平安に坐せ大嶽の大鬼   作:無名の軽量AC乗り

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第3話

 

 

 

 

 

「よく来ました」

 

 

 再三に亘る手紙の無視により、相当お冠な様子であったことが最後の手紙から伝わっていたが、その小娘は指定された鈴鹿山までやって来た大嶽丸を見るなり眉を動かした。

 

 巫女服を着込み、立烏帽子(たてえぼし)を被った金眼金毛の乙女。第四天魔王、すなわち天帝の愛娘。人ならざる身であり、鬼としての側面も有するが故、三本もの宝剣を携えたその少女は一目見ただけで大嶽丸の強大さを悟ったらしい。明らかに顔が強張っていて、鬼である大嶽丸に喜悦を齎した。

 

 

「……私の名は鈴鹿、第四天魔王の娘。神命により、日ノ本侵略の任を帯びた者。天の魔焔たるこの私を前に頭が高いわよ? 跪いて許しを乞いなさい、今ならまだ許してあげるわ」

 

「強がらなくともいいぞ、小娘」

 

 

 気丈にも強気な姿勢を崩さない鈴鹿御前に、大嶽丸はニヤリと邪悪な微笑を湛える。強者の余裕だ、自らが強いと知るが為の優しさである。これからお前を辱めるのだと、傲岸にも事前に知らせる残酷さが前面に現れていた。

 

 彼は一体の鬼を付き従えている。大岩のように巨大な体躯を誇る赤鬼だ。

 

 鈴鹿山なる場所を憶えていなかった大嶽丸が、自身の側近を気取る彼に道案内をさせたのである。赤鬼もまたニヤニヤと嬲るような笑みを浮かべていて、鈴鹿御前が苛ついた視線を向けても怯えたりはしなかった。虎の威を借る狐というわけではない、単に大嶽丸という生ける災害、鬼種の中の冠位とも言える存在を前に強がる者が、滑稽で仕方なくて面白いのである。

 

 人理に冠位英霊が在り、竜に境界の竜が在るように、鬼にもまた大嶽丸なる冠位が在る。

 

 大陸の神代が終わろうと、極東の地に満つる神秘は未だ健在。神代最盛を保つ極東にて発生せし、およそ最新最後と呼べる神秘の種こそが鬼種であって。鬼として最強、鬼神魔王と称される者は純粋に神に匹敵する。

 

 赤鬼は鬼である故に、理屈は知らなくとも本能で、大嶽丸が鬼の頂点であると知っていた。だから可笑しいのである、大嶽丸に勝てる気でいるのが。それは人の赤子が見上げた日輪を、その手で割れると嘯くに等しい妄言だった。

 

 

「鈴鹿といったな。俺に殺してやると宣う態度は中々唆る。だがな、()()()()()()()()()()

 

「っ……大きく出たわね、下界の鬼如きにこの私が怯えているだなんて。いいわ、そんな不遜な態度を取るのなら、許しは要らないと思っていいわよね? そこに直りなさい、殺してやるから」

 

「ハッ、好きにしろ。俺も好きにする。お前のような女がねじ伏せられた時、どんな面を見せてくれるのか愉しみだ」

 

 

 果たして鈴鹿御前は三振りの宝剣を操り、初手から全力で大嶽丸を殺しにかかった。

 

 ――結果は語るまでもないだろう。

 

 文殊師理菩薩に打たせた通力自在の名剣『文殊智剣大通連』による真名開放『天鬼雨(てんきあめ)』は、担い手から独立して攻防を行える。

 

 250本まで分裂したそれが、上空で同心円状に何重にも展開され、黄金の剣が豪雨の如く降り注いで地表を絨毯爆撃しようとも。宝具『小通連』により『才知の祝福』を発揮し、黄金剣・大通連の射出精度を高め、鈴鹿御前の乱雑な太刀筋にも精妙さを与え、彼女の知性を爆発的に上昇させ演算能力を高めようとも。棒立ちする大嶽丸の外皮に、傷一つすら与えることはできなかった。

 

 

「な、なんで……っ!」

 

「ふぁあぁ……」

 

「アクビなんかして! バカにしてんじゃないわよ――!」

 

 

 そして。

 

 最後には最終宝具『顕明連』による真名開放『三千大千世界』を発動し、あらゆる世界、並行世界すらも太刀の中に作り出し見渡したことで、鈴鹿御前は人智を超え神智に等しい演算を行なったことにより真に理解してしまう。

 

 顕明連は自身を月にある奇跡、ムーンセルに等しい存在と化さしめる常軌を逸したものだ。だから未来演算を行なって、自身のあらゆる可能性を確認・選択することで最適解にたどり着くことができるのだが、切り札であるこれを用いたばっかりに絶望してしまったのだ。

 

 顕明連は人の身には扱えぬ。たとえ英霊であろうと――鈴鹿御前が英霊になろうとも、これを長時間使用すれば、英霊としての資格を剥奪されるだろう。権能に近い力であるからだ。しかし死する前の生身であり、人ですらない今の鈴鹿御前は「何でも知る事ができる」存在と化すのに抵抗はあっても、いざとなれば用いるのに躊躇することがなく。顕明連を用いたからこそ、自分ではどうやってもこの鬼を斃せぬと、傷一つ与えられぬと知ってしまった。

 

 自分が大嶽丸を斃せるとしたら手段は一つ。

 

 三年間、つきっきりで、三本の宝剣の力を全開にして……なおかつそれを悟らせず、大嶽丸に対して呪いを掛け続けて弱体化させるしかない。だがどういうわけか、()()大嶽丸は三年も傍に置いている者に呪われ続けて、気づかないような無警戒さが微塵もないではないか。

 

 つまりは、勝てない。

 

 自分では絶対に。

 

 いや自分に無理なら、勝てる生命などこの惑星に存在しないのではないか。日ノ本の外は神代が終わっている、神秘の残る日ノ本で上澄みの格を持つ自分でも歯が立たないなら、それこそ闘争と謀に長けた神仏の本体が出張る必要があるのではないか? それこそ、自身の父である第四天魔王――天帝が。

 

 

「終わりか?」

 

 

 終始いやらしく、嬲るように邪悪な笑みを頬に刻んでいた鬼が囀る。

 

 傷一つなく、どころかその場から一歩も動かず(ノックバックせず)。歯噛みする乙女の許に歩み寄り、太刀を構えられているのにも素知らぬ顔をして。

 

 ただ、腰を曲げ、一回り以上自分より小さな鈴鹿御前の顔を覗き込んだ。

 

 

「いい顔をする」

 

「ッ……趣味が悪いわね」

 

「鬼に何を期待している。俺は力だけが取り柄の、人間が言う化け物だぞ」

 

 

 眉根を寄せ、歯を食いしばり、悔しくて堪らないといった顔をする少女に、隠す気もない喜悦を見せつけた大嶽丸。なるほど、趣味が悪い。いいや鬼であるなら趣味ではなく生態で、本質だ。

 

 鬼に『良い奴』などいるわけがない。享楽に耽り、欲望に溺れる。要するに自分に正直で相手の事情を斟酌しない、身勝手極まる単細胞だ。

 

 大嶽丸は変質した。が、そこはそれ、鬼であるのに変わりはなく。悪辣さが軽減された分、むしろ人間的な悪質さが加わっている。

 

 ニタニタと、悪童のように笑いながら大嶽丸が言った。

 

 

「悔しいなぁ? 殺してやるとまで息巻いてたってぇのに、こうまで無力を晒すなんざ屈辱だろ? 第四天魔王だかなんだかの娘で、御大層な武具を三振りも恵んでもらって……己の方が上位にあると信じて疑っていなかったのが、いざ蓋を開ければご覧の有様だ。ご自慢の神通力はどうした? 使ってあれなのか無駄だから使ってねぇのか知らんが、どちらにしろ大したこたぁねぇな?」

 

「……殺すなら殺しなさいよ。私はそのつもりで来たの、殺し返されても文句は言わないわ」

 

「往生際のよろしいことだ。だがな、小娘」

 

 

 女の命である髪を掴み、グイッと己の顔に近づけながら牙を見せる。

 

 

「お前なんぞの命を奪ってなんになる? 俺にとってはむしろ、お前を殺すより生かしてその面を拝んでいた方が愉しい。気位の高い高貴な姫が見下していた相手に屈服させられる様は面白いぞ」

 

「最悪……! 私を辱めて悦に浸ろうだなんて、頭の中が腐ってるんじゃないの!?」

 

 

 大嶽丸の台詞に、心底からの侮蔑を漏らす乙女へ鬼は嘲笑した。

 

 

「弱者は強者に玩弄されるが世の理だろうよ。お前もそれは承知していたはずだ、でなければ俺を見下し殺そうとなんざしなかろう」

 

「………」

 

「それよか鈴鹿御前とかいったな、小娘。お前の目的は日ノ本を魔の国にするべく、第四天より侵略に来た天帝の兵なんだろうが……どうする、まだ俺と組みたいか?」

 

「……なにが言いたいの」

 

「組みたいなら組んでやる。……いや、組んでもらおうか」

 

 

 ニタニタ、ニヤニヤ。喜悦の滲んだ目には、滴る毒液のような好奇の色が。

 

 大嶽丸の申し出――否、宣告に明晰な頭脳を持つ鈴鹿御前は顔をしかめた。

 

 

「お前の目的を成してやろうってんだ。お前をねじ伏せ、下した鬼が、お前の使命を果たしてやる。そして日ノ本を魔の国とやらに到らしめた暁に、俺が、お前を、喰ってやる」

 

「ほんっとに……性格終わってるわ」

 

「お優しい鬼がどこにいる? 拒否権はないぞ、鈴鹿。拒むならすぐにでも殺して喰うぞ? ああ、()()()()()()で喰うのかは、想像に任せておいてやろう」

 

 

 恥辱を覚えたのか痩身を震わせる乙女の肩を掴み、抵抗されるのを無視して強引に抱き寄せると、大嶽丸は彼女の耳元に囁きかけた。

 

 

「――喜べ。お前の使命に、この俺が形をやろうってんだからなァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





※Fate時空では第四天魔王は天帝。鈴鹿御前は天帝の娘ということになっており、また鬼としての属性も持ち合わせている。

※一説では大嶽丸が所有し、力の源としていたとされる三本の宝剣「大通連、小通連、顕明連」は、Fate時空では最初から鈴鹿御前が所有していたことになっている。つまりそれら最上位宝具に近い三本の宝剣がなくても、大嶽丸は鈴鹿御前や坂上田村麻呂を寄せ付けない力を持っていたことになる。

※この先、何があろうと、剪定事象はありません。なぜなら行き詰まらないからです。



サクサク展開が進んで中身が薄いのは仕様です。話の本筋じゃないんで巻いていきます。
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