吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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前回の続き。ようやく、デビュー……できてない? 長すぎて分割せざるを得ないのです
m(__)m

冒頭はアクア視点。そのあとはハルナに変わります。


26

 二人が並び立つステージ。そこはグリーンバックが隙間無く覆い、二人を照らす照明やマイク、カメラなどが取り囲んでいる。

 

 アイは緊張した様子もない。場数踏んでるから今更なのだろうけど、もともとアイはこういうのに強い。見られる側に立つと途端に強キャラ化するのだ。まさに最強で無敵の完璧なアイドル。

 

 対してハルナはというと、平常運転のように見えるけどわずかに緊張が見られる。具体的にはいつもより無表情が固い。さすがに厳しいのではとディレクターが言ってるみたいだけど、社長はそのまま続行を指示した。

 

「ハルちゃん、緊張してるよね?」

「ああ。たぶん未だかつてないほどだと思う」

「……いつもと変わんないと思うんだけど?」

 

 ミヤコには分からなくても、ルビーは感じ取っていた。ハルナはああ見えて打たれ弱いし、わりと凹む事がある。そして、普通に緊張もする。ただ表情に出ないだけで、細かい所には出てるのである。微かな体の硬直、瞬間的な判断力の遅れ。そういうのが表に出てくるのだ。

 

「あう」

「カーット」

 

 ハルナがターンをミスってコケた。変な転び方ではないので大丈夫そうだけど、やはり緊張してるのは間違いない。

 

「一旦、休憩にしよう」

「休憩はいりまーす」

 

 ディレクターの指示で一度休憩に入る。Aメロが終わるまでに三回ミスってるわけだから、かなり長丁場になりそうな予感だ。

 

「す、すみません」

「大丈夫だよ、ハルちゃん。練習通りにやれば問題なしっ!」

 

 アイはそう言うけど、ディレクターもADも不安そうな顔をしてる。当然、それを見る広告代理店のPとか……あれ誰だっけ? さっき紹介されてない人もいる。

 

 ロマンスグレーの髪を上品に撫でつけ、仕立ての良いダブルのスーツに身を包む紳士。あんな人、いたか? 顔に感情らしきものが見て取れない。怒ってもいないし、呆れてもいない。なだらかな海のような感じと言えば良いだろうか。

 

 俺が視線を向けていると、彼はその場から立ち去った。なんなんだ、一体。

 

「ほら、アクア。ルビーと一緒に労ってこい」

 

 そこに壱護が促してきた。ルビーはすでにアイのもとに行っている。ちょっと長く考えすぎてたか。

 

 ちょうどいい機会かも。さっき気になっていた事を聞いてみよう。

 

「なあ。ハルねーをデビューさせるって本気なの?」

「本気でなかったらこんな事させてるかよ」

 

 フフン、と鼻で笑う彼は本当に厭味ったらしく見える。こう見えて人情に厚い人間なのに偽悪ぶるのだから、コイツも大概な嘘つきだ。

 

「どう見ても早すぎるだろ。こういうのって場数を増やして慣れさせるのが普通なのに。ハルねーがいくら優秀だとしても潰れちまうよ」

 

 思わず睨んでしまうけど、幼児だから迫力も何もない。

 

「お前ェ。歳のわりには考えてるけどまだまだだな」

「なに?」

 

 こうして挑発までしてくる。やっぱ悪人ムーブが板につき過ぎてる。

 

「ホンモノってやつはどんな条件でもやっちまうんだ。アイもそうだったからな」

「……」

 

 それは、俺も知っている。

 かつて中学生モデルを集めただけの、ろくにレッスンもしなかったのに、口コミだけで伝説にまで登り詰めた逸話。キャパ200%という立ち見まで出した上に観客を熱狂に叩き込んだそのグループの初ライブ。

 

 そのセンターのアイの伝説。

 

 宣伝はわずか二百枚ほどのフライヤーだけ。その当時は今ほどSNS界隈も盛んではなくて、ネット掲示板が主流だった。

 その口コミだけで、わざわざ群馬から出てきた奴もいたそうだ。当日だぞ? あり得ない話だけど、あの当時はアイドル戦国時代と言っても差し支えない頃で、地下アイドルなんて無数に存在していた。

 

 なのに。

 そんな事を成してしまったのだ。

 

 インパクトだけで言えば、テレビに出てた有象無象のアイドル達よりも鮮烈で。

 オレもそれに焼かれたのだ。ネットでの話を聞いて、それから色々と調べて。そしてどハマリしてしまった。

 

 反響は凄かった。地下アイドルなのにニュースにも取り上げられて、その名を天下に知らしめた。すぐに歌番組にゲストで呼ばれ、ハルナと一緒にテレビの前で応援したのはいい思い出だ。

 

 そういや、ハルナが爺さまの家に来てから少しした辺りのことだったな。それまではどう接したらいいか手をこまねいていたのだけど、それがきっかけでもあった。

 

 ハルナとの付き合い方も、なんとなく分かってきたんだっけ。

 

「……なあ。励ましてこいって言ったよな?」

「労えって言ったはずだけど、まあ似たような意味だ。何にしてもあのままだとマズイからな」

「分かってるじゃんかよ……」

「カカカッ」

 

 またムカつく笑い方しやがって。帰ったら腰踏んで痛めつけてやる……あ、今の俺だとただのマッサージになりそうだな。

 

 まあ、いいや。

 今の優先はハルナの方だ。

 俺はルビーをスタジオの影に呼んだ。

 

「なに? わたし忙しーんだけど」

「ルビー。アレ持ってるか?」

「アレって、?……あ、うんっ! あるよっ!」

 

 さすが我が妹。生まれついての厄介オタは伊達じゃないな。俺はブツを受け取ってハルナ達の前へと進む。隣のルビーも頼もしそうな笑顔。こういう時は頼りになるな。

 

 恥とかそんなの、関係ねえっ! どうせこっちは幼児だぜっ!

 

 

 

 

 

 

・・(´-﹏-`;)・・

 

 

 

 

 うむむ……これはいけませんね。

 まさかこんなに身体が動かなくなるとは。こんなに緊張するなんて、小学校の学芸会の劇の時くらいでしょうか。まあ、あの時は人数も多かったし、観客も少なかったし……そう言えば先生はあの時、観に来れなかったんだよなぁ。

 

 あの時はホッとしたけど、帰ったらやっぱり観てほしかったと思ったり。我ながら子供だな、と懐かしくなります。

 

 

 まあ、今も世間的には子供でしたね。中身は何歳なのか、わたしも知らないし。

 

 

 

 ──そうなんですよね。

 

 

 わたしって誰なんでしょう。

 

 本当に『ハルナ』なんだろうか。

 

 

 本当の私はもっと大人、もしくは老人かも。女ですらないのかもしれない。ひどくあやふやな存在なのだ。

 

 ──そんな私が、アイドルなんて。

 

 悪い冗談のような気がした。

 恩義があるから社長の勧めに乗ってはみたけど……B小町の方たちとも未だ打ち解けていないし。

 こうしてアイさんの足を引っ張ることしか出来てない。

 

 ひどい悪夢に中にいるみたいだ。

 

 私みたいな田舎者は、田舎でひっそり暮らしてた方がよかったんだ。

 

 先生と、二人で。

 

「せんせい……」

 

 ──どうして、いってしまったの。

 

 あなたがいたら、私はこんな事しなくても済んだのに。

 

 あなたがいたら、私は私のままでいられたのに。

 

「ぐす……」

 

 ──なんで、こんなことしてるんだろ。

 

 貴方の側に居たかっただけなのに。

 

 貴方のぬくもりが欲しかっただけなのに。

 

 もう、限界だった。

 

「ハルねーッ!」

 

 

 え……

 

 闇を切り裂くような、鬨の声。

 引かれるように目を移すと、そこには。

 

 サイリウムを振り回してヲタ芸を披露する双子ちゃんたちがいた。

 

 光が尾を引いて流れる様は、まさに芸術的な作品のようで。その躍動感は、かつて見た乳児の頃の比ではなかった。

 

 身体を伸ばしてサイリウムを掲げ。もう一方の手は規則正しい円を描き出す。

 右下、左下にクロスしたかと思えばそのままくるりと回転して大きな円を描き出す。

 

 それは、とても幻想的で。

 

 とても、心を揺さぶった。

 

『やっぱり……』

 

 

 まだ小さい。

 誰のことも信用出来なかったころ。

 テレビの前で大の大人が何やってんだろうと疑問に思っていた。

 

 

 

『……ばかみたい』

『いつまでもそのままじゃあ楽しくないぞ?』

『……たのしくない?』

『そうだ。辛いことばっかりで楽しくないだろうけど。そういう時は、無理やり笑うんだ』

『むりやり……わらう?』

 

 

 その笑顔が。

 その楽しそうな姿が、いつの間にか。

 

 私の氷を溶かしてくれていた。

 

『なんでもそうさ。形から入るんだ。本質は後でいい。何かをして、それから考える。そうすれば、あの時ああすれば良かったのにとか、考えられるようになる』

 

 笑顔はあまりうまくなかったけど。

 不思議とこの言葉は受け入れることが出来た。

 

 彼の真似をしてヲタ芸をしてる時は、彼を理解できると思ったから。

 

 そして、楽しかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「がんばれ、ハルねーっ!」

「わたしたちもがんばるからぁーっ!」

 

 

 ふとした回想から戻ると。

 双子ちゃんのヲタ芸は佳境に入りつつあった。

 

 あの時より少し大きくなった二人は自分で立って。

 

 せいいっぱいにサイリウムを振り回している。

 

 アクア君よりもルビーちゃんはキツそうだ。アクア君は常日頃から身体を動かしてるけど、ルビーちゃんはあまり得意ではないらしい。その分体力が少ないのだ。

 

 でも、懸命にアクア君についていってる。

 遅くても、遅れても。

 それでも続いていこうと諦めてなかった。

 額にいっぱいの汗をかいて。

 

 それでも。

 やめようとはしてない。

 

 ──こんな子どもたちが出来るのに。

 

 わたしは、何を恐れてたのだろう。

 

 失敗による挫折か。

 

 期待に添えない無力感か。

 

 それとも。

 

 

 ──ちっとも前に進めてない情けない自分を知られることが恥ずかしいのか。

 

 

 双子ちゃんたちの動きが段々鈍り、ルビーちゃんが膝をつくとアクア君がそれを支えるために中断した。

 

「ぜ、ぜい……」

「は、はふ……」

 

 支え合う二人を見る。そこにはたしかな絆があった。兄妹という繋がり以上の、目に見えないなにか。

 

 それに羨望を感じつつも、それ以上に奮い立つものが、私の中を駆け巡る。

 

 パァン

 

 頬を叩き、気合を入れる。

 

 ずっと年が下の子どもたちが頑張ったのだ。年長者が気張らなくてどうするんだ。

 

「もう一度、お願いします」

 

 やってやる。

 流されるわけじゃなく、自分の意志で。

 

 ──先生に笑われる。

 

 いつまでも子供だと笑われるのは、我慢できない。

 

 

『見ててね、先生』

 

 

 

 

 

 

 そのあと。

 収録は一回できっちり終えました。

 

 ご褒美は双子ちゃんからの温かい抱擁でした。




星野アクア

社長とやり合う様子は周りから見ると微笑ましい。けど肝心の答えは貰ってない。詰めが甘いのか、ハルナ優先なのかは本人のみぞ知る。
にしても、コイツらいっつもヲタ芸してんな(笑)
とは言え、ハルナを元気づけるにはこれが最適解。やっぱ先生だわ。

星野ルビー

出かける時は必ずサイリウムを持ち歩く幼女。ていうかサイリウム、誰が買ってきてるんですかね(笑)社長かな? ミヤコが用意するわけないしなぁ。頼もしい相棒として頑張りました。

社長

悪役ムーブしてるの楽しそうだけど、ガチで怖がられると落ち込む面倒な人。アイという絶対的な存在を見てしまい、その経験からハルナに無茶振りしてるが、そこも計算してるのかは不明。
『いや、してねえな(アクア談)』

斉藤ミヤコ

今回は発言すらなし。まあ、仕方ないかな。

星野アイ

練習では問題無かったのにミスってばかりのハルナに、ちゃんと先輩として応援してます。経験の差は大きいね。

雨宮ハルナ

感情が出づらいだけで、普通に緊張もするし落ち込みもします。ネガティブに引っ張られて昔の事を思い出して閉じ籠もりたいと思うけど、双子ちゃんの熱いパフォーマンスによって活を入れられました。

その他の人たち

『やべえ、あの子達の映像残しとかないと』
思わずプロ用の機材を使って高画質の動画を残してしまったスタッフさんは、たぶん悪くないと思います(笑)あんなの、幼児のする動きじゃねえよ、キレッキレじゃんッ!
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