥‥」
ふと自分の言っていた事を自覚する
「うーん。これくらいの宝石なら僕が気付かない訳ないはずなんだけど」
不思議とその宝石が自分の一部に思えたアーチャは不可思議にその宝石を見続けるる。
しかし、負けは負け。自分でいった事以上この勝負はアーチャの負けだった。
「サーヴァント相手じゃなくて自分のマスターに負けたなんて流石に今回は洒落にならないなぁ」
アーチャにとって聖杯戦争は武者修行の一環でもある。
記録は保持できる以上生前よりも強くなりたいのは矜持なのだろう。
しかし、1番気にかけなければならないのは師匠である。
彼の師匠は未だ存命しており、何かあるたび自身の記録をチェックされている(ような気がする)
(まだ何も言われてないけど本気で怒ったら座まで来そうなのが怖いなぁ〜)
この事実は何が何でも記録には残さないように決意するアーチャなのであった‥‥‥
次回に続く