「どうしたの?話し聞こうか?」から始まる異世界召喚物語   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m

しばらくの間は毎日、投稿予定です(^^)




第七話

 

騎士団-警備隊-牢屋。

 

鉄格子のはめられた窓から朝日が零れ、牢屋の床を明るく照らした。固い床の上で寝ていた四条は、顔に当たる朝日に起こされ、顔を擦りながら起き上がるとおぼつかない足取りで牢屋の出口へと歩いていく。

 

「顔・・・洗わなきゃ・・・」

 

寝ぼけたまま牢屋の扉に手を伸ばす。扉はすんなりと開いた。

そのまま水場を探して彷徨い始めた四条に、別の牢屋の中から駆けられる声があった。

 

「おい・・・、おい、おい!旦那!」

 

「んあ?」

 

「こっちだ、こっち!」

 

四条の寝ぼけ眼が声の主の方を向く。牢屋の中に居たのは長い黒髪を後ろで束ねた右頬に傷跡のある男だった。

傷跡の男は四条が反応したのを喜び、鉄格子に張り付きながら必死に声をかける。

 

「おし、言葉は通じるみてぇだな。旦那、此所から脱獄するんでしょう?俺も連れていってくれ!俺の名は雷汞(らいこう)。必ず旦那の役に立つ!」

 

雷吼から“脱獄”というキーワードを聞いて、ようやく四条の意識が目を覚ます。

 

「・・・あれ、どうして俺は牢屋の外にいるんだ?戻らなきゃ」

 

自分が脱獄すると色々な人に迷惑が掛かると考えた四条は牢屋の中に戻ろうとするが、四条が元々いた牢屋には鍵が掛かっていて、中に入ることが出来なかった。

鉄格子の扉をガチャガチャしながら、訝しげにする四条を雷汞は声を出して慌てて止める。

 

「ちょ、旦那!旦那ァ!何してやがるんですかい!あんまり音を立てちゃ、警備の連中が来ますぜ⁉」

 

「いや、だから、その人たちに迷惑が掛からない様に中に戻らなきゃ。俺の失態を見て見ぬ振りしてくれる、気の良い連中なんだ」

 

「いや、脱獄囚がどうして警備の連中に気を遣うんでさあ!それよりも早く逃げやしょうぜ!」

 

「嫌だ。逃げるにしても君みたいな犯罪者を連れて逃げる気は無い」

 

「俺は冤罪なんでさあ‼旦那だってそうでしょう!あのエロカワ女が、ちょっとエロくて可愛いからって調子に乗って!ずさんな捜査で俺を犯人だって決めつけやがったんです!旦那だって同じでしょう!」

 

四条は亞呂恵の仕事に対する態度を思い出し、雷汞に少し同情心が芽生えた。

 

「あのエロカワ女ッ、今度あったら只じゃおかねえ!めちゃくちゃ○○○して、○○してやる!」

 

しかし、直ぐに消えた。

 

「ごめん。俺、可哀想なのは抜けないから」

 

そう言って白けた視線を送ってくる四条に雷汞は慌てた様子で叫ぶ。

 

「冗談でさあッ‼・・・聞いてくだせぇ、旦那。俺には脱獄せにゃならねぇ訳がある。語るも涙。聞くも涙のその話を聞けば、旦那だって俺を脱獄させたくて仕方なくなりますぜ」

 

「・・・良いよ。話、聞こうか」

 

四条は雷汞の牢屋の前に胡座で座る。鉄格子越しにみる雷汞の面持ちは、牢屋の中に居るには不釣り合いなほど(よう)を感じさせるものであったが、まさか根明っぽい事を理由に脱獄させるわけにも行かないので語られる話に集中する。

 

「あれは、一ヶ月ほど前の話でさぁ。・・・俺の村が、()()()()()()()

 

地図に載っていない程に小さなその村は、街を追われた者たちが作った村だった。

元山賊。元盗賊。そんなはぐれ者たちが集まり出来た村。

全ての人間がずっと“悪”の側でいられる訳ではない。

罪を悔い改め、涙を零す者がいる。報復の恐怖に、身を振るわせる者がいる。

そんな者たちの村。司法により裁かれ刑期を終えた彼らは、しかし、普通の街で平穏に暮らすことは出来ない。

犯罪者として後ろ指を指される。

それは当然の報いだろう。彼らの所為で失われた命がある。彼らが平穏に暮らす事を許さない被害者遺族の感情を否定できる者は少ない。

 

しかし、それが加害者家族まで及ぶことは果たして正しいのだろうか。

 

「俺はその街で産まれ育った。親は俺がガキの頃に死んじまったから、街の連中に育てられた。確かにお天道様の下で胸を張れるような奴らじゃなかったけどよぉ、ガキに手を出さねぇ位の良識はあった。それをアイツらは、皆殺しにしやがった」

 

白昼堂々の犯行だったと雷汞は語る。

村に現れた三人の余所者。雷汞の村はその成り立ち故に来る者を拒まない。

それが(あだ)となり、村はいとも簡単に襲われた。

 

“首を縛る黒い縄”。

“水のない場所に現れる濁流”。

そして、“鉄の巨人”。

 

嗤いながらに村を襲った勇者たちの神器(ちから)を前に、村を守ろうとした(つわもの)は次々と斃れて行き、残った女子供すら彼らは容赦なく殺した。

 

「確かに父親は山賊だったかも知れねぇ。母親は盗人だったかも知れねぇ。けどよぉ、子供(ガキ)には何の関係もねぇだろうがッ!親が犯罪者だって理由がッ、子供(ガキ)が殺されていい理由になるんですかいッ‼」

 

雷汞は拳を床に叩きつける。皮膚が破れ流れる血が床を赤く染める。

 

「・・・戦って、不様に負けて、気絶した俺が目を覚まして始めに見たのは、親の亡骸に縋る子供(ガキ)の死体でさぁ。背中から斬られてやがった。奴らは人の心がねぇ。許せねぇ。許しちゃならねぇって事くらい、糞野郎の俺でもわからぁ」

 

俯き悔しさを滲ませる雷汞の目から悔し涙は流れない。人は何よりも許せないものが自分である時、どんなに悔しくても泣けない。

()()()()()()

()()()()()()

その怒りを涙と共に失ってはいけないからだ。

 

だから、()()()()()()()()()()()

 

床に血を滲ませる程に激怒していた雷汞は、床に零れた涙を見て顔を上げる。

四条の目から、涙が零れていた。

 

「旦那は、殺された無関係なガキのために、泣いてくれるんですかい?」

 

「言っただろう。俺は、可哀想なのは、抜けない(ダメだ)

 

そう言って目を擦る四条に対して、雷汞には温かい感情が芽生えた。

復讐を肯定された時に相手に感じる信頼感。

それは“復讐しても亡くした人は帰ってこない”だとか、“復讐は憎しみの連鎖を生むだけだ”とか、そんな事を我知り顔で言う、つまらない連中には分からない感情だと雷汞は思う。

涙を見た時に思わず沸いた感情を否定する事が無粋。

雷汞は四条を信頼に足る人物だと直感した。

 

「大丈夫ですかい?旦那」

 

「大丈夫。大丈夫。それで、そこからどうして牢屋に入れられたのかな?」

 

「それは・・・この街には勇者の足取りを追って来たんですが、その・・・情報を集めている時に、ちょいとやらかしやしてね」

 

「何をした?」

 

「いやー、酒場で情報集めている時に生意気な奴がいやがったんで、ちょっと()して、ちょっと金を借りたら、捕まったんでさあ」

 

「・・・・・・・・・それは自業自得では?」

 

「白けた目は止めてくだせえッ、本当にナマ言っている野郎だったんでさあ!俺みてぇな破落戸(ごろつき)の話を信じる奴なんて居ねえとか、そんな事を言われりゃ、誰だって手が出ますぜ!」

 

「うーん。無罪(セーフ)。それは俺でも殴るかな」

 

「でしょう!流石は旦那だ!話が分かる!」

 

四条は雷汞が根っからの悪人ではない事を確信し、牢屋の扉に手を伸ばす。開けようと扉を引くが、当然、鍵が掛かっていて開きはしない。

やはり四条の居た牢屋の鍵が開いていたことが異常(イレギュラー)

その後、鍵が()()()()()()()ことを考えれば、ご都合主義(ふざけんな)も良いところだった。

四条は暫く考え込んで、雷汞に鉄格子から離れる様に言う。

首を傾げながら素直に指示に従い雷汞が鉄格子から離れた後、四条は地下で蠢く怪虫(むし)に命じる。

 

「“鬼百足(おにむかで)”。牢を破れ」

 

四条に命じられて石造りの床を()()()()現れたのは、2メートルほどの体長と人の腕ほどの太さの胴体を持つ巨大な百足だった。

鬼百足(出席番号21番-名付(なつけ)奈々(なな)命名)が強靱な顎で鉄格子をかみ切った後、赤銅色の体躯をギチギチと音を立てて唸らせながら、四条に絡みついている様子を見て、雷汞は絶句しながら、涙の痕が残る四条の右目をみる。

 

「・・・旦那は、魔族だったんですかい?」

 

「・・・俺が何であるかが、そんなに重要かな?」

 

「いや、忘れてくだせぇ。旦那が誰であろうと、俺の話を信じて泣いてくれた旦那でさぁ。信用しやすぜ」

 

「君は随分と明るいね」

 

「雷汞でさぁ。そう呼んでくだせぇ」

 

「俺は四条。よろしく、雷汞」

 

牢屋の外から差し出された四条の手を取り、雷汞は牢屋から出るのだった。

牢屋から出てきた雷汞を四条は見上げる。

 

「・・・でかいな。身長何センチ?」

「へえ、190ちょいですかね」

「・・・・・・・・・チェンジで」

「なんですかい⁉」

 

身長コンプレックスを刺激され、四条はゲンナリした。

 

 

 

 

 

 

 

 

四条と雷汞。

牢屋を出て歩く二人は直ぐに異常に気がついた。見張りの警備兵が一人も居ない。昨晩までは物音を立てれば直ぐに数名の警備兵たちが駆けつけて来たというのに、今はその姿が何処にも無い。

すんなりと牢屋のある区画から逃げ出し、二人の逃亡はあまりにもあっさりと成功してしまった。

街へ出た二人は首をかしげつつ、身を隠すために路地裏へ向かう。

 

「旦那。なんか不可思議な魔法でも使ったんですかい?」

 

露天で買った串焼きにかじりつきながら、そんな事を訪ねてくる雷汞に四条は同じ串焼きを身体に絡みつく鬼百足に与えながら、首を横に振る。

 

「俺はそんなに器用じゃない」

 

「じゃあ、何だったんですかねぇ。()()は、言うまでも無く異常でしたが、旦那の魔法(ちから)じゃあ、ないってんなら、“奇跡”ってヤツですかい?」

 

雷汞は自分で言った言葉を小馬鹿にしたように笑う。

笑いたい気持ちは四条も同じだった。最初は火風の手引きかとも思ったが、街に出ても合流してこないので、その可能性も低い。

ならば、“別の誰か”に助けられたと言うことになるのだが、果たして()()()を助けたかったのだろうかと考える四条の脳裏に、お節介な幼馴染み(男の娘)の顔が浮かび、背筋に悪寒が走る。

 

『誰よりも、しぃ君の役に立ちたいんだ!』

 

もしこの状況で居合わせれば満面の笑みを浮かべるだろう愛羽に悪意が無い事は理解しているが、出来る限り借りは作りたくないと考えるのが普通だろう。

四条は“最高”の親友(助っ人)の“最悪”な等価交換(おねだり)を想定し、これ以上、誰の手も借りずに問題を解決するために動き出す。

 

「とりあえず雷汞の目的を果たしながら、俺の仲間との合流を目指そう。村を襲った勇者の手がかりを追って来たって言っていたけど、当てはある?」

 

「ありやすぜ。俺は奴らが揃いの()()飾りを身につけているのを見たんでさあ。鉄製の人形だ。何処にでもある物じゃねえ。ありゃ間違いなく奴らが仲間内で作ったものだ。で、この街にいる“人形家”を思い出したんでさあ」

 

「“人形家(にんぎょうか)”?」

 

「墓場からガキの死体を掘り起こして、それから人形を作っている変態野郎。別の街で捕まったそいつが、最近、この街に居るって噂が界隈に流れてやがった。殺しはやってねぇらしいが、三十人以上のガキの死体を弄んだ糞が、簡単に釈放される筈がねえ。誰かが騎士団に圧力かけやがったんだ」

 

「それが勇者だと言うのか?」

 

胸くその悪い話だが、人形屋と勇者を結びつけるには関係性が薄い様にも思えた。

 

「旦那の言いたいことはわかる。だけどよ・・・」

 

勇者に恨みを持つ自分が因縁を付けているだけだと言われれば、それまでだと分かっているのだろう。言い淀む雷汞。しかし、四条は雷汞の気持ちをくみ取りながら、笑う。

 

「けど、そんな奴が野放しにされているなら、安全確認は大切だ。ヨシッ!取りあえずその人形家を探そう。関係がなかったらなかったで、それでもヨシッ!」

 

「・・・ハハッ、流石は旦那だ!そう言ってくれると思ってたぜ!そうと決まれば早速、行きやしょう‼」

 

「ヨシっ!それで、人形家は何処にいるのかな?」

 

「居場所は知りやせん!」

 

「ええ・・・、それで良く自信満々に案が出せたな」

 

「でも、旦那ならどうにかなるんでしょう?」

 

「まあ、なるけど。取りあえず具足虫たちに探させよう」

 

四条はそう言うと右目に手を当てる。僅かに熱を帯びる『天害蠱軍』から、具足虫たちを集めるフェロモンが分泌され、それを嗅ぎ取った鬼百足が不快そうに顎脚(がっきゃく)を打ち合わせて鳴らす。

鬼百足と具足虫は仲が悪い。マスコット化を狙う具足虫が、他の虫を威嚇するからだ。

何処かゲンナリした様子の鬼百足が地中に潜り、代わりに十数匹の具足虫が空から飛んでやってくる。

 

「さ、流石は旦那だ。すげぇや」

 

再会を喜ぶ具足虫たちに全身纏わりつかれる四条に雷汞は尊敬の眼差しを向ける。

複数の種類の魔物の使役など、並の人間や魔族に出来ることではない。

加えて巨大な怪虫が全身に纏わり付いている姿はビジュアル的に最悪(アレ)なのに、動じていない姿は尊敬する他にない。

 

「そんな風になっても平常心を失わないなんて流石ですねえ!」

 

「オレ、ゼンゼン、ヘイキ。ムシ、ダイスキ」

 

「大丈夫じゃなかった⁉旦那ぁ、虫に意識を乗っ取られてやせんか⁉」

 

「ゼンゼン、ヘイキ。ムシ、ヤサシイ」

 

「旦那ぁあああ⁉」

 

雷汞の叫びが路地裏に木霊した。

 

 

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