A:FE無双風花雪月が楽しすぎて、この一ヶ月小説更新を怠りました。
「サイッテー……!」
「クソ過ぎんだろ!」
「話にならんな」
「殴られたいの?」
「下の下ね」
「処刑だ!」
「エクストリィームウィンドッ!!」
重大な秘密が明らかになる回で何をやっているんだ……!
Wブースタコンセ輝矢8発喰らって反省してきます。
今回は影山和希視点→???→高巻杏視点です。
一ヶ月待たせて申し訳ありませんでした、どうか本編よろしくお願いします。
渋谷ジェイルに鎮座する王城に、不気味で醜悪な四本腕の怪物が顕現する。
別々の皮膚を縫い合わせたかのような縫い目とゾンビのような色合いの肌に、背中にはこれまた色の違う腕が二本縫い付けられた異形。
顔にはホラー映画で出てくるような血塗れたウサギの仮面が縫い合わされており、四足歩行で歩く姿はそれだけで恐怖を植え付けてくるようだ。
「何これ! 気味悪すぎでしょ!?」
「クソっ、あの野郎! ネガイを取り込ませやがった!」
「リカちゃん! あれ、強いの!?」
「やってみなきゃ分かんねえ! だが、さっきまでと同じとは思わない方がよさそうだぜ!」
『何をごちゃごちゃ言ってんだよ!! 来ないなら、こっちから殺してやる!!』
「させるか! ―――来い! ニジュウメンソウ!」
怪物が動き出すより先に、僕の背後に現れたペルソナが鋭い疾風を前方に放つ。
ロックキーパーの頃に戦った時を考えれば、恐らくこいつは僕の攻撃に弱いはずだ。
ペルソナの攻撃により怯んだところに追撃を喰らわせる、そのつもりで僕は疾風の後を追うように駆け出して……っ!
『効かねえんだよ! ぶぁーっか!!』
「なっ!? くっ!」
襲いかかる疾風を意にも介さず、こちらへと突進してくる怪物の攻撃を紙一重で躱す。
しかし、避けたと思った次の瞬間、怪物の背中に生えた腕がゴムのように伸びながらこちらのことを殴り飛ばしてくる。
「大丈夫か!! 来い! ワ……」
「ヤバっ! 全員、避けてっ!」
「リカちゃん! 危ないっ!!」
『遅せぇんだよ!! みーんな、私に支配されなぁ!!』
「げっ!? うぎゃっ!」
背中の腕で僕を殴りながら、怪物が顔を三人の方に向けると歪んだハートのようなエネルギーを撃ち出す。
アリスさんとパンサーさんは回避できたようだが……ペルソナを呼び出すことに集中していたリカは回避が遅れてしまい、ハートをもろに喰らってしまう。
「これ洗脳じゃん! アリス! その子を押さえて!」
「が、あたまが……! あ、しゅうぞおがみえうぎゅっ!?」
「リカちゃん、ごめん! じっとしてて!」
その場でいきなり暴れだそうとするリカに、アリスさんが自分の体とハンマーの重みを利用して取り押さえる。
しかしその間にも、怪物が周囲に極彩色の目のようなものを呼び出し、今にもそれを放とうとばかりに顔を向ける。
あれは恐らく、アリスさんのペルソナが使う技に近い性質を持っているはず。
アリスさんが喰らうならそこまでのダメージにはならないだろうが、今のリカに直撃したら十中八九無事では済まないはずだ。
「おれさまいらないこ? えまなんかきらい! からだかえして! しゅうぞうをかえせ!!」
「お願いだから落ち着いて! ねえ、リカちゃん!!」
『ぎゃはははははは! さあ、死……っ!』
「これ以上させるかっての! ―――おいで! カルメン!」
極彩色の目が発射されるその瞬間、怪物が何かを警戒するように瞬発的に防御体制をとる。
すると同時にパンサーさんの仮面が消え去り、背後にド派手なドレスを着た女性型のペルソナが出現し……怪物の足元に煮えたぎるマグマが吹き上がり、発射されようとしていた目ごと燃やし尽くし怪物の全身を包み込む。
『ぐうっ……! こんなんで、私を倒せると思うなよぉっ!!』
「しつこいんだっての! まだしばかれ足りないの!?」
『足んねえよ!! お前らを殺すまでなぁ!!』
傍目から見てもとんでもない威力の炎を喰らって、それでもなお怪物は平気な様子でパンサーさんに向かって走り出す。
パンサーさんもどこからともなく取り出した銃で対応するが、それでも怪物は怯むことなく駆け込み背中の腕を振り上げる。
『さあ! お前も死ぐっ!?』
「僕を忘れるなよ! ―――来い! ニジュウメンソウ!」
ようやく先程のダメージから立ち直った僕は、次元を跳躍するようなイメージで意識を集中して怪物の背後に瞬間移動しながら、背中から伸びる二本腕を全力で斬りつける。
そうして背から跳躍して怪物の視線を誘導しながらペルソナを呼び出し、背後に現れたニジュウメンソウが手をかざして眩いほどの光を放つ。
『ぎあぁっ!? 目がっ! 目がぁっ!!』
「アリスさん! お願い!」
「うん、任せて! ―――おいで! ボニー!」
そうして地面に着地すると同時に、おかしくなったリカを抑えていたアリスさんとバトンタッチし、呼び出されたペルソナが銃を構える。
そうして放たれた極彩色の四つの球体が収縮発散して空間を歪ませると共に、目眩しされた怪物の意識外からより強烈なダメージを叩き込む。
『ぎっ、ぎぎゃあああァッ!?』
「効いてる! こいつ、念動使う癖に念動弱点なの!?」
「ネガイを取り込んで王の力を手に入れたところで、結局は偽物。反逆の意思を持った本物にゃ勝てねえってとこだろ」
「リカ、正気に戻ったの?」
「悪かったヨ。にしても、嫌なもん思い出しちまったぜ……」
怪物がアリスさんの攻撃で怯んでいる間に、ようやくリカも正気を取り戻したようだ。
そこで僕たちは一箇所に集まり、あの怪物を倒す為の作戦を立てるために話し始める。
「洗脳されるのは何とか避けたいね。戦力が減るし、最悪味方を攻撃しかねないし」
「いや、オレサマが機能してりゃ洗脳は治せる。問題はこっち側の火力だ。あいつ、相当タフだぞ」
「私の攻撃は良く効くみたいだけど……正直、さっきの戦いでかなり消耗してて、ペルソナを連発するのは難しいと思う」
「ペルソナ使うのは神経を削るからナ。しかし現状、お前さんの攻撃が一番有効だ。誰かが隙を作ってから、確実に当てたいところだが……」
「じゃあ僕がやるよ。多分、僕が一番向いてるだろうし」
「オッケー、なら私は援護する。リカちゃんだっけ? あんたは?」
「オレサマは後方待機だナ。状況的にオレサマが洗脳されるのが一番まず……待て。リカちゃんじゃねえっつったよナ? 話聞いてた?」
「だってレプリカって呼びづらいし。アリスも呼んでるんだからリカちゃんでいいじゃん」
「マジで止めてくれ。頼むからリ……」
「リカ、後にして。そろそろ限界みたいだから」
『クソっ! クソクソクソっ! 王に逆らうゴミ共が!! 一人残らず殺してやるぅ!!』
リカの言葉を遮ると同時に、怯んでいた怪物がすっかりと立ち直りこちらを睨みつけている。
その姿には鬼気迫るものがあり、今にもこちらへと突撃してきそうだ。
「じゃあ、パンサーさん。援護お願いします」
「オッケー。合わせるから、好きにやっちゃって」
パンサーさんが銃を構えると同時に、僕はその場から駆け出し怪物へと接近する。
しかし僕を舐めているのか、はたまた厄介な相手を先に始末したいのか、怪物の視線はアリスさんとリカを向いており……その意識を逸らすためにも、僕はあえて大声を出して怪物の注意を引きつける。
「さあ、僕と遊ぼうよ!!」
『お前らなんかに付き合うかよばぁーか! 私は一刻も早くあの女を……』
「あっれぇ、来ないのぉ? ああ、そっかぁ! 私たちが怖いんだ!」
「王様名乗る癖に逃げるんだ。まあ、貰った力で調子に乗る君にはピッタリの生き方か」
『このゴミクズ共がぁ!! お前らから殺してやる!!』
簡単な煽りに引っかかった怪物は、怒り心頭といった様子で背中の腕を振り上げる。
しかし、パンサーさんが放つ銃弾が振り上げた腕を集中砲火して動きを止め、その隙に僕は四足歩行する怪物の下に潜り込んで足の間を縫うように移動しながら無数の斬撃を浴びせていく。
『ぐがっ!? こいつ、足をっ……!』
「チャンス! パンサー、前に出るよ!」
パンサーさんが怪物へと接近しながら、勢いよく鞭を鳴らすと同時に燃え盛る炎が付与される。
そうして火に包まれた鞭で怪物を滅多打ちにしながら、地面を叩きつけ燃え上がる火柱が怪物の体を
『ぎっ!? 熱っ、熱いィ!!』
「なら、僕が消してあげるよ。―――欺け! ニジュウメンソウ!」
怪物は地面を転がり何とか火を消そうとするが、そんなことを許すほど僕は甘くない。
仮面が消え去り現れたペルソナが放つ疾風は、炎上する怪物の全身を強く煽りながら……より強烈な炎風へと変化して怪物に更なるダメージを与える。
『ぎぃっ!? よくも、このゴミ共がぁ!!』
「洗脳くるよ! 下がって!」
「いや! ここはあえて突っ込みます!!」
「ちょっ、正気!?」
『私に従え! 私の奴隷になれぇぇぇ!!』
怪物を中心におびただしい数の歪んだハートが放たれる中、僕は全神経を集中させてハートの雨を掻い潜っていく。
そうして怪物の眼前まで接近した僕は、気味の悪い仮面を縫い付ける糸を一つ残らず斬り裂くと同時に、跳躍して頭へと飛び乗り……怪物に癒着する仮面を掴み、全身の力を使って引き剥がす!
『ぎっ……! ぎいやあぁぁぁぉあ!!』
「リカちゃん! あれ、何だか口から煙が出てない!?」
「どうやら、ネガイを取り込むのに相当ムチャしてたみてえだナ! 仮面がなくなって今にも吐き出しちまいそうじゃねえか!!」
「全員構えて! 一斉射撃、やっちゃうよ!」
仮面が剥がれて顔面が顕になった怪物に、銃弾を放てる三人が一斉に引き金を引いて銃弾の雨を浴びせかける。
三人が弾を全て撃ち切ったところで、追い討ちをかけるようにリカが戦車へと変身し……僕らの銃弾とは威力も大きさも一線を画す砲弾が怪物の顔面にクリティカルヒットする。
『うげぶっ……! グゾ、まだ負け……!』
「もう、止めようよ。決着はついたでしょ」
『っ……!! んなわけねえだろお!! 私はお前を殺して、この世界の王になるんだよぉ!!』
「……そっか。なら、しょうがないね」
アリスさんがかけた最後の慈悲にすら暴言を吐き散らす怪物に、呼び出されたペルソナが精神を集中させるように、ゆっくりと銃口を怪物に向ける。
そうして、仮面が消え去ったアリスさんの顔には……どこまでも深い悲しみと、怒りの感情が入り交じっていた。
「私は私の犯した罪を絶対に許さない。きっと、未来永劫忘れることはない。だからこそ、私と同じ罪を犯すお前を許さない! 後悔すらせずに暴力を振るい続けるお前を! 私は絶対に許さない!!」
『うざいんだよこの惨めな豚女が!! クソ陰キャの分際で、王である私に指図するなぁ!!』
「うるさい! 例えどんなに惨めでも、私は光を追うって決めた! もうお前になんか怯えない! だから……
―――私のトラウマを! 撃ち抜け! ボニー!!」
そうしてボニーが引き金を引くと同時に、周囲の景色が白と黒に埋め尽くされ、先程怪物が出した数とは比べ物にならないほどの極彩色の目が出現する。
周囲一帯を歪ませるほどの念動力と眼球、それが怪物の全身を包み込み……空間が崩壊するような幻覚と共に、怪物に決定的な一撃を与える。
『ぎっ……! ぐがあああああ!!』
「よっしゃ、崩れたぞ! 囲め囲めぇ!!」
嬉々とした様子で後方から駆け出すリカに続き、僕たちは四方へ散開して地に伏した怪物を囲い込む。
慈悲も受け入れない怪物相手に、もはや容赦など必要ない。
銃剣、鉤爪、ハンマー、鞭、それぞれの獲物を構えた僕たちは、まるで示し合わせたかのように一斉に怪物へと飛びかかる。
周囲に飛び散る怪物の血を背景に、四人の影が縦横無尽に入り乱れる。
斬り裂き、引き裂き、殴り叩き、打ち込み、最後に残った怪物の体力を削りきるまでその攻撃は続いていく。
「これで、サヨナラだよ!」
『ぐっ……! ぐぅぼぇぇぇぇえ!!』
やがて攻撃の雨が止み、四人の影が地面へと着地する。
その中央に立つ人物……アリスさんが両手でハンマーを持ち直すと同時に、怪物の体が爆発して凄まじい勢いで“ネガイ”と呼ばれた宝石が吐き出されていく。
『あああああっ! 私のネガイがっ! 王の力が……!』
「いや、元々あんたのじゃないでしょ」
取り込んだネガイを全て吐き出したのか、怪物がしゅるしゅると萎んでいき、元の人間の姿へと戻っていく。
四つん這いで地面に倒れ込む姿を見るに、もはや戦う力も残っていないのだろう。
「おっ、放出されたネガイも牢獄棟に向かってるナ。このまま放っときゃ、ネガイを取り戻した連中が現実に帰っていく。全部のネガイが帰りゃトラウマとネガイで形を保ってたこのジェイルも、段々と崩壊するはずだぜ」
「そっか。じゃあ一件落着……って! 結局あんたたちって何なの!? ちゃんと説明してくれるよね!?」
「うっわ、めんどくせぇ。疲れてんだから後にしてくれヨ」
「はぁ!? 適当すぎない!? じゃあ、影山さん? だっけ。あんた、どうやってこの世界に来たの?」
「えーっとですね、僕は帰りに拉致されて気づいたらここに……」
「拉致!? 何それ!?」
そうやってやいのやいの言っている間に、人間に戻ったセーラー女は必死に這いつくばり僕らから離れようとしている。
それに対してアリスさんは、迷いながらも歩き始め……セーラー女の行く手を阻むように、その前方に移動した。
『ぐっ……! どけ! どけよ陰キャ女が!! 元はと言えば、お前のせいでこのジェイルが生まれたんだ! これも全部、お前のせいなんだよ!!』
「はあ!? 何でもかんでもアリスのせいにすんなっての! さっきだって好き勝手言ってた癖に……!」
「パンサーさん、待って下さい。まだ、アリスさんは話そうとしてます」
怒りに任せて前に出ようとしたパンサーさんを言葉で押しとどめる。
やや不服そうな顔をしながらも口を噤むパンサーさんに、アリスさんは覚悟を決めたようにセーラー女に向かって口を開いていた。
「私ね、反省したつもりだったの。そのつもりでこの一年間、何を言われても受け入れた。それが、自分への罰だと思ったから」
『そうだ! それがお前の罰なんだよ! だからお前は一生……』
「でも、それは違った。私が本当には話を聞くべき相手は、赤の他人の言葉じゃない。私が傷つけてしまった、被害者たちの言葉。間違っても、赤の他人の誹謗中傷じゃなかった」
その言葉には被害者に対する後悔の気持ちと、誹謗中傷を押し付けてきた相手に対する怒りの感情が込められていた。
過去に罪を犯したという事実は消えようがないが、それが罪を償おうとする人間を傷つけていい理由にはなり得ない。
そうして生まれる負の連鎖には、何の意義も生まれないのだから。
「もう、私は間違えない。罪の償い方も、これからの生き方も。頑張って
『ふざけるなよ! お前が光になんてなれるもんか!! 大体、それを私に言って何の意味が……』
「あなたもだよ」
『は?』
「いつか、
そう言いながら、アリスさんは笑みを浮かべる。
そこにはもはや、トラウマに怯えていた姿はどこにもなく……自分の弱さを受け入れた、強い人間が立っていた。
『ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるな……! トラウマを受け入れたら、私の存在が消えて……!!』
「もういいか? もうすぐ、この城崩れちまうぜ」
「うん、もう大丈夫。言いたいことは全部言ったから」
『なっ!? 待て、嫌だ! 消えたくない! 私を疎め! 私を受け入れるなぁぁ!!』
アリスさんがこちらに戻ってくると共に、地響きが鳴り段々と城が揺れていく。
もう時間は残っていないのだろう……一刻も早く、この城から脱出しなければならない。
「よっしゃ、そうと決まりゃさっさと脱出だナ。変っ身!」
「うわっ! 戦車だけじゃなく戦闘機にもなれんの? モナも飛べればいいのに」
「……待ってリカちゃん。これ、二人乗りじゃない?」
「そうだナ。頑張って詰めてくれ」
「えぇー……流石に三人はキツくない?」
「って、言ってる暇もないぐらい揺れてるね。しょうがない、何とか三人で詰めようか」
そうこうしている間にも、城の揺れは大きくなり崩れるのも時間の問題だ。
何とか隙間を詰めながら戦闘機に搭乗し、かなりぎゅうぎゅうになりながらも全員が乗り込むことが出来た。
「これ、流石に狭いね……! リカちゃんは重さとか大丈夫なのかな?」
「ちょっ、近い! 近いって! 何であんたが真ん中なの!? もっと離れてよ!」
「席順決める暇なかったじゃないですか……! それに、これ以上は詰めれないです……!」
パンサーさんには悪いが、これ以上詰めるのは流石に無理がある。
戦闘機の外に掴まるという手もあるが、少なくとも僕はあれを二度とやりたくない。
それはそれとして、チラッと横を見れば左右両方におっきな胸が視線に入るこの状況は……僕に現実を突きつけるための新しい拷問なのだろうか。
「影山さん、大丈夫? 言ったら悪いけど、顔が凄いことになってるよ?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと世の不平等さを感じてただけで……」
「え、何? 意味分かんないんだけど」
自分でも顔が歪んでいるのが分かるが、こればっかりはどうしようもない。
毎日牛乳飲んでるのに、あんなに小さくて可愛かった義妹にいつの間にか越された時の悲しみを思い出す。
……本当に、世の中は不公平だ。
「全員乗ったナ。じゃ、行くぜ」
そうこうしている内にリカの変身する戦闘機が起動音を鳴らすと共に、ゆっくりと浮き上がり飛行を始めていく。
何となしに外を見ると、そこには何とかはい上がろうともがくセーラー女の姿があった。
『待て……嫌だ、私は……!』
「ケッ、いい加減諦めナ。柊アリスは罪もトラウマも受け入れた。なら、お前も自分の運命を受け入れるんだナ」
『わだ、じは……ぁ』
そうして光の粒子となって消えていくセーラー女を見送りながら、崩壊する城を背景に僕たちは空を渡っていく。
認知の世界に作られた異物も次々と崩れていき、そこには現実と瓜二つの渋谷のみが残っていく。
「……まさか、城の破片も残らないなんてね。本当に現実の渋谷みたいになっちゃった」
「この世界って元々、認知の渋谷を都合のいいように書き換えた世界らしいからね。ジェイルが崩壊したから、人々の認知によって作られた現実と変わらない渋谷が残ったんだと思う。多分」
「それはそうと、ようやく現実に帰れるんですね。……なんか、長いようで短かったなぁ」
出口を見つけて着陸した僕たちは、戦闘機から降りると共に幾らかの言葉を交わす。
ジェイルが崩れると共にそこら辺を歩いていたシャドウも解放されたようで、周囲には敵も存在しなかった。
「にしても、あいつ……! 結局、説明もせずにどっか消えちゃったんだけど!?」
「リカちゃん、どこ行ったんだろう。また会えるのかな」
僕らを出口に降ろすと共に、リカは“めんどくせー説明はゴメンだナ”と言い残して戦闘機のままどこかに飛んで行った。
だいぶ適当だとは思うが、これもある意味リカらしいと思う
パンサーさんには気の毒だと思うが……何にせよ、現実に還ればもう関わることもないのだろう。
「とにかく、まずは帰りませんか? 僕も家族が心配なので」
「はぁ……ま、しゃーないか。じゃあ連絡先ちょうだい。君にも、色々と聞きたいことがあるから」
「か、かず……影山さん。現実世界でも、会えるかな?」
「はい! 連絡したら、僕から会いに行きますね!」
「そっか……うん! またね! か……影山さん!」
「アリス……はぁ。じゃあ、現実に戻ったら連絡してね。“心の怪盗団”が待ってるから」
そうして三人で連絡先を交換してから、かなりあっさりとした感じで二人は出口に入っていった。
空間に空いてる穴とか、かなり不安なんだけど……パンサーさん、いや杏さんの子慣れた様子を見るに、きっと現実に帰れるはずだ。
「これで終わりか……拉致された後のこと、結局思い出せなかったな」
僕が異世界で目覚める前の記憶は、結局思い出すことが出来なかった。
現実世界ではジェイルに閉じ込められた人が昏睡しているらしく、出口に入れば昏睡状態から目覚めるとのことらしいが……まさか現実で目覚めたら、拉致監禁の真っ只中なんてことは無いよね?
「……流石に無いか。それより、早く
頭の中に義妹の姿を思い浮かべながら、僕も出口の中に入っていく。
これで、長いようで短かった僕の異世界での戦いは終わりを迎える。
海の中を浮遊するような感覚と、赤黒い景色の中で泳ぎながら、僕は現実世界へと帰―――
『影山和希は渋谷ジェイルでの試練を乗り越えました。王の資格取得のため、記憶・身体状態の確認を行い、三日後にナビを再開します』
☆
……これが、渋谷ジェイルの結末となります。
我が素晴らしきトリックスターの活躍は、かつて渋谷の王だった者に
渋谷ジェイルはこれにて終幕、一件落着ということで……っ。
「ようやく見つけましたよ、愚弟。貴方は何をやっているのです」
……はてさて、語りたい事は山々ですが、今のワタクシは
このゲームを続けるためにも、ワタクシは逃げ延びることに集中するとしましょう。
「待ちなさい“ヴィクター”! 貴方がやろうとしている事は、世界のことわりを乱す愚かな……!」
さて、我がトリックスターが次に向かうは“プリンスオブナイトメア”、虚飾に塗れた仙台の異世界。
それでは、次の舞台にてお会いしましょう。
『キーワードが入力されました。ナビゲーションを開始します』
と、その前にもう一つ。
まずは、現実に還った者たちの様子を見るとしましょうか。
☆
「ふぅ……やっと現実に戻ってこれた。最初に出口がない時はどうしようと思ったけど、何とかなってよかった」
夕焼けに染まる空を見るに、病室でキーワードを入力してから中々の時間が経っていたらしい。
ピエロマスクの少年“影山和希”と、シーサーっぽい謎のマスコット“レプリカ”、そして一年ぶりに再開した“柊アリス”との出逢い。
最初にシャドウに囲まれた時や、異世界の入口でシャドウを蹴散らした後に出口がない事に気づいた時はどうなるかと思ったが……本当に、現実に帰ることが出来てよかった。
「ん……あれ、ここは?」
「っ! アリス! やっと目を覚ましたんだね!」
「たっ、高巻さん!? あれって夢じゃ……痛っ!」
ベッドの上で目を開けたアリスが、私の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。
そのまま体を起こそうとするが、寝たきりだった影響か上手く体が動かない様子だ。
「まずは落ち着いて。アリス、一週間は昏睡してたんだからさ。無理して動いちゃダメだよ」
「……じゃあ、さっきのは夢じゃないって事? あれは全部、本当にあった事なの?」
「うん。あれは夢じゃないよ。全部、本当にあったことなの。他に昏睡してた人は、覚えてないと思うけどね」
「じゃあ、私は現実に戻れた……」
「まだあのクソ女は寝ぼけてんの!? そんな言い訳をする暇があるなら、さっさと金を用意しなさいよ!!」
『おっ、お待ちください! 柊アリスはまだ昏睡状態でして……!』
病院に似つかわしくない怒鳴り声と共に乱暴に扉を開ける音が聞こえ、アリスが横になるベッド周辺のカーテンを不躾に開けて一人の女が顔を覗かせる。
そこに居たのは、渋谷ジェイルで見たアリスのトラウマと瓜二つ。
あのセーラー服の女をそのまま成長させたような女が、電話で誰かと通話しながら嫌な笑みを浮かべて立っていた。
「何だ、起きてんじゃないの。何が昏睡状態よ」
『えっ! アリスさんが!? 目が覚めたのでブツンッ』
電話の相手はアリスの知り合いか、はたまた仕事相手だろうか。
どちらにせよ、この状況でアリスの状態も知らせずに電話を切る時点で、ろくな人間じゃないことは確かだ。
「アリス、こいつひょっとして……!」
「うん……秀仁学園で、私を虐めてた奴らのリーダー。……私が、EMMAの力で仕返しした相手」
やはり想像していた通り、この女がアリスのトラウマの象徴であり、ロックキーパーの元となった女らしい。
それにしても、アリスに仕返しされてなおこの態度……パレス程ではないにしろ、メメントスがあった頃ならシャドウの一体居ても不思議じゃないほど悪辣な人間だ。
「ほら、さっさと金を払いなよ。ったく、あんたんとこのマネージャーは話になんないゴミばっかりね。ま、豚のあんたにゃお似合いか! きゃはははははは!」
「……示談金はもう払ったでしょ。それなのに、ここ数ヶ月お金の催促ばっかり……」
「あんな金で足りる訳ねえだろ!! いいからさっさと金を出せよ!!」
あまりに横暴な態度にその場にいた全員が絶句する中で、女は金をせびるために聞くに絶えない暴言を吐き出し続ける。
あまりの非常識さに言葉を失ってしまっていたが、こうも続けられたら流石に我慢の限界だ。
「あんたさ、何が言いたいの? 言ってることがカツアゲと対して変わんないんだけど」
「はぁ!? 事情も知らない奴が出しゃばるなよ!! この豚女は私の友達も男も、全部奪っていったんだ!! これは当然の罰なんだよ!!」
「っ……」
途端にアリスが思い詰めた表情を浮かべ、苦悶しながら悩み始める。
こいつは間違いなく、許してはいけないタイプの人間だ。
もし一度でも許してしまえば鴨志田のようにつけ上がり、最悪アリスの人生を奪いかねない危険さを持った人間だ。
しかし、罪を忘れないと誓ったアリスだからこそ、こいつを許さないと言えないのだろう。
例えどんな理由があっても、アリスがこの女を傷つけた事実は変わらない。
「何て、言うわけないでしょ」
「は?」
「たっ、高巻さん!? 何を……」
アリスにとっては悩むべき相手なのかもしれないが、この女が好き勝手やろうとするのを黙って見ている道理はない。
そう、例えアリスが許そうとも、
「あんたのやってる事は人の弱みに付け込んだ恫喝以外の何者でもない。だいたい、あんたがイジメなんかしたからやり返されたんでしょ。自業自得よ」
「なっ、何でその事を……!」
「アリスは自分がやった罪を受け入れた。なら、あんたはどうなの? 人の罪は責め立てる癖に、自分がやった事は棚に上げるんだ?」
アリスは最大限自分の出来る償いをしたし、自分の犯した罪を受け入れて進もうとしている。
なら、こいつはどうだろうか?
償いもせず、反省もせず、被害者という立場を利用して今も金をせびろうとしている。
こんな卑怯な人間のためにアリスが悩む必要はない。
そんな事は、私が絶対に許さない!
「例えアリスは許しても、私はあんたを許さない。今後二度と、アリスに手を出せると思わないでちょうだい」
「くそっ! 調子に乗るなよ! だいたい、お前がこの女の何だって言うんだ!!」
「“友達”だから。覚悟しなよ。私は敵だって思った奴に容赦する気、一切ないから」
「っ……高巻さん……!」
「くっ、くそっ! 何被害者ぶってんだよ! 私は被害者だぞ!?」
「……そうだね。でも、今は違う」
「はぁ!? 調子に乗るなよ豚女が!! お前に何が出来……」
「今までは私に負い目があったから、被害届も出さずにいただけ。あなたの脅迫や暴言はマネージャーが全部録音してる。……今は見逃すけど、今度やったら容赦しない。本気で訴えるから、覚悟して」
「ぐっ……!! くそくそくそっ! 覚えてろよ!! いつか必ず、お前から全部奪い取ってやる!!」
そんな捨てゼリフを最後に、女は無駄に大きな足音を鳴らして帰っていく。
アリスは固い表情でその後ろ姿を見送っていたが、女がいなくなってから私のことを思い出したかのように口を開いた。
「高巻さん、ありがとう。あんなのに付き合わせちゃってごめんね」
「あのさアリス、あんた優しすぎ。あんな奴なんて、すぐ訴えていいんだよ」
「そうかもしれないね。けど、それでも。私はあの人を一度傷つけた。その事実を忘れたくない。」
「その相手が、あんな風にお金をせびるだけの人間でも?」
「それは……」
そうして押し黙るアリスを前に、場が沈黙に包まれる。
加害者であり被害者、あの女はアリスにとって難しい存在なのだろう。
一度傷つけたという事実があるからこそ、アリスは悔やみ悩み続ける……その心意気は立派だが、いくら何でも優しすぎる。
「でも、きっとそれがアリスのいい所なんだよね」
「? 高巻さん、何を……」
「アリス。あんたが譲らないってのは分かった。だから、もしあの女みたいに被害者であることを利用する奴が出たら私に言って。私があんたを助けてあげるから」
「っ、そんなの……本当に、いいの?」
「もち! だからさ、私と友達になってくれる?」
アリスはこの先も悩み続けることになる。
事実、赤の他人の誹謗中傷に怒りを覚えることは出来るようになったが、さっきのような人間相手には怒ることを躊躇ってしまっている。
だったら、私がアリスの代わりに怒ればいい。
私にとっての怪盗団のように、苦しみも怒りも共有する仲間になればいい。
そうすればきっと、私が鴨志田のシャドウを殺さない選択をした時のように……本当の意味で、己の心に向き合うことが出来ると思うから。
「私、同じ夢を持ってるアリスが大好きだから。一緒に夢を叶えよう?」
「……うん! 私、夢を追いかける! だから、高巻さんも一緒に居てくれる?」
「オッケー、いくらでも付き合うから。友達として、ね!」
今にも泣きそうな表情を浮かべるアリスを宥めながら、私は静かに微笑みかける。
こうなった以上もう二度と、アリスは間違いを犯さないだろう。
「そういえば、影山さんも目が覚めたのかな……高巻さん、携帯は?」
「あー、アリスが目覚める前にかけたんだけど出なかったんだよね。ま、大丈夫だとは思うけどさ」
「そっか……きっと、目が覚めたばっかりで近くに携帯がないだけだよね」
「そうそう。明日かけ直せばいいじゃん。それよりアリスさ、“高巻さん”って止めない? 普通に名前でいいんだよ?」
瞬間、アリスが一時停止した時のようにピタリと硬直する。
せっかく友達になったのだから名前で呼んで欲しいのだが、そんなに難しいことなのだろうか。
「ほらほら、呼んでみ呼んでみ? はい、せーの?」
「あっ、あ、杏。……ちゃん」
「いやいや! 普通に杏でいいからさ! これからよろしくね、アリス!」
「っ……うん! 杏……ちゃん」
別に呼び捨てでいいんだけど、まあ今はこれでいいか。
しかし……顔を赤くするアリスを見てたら、ちょっとだけイタズラ心が沸いてきた。
「そうそう、影山君だっけ。どうせなら、彼のことも名前で呼んでみたら?」
「!? そっ、それは……!」
目に見えて顔を真っ赤にするアリスに、発破をかける意味でも名前呼びを勧めてみる。
私が見る限り大分いい感じの雰囲気になってたし、気があるようなら背中を押したいし?
何より、慌てふためくアリスが可愛いしね!
「ジェイルから出る時に名前で呼ぼうとしてたじゃん? 苗字よりも、そっちの方がいいと思うよ!」
「……! うん! 今度会ったら、和希ちゃんって呼んでみる……!」
「和希ちゃん? いやいや、そこは和希君でしょ。女の子じゃあるまいし」
「いや、和希ちゃん女の子だよ」
「ん? ……ん?」
……待って? 今、なんて言った?
なんか女の子って聞こえた気がするんだけど。
「ごめん、アリス。もっかい言って」
「和希ちゃん、女の子。私、抱っこされたから間違いない」
マジで? あの顔で? あの身長で?
いや、確かに竜司とかと比べれば低い方だけど……それでも私より高いってことは、170cmは絶対あるよね?
「見た目じゃ中々分かんないよね。私も抱っこされるまで気づかなかったもん」
「マジぃ? ……ひょっとして私、やっちゃった?」
戦闘機乗る時に離れてとか言っちゃった。
……現実世界で連絡がついたら、まず真っ先に謝らなきゃなぁ。
※影山和希は女の子です。可愛い系のイケメンに見える顔をしてて、身長が171cmで、一人称が僕で、胸が義妹に負ける程平らなだけの女の子です。
・以下、過去の発言
『きゃははっ! アリスちゃん、また男子に色目使ってるの〜?』→ただの主観
「男子? 僕は……って誰ぇ!?」→言おうとはしてる
「あの子は息子じゃありません! 迷惑ですから帰って下さい!」→ただの事実
こんな感じでちょくちょく示唆はしてました。
主人公が女の子だって知った上で作品を読み返すと、また違った見え方が楽しめると思います。
・以下、アリスのペルソナスペック
ボニー
アルカナ:運命
耐性/念動
弱点/火炎
スキル
1 サイダイン
2 サイコフォース
3 サマリカーム
4 ブレインジャック
5 コンセントレイト
6 ソウルスティール
7 念動ブースタ
8 念動ハイブースタ
シンプルな魔法特化と状態異常構成。
魔と耐が高くて運が並、力は低く速がかなり低い。
杏殿みたいに便利な回復はないが、シンプルな火力はこっちの方が上。
状態異常に出来る敵ならさらに高火力を目指せる他、耐もそれなりにあるため差別化は出来てる(筈)。
アリス・プレデターは結局のところ偽物なんで、原作のボスほど固くないし強くないです。
さらに顔の仮面はネガイを保持するための蓋のような物で、これを剥がされると一気に弱体化します。
それと、前回出てきた赤い髪の少女は闇堕ちしたソフィアとかじゃないです。
後から見返して“あれ? これワンチャン勘違いされないか?”と思ったので今言っておきます。
一ヶ月待たせてあれですが、これから仕事の資格を取るために、この作品を書けるタイミングが不安定になります。
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