吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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前回の続き。
あのまま終わると穏やかに終わるのだけど、そうはいかない推しの子時空(笑)


23

「ようこそおきゃくさん。かんげいします……どうぞゆっくりしていってください……」

 

 (おど)ろしい雰囲気を醸した演技が冴える。有馬かなの演技はやはり凄い。伊達に十秒で泣ける天才子役とは呼ばれてないと感じた。この歳にしては滑舌も良く、子供特有の舌足らずな感じもない。俺たちも大概だと思ったけど、もしかしてコイツも転生者なのかと思わせる何かがあった。

 

 さて。それはさておいて、俺の演技だ。どうしようか。幼児だし、適当でいいだろとか考えてたけど、一つ年上とは言え有馬がこれだけの演技をしてくると少し対抗心というものが芽生えてくる。

 

 でもなー。ノープランなんだよな。深く考えてなかった。アイのバーターとは言え幼児だからな。演技とか前世でも学んでないし。高校の時の文化祭でやった劇での通行人Aくらいしか経験がないな。

 

『下手に感情込めなくていいの。モブは目立たないようにするのが大事なんだよ』

 

 そう言ってくれた監督役の女子生徒を思い出す。たしかにその通りだ。感情が有ればいいってものじゃない。俺はこの映画のなかの舞台装置。その方向でいこう。

 

「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 俺はハルナのように無表情を貫けるほどではない。それはそれで感情を殺すという演技をするってことになる。

 

 なら、なるべく自然に話す。

 家でのアイやハルナ、ミヤコや壱護に話しかけるときと同じように。相手の女優さんに、それらの姿をダブらせて見ればそれは自然に出来るはずだ。

 

 カットの合図は入ることなく、俺の出番は終わった。大丈夫だったかと監督を見ると、顔をニヤけさせていたので問題なしだろうと胸を撫で下ろす。

 

「すごいねー。お姉さん、ぞくってきちゃった」

 

 女優さんがそう言ってくれた。どうやら心配する必要は無さそうだ。

 

「良くないわ」

 

 通り過ぎざまにそう呟いた有馬。そのまま監督にやり直しを要求を始めた。

 

「あの子より、全然ダメだった……ねえ、もいっかい。やらせて」

「いや、問題無かったから」

「お願いっ、もう一回だけ、やらせてよおっ」

 

 その言葉はまるで悲鳴のようで。

 悪くもないのに胸を締めつけられた。

 

「アーくん。お疲れさまでした」

「ハルねー……うん。ちょっと疲れたかも」

 

 そう言って抱っこをしてくれるハルナ。もうすっかりこの姿勢も慣れてしまった。監督に縋り付く有馬を眺めてるとハルナが声をかけてきた。

 

「アーくんに悪気はないでしょうけど、彼女には少々刺激が強すぎたかもしれません」

「刺激……?」

 

 そんな事をした覚えもないのだけど、彼女はにこりと笑って答えてくれた。

 

「おそらくは、あの子は誰にも負けたことが無かったのだと思います。聡明で優秀で、褒められて育っていたのでしょう」

 

 それはそうだろうな。実際、彼女は天才だ。二歳ほどの幼児がひらがなとは言え台本を読んで、演技をする。そんなの居るはずがない。褒められるのは当たり前、叱られるなんてあり得ない。

 

「そんな彼女が土を付けられた訳です。悔しく思うのは当たり前かと」

「でも、おれ、そんなうまくなかったよ」

 

 これは本心だ。特に何かをしたわけでもない。ただ台詞を読んだだけに過ぎない。

 

「わたしも。ゾクッとしました」

「ハルねーも?」

「はい。何とも不思議な世界に惹き込まれるような、そんな感じでした」

 

 演技なんて、してないんだけどなぁ。

 

 

 

 

 結局。リテイクは成らずに有馬はしょぼくれてしまった。有馬の母やスタッフの女性なんかが宥めてはいるけど。それを遠見に俺は監督の座るベンチで彼と話していた。

 

「早熟。役者に一番大事な要素は何だと思う?」

 

 実力とセンス、やる気に努力の量とか思いつくものを答えたけど、彼からの回答は違っていた。

 

「結局のところ、コミュ力だ」

「コミュ力?」

「独りよがりにリテイク要求したり、若輩なのに大御所ぶったり。そういうのに未来はない。相手との相互理解が大事なんだ」

 

 あの子にお灸を据えたかったのかと聞いたら『そんなんじゃない、結果的にそうなっただけだ』と言われた。

 

「そういう意味では、お前の演技は俺の意図を理解したぴったりの演技だった。よかったぜ」

 

 理解した、かな? ただ単に考え抜いて普通にすればいいと、言ってみれば考えを放棄した結果出来た偶然の産物だ。そこまで褒められる事じゃない。

 

「演技はあの子の方が凄かったと思うよ。こっちはいつも通りにやっただけだし」

「でも、俺はそうしろとは言ってない。意図を読み取るのも一つのコミュ力だ」

 

 ……なるほど。裏にある意図を読み解くのにコミュ力は必要だな。今回の俺は的外れだったけど、その意図を読もうとした姿勢は間違ってなかった、という所か。

 

「お前はすごい演技よりぴったりの演技が出来る役者になれ」

 

 そう言って頭を撫でる監督。アイやハルナと違うゴツゴツとした手のひらの感覚は、別の郷愁を感じさせた。はるか昔の、思い出したくもない記憶。

 

「いや、役者にはならないし」

 

 アイやハルナにもそう言われていたので、照れ隠しでそう答えた。そうかよ、と機嫌良さそうに監督は手元の作業に戻る。

 

 夕暮れに有馬の姿が霞んで見えた。

 

 

 

 

・・(⁠ ⁠・ั⁠﹏⁠・ั⁠)・・

 

 

 

「アクア……一人前に芸名なんだ」

 

 移動するワゴンの中で脚本を睨みつけるかな。その瞳は赤く腫れぼったくなっていたけれど、すでに闘志に満ちていた。

 

「覚えたわ。次はぜったいに負けない」

 

 アクアと再会するのはかなり後になってからになるのだが、彼女は再戦の時を心待ちにしていた。

 自分と張り合えるだけの子役の登場。それまでとは違う心境の変化に、少なからず喜んでいるようにも見えた。

 

 

 

「無事に終わったんだって? よーしよーし♪」

「いや、そんないいから」

「ママぁ、わたしもわたしも♪」

 

 家に帰り着いてから、アイにもみくちゃにされたアクアは少しげんなりとしていた。ルビーは自分にもとせがんでるけど、アイはとりあえずアクアを労うのを優先した。

 

「ふー、疲れたぁ」

「お疲れさまです、ミヤコさん」

「ハルナちゃんもお疲れ。せっかくの日曜のオフなのにごめんね」

「いえ。いい経験ができました」

 

 ミヤコとハルナはダイニングでお互いを労っていた。ミヤコにしても運転とか疲れていたし、ハルナはハルナで二人の幼児のお世話があった。疲れていて当然だ。今日の夕御飯は出来合えのお寿司で済ませるつもりである。小さな子にも食べやすいのがお寿司のいいところでもある。

 

「実際、アクアがあそこまで出来るとは思わなかったわ」

 

 ぽつりとミヤコがこぼした。

 

「ハルナは気付いてた? あの子の才能」

「どうでしょうか……役者が向いてるとかは分かりませんが」

 

 リビングのほうを向くハルナ。

 

「楽しくしてくれたら何でもいいです。役者でもアイドルでも。他の人のために身を削るような人にならなければ、それで」

「……いや、その感想も重いけど」

 

 ミヤコは肩をすくめた。

 

 たしかにその通りだ。

 親が芸能人で、芸能事務所に関わりがあると言っても、その子達の将来とは関係はない。全く違う業種に就いたりするのはよくある話だし、親の側のエゴで縛り付けるのは間違っている。

 

「あなたの方が、親に向いてるわよ」

 

 ぽつりとついた一言に、ハルナは申し訳無さそうに答えた。

 

「私には、親なんて務まりませんよ」

 

 先ほどまでの朗らかな顔つきが、すっと姿を隠す。無表情な瞳には小さな月が見え隠れしていた。




星野アクア

なろう系主人公ムーブで有馬かなを退けた。「おれ、なにかやっちゃいました?」
原作アクアと比べると少し思慮が浅い気がする……なんでこうなった? 甘やかすハルナのせいに違いない(笑)

有馬かな

良く考えなくても分かる天才。色々と早熟過ぎて監督もキャスティングしたけど厄介だなと思ってたフシがある。この頃、あかねはまだデビューもしてないしライバルと言える存在は皆無。そんな矢先に現れたアクアに執着しないはずはない(断定)

雨宮ハルナ

有馬の心情をアクアに解説したり、アクアの将来を何でもいいから身体を大事にしてとか言ったり……やっぱりお前、親に向いてるよw

監督

原作においてアクアの父親ポジの人。早熟をさらに熟成させてどうする気だ(笑)まあ、才能ある存在を育てたいと思うのは業界の人間の性なのかもしれない。有馬にも同様の理由で接しているけど、女の子は分かりづらくて手をこまねいていたのも事実。

星野ルビー

いたのか、お前()というくらい存在感無かった。まあ、ここのルビーちゃんはシリアスな空気をブチ壊すための存在だし(ひどい)

斉藤ミヤコ

地味に疲れる仕事だった。あんまり長距離の運転はしないので。原作ミヤコよりは楽してるけど。

星野アイ

最後だけ登場。ほとんどルビーのために出したけど、本人はアクアを労いたいようでした。まあ、初仕事のプレッシャーは分かるからね。


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