「いっしょに戦ってください」
ショウに突然そう言われたとき、ぼくは驚き、横にいるグレミオを見た。だが、ぼくの驚きに気付かないグレミオは「夕食までには帰ってきてくださいね」などと言いながら、にこにことぼくを送り出す。
「じゃあ、行きましょうか」
向こうもにこにこ顔。それを見たら、ぼくは頷くしか出来なかった。
「え……、う、うん……?」
そうして、ぼくはトラン共和国首都グレッグミンスターにある、マクドール家の屋敷から出た。
ぼくの名前はシェイ・マクドール。ちなみに出身はグレッグミンスター。
トラン共和国の前身、赤月帝国の将軍テオ・マクドールの息子だったが、親友テッドから真の二十五の紋章のうちの一つ、ソウルイーターを受け継ぎ(というか受け継がざるをえなかった)その身分を捨て(というか捨てざるをえなかった)赤月帝国への抵抗勢力、解放軍のリーダーだったオデッサさんの跡を継ぎ、新リーダーになり(これは……どうだろう?)赤月帝国を倒し、新たにトラン共和国という国を建てた、という過去を持つ。
赤月帝国を倒してからは、解放軍でも主力だったレパントに大統領の座をゆずって、半強制的についてくるグレミオと一緒に旅をしていたのだけど、最近また懐かしのグレッグミンスターに戻ってきた。
その戻ってくるきっかけの一つだったのは、目の前にいる、彼なのだが……。
「どうかしたんですか? シェイさん」
「え、いや、別に……」
グレッグミンスターを出て、バナーへ続く道。
金色の輪っかを額にはめている、赤い服の少年がそこにいた。
彼の名前はショウ。彼もまた真の紋章の一つ始まりの紋章を持っている。まあ、始まりの紋章といっても、その片割れの輝く盾の紋章なんだけどね。そして、ついこの前終わった戦いの勝者、同盟軍のリーダーだった少年で、彼の戦いには、ぼくも微力ながら手を貸したんだけど……。
「あのさ、ショウ」
「何です?」
「戦いは終わったよね……。シルバーウルフは、ぼくらが倒したよね……?」
「そうですね」
「なら、何でまた戦いに……っていうか、さっきからぼくの周りをうろついているこれらは何?」
ぼくは、それらを指差した。
青いマント。ピンクのマント。緑のマント。黄色のマント。
それぞれ特有のマントをつけた、四匹のむささび。
それらが、ぼくの足にまとわりつく。
「むささび、知らないんですか?」
「いや……、知ってるけど……。でも、何でここにむささびがいて、ぼくの足にまとわりつくわけ?」
「シェイさん、認められたんですよ。むささびレッド。つまりリーダーに」
ショウはにこにこと笑いながら、こう言った。
「ムッムムムー」
「ムムゥムムムムー」
「ムムー」
「ムーンムム」
むささび達も大騒ぎだ。
って、おい。
「ちょっと、待ってよ。何で、ぼくがむささび隊のリーダーに?」
「赤いでしょ。服。五人組のリーダーは赤って決まってるんです」
「き、きみだって赤い服じゃないか!」
「ははは……、ぼくじゃ力不足ですよ……」
「何だよ、その『ははは……』って。大体、ぼく、むささびじゃなくて人間だよ!」
すると、ショウを始め、四匹のむささびは悲しそうに目を伏せた。
「ちょっと不幸な事態になりまして……、彼らのリーダーはパーティーに入れないんですよ……」
「不幸な、事態?」
「ええ、思い出すたびに……、泣いちゃいけないのは分かっているんですが、それでも、やっぱり……赤が……」
「ムムムゥ……」
ピンクマントのむささびが、こられきれず泣き出した。他の三匹のむささびは、必死に慰めようとしているが、彼らもまた涙をこらえている。
「不幸な事態……」
ぼくの頭の中に、オデッサさん、父さん、グレミオ、テッド──ソウルイーターに魂を盗られた人々が浮かんできた。それに、戦争のときに死んだ兵のみんなや、何も出来ずに殺された国民、何よりも頼りにしていた軍師マッシュ。
グレミオはこの世に戻ってくることが出来たとはいえ、命が一つ落ちる度に、ぼくは涙をこらえていた。
ぼくは足元のむささび達を見た。ひとかたまりになって、まるで枕みたいにみえるむささび四匹。事情は違うだろうけど、彼らも、またぼくと同じような経験をしたんだ。
その悲しみをぼくが、少しでも和らげられるというのなら。
「分かった。いいよ。ぼくが赤い服というのも何かの縁だ。ぼくがリーダーになるよ」
途端、ショウとむささび達の顔が、日が照ったように明るくなった。
「本当ですか!」
「ムムッ?」
「うん。ぼくに何が出来るかは分からないけど、やれることはやってみようと思う」
言いながら、ぼくは思い出した。
何年か前、ぼくが解放軍のリーダーになると言った時、マクドール家にいたころから世話をしてくれたグレミオとクレオは心配してたっけ。その時、ぼくは今と同じようなことを言った気がする。
懐かしいなぁ。
と、ぼくがじんわりと過去を思い出していたら、
「有り難うございます! じゃあ、『ム』の枠が空いているので、これからのシェイさんはムェ……いや、シェイ・ムクドールということでお願いします! 彼らの元リーダー、ムクムクとちょっと名前が似ていてよかったです!」
「え?」
「ムムッムーム!」
「ムムムッムムームー!」
むささび達が騒いでいるせいか、ぼくの声はショウには届かないらしい。ぼくは声を張り上げた。
「ちょっと待って! 赤月帝国を守った由緒あるマクドールの名をぼくに捨てろと?」
「とうに捨てた名前じゃないですか。いいじゃないですか、一文字くらい変わっても誰も気にしませんよ」
「ぼくが気にする!」
そんな抗議をすると、ショウは大げさにため息をつく。
「でも、『マ』枠はもう空いていないんです。リーダーでしょ? むささび隊のリーダーでしょ? リーダー!」
「ムームー!」
「うっ……」
リーダー。
三年前までの経歴のせいか、ぼくはリーダーとか大将という言葉に弱い。とても弱い。イヤなことでも、リーダーという言葉でやらなきゃいけない、と思うようになる。
損な性格だ……。
「……分かったよ。分かった。ムクドールって名乗ればいいんだろ!」
「有り難うございます!」
「ムムッムムー」
ショウとむささび達は目をキラキラさせ、ぼくを見た。
「……ムクドール、か……。父さんだったら、何て言う、かな……」
ぼくが新しい国を建てるというのまではギリギリ想像出来ただろうけど、まさかこんなことになるなんて、夢にも思わなかっただろうな──
そう思いながら、ぼくは天を仰いだ。
雲一つない空は、マクマクのマントよりも深く青かった。