ペルソナって知ってる?   作:からかさ(仮)

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 あけおめことよろ!! 増えた登録者に日寄って投稿にビクビクしてた作者です!!

 お気に入りが一気に増えた理由なんですが、一時期評価バーがオレンジになった影響ですね。UA数が一日で2000超えて怖ってなりました。
 まあ、評価は一日で黄色に戻っちゃったんですが……とにかく嬉しい! マジで嬉しい! でも出来ればオレンジ続いて欲しかった!! 悔しい!!
 それはそれとして、今回のでお気に入りくれた皆さん本当にありがとうございます! どうか今作品をご贔屓によろしくお願いします!

 ……はい、それでは本編行きましょう。作者は冷静になれる作者ですからね。
 今回は現実と夢の狭間(主人公視点)→仙台ジェイル(主人公視点)→夏目安吾視点で行きます。
 私は冷静になれる作者です。そreでぱほんへnhへ、どうぞ


怒りの暴走、決意の覚醒。

 どこまでも青い夢の中で、鈍っていた意識が僅かに覚醒する。

 まどろんでいた瞼をかろうじて開くと、おぼろげながらも二人の人影が歌っている光景が目に入る。

 

汝、地にし、いま命は奪われたり。

 

「あー、あー、ああー」

 

己を縛る運命すらも、り得ぬままに。

 

「あー、あー↑、ああー」

 

己が欲望の賭けにれ、

の戯れに消えゆく者よ。

 

「あーあーあー……」

 

かくて欲望はらず、

無貌の王は、価なき道化と成r

 

「飽きた! 自分で歌ってもつまんないよ!?」

「そうですねぇ。ベラドンナ様が居れば良かったのですが……あいにくワタクシ、ベルベットルームの裏切り者ですので」

 

 何処までも深い青に包まれた部屋の中で、二人の人間が椅子に座りながら話し込んでいた。

 一人は青い執事服を着た細身の青年、そしてもう一人は……まるでモヤがかったように全貌が見えない、少女のように幼い人影だ。

 

「それにしても、君は背が伸びたよねー。私なんて十年近く経っても幼女のままなのに」

「そうですねえ、ベルベットルーム恒例の身体測定では175cmピッタリとのことでした。ラヴェンツァお姉様も、愚弟が姉の背丈を越すとは何事だとプンスコしておりまして……失礼ながらその時は、無言で身長差煽りを楽しみましたね。悔しげにピョンピョンしてるのが実に可愛らしかったですよ」

「えー? 性格悪くない? だから変な青服着せられて……ん?」

 

 酷くモヤがかった少女が突然ぎゅるっと振り返り、椅子から飛び降りると僕の方へ近づいてくる。

 対して僕は声を出そうにも発声法が分からず、まるで夢の中にいるかのように体を動かすことがままならない。

 

「これ、ひょっとして私のこと見えてる? もしかして、私をちゃんと認識してる?」

「おや、確かに。不完全ですがアナタの事を認識していますね。やはり、記憶の管理が不安定になっているのでしょうか」

「今まで何回も記憶を弄ったから、だんだん慣れてきちゃったのかな。この部屋や君のこと、知ったところで誤魔化せると思ったけど、わんちゃん無理かもしれないね」

 

 そう言いながら、少女はゆっくりと手を伸ばすと……それが僕の頭へと入り込み、脳の中を直接掻き回されるような不快感が押し寄せてくる。

 まるでペルソナに目覚めた時のような酷い頭痛、それが永遠と続いていくような感覚。

 強烈な頭痛と嫌悪感を伴いながら、僕の頭から先程まであったはずの記憶が削ぎ落とされるようにじわじわと消えていく。

 

「うーん……記憶を弄るのにいつもより抵抗が強いね。この調子だと、ついさっき忘れさせた“義妹を助けた記憶”もすぐ蘇っちゃいそう」

「これ以上、隠し事は出来ないということですか。これも渋谷の王冠を得た影響でしょうかねぇ?」

「そんなに血の繋がりもない家族が大事かねー? その癖、小さい頃の“両親が死んだ時の記憶”は忘れたままで思い出す気配もなし。ひどくない?」

「まあまあ、それは置いておくとして。仮に記憶を消せないとなると、次に意識があるままここに来た際は、ワタクシたちの存在を受け入れてもらうしかない……難しいですが、その時は何とか受け入れてもらうよう努力しましょう。アナタは問題ないのでしょうが、記憶を弄るのはワタクシも心苦しい」

「えー? 私もあんまり気分は良くないよ? (わたし)(ぼく)(ぼく)(わたし)。いつも一緒に居るんだから、この子が苦しいと私も苦しいよ」

「そうですか。ワタクシとしては、一刻も早く出ていって欲しいのですがね」

「それは私の力じゃ無理だよ。だから王冠を集めるんでしょ? 色んなネガイを叶えるために。……じゃ、私はこの子(わたし)の体に戻るから。ヴィクターは私たちをジェイルに戻してね」

「ではその前に、こちらをお渡ししましょう。沖縄ジェイルからこっそりかっぱらった、EMMA神聖教団員のネガイとなります」

 

 青服の青年が空間の中に手を突っ込むと、そこから赤い宝石のようなものを取り出す。

 それを受け取るモヤがかった少女は、どこか不思議そうな様子でその宝石を眺め出す。

 

「ふーん? これがネガイなんだ。貰えるなら貰っとくけど、一個だけじゃ足りないと思うよ?」

「それはまあ、お試しという事で何とか」

「……ま、いいけどさ。今度こそ私は戻るから。じゃーねー」

 

 そうして少女の姿が完全な白いモヤに変わると共に、僕の体にまとわりつくようにじわじわと同化していく。

 明らかな異常事態、それなのに僕は……何故だか、欠けたものが満たされるような安心感を覚えた。

 

「それでは我が素晴らしきトリックスター、仙台ジェイルへと戻りましょうか。……既に一つ目の王冠は得た。だからこそ、ワタクシは期待しているのですよ? アナタが運命を乗り越え、真なる王と成らんことを」

 

 そんな青年の言葉を最後に、まるで夢から覚めるかのように急速に僕の意識が遠のいていく。

 黒い鎖を辿りながら景色がゆっくりと遠のき、青い部屋のことが忘却の最中に忘れされる中……

 

『じゃ、ゲームを再開しよっか。君が、真の王様になるために』

 

 僕の耳に、どこからともなく少女の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 ……

 

 

 

「ん……」

 

 どこか夢から目覚めるように、鈍った視界がゆっくりと鮮明になり、僕はゆっくりと周囲を見回す。

 色鮮やかなステンドグラスに、天井からぶら下がるくす玉の垂れ幕に書かれた“夏目”というミミズがのたくったような二文字、その下にある祭壇のような場所に置かれた二つの巨大な本棚……その境目に、安吾さんが椅子に縛り付けられているのが目に入った。

 

「安吾さん! 大丈夫で……って! これ僕も縛られてる!?」

 

 見れば僕の背後には十字架の形をした杭が立っており、杭から伸びる鎖が厳重に僕を縛り付けていた。

 動こうともがいてはみるが鎖が軋み音を鳴らすだけで、とても僕の力では脱出できそうにない。

 

「……目覚めた、のか? 本当に良かった……!」

「っ! すみません安吾さん! 申し訳ないんですが、僕は動けそうにないのでリカが来るまで脱出、は……」

 

 椅子に縛られ項垂れた安吾さんが、緩慢な動きでゆっくりと顔を上げる。

 どこか憔悴した様子の安吾さんの両頬に、書かれた二文字を目で追った僕は……

 

「んふっ!! ふっ、くっ……!」

「なあ! それは流石に失礼じゃないか!?」

 

 安吾さんの両頬に描かれた“夏目”の二文字に、僕は吹き出しそうになりながら笑いを堪えた。

 死ぬほど真面目な顔に描かれた、死ぬほどくだらない落書き。

 こんなので笑うのが失礼なのは分かってる、分かってるけど無理だった……!

 

「すっ、すみませ……! んっ……!!」

「はぁ……いや、いいさ。さっきまで見たくもないトラウマを見せられ続けて、かなり気が滅入っていたからな。その反応で逆に救われたかもしれない」

「い、いえ! こういうのは自分でも良くないと思うので……! ほんとに、すみません」

「いや、いい。むしろ謝るべきは僕の方だ。勝手なことをして君に庇ってもらった挙句、ここに拘束される原因を作ってしまったこと。……本当に、申し訳ない」

 

 良かった、とりあえずは許されたみたいだ。

 しかし安吾さんの言う勝手なこととは、あの編集長のロックキーパーに木材で殴りかかったことだろうか?

 もしそうだとすれば、確かに安吾さんがやった事は不味かったけど……

 

「あれは安吾さんだけの責任じゃないです。僕だって飛んだ先にシャドウがいるとは思わなかったし、それ以前にリカが鬱憤晴らしにガス欠するような技を使わなければあの場面で逃げれたかもしれない。そもそも僕が亡霊にやられた時、僕やリカを抱えて逃げたのは安吾さんじゃないですか。だから僕は、感謝こそしても謝られるようなこと、は……くっ」

「君なぁ! 流石に笑い……あークソ! もういい分かった! 痛み分けだ! どうせ譲る気もないんだろう!?」

「は、はい……! それで、ふっ、お願いします……!」

 

 時間をかけ何とか安吾さんの顔に慣れたところで、改めて周囲を見渡すとロックキーパーがどこにもいない事に気がつく。

 安吾さんはトラウマを見せられていたと話していたが、肝心のロックキーパーはどこに行ったのだろうか?

 

「安吾さん。ロックキーパー……あの編集長の男はどこに行ったんですか?」

「ああ、その事だが。僕があの男にトラウマを見せられている最中にシャドウがやって来て、“狐面を何とかしてくれ”と男に頼み込んだんだ。あの男はかなり渋っていたようだが、シャドウではどうにもならないようで出ていったよ」

「ってことは、フォックスさんはあの亡霊を何とか出来たんですね。……僕なんて、倒れるしか出来なかったのに」

 

 あの亡霊のようなペルソナ使いに対して、僕は何の抵抗すらも出来ずに倒れてしまった。

 ……あいつは、なぜだか僕の命を狙っている。

 仮にこの仙台ジェイルから出られたとして、もしまた別のジェイルに送られることがあれば、僕は今度こそ亡霊に殺されるかもしれない。

 殺されてしまえば、二度と家族には会えなくなる……そんなの、絶対に嫌だ『力が欲しい?』

 力が……そうだ、もっと力が欲しい。

 誰にも運命を曲げられないための、絶対的な力が……!!

 

「……なあ君。僕が言うのも何だが、一人で思い詰めた顔をしないでくれ。あのリカとやらとは仲がいいんだろう? きっと助けに来てくれるはずさ」

「あ……す、すみません」

 

 突飛な方向に思考が偏りそうになっていた僕だったが、安吾さんのこちらを案じるような目に何とか正気を取り戻す。

 異世界を共に行動して改めて、この人は良い人だと実感する。

 己の力不足に不満を持ちながらも自分がやれる事で僕やリカを助け、あのロックキーパーにトラウマを見せられ続けた後でも僕を気遣うことを忘れない。

 どこまでも普通で、ありきたりな人物……だからこそ、僕は疑問に思ってしまう。

 何故こんな良い人からこの異世界が……仙台ジェイルという欲望の象徴が生まれたのか。

 

「僕は大丈夫です。それより、出会った時の話を蒸し返すようで悪いんですが……恐らく、この仙台ジェイルはあなたの欲望から生まれました」

「……そう、だな。この世界は、俺が歪んだ目で見ていた仙台と瓜二つ。俺の欲望から生まれた世界で正しいと思う」

「じゃあ、安吾さんはこの世界を消したいと思いますか?」

「何っ! そんな方法があるのか!?」

「はい。ただ……その為には、安吾さんがトラウマを克服する必要があります」

 

 その言葉を聞いて、安吾さんが顔を僅かに歪ませる。

 そりゃそうだ、トラウマを克服してくださいといきなり言われたところで無理がある。

 

「だから……僕に、安吾さんのトラウマを話してみませんか? 出会ったばかりの僕ですけど、話したら少しは楽になることもあると……思い、ます」

 

 正直に言えばトラウマを話すことを急かすマネはしたくなかったが、この世界を終わらせるには安吾さんがトラウマを克服することが必要不可欠だ。

 だが、これが安吾さんのトラウマを抉ることになったら……そう考えると、やはり心が痛む。

 

「……そうだね、話すとしよう。元はと言えば、僕があの時間違えなければこんな欲望に塗れた世界も生まれずに済んだ。これはきっと、僕の責任なんだろう」

 

 少しばかり逡巡した様子を見せた安吾さんだが、それでも話してはくれるみたいだ。

 無理やり話させるようで悪いが、それでも聞くからにはしっかりと耳を傾けよう。

 

「自己紹介で話した通り、僕は小説家をやっている。僕のことは知らなくとも、“夏目漱吾”という名は知っているだろう?」

「は、はい。学校の教科書にも、夏目漱吾の作品が乗ってた気が……」

「その夏目漱吾が、僕の祖父だ」

「えっ……それって、本当の文豪の夏目漱吾ですか?」

「ああ。僕の祖父はマジの文豪の夏目漱吾だ」

 

 マジか……この人、教科書に乗るような文豪の孫だったんだ……!?

 いや確かに、あのスーパー編集者を自称する変態が“夏目漱吾の孫”とは言ってたけど……同姓同名の他人とかじゃなく、本当に本物の文豪の孫とは思わないじゃん?

 

「僕が小説家を志したのも祖父の影響でね。幼い頃はよく祖父の家に遊びに行って、そこにある本を読み漁っていたよ。祖父は本当に数え切れないほどの本を持っていてね……ちょうど、僕の左右にあるような棚が何個あっても足りないほどだった」

「それは凄いですね……! 僕にはちょっと想像できないです」

「ふふっ、凄いだろう。俺はじいちゃんの家に遊びに行っては、棚を漁って色々な本を読み耽った。だが、その中でも俺の心を一番動かしたのはじいちゃんの書いた本だった。……もう亡くなってしまったがな。俺もじいちゃんのように、人々の心を動かす小説家になりたいと思ったんだ」

 

 安吾さんの声に熱が帯び、過去の記憶に入り込むかのように話し方が変わっていく。

 巨大な本棚に並ぶ本をよくよく見れば、そこには一つの例外もなく“夏目漱吾”と書かれている。

 この世界が心から生まれた事を考えれば、よほどお爺さんの書いた小説が安吾さんの心に影響したんだとよく分かる。

 

「本当に、凄い小説家だったんですね」

「ああ! 俺のじいちゃんは本当に凄い人だった! ……だが、俺に文才は遺伝しなかったようでな。鳴かず飛ばずの落選が続いた。それでも努力は続けたが、何百冊も読んで読んで、血を吐く想いで書き続けた作品を……駄文の一言で片付けられることもあった」

 

 まるで絞り出すかのような喋り方に、僕の心もぎゅっと締め付けられるようだ。

 血を吐くような努力をそんな簡単な一言で片付けられる日々は、いったいどれほど安吾さんを苦しめただろうか。

 

「そんな日々が続いて、俺はとことん迷走した。流行っているからというだけで知識もないラノベに手を出し、有名な作品の言葉を適当にツギハギした魂のない作品を作り上げ、中身のなさを誤魔化すように“病気の少女の為に作品を書いている”なんて嘘もでっち上げた。……そんな虚飾塗れの甲斐甲斐しい“演出”もあって、“漆黒の魔王(プリンスオブナイトメア)”という作品が奇跡的に創海社の大賞を受賞した」

「……」

 

 安吾さんの己を皮肉るような口調に、僕は頭の中で考えを纏めようとする。

 迷走する安吾さんが行ったのは、いわば賞を取るための努力であり、作品を高めるための努力じゃない。

 安吾さんが小説を書く理由は売れる本を書くためじゃなく、お爺さんのような人の心を動かす小説を書きたいという想いだったはずだ。

 賞を取るための努力を否定するつもりはないが、もしお爺さんのように人の心を動かす作品を作りたいのなら……安吾さんが行った努力は、間違っているんじゃないか?

 

「安吾さんは、それで良かったんですか? そんな演出で賞を取って」

「良くはない。良くはない、が……ずっと認められずにいた俺にとって、その大賞は救いだった。ようやく俺が認められたんだと、“夏目安吾”の努力が身を結んだんだと。自分の愚かな行為を美化し、結果良ければ全てよしとばかりに己の罪を忘れようとした。……そんな魂のない作品が、本当に評価されているはずないのにな」

「え? それって、どういうことですか?」

「創海社の編集長と俺の担当編集が、俺のいない場所で俺について話しているのをたまたま聞いた。その二人は俺の事を“自分の実力も分からない哀れな男”だの、“あんな駄文を読まされる身にもなって欲しい”だの散々に言っていたよ。その話の中で……俺の大賞は、編集部により忖度された八百長だという事を知った。彼らが欲しかったのは俺の作品じゃなく、“夏目漱吾の孫が書いた作品”という名分だけだったんだ」

「……! そんなの、酷いじゃないですか! その編集は安吾さんを利用する為だけに中身のないラノベを大賞にしたんですか!?」

「うぐっ! はっきり言うな君!? ……だが、その通りだな。あの作品は俺の黒歴史。魂を込めずに世に出し、結果俺の名を利用するためだけに大賞に選ばれてしまった小説。……俺と同じ、利用される為だけに生み出してしまった作品だ」

 

 その言葉には、どこか後悔のような物が含まれていた。

 人の心を動かすような小説を書くことを夢見ていた人が、誰の心も動かさない作品を作ってしまった後悔。

 仮にも己が生み出し世に出した作品が誰にも評価されず、終いには利用される為の道具にしか使われない作品を生み出してしまった後悔。

 僕に想像できるのはこれぐらいだが、きっと安吾さんはそれ以外にも複雑な後悔を抱えているのだと、その表情が物語っていた。

 

「八百長を知った時点で、公表すれば良かったんだろうがな。全てを知った俺は……折れてしまった。八百長という歪んだ栄光を受け入れ、編集の担ぐ神輿に乗っかることを選んでしまった」

「っ、何で、そんな」

「報われない努力に、疲れたんだ。かつての俺は死ぬほど努力した。……筆を握り続けてできたペンだこが、潰れるほどに文字を書き続けた。朝に昇った日が沈んで再び昇るまで、食事も摂らずに本を読み続けたこともあった。風呂も食事も寝る直前も、命を削るつもりで小説の事だけを考え続けた。そんな努力を続け、心をすり減らし続けた。そんな生活を続ける内に俺は……自分がいったい何を書きたいのか、どんな想いを伝えたいのか分からなくなった。魂を込めた小説を書けているのか、それとも惰性の作文をただつらつらと書いているだけなのか、それすら分からなくなった」

「……!」

「もう、限界だった。誰にも見られず孤独な努力を続けるより、俺は己を偽り虚飾の栄光にすがることを選んでしまった。俺はその瞬間、“夏目安吾”ではなく……“夏目漱吾の孫”として生きることを選んでしまった」

「……そう、なんですね」

 

 安吾さんの口から語られる努力と苦悩に、僕は何も言うことが出来なかった。

 血を吐くなんてレベルじゃない、文字通り命を削るような努力。

 小説を書く度に駄作と片付けられ、その度に魂をすり減らすような努力を行い、その結果自分が何を思っているのかすら分からなくなる。

 小説への情熱を燃やせば燃やすほど駄作という言葉が心を傷つけ、努力する程に命をすり減らし自分の心が分からなくなる。

 例えどんな努力を重ねても、偉大な祖父の才覚が努力を霞ませ、誰も安吾さんを見てくれない。

 普通でありきたりの人だから理想を求めて努力するのに、努力すればするほど憧れの世界から遠い場所にいる事を突きつけられる現実。

 心が折れ偽りの栄光にすがらざるを得なくなるほど、酷く辛い環境があったんだと思う。

 

「そうして手に入れた栄光を保つために、俺はどんな手段も使った。編集に言われるがままに盗作もしたし、それで訴えた作者も負かせた。その果てに俺は……人を洗脳するアプリに手を染めた。俺が本格的に後戻り出来なくなったのは、きっとその時からだ」

「人を洗脳するアプリ……ひょっとして、EMMAですか?」

「えっ? 何でそれを……まさか君は、EMMAの力を知ってるのか?」

「あ、はい。別のところで聞いたことがあって……」

 

 とりあえず、アリスさんの話は伏せておくことにする。

 ジェイルの王だった二人がどちらもEMMAに関係があるのは気になるが、まずは安吾さんの話を聞く方が大事だと、小さな疑問を胸に抑えた。

 

「そ、そうか。まあいい。とりあえず話を続けよう。俺はEMMAの力で信者を増やし、信者たちは漆黒の魔王(プリンスオブナイトメア)を各々のやり方で世間に広めた。その中には、かなりの問題行動もあったが……俺はそれを注意こそすれ、EMMAを使うことは止めなかった。そんな日々が続いたある日、悪人であった俺に“予告状”が届いた」

「予告状? 誰から何のため……いや、まさか!」

「そう、“心の怪盗団”からだ。いわゆる改心というやつを俺は受けたらしい。予告状が届いた当初は廃人にされないかとビクビクしていたが、結果的には改心のお陰で偽りの栄光から抜け出すことが出来た。その点については……まあ、感謝しているつもりだ。色々と言いたいこともあるがな」

 

 渋い顔をする安吾さんへ直接口にはしないが、僕は正直やらかした以上は自業自得だと思った。

 とはいえ、いきなり“心を盗む”なんて予告状を送られるのも怖いだろうし……まあ、ギリギリお互い様か。

 

「あの、話からは外れるんですけど……改心ってどんな感じなんですか? 少し気になっちゃって」

「うーん、なんと言うか……今まで鈍りきっていた良心が、急に目覚めるような感じだ。自分が丸ごと入れ変わるんじゃなく、己の一側面がクローズアップされる感覚だな」

 

 なるほど、少なくとも洗脳って感じじゃないのか。

 リカも“シャドウを説得”って言ってたし、それで良心が目覚めるなら改心も悪いことじゃないのかもしれない。

 

「まあそんな事もあって、俺は自分の罪にケジメをつけることにした。盗作した作者にはそれ相応の慰謝料を出し、洗脳した信者には買った分だけ金を返し、俺がやった罪は謝罪会見を開いて何から何まで全部バラした。当然、それで全部が許されるとは思ってないがな。……君も、幻滅するならしてくれていい。それだけの事を、俺はやったからな」

「しません、と言うよりできないです。色々な事を聞いちゃったので」

「そう、か。……そうだよな。すまない、謝ろう。そんなつもりじゃなかったんだ。……全てを話すと言うのも考えものだな。許されてはいけないはずの罪も、許されてしまうのだから」

「……」

 

 アリスさんもそうだが、何故罪を犯した人は自分を許したがらないのだろう?

 罪を犯せどそれを償ったなら、反省して新しい生活を送ればいい。

 過剰な罪悪感で自らを追い詰めるだけじゃ、救われる人は誰もいないのに。

 

「安吾さんには……誰か、居なかったんですか? 安吾さんを見てくれる人が。その努力を、認めてくれる人が」

「居たことは、居たさ。俺にとっても大切な人が。だが、その人は……」

『もうとっくに死んでしまった。ですよね、夏目センセイ?』

「「!」」

 

 聞こえてきた声の方向を振り返ると、そこには案の定、編集長の姿をしたロックキーパーの姿があった。

 さらにその背後には僕とフォックスさんが一度戦った巨大シャドウ……編集大王ナンタラカンタラが、九体も並んで続いてくる。

 

『まったく、狐面の侵入者は化け物か何かですか? 本来は十体居たはずのドマクガンテロを討伐、残りの九体も凍結や凍傷で一時的な機能停止に陥れ、当の本人は悠々とジェイル内を逃走中。まったく、スプークめ……殺しきれないような化け物をジェイルに招き入れないでいただきたい』

 

 嘘でしょ? これの群れと一人で戦って、一体は倒せたの?

 恐らくは亡霊と戦った後だろうに、あんなの十体もぶつけられて逃げれたの……?

 渋谷の事を思い返せば、パンサーさんも炎に耐性がありそうなあの化け物を火力の高さだけで防御に追い込んでたし……心の怪盗団はどれだけ強い人が揃ってるんだ。

 

『まあ、城に鍵は掛けたのでここに来ることは無いでしょう。仙台ジェイルをシャドウに探索させ、ゆっくりじっくりといたぶればいい。それよりも、夏目センセイのお話をしましょう。貴方の心はあの記者会見で一度救われ、再び地の底に落ちてしまった。その理由は……あの記者会見の後に、貴方の人気が下がることがなかったからだ』

「えっ?」

 

 人気が下がらなかったから、安吾さんが救われなかった?

 逆ならまだ分かるけど、何で人気が下がらないことが救われないことに繋がるんだ?

 

『そりゃそうだ、貴方が結果的にやった事は八百長の告発。盗作という問題はあれど、世間では夏目の名を利用しようとした編集の方が圧倒的に悪者だ。利用された夏目安吾への同情も強く、謝罪会見に突如湧いて出たあの青年との問答もあり、非難どころか世間のしょーもないミーハー共に応援される始末。ま、そんなミーハーが見ているのは、貴方という人間よりもドラマチックな謝罪会見の光景だけでしょうが。しかし、貴方も酷い人ですよ。……その名声を、利用させてもくれないなんて』

「っ! ふざけるな!! あの謝罪会見を終えて世間の反応を見たお前ら編集はあろう事か! “このブームを利用してもうひと稼ぎしないか”と宣った!! お前たちは! お前たちは!! どこまで俺の想いを馬鹿にすれば気が済むんだ!?」

『いやいや、知りませんよ。私はあくまで貴方のトラウマの象徴、本当の編集長ではありませんからね? 夏目センセ……あ、今は“重見アツム”でしたっけ? いやぁ、がめつい編集に利用されないために名を捨てるとはスバラシーイ心構えですねぇ。あ、それと世間からの過剰な同情を嫌ったのもありましたっけ? それで貴方は名を捨てた。その名に着いて回るしがらみから逃げるために』

「うっ、うるさい! 俺だって、その名を捨てたくて捨てた訳じゃ……!」

『はぁー! まったく貴方は凄い作家だ! せっかく手に入れた“夏目安吾”というブランドを棒に振ってまで、未だに芽の出ぬ駄作を書き続けているのだから! ……あ、それともぉー、夏目センセイがぁー、その名を捨てた一番の原因はぁー』

「貴様っ!! もう黙……」

『やっぱり、夏目漱吾の死が原因ですかねぇ?』

「っ……!!」

 

 その瞬間、安吾さんが核心を突かれた様子で黙り込む。

 先程言っていた大切な人、それはきっと祖父である夏目漱吾のことだろう。

 しかし、なぜ安吾さんは祖父の死で名前を捨てたのだろうか?

 

『まだ貴方が増長し、漆黒の魔王(プリンスオブナイトメア)を広めていた頃……貴方は、入院していた夏目漱吾に呼び出された。そりゃそうでしょう。あれだけ名を広めれば、病院にだって届くでしょうに』

「ぐっ……!」

『そこで夏目漱吾は漆黒の魔王(プリンスオブナイトメア)を片手に持ち、貴方に向かって問い詰めた。“何でこんな物を書いた”、“あの時の想いはどこに行った”、と』

 

 ロックキーパーが話しているのは恐らく、安吾さんが木片でロックキーパーを殴った時に聞こえたあのトラウマのことだろう。

 自分が書いた魂のこもっていない小説を片手に、憧れの象徴のような祖父に問い詰められる……想像するだけでも最悪なシチュエーションで、安吾さんはなんと返したのか。

 

『しかし、貴方は増長していた。憧れの人間に問い詰められ、混乱していたというのもあるかもしれない。それで、こう言い放ったんですよねぇ……? “お前がいるからこうなった。俺の努力も、何も認められなかった。その名で俺の邪魔をしないでくれ。俺の栄光を否定するなら、お前なんか消えてしまえ”、と。感情のままにまくし立てた。そうして貴方の憧れは、見るも無惨な憎悪へと変わった』

「ゔっ、あっ……」

 

 安吾さんの表情が目に見えて激変し、瞳孔が揺れ体自体が震え出す。

 きっと安吾さんも、お爺さんにそんな事を言いたくて言った訳じゃないはずだ。

 しかし、言ってしまった事は取り返しがつかない……それでも、後で謝ることが出来れば、本音を伝えれば問題は解決しただろう。

 だが、きっと恐らく……安吾さんは、その機会を失ってしまった。

 

『その出来事から数日後……ちょうど謝罪会見を終え、祖父に謝罪する事を決めた貴方に一本の電話が届いた。それは、夏目漱吾が老衰で死んだという連絡だった。悲しいことに誰も看取る人間は居らず、末期には“安吾……安吾……”とボソボソ繰り返していたと伝えられた。いやぁ、貴方が夏目の名を汚したこと、さぞかし憎かったんでしょうねぇ?』

「ちっ、違っ……! 俺は、そんなつもりじゃ……!!」

『それから、貴方は“夏目”という名に呪われた。……何も知らないミーハー共が、夏目安吾へと無関心の期待を求める度に、“夏目”というたった二文字が重く深い楔となっていく。執筆を始めるために作者名を書こうとしても、“夏目”というたった二文字で腕が震えてまともに字も書けなくなってしまう。だから夏目センセイは、身勝手にもその名を捨てた』

「黙れぇっ!! それ以上、喋るなぁっ!!」

 

 安吾さんが必死の形相で叫ぶが、それでもロックキーパーの男は止まらない。

 何処までも気持ち悪い笑みを浮かべながら、悪意の籠った言葉を吐き出し続ける。

 

『いやぁ! さぞかし無念だったでしょうねえ! 偉大な祖父から数多の恩恵を受けながら、夏目の名を捨てた恩知らずが孫だとは! 夏目漱吾も草葉の陰で嘆いていることでしょう!!』

「黙れ!! 貴様が……! 貴様が祖父を語るなぁ!!」

『偉大なる祖父が残した名を捨ててなお! 貴方は“夏目”というたった二文字を振り切ることは出来なかった! どれだけの努力と苦悩を重ねてなお! 貴方は“夏目安吾”という一人の人間になることは出来なかった!! いやあ滑稽! 実に無様!! 私の孫がもしこんなだったら涙ちょちょ切れますよ!!』

「づぁっ……ゔる、ざい……! もう、黙……!」

『黙るかよばぁーか! お前の言葉が! 夏目漱吾を死に追い詰めた! 生きる気力を奪ったんだよ! そんなお前が夏目漱吾の孫だなんて! “夏目安吾”を名乗るなんて口が裂けても出来ねぇよなぁ!? 大事なだーいじなじいちゃんが残した名を、お前がその手で汚したんだからなぁ!!』

「ぁ……ぐ……!!」

 

 安吾さんは今にも咽び泣きそうな顔で、歯を食いしばって必死に慟哭を抑えている。

 そんな安吾さんを見て、ロックキーパーの男はまるで愉悦するようにゲラゲラと笑っていた。

 安吾さんの苦しみを楽しむように、どこまでも笑い続ける男に。

 

「ああ、もう限界だ」

『あ? ……んぎぴっ!?

 

 僕は全身が透明になるイメージをすると……体が鎖を()()()()、そのままの勢いでロックキーパーの男をグーでぶん殴った。

 いつもの空間を跳躍する感覚を応用したぶっつけ本番の思いつきだったが、どうやら上手くいったみたいだ。

 

『きっ、貴様ぁっ!! 良くも俺の顔を……!!』

「安吾さん。聞こえてますか?」

「……?」

 

 僕がロックキーパーの男をガン無視して声を上げると、顔をぐしゃぐしゃにした安吾さんがかろうじて視線を向けてくれる。

 当たり前の事だが僕は、安吾さんの全てを知っている訳じゃない。

 安吾さんとはこの仙台ジェイルで出会ったばかりだし、ましてや安吾さんのお爺さんの事となればさっぱり僕には分からない。

 

「僕は夏目漱吾さんの事はよく分かりません。だからこそ、あえて安吾さんに聞きます」

「……」

「作家としての“夏目漱吾”じゃない。あなたのお爺さんは、安吾さんを愛していましたか?」

「……ああ。じいちゃんは文字も読めないほど幼い俺に、本を読んで文字を教えてくれた。じいちゃんは、人並み以上に俺を愛してくれた」

「なら、もし安吾さんが名前を捨てたと伝えたら、お爺さんはどう思うと思いますか?」

「……きっと、悲しむ。夏目安吾は、じいちゃんから貰った名前だから」

「それなら、もう答えは出てるんじゃないですか?」

「……? 何を……」

「あなたのお爺さんは、夏目漱吾は。“夏目”の名を汚したとあなたを怒るような人間ですか?」

「そんな事っ!! ……あ」

 

 安吾さんが何かに気づいたように、目を大きく見開いた。

 自分を追い詰め続ければ、心が鈍って思い出さえも歪んでしまう。

 そんな風に自分を苦しめ、形を歪めてしまった想い……それを思い出すことが出来たんだろう。

 

「それなら、信じていいんじゃないですか? 安吾さんの中にいる、お爺さんの優しさを」

「……!!」

 

 安吾さんへと微笑みを送りながら、僕はロックキーパーの男に向き直る。

 我慢出来ずについぶん殴ってしまったが、やっぱり男は怒り心頭といった様子で僕のことを睨みつけていた。

 

『どこまでも、どこまでもコケにしやがってぇ……! この世界の王となる俺に、不敬極まりないぞぉ!!』

「……これ、どうしようかな」

 

 男があっという間に四本腕にナイフを持った黒い巨人へと姿を変え、九体のドマクガンタラ? も一斉に僕へと視線を向ける。

 流石にこの数はキツイどころの話じゃない……が、それでも何とかするしか道は無い。

 

『くそっ! クソクソクソぉっ! トラウマを深めるために連れてきたというのに……! この世界を確立する為にも、いっそ貴様を殺して夏目安吾のトラウマを深めてやる!!』

「……戦う前に一つ聞くよ。この世界を確立するって、どういう事?」

『ああ!? そんなの、この仙台ジェイルが現実に侵食する事に決まってんだろ!!』

「!」

 

 時間稼ぎの質問だったつもりが、返ってきた内容に衝撃を受ける。

 この世界が、現実に侵食する? もしそんな事が起こったら……僕の家族にも、危険が及ぶかもしれない?

 ……そんなの、許せるか?

 

『現実を侵食するまでは夏目安吾も生かしてやるよ! だが、侵食が終われば夏目安吾を殺して俺が王になる! そうしてゆくゆくは、現実の全てを俺が支配してやるのさ!!』

「……」

『お? 俺の壮大なる計画を知り、恐怖のあまり恐れおののいたか? ……ああ、そうだ! 俺が王になった暁には、てめぇの家族諸共皆殺しにしてやる!! お前が刃向かった相手の偉大さを知り、泣き叫びながら後悔するんだな!! ぎゃはははははは!!』

「ふざけるな」

『あ?』

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」

 

 お前が、僕の家族を、殺す? 舐めた口きくのもいい加減にしろよ。

 僕の家族は、こんなクソみてぇな僕を受け入れてくれた、大切な大切な家族なんだ。

 絶対に失わない、失いたくない、失ってたまるもんか。

 ……あれ、“失う”? 失うって、誰が、何を?

 僕は失った? 本当の両親を、本当の家族を。

 失った、理由は? ……何で、だっけ? 思い出せな……

 

『嘘つき』

「ゔっ」

 

 途端に、頭がひび割れそうなほどの強烈な頭痛が襲いかかる。

 思い出せない『思い出せ』思い出せない『思い出せ!』思い出せない『思い出せ!!』

 

「やだ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!」

『ああ、これ以上は無理かぁ。まあ多少は思い出したし、オマケのオマケでサービスしてあげるよ』

 

 顔にかけたピエロマスクが、まるで意志を持つかのように強く皮膚に癒着していく。

 それと同時に僕の体からどす黒い緑色の風が吹き上がると、体に纏った白いローブを捲りあげ、下に着ている黒いインナースーツが露出する。

 そして、僕の胸辺りから、真っ赤に輝く宝石が目の前へと飛び出してくる。

 

『ネガイは一個、制限時間は少ないよ。ま、こいつらを蹴散らすには十分だけどね』

 

 何かに突き動かされるように引き金を引き、飛び出してきた赤い宝石を銃弾で撃ち抜くと、それを皮切りに僕の衣装に変化が起こる。

 白いローブが真っ二つに裂け、まるで翼のように二股のマントへと変化する。

 吹き上がる風が凝縮して形を成し、暗い緑の鎖となり黒いインナースーツへ巻きついていく。

 粉々に壊れた宝石の欠片が集まり、真っ赤な王冠へと姿を変え……僕は、それを手に取った。

 

『たーだーし、過剰な力は暴走を生み出す。ましてや、君の王冠はまだ一個しかない。力を使うのは自由だけど……』

 

 手に取った王冠が浮かび上がり、僕の頭へと鎮座する。

 瞬間、想像を絶するような力が僕の全てを支配し……意識が乗っ取られるように、モヤの中に包まれた。

 

『自分を見失っても、知らないよ?』

「……あはっ」

 

 軽く、本当に軽く動いてみる。

 するりと空気を斬るような感覚と共に、僕が一瞬で動き一瞬で元の場所に戻ると、一泊遅れて二体のシャドウの首がずるっとすべって床に落ちた。

 

『は? ……は!?』

「あはっ、あははっ! あははははははっ!」

 

 首がコロコロ転がるざまに、僕もついつい笑ってしまう。

 何でか笑いが止まらないけど、お酒に酔うってこんな感じかな?

 

『おっ、おい! 何をやってる! 殺せ! 殺せぇ!!』

「殺す? 殺すか、殺すんだぁ! じゃあ……僕も、いっぱい殺していいよね?」

 

 凄い、オモチャが動いてる!

 どれから壊すか、凄く楽しみ!

 

「さあ! 僕と、遊ぼうよ!」

 

 楽しい楽しい、遊びの時間。

 絶対、誰にも邪魔させない。

 

 

 

 

 

 

 この異世界で出会った少女の変貌に、椅子に縛られた俺はただただ目を疑った。

 目の前で起こっておるのは一方的な虐殺、王冠をかぶり黒いタイツ姿になった少女が引き起こす惨劇だ。

 

『仙台ジェイルの王権、私が頂くとしまっ』

『ドマクガンテロは復活の呪文をとなぁっ』

『私は変質者ではなく、スーパー編集者だっ』

 

 少女の笑い声が聞こえる度に、腕と足が空に舞い散る。

 四肢を失ったシャドウの首を切断し、ころころと笑いながら次の標的へとターゲットを移す。

 そこには今まで見た少女の姿はどこにも無く……本能のままに全てを蹂躪する、人の形をした怪物のような何かがいた。

 

『ひいぃっ! しっ、城中のシャドウを集めろ! スプークとエマ様も呼んでこひぎゃっ!!

「あはっ! あひはっ! あひゃはははっ!!」

 

 他シャドウに指示を出していた黒い巨人となった編集長も、縦横無尽に動く少女の手にかかり腕が一本宙を舞う。

 当の少女は気にもとめずに笑うが、どこか苦しげな吐息の混じった笑い声に耐えられなくなった俺は、何とか拘束を解こうと椅子の上でもがき出す。

 

「駄目だ……俺が、止めなければ……!」

 

 少女の身に何が起こっているのかは分からないが、正気を失っていることだけは確かだ。

 今の少女は確かに強い、強いが……同時に、制御出来ない感情に揺さぶられているような危うさを感じる。

 欲望に飲み込まれた俺だから分かる……そういった感情に身を寄せた結果、待っているのは破滅だけだ。

 誰かが止めなければならない、そして止めれるのは俺しかいない。

 だったら、俺が止めなければ……! 彼女は、本当に取り返しのつかない場所に行ってしまうかもしれない。

 

「ひょっとして、じいちゃんもこんな気分だったのかな……? あの時欲望に溺れる俺を、止めようとしてくれたのか……?」

 

 今でも忘れられない、一年前のどうしようもない後悔。

 ずっと、ずっと後悔してきた。

 夏目漱吾が……じいちゃんが死んでしまってから、ずっと心に重りが乗っているようだった。

 

「俺は、夏目安吾という人間になりたかった……だから、じいちゃんを突き放してしまった……」

 

 苦しくて苦しくて吐いてしまった、じいちゃんが邪魔だと言う言葉。

 悔やんで悔やんで悔やみきって、ようやく気づいた本当の気持ち。

 俺は、夏目漱吾の孫であることが嫌な訳じゃない……夏目漱吾の孫としか見られないことが嫌だった。

 しかし、あの時はそんな自分の気持ちを、まったく理解出来ていなかった。

 苦しみのあまり混濁してしまった気持ち、それを少女に気付かされ、今になってようやく自覚する。

 

「本当に情けないな……つくづく、自分が嫌になる」

 

 どれだけのものを貰っただろうか、どれだけの恩を仇で返してしまっただろうか。

 心に蔓延る後悔が、いつの間にか祖父への認知を歪めていた。

 偉大なる祖父を勝手に重荷にして、勝手に背負い込み過ぎた自分の傲慢さに怒りが湧く。

 

ようやく気づいたか、長ぇもんだ。

 

「うっ……!?」

 

 湧き上がる怒りに呼応するように、かつて経験した事がないほどの頭痛が襲いかかる。

 あまりの衝撃にバランスを崩した俺は、椅子ごと倒れ伏して地面の上を悶絶する。

 

個を捨て利を捨て名を捨てて、なおのしかかる血の重み。

その重みに潰されるのが、てめぇが望む生き方か?

 

「違う……! 俺もじいちゃんも、そんな事は望んじゃいない……!」

 

 俺が夏目漱吾の孫であること、それはもはや変えようのない事実だ。

 だから背負った、背負いすぎた。

 “夏目安吾”という人間でありたい俺こそが、最も“夏目漱吾の孫”であるという事実に囚われていた。

 

「俺はもう、夏目漱吾に囚われない! 己が夏目漱吾の孫であるという事実を受け入れど、余計な重荷には絶対にしない!!」

 

張り付くメッキの虚像の重み、それに気づけば上出来だ。

我は汝、汝は我。

契約は結んだ。後はてめぇが示すんだな。

 

 顔に何かが現れる感覚と共に、全身に満ちた力で縄を椅子ごと破壊する。

 そうして、皮膚に張り付いた仮面の角を掴み……それを折るほどの勢いで、血を散らしながら竜の仮面を引き剥がす!

 

今こそメッキを引き剥がす時だ! 覚悟を記し、心に刻め!

己を定める一本芯を! 今! 目の前の敵に焼き付けてやれ!!

 

「分かっている……もう、偽りの栄光に囚われることはない……!」

 

 今やる事はただ一つ、目の前の少女を止めること。

 余計なことに気を囚われずに、一本の道を突き進むことだ。

 

「俺が道を突き進む為に! どうか、力を貸してくれ! ギルトン!!」

 

 巨大な槍を片手に構え、俺は目の前の景色を睨みつける。

 その先にいる少女……影山和希の元へ向かって、俺は一歩を歩み出した。




 可哀想は可愛い、これは男であろうと夏目安吾であろうと変わらない。いいね?

 重見アツムって言うのは適当に、
 夏目漱石の就職活動のライバル→重見周吉
 坂口安吾の友人である作家→長島(アツム)
 から取りました。

 そして目覚めたペルソナはギルトン、元ネタは朝鮮時代の小説“洪吉童伝”の主人公です。
 韓国や北朝鮮では、日本で言う桃太郎並に知られている義賊ですね。
 ペルソナ詳細は後日。つーかこの章六話で終わる気がしないんだが? 助けて(切実)。



 今までの主人公視点の文章にあった隠し文字の正体は、冒頭の幼女が話しかける声です。
 幼女はずっと主人公の中にいましたが、本格的に目覚めたのは渋谷の王冠を手に入れてからです。
 そして幼女の手助けで目覚めたのが下の力。

固有能力:軌跡なき遊撃→王が故の証
 軌跡なき遊撃による瞬間移動はジョーカーが放つ自動追尾銃撃のような副産物であり、実際の固有能力はこっち。
 発動時はオルギアモードのようにコマンドから選択しネガイを一個消費。
 発動すると全アクションの攻撃速度が上昇しマスターアーツの全効果が強化されるが、王冠の数が少ない内は力を制御出来ず暴走を引き起こす危険性がある他、仮面が癒着するためペルソナを使えないという欠点もある。

 消費されたネガイの持ち主がどうなったかは……まあ、その内書くでしょう(ろくな事にならないのは確定)。
 ちなみに怪盗服は白いローブから、黒い全身スーツ(音速のソニックみたいな服)になる。
 体の輪郭が分からないダボダボローブから、明らかに女性的な体つきだって分かるアンダースーツになるのいいよね……よくない……? いい……(自己完結)

マスターアーツその3
無化の衝動:回避行動をとると数秒無敵(敵の攻撃がすり抜けるよう)になる。また、ジャスト回避時に銃弾が回復する。

 今回はこれで十字架と鎖から抜け出しました。
 瞬間移動だったりすり抜けだったり、まるで幽霊みたいな能力の主人公ですね。



 少し前のことですが、自分の活動報告に主人公のオリジナルペルソナやアクションの詳細を書きました。
 見てみたい人は作者の名前をタッチして、活動報告を確認して下さい。
 ついでに評価・感想・お気に入り登録もお願いします(定期)。
 どうか今年もよろしくお願いします。
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