ペルソナって知ってる?   作:からかさ(仮)

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 感想でバレてたのでばらしますが、前回の話に隠し文字があります。
 現実と夢の狭間に書いてあるので、気になる人は特殊フォントをオフにするか、誤字脱字報告を通して本文を読んでください。

 最初の視点が柊アリス→いつも通りの影山和希です。
 あまりに短い前書き、からの本編どうぞ。


黒い歴史を持つ者たちは己の罪に苦しみを負う。

 崩壊した渋谷ジェイルを脱出してから三日が経ち、私は信じられない早さで病院から退院することが出来た。

 本来ならまともに動くけるようになるのに一ヶ月程のリハビリが必要なところを、私は僅か二日で終えてしまった。

 恐らくはペルソナに目覚めた影響なのだろうが、そうなれば寝ている訳にもいかず、私は一刻も早く退院できるようお医者さんに直訴した。

 幸いにも私の申し出は病院にとってかなり都合が良かったらしく、本来では有り得ないスピードで退院することが決まったのだ。

 

「なあ、嬢ちゃん。あんまり難しい顔するもんじゃねえぞ。コーヒーが不味くなっちまうからな」

「すっ、すみません! つい緊張しちゃって……」

 

 そうして私は今、喫茶店ルブランというお店でコーヒーを飲んでいた。

 ここでとある相手と待ち合わせをしているのだが、私は緊張を抑えられない。

 何せ、これから会う相手が相手だ……呼び出したのは私だが、いざ対面した時どんな顔をすればいいのか分からない。

 

「そんなに気負うなよ。杏ちゃんから話は聞いてるからな、いざとなりゃ俺も口添えぐらいはしてやるさ」

「本当にすみません、こんな事にお店を使わせてもらって……」

 

 人のいいマスターに思わず頭を下げたところで、鈴のような音が鳴りお店の扉が開く。

 急な音に反射的に頭を上げると、そこには私のよく知っている顔があった。

 あの女のように、やられたからやり返した相手じゃない……己の欲望を満たすためだけに、私が()()()()()()()相手。

 

「……お久しぶりです、アリスさん。いったい何の用ですか」

「っ……! いきなり呼んでごめん、ね。今日は、話したいことがあって……呼んだの」

 

 それは、私が一年前にモデルをやっていた頃の最初のマネージャー。

 私が欲望に呑まれて傷つけ、心を壊してしまった人。

 私にとって許されざる罪の象徴、そんな相手が目の前に立っていた。

 

「いらっしゃい。席はそっちの嬢ちゃんの隣でいいかい?」

「……いえ。出来れば一個離れた席でお願いします」

「あいよ。注文決まったら呼んでくれ」

 

 椅子に座ったマスターが新聞を読み始めると同時に、彼は無言で私から一個離れた席に座り込む。

 あの日病院で杏ちゃんに打診され、私は怪盗団と共に行動することを決めた。

 どうやら渋谷以外にも複数のジェイルと昏睡者が存在するらしく、異世界を攻略するために一人でも多くのペルソナ使いが必要らしい。

 それを聞いた私は怪盗団に協力することを決めたが……その前に、私は自分のやった事にケジメをつけたかった。

 ……そうでもしなければ、私が怪盗団と行動することはあまりに失礼だと思ったからだ。

 

「で、何の用ですか?」

「それ、は……君に、どうしても謝りたくて……」

「そうですか。貴方の謝罪は要らないので、今すぐ帰っていいですか?」

「っ……!」

 

 しかし、現在私はまともに喋ることすら出来ずにいた。

 彼が私を嫌うのは当たり前だ、むしろここに来てくれただけでも私は彼に感謝しなければならない。

 自分を傷つけた相手が目の前にやって来た時の、胃の奥を掻き回されるような気持ち悪さを私は知っている。

 それを理解してなお伝えたいことがあったはずなのに、どうしたって開こうとする口が噤んでしまう。

 ああ、私はどこまで自分勝手なんだろうか。

 強くなったと思い込んで、結局は喋ることすら出来ずにいる自分に嫌気がさす。

 

「おいおい。店に入っといて何も頼まないなんて、随分失礼じゃねえか? せめて注文頼んでくれたっていいだろ」

「……そうですね。じゃあ、カレーとコーヒーで」

 

 マスターが助け舟を出すように軽い口調で彼を呼び止め、彼もそれに答えて席に座り直す。

 何とか話し始めようと足掻く私に、彼もいい加減見かねてしまったのか……少しばかりのため息が聞こえた後に、おもむろに彼が話しかけてくる。

 

「髪、染めてないんですね」

「えっ?」

「染めてないアリスさん見たことないので。珍しいと思って」

「……うん。私にとって、あれは“変身”みたいなものだったから」

 

 私も元は陰キャと呼ばれても仕方ないような性格で、そんな自分を少しでも変える方法が、あの衣装であり髪色だった。

 あの姿でいれば、少しでも自分を理想に近づけることが出来た。

 あの日ショーウィンドウで見た光、キラキラと輝く夢の世界……それに近づこうとした私は、自分を見失い欲望に落ちていった。

 己の理想を体現した衣装で、私は自分を汚してしまった。

 

「弱かった自分を変えるための、変身。……そんな事で自分を見失って、結局人を傷つけるんだから。馬鹿だよね」

「……」

「君はあの時、そんな私を変えようとしてくれてた。なのに、私はせっかく手に入れた強さを否定された気がして……君を傷つけ、最後には壊してしまった」

 

 あの女に全てを壊されかけた時、目の前に現れたEMMAの力に私は心を飲み込まれた。

 自らを誤魔化し彩る変身と、全てを思いのままに出来るような力……それを否定しようとする彼が、あの時の私には権力を脅かす敵にしか見えなかった。

 だから、壊した。

 酷使し、踏みつけ、全てを蹂躙し……心を壊した彼は、やがて私のマネージャーを辞めた。

 彼を追い詰めたのは権力を奪う敵だったから? それもあるのだろうが、今考えればあの時の私の真意が分かる。

 あの女に植え付けられた“奪われる恐怖”が、私を脅かす彼の存在を許さなかったのだ。

 

「私の身勝手で貴方の人生を壊してしまった事……本当に、ごめんなさい」

「……」

 

 私の言葉を肯定も否定もせず、彼は黙って運ばれたカレーを食べ始める。

 しかし私の言葉を聞き流す気はないようで、それを是と受け取った私は自分の本音を吐き出すことにする。

 

「私は人を傷つけた罪悪感を、赤の他人からの誹謗中傷を受け入れることで誤魔化した。誹謗中傷で自分の心を傷つけて、お店への嫌がらせを受け入れて、それが罰だって自分を納得させようとした」

「実際そうじゃないですか。それが、あんたの受けるべき罰だ」

「違うよ。絶対に違う。……自分で言うべきことじゃないのは分かってる。けど、違うんだ。これは絶対に私が受けるべき罰にはなり得ない」

「……じゃあ何だよ。こんな場所に呼び出したのは、俺に“罰なんか受けるつもりはない”って伝える為か? それとも、自分が被害者面するためだけに……」

「君に向き合う。その為に、私は君を呼んだ」

「は?」

 

 彼の無表情が段々と消え去り、本気の怒りが顔を覗かせる。

 でも、それでいい。

 怒っているのか、失望しているのか、蔑んでいるのか、無関心でいるのか。

 私は、私が傷つけた人が何を思っているかを知りたい。

 赤の他人の誹謗中傷に逃げるんじゃなく、私が傷つけてしまった人が何を求めているのかを知りたい。

 何を求めているのか知った上で、自分に何が出来るかを考え……本当の意味で、自分の犯した罪に向き合いたい。

 それが、それこそが、私が本当の意味で“改心”するために必要だと思うから。

 

「どこまでも自分勝手でごめんなさい。でも、私は知りたい。貴方が何を思っていたのか。貴方が何を求めているのか。知った上で、償いたい。それを話したくて君を呼んだの」

「ふざけんな……! 今さらふざけんなよ!! お前に何が出来るんだよ!! 大体、何をしようが俺はお前を許さない! 絶対にだ!!」

「許さないなら許さなくていい。けど、私はずっと悔やみ続ける。悔やんで、悔やんで、悔やみ続けて。それでも生きて罪を償う。だから、せめて見ていて欲しい。私が生き続ける姿を、私が苦しみ続ける姿を」

「何だよそれ……! 俺は、俺は……! クソっ!!」

 

 ヤケクソのようにカレーをかきこみ、お札を乱暴に叩きつけながら彼は出口へと向かっていく。

 そんな彼の後ろ姿に、私は己の卑怯さを自覚しながらも最後の言葉を吐き出した。

 

「私は今度こそ夢を叶える。 その時に私が君の光になれること、私は信じてるから」

「っ……ちくしょう!! 俺は、俺は……!」

 

 “あんたを嫌いになりたくなかった”。

 振り絞るようにそう言って、彼はお店から出ていった。

 まだEMMAの力も持っていない駆け出しのモデルだった頃、彼には私の夢を話したことがある。

 彼は私の夢を応援し、支えてくれると言っていた。

 それなのに、私は彼を……自分を支えようとする人たちを裏切ってしまった。

 そんな彼が最後に絞り出された本心が楔となり、私の心にズブズブと深く突き刺さっていく。

 痛い。

 でも、これでいい。

 この痛みこそ私の受ける罰であり……この痛みを理解することが、私が再び夢に向かうために必要な一歩だと思うから。

 

「本当にありがとうございます、マスター。こんな事のためにお店を貸切にさせてもらって」

「元から常連客しか来ねえような店だ、構わねえさ。……ま、あの男も全部を許すだなんて無理だよな。コーヒー奢ってやるから、嬢ちゃんも元気出しな」

「……マスター。私、自分の本心を上手く言葉に出来てたでしょうか? いつか彼が、私を許してくれる日がくるでしょうか?」

「そりゃ、俺には答えれねえな。何度も話して何度もぶつかって、お互いに本心を理解するしかねえ。そうすりゃ、いつか人の心も変わる時がくるんじゃねえか?」

「そう、ですか……」

 

 何度も話してぶつかって、お互いの心を理解する……か。

 さっきこそ彼に夢を諦めないと伝えたが、私が彼の光になる権利なんてとっくに失われた物だと思っていた。

 互いに分かり合うことが出来れば、この心の楔が楽になる日が来るのだろうか?

 

「不安か? 嬢ちゃん。顔に出てるぜ」

「あ、いえ……」

「……なあ嬢ちゃん、こりゃ大声じゃ言えねえんだがよ。俺ゃ、前科持ちのガキを預かったことがあってよ。そいつがまぁ、とんでもない奴でなぁ」

 

 私の不安を感じ取ったのか、マスターが優しげに語りかけてくる。

 その目はどこか遠くを見るように、懐かしい風景を思い出しているようだった。

 

「最初は面倒事を請け負ったと思ってた。見ず知らずの土地にやって来て、学校の中も敵ばかり……だが、そいつは絶対に諦めなかった。いつの間にやら仲間を作って、引きこもりだった俺の娘を部屋の外に連れ出して……いつしか、俺の偏屈な心も変えられちまったよ」

「……! そんな人が、いるんですね」

「ああ。そん時ほど“人はやり直せる”って言葉を実感したことはねえな。そいつ、今でもたまに顔を出すんだぜ? ったく、俺も忙しいってのに面倒で仕方ねえよ……!」

 

 そんな事を言う割には、マスターはどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

 “人はやり直せる”と言うならば……私にも、そんな日が来ると信じていいのだろうか?

 

「長々と話しちまったが、要は諦めちゃ何にもならねえってことだ。どんな人間でも、生きてる限り次がある。その事、忘れちゃいけねえぜ?」

「……ありがとうございます。私、頑張ります」

 

 マスターの言葉に、私の心に一筋の光がさす。

 やり直すのは大変かもしれないが、諦めなければ次がある。

 まずは、話そう。

 一生懸命に話して、互いに心を通わせる。

 いつか彼の光になれるように、自分の夢を叶えれるように。

 そして……自分が、自分自身の光になれるように。

 私が、私自信を誇れるように。

 

「さ、そろそろ上に行ったらどうだ? 杏ちゃんが上で待ってるぜ」

「はい。……あの、マスターの話で私も救われました。本当に……ありがとうございます」

「おう、あんまり自分を追い詰めんなよ? 辛いときゃ、“友達”に話せばいいんだからな」

 

 ひらひらと手を振るマスターに改めて頭を下げ、私はお店の階段に向かっていく。

 ここに、和希ちゃんは来ているのだろうか。

 この三日間はリハビリに専念するため杏ちゃんとは話せていなかったのだが、ここに来る前に電話した時に和希ちゃんについて聞くと、何か話しづらい事を聞かれたような反応で言葉を濁されてしまった。

 まさか彼女に何かあったのか、そう考えていると……店先から鈴のような音が鳴り、私が反射的に扉の方を振り向くと。

 

「やあマスター、久しぶり。っておや! 君は噂に聞く柊アリスさんじゃないか! 君も怪盗団に協力するために来たのかい?」

 

 そこにいたのは、やけにハイテンションな喋り方をする白衣姿の女性だった。

 いきなりの事に声も出せずにいると、突然私のスマホが振動し今までにない音が鳴る。

 思わず白衣の女性とスマホを交互に見る私に、白衣の女性がどうぞとばかりのジェスチャーをするため、私はスマホを取り出し画面を開くと……

 

『よっ』

「きゃっ!?」

 

 画面いっぱいに赤髪をハートに編み込んだようなツインテールの少女が映り込み、驚きのあまり小さな悲鳴が飛び出てしまう。

 そんな私の姿を見た白衣の女性は、いかにも満足気な様子で笑い声を上げていた。

 

「あっはっは! いい驚きっぷりだね!」

『ぶい。やったな、ドッキリ大成功だ』

「おいおい、久々に来たと思ったら……お前ら、初対面なら自己紹介ぐらいしたらどうだ?」

「ああ、それもそうだね。私は一ノ瀬(いちのせ)久遠(くおん)。正式なメンバーという訳ではないが、怪盗団の協力者さ。そして君のスマホに映っているAIが……」

 

 白衣の女性に釣られるように、スマホに映る少女が笑みを浮かべる。

 とてもAIとは思えない自然な表情、その可愛らしい口が動くと共にスマホから音声が響き渡る。

 

『私はソフィア。怪盗団の一員にして、人の良き友人だ』

「あ、君のことは杏ちゃんから聞いてるよ。私からも改めてよろしくね? アリスさん」

「あ……よろ、しく……?」

 

 どうやら、怪盗団というのは私が思っている以上に懐が深いらしい。

 画面に映るAI少女を眺めながら、私は呆然とする頭でそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 ここは仙台ジェイル、駅前っぽい場所。

 ここで四天王を名乗るシャドウと、メガネをかけてスコップを持った謎の男性と出会った僕とリカは、とりあえず四天王をぶちのめしていた。

 

「ロックキーパーの場所、知ってるんでしょ? 喋らないなら頭にスコップ打ち付けるよ?」

『それだけは止めてくれぇ! 鎧だから響くんじゃぞ!? 頭がガンガン鳴るんじゃぞぉ!?』

「知らねえヨ。嫌ならさっさと吐くんだナ」

 

 馬に乗る騎士のシャドウの首を真っ先に切断し、残りの三体を撃破してからある程度の時間が経過し。

 何故か首のみで生きてる騎士のシャドウから情報を引き出すため、スコップの人に周囲を見張ってもらいながら僕たちは尋問を行っていた。

 

『くっ、四天王最強のワシがなんという屈辱! ……じゃが、ツルペタっ娘に叩かれるというのも悪くな』

「リカ。引っ掻いて」

『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ー!! 不快な音ォーッ!!』

 

 地面に置かれた鎧兜の生首にリカが鉤爪を走らせると、黒板を爪で引っ掻いたような不快な音が鳴り響く。

 僕も思わず両手で耳をぎゅっと塞いでしまうような音だ、この不快音を直接聞かされるシャドウが耐えられるとは思えない。

 

『分かった! 喋る! 喋るから引っ掻くのをやめとくれ!! このままじゃワシの耳が余計にボケてしまうぅ!!』

「ほーん? ま、話くらいは聞いてやるヨ。引っ掻きながらナ」

『何でぇ!? 止めないなら話さな……ア゙ー!! 分かった話すから! 話し終わったら止めてくれぇ!!』

 

 案の定、耐えられずに喋り始めたシャドウをリカに任せ、僕は見張りをしているスコップの人の方へと歩いていく。

 しかし、見れば見るほどそこら中にある趣味の悪い銅像と瓜二つ……やっぱりこの人が、この仙台ジェイルの王なのだろうか?

 

「ん? やあ。その、なんと言うか……個性豊かなピエロのお嬢さん。一応聞きたいんだが、これはドッキリか何かかな?」

「ピエロ? あ、すみません。仮面を外すのを忘れてました」

「すまないが僕が言いたいのはそういう事じゃなくてだな……ん? んん?」

 

 言いながら僕がピエロマスクをずらして素顔を晒すと、スコップの人の表情が困惑と混乱に染められていく。

 いったいどうしたのだろう? ピエロマスクをつけた状態ならまだしも、素顔でこんな顔をされるとは思ってもみなかった。

 

「すまない、こんな事を聞くのは失礼だと思うのだが……君は男か? それとも女の子なのかい?」

「え、どっちだと思います?」

「!! そっ、それはだな!? ぐっ、ゔぅっ……!?」

「……くっ、あはは! 冗談ですよ。良く間違われますけど、僕はこれでも女の子です」

 

 緊張をほぐす冗談のつもりだったのだが、スコップの人が本気で悩み苦悶の表情を浮かべたところで思わず笑ってしまった。

 僕をツルペタと宣う輩は絶対に許さないが、見た目で性別を間違われるなんてとっくに慣れている。

 人からどう見られようが僕は僕、そこに何の変わりもない。『嘘つき』

 

「僕は影山和希と言います。あなたは?」

「ああ、すまない。僕は……“重見アツム”と言う者だ。先程は失礼な質問をして申し訳なかったね」

「え……重見アツム、ですか?」

「あ、ああ。その通りだが?」

 

 “重見アツム”? この人は夏目安吾じゃないのか?

 だけど、そこらじゅうに立っている銅像と瓜二つだし……夏目安吾じゃなくとも、王の知り合いということも有り得るか。

 

「それより、ここについて聞きたいのだが。いいかな?」

「あっ、はい! えーっと、信じて貰えないかもしれないんですが……」

 

 そうして、僕はこの世界について説明することにした。

 ここが認知の異世界である事やシャドウやペルソナの存在、ジェイルの仕組みやロックキーパーの存在についてまで、僕が知る限りの情報を全ての情報を全て伝えていく。

 

「に、認知の異世界? シャドウにペルソナ? はっ、ははっ! これはまた面白い冗談……」

「じゃあ、こんな大規模なドッキリが仙台でできます? さっき戦った化け物が、あっちの喋る騎士の頭が作り物に見えます?」

「おらっ! さっさと全部話すんだナ!」

『ア゙ー! 尋問されるならナイスバデェのおなごがよかア゙ー!!』

「……!!」

「君、酷い顔だぞ……大丈夫か?」

 

 尋問される騎士の生首に、思わずゴミを見る視線を向けてしまう。

 しかしアツムさん? は無言で何かを考え込み、しばらく悩んだ後に僕に向かって問いかける。

 

「つまりここは、王が持つ欲望から生まれた世界と言うことか?」

「その通りですね。僕も最初は信じられなかったですけど……この世界から出るためにも、まずはこの現実を受け入れた方がいいと思います」

「そう、か。ここは、欲望から生まれた世界か……」

 

 そうして現状を理解したアツムさんだが、何かブツブツと呟きながら呆然とした表情で周囲を見渡している。

 あまりに不気味な様子に、思わず僕が声をかけようとすると……静かに、だが確かに納得したように、一際大きな声を上げた。

 

「ジェイルにシャドウ、そして王の欲望から生まれた異世界か……ははっ。俺の欲望から生まれた世界が、俺の書いたどの小説よりも独創的だなんて……つくづく、俺には才能が無いんだな」

「? どういうことですか? ここは王の……」

「すまない、先程話した名前は僕のペンネームでね……本名は夏目安吾。君の言うことが事実なら、この世界は間違いなく僕の欲望から生まれた異世界だ」

 

 あまりに突然の独白に、声をかけようと伸ばした僕の手が止まる。

 重見アツムはペンネーム? という事は、この人は小説家なのだろうか。

 そうだとしても、何故最初に本名を隠そうとしたのだろう?

 ひょっとしてこの人には、よっぽど名前を知られたくない事情があるのだろうか?

 

「そういえば、助けてもらったお礼もまだだったね。命の恩人にドッキリなんて疑って済まなかった。どうか謝らせて欲しい」

「いえ、それはいいんですけど……何で、名前を隠そうとしたんですか?」

「……それは、だね。僕は」

『待てぇ! 慈悲は! 慈悲はないのぐぎゃあああー!!

「うるせぇ! シャドウに生まれた事を後悔するんだナ!!」

「ああもうリカ! 流石にうるさい!!」

 

 ここまで響き渡るほどの大きな悲鳴に思わず視線を向けると、リカが兜の隙間へと鉤爪を突き刺してシャドウにトドメを刺していた。

 あのシャドウを生首にした僕が言うのも何だが、ちょっとばかし絵面が酷すぎる。

 安吾さんも完全に引いた目で見てるし……もうちょっとこう、何か手心はなかったんだろうか。

 

「さ、終わったぜ。あいつ、四天王の癖にロックキーパーの居場所も知らないとか抜かしやがった」

「えぇ……本当にただ時間を無駄にしただけじゃん」

「ホントだヨ。ったく、これなら自分で探した方がよっぽどマシ……」

『ククク……再びまみえたな勇者どもよ……』

 

「「「!?」」」

 

 四天王を倒したはずの場所から聞こえてくる声に、僕たち三人は一斉に声のする方へと振り返る。

 するとそこには、先程トドメを指したはずの騎士を含めた四天王が勢揃いで復活しており……その四体のシャドウをかき分け、一人のスーツ姿の男が歩いてくる。

 シャドウや四天王とは一線を画す雰囲気、恐らくだがあいつがこのジェイルのロックキーパーだろう。

 

『四天王は二度蘇る。物語の定石だろう?』

『話の途中で話すな四天王テンプレの最弱が。まったく、奇遇ですねぇ。私もその男を探していたので……』

『ふふ、流石は勇者ね! 私の愛した人!!』

『おい、まだ私が喋ってる途ちゅ』

『俺様は漆黒の魔王(プリンス・オブ・ナイトメア)の四天王が一人、クーガ! 言っとくが、俺様をドーマやアンテと……』

『お前はそれしか言えないのか! まったく、ボキャブラリーが少ない三流作家の登場人物はこれだから……』

『ふぉっふぉー! また会ったのツルペタちゃん! ワシにもっと冥土の土産を……』

『ええいお前たち! 少しは黙れないかァーーー!!』

「……リカ、どうする? 安吾さん連れて逃げる?」

「いーや、恐らくあいつがロックキーパーだ。せっかく顔出してくれたんだ。遠慮なく潰してやろうじゃねえか」

 

 目の前でつまらない寸劇を繰り広げるシャドウから目を離さずに、僕とリカは武器を構えて警戒しながら話し合う。

 ついさっきの戦いでは僕が初っ端から騎士の首を落とし、カボチャと犬の四天王をリカの電撃で感電させることが出来たから何とかなったが、そこにロックキーパーが加わるとなると流石につらいものがある。

 僕としては逃げ出したいところだが、リカの言う通りロックキーパーを倒さなければこの世界から出ることも出来ない。

 

「……安吾さん。出来るだけここから離れてください」

「なっ!? 女の子とマスコットだけに戦わせる訳にはいかない! それに、僕もスコップで戦える!!」

「さっきはそれで頭から地面に埋められたじゃないですか。リカがいなきゃ死んでましたよ?」

「うっ……! だっ、だが……!」

 

 安吾さんの気持ちは分かるが、シャドウ相手にスコップを持った成人男性じゃ絶望的に力不足だ。

 現にさっきは四天王に真っ先に突撃して、下半身がヘビのシャドウに引っぱたかれた勢いで頭から地面に埋まっていた。

 戦闘を終えてリカが回復したから良かったものの……いくら何でも戦うには危なっかし過ぎる。

 

『おや、その三流作家は必要ないんですか? ははっ、そりゃもったいないことをしますねぇ?』

「……もったいない? それって、どういうこと?」

『金の成る木を手放すのかと言うことです! あ、“夏目漱吾の孫”と言った方がいいですかねぇ!!』

「っ! 貴様っ……あの編集者か!?」

 

 安吾さんが何かに気づいたかのように、四天王の前に立つ男を凝視する。

 ジェイルを牛耳るトラウマの象徴……安吾さんの反応を見るに、あの男がロックキーパーと確定していいはずだ。

 

『いやいや、夏目せんせぇ? 離れられちゃ困りますよォ……貴方は、担ぐのに丁度いい神輿なのですからねぇ!!』

「クソっ、やめろ……! お前らなんか知るものか! 俺の前に現れるなぁ!!」

『ひひっ、私をただの編集者と思わないことです……なんせ私は、この世界に選ばれたスーパー編集者なんですからねぇ!!』

 

 スーパー編集者を自称する男が叫ぶが早いか、周囲の四天王が一斉に黒い泥へと変化し、男の体を包み込むように集まっていく。

 シャドウ四体分の黒い泥が、うねりを上げながら登っていくと共に……泥の柱を突き破り、四天王の特徴を混ぜ合わせたような巨大なシャドウが姿を現した。

 

『なんと! 四天王と編集者が合体する時、恐怖の編集大王ドマクガンテロが降臨するのです!!』

「……これ、突っ込んでいいのかな?」

「やめとけ。会話も通じねえだろ」

 

 ヘビのようなしっぽの生えた三つの頭を持つ狂犬に乗る、全身に鎧を着込んで頭だけを露出し、右手にカボチャのランタンをぶら下げた編集者。

 それぞれの世界観をぐちゃぐちゃにしたような奇妙すぎる姿のシャドウだが、それでも厄介な相手であることに変わりは無い。

 

 

― 名声にたかる寄生者 ―

編集大王 ドマクガンテロ

 

 

『ひひっ! 仙台ジェイルの王権、私が頂くとしま……』

「絶景かな」

 

 どこまでも浅ましいシャドウの声をかき消すかのように、凛とした鋭い声がその場に響き渡る。

 一瞬の静寂が場を満たし……カツン、カツンと音を立て、遥か遠方から声の主が姿を現す。

 

「ここまで醜悪な姿だと、一周回って興味が湧くな。復活したジェイルのシャドウは皆、こんな化け物が揃っているのか?」

 

 それは、狐の面をかぶった男。

 スーツのようでありながらどことなく和を感じさせる服装に身を包み、腰にはしめ縄のようなものを巻き、狐のしっぽのような装飾が歩く度にゆらゆらと揺れる。

 

『クソっ!! どいつもこいつも! 私が喋るのを邪魔する奴は、皆殺しにしてや』

「―――蹴散らせ。ゴエモン」

 

 男が声を上げると共に、あれほど巨大なシャドウの全身を覆うほどに大きな何本にも枝分かれした氷の柱が出現する。

 それを起こしたのは、男の背後に出現した存在……リーゼントに隈取りを施した大男が出した氷の息。

 それが一瞬にしてシャドウを凍らせたのだと理解した僕は、そのあまりの速さに戦慄した。

 

― ブフダイン ―

 

『かっ……! 体が凍って、動けな……!』

「白いローブにピエロマスク……なるほど、お前が影山和希か」

 

 狐面が消え素顔を現した美形の男が、手に持った鞘から滑らかな動きで刀を抜き取る。

 そして刀の切っ先を僕へと向け……男は、静かに言葉を投げかけた。

 

「単刀直入に聞こう、影山和希。……はたして貴様は、“亡霊”か?」

「っ……亡、霊?」

 

 思わず、放たれた言葉をそのまま繰り返してしまう。

 それほどまでに、僕にとって狐面の男の出現は唐突だった。




マスターアーツその2:無血の救済
通常攻撃時、一定確率で敵を即死させる(中ボスまで有効)

 本編にあったら強すぎるマスターアーツ、今回の劇中では描写すらされてない騎士の頭を切断しました。
 首狩り系女子は好きですか? 作者は大好きです。
 え、首切り? アウラ? ウッ頭が……

 唐突な祐介の出現に作者もビックリ、祐介登場の経緯は次回冒頭に書きます。
 ここで出さないと詰め込みが間に合わない……ユルシテ……ユルシテ……

 ドマクガンテロ君は氷漬けにされてるだけでまだ死んでないです。
 とはいえ多分、次回には片付けられると思います。可哀想。

 本当に一章六話で終わらせられるかなぁ……
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