そして──
「分かったよ、ジョウイ」
ショウは即答だった。
シュウさんの息が聞こえなくなった。
すぐに右手を出すショウ。紋章を受け継ぐわけだ。
向こうは結構な状況なのは分かっているが、ぼくは過去、親友から紋章を受け継いだ時のことを思い出し、胸が痛くなると共に、何となく懐かしくも思った。まさか今こんなことになるとは思わなかったよなぁ。ぼくの人生設計とはかなり変わってしまった。
と、やっている場合じゃない。
ぼくはとりあえず傍にいるシュウさんの様子を見てみる。
シュウさんは思いっきり息を飲み込んでから、「まさか、俺の考えが……?」とか何とかぶつぶつ呟いていた。頭の上に登ってきたミクミクにも気がいっていない。
「どうしたんですか? シュウさん」
「いえ、国のためには良いことなのですが……。予想外ですが、どうやら、ここでの私の出番はないようです。私はこれから急いで戻らなくてはいけません。ではシェイどの、また折がありましたら、ノースウインドゥにお越し下さい。歓迎いたします」
軽く頭を下げ、ミクミクをはいでぼくに持たせ、シュウさんはすりぬけの札を手にした。あっと言う間にシュウさんの姿が見えなくなり、彼がいた所には、ただもぐらスーツのみが置いてあった。
「……野外ダンジョンじゃすりぬけの札、普通使えないのに」
ぼくはそう思いながらもぐらスーツを手に取り、岩から顔を出した。むささび達も同様に顔を出す。
ショウは土の山を作っていたらしい。鼻の上に土がついている。
「あ、シェイさん」
「ショウ。……ジョウイは?」
「二つの紋章を持ったから――」
ショウは土の山を指さし、俯いた。その先の言葉は、僕にも何となく分かる。
「ぼく、ジョウイに言われました。だから、ぼく、ノースウインドゥに戻らなくちゃ」
「そっか。そうだね」
それが彼の選択なら、ぼくは応援するだけだ。
「今まで有り難うございました。ぼく、頑張ります」
「うん」
「だから、シェイさんもむささび隊、頑張って下さい!」
「うん。って、え?」
ぼくは、ショウの明るい顔を見た。彼は、ぼくが何で聞き返したのか不思議みたいだ。
「どうかしましたか? シェイさん」
「いや、むささび隊、マネージャーがいないなら、解散した方がいいんじゃ?」
ぼくの言葉に、ショウはからからと笑う。
「何でですか? リーダーはシェイさんじゃないですか!」
「いや、だってさ、ぼくだってさ、ほら、グレミオが夕食までに戻ってこいってさぁ」
「ははは。そう言って、夕食までに帰ったことないじゃないですか。この前なんて、ぼくにむささび達の相手をさせて、バナーの村でカスミさんとさか──」
「うわー! な、何で知ってるんだよ!」
「現役天魁星に分からないことはないんです!」
めちゃくちゃな論理だ。と、いうか、今の場合でも『現役』でいいのか?
ショウは笑いながら、ぼくを肘でつく。
「やるねぇ、この色男ー」
それは君がリッチモンドさんに言われていた言葉じゃないか?
でも、それよりも。
「た、頼むからさ、そのことはグレミオには言わないでくれるかな? 知られたら、その、カスミがどんな目にあうか……」
「うわ、呼び捨てだし。しかも所詮グレコン」
「うるさい!」
ぼくは大声を出し、何だか無性に疲れた。
「分かったよ。これからも続ければいいんだろ」
「有り難うございます! さすがリーダー。これでぼくも安心して国の大統領に」
こんな大統領。いくら英雄でも、ぼくが国民なら絶対に嫌だ。
ぼくがふっと息を吐いているところに、ショウが覗き込んでくる。
「どうかしましたか?」
「いや」
軽く首を振ってから、ぼくはふと疑問が浮かんだ。
「あ、そういえばさ、その前リーダーだったムクムクっていうむささびは、どうしてパーティーに入れないの? 今までは君が事情知ってたからいいけど、今度からはいないんだし、どんな辛い事情かは分からないけど、リーダーの僕は知ってた方がいいかと……」
途端、再びショウと四匹のむささび達の表情は暗くなった。でも、今回はちゃんと聞かなくてはいけない、ような気がする。
僕はぐっと拳を握りしめた。
「れ……さん、が……くて」
「え?」
聞き返すと、ショウは溜め息をついてから、言った。
「……言うのも辛いんですが、実は、レオナさんがずっと買い出しという名目の謎の失踪をしていて、パーティー編成が出来なか──」
「解散だ!」
「え?」
「シェイ・ムクドール率いるむささび隊は解散だ!」
ぼくはその後、何回も解散と言い続けた。ショウが泣きつく。
「そんなご無体な! 今の状況じゃ、むささび達は四匹しか集まれないんですよ! むささびファイブがぁ!」
ぼくの足の周りに、むささび達とショウがまとわりつく。とりあえずショウは払い落とした。
ぼくは叫んだ。
「きみが大統領になったら、むささび達だって勝手に集まって、勝手に森に戻るなり、むささび隊作るなりに決まっているだろ!」
「はっ!」
ショウの表情が変わり、彼は両手で頬を押さえた。
今までそれに気付かなかったらしい。
「そ、そうだった! 有り難うございます! もう心残りはありません。さあ、山を降りましょう!」
今まで見たことがないくらい明るい表情をしたショウは、すりぬけの札を使った。通常の野外ダンジョンでは、このアイテム使えないはずなのに、何故か使える。それからまたたきの手鏡を使い、ぼくたちはノースウィンドゥ城に戻ってきた。
「ムッムムームムー!」
戻ってきた途端、ぼくの頭上から赤いマントのむささびが降ってきた。それを見たむささび達は、ぼくの頭や足から離れ、そのむささびの傍へと文字通り飛んでいく。
「ムゥムムー!」
「ムムムッ? ムームー」
「ムムムームッ」
五匹揃ったむささび達は本当に嬉しそうに、和気あいあいに何か会話している。
やっぱり、本当のリーダーが一番なんだ。
そう思うと、ちょっと寂しい気もする。
「ああ、やっぱりむささび隊のリーダーはムクムクが一番ですね」
ショウは言った言葉に、ぼくは文句を言う。
「きみがやらせたくせに」
「まあまあ。シェイさんのむささび隊もなかなか良かったですよ」
勢いよくこちらの背中を叩いてくる。
「慰めなのか?」
「気にしない気にしない。じゃ、ぼくは大広間へ行ってきます。本当に有り難うございました!」
そう言ってショウは、五匹固まっているむささびの横をすりぬけ、エレベーターへと走っていった。
しばらくして、向こうから歓声が聞こえた。みんな、ショウが大統領になることに、大喜びみたいだ。
「さて、帰るか」
ぼくは振り返り、ビッキーの所まで行き、バナーの村まで送ってもらい、トラン共和国へ続く森を通っていった。
楽なことに、しばらく敵は出ない。ぼくは今度、グレミオには内緒でロッカクの里にでも行こうかな、と思いながら足を進めていった。
と。
「……!」
背後に何か気配がする。
ぼくは警戒して振り返り──脱力した。
「ムムムムゥ!」
「……テリトリー変えたんだ」
「ムムッムムムー!」
「はいはい、一緒に行こうね」
──そこには、赤いマントのむささびが一匹、いた。
リマスターも延期したため(笑)大昔書いた作品を修正してアップしました。
シルバーウルフ戦闘後にむささび集めたせいで、ムクムクをパーティ追加できない!と困ったのも、
しょうがないから坊っちゃんをパーティ追加したのも、
ジョウイに会いに行こうと思ったらラダトの道具屋に今更飛ばされたのも、
ジョウイに言われるがまま紋章を受け継いだのも全て私の実話です。
紋章については、双◯社の攻略本に紋章断われと書いてなかった&テッドの時堂々巡りだったのを思い出し、素直に受け取りました。
土には埋めてません。
まさか断らないといけないなんてね…。
幻水小説は昔書いたものがいくつかあるため、今後も追加予定です。
ちなみに私はアップルが好きなため、残りはほぼアップルばかりです。