グリード・オブ・バンギス 作:どんたす
前世の記憶がある。そんな事言って、いったい何人が信じてくれるだろうか。
まあ、普通は信じられない。世迷言とでも言われるのが落ちだし、そうでなくとも頭の病院にでも連れていかれるか、もしくは生暖かい目で見られるか。
俺だってそうする、誰だってそうするだろ?
「まあ、その俺が前世の記憶持ちなんですけどねー」
自分の前世の記憶を自覚したのは、四歳頃?か。多分。
その理由は、
その割には、俺の昔の故郷“杜王町”では結構な人数のスタンド使いが居たもんだけど。因みに俺は、生まれつき。チビの頃からスタンドとは一緒に居る。
俺のスタンド“バンギス”は、シンプルな近距離パワー型。小難しい能力じゃない分、承太郎さんの“スタープラチナ”や、仗助の“クレイジー・ダイヤモンド”並のパワーとスピードを持ってる。まあ、精密な動作は苦手だけど。
能力は、時間経過による身体能力の強化。戦闘時間が長ければ長いほどに、凶暴性を増していく。その代償は、尋常じゃないレベルのエネルギー効率の悪さ。
今はある程度改善してるけども、うん。最初は酷かった。三十分持てば良い方なんて使い勝手が悪すぎる。
さてさて、今世。バンギスのぬめった緑を見て思い出した前世があっても、特に何かイベントがあった訳じゃない。
スタンド使いは引かれ合う、なんて話も聞いたけど攻撃を受ける事も無かった。
というか、多分この世界俺の前世とは全く違うと思う。
まず、SPW財団が無い。これがおかしい。
それから、杜王町が無かった。地図でも検索したけどぽっかり空白というか、何というか。
更に更に、岸辺露伴が居ない。理由は、アイツの連載してた“ピンクダークの少年”が無かったから。あの漫画バカが漫画を描いてないなんてありえないからな。
前世はどうやって死んだのか分からない。ぷっつりと途切れてるから。まあ、露伴に漫画のネタにされそうな程度には濃い内容だったな。
杜王町では、いつの間にか“弓と矢”を追っかけて、手フェチの殺人鬼を追っかけて。その後は、承太郎さんに頼まれてイタリアへ。そこから何故だかマフィアのごたごたに巻き込まれた。
何度か死にかけたけども、楽しい時間も多かった。あの悪魔名乗ったチキンピンクは許さねぇけどな。
そして、今世。
俺は、
*
たった一晩で、世界は変わった。
“ヘルサレムズ・ロット”。三年前までニューヨークが存在していたこの場所は、今では異界と現世が交わる霧の深い場所となっていた。
「リキー!料理上がったよー!」
「うーっす」
カウンターの向こうから呼ばれ、黒髪のバーテン服に身を包んだ少年は器用に左手に料理の乗ったお盆を手に店内を歩いて行く。
「へい、バブラデュゴバーガーのウーロンティーセットはどっちだい」
「おう、俺だぜ」
「はいよ。んで、こっちがクワトロチーズバーガーに山盛りフレンチフライな」
「おっ、来た来たァ!」
テーブル席で注文を受け取った二人組は、何れも人間ではない。
というか、ここ“ダイアンズダイナー”での純粋な人間は、店主のマスターとその娘のビビアン。それから唯一の店員である、
それ以外は、悉くが異形。人型に近い者も居るには居るが、やはりその大半は夜に出会えば小便ちびってしまいそうな異様な見た目ばかり。
これが、ここ“ヘルサレムズ・ロット”の日常だ。
食器を下げながら、リキはこの街に来てからの事を思い出す。
「……ま、退屈はしねぇわな」
「何言ってるのさ」
「いやー、毎日刺激的だなーって」
「何言ってんのさ。とにかく、次々。働け働けー」
「へいへいほーい」
ウェイターとして動き回りながら料理を提供し、皿を下げて、会計を行い。時折現れるチンピラをボコボコにして路地裏に生ごみと一緒に捨てに行く。
この店での彼の役割は、雑務全般だ。その中には一定基準の荒事も含まれていた。
異界の住人からすれば、人類は貧弱だ。特殊な脳力だったり技能を有しているならば別だが、基本的には片手で捻れる程度。
だからこそ、この人類のみで経営しているこの店で横柄を働こうとする者は結構いる訳で。
「オラァ!!金を寄こ――――」
「――――『バンギス』ッ!!」
ごてごてしい大砲の様な銃を携えた異形が店の扉を破壊しながら突っ込んでくると同時に、その顔面へと巨岩だろうと粉砕する“
二発目の拳で銃が粉砕され、三発目からはラッシュスタート。
「ガルァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
合計百発の拳が叩き込まれ、異形は突っ込んできた扉から店の外へと文字通り叩きだされる。
スタンドは、スタンド使いしか視認する事が出来ない。という訳で、この店でのリキの能力は
「馬鹿だよなぁ」
「だな。この店の事知ってたら真正面から突っ込むような事しねぇって」
「新参者って事か?」
「ジャンキーじゃね。知らんけど」
「相変わらず派手じゃねぇか、リキ!」
「おーう。お騒がせしました、っと」
常連たちから言葉に軽く手を振りながら、リキはぶっ壊された扉の下へ。
「マスター!蝶番の代えってありましたっけー?」
「あー、ドアベルを置いてる所にあるだろ」
「ドア板自体は壊れてないんだ。ラッキーだね」
「その代わり、蝶番がぶっ壊れましたけどねー」
ドアを近くの壁に立てかけて、リキはドライバー片手にぶっ壊れた蝶番の残骸を取り外しにかかる。
ヘルサレムズ・ロットは、今日も平穏だ。