チートTS転生したと思ったら記憶喪失なってた(みたい)。   作:赤桃猫

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 ラストバトルで犠牲になったヒロインが、後日談で復活するやーつ。

続けられるか分からないので短編です。


始まったと思ったら終わってた。

 

 

 細かい説明とか、なんやかんやを無視して結論だけ言えば。

 

『チート+美少女ボディを貰って転生できる代わりに、世界を救うお手伝いをして欲しい』という神様との契約なワケだ。

 

 そんなの乗るに決まってんだろ! 

 とばかりにアッサリと承諾してしまったバカがここに一人。オレのことである。

 

 だってさ、前世の世の中じゃ息苦しいことばっかりで、毎日を生きることが生きる目的みたいになっちまってさ? 

 そんな中でポックリ死んで、『次』があるとか。

 

 しかもチートと美少女TS付き? 最高じゃん。

 これから並み居る敵をバッタバッタとなぎ倒し、むふふな展開が待ち受けてるワケだ。

 別に男とくっつく予定もないが、イケメンだったら侍らせるのも悪くはない。もちろん可愛い子にもコナかけたいけど。

 

 さてさて。待ってろ第二の人生、最強ぱぅわーで無双しまくってチヤホヤされまくってやるぜ! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「──あ?」

 

 このオレ第二の生、最初の産声がコレである。

 いや、ちゃうねん。

 こんな情けない声出すつもりなかったねん。

 

 でもしょうがないじゃん。なんか団体様がじっとオレのベッド囲ってたらさ、そりゃ変な声出るじゃん。

 

 なにこれ。この人たちオレの家族? それにしては見た目がバラバラなんだが。

 この中で一番若そうな、少年少女の二人組。

 そこから半歩後ろに立っている背の高いお姉さんと、糸目でメガネな怪しそうな男。

 あと、結構なイケメンの赤髪の青年クン。

 

 計5人いるわけだが、やっぱりどう見ても髪色とか、パッと見の顔からして明らかに親兄弟じゃなさそう。

 んで、そんな彼ら彼女らが、みんなして目を見開いてコッチ見てる。ちょっと怖い。

 

 というか、なんか身体がギシギシする。むず痒い。

 とりあえず身体を動かそうとして──何かに引っ掛かるようにつんのめる。

 

「あー……なんだ、包帯?」

 

 自分の身体を見てみれば、包帯が。

 しかも全身ぐるぐる巻き。

 でも胸元の膨らみはしっかり確認。

 ヤホイやったぜ女の子だ──ぐえっ!? 

 

「やっと起きたぁ! う、うぅ……良かったぁぁぁ!」

「もう大丈夫なのか!? ハラ減ってないか、食いたいモンとかあるか!?」

「ちょ、ま、ぐるしっ」

 

 なんだなんだ!? 

 いきなり少年少女がオレに抱き着いてきたぞ!? 

 女の子は無条件で許すけど、野郎はまだ許可してないんだが! 

 

 いや、というかあれ? 

 普通に喋れる。しかもこんな勢い良く抱き着かれても、普通に受け止めれる。苦しいけど。

 今のオレ、別に赤ちゃんではないっぽい? 

 

 転生と聞いてたからすっかり赤子から再スタートかと思ってたんだが。

 これはアレか、行き倒れからスタートするというレアケース? 

 この人らはオレを保護してくれた的な? 

 ここからオレの冒険が始まる的な? 

 ここの問答でオレのステータスやら生い立ちが決まる的な?? 

 

 とかなんとか考察してる間に、オレに抱き着いてた少年少女が落ち着いたのかようやく離れてくれる。

 そして入れ替わるように、赤髪の青年クンが涙目でオレの手を握ってきた。

 

「……ハル。本当に良かった。もう目覚めないかと」

 

()()? って、オレのこと?」

 

 それがオレの名前ってことか? 

 名前はもう決まってるのか。どうせなら自分で決めてみたくもあったが。

 ……いや、流石にそれは高望みしすぎか。

 今生の親が決めてくれた大切な名前という可能性もある。

 多分、今のオレの私物に都合よく名前の分かる物があったのかな。

 

 と、色々考えてたら。

 

「……ん、あれ、どったの」

 

 なんか、空気が固まってた。

 

「……も、もう! ハルってば冗談やめてよ! そういうのは今はいいの!」

 

「そ、そうだぞ! せっかくの感動の再会なんだぜ!?」

 

「お、おう……?」

 

 少年少女が青い顔をしながら再び詰め寄ってくる。

 ……なんかおかしいぞ? と、流石のオレでも薄々気付いてきた。

 

「……え、てか、オレの使命はドコ? 世界救うとかは?」

 

 最強美少女になって世界を救う。そんな感じの話で転生したってのに。

 初手からかなりイレギュラーすぎじゃない? コレ。

 ちょっと始まり方(オープニング)に変化球を求めすぎじゃない? 

 そんな疑問で溢れすぎて、思わず独り言が漏れてしまう。

 それに反応したのは、後ろの方でずっとこちらを見守ってたお姉さんだった。

 

「……いいえ。もう大丈夫よ。世界はもう、救われたの」

 

「──わっつ??」

 

 まるで意味がわからんぞ! 

 新しく買ったゲームを起動したら、いきなりエンディングが流れ出したみたいな意味不明さだ! 

 

「じゃあオレ何? 誰? マジで蛇足すぎね?」

 

 ちょっと神様ー! この世界バグってます! 

 いや世界がバグってるっていうか、入れ違い? オレが転生した直後にハッピーエンドで終わっちゃった……ってコト? 

 なにそのヒューマンエラー! いや、ゴッドエラー? 

 これオレが転生する意味あった? いやオレ自身としては第二の生は万々歳なんだけどさ。

 

「これは……まさか」

 

 オレを囲ってた集団の最後の一人、なんか初見の胡散臭さMAXな糸目メガネの男が、深刻そうな顔してる。

 この場の全員が一斉に彼に振り向くものだから、オレも思わず糸目メガネを凝視した。

 

「……皆さん。落ち着いて聞いてください」

 

 ドラマで見たことあるような、余命宣告する医者みたいな、そんな重苦しい雰囲気で彼は口を開く。

 

「彼女はどうやら──記憶喪失のようです」

 

「え、そなの?」

 

 思わず聞き返してしまう。

 だが、オレの疑問に答える声はない。

 糸目メガネもなんか悔しげに顔を逸らしてオレのこと見てくれない。

 

「……どういう、どういうコトだよオイ!」

「私にも分かりません。こればかりは原因が……」

「うそ……ねぇ嘘でしょハル! いつもみたいな冗談でしょ!?」

「ああ、そんな……なんてこと……」

 

 やばいやばいやばい。

 いや待って。オレが一番状況よく分かってないんだけど。とにかくなんかやばいのは分かる。

 というかずっとオレの手を握ってる赤髪クンが、さっきとは明らかに違う意味で泣きそうな顔してるし。

 

「ハル……本当に、覚えてないのか。俺の、俺達のこと」

「いや、覚えてないっつーか……オレ、たった今産まれたばっかなんだが……」

「──産ま、れた?」

 

 あ、やっべ。

 転生とかその辺のこと知らない奴からしたら、ただの変態発言じゃん。

 今のオレ、少なくとも赤ちゃんじゃない。憑依転生なのか特定のタイミングで前世を思い出すアレなのか分からんが、とにかく今のセリフはいい年した大人が『私は赤ちゃんです』って言うようなアブなさがある。

 

 いやほら、赤髪クンが物凄い顔して『そんな馬鹿な……』みたいな雰囲気出してるし。

 他の人たちも有り得ないことを聞いたみたいな反応してるし。

 てか、ウソ、めっちゃ引かれてるじゃん……? 

 

「……ひとまず。お互い落ち着くために、今は解散しましょ」

 

 お姉さんが突然、その場の空気を断ち切るように言う。

 ぶっちゃけそれが今のオレにもありがたかった。

 オレが何かしたワケじゃないけど、なんかとにかく罪悪感がスゴい。

 ……いや、実際この空気の原因はオレっぽいんだが。状況が分からんのだから仕方ないじゃん。

 

「私がハルの包帯を外しておくわ。みんなは、先に部屋に戻ってて」

 

「……分かりました、ここは任せます。……ほら、行きますよ」

「待って、ちょっと待ってよ! ねぇ、嘘だよね、ハル……!」

「クソッ、なんでこんな……ちくしょうっ!」

 

 糸目メガネが、少年少女の肩を引いて部屋の外へと連れ出していく。

 

「ハル、俺は……」

 

「あなたも行きますよ。……今は、どうしようもありません」

 

「……くっ──!」

 

 残る赤髪クンも、糸目メガネに言われて渋々と、というか物凄く名残惜しそうにオレから手を離し、部屋を出ていく。

 

 後に残ったのは、マジで状況を全く理解してないオレと、顔を俯かせるお姉さん。

 

 いやもうお通夜じゃん。

 

 え、てか待って。

 

 転生は? 

 

 世界救うとかの話は? 

 

 え? 

 

 

 これ、こっからどうすんの? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……ごめんなさいね。みんなちょっと混乱してて、ね」

 

「あー、いや……大丈夫です。うっす」

 

 そんな謝罪を受けながら、オレに巻かれた包帯が少しずつ取り除かれていく。

 やってくれてるのは、さっきオレに『世界もう救われてるよ』という衝撃発言をくれたお姉さんだ。

 ふわふわ金髪の美人さんで、目が合うとニコリとオレに微笑んでくれる。

 

 やばい。包容力がやばい。

 見た目的に多分二十歳前後なのだが、その雰囲気から既に高度なバブ味を感じる。

 

 彼女がオレの今生のママだった?? 

 

「……どう? 外傷はもう殆どないけど、身体は痛まない?」

 

 包帯が取り払われ、今生のオレの肉体がついに顕となる。

 といっても裸じゃない。簡素な白い服、多分治療用のものだろう服をきちんと着せられていた。

 

 腕をぐるぐると回して調子を確かめる。

 動かせはするけど、なんか違和感が凄い。

 脳のイメージと実際の動きが噛み合わないというか、フワフワした気持ち悪さがある。

 

「おう、バッチシ。全然痛くない。……けど、めっちゃ調子悪いかも」

 

「そう……身体の不調は、休めばきっと良くなるわ」

 

 多分、いきなり『前』の意識で『今』のオレの身体を動かそうとしたからだろう。

 その辺を馬鹿正直に言う気にはなれず、かといって隠し通すのも申し訳なくて。とりあえず状態だけ正直に答えることにした。

 

「……ねえ。どこまで、覚えているの?」

 

 ふと、包帯を片付けながらお姉さんが呟く。

 その顔は優しい微笑みのままだ。

 けど、その唇は固く結ばれ、うっすら白くなっているのが見えた。 

 

 ……今はこうして笑ってくれているが、さっきは他の人と同じく辛そうな顔をしていた。

 多分、オレを安心させるためなのだろう。その振る舞いが、かえって痛ましく感じてしまう。

 

「さっき、【使命】と言っていたでしょう? きっと何もかもを忘れたわけじゃないと思うの」

 

「──えっ、あ、あー……それはまぁ、そう、なのかな?」

 

 そうじゃん。さっきの独り言、聞かれてたんだわ。

 いきなり世界を救うんだーとか言い出したらヤバいヤツじゃない? 

 流石に転生したこととか、契約のこととかは説明が難しいし誤魔化すしかないだろう。

 

「……けどなぁ、マジで何も分からんというか。その『ハル』って名前も、オレのことなんだよな?」

 

「ええ。正真正銘、あなたのことよ」

 

「ほえー」

 

 ……ダメだ。全然ピンとこない。

 心当たりとか、胸がザワつくとか、そんな都合のいいものもなく。

 どうしても他人の名前を呼ばれてるような感覚しかない。

 

「……それ以外のことは? なにか、少しでも分かることはない?」

 

「んー、むむむ……」

 

「本当に、本当に些細なことでもいいのよ?」

 

「……………オレが最強美少女なことくらい?」

 

 マジで何も出てこなかったので、冗談めかして言ってみる。

 いや、今のところマジで状況が分からんが、女の子の身体に転生したのは確かっぽいし。

 さっき交わした契約が確かなら、今のオレはチートを持った美少女だ。うん。つまり最強美少女。

 というか今のオレ、マジでそれくらいのパーソナリティしか無いし。

 

 ……って、え、ちょ、どしたの。

 

「───、それ、は」 

 

 お姉さんは、泣いていた。

 目を見開いて、そこからぼろぼろと大粒の涙を流していた。

 オレが驚くのを見てか、お姉さんは慌てて目元を拭い、取り繕うように微笑む。

 

「……ふふっ、やっぱりあなたはあなたね。ちょっと安心した」

 

「お、おう、そうっすか」

 

「いつもお気楽で、変な自信ばっかりは立派で。わたし達のこと、いつも置いて行ってしまう」

 

「それ褒めてる?」

 

 聞く限りだと結構なヤンチャ坊主では? 

 でもまぁ嬉しそうな顔してるし、貶すつもりは欠片もないのだろう。うん。

 これで実は皮肉100%とかだったら、もうこの世界のこと信じられなくなっちゃう。

 

「……ごめんなさい、急に取り乱して。今はとにかくゆっくり休んでちょうだい。これからのことは、少しずつ考えていけばいいわ」

 

 お姉さんは取り除いた包帯をまとめて、そそくさと部屋の扉へ向かう。

 そして部屋を出る直前、ふと思い付いたように振り向いて、オレへと再び笑みを向けた。

 

「──あなたはもう、自分の生き方を選んでいいのだから」

 

 …………。

 うーん、意味深! でも分からん! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「マキア。彼女はその、どうだった?」

 

「……何も。覚えていないそうよ」

 

 その返答に赤髪の青年──アレンハイドは掌を強く握り締める。

 

『お互い落ち着くために、一旦解散にする』

 マキアの提案は混乱していた自分たちにとって、最善の言葉だったのだろう。

 

 だが、それが正しいとしても。

素直に部屋に戻り心を落ち着かせるなど、彼にとっては到底無理な話だった。

 

 結果として、アレンハイドはこうして彼女の休む部屋の前で立ち往生していた。

 マキアもそれを理解していたのだろう。包帯を持って部屋から出てきた彼女は、すぐそこで佇むアレンハイドを見て、欠片も驚く様子はなかった。

 

「……すまない。君にこんな役回りをさせて」

 

「気にしないで。私達の中で一番辛いのは、きっとあなただもの」

 

 マキアの、こちらを見透かすような慈愛の目に何も言えない。

 言えないが──それでも今、誰よりも()()し気丈に振る舞ってくれているのは、やはりマキアに他ならないだろう。

 

「……でもね、あの子はあの子よ。それは変わらない」

 

 マキアは嬉しそうに口角を上げる。

 頬を拭うその指先を追えば、彼女の目尻には涙が浮かんでいた。

 

「さっき、自分について分かることはないかって聞いた時、なんて答えたと思う?」

 

「……最強美少女、とでも?」

 

「ふふっ、そう。記憶を失っても、あの変な自信だけは変わらないみたいね」

 

 それを聞き、安堵する。

 ああ良かった。彼女の性格は、あまり変わってはいないらしい。

 それだけは。それだけは何よりも、救いだった。

 

「今後のことはまた後で話し合いましょう。みんなも、まだ心の整理が必要でしょうし」

 

「……そう、だな」

 

 言われつつも、アレンハイドは部屋の前から動けない。

 無言で扉の前に立つ。

 震える手でドアノブを握る。

 

「アレン」

 

 その背に向けて名を呼ばれた。

 咎めるように。あるいは──警告するように。

 

「ハルは、落ち着いているわ。自分が記憶喪失だってことも、まだよく分かっていないみたい」

 

 彼女の声は、やはり慈愛に満ちていた。

 けれどその奥底に、確かな厳しさと鋭さもあり。

 

「でも、だからこそ。──()()()()、ちゃんと耐えられる?」

 

「……俺は」

 

 彼女の問いに、一瞬息が詰まる。

 しかし。その問いの意味を自覚した瞬間──答えは既に出ていたことを思い出す。

 

「向き合うよ、ちゃんと。そう決めたから」

 

「……ふふ。余計だったかしらね」

 

「そんなことはないさ。心配してくれてありがとう、マキア」

 

「どういたしまして。……それじゃあ、私は少しレシーナの様子を見てくるわ。あの子はまだ、ハルのことを受け止めきれていないようだから」

 

 手を振ってその場を去るマキア。

 彼女の慈愛は、いつもこちらを助けてくれる。その頼もしさに勇気と自信をくれる。

 本当に、良い仲間だ。

 

「……良し」

 

 一度目を閉じる。

 手は震えていない。

 息を吸う。

 扉を開く。

 そして──

 

「──ハル」

 

「おおう……やっぱりオレ、最っ高に美少女だな……いや、少女ってか美女かもうコレ……──んあ?」

 

 手鏡を前に自画自賛に勤しむ、彼女の姿を見て。

 

 やっぱり変わらないなぁ、と。安堵にも、呆れにも似た感情で、目の奥から熱が込み上げた。

 

 

 

 

 

 

 








──このオレこそが、世界を救う最強美少女! ハルモニア様だっ! せいぜい崇め奉ってチヤホヤしろ!──

────んで、お前は……そうかそうか! ならアレン! ここで会ったのも何かの縁! 世界を救う旅に付いて来ぉい!──




『ハル』

 チートと美少女ボディを持って転生したかなりのお気楽主義者。記憶喪失らしい。
 契約書とかプライバシーポリシーとか、ほぼ流し見でOKしちゃうタイプ。


仲間たち

 少年と少女(レシーナ)お姉さん(マキア)、糸目メガネ、赤髪の青年(アレンハイド)。そこに『ハル』も入れて系6人の集団。
 数奇な運命に導かれて出会い、世界を救った一行。

 ちなみにアレンハイドがこの作品世界の主人公、ハルがメインヒロインです(盛大なネタバレ)

 イメージは前書きの通り、JRPGのエンディング後のおはなしみたいなの。
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