吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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一歳の年末です。いつも通りアクア視点となります。


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 月日が移ろうのが思ったよりも遅く感じる。これが子供特有の時間感覚というものか。

 

 仕事に明け暮れた前世では、季節を教えてくれるのは大自然だけだった。春は花が咲き乱れ、夏は山を深緑に変え、秋は赤や黄色の色を楽しみ、冬は葉の落ちた木々に哀愁を感じた。

 

 一方都会はと言うとそういった変化はあるものの、大きく異なることがある。それは人の営みの証。

 街を彩る広告やイルミネーション。向こうではショッピングモールや商店街くらいしか感じられなかったそれは、都会では規模も大きく。華やかに演出されていた。

 

「うおぉ」

「すごーい。ママたち、おっきい!」

「そうだねー」

 

 洒落た外観の駅ビルの外側を埋め尽くさんばかりの大きな広告。そこには、アイが。その他のメンバーがいた。

 

 化粧品ブランドの大御所、七聖堂が立ち上げた新規ブランド「アビィ」。まさかそんなでかい仕事だとは社長も最初は知らなかったらしい。

 

 いわゆるプチプラという方向性を持ったこのブランド。若い女の子たちには高すぎる化粧品やスキンケア商品を低価格で提供するという戦略である。

 

 もともと地下アイドルからの出発点を持つB小町にとって、ブランドイメージを保ったままでいられるのは非常にありがたい。

 

「ママ、あれ」

「うん。すごいねー♪」

 

 一人ひとりを並べた形の七枚のセンターにいるのは、やはりアイ。その手にあるのは小さな小瓶。目元を際立たせるマスカラを担当していた。

 

 不敵な笑顔と、ミステリアスな瞳。外向きの顔と今の顔とはかなり様子が違って見える。

 

「やっぱ寒いね。二人とも寒くない?」

「俺は平気」

「わたしも大丈夫だよ、ママ」

「こら、外では違うって言ってるだろ」

「あ」

 

 ルビーはあいも変わらずそそっかしい。というかこれくらいが普通……いや、上出来か。だいたいこのくらいの子供はワガママだし、聞き分けができてる分だけマシだよな。つくづく妙な子供だと思うのに、アイは全く頓着した様子はない。

 

「いいよ。おおきな声じゃないし。それにわたしも変装してるもん」

「わたしもだよ」

「お揃いだね♪」

 

 伊達メガネに茶髪のウィッグ。マスクまでしてればだいたい印象は変わってくる。街に出る時に変装するのはもう恒例になっていた。

 

 それは俺たちも同様だ。金髪の双子とか目立つ要素だらけなので、ニットの帽子を目深に被って伊達メガネだ。一歳児用の伊達メガネなんてあるのかと思ったら、意外と売ってるもんだな。

 

 まあ、地味に面倒だし。やっぱりCMなんか出るんじゃなかった。

 

 二人のユニットのPV撮影の時にいたPの案件。結局受けることになったのは仕方ないにしても。それのせいで一般大衆にまで認知される事になってしまった。

 

 今まではアイドル好きの連中か、業界の人間たちだけだったからまだよかったけど、街を歩くたびに呼び掛けられたり挨拶されたり、写真まで要求されたり。

 

『もう二度とやらせんから。ゴメン』

 

 と、社長の方もげんなりしていた。そもそも苺プロ自体の子役事務所じゃないのでそういった方面からも難癖付けられたとか。

 

 まあ、有馬んとこの事務所が間に入ってくれて事なきを得たんだが、アイツに借りを作ってしまった事が悔やまれる。

 

『私と共演出来そうな話があったら、振るからね。そこでもう一度勝負よっ!』

 

 なんかスポ根ものみたいなノリでそう言われたんだが……面倒だなぁ。

 おれ、本当に役者になりたいわけじゃないんだけど。アイも乗り気なのが本当に困る。

 

 そんなわけで、帽子とメガネが手放せない昨今である。

 一年くらいすればほとぼりは冷めるだろうから、それまでの我慢だ。

 まあ有馬の話が通ってしまったら元の木阿彌かもしれないけど、それはそのとき考える。

 

 

「あ、ハルちゃん」

 

 ルビーが雑踏の中なのに目ざとくハルナを見つけた。ハルナも最近変装していたりする。ウィッグで黒髪にするだけで印象ががらりと変わるのが驚きだし、それを見つけ出すルビーの目にも恐れ入る。

 

「え、あれ? もしかして?」

 

 隣りにいた制服姿の女子が慌て始めた。くすりと笑ってからこちらに紹介するハルナ。

 

「こちら、九条一華さんです。わたしと、幼なじみ?」

「幼なじみですわよ! 小学校ほぼ一緒だったじゃありませんのっ!」

「そう言えばそうでしたね(ニコッ)」

「ま、まあいいですわ」

 

 この子もチョロそうな波動を感じる。ハルナの笑顔でそんな手のひら返しとか草としか言えない。

 

 にしても、どっかで見たことあると思ったら何回か顔合わせてたわ。吾郎の頃の話なんでアクアとしては初対面。気を付けないと。

 

 あれ? でも向こうの子がなんでここに? まあ、東京に遊びに来る子もいるだろうけど。修学旅行とかかな?

 

「あらためまして。秀知院学園中等部一年、九条一華と申します」

「秀知院学園て、東京の?」

「まあ。よくご存知ですわね。さすがハルナさんの弟君。小さいのに博識ですわ」

 

 やべ。知ってるからつい答えちゃったけど、アイとルビーが『ほわあ〜』みたいな顔してる。ハルナは平常通りの無表情……ではないか。少し安心してるようだ。友だちというのは本当らしい。

 

 ちなみに秀知院学園は名門校であり、中高一貫校だ。大学もあるけど、ここの卒業生の方が優先されるのでほぼエスカレータと言える。

 偏差値も高いけどそれより要求されるのは門地だ。社会的地位の高い家の子でないとなかなか入るのは難しい、らしい。

 

 外部生で入るのは途轍も無い苦労を強いられ、入学したらしたで学校生活でも苦労するという。

 高千穂(向こう)に居たというなら外部生だろう。それにしてもハルナを追って東京に来たのか?

 

「もともと父がこちらで仕事をしてまして」

「じゃあ、お父さんと離れて暮らしてたの?」

 

 アイの問いに答えた彼女。曰く、高千穂では祖父の家で暮らしてたらしい。彼女の母は身体が弱いそうで、空気の良い田舎で静養してたのだとか。

 

 そういや先輩の受け持ちに九条って女性がいたかな? 言われてみれば面影がある。

 

「いつまでも父を一人にさせるのも可哀想ですし。わたくしも東京の学校に興味がありまして。一石二鳥でしたの」

「へえ」

 

 ドヤ顔で言ってるけど、オレには分かる。こいつハルナを追っかけて東京まで来やがったな? ほんのり耳が赤いし。言葉の端々に嬉しさが滲んでるし。

 

「まさか一華さんが来るとは思ってませんでした。同じ学校でないのは致し方ありませんが」

「受験の際に高等部を受けるという手もありますわよ? 秀知院は外部生も積極的に受け入れてますし。ハルナさんなら余裕ですわ」

「今は副業もしてますから、たぶん難しいのでは」

「むう」

 

 アイドルとしてのデビューもしてしまった以上、理解のある学校でないと進学は難しい。芸能関係に強い学校はあるだろうけど、あいにくと俺は知らない。まあ、ミヤコとか詳しいだろうから相談すればいいと思う。

 

「高校かー。私行ってないからなぁ」

「あ……すみません」

「ご、ごめんなさい」

 

 アイの呟きに謝る二人。いいのいいのと本気で気にしてないアイは笑いながら答えた。

 

「わたし、バカだからさ。学校行ってもあんまり勉強して無かったし」

 

 でも、俺は知っている。

 ハルナに夜な夜な勉強を教えてもらってることを。コツコツと積み上げていくそれは、学校のものより歩みは遅いかもしれない。とはいえ、こんな往来で話す内容でもないし。

 

「ねえ。もう行かない?」

 

 今日の目的は買い物だ。学校が終わるハルナと待ち合わせて、駅ビルのショッピングモールへ赴くわけだ。近くのスーパーや商店じゃないのは、季節柄購入する物のためでもある。

 

「では、わたくしはこれで……」

「一華も来ませんか?」

「でも、お邪魔では?」

 

 こちらを気遣う彼女だが、あいにくと距離感バグ勢しかいないこちらの陣営。

 

「そうだよ。クリスマスケーキ、買うんだ♪」

「とっても大きいの♪」

 

 アイとルビーがそう持ちかける。顔面偏差値は高めだろうけど、こちらの二人も相当抜けてる存在だ。圧は凄かろう。俺は救済のつもりで声をかける。

 

「良ければパーティにも参加してくれない? ハルねーの友達なら社長やミヤコママも大歓迎だろうし」

 

 明らかに動揺していたので、ハルナにも追い込ませよう(悪い顔)ハルナにアイコンタクトを送ると、彼女もニコリと笑ってくれた。

 

「ぜひ、おいで下さい。腕によりをかけておもてなししますので」

「パパに許可もらうから待ってて」

 

 落ちるの早いェな。

 まあ、それも分かる。最近のハルナは見た目も気を遣い始めて、ハッとさせられる場面も少なくない。

 

 それだけじゃなく、二次性徴期もあるのだろう。具体的には言わないけど少しだけ大きくなってきたし。まあ、なるべく見ないようにしてるけど、不可抗力で見えてしまうこともあるんだ。姉弟(きょうだい)なんだし、まあノーカンということで。決してハルナのことを性的な目で見たわけじゃないからな。あと、この内容だけは心の中だけで抑えるようにしないとな。オレの信用問題に関わってくるし。

 

「アクア、どしたの?」

「アイねー、気にしちゃダメ。アクアはよくこうなるの。考え込むとハルねーとおんなじに自分の世界に入っちゃうから」

「へえー」

 

 なんだかルビーに考察されてるとムカつくな。

 

 そんな事してると九条さんが戻ってきた。どうやら時間限定でOKらしい。

 

 きょうはクリスマス・イブ。

 

 去年と違って多少は美味しいものも食べられるに違いない。まあ、幼児用に細かくされたりするだろうけど、その辺は仕方ない。

 

 今年はケーキも食べられる。見るとルビーもアイも、目をキラキラさせて喜んでいた。

 

 ハルナも故郷で離ればなれになった友人と再会できて嬉しそうだ。よかったなぁ。

 

 まだ昼間なのに厚い雲のせいで薄暗い。街灯が勘違いして点灯し始めた。

 

 今夜はホワイトクリスマスだそうだ。まあ、積もる程じゃないらしいし。雰囲気としては悪くない。

 

「メリークリスマス。ハルねー」

 

 幻想的な風景のなか、ハルナにそう言った。

 

「メリークリスマスですね、アーくん」

 

 答えたハルナは、いつもより眩しく見えた。




星野アクア

クリスマス・イブのお出かけ風景。クリスマスケーキは予約済みで受け取りに行くだけですが、あとは夜のお惣菜を少しだけ。料理の仕込みはだいたい終わらせてるのがハルナクオリティ。
赤ちゃん案件のせいで変装せざるを得なくなった。ハルナのアレはお風呂の時に見てしまったらしい。子供はヤクトクだね(笑)

星野ルビー

愛らしい笑顔とファンサのせいで赤ちゃん案件自体は好評だったらしい。愛想極ぶりなのは相変わらず。

星野アイ

広告のおかげか、アイドルに興味のない層にも認知され始めた。おかげで出かける時も変装は欠かせなくなってしまった。双子とのお出かけも回数が減って、今日はその反動のせいで少しテンション高め。

雨宮ハルナ

ウィッグで黒髪に代わったハルナ。少しずつ成長してます。ちなみにこの時は中学校女子冬制服(コート装備)。変装に関しては学校側も納得してくれたらしい。(不審者が近寄らないようにするため)芸能関係は次回へ。

九条一華

田舎の幼なじみで終わると思ってましたか? 最近までそう思ってましたが、面白そうだったので上京させました(笑)秀知院学園中等部への編入とか難易度高そうだけど。少し切れ長な目と風貌から怖そうに見えるけど、実はかわいいもの好き。ハルナにイチコロなのはそういう事(笑)
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