「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語 作:白白明け
第一部完ッ!です。
皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
雷汞の役目は四条が万秋の相手をして居る間に護送馬車から火風とアーエーを救い出す事だった。大役を任されたという自覚があった。初対面の自分の為に泣いてくれた人だ。
仲間を思う気持ちは人一倍に強いだろうという確信があった。
だからこそ、仲間の救出を自分に任せてくれたことが何よりも嬉しかった。
「それなのに・・・これは、どういうこった?」
戦いの混乱に乗じて護送馬車までやって来た雷汞は周りにいた兵士たちを薙ぎ倒し、護送馬車の扉を開ける。
護送馬車の中には誰も―――
ヒキガエルのように醜悪な笑い声が聞こえた。
「ゲッゲッゲ、やはり、お前達は纏めて馬鹿だな」
雷汞が振り返れば、其処には兵士たちを引き連れる小紫耀がいた。
十中八九、四条の仲間の行方を知っているだろう醜悪な男の登場に目は細まる。
「テメエ、誰だ?」
「おまえのようなチンピラに名乗る名などない。・・・ないが、強いていうなら、私はこの戦場の全てを支配する指導者さ!私に掛かればあの万秋も只の駒でしか無いッ!そうさ!連隊長であるわたしがッ、一隊長でしかないあの男に劣っている筈がないのだからなあ!」
小紫耀は虚栄心を隠すことが出来ない。
自らの手腕を誇る様に、余計な事まで口走る。
「女二人は既に殺した。どうせ牢獄送りの後は殺せと命令されていたからな!遅いか速いかの違いでしかない。残念だったなぁ」
醜悪に笑う小紫耀から出た言葉に雷汞は目を見開き
「殺した・・・?だと・・・旦那の仲間を・・・?テメエが
「ああ!殺してやった!万秋の奴め!空の護送馬車を真面目に守りおって!亞呂恵の奴も滑稽だった!何が二人を守ってみせるだ!私は笑いを堪えるのに必死だったぞ!ゲッゲッゲ、此所にいるのは馬鹿ばかりだ!戦う理由など、私は既に殺してやったのにぃ!あーっハハハ‼」
「そうかよ。なら、テメエも死ねッ‼」
小紫耀に斬りかかる雷汞を二人の兵士が止めた。
カスタムゾンビ二体を相手に危なげなく立ち回ることの出来る雷汞の実力は、当然ながらに高い。訓練を積んだ兵士であろうと薙ぎ倒せるからこそ、自身の剣を受け止めた兵士に驚き、その隙を突かれて打ち払われた。
二人の兵士を前に攻めあぐねる雷汞を嘲笑いながら、小紫耀は再び余計な
「その二人は騎士団本部から私のために送られてきた精鋭だ!万秋なんぞの警備兵とはひと味もふた味も違う実力の持ち主なのだ!」
地方騎士団と騎士団本部には明確な差がある。同じ騎士でもその実力に大きな隔たりがあることは知っていた。
しかし、騎士団本部の騎士が首都を離れて活動する事は珍しい。
その騎士を送り込むほどに、騎士団本部は小紫耀に対して目をかけているのかと驚きながら雷汞は唾を吐く。
「テメエみたいな屑を守る為に部下を送り込むなんざ、騎士団本部の連中は頭に蛆がわいているらしいなあ!」
「はん、負け犬の遠吠えが耳に心地良いわい!さあ!おまえたち!女どもと同じようにコイツも殺せ!」
小紫耀の命令を受けて二人の兵士たちがお互いに目配せをした後、動き出す。
「来るなら、来やがれ!」
雷汞は気合いを入れ直した。
しかし、二人の兵士たちの剣が向かって来ることはなかった。
二人の兵士たちの剣が振るわれた先は―――小紫耀。
「・・・は?ぎ、ぎゃあアアア⁉痛い痛い⁉お、おまえたち、な、何する⁉」
斬られて目を白黒させる小紫耀は尻餅をついた後、慄きながら二人の兵士たちに言葉をかけたが、返事はなかった。
代わりに振り上げられた二本の剣が、いともあっさりと小紫耀の命を絶った。
「ぎゃあアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・」
小紫耀の悲鳴が戦場に木霊し消えて行く。
突然、兵士たちの手によって小紫耀は殺された。
その事に混乱している雷汞に向けて、二人の兵士たちの内の一人が
兜を脱いだ兵士は三白眼が印象的な女性だった。
「安心してください。我々は貴方がたの味方です」
「は、はあ?味方だと?意味がわかんねぇぞ?どういうこった?」
「我々は騎士団長補佐である勇者、愛羽様の命令で小紫耀に近づき、愛羽様のご友人である四条様の仲間を救う機会を伺っていたのです」
「旦那の仲間を救うため・・・って、ことは、旦那の仲間は無事なのか!」
「はい。小紫耀には殺したと見せかけ、我々が保護していますのでご安心ください」
兵士の言葉に雷汞は安堵の溜息を吐いたが、直ぐに沸いた疑問に眉を潜めた。
「騎士団に旦那の仲間を救う気が有ったなら、なんで冤罪を見逃した。テメエらが旦那たちの無実を証明してりゃ、こんな大事にならなかったんじゃねぇのか?」
「我々にも色々と事情があります。詳しいことは愛羽様がお話になられる筈です」
「その愛羽って奴は、今どこにいるんだ?」
「愛羽様は四条様と万秋様の戦いを止めに向かわれました」
剣は心によって動くものとされるその考え方が正しいのなら、万象一切を両断する男の心がどんなものであるのか。
四条には皆目見当も付かない。
成長してMAX400キロを誇る具足虫の『
剣に心がありすぎる。素人目にもそう思った。
明鏡止水の理から大きく外れ、雑念まみれの雑多な剣は、だからこそ万象一切を斬れるのかも知れないと納得する。
大戦の英雄にして転生勇者である万秋。嘗て国を救った男は四条の考えたとおり、様々なものを様々な思いで斬ってきた。
魔物を斬り。魔族を斬り。魔王を斬った。
獣人を斬り。エルフを斬り。竜人を斬った。
雑兵を斬り。将軍を斬り。王族を斬った。
悲しみを斬り。喜びを斬り。怒りを斬った。
正しい剣の修行をすれば、正しい心を磨く結果になると教えられた前世にて費やした100余年の修練。
そして、異世界に転生した剣聖は二度目の人生にて“その嘘”に気が付いてしまった。
「剣とは、心を磨くものでなし」
平和な世界では気が付くことが出来なかった嘘。
ある日、万秋が少年だった頃、村が焼かれ、両親が魔族に殺された。
元より転生した身。万秋にとって両親は精神年齢的に見れば己の孫ほどに歳の離れた者たちだったが、尊敬に値し、愛した家族だった。
その二人が死んだ時、剣聖と呼ばれた男は初めて“憎しみ”で剣を振るった。
その剣は雲を斬った。
其処に“剣”の答えがあった。
剣が心によって動くものであるのなら、憎しみに塗れた剣が美しい筈がない。
しかし、その太刀筋は自惚れる程に美しかった。
「剣とは、剣なり。只、己の敵を斬るのみよ」
剣とは何か。それに長年の人生経験を持って答えを出した万秋に対して、四条の人生はあまりに短い。
未だに二十歳にも成らない未成熟。
万秋が味わって来た艱難辛苦の十分の一も味わった事が無い。
しかし、それでも愛したいと思った人がいた。
世界を奪われ。家族を奪われ。過去を奪われた異世界召喚で唯一、“良かった”と心の底から言える出来事。
一緒に未来を見たいと思った相手との出会い。
(・・・火風)
心の中でその名を呼んだ。万秋の剣により命を落していく怪虫たち。具足虫。鬼百足。大鳴虫。彼らの死骸を積み上げてでも、救いたい
(彼女を救うためなら、なんでもする)
嘘偽りの無い思いは四条の直刀に“殺意”を乗せる。
それは我楽に対してさえ、持ち得なかった
“人の話はちゃんと聞きましょう”を信条に、死体損壊を忌避する心情。
元の世界の価値観に縛られる四条が今まで持ち得なかった“人を殺してでも”という殺意。
それを抱いた瞬間、非難の声は小さな影と共に落ちて来た。
「しぃ君。それは良くないよ」
四条にとっては聞き覚えのある声。
万秋にとっては聞き覚えのない声。
「人を殺すって事はさ、人を殺すって事なんだよ。人を守るって事でも、人を助けるって事でも無い。殺すって事。その辺をわかってやろうとしているのかな?」
身の丈を優に超える
愛羽の外見は美少女と見紛う美少年。そして、召喚勇者の一人にして四条の大親友。
そんな彼がどうして此所に居るのかを問うのは無粋だろう。
愛羽は四条と万秋の二人から困惑の視線を向けられているのにも関わらず、はじけんばかりの笑顔を浮かべて言った。
「この
次いで出たのは、理不尽を感じさせる程の“暴力”だった。突然の愛羽の登場に驚く四条に向けて、愛羽は蹴撃を繰り出した。左足を軸足に三回転を加えた回し蹴り。脈絡の無い攻撃に四条の反射神経では見えて居ても反応できない。代わりに『百鬼装甲』となって四条の身体に巻き付いている六匹の鬼百足たちが動く。
担い手の意思がなくても動く
その合間を蹴撃は縫う。
勢いを変えないまま軌道のみを変えるという慣性の法則を無視した絶技。
それを目の当たりにして絶句する四条の腹部に愛羽の爪先が突き刺さる。
肋骨の折れる音がした。
「~~~ッ⁉い、いきなり何するんだ‼
親友からの攻撃で骨折した四条は思わず叫ぶが、次の瞬間に折れた肋骨に激痛が走り、患部を手で押さえながら膝から崩れ落ちた。
その様子を見下ろす愛羽は言う。
「勿論、助けに来たよ。でも、その前にお仕置きをしておかなくちゃね。騎士団を相手に喧嘩を売るなんて馬鹿な真似をしているんだから、蹴られたくらいで文句を言わないでよね。言い訳があるなら聞くけど、どうする?」
「聞く気があるなら、まずは言葉で非難しろよ。どうして俺の周りには・・・人の話しを聞かない奴らばかりなんだ。・・・ありえない。・・・ぶっちゃけ、ありえない」
「初代プリ○ュア!名作だよね!」
眩しい笑顔でサムズアップする親友を見て、四条はこの場での親友の行動を理解する事を諦めた。
崩れ落ちた親友から視線を外し、愛羽は万秋へと視線を向ける。既に戦いの雰囲気を霧散させ、六匹の鬼百足に慰められている四条とは違い、未だに万秋の剣は四条と愛羽の二人に向けられている。
万秋は眉間に皺を寄せながら、愛羽を睨む。
「お主、誰じゃ」
万秋の至極真面な質問に答えを返したのは愛羽では無く、四条と万秋の戦いを見守っていた亞呂恵だった。
亞呂恵は突然に現れた
「た、隊長さん。あの人は愛羽明人さま、いえ、さんなの。騎士団本部さんの隊長補佐なの」
「隊長補佐?なんじゃ、そんな役職を儂は知らんぞ。隊長の補佐は副隊長の仕事じゃろう」
「勇者で有る愛羽さんの為に騎士団本部さんで新しく作られた役職なの」
「フン、なるほどのぉ。つまり奴はあの
自分の事を棚に上げて騎士団本部の公私混同に憤る万秋は肩を鳴らしながら剣を構え直すが、亞呂恵はそれを慌てて止める。
「さ、流石に騎士団本部さんと戦うのはまずいの!此所は穏便に済ませるために、愛羽さんの話しを聞いてみるのが良いと思うの!」
「なんじゃ、いきなり腑抜けた事を言うのぉ。お主は御上の権力に剣一本で立ち向かう儂が
「だ、駄目なのー‼」
やる気を見せる万秋を亞呂恵は必死に止める。亞呂恵の必死の説得により渋々ながら万秋は剣を収めた。
愛羽の介入を持って四条と万秋の戦いは止まり、愛羽の部隊が野営地とする場所で
万秋との戦いを、四条が望んでいた話合いの場へと変えた愛羽は、自分の功績を誇示するように四条へダブルピースを向けたが、四条は骨折の痛みでそれどころでは無く見ていなかった。
その事にふくれっ面になる愛羽の顔をアップに、場面は転換する。
火風を救えた事が何よりも嬉しかった四条は、彼女の姿を見た瞬間に抱きしめた。
「火風ッ!無事で良かった!」
愛羽の介入によって万秋の奴が引き下がった後、四条は愛羽の部隊が野営地とする場所を訪れていた。其処に火風とアーエー、そして雷汞の姿があった。
四条を見つけた雷汞が大きく手を振り、アーエーが小さく頭を下げる中、火風は抱きついてくる四条に対して戸惑った様な笑顔を浮かべながらに、その抱擁を受け入れていた。
普段で有れば人前で抱きしめるなんて真似をすれば「こ、公衆の面前で破廉恥な真似をするな!」と怒鳴られるだろうが、流石に命の危機を脱した
果たしてどれくらいのハレンチなら許されるのだろうかと、降ってわいた好奇心の赴くまま四条は火風の臀部を揉んでみた。
「きゃっ⁉な、なにをするッ‼」
流石に突き飛ばされた。当然か。しかし、火風の「きゃっ⁉」なんて可愛らしい悲鳴を聞いたのは初めての事だった。
出会ってから半年以上が経ってもふとした瞬間に自分をドキドキさせてくれる女性を前に、顔を緩ませる四条に対して愛羽の棘のある言葉が飛んだ。
「しぃ君。イチャイチャするのは、僕の話を聞いてからにして欲しいかな。誰の話でもちゃんと聞くのが、しぃ君の数少ない長所なんだから」
親友から発せられるラブコメの波動に内心でイライラしている愛羽がナチュラルに四条をディスる。
長所が数少ないと言われた四条だが、それを気にすることは無い。
「溢れるばかりの事よりも、数少ない事こそを誇るべきだと考える俺にとって、それは褒め言葉だよ」
「知っているさ。僕はしぃ君を何時だって、褒めて上げたいって思っているからね。だから、もっと褒めて上げたいから。今は僕の言うことを聞いてよ。さあ、座って」
笑顔の愛羽に促されて、四条は用意させていた椅子を見る
野営地にて用意された三脚の椅子。
それぞれ対面するよう置かれた椅子の一つには既に万秋が腕を組んで座っていて、その後ろには亞呂恵が控えていた。
四条が椅子に座れば、その後ろには火風と雷汞が並び立つ。
アーエーはその更に後ろ。万秋の視線から隠れる位置に立った。
そして、最後に空いた椅子に愛羽は座る。
只一人、誰も後ろに控えさせる事なく座った愛羽は中立だ。
四条と万秋の緩衝材となるために戦場に来て、此所に居る。
「さて、しぃ君に万秋さん。二人の対立の原因について、僕なりに調べて既に手を打っています。初めに言っておくと、しぃ君たちにかけられた容疑は冤罪です。万秋さん、貴方の街で宿屋が爆破された事件の犯人は別に居ます」
四条が逮捕され、火風とアーエーが捕らえられた表向きの理由。
それが冤罪だと言い切る愛羽に対して万秋は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「フン、そんなことはわかっている。大方、魔族排斥主義の団体。『破魔の剣』とか名乗っとる連中の仕業じゃろう」
「その通りです。『破魔の剣』は地方騎士団の連隊長である小紫耀さんすら抱えこんで、理不尽にもアーエーさんを害そうとした。しぃ君たちはそれに巻き込まれた形です。ですから―――
「そんな事は関係ないのぉ」
―――関係ないとは?」
愛羽の言葉を遮りながら、万秋は悪辣に嗤う。
「理不尽で無い害意などない。儂の街で馬鹿な真似をしてくれた連中は、必ず見つけて叩き切ろう。しかし、それは別として儂には殺したい
万秋は四条の後ろにいるアーエーに向けて言う。
「アーエー・シューハマーは、殺さねばならん。そやつは儂の妻の仇じゃ」
万秋の言葉にその場に居るほぼ全員が息を呑む。
後ろに控える亞呂恵ですら震え上がる憎しみを言葉に乗せながら、万秋は嗤う。
「何十年が経とうと忘れる事など無い
四条は万秋の抱える感情を少しだけ理解する。しかし、それでもアーエーを庇う。
「けれど、それは戦時中の話なのでしょう」
「そうじゃ。救い無き戦争の話よ。儂は魔族との戦争で家族の全員を失った。生まれ故郷は焼かれ、弟妹は幼い頃に魔物に喰われた。妻の亡骸を打ち棄てて助けた娘さえ、儂に恨みを持つ魔族に犯され辱められ、それが原因で自殺した。のぉ、小童共。お主ら、
万秋は嗤う。嗤っている。最早、この過去を語る時には嗤っていることしか出来ないのだろうと四条は思った。“憎しみ”の三文字では説明が出来ない
気持ちがわかるとも、わからないとも到底、言えない。
それでも言わなければならない。
「・・・魔族に全てを奪われた貴方が、魔族の全てを滅ぼすと誓い剣を振るった事は想像に難くない。俺も同じ立場なら、そうした。でも、戦争は終わった。
「戦争を知らない
金属がぶつかり合う音が響いた。
万秋が四条に向かって振るった剣を、火風の手斧と雷汞の剣が止めていた。
二人が万秋の剣を止めなければ四条は此所で死んでいた。
それでも瞬き一つせずに自身の眼を真っ直ぐと見てくる四条に対して、犬歯を見せて獰猛な笑みを浮かべて言った
「お主、殺されるとわかっていて、その言葉を吐いたな。ならば、良かろう。その覚悟をくみ取り、そっ首を叩き落してくれるわい。剣を抜け、小童」
「刀は抜かない。俺は貴方と話し合う為に此所に居る。明人が用意してくれた席を、無駄にする気は無い」
「魔族を庇う国賊と話すことなど何も無いわい。儂は魔族との戦争で何もかもを失った。その仇も討てぬまま終戦した。苦渋なら、八十年前に既に呑んでいる。それが運命であるなら、儂とて剣を引いた。現代に産まれた魔族に恨みを抱くほど、若くも無い。しかし、何の因果か仇は
万秋とアーエーの確執を今更、知らないとは四条は言えない。恨みがある。憎しみがある。憎悪と憤怒に駆られている。それは義憤ですら有るのかも知れない。しかし、それら全ては万秋個人の感情だ。少なくとも四条は、此所でアーエーを殺す事が正しいとは思えない。
「貴方が戦争で全てを失ったというのなら、シューハマーさんだって多くのモノを失っている筈です。それでも彼女は、貴方の恨み言に何一つとして言い返していない。善悪の問題ではないのかもしれないけど、俺はどちらが正しいかと問われればシューハマーさんが正しいと思う」
「・・・下らぬ。恨みを忘れて生きるなど、弱者の振る舞いよ。拳を握る覚悟も無き弱き者の思考。
「忘れろとは言ってない。拳を握る事を否定もしない。それでも、殴り合う前に話し合えって言っているんだ。『
「フン、仲良きことは良きことか?子供の理屈じゃのぉ」
「違う。本来の意味は和を尊ぶことだ。話合いをする大切さ、議論する事が大事だと説いている」
「・・・・・・・・・つまり、アレか?お主は、儂にお主とではなく、その魔族と話し合えと言っているのか?」
自分とでは無く、アーエーと話し合え。四条の言葉の意味を察して絶句したのは万秋だけでは無かった。火風や雷汞でさえ、戸惑いながら四条を見ていた。
アーエーのことを守るのでは無い。守った上で殴り合えと言っていた。
荒唐無稽で意味不明。万秋とアーエーの話合いが平和的に終わるなんて考えられない。
暴力に発展することは確実だ。それでも“話し合え”と四条は言う。
『和を以て貴しとなす』。
人の話はちゃんと聞きなさい。
教えられた教えを他人に押しつけるという
それでも、この
「・・・いいですー。そうしましょうかー、万秋」
戸惑う火風と雷汞の後ろから、アーエーの声がした。事の成り行きを見守っていたアーエーは、四条の言葉に賛同する。元々、これ以上に彼らに迷惑をかけることはアーエーの本意ではない。
自分さえ居なければ、四条と万秋が争う理由はない。
そう考えて、身を引くことも考えていたアーエーにとって四条の言葉は渡りに船だった。たとえその末に斬られたとしても、それでも良かった。人間からすれば長すぎる時間を生きた魔族のアーエーにとって死ぬ事は問題ではない。問題なのはどう死ぬかだ。
(彼らのために死ぬのなら、まあ、及第点でしょうねー)
そんな事を考えながらアーエーは万秋の前に立つ。そして、次の瞬間に背中に感じた人の
万秋の目の前に立ったアーエーは、四条に背中から抱きつかれていた。
小柄なアーエーは四条の身体にスッポリと収まる。悔しいが居心地は悪くない。いや、問題は其処では無い。
アーエーは視線を上げる。万秋がドン引きの
「四条―、何をしているのでしょうかー」
アーエーは四条を引き剥がそうとする。
「大丈夫!俺が着いているよ!シューハマーさん!」
しかし、四条はそれに抵抗をする。
「この状況の何もかもが大丈夫ではないのですがー。着いていると言うより抱きつかれているのですがー。ちょ、もう、本当になんなのですかもうー!離れて、くださいー!」
「うるさい!いいから俺の言うとおりに大人しく、クハッ⁉ちょ、ら、雷汞⁉首ッ、極ってるぅ⁉」
アーエーに背後から抱きつく四条に雷汞が
「俺の前でガキに乱暴はたらくとは、いくら旦那とはいえ許せねぇぜ」
「ごめん、調子乗った!離れる!離れるから、首絞めるの止めて⁉あと、シューハマーさんは俺たちよりずっと年上・・・」
「え?そうなんですかい?」
「君は、万秋さんの話を聞いて無かったのか・・・。ガクッ」
「あ、ヤベぇ。旦那がオチた。旦那、大丈夫ですかい!旦那あああああ‼」
「あんまり乱暴に揺すると本当に死んでしまうのですー。こういう時は
「☆○△□(声にならない悲鳴)⁉」
「ッッッッ(共感疼痛による悲鳴)⁉
「いきなりセクハラするからですー」
四条は
アーエーの急所への殴打を見て青い顔をしている雷汞と状況がうまく飲み込めずにいる火風。
その茶番を見ていた万秋から、深い溜息が吐かれると同時に剣呑な雰囲気が消える。
此所までされては流石の万秋といえどもシリアスな空気は保てない。
それをわかっていてやったであろう
「亞呂恵よ。帰るぞ。これ以上、付き合っていられんわい」
「え、う、うんなの。でも、その、私が言うのも変だけど、隊長さん。本当にいいの?」
亞呂恵の心に有った火風とアーエーを助けたいと言う思いは万秋とアーエーの確執を聞いた後でも変わりない。しかし、同時に尊敬する上司である万秋を思う気持ちもある。
だからこそ出た言葉を受けて万秋は亞呂恵の頭を撫でた。
「え、えっと、隊長さん?髪が乱れちゃうの」
文句を言いながらも嫌がる素振りもみせない亞呂恵を見ながら、万秋は考える。
此所でアーエーを見逃して良い筈がない。それが本音だ。確かに彼女は既に戦争犯罪人として裁かれて刑期を終えた綺麗な身だ。しかし、だからといって怨みつらみが晴れる訳では無い。
妻を殺した魔族を斬りたいと言う思いはある。
しかし、四条の言葉にもまた納得しなければならない部分があるのは確かだ。
戦争中。万秋もまた多くの魔族を斬った。その魔族にも家族が居た。
(そんな事はわかっておる。わかっていても納得は出来ぬ。それが憎悪だと思っておる。しかし、
万秋はアーエーに妻が殺された光景を思い出す。
(無表情で人を殺す化物だと思いたかった。コイツには心などないのだと。しかし、コイツもこんな風に笑えたのだな)
地面に転がる四条を足蹴にしながら、雷汞と火風にそれを止められるアーエーと戦火の中で魔弾の雨を降らせるアーエーの姿が万秋の中で重なった。
そうなってしまえば理解せざるを得ない。
八十年前に戦争は終わった。
時代は変わろうとしている。
次は、彼らの物語。
万秋は亞呂恵を見ながらにそう思い、四条たちを振り返る事なくこの場を去る事を決める。
だが、最後まで悪辣さを残すことは忘れない。
「老兵は死なず。
「あ、隊長さん待ってなの!皆さん!取りあえずひとまずさようならなの!また連絡するの!じゃーねーなのー!」
亞呂恵は去って行く万秋の後を追い駆けて行く。
こうして一つの事件から端を発した四条たちと万秋の戦いは一応の決着を迎えるのだった。
万秋が去った後、愛羽は場を仕切り直す様に言う。
「さあてと、これで一段落だね。でも、まだ気を抜いちゃいけないよ。今回の事件を僕が調べた結果、真犯人の目星が付いた。その真犯人は、魔族排斥主義を掲げる『破魔の剣』と組んで国家転覆を狙っているみたいなんだ。やったね、しぃ君!新しい戦いだ!」
「敵は暴徒勇者軍!僕らの大切なクラスメイトだよ‼」
これにて第一部完。
本当なら、この話まで連日投稿をする予定だったのですが、追加修正がリアルでの事情で遅れてしまい投稿できませんでした。
次回からも不定期投稿になります。
でも、少しでも皆様の暇つぶしになれるように頑張ります\(^_^)/