吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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転生者は、前世の記憶が曖昧です。あえて言えば一般的な常識とかをインストールしているだけです。つまり、TSかどうかも定かではない(笑)


01

 ふと、気付いてしまうときというものがある。

 それまで何も疑問に思わなかったのだけど、いきなり感じる違和感。

 誰かに見られている……そんな感覚。

 

「どうしたの?」

「えっ?……ううん、なんでもないよ」

 

 なんだろう……気のせいなのかな?

 いきなり動作を停めた自分に、ベッドの上に座る少女は振り向く。頭にはニットの白い帽子。色々とデコられててかわいく仕上がっている。

 私よりは少し年上だろうか。肌は真っ白でとてもきれいだ。後で聞いたら四つも上だと聞いて驚いた。それにしては、小さすぎたからだ。

 

「さっ! もう少しでサビだよ。気合い入れてこ〜」

 

 目の前の少女もすぐに視線をテレビへと戻し、熱狂的にサイリウムを振り回す。

 

「ハルちゃん、キレが悪いよっ、もっと気合い入れて!」

「う、うん(あせあせ)」

 

 この子の名前は、天童寺さりなちゃん。

 アイドルの動画を見てははしゃいでいる……そんな普通の女の子だ。重い病を患っているとは思えないほどアグレッシブである。

 

「うにゃほい♪」「うにゃほい♪」

 

 いっしょに手を振り、声を出す。

 初めはよく分からなかったけど、なんだか楽しくなってくる。

 

 そこに声がかけられた。

 

「おい、ちょっと声、大きいぞ。周りに迷惑だろ」

 

 ガラリと部屋に入ってきて嗜めるのは白衣を着た大人の男性。

 

「せんせぇ~。一緒にやろうよ」

「今は回診中だからダメです。というか、ハルナ。さりなちゃんに無理させるなって言ったろ?」

「は、はい……ごめんなさい」

 

 その言葉に意気消沈する私。さりなちゃんの話し相手として連れてこられたのに、一緒に騒いでしまった。さりなちゃんの容態が悪くなってしまったらどうしよう。そう考えると申し訳なく思ってしまう。

 

「は、ハルちゃんは悪くないよっ 私が誘ったんだし!」

「元気なのはいいけど、加減は覚えような」

 

 ぽん、と肩を叩くとテレビのボリュームをほんの少し下げる。唇を尖らせて不満を表すさりなちゃん。かわいいなぁ。

 

 二、三言会話をする彼とさりなちゃん。アイドルの話だったけど、彼は私よりずっと詳しい。もしかしてアイドルが好きなのだろうか?

 

「じゃあね、せんせ♪」

「おう、またな。あ、ハルナ。今日は定時だからな」

「はい、分かりました」

 

 そう言って出ていく彼を見送る私たち。

 

「はあ〜、カッコいいなぁ。相変わらず」

「……そうです、かね」

「アイドルオタクなのを隠しもしない堂々とした振る舞い、さりげない優しさ♪ 顔もまあ良さげだし」

 

 さりなちゃんの中での評価はわりと高いらしい。同居している身としては『そんなかなぁ?』と疑問に思わなくもない。

 

「いいなぁ、せんせと一緒に暮らしてるんでしょ? うらやましい」

「はあ……」

 

 その言葉に悪意はない。それは分かってはいるけど、ちくりと刺さってくる。望んでそうしている訳では無い、と。

 

 

 

 

 

 

 面会時間は午後四時まで。彼の上がる時間までは一時間ほどロビーで待たなくてはならない。

 

「あら、ハルちゃん。吾郎先生待ってるの?」

「はい」

「出待ちだなんて、先生も隅に置けないわね♪」

「言えてる♪」

「じゃあね、さようなら」

「はい、お疲れさまでした」

 

 

 

 帰宅する看護師さんたちとの何気ない挨拶。少し苦笑するようにも見えたけど、それも仕方がない。こんな子供に『お疲れさま』なんて言われても、面白いわけもないだろう。

 

「おまたせ」

 

 しばらくしたら、彼がやってきた。

 少々草臥れたシャツを適当に巻いたネクタイで留めている様子に、かなり忙しかったと伺える。

 一緒に病院の玄関を出ると、ふわりと花びらが落ちてきた。白木蓮の花びらだ。少し離れた所に咲いているのに、ここまで飛んできたらしい。

 もう、冬も終わりだ。

 

 

「今日は食材もないから街におりて夕飯にしよう」

「え、いいんですか?」

 

 研修医という立場上、彼の収入はそんなに多くはない。特に私という厄介者もいるのに。

 

「いや、正直言うと今日は準備するのも億劫なんで。手抜きって奴だな。そんで、何がいい?」

「じゃ、じゃあ回るお寿司で」

「オッケー、かしこまりっ」

 

 彼のあとをついて暫く歩くと、古びたお家に辿り着く。ここが、私の暮らしている家だ。

 

 両親を失った私を引き取ったのは祖父母であり、彼ではない。二人が亡くなった後を引き継いだだけである。つくづくお人好しだな、と思う。

 

 彼に続いてガレージ代わりの納屋に入ると、カブトムシを連想させる車に乗りこむ。

 

 

「さりなちゃんとはどう? もう仲良くなった?」

 

 助手席のチャイルドシートに座りシートベルトを締めていると、彼がそんなふうに聞いてきた。

 

「どうでしょうか……?」

「アイの応援、一緒にやってたじゃないか。まんざらでも無かったようだぞ」

「それは……」

 

 さりなちゃんのやることを止めたくなかったから、仕方なく、である。存外楽しかったのは内緒だけど。

 

「付き合っただけですよ」

「ふぅむ……なるほど」

 

 車が動き出すと、会話も途切れる。

 山道なのでちょっとした不注意も大事故に繋がる。特に夜の道は苦手だ。だけど、彼は淀みない操作で山を下っていく。

 

「……もうしばらく、付き合ってあげられるか?」

 

 呟くように彼は言った。

 私自身に問題はない。ただ、部外者である自分がそんなにお邪魔しても良いものだろうか?

 

「あの子の両親、全く来ないらしいんだ」

 

 ……聞けば、ご両親は東京にいるらしい。宮崎の山の中に来るのはなかなかしんどいのかもしれない。それでも、彼女のためにはそれくらいはして欲しいとも思う。

 

「いいですよ。学校が終わったら暇ですから」

 

 そう、嘯くように答える。

 だけど懸念もあったので確認しておかないと。

 

「でも、院長先生や院内各方面にきちんと通達して下さいね。本来、部外者がうろついちゃあダメなんですから」

「そっちの方は、問題なく。ハルナは可愛いからな」

「っ!」

 

 ま、またこの人は……。

 

「可愛くなんて、ありませんっ」

「いや、可愛いだろ」

「〜〜〜」

 

 まったくもう。

 さりなちゃんにもそう言っているくせに。

 看護師さんたちにも言ってるくせに。

 

 

 その日のお寿司は、少し高いお皿を取ることで納得した。これくらいはしてもらわないと、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──しばらくして、さりなちゃんは息を引き取った。

 

 お別れのことばも伝えられないままに、容態が悪化して。

 

 

 

「……」

 

 

 

 胸にぽかりと穴が開いたような感じ。

 常ながらぼうっとすることの多い私だけど、そういうのとはまた違う感じだ。

 

 これが、友達との離別というものか。

 こんなにもさみしいものだったのか。

 虚ろな前世の記憶には、こんなものは無かったと思う。

 

 「ハル……」

 

 彼が言葉をかけてくる。だけど考えあぐねて言葉が途切れる。彼にしても複雑なのだろう。

 きっと、引き合わせるべきではなかったと考えている。あなたは優しいから、自分に責があると思っているのだろう。

 

 だけど。

 実のところ、私はそんなに落ち込んでいたわけではないのだ。

 

 何故かって?

 

 それは、確信があったから。

 心は悲しみに満ちているけど、胸に疼くかすかなものがそうだと確信させる。

 

「……さりなちゃんは、生まれ変われるよ」

「……え?」

 

 彼は訝しむ。それも分かる。そんな訳は無いのだから。

 

 でも、確信出来る。

 

 他ならぬ、自らの身がその証明なのだから。

 

 

 私は軒を出て空を仰ぎ見る。

 もう春だと思っていたのに、雪がちらほらと舞い落ちていた。空は吸い込まれそうに暗い曇天。

 

 まるであの子の事を哀しんでいるようだ。

 

 けれど。

 

 雲の先は見えなくても、はっきりと視えていた。

 

 一等星のように瞬く、星が。

 

 

「また逢おうね、さりなちゃん」

 

 頬を伝うものを拭うこともせずに、私はひたすらに空を臨む。

 

 その瞳には小さな輝きが宿っていた。




雨宮 ハルナ

転生者。現在八歳くらい。亜麻色の髪と琥珀色の瞳。顔の造形はわりといい。
続柄としては再従姉妹。祖母の母方の家族なので名字は違うのだけど、祖父母に引き取られた際に雨宮姓に変更された。

雨宮吾郎

この頃は研修医。祖父母の家に戻ったら家族が増えてて、その祖父母が亡くなったあとはハルナの面倒を見るようになった。守るものが出来たせいか、女の子遊びもしなくなった(切実)
ハルナを病院に連れていくのは本来はやってはいけないこと。なのにそれをゴリ押し出来てしまうのは彼の手腕か、それともハルナの可愛さのせいなのか。

さりなちゃん

吾郎が友達としてハルナを引き合わせたため、少しアグレッシブになった。しかし、吾郎とハルナの関係にやきもきするという要らない感情がインストールされた。かなしいね。
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