ぼく、シェイ・ムクドールが率いるむささび隊プラス、自称マネージャーのショウは、最初グリンヒル近辺をうろついていたが、勢力拡大ということでデュナン地方全体を東西南北と歩き回り、一人歩きの人を見守りながらついていく、ということをやっている。
何のためかって?
……ショウ曰く、正義のためらしいよ。
まあ、でも、同じ年代の子と旅をするというのも悪くない。今まで、ゴツイのとかムサイのとかヒゲとかヒカリとかナルシーとか、そんなのが必ずといっていいほど混じっていたから。
それに、同じ天魁星というよしみもある。ぼくとは結構境遇が違うみたいだけど、親近感は抱ける。
「大分、むささび隊っぽくなりましたね」
時は夕暮れ。
休憩を取るということで、ぼくらは焚き火をし、お茶を入れている。
「うん、ちゃんと出来ているのかは分からないけど、わりと納得出来る形にはなったのかな」
「そうですかぁ。じゃ、次の行き先はどこにしますか?」
「そうだなぁ」
「ムムムー」
メクメクが地図を指さした。いや、指してはいない……かな?
とりあえず、メクメクが示したのは天山の峠。少年兵で構成されたユニコーン隊という部隊の悲劇で有名な場所だ。話によると、確かショウはユニコーン隊の兵だったらしいけど。
「ショ、ショウ?」
ぼくの問いに、ショウはこくりと頷いた。
「なるほど、確かに天山の峠は行っていないですね。そっちにむささび隊の名前を知らしめるというのも、悪くないですね」
「い、いいのかい?」
「当然です。こういうのには私情は禁物です」
「あ、そう……なの?」
「ムムムーン」
「ほら、むささび達もそうだと言ってます」
よくわからないけど、それでいいなら、ぼくには言うことはない。こんなことの何が正解かなんて全くわからないし。
「じゃあ、明日向かおうか。天山の峠に」
天山の峠を登っていたら、マクマクが突然叫び始めた。
「ムムムムー!」
どうやら、一人歩きの人を見つけたらしい。
「よし、まずはメクメク行け!」
「ムムッ」
ぼくの指示の通り、メクメクはその人の方向へすっ飛んでいった。どうやら峠のかなり上のほうにいるらしい。
「じゃあ、次はショウ……かな?」
「はい。分かりました」
メクメクの後を、ショウは追っていた。他に一人歩きの人がいないか確かめながら、ぼくらも峠を登っていく。
「ムムムムーン」
「どうした? モクモク」
「ムムムムゥン」
リーダーを始めてから、それなりに経ったが、ぼくにはむささびが何を言っているかは全くわからない。
まあ、いいや。とりあえず、急げってことを言っているようにも思える。ぼくは足を速めた。
「ムムムッム」
「見えた」
向こうにショウと一人歩きの人が見える。ぼくらはそのままどんどんと足を速めようとしたのだが、その人の姿を確認して、足を止めた。
「ムム! ムッムムー!」
そのままぼくの背中にぶつかったらしいマクマクが、ぼくの頭をべしべし叩く。あまり痛くないけど。
「ごめん。でも、あの人は……」
軽くモクモクに誤ってから前を向く。
直接話をしたことはない。でも、ショウと一緒に色々な所に行ったから、見たこともある。あの人は──ハルモニア国皇王ジョウイ・ブライト?
野宿をし続けていたのか、随分と埃っぽい。でも、彼はジョウイ・ブライトで多分間違いない。何でいるかは知らないけど。
「あ、ショウ」
二人が睨み合っている。
そう、聞くところによると、二人は親友同士だったらしい。
同盟軍のリーダーとハルモニアの皇王。敵対しあうしかない二人だったが、昔はとても仲が良かったらしい。
そんな二人が、今ここにいる。
ジョウイがやっと口を開いた。
「ずっと待ってた。随分、遅かったね……、ショウ。約束なんか忘れて、もう来ないかと思っていたところだったよ」
「や、約束は……。わっ、忘れてないよ? うん!」
忘れていたんだな。
「ただ、ちょっとやらなきゃいけないことがあったんだ。君が待っているのは分かっていたけど!」
友情よりも、むささび隊を取ったんだな。ショウは。
「そうだね。ショウ。ぼくたちは最初同じ道を歩んでいたけど……」
そこからジョウイの長い台詞が始まった。その間に、ぼくはむささび隊を集め、そこにある十文字の傷がついた岩の後ろで控えることを考えついた。たとえ、二人の友情がどんなになっても、同盟軍のリーダーであるショウをみすみす殺させてはいけないと思う。
岩の後ろなら、そんなに目立たないで様子を見ることが出来るだろう。
ぼくは岩の後ろへ入ろうとして──
「って、え?」
「……あなたもいらっしゃったのですか」
「えーと、確か、シュウさん……?」
声をかけてきたのは、長髪の男性だった。
今は亡きマッシュが破門した元弟子らしいが、軍才はマッシュにひけを取るとか取らないとか。少なくともビジュアル的にはひけを取らないどころか追い越している。アップルやショウの必死の頼みで同盟軍の軍師となり、同盟軍の勝利を築いた人物、シュウさんだ。
ノースウインドゥ城に初めて行ったとき、アップルに紹介してもらったっけ。昔はこちらに嚙みつきまくっていた彼女も、三年前よりは落ち着いていたよなぁ。やけに忙しそうだったけど。
だから顔は覚えていたんだけど。でも、何でシュウさんが? それに随分と野宿したような形跡が。
「何でこんなところにシュウさんが?」
「はい。もしもの時のため、ここでずっと控えておりました。来る途中、ビッキーが間違えたせいで、ラダトの道具屋の二階に飛ばされたということもありましたが。……そこで手に入れた、もぐらスーツ差し上げましょうか?」
「いや、結構です。でも、もしもの時って?」
「もしもの時はもしもの時です。場合にもよるのですが、私はショウどのにあることを伝えなくてはいけないのです」
「あること?」
内容が曖昧すぎて何を言いたいんだかさっぱりわからない。聞き返すぼくにシュウさんは頷いた。
「はい。しかし、予想よりも随分と時が経ちました。アップルに頼んで何度か食料等は補給はしましたし、アップルに部屋に居ついている猫の世話も頼んだおかげで、何とか今まで、心置きなく待っていられましたが」
シュウは深く息を吐く。
この軍師。前から思っているけど、やけにアップルを扱き使っている気もする。彼女も好きでやっている部分はあるだろうけど、いくら妹弟子だからといっても私用までねぇ。副軍師もう一人いるのに。
「して、ショウどのは、今までずっと、何をしていらっしゃったんですか? そして、そこのむささび達は一体?」
「ムムゥン」
シュウさんは、彼の足にまとわりつくモクモクとミクミクと、ぼくの頭の上に乗っているマクマクとメクメクを、交互に胡散臭げに見た。
「聞かない方が」
「ムムーン」
ぼくとむささびがうんうん頷くと、シュウは軽くため息をついた。
「そうですか」
ショウとは振り回したり振り回されたりする関係だったであろうシュウさんは、ショウの訳が分からないところは当然知っているだろう。でも、大統領の役目も放り出し、むささび隊の自称マネージャーをやって、一人歩きしている人の後をつけていたと知ったら。シュウさんは言葉もないだろう。
シュウさんはなるべく目立たないように、岩の陰から様子を見ていた。
「……そろそろ、話が終盤に差し掛かってきたようですね」
「はあ」
「最後の選択で……全てが決まります。私の登場があるのか否かも」
マクマクとメクメクを地面に下ろし、ぼくも顔を出してみた。すると、何とジョウイが倒れている。ショウが攻撃したわけではないようだけど、苦しそうだ。
「よし、予想通りだ。このまま行けば俺の出番も……!」
シュウさんの呟きが聞こえる。この人、普段の一人称は俺なんだよな。
「お願いだ…………、ぼくの……この紋章を……」
切れ切れのジョウイの言葉。このままじゃもしかしてジョウイの命は……?
事情は分からないが随分切実そうだ。
シュウさんは息を止め、ショウの言葉を待った。
そして、ショウは──