「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語   作:白白明け

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オリジナル小説に挑戦したくて書かせて頂きました。

皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m


第二話

 

 

「アーの名前はアーエー・シューハマーと言いますー」

 

無表情で挨拶をする少女の額には深紅の角が生えていた。

四条よりもずっと小柄な身体。

子供の背丈しかなく、肌は陶磁器の様に白かった。舌足らずの口調が、更に少女の年齢を幼く感じさせたが、魔族に人間の常識は通じない。見た目と実年齢が合わないのは、魔族にはよくあること。

四条はアーエーを子供と思う事なく、一人の女性として接する。

 

「よろしく。俺は四条。君、困っているらしいね。俺で良ければ話、聞くよ?」

 

「依頼人とは適切な距離感を保てッ!」

 

いつもの行動(ムーブ)でアーエーを軟派しようとした四条の脳天に火風の拳骨が炸裂する。頭を抱えて蹲る四条に代わり、火風がアーエーに右手を差し出した。

 

「私は火風。こいつは四条。今回の依頼は私達二人で受ける事になった。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いするのですー。いやー、当たりが引けて良かったのですー」

 

差し出した手を取りながら、そんなことを言うアーエーに火風が首を傾げると、アーエーは間延びした口調をそのままに、四条と火風からすると頷き辛い事を言う。

 

「依頼を受けたのが魔族差別主義者だったらどうしようかと考えていましたー。でも、二人は違うみたいなので安心ですー。奴等は魔族(私達)を軟派したり、握手したりしませんからねー」

 

「・・・依頼を受けた以上、責任を持ってやり遂げてみせるさ。なあ、四条」

 

「あー、うん。もちろんもちろん、あー、頭いてー」

 

「こんな風だが、頼りにはなる男だ。安心してくれ」

 

「わかりましたー。では、早速頼りにさせて貰うのですー。アーたちは一体、どうやって目的地に向かえば良いのでしょうかー?」

 

アーエーの最終的な目的地は首都。

しかし、首都までの長い道のりを一気に進む事は難しい。

道中にある盗賊や魔物などの危険性。アーエーが魔族である事の不利も考慮しなければならない。

だから、アーエーから四条達への依頼は冒険者組合のある別の街までの護衛。

其処でアーエーは再び同じ依頼を冒険者組合に出し、少しずつ首都へ向かう予定だ。

 

火風は依頼の内容を再度、アーエーから直接確認しながら、道程の予定を立てる。

 

「この街から目的地とする街までは馬車の定期便が出ているのだが、・・・残念ながら、使用は避けた方が良いだろうな。トラブルに巻き込まれる可能性がある」

 

「ですねー。アーエーとしても出来る限り人目は避けて進みたいのですー。でも、歩くとなると結構な距離ですー」

 

「ああ、馬車の御者を出来る奴が居れば話は早いが、生憎と私もコイツも出来ない」

 

「アーも無理ですー。歩くしかないのですー」

 

「いや、こういう時に意外と頼りになるのがコイツだ」

 

火風はそう言いながら四条の肩を叩く。

四条は隠れている右目に手を宛てがいながら、ドヤ顔を披露してアーエーに訪ねる。

 

「ふっ、時にシューハマーさん。虫は苦手かな?」

 

「ゴキブリは嫌いですがー、カブトムシは大丈夫なのですー。総じて普通ですかねー」

 

「なら、及第点かな。多分、大丈夫。森に向かおう」

 

「アーを森に連れ込んで何をするつもりなのですかー」

 

「何かして良いなら喜んでするけど―――

 

四条の言葉に火風が拳を振り上げる。

 

―――嘘ですごめんなさい。何もしないので着いてきてください」

 

「わかりましたー」

 

こうして三人で街を出て森へと向かう道中、アーエーは前を歩く二人のことを注意深く観察していた。

 

街道を進まずに森に向かうという時点で怪しさが満点だった。

アーエーが無表情の裏側で二人の事を疑うのも無理はない。

 

(森に着いた途端、身ぐるみを剥がされるかも知れませんねー)

 

そうなった場合、戦わなければならないとアーエーは自身の身体を巡る魔力の流れを意識する。

基本的に魔族の身体能力は人間を凌駕している。子供ほどの背丈しかないアーエーでも大の大人を投げ飛ばすくらいなら造作も無いことだ。武器を使うのなら、多人数相手だって引けを取らない。

 

(しかし、今は素手なのですー。何処までやれるか疑問ですねー。人間を刺激しないように武器は持ち歩かない主義なのですがー、失敗だったかも知れないのですー)

 

無表情のまま結構真剣にそんな事を考えていたアーエーだったが、それが杞憂だと分かるのは直ぐの事だった。

 

森の中を迷い無く先導していた四条の足が止まる。

 

「到着。この辺で良いでしょ」

 

そう言って足を止めた場所の近くの茂みの中から、如何にも冒険者といった風貌のむくつけき中年男性(おっさん)たち数名が現れた。

 

「ヒヒヒ、こんな所にノコノコやってくるなんて、バカな奴め」

「身ぐるみを置いていって貰おうかッ!」

「ヒャッハー、魔族の血は何色だーッ!」

 

この国での魔族の旅には危険がつきものだと言うことは散々聞かされていた。それでも離ればなれになった親友(とも)の為に首都へ向かうと決めて故郷を旅立ったアーエーが、この程度のトラブルに巻き込まれる覚悟が無かったわけが無い。

 

(狡猾に魔族を陥れる奴らも多いというわけですねー)

 

むくつけき中年男性(おっさん)たち。

そして、何よりも自分を騙した四条と火風に対する怒りとともに魔力を体中に張り巡らせるアーエーは、次の瞬間に信じられないモノを見た。

 

「チェンジで」

 

「うわーッ⁉」

「ぎゃーッ⁉」

「うそーッ⁉」

 

四条の一言と同時にむくつけき中年男性(おっさん)たちが森の外へと吹き飛んで行った。

真逆の事態にアーエーが滾らせていた魔力は行き場を失い、黒い煙と共に消失する。

吹き飛んで行く中年男性(おっさん)たちの行方を呆然と見送ったアーエーの肩に火風の手が乗せられる。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はいー。あれは・・・何だったのですー?」

 

「恐らく他の街の冒険者崩れだろう。私達の街では見ない顔だ」

 

「いえー、そうでは無くてー、どうして吹き飛んだのですかー?」

 

「吹き飛んだ訳ではない。()()()()だけだ。四条、説明してやれ」

 

火風の言葉に四条は「待っていました‼」と言いながら、前髪で隠れている右目に手を宛てがい、ドヤ顔でポーズを取る。

そして、芝居がかった口調で語る。

 

「誰が言ったか召喚勇者。与えられしは異能の神器。争い無き世に解き放たれし場違いを、恥じること無く笑ってやろうッ!」

 

右目に宛がっていた手を天に掲げる四条。

それを見て溜息を吐く火風。

アーエーの眼は半ば死んでいた。

 

それらの環境。全てを()()ながら、掲げた手に集うのは()()()()。昆虫特有のキチン質を含む銀色の外殻を木漏れ日の光で輝かせながら、人の頭部ほどもある怪虫が四条の指揮に従う様に宙を舞う。

 

「召喚勇者ッ、序列第十三位ッ!神器『天害蠱軍(てんがいこぐん)』の担い手!四条獅子丸ッ‼」

 

名乗りと共にキメポーズを取った四条の頭上に三匹の怪虫が重なって着地する。

怪虫たちも四条に合せてそれぞれ前脚(ぜんきゃく)中脚(ちゅうきゃく)をワサワサさせてポーズを取っている。

そのあまりに間抜けな構図にアーエーは思わず無表情を崩して、吹き出してしまった。

 

「ぷっ、き、キモすぎるのですねー」

 

「唐突な罵声だけど、君の笑顔が見られたから、ヨシっ!とする。そういう訳で勇者です。改めてよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いするのですー。それにしても、勇者ですかー。異世界召喚(やってくるの)が、八十年ほど遅かったのではー?」

 

人間と魔族の戦争は、人間の勝利という形で八十年も前に終わっている。

 

「その件に関しては俺の方でも王様に抗議済みだよ。お陰で地方に飛ばされた」

 

「お前は、変な奴ですねー」

 

「キモい奴からランクアップしたな。これは君の俺に対する好感度が上がったと考えていいのかな?」

 

「前向きな奴は好きですよー」

 

「火風ッ!聞いたか、シューハマーさんが俺のこと好きだって‼大好きだって!モテ期かなあ‼」

 

「なっ、だ、駄目だ駄目だ!シューハマーッ、目を覚ませ‼こんな虫を侍らせて喜んで居るようなコイツの側に居られるのは私だけなんだからな‼」

 

ドヤ顔を決める四条とその横で慌てふためく火風。

やってくる時代を間違えた勇者たちの一人とその仲間を見ながら、アーエーが思い出すのは8()0()()()の事だった。

魔王軍の一員として戦ったアーエーは、時代が違えば勇者である四条の敵となっていただろう。

しかし、戦争は既に終わり、現代(いま)は既に種属間差別を無くそうと各国が叫んでいる。

出会えたのが現代(いま)で良かったアーエーは笑う。

 

「本当に、変な奴らなのですー」

 

その笑顔を見て顔を赤らめた四条の右頬に、火風は理不尽な暴力(パンチ)を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

森で四条に従う怪虫、具足(ぐそく)(むし)の名付け親はクラスメイトの名付(なつけ)奈々(なな)

あだ名を付ける事を生きがいにする彼女の命名を、四条は結構、気に入っていた。

 

そして、具足虫の大群と合流した三人は、現在、具足虫が運ぶ(かご)に乗り、空を飛んでいた。

三人が乗っても余裕のある籠を数十匹の具足虫たちが胴体に付けられた縄で引っ張り上げている。

神器『天害蠱軍』の能力。怪虫操作が可能にする空の旅にアーエーは心底、感心していた。

 

「便利な能力ですー。冒険者ではなくー、運送業に就いた方が稼げるのではないですかー?」

 

陸路や海路ではなく空路での運輸は莫大な富を築く。

森の中には今飛んでいる以上の具足虫の姿があった。つまり、四条がその気になれば莫大な量の荷物が運べる。競合が存在しない以上、物流を支配することも可能だろう。

 

少し考えれば沸く疑問に四条は具足虫一匹を頭の上に乗せながら、答える。

 

「オレタチ ニンゲン ノ ドウグ ニハ ナラナイ」

 

その目には光が無かった。

 

「おー?火風、大変ですー。四条の人格が虫に乗っ取られましたー」

 

巫山戯(ふざけ)るのも、大概にしろ」

 

火風が四条の後頭部を引っ叩く。

その衝撃で四条の頭に乗っていた具足虫が転がり落ちる。

四条は目に光を取り戻しながら、ハッとした表情で言う。

 

「おれは、正気を、取り戻したッ!」

 

「まだ殴られたいのか?」

 

「ごめんなさい」

 

火風の理由ある暴力に怯えて、素直に頭を下げた四条は自分の茶番に付き合って、仰向けでひっくり返り、脚をピクピクとさせて瀕死を装っている具足虫を拾い上げて頭の上の定位置に戻すと、アーエーの疑問に答える。

 

「金儲けの為に冒険者をやっている訳じゃないないからね。この平和な時代、少なくともこの国では冒険者は必要とされていないだろう?」

 

一昔前、冒険者という職業は一大ブームだった。

魔王が支配する魔物が闊歩する社会において、戦いを生業とする冒険者の冒険譚は民衆の心を撃ち、多くの人々が冒険者に憧れを抱いた。

しかし、そんなブームも魔族との戦争が終結し、魔王が打ち倒され、魔物の多くが凶暴性を失い、平和な世の中になったことで終わった。

冒険者だった者たちの多くが引退した。

 

そして、魔族との戦争から八十年たった今では、地方にある冒険者組合は金銭的に困窮していて、冒険者家業だけで生計を立てられる者は少ない。

火風と同年代の若者たちの多くが安定した職業に就き、彼らが火風の事を奇異の目で見ることからも分かるように、今の冒険者たちは定職に就けない者たちだという風潮が強い。

 

「そんな中でも、月に一度や二度は寂れた冒険者組合に依頼が来る。あの街で真面に依頼が受けられるのは俺と火風くらいだから、俺が冒険者を止めたら依頼人は困る訳だ。俺は困っている依頼人に言ってやりたい」

 

四条はアーエーを見ながら、悪戯っぽく口角をつり上げる。

 

「俺で良ければ話を聞いて、力になるって」

 

「・・・・・・・・・お前は意外と良い奴なのですねー。少しだけ感心しましたー」

 

「ハハッ、そう、俺は良い奴だよ。それにお節介だ。そんな俺から提案なのだけど、首都を目指しているなら、このまま虫籠(むしかご)で首都まで運んであげようか?」

 

「悪くない話ですねー。それなら余計なトラブルに巻き込まれる事もなさそうなのですがー、いいのですかー?」

 

四条は「もちろん」と頭の上の具足虫と共に頷いていたが、アーエーは火風にも確認を取る。

火風は少し考えた後、四条と同じく首を縦に振る。

 

「依頼料を上乗せすることには成るが、私も構わない。森で襲撃されたから分かると思うが、正直言って地方(ここら)の冒険者の質は悪い。次の街の冒険者が、シューハマーの安全を絶対に保証出来ない以上、乗りかかった船だ。任せてくれ」

 

「ありがとうございますー。ではー、よろしくお願いするのですー」

 

「契約更新ッ、ヨシ!これでしばらくは食い扶持に困らなくて済む!」

 

「四条、そういう事は依頼人の見えない所で喜んでくれ・・・。シューハマーなら大丈夫だろうが、足下を見られる」

 

頭の上に乗っている具足虫と共に喜びを露わにする四条を火風は溜息を吐きながら嗜めて、アーエーには「残念ながら割引はないぞ」と釘を刺す。

アーエーは「無事に首都に送り届けてくれるなら、言い値で払うのですー」と返し、四条と火風はアーエーの懐具合に驚いた。

 

実年齢百歳を超えるアーエーには、長年にわたり溜め込んできたち貯蓄がある。

 

「ですがー、一度、目的地であった街には寄って欲しいのですー。四条たちの街の冒険者組合の組合長から、その町の組合長にアーが来る事の連絡が行っている筈なのですー。一応、信用できる冒険者を紹介して貰えるようにお願いしていたのでー、断りを入れなければならないのですー」

 

「了解した。四条、最初の目的地だった街で一度、虫籠を降ろそう」

 

「あいあいさー」

 

四条の気の抜けたかけ声で具足虫たちは一斉に最初の目的地だった街へ向けて舵をきる。

そして、虫籠は目的地の街の側の森の中へ降りるのだった。

 

 





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