「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語 作:白白明け
皆様の暇つぶしになれば、幸いですm(_ _)m
鳴虫が鳴いた。鳴かせたのは誰だ。
林を駆け抜け廃教会まで出て来た時、四条の疑問の答えは出る。
“召喚勇者”。四条本人の戦闘能力は高くない。
戦闘の殆どを『天害蠱軍』で操れる怪虫に頼る戦闘スタイルは、操るのが“虫”という人によっては嫌悪感を覚えるモノである事も相まって、召喚当時の彼の評価は低かった。
故に与えられた序列は二十五人中の第十三位。
そのことに関して四条に不満はない。
怪虫に頼る戦闘スタイルしか出来ない自分の成長性の無さを自覚しているからだ。
神器を手に戦うクラスメイト達とは違い、怪虫たちの後方で戦わざるえない自分には肉体的な戦闘センスを磨く機会が少ない。
いくら訓練を積もうと、実戦経験の多いクラスメイトとの格闘戦での差は開いていく一方だった。
だから、四条には火風や雷汞のような戦士とは違い、敵の力量を測れる目がない。
(そんな俺にも目に見えて
廃教会で、そんな化け物が四条を待ち構えていた。
一見すると三十半ば程の優男。
片手に剣を持っていなければ剣呑さなど一切感じさせない静かな雰囲気を纏う男は、四条を視界に捕らえると、何も言わずに
言葉など必要としない明確な敵意。
化け物と確信する相手の
どうしようもなくなって
それだけが重要だ。
それだけで四条は、化け物を前に臆すること無く吠えることができる。
「そこを、退け‼退かないなら、痛い目くらいは見て貰いますよ!具足虫ッ、『
具足虫を先行させての特攻は、彼女の
具足虫の攻撃速度は最初からMAX時速300キロ。
一般的な訓練を積んだ人間のパンチの速度が40キロである事を考えれば十分過ぎる速度。
そして、体当たりの威力が速度と重量のかけ算である以上、具足虫の『
『人和』は麻雀に置ける
決まれば半ば、その勝負を決する手札を指して、四条は具足虫の最高威力の体当たりを一つの切り札とした。
必殺技、『人和』。
「・・・・・・・・・ふん」
しかし、剣士はそれを容易く両断してみせた。
「チッ、具足虫!『人和』!“
先行させた具足虫たちが全て断ち切られた事で四条はブレーキを踏む。
それは
「・・・は?」
瞬きの合間に展開した具足虫の軍勢全てが切り落とされていた。
絶命の声どころか羽音すら許さない静かな剣。
瞬きの合間に五十を超える具足虫全てを切り落とした剣士は、此所で初めて口を開いた。
「これで、勇者か?弱いのぉ」
事実を述べるのは外見に似合わないしわがれ声。
そこに含まれる僅かな落胆に四条は歯を食いしばる。
自分が弱いことなど知っている。
一目見て化け物だと確信した相手に勝てない事など分かっていた。
だから、勝てない成りに考えた。
たとえ、勝つことができなくても四条は火風の元に駆けつけなければならない。
「俺たちは、犯人じゃ無い」
「知らん」
「巻き込まれただけだ」
「儂には関係ない」
「彼女と、火風と、
「何の約束かは知らんが、無理じゃよ」
「押し通るッ‼鬼百足ッ‼『
四条の叫びと共に地面から四匹の鬼百足が現れ剣士の身体を縛り上げる。
地中という死角から敵を縛り上げる鬼百足の必殺技、『
大木を容易くへし折る最大力量での絞め技。
これもまた麻雀の役満の名を冠した。
決まれば勝負を決すると四条が信じた必殺技。
しかし、今はその必殺ですら心許ない。
「それでも、いい!鬼百足ッ、縛り続けろ‼」
勝てないのなら、時間稼ぎに全力を注げばいい。
幸いにして四条の『天害蠱軍』にはそれが出来る力がある。
四条の力に寄らぬが故に担い手が不在であっても発揮される『天害蠱軍』の
その可能性に気が付き、今はまだその
「やりおるわい。しかし、まだまだ。弱いのぉ。儂の若い頃はもっと、凄かったぞ」
剣士の剣が身体を拘束する鬼百足を細断する。
拘束されている。
剣を振るえない筈。
それなのに
”矛盾”。
理解不能な絶技を目の当たりにして四条は少しだけ自分の見る目を評価した。
目の前の剣士を化け物と表した自分は何も間違ってはいなかった。
「どういう原理なのさ。化け物め」
「小童、年長者に対する言葉遣いがなっとらんぞ」
「なら、少しは人間らしい所を見せてくださいよ!」
『天害蠱軍』の強みはその継戦能力。
息絶えようと尽きはしない蟲の軍勢。
担い手に戦う意思がある限り、彼らもまた諦めない。
挑む者に祝福を。
敗北を恐れぬ者に喝采を。
天神と地神との戦いに置いて、常に見上げる相手と戦い続けなければ成らなかった彼らは常に顔を上に上げる者の味方だ。
だから、どれだけ同胞が命を散らそうと四条の命令に従い続ける。
地中に蠢く鬼百足が再度、万秋を拘束する。
そして、放たれる具足虫の弾丸は過去最高400キロを記録した。
鬼百足の『地和』で身体の自由を奪った上で行われる具足虫の弾丸掃射『人和』。
具足虫と鬼百足。
普段、その二種の怪虫の仲は悪い。
四条の独占を望む具足虫。
四条の命令を絶対とする鬼百足。
互いに相容れない。
しかし、今だけは四条の為に息を合わせた。
現実の麻雀のルールではありえない『人和』と『地和』のダブル役満。
「具足虫ッ、鬼百足ッ、
ローカル役満。
別名、ダブルデートが炸裂する。
ルール無視の必殺。
目の前の剣士を沈めなければ火風を助けにいけない以上、四条に手心はない。
だが、敵は未だに健在。
「なんじゃ、終いか?」
拘束する鬼百足を細断し、迫る具足虫の全てを切り落とす。
やっていることは何も変わらない。
四条の必殺技。その全てを児戯と嘲笑いながら、曰く、【空から降る雨粒の全てを斬れる】と謳われた剣士は、開戦当初から何も変わることなく、孤高の頂に立つ。
「言葉で命令を下さねば成らぬ時点で魔物使いとしては三流よ。単語で暗号化し、敵に攻撃の種類を悟られぬ様にしているようじゃが、見てから斬って間に合うのなら何の意味もないわい」
落とされる具足虫。
細断される鬼百足。
必殺と信じた技を児戯と笑われ、揺るがぬ自信があるものか。
自らを強いと信じられなくても、
そして、この局面に置いても自分の命令で命を散らして逝った彼らの強さを疑う程に四条は腐っていない。
具足虫も鬼百足も、強かった。
歯を食いしばる四条を責めるように剣士は言う。
「その右目、見えておるのだろう?ならば何故、前髪で視界を狭める。チャラチャラしとるから、弱いのじゃ。戦いへの覚悟が足らぬ。全力であろうと真剣でも本気でもない。それで弱き者を助けたい等と、よく吠えられたものじゃのう」
至極真っ当な正論。
『天害蠱軍』を埋め込んだ右目を隠す髪型は、四条の“弱さ”そのものだ。
いや、髪型だけではない。四条には本気で『天害蠱軍』を扱おうという覚悟がない。
真剣に強くなりたいと願うなら、
それが出来ずに殴りかかった。
中途半端な信念に縛られた結果が之だ。
「儂の若い頃は、そんな中途半端さは許されぬ時代じゃった。他の全てを捨てねば大切な者の一人も守れぬ時代よ。街の外を歩けば魔物が跋扈し、街の中で平穏を願おうと魔族共が責めてくる。それを思えば、まったく良い時代になったものじゃわい。小童の様な半端者が、勇者を気取れるのじゃからのぅ」
勇者を気取ったつもりはない。既に自分より勇者に相応しい者が十二人いると格付けされている。
しかし、それでも勇者になりたくないのかと聞かれれば首を横に振るほかにない。
だから、四条は立ち上がる。
周りには三匹の具足虫。
身体に巻き付く一匹の鬼百足。
鬼百足が吐き出す
それが今の四条に残された全て。
真剣ではなかったかも知れない。
本気ではなかったかも知れない。
それでも四条は、今持てる力の全てで火風を助けたいと思っている。
『どうしたの?俺で良ければ、話聞こうか?』
何度も後悔をした。何度も出会いをやり直したいと思った。その度に隣に居る彼女の顔を見た。
銀色の髪。紫色の瞳。見上げなければならない笑顔に心が引かれた。
出会いは
だから、これから先を軽い関係で終わらせない為に、彼女を真剣に愛すると心に決めた。
「退けよ・・・、退いてくれ。守らなきゃ、ならない人がいるんだよ」
振るえる両手で直刀を握り、構える。
身体に巻き付く鬼百足。
旋回する三匹の具足虫。
神器『天害蠱軍』。
それは軍団と呼ぶにはあまりに矮小すぎた。
その不甲斐なさに涙が滲んだ。
もっと真剣に生きていれば良かったと思った。
そうすれば、こんなに惨めな思いをしなくて済んだのだろう。
「それでも、守りたいんだよ」
「・・・守りたい人なら、儂にもおるぞ。儂は儂で、守るべき者の為に戦っておる」
四条の言葉に応えるように剣士も両手で剣を構えた。
「小童。知らぬのなら、教えておこう。戦いとは奪い合いよ。互いに己の利のために食い合う鬼畜の所業。守る為に戦う事を選んだ時点で、お主もまた修羅道に足を踏み入れた。故に、最早、奪うか奪われるかのみと知れ」
剣士の言葉で四条の手の震えが止まった。
恐怖が消えた訳では無い。
恐怖を塗りつぶす程の感情がわき上がっただけだ。
「奪う、のか?」
怒りが、こみ上げていた。
無実の罪で投獄されても、四条が誰も恨まないで居られたのは火風の存在があったからだ。
「俺たちから、
追い詰められて心が決壊する。
「犯人じゃねぇって言ってんだろ‼巻き込まれただけだって言ってんだろ‼俺は、俺は只、大好きな奴らの力になりたいだけなんだよ‼俺はちゃんと話しを聞いて自分で決めたぞ‼誰が正しくてッ、何が間違っているか!自分で見て聞いて考えて決めたぞ‼だから、君たちもそうしろよ!俺の、人の話を聞けよおおおおおお‼」
「敵の言葉など、聞く耳を持たぬわ」
「この
怒りと共に斬りかかってくる四条を前に剣士は鼻を鳴らし、その不様を笑う。
「まだまだ、青いのぉ」
そして、
次の瞬間、四条は怪虫たちと共に切り捨てられる。
「・・・は?銃、声・・・?」
四条の目が、剣士の握るモノに向けられる。
其処にあったモノは“剣”。
只の“剣”
しかし、剣を振るう腕よりも、剣先が先に動くという矛盾が、音速の壁を超える剣という奇跡を生む。
剣先の一点に圧縮された空気の衝撃波が
「秘剣『
振るうは一刀。
鳴り響く一拍。
銃声のする剣。
四条は怪虫たちと共に地面に斃れながら、若々しすぎる
「ガン、ソード、?
「じゃが、“ある世界”を儂もお主も知っておろう」
「まさか・・・」
『
それは既に別の勇者が存在していたからだ。
80年前の大戦で王国を勝利に導いた三人の勇者。
その一人である王国最強の剣士は、地面にうつ伏せで倒れる後輩を見下ろしながら、剣を収める。
「明日、お主の仲間二人は監獄送りになる。そうなれば最後、二度と日の目は拝めんじゃろう」
その言葉に、四条は立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
「落ち着け。お主も、もう直ぐに死ぬ。あの世で先に仲間を待てば良かろう」
「ふざ、けるな」
「巫山戯とらんよ。魔族に肩入れする、お主らには似合いの結末であろう」
「魔族差別主義者、かよ・・・。糞が」
「ふん、魔族に村を焼かれた事の無い小童らしい言葉じゃな。儂の言葉を否定したくば、剣にて
剣士はそう言って去って行く。
その背に向けて四条は吠えた。
「待てッ、貴方は、誰だ!俺を殺すなら、名前くらいは置いていけ!」
「儂の名は万秋。覚えたか?精々、儂の名を噛み締め、悔いを残して死ぬと良い。女も守れぬ弱き
「万、秋!万秋!万秋ゥウウウ‼」
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