「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語 作:白白明け
皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
騎士団ー警備隊-取調室。
堅牢な石造りの狭い部屋で四条は取り調べを受けていた。
「貴方の身元の確認が取れたの。冒険者組合に登録された勇者さん。つまり“外れ勇者”なの」
「“外れ勇者”?」
聞き慣れない言葉に首を傾げた四条に対して、ピンク色の髪の女騎士-
「最近、都会の方で流行りだした言葉なの。役立たずの勇者さんたちをそう呼ぶそうなの」
艶のある唇から出る吐息を手入れ後の爪に吹きかけながら、亞呂恵は地方に
「いま、王国の各地で外れ勇者が問題を起こしているそうなの」
本来、宿屋爆破の容疑者である四条にはどんな情報であれ漏らす事は御法度なのだが、亞呂恵はそんな事を気にする様子もなく、取調室にいる他の警備兵にもそんな亞呂恵を嗜める様子がない。
取り調べが始まって直ぐに机の上に美容の道具を広げた亞呂恵には、真面目に職務に取り組むつもりがない。
「目撃情報。動機も確認出来たの。“外れ勇者”の貴方は、ムシャクシャして宿屋を爆破したの。犯人は貴方で決まり。犯人逮捕でこの事件は解決なの。じゃあね」
そう言って立ち上がり、取調室から出て行こうとする亞呂恵の腕を四条は掴む。
部屋の置物と化していた警備兵が動き出し、四条に剣を向けた。
それでも腕を放そうとしない四条に対して、亞呂恵は溜息を吐きながら、冷たい視線を向ける。
「離して欲しいの」
「俺は犯人じゃない」
「犯人さんはみんなそういうの」
「現場をもっと良く調べてください。目撃情報があったっていう不審者の死体が見つかるはずです。俺は四人の男たちに襲われた。その内の一人が自爆した!」
「死体なら一杯、見つかっているの。宿屋の女主人も亡くなっているの」
亞呂恵の言葉に四条が表情を曇らせると、それを見逃さなかった彼女は咎めるように艶のある唇を尖らせる。
「今更、罪を後悔しても遅いの。この街中の人間が貴方を恨んで、事件が早く解決するのを願っているの」
「だからッ、真犯人は別にいる!」
「犯人さんはみんなそういうの」
暖簾に腕押し。糠に釘。
故郷の諺を思い出しながら、亞呂恵を睨む四条だったが、それで事態が好転するはずもなく、心証を悪くするだけだった。
どうすれば良いのか分からずに口を閉ざした四条に対して、亞呂恵は腕を掴んでいた手を払うと、椅子に戻り、淡々とした口調で事務的な事を話す。
その口調には面倒な仕事は部下に押しつけたかったという彼女の気持ちが表れていた。
「犯人さんには、弁護人さんを立てる権利があるの。貴方には弁護人さんを引き受けてくれる知り合いはいるの?」
「・・・・・・・・・首都にいる筈の
「名前からして、その人たちは貴方と同じ勇者さんなの。残念だけど、弁護人さんとして認められているのはこの世界の人間だけなの」
「この国は、俺たちを人間と認めてないの?」
「一年前に突然現れた勇者さんたちに弁護人依頼権を与えた優しさに感謝される理由はあっても、恨まれる理由はないと思うの。この国の国民全員が、勇者さんたちを信じて居るわけではないの。だから、“外れ勇者”なんて言葉が流行るの。信頼がないことの現れ、勇者さんたちの怠慢なの」
国王をぶん殴って地方に
一年前、異世界召喚された時、クラスの意見は割れた。
この国の為に力を尽くそうという“王道派”。
元の世界に帰る術を探そうという“帰還派”。
好き勝手に異世界を楽しもうという“享楽派”。
四条は帰還派に属していて、元の世界に帰る方法を探していたが、いろいろなストレスが重なり国王をぶん殴った。
あの時、もっと冷静な判断が出来ていれば、あるいはクラス全体で一致団結していれば王国の
軽率な判断は信用を損ない。
暴力的な人間は信頼されない。
分かりきったことを目で語る亞呂恵は、それを自覚している様子の四条への心証を僅かに上方修正しながら、問いかける。
「この世界産まれの人で弁護人さんを引き受けてくれる知り合いはいないの?」
四条が真っ先に思い浮かべるのは火風だが、今は頼ることが出来ない。
襲撃者達に狙われたのがアーエーである以上、行動を共にしている火風も身を隠す必要があった。
第一、四条が彼女達と一緒に宿屋に入った事が知られれば彼女達も共犯者として逮捕されるだろう。
不謹慎ながら、宿屋の女主人が亡くなっているお陰で、今はまだ三人が繋がっていることを警備隊は知らない。
襲撃者の残党がいるかも知れない事を考えれば、火風は頼れない。
四条が次に思い浮かべたのは、異様に背の高い慇懃無礼を絵に描いた様な男だった。
「俺が冒険者登録をした街の冒険者組合の組合長に、連絡をして欲しい」
「直ぐに連絡を取るの。だから、くれぐれも貴方は牢屋で大人しくしているの。これ以上、面倒な仕事を増やすようなら、私が完全に貴方の敵になることを忘れないで欲しいの」
そう言い残して亞呂恵は取調室を出て行った。
閉まってしまった扉に意気消沈していた四条に対して、取調室に残った警備兵は声をかけた。
それは見るからに萎れた四条への哀れみだったが、声色には優しさが少しだけ滲んでいた。
「亞呂恵副長が寛大な方でよかったな」
「寛大?アレで?」
「亞呂恵副長は首都で活躍している勇者の一人を熱心に応援しているらしい。だから、勇者の評判を落す“外れ勇者”には厳しいが、それでも話くらいは聞いてくれる。本来、“魔物使い”であるお前には、もっと厳しい処遇が与えられていた。お前が勇者だと言った時、直ぐに確認をとった亞呂恵副長に感謝するんだな」
「やっぱりこの世界の人からすると神器のチカラは異様に映りますか?」
「お前も知っているだろうが、魔力は生き物の形を崩す事を嫌う。だから、魔法の大半は動物の形をしている」
魔力という元の世界には無いチカラについては召喚された時に説明を受けていた。
その性質は警備兵が言ったとおりだ。
魔力は生き物の形を崩す事を嫌う。
魔法の大半は動物の形をしている。
具足虫を撃ち落とした亞呂恵の火魔法-『狐火』。
「魔族とてその原則を外れはしない。その原則の中にあって、お前達の神器の力は異様だ。色眼鏡で見るなと言う方が、無理があるとは思わないか?」
「思います」
「なら、お前はやはり
警備兵の言葉に素直に従い、四条は取調室を出て牢屋に向かう。
牢屋に向かうために取調室からでると、目隠れ系男子のアイデンティティーを奪う風が吹く。
風で吹き上げられた前髪の下にあった四条の右目は、
神器『天害蠱軍』は四条の右目に埋め込まれていた。
取調室で四条の取り調べを終えた亞呂恵は、急ぎ足で仕事部屋である副長室に戻ると、経費を使って設置した無駄に豪華な寝具に身を投げる。
そして、足を振りながら身もだえはじめた。
「~~~~~~っ!信じられない事が起こったの。これは運命かもしれないの!」
その顔は歓喜で赤く染まっていた。
“外れ勇者”が起こしたと思われる宿屋爆破事件。
宿の女主人を含め宿泊者数名の犠牲が出た痛ましい事件だが、犯人を早々に逮捕できたのは自分の日頃の行いが良いお掛けだと思っていた亞呂恵は、訪れた更なる幸運に歓喜する。
「まさか、容疑者さんから
四条が一番始めに弁護を頼もうとした人物。
彼こそが勇者でありながら騎士団入りを果たし、その功績と甘い
一度だけ遠目で見たことがあるだけだが、愛羽の姿に亞呂恵の心は射貫かれていた。
本心を言えば愛羽と直接会うために、本来なら違法となるが愛羽が四条の弁護人に成ることを認めたい。
しかし、その気持ちを職務倫理で押しとどめる。
「・・・けど、この機会を逃したら、もう二度と!」
亞呂恵は、震える手で騎士団本部への連絡用の魔法具の受話器を手に取る。
《こちら、騎士団本部。所属と名前をお願いします》
「地方騎士団、第二十三分隊所属。副隊長の亞呂恵なの」
《少々お待ちください。・・・・・・・・・確認が取れました。亞呂恵副隊長。お疲れさまです。何の要件ですか》
「勇者、愛羽さ、愛羽さんにお話があるの。どうにか取り次いで欲しいの」
《・・・・・・・・・失礼ですが、要件の内容をお伺いしてもよろしいですか?》
「私の街で起きた事件についてなの。捜査中なので全容は話せないの。でも、四条獅子丸という勇者についてと伝えてくれれば、きっと伝わるはずなの!」
《わかりました。少々、お待ちください》
暫くして、受話器の向こうから聞こえてきた声は清流のように爽やかなモノだった。
《もしもし》
「も、もしもしなの!あ、愛羽さま、いえ、愛羽さんなの!」
《はい。愛羽です。僕の親友である四条に何かあったと聞いたのですが?》
「は、はいなの。実は四条さんがある事件ヘの関与が疑われているの。それで、弁護人として貴方の名前を彼が出したの」
《わかりました。直ぐに向かいます》
「い、いえ!勇者である貴方を弁護人として認めることは出来ないの!」
《・・・残念です。僕が四条の為にできる事はないのでしょうか?》
「残念ながら、ないの・・・。で、でも!捜査はしっかりとするから、安心して欲しいの!」
《ありがとうございます。貴女の名前を聞いてもいいですか?》
「地方騎士団、第二十三分隊所属のあ、亞呂恵なの」
《亞呂恵さん。四条のことを伝えてくれてありがとう。優しい人なのですね。出来たら、四条のチカラになってやってください》
「・・・残念だけど、贔屓は出来ないの。状況からして、四条さんが一番犯人さんに近いの」
《真面目なのですね。僕、そういう人、好きです》
「す、好きぃ⁉」
《優しくて真面目な亞呂恵さん。どうか四条のことを色眼鏡で見ないで公平な捜査をお願いします。もし四条への疑いが晴れたら、直接お会いしてお礼をさせてください。一緒に食事でも、どうでしょう?そんな事がお礼になるかは分かりませんが・・・》
「い、一緒に食事⁉ぜ、是非!お願いしますなの!」
《ふふ、はい。では、四条の事、よろしくお願いしますね》
「こちらこそお願いしますなの!」
憧れの人との食事という夢みたいな話を聞いて、夢心地で受話器を置いた亞呂恵は、しばらくの間は多幸感に包まれていたが、直ぐにある事に気がつく。
「・・・四条さんが犯人さんだったら、愛羽様に会えないの?」
そのことに気がついた亞呂恵は慌てて副長室を飛び出して、爆発現場へと走り出した。
四条を捕まえたことで軽く調べるだけで終えていた現場検証だが、やり直す必要が出来た。
取調室での証言。
『現場をもっと良く調べて。目撃情報があったっていう不審者の死体が見つかるはず。俺は四人の男たちに襲われた。その内の一人が自爆した!』
その痕跡をなんとしても見つけなければならない。
「あれが嘘だったらゆるさないの!」
愛羽に直接会いたい。
その思いで頭を一杯にして爆発現場に戻った亞呂恵は、四条が弁護人として名前を挙げた組合長への連絡を忘れてしまっていた。
しかし、それは些細な問題だった。
四条への疑いを晴らすため、
愛羽明人は激怒した。
必ず、あの竹馬の友である親友を助けなければならないと決意した。
愛羽は王道派筆頭の勇者である。
その身をこの国に捧げると誓った騎士でもあり、騎士団長補佐の地位と名誉がある。
けれども親友の危機に対しては人一倍敏感であり、誓いも地位も名誉も放り投げて走り出す。
「待っていてね!しぃ君!僕が絶対に助けて上げるから!」
愛羽明人とは、そういう男だった。
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