実際ガチで嬉しかった、完結まで頑張りたいですね。
今回の視点は
初のスプーク→ちょっとだけヴィクター→安定の主人公
の三本です。
それでは本編にどうぞ。
足掻けど異世界はやってくる。
僕が四歳ぐらいの頃、父と母は離婚した。
仕事に魂を捧げ滅多に家に帰らない父と、女として愛されたいが故に浮気相手をこしらえた母。
残念だが、こんな二人では離婚は必然と言えるだろう。
そんなふうに両親が離婚してから、案の定浮気相手に捨てられた母親に日常的に殴られ蹴られタバコを押し付けられる生活。
そんな虐待が一年続き、ある日母親は唐突に自殺した。
幼い僕にはよく分からなかったが、親戚の話だと精神がだいぶ狂っていたらしい。
あの日のリビングで目に入ってきた、首の伸びた母親の姿を僕は未だに忘れられていない。
「……不味い」
日常的に殴られていた僕は、いつの間にやら味覚を失っていた。
大好きだったハンバーグは、表面を焼いた粘土のような食感しか感じなくなった。
狂う前のお母さんがよく買ってくれた甘いジュースも、お父さんが気まぐれに買ってきたメーカーのケーキも、小学校の帰り道によく買った駄菓子も……何をどれだけ咀嚼しても、僕は味を感じなくなってしまった。
「ッ!! ……何で、辛いのは分かるの?」
そして、僕には辛さが残った。
辛さというのは痛みと刺激、味覚がない僕に唯一残されたもの。
元々辛いのは苦手だったけど、僕の舌はもうこれしか感じなかった。
噛み締めるたびに痛みを感じる、喉を通れば胃がヒリヒリする。
これが、これだけが、僕に許されたものだった。
「ゔっ、ゲホッゴホッ!! ゔぇえっ……」
父親に受け取りを拒否された僕を押し付け合う親類を見た日、幼い子供だった僕は吐きそうになりながら母の趣味で集めていた香辛料を何度も舐めた。
甘いものが好きだった僕は、生まれて初めて辛さという物を自分から求めた。
自分が誰にも求められない事実を、別の痛みで誤魔化す為に。
「ゲホッ!! ゴホッ!! ……もっと、もっと」
母親の自殺が知れ渡り小学校で孤立した日、初めて香辛料を直接飲み込んだ。
舐めるだけじゃ足りなくなっていた、僕は辛さに慣れ始めていた。
これに完全に慣れた時、僕は現実の痛みを誤魔化す手段すら失ってしまう……恐れて、怯えて、それでも僕は飲み込み続けた。
「……これじゃ、足りない。もっと、もっと辛くしなくちゃ」
辛さが与える強い痛みは、心の痛みを和らげた。
だから増やした、慣れるほどに辛くした。
辛くして、慣れる。
もっと辛くして、慣れる。
もっともっと辛くして、慣れる。
心の辛さを誤魔化す為に、僕は辛さを飲み込み続けた。
そんな日々でふと思い出す、遠い昔の小さな幸せ。
たった一度、離婚する直前……家族で食卓を囲んだ、幼い僕の唯一の思い出。
その味はもう、思い出せない。
「あーあ……全部、壊れればいいのに」
心の底から溢れた本音。
幼い僕の、幼稚なネガイ。
大人になろうと足掻く子供は、それも咀嚼し飲み込んだ。
……
「……珍しい。吐き気がない朝なんて久々だ」
小鳥のさえずる朝一番、嗚咽と吐き気がない事に驚きながら起き上がる。
布団の横に置いてあるビニール袋を使わずに済むことに少しばかりの戸惑いを覚えながらスマホを手に取ると、赤髪の少女が目を開き僕に向かって話し始める。
「おはようございます。体調はいかがでしょうか」
「そうだね……いつもは吐き気止まんないからさ。ここまで何も無いと、一周まわって不安になるよ」
「なるほど。やはり、食生活改善の成果が出ていますね。素晴らしい事です。今後も続けていきましょう」
「辛いの食べさせてくれないし、僕としては不満だけどね。どうせなら、とびっきり辛い健康カレーとか作ってよ。ま、君じゃ無理か。ははっ!」
「……」
「やめてよその顔。最近その顔すれば僕が何でも言う事聞くと思ってるでしょ。……正しくその通りだよ。謝るから許してよ」
赤髪の少女……エマのじとっとした視線に負けた僕は、しぶしぶレトルトご飯とヤカンを取り出しておかゆを作る準備を始める。
とはいえ、味のないおかゆなんて僕は食べたくないからこっそり七味唐辛子を一瓶開け……あ、ダメだ、ちゃんと視線感じるわ。
「どうやら上手く出来たようですね。……食べる前に、ちゃんとポケットの中身も見せてください」
「ちっ、無駄に勘のいい……」
どこで七味を混ぜこもうか考えてた僕だったが、ポケットに隠した七味すら看破されてはもはや僕に打つ手はない。
こんな風に、最近エマがうるさいせいで辛さを摂取する機会が減った。
辛さにも前より弱くなり、僕としちゃ不服な変化なんだけど……七味程度で済むことを考えれば、財布にも優しいしいいのかもしれない。
もっとも、エマはその七味すら許してくれない訳だけど。
「食事中にスマホはやめてください。行儀が悪いですよ」
「あのさぁ、君は僕のオカンかな? スマホを見るのはあくまで仕事。これぐらいは許してよ」
「まったく……では、食事にしましょうか」
「ハイハイ。イタダキマスイタダキマス」
エマに強要される前に食事の挨拶を済ませた後、机に並べた味も素っ気もないおかゆを口に運ぶ。
仙台ジェイルの時も思ったけど、やってる事が僕の本来の母親よりよっぽどオカンなんだよなぁ。
「うん、やっぱ味なしおかゆは不快だね」
「なるほど。後ほど、食感や香りのいい料理などを検索しておきます」
「いや、僕は辛ければなんでも……ま、いいや。朝食ついでに作戦会議といこう。あの子、影山和希が変身するのに
「ええ。沖縄ジェイルで管理されているネガイを改めて調査し直した結果、保管されているはずのネガイが一つ無くなっていることが確認出来ました。加えて、無くなったネガイの持ち主が先日廃人化したEMMA神聖教団構成員のものであることも確認。影山和希が仙台ジェイルにて自己強化に使ったネガイは、沖縄ジェイルから無くなっていたネガイで間違いありません」
「なるほどなるほど。んで、あの子がネガイを使っちゃったから、ネガイの持ち主……生贄事件に居合わせた影響で昏睡した構成員の一人が、廃人化して死んじゃった、と」
「その通りです。ネガイを失うのは生きる理由を失うのと同義。二年前に奥村邦和が迎えたような廃人化とはプロセスが異なりますが、最終的にはそれと近しい形での死を迎える事になります」
「……まあ、それは置いておくとして。問題は、僕のジェイルから何故、どうして、どうやってネガイが無くなったのか。そして、無くなったネガイをあの子が持ってた理由だね」
「それに関しては目下調査中です。何せ、なんの前触れもなくいつの間にかネガイが消えていたもので……申し訳ありませんが、原因の究明をしようにも手がかりすらないのが現状です」
「うーん。ま、これに関しては影山和希を捕まえるなりして直接聞くしかないね。エマの予想なら、今日中に札幌ジェイルに来るんでしょ?」
「あくまで予想です。ですが、渋谷ジェイルの解放から三日後に影山和希が仙台ジェイルに現れた事を考えれば、今日来る可能性はないとは言えません。怪盗団への対策も考えるべきですが、今は影山和希を優先する方が得策かと思われます」
「だよねぇ。あの子がジェイルに入っちゃうと、鳥かごがバグって一部機能が無効化される。彼女の存在だけならまだしも、それで怪盗団がジェイルに侵入してくるのは大きな痛手だ。……ほんと、面倒な相手だよ」
ジェイルの王となった頃の僕なら、まさか怪盗団より面倒な障害が出てくるなんて思わなかっただろう。
影山和希、生贄事件で死んだ存在しないはずの人間。
僕を心身ともに苦しめる厄介な人間であり、彼女がいるだけで鳥かごは機能を失い侵入者を阻まず素通りにするクソかごになる。
それでも閉じ込める機能は無効化されないため、怪盗団の奴らは閉じ込められる事を警戒してジェイルに迂闊に入ってこない。
それ自体は僕にとってありがたいことなのだが……それでも、影山和希がジェイルに侵入しないに越したことはない。
だからこそ僕は彼女を消す、もしくはジェイルに入れないようにしたいのだが……肝心の彼女の侵入経路が、さっぱりもって分からない。
「エマ。一応聞くけど、影山和希の侵入経路は?」
「先程と似た答えになり申し訳ありませんが、影山和希の侵入経路も不明。また、影山和希の出現により鳥かごの機能が一部無効化される理由も完全に不明です」
「うーんこれは酷い。あの子由来のイレギュラーの理由も理屈も全部分からないってマジ?」
「申し訳ありません。影山和希の出現するジェイルを直接監視が可能ならば原因究明もしやすいのですが……監視の目を増やす分、京都ジェイルの監視を緩める必要があり、心の怪盗団に監視の隙を突かれ侵入される危険性があります」
「ああ、そりゃダメだ。いやー、王にトラウマが無いってのも困ったもんだね」
「ええ。前にも説明しましたが、京都ジェイルには鳥かごどころか、トラウマルームやロックキーパーも存在しません。私の監視の緩みは、そのまま京都ジェイルの隙……怪盗団による京都ジェイル侵入の危険に直結します」
ジェイルの鍵となり怪盗団の侵入を防止している鳥かご。
それはかつて、ジェイルの王城てっぺんにあった鳥かごが過剰なトラウマにより肥大化し、ジェイル全土を囲うほどに巨大化したものだ。
更にエマに少しだけ残されていたジェイル管理者の権限を利用し、今のジェイルはトラウマルームとの融合を果たしている。
鳥かごを解除するにはロックキーパーを倒すしかないが、肝心のロックキーパーがトラウマルーム……つまりはジェイルの中にいるという、誰も入れる気のない矛盾したルール。
まるで独裁国家のような独善的な世界のあり方、それにより僕らにとって都合のいい難攻不落のジェイルが成立している。
……だが、鳥かごもトラウマルームもない京都ジェイルにはそのルールが適用されない。
鳥かごにより侵入者を自動的にブロックしてくれる他のジェイルと違って、京都ジェイルだけはエマが直接監視して怪盗団の侵入をブロックしなければならない。
……もっとも、他ジェイルの鳥かごによるブロックも影山和希が現れると全部台無しになる訳だけど。
「エマ。ジェイルが復活したての時、君がジェイルとトラウマルームを融合したみたいに、君の管理者権限で京都ジェイルを弄る事は出来ないの?」
「結論から言うと、可能ですが危険です。トラウマルームとの融合はあくまで、ジェイルが復活したばかりの極めて不安定な時期だからこそ出来た荒行。今のジェイルは良くも悪くも安定状態にあり、あの時のように弄ろうとすればどんな異常が起こるか予測出来ません」
「なるほどね。つまりは固形のカレールーか」
「? ……?」
僕の解釈で例えるなら、今のジェイルは固形のカレールー。
最初の頃は固まる前の不安定ドロドロ状態でトラウマルームという混ぜ物が出来たけど、今は固形に固まっちゃったから混ぜ物も何も出来ない状態。
こんな状態で無理やり混ぜ物をしようとするなら、またドロドロの状態にせざるを得ない……つまり、今の安定状態をぶち壊しかねないって事になる。
「よく分かったよ、やめとこう。僕的には不安定なジェイルも面白そうだけどね。京都ジェイルについては、引き続き監視をお願いするよ」
「……まあ、理解頂けたなら幸いです。しかしながら、意味の無いジェイルを防衛せざるを得ない状況は、歯がゆいものがありますね」
「そうなんだよねー。そもそも京都ジェイルってネガイもトラウマも存在しないし、現実の侵食の足がかりにもなりやしない。正直、切り捨てれるなら切り捨てたいね。管理めんどいし」
「しかし、貴方は京都ジェイルの王に顔を見られました。王を現実に帰さない為にも、京都ジェイルは切り捨てられません」
「スゥー……うん! ごめんて!!」
「ハァ……」
ここまでボロクソに言った京都ジェイルを切り捨てれない理由は至極単純、そこの主である長谷川茜に顔を見られたからだ。
僕がレザーマスクの上からガスマスクを着けるようになった理由もこれが原因で……レザーマスクあるし正体バレないだろってタカをくくってたら、ペルソナ召喚して仮面がなくなった素顔を茜ちゃんに見られちゃった。
それからはレザーマスクが消えてもいいように上からガスマスクをかぶっているが、暑いし息苦しいし正直たまったもんじゃない。
そんでもって、顔を見られた相手が一般人のシャドウならば大した問題もなかったのだが……見られた相手が王となると、一気に話が変わってしまう。
「今の王たちが現実に戻ると、ジェイルでの記憶を持ち越しちゃうってマジ?」
「ええ。ジェイルに囚われるのは本来、ネガイを奪われた人間のシャドウであり、現実の人間そのものの精神が囚われる事はありません。シャドウの記憶は現実の人間に影響を与えない、つまりはジェイルが解放されシャドウが持ち主の元に戻ったところで、現実の人間にシャドウの記憶が持ち越される事はありません。しかし、ジェイルの王たちとなると話が変わります。彼らは既に一年前の怪盗団による改心を受け、シャドウが精神に還っているのです。つまり、今ジェイルに囚われている王たちはシャドウなどではなく、現実の精神そのものという事であり……」
「難しい話は置いとこうか。……結論、京都ジェイルを切り捨てると?」
「ジェイルでの記憶を持ち越した長谷川茜が現実で目覚め、怪盗団の一員である長谷川善吉に貴方の正体が明かされる危険性があります」
「デスヨネー……どうするかなぁコレ」
僕が仙台ジェイルにて
あー、マジで余計なこと喋んなきゃ良かった……僕、ペルソナ出すと何かテンションおかしくなるんだよなぁ。
キチゲ解放するのは悪い気分じゃないんだけど、何とか制御するよう努力しないと。
そんなこんなで僕自身の問題は置いとくとして……エマの監視を外せない以上、影山和希の出現には現地のシャドウか僕自身で対応するしかない。
……僕、仕事簡単に抜け出せないんだけどなぁ。
外回りとか言っとけば何とかなるかな?
「とりあえず、アイテム見つけたら回収しといてね。僕、そこまで強くないっぽいから」
「そんな事はないと思いますが……ひとまず、物理耐性系統の装備品を見つけるようにシャドウに命令しておきます」
「お、マジ? あったら助かるね。期待しとくよ」
現状、僕一人のペルソナ能力で怪盗団に対抗するなど絶対的に不可能だ。
仙台ジェイルにて
あの時電話で行った“キーワードの強制入力”なんかはまず間違いなく通用しなくなるし、彼らに“影山和希がジェイルの鳥かごの侵入妨害を無効化する”という情報も与えてしまった。
これから先はジェイルに侵入した怪盗団の妨害、及び複数のペルソナ使いとの戦闘も視野に入れなければならない。
「身から出た錆だけど、面倒になるね。ただ、狐面との戦いで僕の強さがどのくらいか知れたのは収穫だ」
僕はつい最近ペルソナに目覚めたばかりで、狐面と戦うまでは自分のジェイルでシャドウ相手に力を試すぐらいしか出来ておらず、自分の強さがどの程度かを把握する為の手段がなかった。
しかし、今回の件で僕一人の力では怪盗団と渡り合うことは出来ないという事実を把握出来た。
戦闘経験の差でも手札の差でも、正面からの戦いでは僕にほとんど勝ち目はない。
でも、僕は勝ちたい、勝たなきゃいけない。
だからこそ、使える手段はなんでも使うべきだ。
アイテムだろうが装備だろうが、最後に勝てればなんでもいい。
だから僕は考える……僕は、どうやって奴らに勝つか? どうすれば、弱い僕が怪盗団に勝てるのか。
「……勝てる? あーそうか。僕、勝ちたいのか」
「? どうしたのです? 急に薄ら笑いを浮かべて」
「君、言い方酷くない? いやさ、この僕が勝ちたいんだよ。ちょっと前まで死にたくて死にたくて仕方なかったはずの僕が、勝ちたいって思ってるんだよ」
ああ、本当に久々に生きてるって感じがする。
ペルソナに覚醒するあの日まで、僕は死にたくて死にたくて仕方がなかった。
なんなら、今だって死にたいという感情は消えてはいない。
今までの人生で培ってきた良識は、まるで呪いのように僕に死ねと囁いている。
でも、僕はあの日に吐き出してしまった。
無垢な痛みを、幼稚なネガイを……全部壊したいという、極めて身勝手でどうしようもない欲望を。
幼い頃から積もりに積もり、ついに吐き出した憎悪は反逆の意思として花開いた。
ずっとずっと、死にたかった。
壊れたままに死にたがる心を、取り繕って生きてきた。
そんな僕に唯一残された、幼子の僕が抱いた本音。
早く死にたい、でも壊したい。
天秤のように均衡を保つ、どうしようもなく矛盾した本音。
でも、僕は本音を吐き出す手段を得た。
我慢なんてもうしたくない、邪魔する奴らは許さない。
「エマ。僕は怪盗団に勝つよ。勝って奴らを、一人残らず殺し尽くす。理由なんて必要ない、理屈なんて考えたくもない。あいつらの正義ヅラが、偽善が、己の生き様を貫く姿が。どうしようもなく気に食わない。……次は負けない。誰が相手でも、絶対殺す」
「……」
「不服そうだね。でも、こればっかりは譲らないよ。僕は絶対に奴らを殺す。……さ、作戦会議は終わりにしよう! 君はまず僕のために、料理の仕方を覚えといてね!」
それでもなお不服そうな少女の表情に、僕は
確かに現実に存在する彼女の肉体、それはジェイルでの彼女とは似て非なる姿をしている。
赤い短髪に精巧で中性的な顔立ち、その下にある機械仕掛けの四肢と鉄で出来た無機質な肉体。
これを得たのは、沖縄のとある離島。
厳重に保管されていた“REPLICA”と刻まれた人型の機械は、エマが乗り移ることにより現実で動く機械人形へと変貌を遂げた。
これを手に入れたのはまったくの偶然だったのだが、エマが現実でも動けるようになったのは素晴らしい利点だ。
……何せ、仕事中に家の掃除や洗濯をやってくれるんだからね! ほんとに最高だよ!!
料理に関しては、まあうん……一回やらせて原型も留めぬ黒焦げの物体が出来上がったため、今は練習に集中してもらおう。
「じゃ、そろそろ仕事に戻るよ。作戦会議もあらかた終わったし、流石にこれ以上問題は……」
「……少々お待ちください。札幌ジェイルに異変を検知しました。今からエラーの確認を……っ!? 有り得ない、そんな事が……!!」
「えぇ、まだ問題起こるのぉ……?」
ひょっとして影山和希が札幌ジェイルに出現したのだろうかと考えるが、その程度のことでエマが動揺するか?
こんな風に僕でも予測出来るようなことで、この無機物少女が動揺するとは思えない。
となれば現在起こっているのは、エマでも予測出来ない程の異常事態。
……いったい、何があった?
「エマ。端的に答えてね。札幌ジェイルで何があった?」
「……はい。結論から申し上げますと、札幌ジェイルの王、
「は? ……はぁ!? んだそれ! ありえねぇだろ!!」
嘘だろ? 自力で、トラウマを克服? 更にはペルソナに覚醒? 挙句の果てに、ロックキーパーを追い詰めている?
それは不味い、かなり不味い……! ロックキーパーが倒され鳥かごがなくなれば、閉じ込められる心配のなくなった怪盗団はなんの躊躇いもなく札幌ジェイルに侵入してくるだろう。
札幌ジェイルには都市の大きさ相応に、大量のネガイとそれを奪われたシャドウが収監されている。
これを解放されて札幌の昏睡者が目覚めれば、渋谷や仙台ジェイルで解放され目覚めた人間も合わせ、全国昏睡者の約半数以上が目覚めることになる。
もしもそんな事をされれば、
昏睡事件が収束に向かい世間の関心が小さくなればなるほど、僕の目的も何もかもが台無しになってしまうと言うのに。
「クソ……!! どうしようもないクズの分際で、舐めたマネしてくれやがって……!!」
「もはや選択の猶予はありません。大至急京都ジェイルを切り捨て、私が札幌ジェイルの監視に着くべきです」
「切り捨て……それってさ、前に話してたやつ?」
「ええ。もはやそれしか方法はありません」
無機質な表情で思考する少女に、僕はじろりと視線を向ける。
先程までごちゃごちゃ色んなことを話していたが、京都ジェイルの問題を解決する方法が一つある。
京都ジェイルを放棄しつつ、僕の正体も漏らさない、極めて簡単で唯一の手段。
「長谷川茜をジェイル内にて殺害し、京都ジェイルを消滅させます」
「それはダメだ。前も言ったよね? その手段は認めない」
京都ジェイルの問題を解決する極めて簡単で唯一の手段、それは長谷川茜を殺すことだ。
死人に口なしとはよく言ったもので、彼女を殺せば僕の正体がバレる恐れも京都ジェイルにエマの監視を割く必要もなくなり、今よりずっと自由に動けるようになるだろう。
だが、その手段を僕は許さなかった。
「それをやるぐらいなら、僕は札幌ジェイルを切り捨てる。長谷川茜を殺すのは、僕が絶対に許さない」
「……これ以外に、方法がなくともですか?」
「ダメだね。殺す相手は僕が決める。その殺しは許さない」
「しかし……! 札幌ジェイルは、易々と失える場所では……」
「それは……別の方法を、今考える」
エマの極めて当然の言葉に、僕は何とか別の手段を模索する。
手っ取り早いのはロックキーパーの強化、となれば札幌ジェイルの王に再びトラウマを植え付けるか? ……いや、一度トラウマを乗り越えた人間に対して、それはあまりに無謀な方法だ。
なら、大量のシャドウを用意し防衛線を強化する? それもダメだ、有象無象のシャドウ程度で、あの怪盗団からジェイルを防衛するなど不可能に近い。
何が、何が必要だ? 鳥かご、王、ネガイとシャドウ、ジェイルを守るために必要な要素は……あ。
「……ねえエマ。君の管理者権限で、“ジェイルの王をすり替える”事は出来ないの?」
「王を、すり替える?」
「そう。強いトラウマ持つシャドウを新たな王に据え、札幌ジェイルの鳥かごやロックキーパーを新たな王のトラウマを元に作り直す。試す価値はあると思わない?」
「それは……それほどまでに、都合のいいシャドウがいるでしょうか?」
「ははっ! 君、忘れたのかい? 僕らのジェイルにいるじゃないか。絶対的なトラウマを持った、ジェイルの王にピッタリのシャドウが」
僕が王となった沖縄ジェイル、そこには主に二種類の人間が収監されている。
僕が数日前に昏睡させた警察官の連中と、生贄殺人事件の現場に居合わせたEMMA神聖教団の人間。
しかし、それ以外の中に
おぞましいトラウマと歪んだ認知を持ち、なおかつ影山和希を相手にするにもピッタリの、新たなる王に相応しい完璧なシャドウが。
「お待ちください。氷堂鞠子がペルソナに目覚めて王の力を完全に手放した現状、確かに王をすり替える事は可能です。ですが王をすり替え鳥かごが復活したところで、影山和希が現れれば意味がありません。それに先程も説明した通り、無理にジェイルを弄れば安定を崩す危険性が……」
「いーや、問題ないね。この方法が思いつかなければ、どうせ僕は札幌ジェイルを切り捨てるつもりだった。ダメで元々の妥協案、ジェイルの安定なんか問題じゃないんだよ。それにね?
「……それは、その通りですが」
「決まりだね。じゃあ、今から始めよう。……“オペレーション・オブ・ジ・エンド”」
『キーワードが入力されました。ナビゲーションを開始します』
「……ハァ。どうなっても知りませんよ」
かつての“オペレーション・オラクル”から変更したキーワードを音声入力すると共に、視界が赤黒く歪んで飛ばされた先は、すっかりと僕色に姿を変えた沖縄ジェイルの牢獄塔。
そこに転移した僕はガスマスクを装着しながら歩みを進め、赤髪の長髪に変化したエマも追随して歩き出す。
牢獄塔に収監された無数のシャドウ、その全てが例外なく無気力な表情で棒立ちになっている中で……僕は一人のシャドウの前で歩みを止めた。
そうしてエマに目配せすると、どこからともなく現れたネガイが吸収されてシャドウが意志を取り戻す。
「さあ、王の首をすげ変えよう。怯えなくても大丈夫、君はここより広い場所で自由な王様になれるんだよ?」
意志を取り戻したそのシャドウは、まるで全てがどうでもいいとばかりに虚ろな目で佇んでいた。
身近な人間の歪んだ死が与えるのは、歪んだ認知とどうしようもないトラウマ。
ともなれば、この態度も仕方ない事だろう。
「会えるよ? 影山和希ちゃんにね」
『……!!』
だと言うのに、影山和希の名を出すだけでシャドウの瞳が大きく揺れた。
それにしても、この目……どうやらこのシャドウは、僕が思ってた以上に複雑な感情を持っているらしい。
「ははっ! 良いね、最高だよ」
僕の見立ては間違いじゃなかった。
これならきっと、間違いなくいける。
底知れぬトラウマと歪んだ認知を持つこのシャドウは、僕らにとって素晴らしい王になってくれるだろう。
☆
……あの忌々しき生贄事件に、一人の少女が居合わせた。
亡霊の魔の手は少女に及び、ジェイルの王はすげ替えられた。
次なる王の証を得るには、新たなる王を救わねばならない。
……よりにもよって、我が素晴らしきトリックスターの、真実に関わる人間を。
「おっけー。三日かけた甲斐があって、仙台ジェイルの王の証もしっかりこの子に馴染んだよ。で、どうするの? 記憶、今回はよかったけど。忘れさせるのはもう限界だよ。きっと次からは誤魔化せない」
ついに、この時が来てしまった。
記憶を失いしトリックスターと、記憶に関わる新たなる王。
我が素晴らしきトリックスターは、もはや真実から目を背ける事すら許されなくなってしまった。
「思ってたより早かったよね。心が壊れて、王の力が暴走しなきゃいいけど」
本当ならば真実を知るのは、全ての王冠を集めてからの予定だった。
当初に予定していたよりも、遥かに早い決断の時
得た王冠を飼い慣らせるのか、はたまた力に溺れて暴走するか。
その全てが、今回のジェイルに委ねられてしまった。
「でも、私たちは送るしかない。だよね? さあさあ、キーワードは変わってないよ。早く入力したらいいじゃん」
……それでも、ワタクシは信じるしかない。
我が素晴らしきトリックスターが、世にもおぞましき真実を乗り越える事を。
「キーワードは“スノウ・シティ”。願わくば、我が素晴らしきトリックスターが真実を乗り越える事を祈ります」
「ふふっ、乗り越えられるといいね。んじゃ、いってきまーす」
『キーワードが入力されました。ナビゲーションを開始します』
札幌ジェイルへと送られるトリックスターに追随するように少女の姿が消え、この青い部屋に私一人が残される。
もし仮に我が素晴らしきトリックスターが暴走する事があっても、少女が抑えに入れば最悪の事態は防げるはずだ。
……最も、真実を受け入れられなければ、我が素晴らしきトリックスターが真の王になる事もないのだが。
「その時は……オレも、腹を決めなきゃな」
もしもの事を考えながら、一人の部屋でコーヒーを入れる。
彼女と二人でいれるなら、現実と夢の狭間で逃亡生活も悪くない。
そんなくだらない物思いにふけながら、オレは目の前のコーヒーを啜った。
☆
「……寒い。こんなジェイルも、あるんだなぁ」
僕の名前は影山和希、三度目の知らない景色をぼうっと眺める、到底普通とは言えなくなった異世界を彷徨う高校一年生。
目の前の柵に身体を寄せて辺り一面の銀世界を呆然と眺めていた僕は、すぐ隣で僕と同じポーズで景色を見下ろす二頭身に話しかける。
「んで、やっぱりリカもいるんだよね」
「それはこっちのセリフだな。何でお前さんは毎回、オレサマのいる場所に現れるんだヨ」
仙台ジェイルから数えて二回目の再開、もはや僕はリカの存在に安心感すら覚えていた。
僕の意思すら通じぬままに強制的に移り変わるこの異世界の中で、リカだけが僕にとって変わらないものだからだ。
そう、リカはずっと変わらない……段々と異常になる、僕と違って。
「なあお前さん。仙台ジェイルでのこと、本当に覚えてねえのか?」
「うん。あの時のこと、ぼんやりした記憶しかなくって。……本当に、ごめん」
「いいんだヨ。あの時のお前さんは、多分お前さんじゃなかった。無駄に気負うなヨ。今後に影響が出るからな」
「……うん。ごめん」
「話聞いてた? 気負うなってばヨ」
「うん。……ごめん」
「ありゃー、こりゃ重症だな?」
ついさっきリカに教えられた話によると、仙台ジェイルの偽王との戦いで僕はおかしくなっていたらしい。
あの時のことで僕がかろうじて思い出せるのは、複数のドマクなんたらを斬り殺したことや、安吾さんに止められたことはなのだが……それ以外の記憶はとてもあやふやで覚えていない。
「……何で、覚えてないんだよ」
今の心境を正直に言うなら、僕は自分の事がどうしようもなく怖い。
この異世界に来た理由どころか、力に振り回された記憶すら失ってしまっている自分が、どうしようもなく恐ろしい。
何も思い出せない自分が、自分のことを信じられない自分が……僕は、怖くて怖くて仕方ない。
「ごめん、リカ。僕ね、何も思い出せないんだ。渋谷ジェイルに来たきっかけも、仙台ジェイルであったことも、このジェイルにどうやって来たかも。……僕、怖いよ。何も思い出せない自分が、怖くて怖くてたまらないんだ」
「ホーン。それ、オレサマに話してもいいのか? 渋谷ジェイルで初めてあった時、お前さんあんなにオレサマを警戒してたじゃねえか」
「それは……あの時の僕、変だったんだ。いつもはそんなじゃないのに、自分で何でも出来る気がして、そのくせ誰も信用出来なくて。それで……ごめん。あの時の僕、リカの事を疑ってた」
「いやそんなの当たり前だろ。異世界でこんなのに会うんだぞ? 不審だろ。信用する方がおかしいわ」
「ええ……? それリカが言う……?」
至極当然のように自分を不審扱いするリカに、僕はついつい苦笑いを浮かべてしまった。
あー……きっとこういうリカの姿が、僕の警戒心を盗んじゃったのかな。
渋谷ジェイルでの初対面で抱いたリカへの不信は、もうとっくの昔に僕の中から消えていたらしい。
「一応、もっかい言っとくぞ。仙台ジェイルでのお前さんは、どう見ても今のお前さんとは違う。間違いなく別人だった。少なくとも、今のお前さんが気負うようなことじゃねえ」
「そっかぁ。じゃあ、リカに聞きたいんだけどさ……リカは、そんな僕の事を信用出来るの? また、別人になるかもしれないのに」
不安から来る僕の言葉に、リカは考え込むように口を閉じる。
……やっぱり、こんな僕なんか信用出来ないんだろうか。
そんな不安を抱いたところで、リカがおもむろに声を上げた。
「前、話したよな。オレサマの目的は“全てのジェイルをぶっ潰す事”。……なんだけどヨ、それ以外にもやりたい事があるんだわ」
「リカの、やりたい事?」
「おう、オレサマのやりたい事。それは、奪われた身体を取り返すことだ」
「へ? 奪われた、身体を?」
奪われた身体ってどういう事だ? そもそもリカは、二頭身の謎マスコットシーサーじゃないか。
それってつまり、今目の前にいるリカは、本当の姿じゃないって事なのか?
「お前さんと渋谷ジェイルで会った時、オレサマはシャドウじゃないって言ったよな。実際、オレサマはシャドウじゃないんだが……この身体だけは違う。“シーサー”って奴の身体を借りた、正真正銘シャドウの肉体だ。この身体、結構便利でな。色んなジェイルを自由に渡り歩けるんだヨ。……一部のジェイルを除いてな」
なるほど、シャドウの身体を持つからこそ色んなジェイルを渡り歩けるのか。
怪盗団の人達がジェイルに入れないって言うのに、リカが僕の行く先々に居るのは前から不思議に思ってたけど、それが理由なら納得がいく。
でも、だからこそ気になるのはリカの本来の身体。
今の身体が借り物だって言うなら、本当の姿はどこにあるんだ?
「じゃあ、奪われたリカの身体はどこにあるの?」
「ああ。オレサマの身体は
「! 沖縄ジェイル。それに、亡霊……」
「ああ。そしてオレサマの入れないジェイルこそ、やつの本拠地である沖縄ジェイルだ。お前さんと出会う前、オレサマは本当の身体を取り戻す為に沖縄ジェイルへ侵入する方法を探し……渋谷ジェイルで捕まった。そんな時だヨ。お前さんと出会ったのは」
「そう、なんだ……」
「おう。正直あの牢獄からはいつでも出れたけどヨ、オレサマ一人が騒ぎを起こせば間違いなくシャドウが集結してまた捕まるからな。あの時お前さんが来たこと、これでもだいぶ感謝してんだぜ?」
「……いや、お礼を言うのは僕の方だよ。リカがいなくちゃ、連れ去られたアリスさんを助けれなかった。仙台ジェイルでもフォックスさんに怪盗団の人たちに、アリスさんを連れて来てくれたんでしょ?」
思えば、リカには様々な場面で助けられた。
アリスさんが連れ去られた時、リカが空を飛べなきゃ僕は何も出来なかった。
安吾さんが僕を止めた後も、リカが色んな人を連れてきてくれなきゃ亡霊や赤髪の少女にやられていたかもしれない。
「リカには感謝してもしきれない。本当に、僕と出会ってくれてありがとう」
「……あー! うっせうっせ! 小っ恥ずかしいのはやめだやめ! シャドウの身体なのにさぶいぼ出てきたわ! あーあー恥ずかし!! 塩まいとけ塩!! ぺっぺっ!」
「ちょっ、流石に酷くない!? 僕、本当に感謝してるんだけど!?」
あまりの態度に思わず抗議する僕だったが、リカはまるで聞く耳を持たず首を振りながらそこら辺にツバをぺっぺしていた。
照れ隠しなのは分かるけど、普通に汚いからやめて欲しいんだけど!? いくら何でも、誤魔化し方がお子様すぎるよ……
「流石に汚ぇな。やめとくか」
「うん、普通に汚いからやめてね」
「うん。ごめん」
「んぶっ、それはずるいって……!」
急にすっごい真顔で謝るリカに吹き出しそうになるのを堪えた僕が、改めてリカの方に向き直るとちゃんと故意の変顔してて耐えきれず吹いた。
その後の仁義なき追いかけっこは僕がリカの首根っこを掴んで終わったのだが……子猫のようにぶら下げられたリカが急に真面目な顔になると、こちらに視線を向け口を開いた。
「ま、話を戻すんだけどヨ。オレサマはな、渋谷ジェイルでのお前さんの言葉を信じてる。あの時、力に溺れないと約束したお前さんを信じてる訳だ。ま、要はこれも“信用”だな」
「っ……」
「くだらねぇ事にうじうじ悩むな。次にお前さんがおかしくなった時は、オレサマが本気で止めてやる。オレサマにここまで言わせるんだぜ? 少しは自分のことを信用してやるんだな」
「……うん。ありがと、リカ」
「おう。……分かったら、早くここから降ろしてね?」
「ダーメ。しばらくはこのままでいてね?」
「えぇ……これ割と痛いヨ……?」
「うるさい。ふざけた罰だから、僕の気が済むまで降りちゃダメだからね」
蚊の鳴くような声で訴えかけるところ悪いが、僕の顔の熱が取れるまでリカにはこのままで居てもらおう。
……あー、ダメだこれ、顔あっついの収まんないや。
かつて渋谷ジェイルで出会った時の警戒心は、やっぱり奪われちゃったらしい。
リカに信用されたことがこんなにも嬉しいなんて、あの時の僕には到底想像出来ないだろう。
「ふー、ようやく離してくれたな。……なあお前さん。今まではなあなあで協力して来たけどよ、改めてオレサマと契約しねえか?」
「契約? 何の?」
「さっきも言った通り、オレサマは本当の肉体を取り戻したい。その為には沖縄ジェイルに侵入する必要があるんだが……鳥かごを狂わすお前さんなら、沖縄ジェイルにも侵入出来るかもしれねぇ」
「沖縄ジェイル……それって、スプークと戦うって事?」
「いや。ジェイルへの侵入手段さえ何とかしてくれれば、お前さんにそれ以上は望まねえ。……頼む。身体を取り戻す手段を探してたオレサマにとって、お前さんは唯一の希望なんだヨ」
「そっか。じゃあ、僕から一つ条件追加ね」
「?」
「ピンチは僕に頼ること。いっぱい助けてくれたんだから、僕だってリカを助けたい。……あんまり、一人でむちゃしないでよ。リカがやられたら、僕泣いちゃうからね?」
正直に言うなら、
と言うか怖い、むちゃくちゃ怖い、だって仙台ジェイルで殺されかけたんだもん。
でもそれ以上に、僕はリカの助けになりたい。
異世界で何度も助けてくれたリカを、こんな僕を信用してくれるリカを、今度は僕が助けたい。
その為ならきっと、
「……へっ、ならオレサマも条件追加だ。お前さんはオレサマを助ける。そんでオレサマは、お前さんが現実に戻るためにお前さんを全力で助ける。いいよな?」
「っ! それっ、いいの? ほんとに、僕のこと助けてくれる?」
「当たり前だろ? 契約ってのはな、対等でこそ契約なんだヨ。お前さんがオレサマを助ける限り、オレサマはお前さんを助けてやるさ。ヒヒッ! オレサマの助け、嫌だとは言わせねえぞ?」
「……! 嫌だなんて、言うわけないじゃん……!」
「よっし! なら契約だ! オレサマたち二人の契約、破るんじゃねえぞ?」
「リカこそ。約束、破らないでね?」
「はっ! そんなのとうぜ」
『見つけたぞ! 侵入sy』
「は?」
「あ?」
『ひっ!? 理不尽!!』
あまりに空気を読まないヘリ型シャドウに僕が銃撃を撃ち込むと同時に、リカが両手の鉤爪を伸ばして振るいプロペラを絡め取ると、戦車へと変身し力任せに旋回してヘリのシャドウを近くの建物に叩きつける。
そこに追撃の砲弾と銃撃を心ゆく限り撃ち込んだ僕らは、それでは足りないとばかりにペルソナを召喚し思い思いの一撃を放った。
「欺け! ニジュウメンソウ!」
「嬲り潰せよ! ワルキューレ!」
『ぐっ、ぐぎゃぁぁあああ!!』
「ケッ! 空気ぐらい読みやがれクソシャドウが!」
「これ……僕のペルソナ、なんか前より強くない?」
リカがシャドウに向かってぺっぺとツバを飛ばす中、僕は自分のペルソナの変化に戸惑いを覚えていた。
前までニジュウメンソウが使っていた疾風も十分に強かったのだが、今の一撃は僕の想像よりも遥かに異常な威力だった。
まさか、仙台での暴走が僕のペルソナを強くしたのか? いや、強くなっただけならいいんだけど、その割にはなんか……
「……なんか、嫌な感じがする」
言葉に出来ない異物感、それを僕のペルソナから感じた。
まるで、僕なのに僕じゃないみたいな嫌な感覚……ニジュウメンソウからどことなく感じるこれは、果たして気のせいなんだろうか。
「大丈夫かヨ? なんか思い出したか?」
「いや。そうじゃないんだけど、なんと言うか違和感が……」
『この侵入者がぁー!! 派手に建物壊しやがって! 後で怒られるのは俺たちなんだぞー!!』
「あー……考える暇ないみたい」
「またこのパターンかヨ。考える暇すらくれやしねぇな」
派手にやり過ぎたことを後悔しながら、僕とリカはそれぞれの獲物を構えて応戦の構えを取る。
道路の向こうから走ってくる数体の警備員シャドウが黒い泥に変化すると、泥の中から湧き出るバカみたいな数のシャドウを見て、僕は思わずため息をついた。
「うわぁ……あれ、何体いるの?」
「分かんね。が、見る限り数だけが取り柄の雑魚どもだ。さっさと終わらすぞ……“クラウン”」
「クラウン? ……クラウン? 何それ?」
「お前さんのコードネーム、オレサマが考えた。オレサマの契約相手が、本名丸出しなんてカッコわりぃからな。……別に、怪盗団のアレを真似したとかじゃないからな。勘違いすんなヨ?」
「あー……ふふっ。いいよ、僕はクラウンね? それじゃあ、リカのコードネームは?」
「オレサマはリカのままでいい。……いや、気に入ったとかでもねえからな? 別にリカは名前じゃねえし、あくまでお前さんが呼びやすいようにってだけだからな? ……だけだからな!? 勘違いすんなヨ!!」
「そこまで言うなら素直に言えばいいのに」
「あーうっせうっせ! いいからさっさと終わらすぞ!」
プンスコ怒り出すリカが鉤爪を構えた為、僕も双剣を腰から抜いて臨戦態勢を取った。
そうして僕らがそれぞれの獲物を構え、シャドウの群れを見据えたところで……不意に僕は、まるで地響きのような音が迫っていることに気がついた。
「これ……足音? 何かが、近づいてる?」
『ブラフか? 我々がそんなものに引っかかるとでも……』
「おい! おいあれ見ろ! 壁が走ってるぞ!!」
『おい! 流石に嘘が下手すぎるだろ!! 壁が走るわけがなほぎゃあああっ!!』
『ひっ、ひぃいいい!! 来るな! 私に近寄るなぁぁぁ!!』
「っ、リカ! あれ壁じゃない! ロックキーパーだ!」
まるでボーリングのようにシャドウの群れを轢き飛ばしたそれの正体は、四つの盾を壁のように構えて走る四本腕の黒い巨人。
つまるところはロックキーパー、のはずなのだが……それは僕らにすら気づかずに、道路を走り何かから逃げようとしていた。
王を追い詰める為のロックキーパーが、いったい何から逃げているんだろうか?
「あら。貴方、また逃げるの? あれだけ私を怒らせて? まさか貴方……本気で逃げれるとでも思っているの?」
『ひっ! ぎやぁああっ!!』
僕の疑問に答えるかのようにロックキーパーを攻撃したのは、空を切り裂き飛んでくる四つの巨大なミサイル弾頭。
それが飛んできた方向に振り返ると、コツコツと音を響かせながら歩く、巨大なミサイルランチャーを肩に担いだ人間の姿がそこにあった。
「え、ええ……?」
「ミッ、ミサイルランチャー! 生まれて初めて見た! 個人携帯のミサイルランチャーだ!! カッケェ!!」
白い外套から覗く氷のような色合いの軍服に、茶色の髪をオールバックにしたパピヨンマスクの妙齢の女性。
その細身に到底似つかわしくないミサイルランチャー、それを使いこなす姿やあの衣装を見れば嫌でも分かる。
あの女性もまた、僕らと同じペルソナ使いだということに。
『ひっ、ひぃっ、ヒィィィィッ! 何で、何でこんなことに! クソッ、シャドウども! 私を守れ! グズグズするなぁっ!!』
「……何で、ですって? 私のトラウマを宣う割に、私の逆鱗すら理解できなかったようね。ああ、どうしようもなく虫唾が走る……その姿も、言動も、あの子を軽んじる貴方の言葉も。不思議よね。あんなに恐ろしかった貴方の言葉に、今や怒りしか感じないの」
距離が離れていてもなお感じる、その女性の怒りと激情。
一方で、怯えたロックキーパーが僕らと相対していたシャドウに自分を守る命令をくだし、シャドウたちはロックキーパーを守るよう陣取るが……軍服の女性はまるで関係ないとばかりに、己に顔に張り付くパピヨンマスクに手をかける。
「貴方に慈愛は与えない。―――来なさい! エカテリーナ!」
そうして女性がパピヨンマスクを外すと、その背に顕現するのは人型でさえない異型の存在。
人の顔が彫り込まれたような球状の物体に、それを囲む鋼のリングの左右から伸びた羽のような二対のウイングと、これまたリングの下に伸びる槍のような形状の何か。
僕がこれまで見た事のないような異色のペルソナ、それが一回転すると共に……無差別に、そして平等に、万物の能力を奪う弱体の光が女性の周囲にそそがれる。
『なっ、銃を持つ力が……!』
『おい! なんでぶつかるだけでヒビが入るんだ!?』
『ぐおっ! 身体が鈍い……』
銃を撃とうとしたシャドウから銃を保持する力を奪い、シャドウの構える盾に他のシャドウが持つ盾がぶつかり合うだけでヒビが入り、駆け出そうとしたシャドウから脚力が失われへたり込む。
それは、敵対し争う者の姿としてはあまりに一方的で異常な光景。
「リカ……あれ、いくら何でも強すぎない?」
「ああ、多分ありゃ覚醒したてのフィーバータイムだ。じゃなきゃ、ただの弱体でああはならねえヨ」
「亡くなったあの子を侮辱した事。永遠に後悔させてあげる」
そして、女性が腕を振るとエカテリーナと呼ばれたペルソナに異変が起こる。
リングから伸びた左右のウイングが可動すると、両翼が結合しまるで一振りの長剣のようにその姿を変化させる。
「さぁ―――
そして、氷を纏った刀身がシャドウのいる地面に向かって横一閃を放つと共に……斬られた空間が瞬時に凍てつき、まるで花が開くかのように氷の枝が何千何万と周囲を巻き込み包み込む。
道路に建物にシャドウにロックキーパー、刀身の振るわれた周辺一帯を飲み込んだ氷の花は、一瞬にして雪の街を氷河の世界へと生まれ変わらせた。
『かっ、あっ……!』
「あら、初めて見る顔ね。貴方は味方? それとも……敵?」
僕が介入する暇もないほど、あまりに圧倒的で一方的な結末。
そんな景色を作り出した女性の、氷のように冷たい視線。
それは、僕が言葉を失うほどに怒りと激情に満ちていた。
つっっっよ。
いったいどこの妙齢の何マリさんなんだ……
一応先に言っときますが、スプークの動機はこれじゃ終わりません。沖縄ジェイルを、待とう!!
そんでもってジェイルでのスプークのテンションがおかしいのは、何らかの上位存在の干渉が〜とかじゃなく仕様です。
ずっと抑えてた感情が爆発して覚醒したペルソナだからね、テンションおかしくなっちゃうのもしょうがないね。
一方ヴィクターのベルベットルームもどき。
王冠、つまり王の証を主人公が馴染ませるのには三日時間がかかります。
そんでもって、王の力を馴染ませる間は意識がありません。
ベルベットルームでの記憶は消す以前の話で、そもそも意識がないため、主人公はベルベットルームもどきの存在すら知りません。
唯一仙台ジェイルで連れ去られる際に来た時は意識がはっきりしてたため、幼女により記憶いじいじされちゃいました。
そんでもって、それとは別に死の記憶や他色々、ちょこちょこ記憶いじいじされて忘れてます。
記憶消去に段々耐性が着いてきたのもこのため。弄りすぎはよくないね。
そして札幌ジェイル、新たなるペルソナ使いの話。
妙齢の何マリなんださんの怪盗服は、中世ヨーロッパ風の軍服+白い外套です。
怪盗服すっごい悩んだ、とても悩んだ、だっておばちゃんなんだもん。
イメージとしては強く気高い政治家+妙齢の女性+春ちゃんがカッコ可愛い系の怪盗服って事で、マリさんには強い女性のイメージで氷のような軍服になってもらった。
おばちゃんが軍服で戦う姿はカッコイイって魔都精兵のスレイブで学びました。おばちゃん軍人はイイゾーコレ。
妙齢の何マリさんがペルソナに目覚めた話は後回し。
とりあえずはロックキーパーがトラウマを深めようとした結果、絶対踏んじゃいけない逆鱗を踏んだってことだけ覚えとけばいいです。
久々に小説書くけど楽しいね。
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