吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
「それじゃあ、通しで合わせてみて。フォーメーションは5A」
「「はいっ」」
「新人ちゃん、気負わずにね」
「はい、お願いします」
合図と共に音楽が鳴り始めました。
学校での体育ではそれなりに好成績を維持してきました。アイドルとしての練習が始まってからはランニングや筋力トレーニングにも注力。家や事務所のトレーニングルームでアイやルビーちゃんに指導を受けて、それなりに合格点は頂いてました。
──♪
5人で合わせたサインはB。高峯さんをセンターにして二ノ宮さん、渡辺さん、
「雨宮はもう少し全体を見ろ。動きは悪くなかったけど、合わせるのが課題だな」
「……はい」
「よし、今日はこれくらいにしようか」
「「ありがとうございましたーっ」」
講師の先生がそう言うとみんな一斉に頭を下げて挨拶します。当然、私も倣って。てんでんに私物を回収しつつ撤収するメンバー達。
「どう? 少しは慣れたみたいだけど」
「はあ、どうでしょうか……?」
講師の方がそう仰ります。角刈りに厳つそうな
その、どちらかというとエアロビクスのインストラクターといった方が納得できる身体をしてます。筋肉凄い……。
「雨宮さんはひょっとして人を見るのが苦手?」
「いえ、観察は好きですが」
当然、先生の観察という意味ですが。他の人を観察するのはあまりしなかったかも。こちらから見てると大体の人は顔をそらして逃げてしまうんですよね……わたし、恐がられてる? でも、この講師の方とか社長なんかは気にしてないようだし。いまいち分からないな。
「ダンスは基本的に合わせていくもの。だから人の動きに合わせていく必要がある。どうも君は他のメンバーをよく見てない。だから動きが合わないんだ」
「分かりました、精進します」
「……僕の目は見れるかい?」
少し、いえ、かなり目線を上げて講師の顔を覗き込みます。顔はいかついのに、瞳はやたらとキュートですね。
「ふむ……慣れていけば合うとは思うケド」
ん? なんか語尾が高くなりましたね。
「少しだけ、合わせてみよう。時間までもう少しあるし、僕とやってみないか?」
「、はいっ」
・・・・
「先輩、いま宜しいですか?」
『ああ。アイツの事だよな』
「そうです」
レッスン場の近くの公園から電話をかける青年。使ってる携帯電話がかなり小さく見えるが、それは彼の体格がそう見せていた。
180cmという身長は極めてとは言えないものの一般的な男性に比べても高い。厚い胸板に大木を思わせる脚、携帯など握りつぶさんばかりの腕周りなど、その全てが彼を大きく見せていた。
臨時というのは本当だが、ハルナの適性を見るうえで現在のダンストレーナーには荷が勝つと踏んだ壱護は知り合いの中でも口の固いトレーナーに声をかけた。同じ大学というだけの関係だが、不思議と二人は気が合っていた。同じ芸能関係の仕事についているからというだけではないのだろう。先輩の誘いを断る理由は、彼には無かった。
「結論から言うとB小町には向かないと思います」
『理由は?』
「リズム感は優秀です。ダンス自体も申し分ない。でもネックは協調性の無さ、かな。あのコ、メンバーに合わせるのが下手、というか見てない。心理面でなにかあるのかもしれないけど、心当たりあります?」
『……両親が他界して、引き取られた家の祖父母も亡くなって、残された保護者の男性がこの間、死んだ』
「……ハードモード過ぎないっ?」
『アイも大概だと思ったけどな』
彼もアイの事はいちおう相談されて知ってはいる。世の中にはクズはいくらでもいるようだと絶望したものだが、それ以上の存在がいるとは。人の世の悪意そのものに憑かれているとしか思えなかった。
「電話じゃ時間かかりそうですね。今から会えません?」
『今日は……まあ、いいか。いつものトコで20時くらい、先にやっててもいいぞ』
「ええ。それじゃ」
パタリ、と携帯をしまうと一息つく。思い起こすのは、先程の少女だ。
亜麻色というべき淡い茶色の髪は少し長めで艷やか。肌は血色良く、少なくとも健康面は問題ない。立ち姿は深窓の令嬢を思わせた。姿勢も良く感情を見せないその佇まいは、厳しく躾けられた子のように感じたのだ。
だが、実際はそうではなかった。
良家の子女というには余りにも過酷な人生を強いられていた。過酷な環境に置かれた人間は、往々にして躾や教育がなされない事が多い。目上の人に礼を尽くし、注意に耳を傾ける事に抵抗を感じる。そういう年頃のはずだ。
「面白い素材、ではある」
特徴的なのは、その眼だ。琥珀色の瞳の奥に輝く小さな光があるのだけど、その光は喩えれば月のような冷たさを秘めている。
目を合わせた時に確信した。彼女は、少なくとも自分を、またメンバー達を見ていない。どうでもいい存在だと認識しているフシがある。
それだけなら可愛いだけの鼻持ちならない子供だ。驚くのは踊りのセンスだった。
正確なリズムとキレのある動きがまるで舞踏のように繰り出される。社交ダンスとか習ってるならまだ分かるけど聞いた話では素人のはず。先輩が聞いてないだけかもしれないと結論は保留にした。
鍛えればB小町の誰よりも上手くなると確信は持てる。きちんと舞踏を学べる学校などに進学することを強く薦めるべきだと感じた。
「逸材っているんだな。ある意味、あの子以上かもしれない」
アイドルというのは歌を歌いながら踊るもので、その本質は歌であり、踊り、そしてそれを違和感なく全体に落とし込まなければならない。
「先輩が保護してるならアイドル路線に乗せようとするだろうけど」
チームワークという概念が無い。一人で生きて一人で完結してるようなあの子は、他者と協調するなんて出来るのだろうか? その関係を構築するのは容易ではない筈だ。
「B小町でなかったら、まだマシなんだが」
「そんな中にあんなの放り込んだらどうなるかは分かりきっている」
新メンバーとしてやるには経験が不足している。しかも素質はかなり高い。不和が起きるのは明白で、メディア露出を早急にするのであれば方針を変えた方がいいと感じた。
「でも、面白そうな子なのは確かだ。やっぱり先輩、見る目ある」
くすりと笑みがこぼれる。
先輩といると、退屈しない。そう、彼は思っていた。
待ち合わせの某所までここからは約5km。汗をかくには丁度いい。彼は小さなワンショルダーバッグを担ぎ、夕暮れの街を走り始めた。
・・ヘ( ̄ω ̄ヘ)・・
「へぇ~、そんな事あったんだ」
「はい、まぁ、全然ダメでした、けど」
「ハルちゃん踊り上手なのにね」
「……アイさんとなら、合わせられるんだけど。他の人とは、ちょっと」
「むぅ、アイお姉ちゃんっ」
「……アイお姉ちゃん」
「よろしい♪」
事務所のトレーニングルームで練習していたら、アイさんが入ってきましたので今日のことを少しお話しました。ちなみに、アイさんの方はドラマの収録。ドラマのオファーは初めてだとかで双子ちゃんも連れてでかけたそうです。
「双子ちゃんは元気でしたか?」
「うん♪ スタッフさんとかにちやほやされててルビーはちょーご機嫌だったよ。アクアも監督さんかな? に、気に入られたみたいで名刺とか貰っちゃってて♪ あれは驚いたな〜」
ルビーちゃんは相変わらずですね。アーくんの方はちょっと気に掛かります。監督と言えば現場の責任者。そんな人がなんの意味もなく名刺とか、乳児相手に渡すはずありません。
「あの、その監督という方。まともな方なんでしょうか?」
「え? う~んと、嘘はついてないと思ったよ?」
「そうですか」
アイさんの真贋判定はかなり高いので、信用してもいいとは思いますが。一度、お会いしたいですね。
「少しやってみる?」
「いいんですか?」
「可愛い妹の頼みなら、断れないよね。ちょっと着替えてくる♪」
そのあと、アイさんとはちゃんとうまく出来ました。だとすると、やっぱり私のせいなんでしょうね。
先生のことだけ考えていられたあの時は……こんなこと悩まなかったのにな。
雨宮ハルナ
合わせるの下手とかどこのぼっちかな? まあ、ぼっちなのは事実ですが。人と関わり合う事が無いわけではなかったのですが、その殆どが大人ばかりだったので同世代と打ち解けようとするのは苦手。
B小町メンバー
あまり設定がないので独自設定使用していきます。米々沢(めめざわ)さんは『めいめい』のつもりです。仕事だからレッスンはするけど、新人に敢えて合わせるつもりはありません。ぎくしゃくした内情を変えられるかどうかは微妙かな?
謎の講師
ガチムチな講師って、あの人しかいないじゃないッスか(草)ここでは壱護の後輩という設定にしてます。たぶんまだ大学出たてくらいの年齢かと。つぶらな瞳がキュートらしい(笑)
星野アイ
ちゃんとコミュニケーション取れてるから、ダンスを合わせられる。『ハルちゃんと合わせてると楽しいよ♪』。ちなみにドラマはやっぱり大幅カットを食らう模様。目立ちすぎるのも良し悪し。