「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m

しばらくの間は毎日、投稿予定です(^^)




第五話

 

騎士団-警備隊-牢屋。

石造りの堅牢な牢屋に放り込まれた四条は、冷たい床の上で胡座を組みながら考え事をしていた。

 

「お尻を冷やすと良くないと聞いたことがある」

 

四条の記憶が確かなら、お尻や腰を冷やすと肛門周囲の血行が悪くなり、血栓が出来やすくなる筈だ。肛門周囲に出来る血栓。それはつまりイボ痔だ。震え戦くしか無い病名を前に、文字通り身体を震わせながら、四条は牢屋の壁を使って逆立ちをする。

座り込んで考え事が出来ない以上、考え事をするのに相応しい姿勢(ポーズ)は逆立ちしかない。

頭に血を送り込む四条が考える一番のことは火風の安否だ。彼女が強い女性だと言うことは知っているが、彼女に只ならぬ恩がある四条としては心配せざるを得ない。

普段は軽口を叩く間柄ではあるが、何度も肌を重ねている関係でもある。

そんな彼女を自分が受けると決めた依頼で、危険に巻き込んでしまっている事に落ち込んでいる。だが、同時にあの時にアーエーを助けない選択をする自分を彼女が好きでいてくれる筈がないことも分かっているので、今の四条がすべきことは落ち込むことでは無く現状の打破だ。

牢屋に入れられている自分にはなにもすることができない。

 

(そんな事はない。何も出来ない者は何もしようとしていない者だけだ)

 

どんな依頼にも危険が伴うことは理解していた。覚悟があった。

 

(人生には、常にトラブルが起こる。起きてから、その人の生き様がでる)

 

事件の容疑者が牢屋の中で暴れた所で何もいいことはない。事態は好転しない。疑いが深まり、新しい罪状が付くだけだ。だから、此所が信じて待つ場面である事はわかっていた。

しかし、残念ながら、四条獅子丸という男は阿呆(アホウ)だった。

 

「牢屋を出る手段があるなら、出るしか無いだろうッ!」

 

目を充血させながら四条がそう叫び、警備兵たちが「何事か!」と四条の牢屋の前に集まって来たところで、四条は逆立ちの姿勢を崩し床に倒れた。

ビタン!と良い音がした。

冷たい床に身体を打ち付けられて、頭に昇っていた血が引いて、血圧の下がった四条は恥ずかしそうな声で呟く。

 

「お、お騒がせしました・・・」

 

消え入る様な声で謝罪した四条を憐れんだ警備兵たちはその失態を見なかったことにしてくれた。

 

「大人しくしているように」

「はい・・・」

 

警備兵たちが牢屋の前から去った後、四条は空気椅子をしながら思考を再開する。座り込んで考えてはイボ痔になり、逆立ちしながら考えれば血の気の多い考えばかり浮かぶので、仕方なく空気椅子をしなければならない四条は全身をぷるぷると震わせながら自分にできることを考える。

 

(外の様子が分からない以上、牢屋を破るという物騒な考えは捨てた方が良い)

 

今回の依頼のみの達成を考えるなら、ありだが、今後のことを考えればなしだろう。最悪、国内指名手配になりかねない。

そうなった時、火風との逃亡生活には胸を高鳴らせる(ドキドキする)のが四条だが、追っ手として必ず現れるだろう竹馬の友(愛羽明人)の存在を考えると気落ち(ゲンナリ)する。

顔面偏差値80越えの幼馴染みの顔を思い出してしまえば、溜息を吐くしか無い。

 

『誰よりも、しぃ君の役に立ちたいんだ!』

 

男も女も虜にする中性的な美顔を赤らめながら、毎日お弁当を作って渡してきた幼馴染み(男)を四条は嫌ってはいない。むしろ、彼の危機には川を飛び越え、山賊を薙ぎ倒し、太陽が沈むより早く走れる位には好きだが、向けられる“友情を超えた想い”には胃が重くなる。

彼という(おとこ)()の存在があったから、四条の好きな女性のタイプは男勝りな女性(ひと)だ。

 

(弁護人ならまだしも、愛羽が追っ手になるのは不味いよなあ。笑えない)

 

そうして牢屋の中で出来る事をしようと考えた四条は神器『天害蠱軍』を発動する。

すると鉄格子がはめられた窓の外から純白の虫が二匹、中に入ってくる。

二匹の虫は四条の両肩にそれぞれ止まる。肩の上に止まった虫は一見すると蚕蛾(かいこが)だったが、野生回帰能力を失った唯一の家畜化動物として知られる蚕蛾は、普通、翅が退化しているために飛ぶ事はできない。

それにその蚕蛾には二つの複眼以外に額を裂くように存在する第三の複眼が存在していた。

その三眼の蚕蛾の名は鳴虫(なきむし)。(出席番号21番-名付(なつけ)奈々(なな)命名)。

具足虫と同じく『天害蠱軍』で使役できる怪虫だった。

 

鳴虫に戦闘能力はない。彼らは(つが)いで使う怪虫であり、片方が危機に瀕した際にはどんなに遠く離れていても、もう片方がその危機を察知し、鳴く事が出来る能力を持っている。

四条は鳴虫の一匹に火風の元に向かうように命令をして、もう一匹を頭の上に止まらせる。

これで牢屋の中に居ても大事な女性(ひと)の危機を察知できるようになった。

取りあえずはそのことに安堵する。しかし、それで四条という男は緩まない。

 

牢屋の地下深くでは、岩盤を砕く顎を持つ別種の怪虫が蜷局を巻いて蠢いていた。

 

()()()()()()、牢屋を破る気は無い。しかし、火風に危機が迫ったのなら、牢屋を破る事に躊躇は無い。頭に血が昇って考えた血の気の多い考えを実行できるだけのチカラが四条にはある。

 

「・・・組合長、上手くやってくださいよ」

 

四条は慇懃無礼が服を着て歩いているような長身痩躯の男を思い浮かべながら、そう願った。

尚、亞呂恵が連絡を忘れているのでその願いは届かないものとする。

 

 

 

 

「ハックションッ!」

「パパ。大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。しかし、何故か寒気がしますね。なにやら遠くない未来、理不尽な怒りがこの身を襲う気がしてなりません」

「それは大丈夫じゃないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

火風の元に鳴虫が到着したのは空が白み始めた時刻だった。街外れにある馬小屋に身を隠し四条からの連絡を待っていた火風は頭の上にとまった鳴虫に喜びながら、隣で仮眠を取っていたアーエーを揺り起こす。

 

「シューハマー。四条からの連絡が来たぞ」

 

「ふぁわああ。おやおやー、新しい虫ですねー」

 

欠伸をしながら目を擦るアーエーの頭の上には具足虫が乗っていて、鳴虫の来訪に気がついた具足虫はキィキィと鳴く。具足虫の鳴き声に鳴虫はピュピュと鳴き声を返す。

火風とアーエーはそれぞれの頭の上に乗る怪虫たちのやり取りを静かに見守っていた。

 

暫くすると怪虫同士の会話は終わったようで具足虫が前脚と中脚を振り上げ威嚇し、鳴虫はそそくさと火風の上着の中へと逃げていった。

 

「今のやり取りは何だったのでしょうー?」

 

「恐らく彼らの間で意見が割れたな。四条が言うには具足虫は過激派で鳴虫は穏健派。四条の命令に絶対服従なのは変わらないが、あいつの目の届かない場所ではそれぞれがあいつの為に動こうとして、意見が割れて喧嘩をすることが多々あるらしい」

 

「タカ派とハト派ですかー。風見鶏が必要ですねー」

 

「一応、あいつの目の届かない所でも必ず命令どおりに動く種類の虫もいる。だが、今、彼らの意見が割れたのは不味いな。四条の思惑が読めなくなる」

 

「宿での襲撃の時の様にー、その虫は四条からのメッセージを持ってはいないのですかー?」

 

「ないな。身体検査をされた上で拘束されたのだろう。警備隊は宿屋の爆破をあいつの仕業だと思い込んでいるのかもしれない」

 

「それはヤバいですー。犯人にされてしまったら、良くて打ち首。悪くて磔なのですー」

 

「縁起でも無い事をいうな。しかし、そうか。だから、彼らの間で意見が割れたのだろう。恐らく鳴虫は四条に命令されて私たちの元に来た。それは助けを求めてのことではない」

 

「対して具足虫はご主人さまを助けに行くべきだと言って喧嘩になったのですねー。どうするのですー?アーとしては四条が死んでしまったら目覚めが悪いのでー、助けに行くのもアリだと思うのですー。虫たちのチカラを借りられれば、可能なのではー?」

 

アーエーは森に潜んでいる数百匹の具足虫たちを思い浮かべながらに言う。確かに彼らの軍勢があれば四条の奪還は可能だろう。騎士団の建物を襲わせて、その混乱に乗じて火風とアーエーの二人で助け出せば良い。

しかし、火風は首を横に振る。

 

「局所的な解決では意味が無い。シューハマーの目的地が首都である以上、まだ旅は続くのだ。あいつを脱獄させて逃げるのでは、今後の旅がやりづらくなる」

 

「・・・意外ですねー。こんなことがあったのにー、おまえ達はまだアーのチカラになってくれるのですかー」

 

アーエーは心の底から驚いていた。簡単な筈の護衛の依頼。危険があるとすれば盗賊に襲われる位の筈だったのに、何がどうなったのか宿泊先が爆破された。

このまま依頼を続ければ寝むれない夜が続くことは確実だ。

契約を解消するには十分な理由がある。

第一、当初の目的地はこの街だったのだから、此所でアーエーを見捨てても火風と四条の冒険者としての評判に悪評が付く事はない。

 

「魔族であるアーに、どうして其処まで親身になってくれるのですかー?」

 

アーエーの疑問に火風は少し考えた後、小さく笑いながら答える。

 

「正直、私一人なら此所で契約を終わらせていた。あるいは最初から怪しい依頼だと決めつけて受けてはいなかったかもしれない。しかし、四条はあなたの依頼を受けて力になると約束をした。あいつが決めた事に私は出来る限り協力をしたい。なにより途中で責任を放り出す人間をあいつは嫌いだろうからな」

 

「自分を危険に晒しても、四条に嫌われたくないと言うことですかー」

 

「ああ、私はあいつが、す、好きだからな!それにあいつの側には私が居てやらなきゃいけないんだッ‼」

 

アーエーは口から砂糖を吐きたくなった。顔を真っ赤にしている火風の告白は、アーエーに対するけん制だろう。あの男は自分のものだと宣言することで、言外に四条には惚れるなよとアーエーに言っているのだ。

アーエーの好みのタイプは頼り甲斐のある()()だ。四条とはかけ離れ過ぎている。

いじらしい心配を可愛らしく思いながら、アーエーは小さく笑う。

 

「心配しなくとも大丈夫なのですー。四条なんか取りませんよー」

 

「そ、そうだろう!あいつは変な奴だからな!」

 

「で、四条を愛している火風はこれからどうするのですかー?」

 

「あ、愛しているとまでは言っていない!」

 

「顔にLOVEが出ているのですー」

 

「出てない!」

 

火風とアーエーがそんな微笑ましいやり取りを楽しんでいる最中、馬小屋が揺れた。

地震ではない。空気を震わせる程の翅の羽ばたきが馬小屋の中からでも聞こえていた。

慌てて馬小屋を飛び出した二人が見たものは、街に向かってくる黒い雲。

 

「おー、積乱雲(龍の巣)ですー」

 

巫山戯(ふざけ)ている場合じゃない。あれは、具足虫だ!」

 

黒い雲と見紛う程の具足虫の軍勢が街に向かいと飛んできていた。火風はアーエーの頭上にいる具足虫を思わず睨み付ける。具足虫はその視線を気にすることなく前脚を上げて歓喜の姿勢(ポーズ)を取っていた。

火風の知らない事だが、既に犠牲者が出ていた。三匹の具足虫が警備隊の手により名誉の戦死を遂げている。その上で主を捕らえられたのを黙ってみている程、具足虫の気性は穏やかではない。

変な奴である四条にして()()()と呼ばれた具足虫の気性の荒さを、火風は始めて実感した。

 

(こんな虫を頭に乗せてあいつはヘラヘラ笑っていたのか!本当にどうしようもない奴だ!)

 

「軍団は激おこの様子ですー。どうにか止めなくてはー、街が襲われてはー、本気で四条が磔になってしまうのですー」

 

「わかっている。悪いがシューハマー、この蟲笛(うなりぶえ)、魔力を込めて鳴らして貰えないか」

 

火風は首から下げ、服の中に仕舞っていた竹製の(うなり)(ぶえ)を取り出すとアーエーに手渡した。

紐を持って空中で振り回す事で具足虫の鳴き声を模した音色が奏でられる様に造られている蟲笛(うなりぶえ)は四条が具足虫(過激派)たちが暴走した時に使ってくれと言って火風に預けていたものだった。

アーエーは受け取った(うなり)(ぶえ)に『ご安全に!』と下手くそな文字で掘られているのを見て、何とも微妙な顔をしながらも、言われたとおり頭上で振り回す。

 

「この行為にはどんな意味があるのですかー?」

 

「四条が作った蟲笛(うなりぶえ)だ。具足虫を集める効果があるらしい。今までは使う機会がなかったが、効果はあるようだな」

 

街に向かい飛んでいた具足虫の軍勢が、蟲笛(うなりぶえ)を鳴らし始めた直後から速度を落していた。

 

「魔力を込める程、効果があると言っていた。私が使うより効果的だ。悪いが、暫く回し続けてくれ」

 

「わかりましたー。けどー、結構腕が疲れるのですー。魔力もガンガン消費されますしー」

 

無表情の中に疲れを滲ませているアーエーを火風は横で「頑張れ!頑張れ!頑張れ!」と応援し続けて数分、具足虫の軍勢は完全に(はね)を止めて火風とアーエーの元に集っていた。

馬小屋のある広場を完全に埋め尽くす程の具足虫たちに囲まれる形となった二人は顔を見合わせて困っていた。

 

「それでー、この後はどうするのですかー?」

 

「散らし方までは聞いてない」

 

蠢く具足虫たちに囲まれて途方に暮れる二人の耳に快活な声が聞こえて来た。

 

「あー!真犯人さんを見つけたの!」

 

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