ペルソナって知ってる?   作:からかさ(仮)

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 祝! 初めて評価に色がつきました!!
 しかし黄色……嬉しいような悔しいような。
 もっと評価してもらえるよう頑張るので、どうか応援よろしくお願いします。

 今回は中々に難産だった。
 次の自分に任せて展開走らせた結果、前回の自分にブチギレてる自分がいた。バカかな?

 今回は喜多川祐介視点→影山和希視点です。
 色んな悪意が走り出しますが、どうかよろしくお願いします。


亡霊、ここにあり。

 今から遡ること三日前、渋谷の人々が昏睡状態から目覚め、杏と善吉が“スプーク”と名乗る輩からの接触を受けた日の事。

 俺たち心の怪盗団はその日の内に集まり、リーダーやソフィアとも通話で話し合った結果、二つのグループに別れることを決めた。

 片や各地を巡りジェイルの解放を行う移動組と、もう片方は昏睡事件やスプークの調査に加えて移動組に異常があった際に対応する待機組だ。

 何せ今回の件は一度ジェイルに入ってしまうと脱出できるという保証がないため、いざと言う時のために現実で動ける人間を残しておきたい。

 その上で亡霊ことスプークの正体を探るためにも、待機組には情報収集能力の高い双葉とソフィアを配置、それと共に新たな協力者になりうる柊アリスを迎えるため杏を残した。

 そうして俺を含む残りのメンバーが移動組となり、去年の旅に使ったキャンピングカーで移動し仙台へと到着したのが二日前。

 

「……なんと言うか、いきなり出鼻をくじかれた感じね」

 

 そして現在、駐車場に停めたキャンピングカーの周囲で、メンバーそれぞれが思い思いの落胆を見せていた。

 アジト内で話し合いを終えた次の日、移動組は東京のすぐ近くまで来ていたリーダーとモルガナを拾いながらもその日の内に仙台にたどり着いた。

 夏目の友人という設定で受付から病室を聞き出し、異世界で何があっても対応出来るよう装備や薬品を揃え、移動組六人の内の四人が仙台ジェイルに侵入して二人が異常時に対応する……その手筈だった。

 

「おいリュウジ。夏目に触れながらキーワードを入力すりゃ、ジェイルに侵入出来るんじゃなかったのかよ? ここ二日試したが、うんともすんとも言わねえじゃねえか」

「だー! 俺に言うなよ杏に言え! ……ちったぁ前進すると思ったのに、これじゃまたふりだしじゃねえか」

 

 鞄から顔を出すモルガナが苦言を呈しリーダーが頷く中で、竜司が叫びながらも肩を落とす。

 結論から言えば、俺たちは異世界に侵入することが出来なかった。

 一度目はメンバー四人で一斉にキーワードを入力したが何も反応がなく、二度目は杏が侵入出来た方法を限りなく再現するため俺一人で夏目の手を掴みながらキーワードの入力を行ったが音沙汰もなく。

 その後も様々な方法を試したが異世界に入ることは出来ず、俺たちは再び行き詰まってしまった。

 

「まさか、せっかく見つけたと思った手段が通用しないとはな」

「あはは……キーワードを探すのに手こずったことはあるけど、キーワードが分かった上で詰まったのはこれが初めてだね」

「やっぱ、杏がジェイルに入れたのって偶然なんじゃね? それか、スプークって奴が妨害してるとかさ」

「“怪盗団は入れない”、か。スプークや赤い髪の少女とやらが何者かは分からんが、敵であることは間違いないな」

「渋谷のロックキーパーがスプークや赤い髪の少女と関わりがあることに加え、善吉にかかってきた電話や警視庁への宣戦布告。これによって今回の事件に明確な敵がいると分かったのは収穫よね。杏が偶然出会ったレプリカとの話で、ジェイルの“鍵”を開く方法が分かったのも良かったわ」

「問題は、肝心の鍵を開く方法だよな。ジェイルに入れない現状を何とかしたいのに、鍵を開くにはジェイルにいるロックキーパーを倒さなきゃいけねえ」

「いや、無理だろ。ジェイルに入れねえんだから」

 

 レプリカとやらが話すには、今のジェイルに鍵をかけた元凶がロックキーパーなのだと言う。

 恐らくはトラウマの領域が広がったことで、一年前の王城てっぺんに張られたバリアがジェイル全土を覆い、外からの侵入を妨害する鍵となっているのだと双葉が推測していたのを思い出す。

 となればロックキーパーを撃破しバリアを解除したいところだが、当のロックキーパーがトラウマルームではなくジェイルに居るため、いつもの方法でジェイルに侵入することは不可能と言っていいだろう。

 

「今考えたら、十日前にいきなりジェイルに飛ばされた時が最大のチャンスだったんだな。ワガハイとしたことが、不覚だぜ……」

「それはしょうがないよモナちゃん。あの時は突然だったし、脱出を優先するのが当たり前だよ」

「脱出出来たのは良かったが、もしかすれば俺たちはその時にスプークに目をつけられたのかもな……認知を悪用する者にとって、俺たちペルソナ使いは最も面倒な存在のはずだ」

「杏とモルガナが渋谷で、祐介とソフィアが仙台。リーダーと春が札幌、善吉と双葉が沖縄、そんで俺と真が大阪に飛ばされたんだよな。いやマジ、あん時脱出優先にしてなけりゃこんな大事にならなかったのかもな……」

 

 今から十日前の昏睡事件発生と同時刻、充電の切れたスマホが突如として鳴り響くと共に俺はジェイルへと飛ばされた。

 幸いにもその時はソフィアが出口を見つけ脱出することが出来たが、その時はこんな大事件になるとは露ほども思ってはいなかった。

 もはや今のジェイルは侵入もままならず、仮に入れたとして出口が存在するかも危うい厄介極まりない場所へと変貌してしまった。

 知らなかった事とは言え、あのチャンスを逃してしまった事が悔やまれるな。

 

「過ぎたことを悩んでもしょうがないわ。今は現状打破になりうる事を考えましょう」

「となると、やはりレプリカとやらの存在だな。杏が出会った時の話だと、ネガイを返させるという目的は一致していると聞く。味方になるかは分からんが、敵対する可能性は低いと言えるだろう」

「そうね。復活したジェイルについても色々知ってるみたいだし、何とか接触して情報を手に入れたいところだけど……いかんせん、レプリカが居るのも異世界の中なのよね」

「ジェイルに入る手段を見つけるまで、そいつとの対談はおあずけだな。そういや、アリスはもうアン殿と合流してるのか?」

「確か今日が退院だったはずだよ。アリスさんも協力してくれるみたいだし、何とか戦力も増やせそうだね」

「で、それ以外に現状打破に繋がりそうなのは……やっぱ、影山和希だよな」

 

 竜司がその名を出した瞬間、一瞬場が静寂に包まれる。

 まるで出しては行けない名を出したような反応、その理由はこの場にいる全員が知っている。

 

「EMMA神聖教団による生贄殺人事件。()()が事実ならば、間違いなくジェイルの復活に関わっているだろうな」

「昏睡事件と関連してるかもって、ゼンキチが調べてた事件だよな。被害者は分かりきってるって話なのに、何で未だに被害者の名前が公表されねえんだ?」

「お姉ちゃんが検事の知り合いから聞いてくれたんだけど、遺族が遺体確認を拒否してるらしいわ。確定できない情報をニュースに載せる訳にはいかないし、警察も何度か説得してるみたいだけどね」

「遺体の損傷が酷くて本人かも分からないんだよね。……遺族の人たちも信じたくないよね。ずっと一緒にいた大切な家族が、そんな風に殺されたなんて」

 

 春の重々しい言葉に、その場にいた全員が黙り込む。

 きっと思い出してしまったのだろう……改心しそうだった父親を、殺されてしまった日の事を。

 

「……あっ、皆ごめんね。私、こんな空気にするつもりじゃなくて……」

「いいのよ春。こっちこそ、思い出させるような話をしてごめんなさい」

「いや、本当に気にしないで。確かにあの日のことは今でも忘れられない。けど、それを今言ったってしょうがないでしょ? それより私たちがやるべきは、今できることを精一杯やることだよ」

「……ああ」

 

 春の言葉に答えながら、リーダーがゆっくりと立ち上がる。

 本来なら俺たちは早々に仙台ジェイルを片付け、続けて札幌ジェイルの解放に向かう予定だった。

 札幌ジェイルの王、氷堂鞠子の救出の遅れ……春も直接口にしないだけで、その心中は不安と焦りが押し寄せていることだろう。

 そして、それは俺も同じことだ。

 恐らくはペンネームを変えてしまったのか、俺はこの一年で夏目の足跡を追えずにいた。

 俺と奴の関係は春と氷堂ほど深い訳ではないが、もし奴が異世界で死ぬようなことがあっては……如何せん、どうにも目覚めが悪い。

 奴の小説を見続けるためにも、何とかして奴の救出法を探さなくてはな。

 

「とりあえず、今日のところは情報収集に務めましょう。ソフィアや一ノ瀬さんも東京に着く頃だし、もしかしたら善吉がスプークの手がかりを掴めるかもしれないわ」

「そーいや善吉、ここんとこずっと働き詰めだよな……落ち着かねーのは分かっけど、ちゃんと休めてんのかよ」

「恐らくは休むのも惜しいのだろう。茜をジェイルから救出するために、な」

「そうだな。アカネを救出するために、どんな手段でもいい。異世界に侵入する方法を見つけ出し、ジェイルに囚われた人々を救出する。……お前ら、行くぞ!」

「ああ」

 

 そうし俺たちはその場から解散し、それぞれ調査へと向かい歩き出す。

 俺も夏目のいる病院に向かい、入院患者の家族などから昏睡者が昏睡する前後の状況を聞き出せないか試してみることにする。

 幸いにもこの場所は病院のすぐ近くにある駐車場、歩きでもそこまで時間はかからないだろう。

 

「それにしても……影山和希、か」

 

 渋谷ジェイルの中にいたという、ピエロマスクのペルソナ使い。

 たまたま囚われていた人間が、たまたまジェイルの中でペルソナに覚醒した。

 それ自体は別にいい、俺たちだって覚醒のきっかけはそんなものだった。

 現実世界で電話も繋がらない、これも不審ではあるが、二度と異世界に関わりたくないと言うなら別におかしな行動でもない。

 きっと、そうだと思っていた。

 善吉から、EMMAに捧げられた生贄の名前を聞くまでは。

 

「む? 電話……それも、非通知だと?」

 

 病院を目の前にして振動するスマホに、俺はピタリと歩を止める。

 スマホに映り込む違和感に、俺の頭にある存在が頭をよぎる。

 

「……いや、まさかな」

 

 一瞬スプークからの電話かと考えてしまうが、少しばかり神経質になり過ぎか。

 間違い電話か迷惑電話か、はたまた電気代の催促だろう。

 仮にもしスプークが接触しようと言うなら、後から合流する仲間にその出来事を伝えればいいだけだ。

 そうして画面をスライドし、俺はスマホを耳を当てた。

 

「もしもし。申し訳ないが、電気代の滞納についてならもう少し待……」

『“プリンスオブナイトメア”』

『キーワードが入力されました。ナビゲーションを開始します』

 

 その瞬間、瞬く間に意識が眩み、周囲の景色が赤と黒に染まっていく。

 あまりに大胆不敵な異世界への誘いに、俺は自らの心にある油断を悟った。

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞こう、影山和希。……はたして、貴様は亡霊か?」

「っ……亡、霊?」

 

 あまりに突然の出来事に、僕は狐面の言葉をそっくりそのまま繰り返した。

 亡霊ってどういう事だ? 僕はシャドウでもロックキーパーでもない、ごく普通の生きた人間『嘘つき』

 

「っ……!?」

「どうした? いきなり頭を抑えて、心当たりがあると言うのか?」

 

 僕が渋谷ジェイルに迷い込む前の記憶を思い出そうとした瞬間、強烈な頭痛が襲いかかる。

 何かが頭に引っかかるのに、自分の意思で記憶を引き出せない。

 気持ち悪い……まるで、誰かに頭を弄られたみたいな感覚。

 

「貴様はつい三日前、杏やアリスと渋谷ジェイルを脱出した。だというのに今、貴様はこの仙台ジェイルに存在している。怪盗団すらも侵入できない難攻不落のジェイルの中に、貴様だけが入れる理由は何だ?」

 

 三日前ってどういう事だ? 僕は()()()()()渋谷ジェイルの出口に入って、気がついたらここに居た。

 ……そういえば、僕は異世界に来てからかなり色々な事があったはずなのに、ただの一度も疲れを感じていない。

 狐面の言うことが本当なら、何で僕は三日もご飯を食べずに空腹も何も感じていないんだ? 何で異世界を走り回りペルソナを使い続けて、精神も肉体も疲労していないんだ? 何で『私を出せ私を出せ私を出せ私を出せ私を出せ』

 

「それは、貴様が亡霊だからではないのか?」

「……!!」

 

 その言葉に、僕は何も言えなかった。

 “僕は何故異世界にいるのか”、ずっと気づかない振りをして目を背けてきた違和感を改めて突きつけられる。

 僕は……僕の存在は、いったい何だと言うんだ?『生贄』

 

「悪ぃがヨ。お前さん、その推理は間違ってるぜ」

「何? いったい誰だ?」

 

 その声に思考を取り戻すと、僕の体で覆い隠れていたリカがテクテクと歩いて前に出てくる。

 そして何故だか安吾さんも前に出て、スコップを槍のように構えて僕を庇うように立っていた。

 

「おいこの狐面! お前が誰かは知らないが、この少女は俺の命の恩人だ! 愚弄するようならただじゃおかんぞ!」

「って言いながら足ガクブルじゃねえか。話が拗れるから下がってくれヨ」

「お前、夏目安吾か……!? それにそっちは……なるほど、貴様が杏の言っていたリカちゃんか」

「おうよ、オレサマが噂のリカちゃ……おいお前。流石にキレるぞ? いい加減キレていいよナ?」

「冗談だ。謝るからその爪は仕舞え」

「こいつ……!!」

「リカ、ステイ。頼むから落ち着こう」

 

 何とか調子を取り戻した僕は、リカを拾い上げて両手で抱くようにホールドする。

 そうして僕の手の中で暴れるリカを無言で眺めていた狐面だったが、やがて静かにため息をつきながら刀を鞘に収めた後、背後に出現させ続けていたペルソナを仮面に戻して僕の方へと向き直った。

 

「……いいんですか? 刀をしまっても」

「ああ、そうだな。夏目やリカの様子を見て、少なくともお前が悪人ではないと判断した。こんな事をしてすまない。俺も突然異世界に飛ばされた焦りで、視野狭窄になっていたようだ。そして、刀に関しては問題ない。何故なら……」

『ドマクガンテロは復活の呪文を唱えた! さあ、編集大王の前に屍を晒あぇ?』

「俺の本分は居合(こっち)だからな」

 

 氷の柱を突き破った巨大シャドウが狐面に襲いかかろうとした瞬間、刀を納刀する金属音が響くと共に……無数の剣閃が翻り、シャドウが手に持つカボチャのランタンが木っ端微塵に崩れて落ちた。

 この狐面と対峙した時、迂闊に敵意を向けていれば僕の体もあんな風になってしまったのだろうか。

 しかし本来の戦い方が居合である事を考えれば、僕に刀を向けていたのはあくまで脅しで、あの時点では本気で戦うつもりじゃなかったのかもしれない。

 ……きっと、多分、そう思っておこう。

 

『きっ、究極の火炎装備“ドーマのランタン”がぁ!? 貴方に人の心はないのですか!?』

「あいにく、シャドウに与える慈悲はない。ましてや、人を“金の成る木”と扱う輩とはな」

「なっ!? お前まさか、あの時の……!」

「話は後だ、夏目安吾。お前は身を守るのに集中しろ」

「ねえリカ。僕からお願いしたいんだけど、安吾さんを守ってくれない?」

「あぁ? 別にいいけどよ、お前さんはどうすんだ?」

「僕は……この人と一緒に、あのロックキーパーを倒す!」

 

 そうして僕は背後にペルソナを呼び出すと共に、狐面の横に並び立つ。

 僕に敵意がないと分かってもらいたいのもあるし、巨体へと変貌したロックキーパーを一人で倒すのはいくら何でも無茶だ。

 この人の強さならそれも出来るかもしれないが……それでも、一人で戦うよりはいいはずだ。

 

「狐面さん。一緒に戦ってもいいですか?」

「疑ったばかりですまないがよろしく頼む。俺は“フォックス”、怪盗団の一員だ」

「えっ!? あのパンサーさんの!? それを早く言っ……」

『ドーマを殺して私を編集大王クガンテロにした恨み!! 生かして返す訳にはいきませんよぉ!!』

「マジで何言ってんだコイツ?」

「仲間を取り込んだのは貴様だろうに。逆恨みもいいところだな」

 

 狐面改めてフォックスさんが怪盗団の一員という事実に驚いている間にも、編集大王なんたらかんたらが馬の体をした犬頭を叩き、手を振り下ろしてなんらかの合図を出す。

 すると三頭の犬頭が口を開き、こちらに向かって一斉に炎の息を吹き出した。

 

「ふっ、ぬるいな。―――来たれよ! ゴエモン!」

 

― マハスクカジャ ―

 

 フォックスさんがペルソナを呼び出すと共に緑の光が僕らの全身を包み込み、異常なまでに僕の体が軽くなる。

 この信じられない軽さに任せて、僕はいつもの感覚で()()跳躍する。

 

「って! うひゃあっ!?」

「飛びすぎだ! しかし、強化ありきとは言えとんでもない跳躍力だな!」

「力を入れすぎました! いつもは全力じゃなきゃ届かないんです!」

「普段も素でそこまで飛べるのか!? 末恐ろしいな!!」

 

(きわみ)火炎(かえん)見切(みき)り ―

 

 本当に必要最低限の動きで炎を躱すフォックスさんに驚愕しながら、僕は自分のやったことで二度驚愕する。

 本当に軽く飛んだつもりだったのにこれって、全力で飛んだらどうなるんだろうか……戦闘中だけどちょっとワクワクしてしまう。

 

「なんて思ってる場合じゃないや! フォックスさん、目を閉じてください! ―――来い! ニジュウメンソウ!」

 

闇夜(やみよ)閃光(せんこう)

 

『ぎっ!? なっ、何も見えん!? 奴らはどこに……』

 

 閃光のごとく眩い光がドマクなんたらの目を潰し、僕とフォックスさんの顔から示し合わせたように仮面が消える。

 僕が天から、フォックスさんが地から、お互いに呼び出したペルソナが呼応するように敵を睨みつける。

 

『蹴散らせ! ゴエモン!』

『欺け! ニジュウメンソウ!』

 

 片や隈取りにリーゼントの傾奇者が、片や白スーツに目玉が生えたシルクハットの怪人が、それぞれの動作で空を斬り裂くと……目が眩み周囲の様子すら理解できない敵の全身を覆い尽くす、無数の斬撃が同時に放たれる。

 

 

刹那五月雨斬り(T E C H N)      

         ― 超絶技巧! ―

      空 間 殺 法(I C A L !)

 

 

『あああ!? クーガ! アンテ! エロジジ……ネテロ!? 我が最強の四天王装備が、全て壊されてしまっただとぉ!?』

「へっ? ひゃあっ!? 何でパンツ一丁になるのぉ!? これじゃ編集者じゃなくてただの変質者じゃん!!」

『ええいうるさい! 私は変質者ではなく、スーパー編集者だぁ!!』

 

 鎧や犬頭の馬や蛇の尻尾を犠牲にしたのだろう、中からパンツ一丁の変質者が現れ僕は思わず動きを止めてしまう。

 お義父さんの裸だって見た事ないのに……! 何で僕はこんな場所で、こんな変態変質者のパンツ姿を見せつけられなきゃいけないんだ!?

 

「黙れ! 貴様がスーパー編集者を名乗るなどおこがましいにも程がある! 猛省しろ!」

「フォックスさんそこじゃないです! 斬って! あのパンツを早く斬ってください!!」

「何っ!? パンツを斬ればいいのか!?」

「違う! 違うからぁ!! 少し言い間違えただけなの! パンツは絶対斬らないでください!!」

『クソっ! せめて王権を……編集王の座を寄越せぇぇぇ!!』

 

 僕が最悪の言い間違えを訂正している間にも、巨大な変質者がパンツ一丁で走り出し安吾さんとリカの方へ向かっていく。

 まずい……! 直視するのも嫌だけど、一刻も早く追いついて……

 

「お前さん、そりゃ悪手だろ。―――嬲り潰せよ! ワルキューレ!

『ぎっ!? あばばばばばばばばば!!』

 

 と思ったのもつかの間、リカが呼び出したペルソナが方陣を作り出すと共に、バチバチと音が鳴り響き鋭い電撃が走る編集者へと襲いかかる。

 まるでギャグ漫画のように骨が透け()()が見えそうになり、僕はそのざまから全力で目を逸らした。

 

― ジオダイン! ―

 

「こっちもこっちでフラストレーション溜まってんだヨ。てめぇをいたぶって、存分に晴らさせてもらおうじゃねえか!」

『まっ、待て! まだっ、痺れれっ……!』

「こいつは特別だぜ……! 認知爆発! 超変身っ!!」

 

―――パキィンッ!

 

 認知の世界が一瞬リカの色に染まると、同時にリカが二種類のポーズを一瞬で決める。

 するとリカの上半身と下半身が別々に変身し、戦闘機と戦車の二つに分裂……更に戦車がロボットアニメのようにガチャガチャと変形して下半身のような姿になり、戦闘機が折れ曲がり腕と顔が内部から飛び出し変形した下半身にドッキングする。

 

「電力充填、チャージ完了! “シュード・オルギア”! 認知動力全解放!!」

 

 合体ロボのようになったリカの背後にペルソナが現れ、十二体の少女が天使の輪のように頭上へ方陣を作り出す。

 その中へとリカが手を突っ込み、凄まじい量の電力が蓄電され……まるで雷神のように青いイナズマを纏ったリカが、その全ての電力を両手に収束し球体を作り出す。

 

「こいつが! オレサマの全力だぁーーー!!」

 

 そして両手を前方に突き出すと共に、球体から凄まじい量の電撃が放出され、その全てが眼前の敵へと突き進んでいく。

 一切の容赦なく電撃の本流が眼前の敵を焼き焦がす姿を、十二体の少女たちはロボの周囲をはしゃぎながら見届けていた。

 

『へっ……編集長! バンザァァァーイ!!』

 

 

SHOW'S OVER!

 

 

「なんと……これは凄まじいな」

「リカ、こんな事も出来たんだ……! ってリカ!? 大丈夫なの!?」

「くぎゅう……やっぱこの体じゃ、持続能力に無理があるか……」

 

 いきなり元の姿に戻りポテッと倒れてしまったリカに、思わず僕は瞬間移動も忘れて走り寄っていく。

 目の前の戦闘を呆然と見ていた安吾さんも、はっと正気を取り戻したようでリカを抱き起こし抱えていた。

 

「おい、大丈夫か謎生物!? さっきのは一体何なんだ!?」

「ゔ、にゅぁ……少しだけ、ねかせ……クゥー」

「おまっ、お前ぇ!? それはないだろ! 降ろすに降ろせないじゃないか!!」

「すみません安吾さん、出来ればそのままでお願いします。リカも大事な戦力なので」

「待て! お、僕は戦力外なのかい!? それほどまでに普通の成人男性は心もとな……」

「む? こやつは、編集者か?」

 

 後ろから聞こえてくるフォックスさんの声に振り返ると、そこには渋谷ジェイルの時のように人の姿に戻った編集者がパンツ一丁でうつ伏せになって倒れていた。

 本当に、何でこんなのを見せつけられなきゃ行けないんだ……そう思いながらも、僕はまずフォックスさんの当たり前過ぎる言葉に突っ込むことにした。

 

「そりゃ、戦闘中にスーパー編集者って散々アピールしてたじゃないですか」

「確かにそうだが、お前はこいつをロックキーパーだと言っていただろう?」

「え? だってそうじゃないですか。安吾さんも、この人がトラウマ何ですよね?」

「あ、ああ。確かにそうだが……」

「?」

 

 何だ? やけに安吾さんの歯切れが悪い。

 ロックキーパーはトラウマの象徴、それならこの編集者がロックキーパーで間違いないんじゃ……

 

「俺のトラウマは、こいつだけじゃないんだ」

「えっ? それっ、て……!!」

「ああ、俺の知るロックキーパーもこいつじゃない。夏目安吾のロックキーパーは、編集者ではなく“編集長”だ」

 

 確かに、こいつはやられる時に“編集長バンザイ”って言ってた。

 となれば、本当のロックキーパーは何処に……まさか、こいつを出汁に僕たちが疲弊するのを待っていた?

 唯一回復が使えるリカが眠ってしまった今、シャドウが押し寄せることがあったら無事じゃすまないかもしれない。

 いや、そうならない為にも、まずはリカが目覚めるまで隠れる場所を探『来るよ』

 

「っ!!」

「うおっ!? 最近の学生はデンジャラスだねぇ! これ、銃刀法違反なんてレベルじゃないよぉ!?」

 

 背後から感じた気配に反射的に剣を振ると、いつの間にかそこに居た人型の存在が大袈裟なそぶりで後ろへと下がっていく。

 瞬間、明らかに臨戦態勢に入ったフォックスさんが僕の前に出ていき刀を構える。

 

「貴様、何者だ」

 

 フォックスさんの問いかける言葉に、正体不明の人型が飄々とした様子で視線を向ける。

 その顔面に張り付いたのは、顔全体を覆い隠す黒と金ラインのガスマスク。

 全身は黒いトレンチコートで隠されており全貌は掴めないが、雰囲気から察するにこれはシャドウやロックキーパーじゃない。

 僕たちと同じ人間……それも、“ペルソナ使い”が纏う衣装だ。

 

「何者って? そりゃあ、君をジェイルに送った者、かなぁ?」

「……! なるほど、貴様が亡霊か。ならば……容赦はいらんな!!」

 

 目で追えないほどの神速の抜刀を、これまたどこからともなく現れた大鎌で受け止める亡霊のような人間。

 どこかゆらゆらと揺れるようにフォックスさんの剣撃を受け止めながら、僕では到底分からないような攻撃の隙間を抜けてあっという間に距離を取ってしまう。

 

「何故俺をこのジェイルに送った!? 貴様の目的はいったい何だ!!」

「目的って言っても……要は実験かなぁ? 僕がかけたジェイルの鍵に、何だか異常事態が発生したみたいでさ。それで君で試したの。あ、別に君である事に特別な理由はないよ? 怪盗団を分断できるなら誰でも良かったんだよね」

「異常事態、だと? 無数の人間を昏睡させておいて、随分と勝手な言い草だな」

「ははっ、バレなきゃオッケーは君たちも一緒だろ? それに、僕がここに居る理由は怪盗団の君じゃない。……そこの、ピエロちゃんだよ」

「っ、僕?」

「そう、君。あの子が言うには、君がこの異常事態を引き起こしてるんだよ。ただでさえ穴だらけ運任せの僕の計画に、余計な面倒を引き起こさないでくれるかなぁ? 迷惑なんだよね」

「な、なんの事です? 僕はこの世界から出たいだけで……」

「じゃあ逆に聞くけどさ、どうやってこの世界に入ったの? 僕は君を誘った覚えなんてないんだけど」

「っ……!!」

 

 何で? そんなの、僕だって分からない。

 あの日、帰り道で義妹を助けるために拉致されて、気づいたらここに……え?

 

「あ、え? 心願(ここね)? 助ける? 待って、何が……」

「君が存在するだけで、ジェイルにバグが生じているんだ。怪盗団はお手手を繋いで異世界にってファンタジーな解釈をしたみたいだけど、実際は君が出現したからジェイルが不安定になり侵入の余地を生み出してしまった。そんな不確定要素は殺すしかないよね? ってことで……

 ―――呪い殺せよ! ランドルフ!」

「え? ……っ!!」

 

 いつの間にか胸の前に現れた藁人形に、強烈なプレッシャーを感じた僕は即座にその場から離れようとする。

 だが、どこからともなく飛んできた釘が藁人形に刺さると同時に……僕の体から全ての力が抜けていく。

 

ム ド オ ン(W E A K !)

 

「夏目安吾! その子を担いで逃げろ!! 俺はこいつを足止めする!!」

「なっ! ……クソっ、分かったよ! どうせ俺は戦力外だ!!」

「ははっ! 逃がさないよ? 追え、ロックキーパー!!」

 

 僅かに聞こえる会話と共に、誰かに担ぎあげられるような感じがする。

 

「死なせるものか……! 今度こそ、生きてる内に恩を返すんだ……!!」

 

 遠くから聞こえるような安吾さんの声は、色んな感情をぐちゃまぜにしたみたいに虚ろな意識に響いていく。

 そんな事を思っている内に、僕の意識は完全に途絶えた。




 仙台ジェイルに入ってから主人公にセクハラし過ぎじゃないか? そう思いながらもやめられないねぇ!

 未だに夏目安吾のトラウマに触れられてないのめちゃくちゃキツい。
 本当に六話で終わるのか?(定期) とりあえず頑張ろう。

 夏目が祐介を覚えてなかったのは、単純に杏やアリスと違って接触する機会が少なかったからです。
 アリスが杏をモデルとして意識しまくってたのに対して、祐介は駅前インタビュー・パーティ・謝罪会見で声をかけてきた相手ってぐらいですからね。
 その出来事を説明するか、時間が経てば自然と思い出すと思うけど、顔を見たぐらいじゃ思い出せない関係性なのが原作での夏目と祐介だと思ってます。

 そして、主人公とスプークは完全に別人です。
 一人称が同じ“僕”になったのはわざとじゃなく、作者が僕って言うキャラ好きなせいだと思います。
 まあそれでミスリードみたいなの作れたから、ヨシっ!(現場猫)

 改めまして評価に色ついたの本当に嬉しい! 評価下さった方、本当にありがとうございます!!
 という事で、更なる評価・お気に入り登録・感想待ってます。
 小説書くのは強欲じゃなきゃ続かないよね! 色々とよろしくお願いします。
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