吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
今回はハルナ視点に戻りますが、途中変わったりします。
B小町の不動のセンター、アイ。
テレビの向こう側の住人との邂逅は、今生でも初めての経験だ。
さりなちゃんの言っていた事も理解出来た。この人はさすがに桁が違う。アイドルと出産から育児までを軽々とこなしてやると言い切るその様子に揺らぎはなかった。
まるで意に介してないかのようだ……本当にそうじゃないですよね?
「アイの事は内密にな。学校とかでも話しちゃダメだぞ」
「話すような友達はいませんのでご心配なく」
「いや、それはそれで心配なんだけど。友達ちゃんと作りなよ」
くつくつと煮える鍋に野菜を送り込みつつ、そんな会話をしている。
今日の鍋は水炊き。鶏ガラで取った出汁は既に仕込み済みなので、鍋で具材を煮込んでいくだけである。
友達の居ないことを注意されたけど、なにか問題でもあるのだろうか。とりあえず聞いてみた。
「友達はいないとダメなの?」
「いや、ぼっち宣言はマズイだろう。女の子なんだし」
「……?」
そうかな? 女子の仲間から浮いてる訳ではないと思うけど。まあ、積極的に近付いてくる子もいたけど、いつの間にか距離を取るようになってたし。イジメとかがあったわけでもないし、必要性は感じないなぁ。
「お前は大人びてるからなぁ」
晩酌のお酒をちびりと舐めてそう呟く彼。最近はビールよりも日本酒の方が好みなようで、ゆっくりと飲むようになった。
「そうでもない、よ? ほら、アイドルとか好きだし」
「大人だってアイドルは好きなんだよ。子供扱いすんな」
「へへ♪」
からかうとそんなふうに返してくれる。この空気は嫌いじゃない。
「そろそろ良いですね。頂きましょう」
「おう……うん、イイ出汁出てんなぁ」
取り皿に移したスープを一口して一言。思わず頬が緩む。
前の記憶が曖昧な私だけど、こうした時間には憧れを感じていたようだ。なんとなく、彼女が欲していたものも理解は出来る気がする。
「アイさんも誰かとこうしたいんだろうね」
「……ん。ふぁあ、ほうらな」
豆腐を口に入れたあとに言うからそんな口調になるのに。食べてから言いなさい、というお小言は飲み込んで私も豆腐を口にする。……よし。心のなかでガッツポーズが入った。今回は会心の出来だぞ(喜)
「施設で育ったって、言ってただろ?」
アイさんの事だろう。私は聞いてないけどとりあえず同意しておく。こくりと頷くと彼は話を進めた。
「彼女の母親ってのがいわゆるシングルマザーってやつでな。窃盗で捕まってその間、施設の世話になったっていうんだが」
時折箸を進めつつ、彼は語る。私も同じタイミングでの食事が続く。
「出所してからも、彼女を迎えには来なかったそうだ」
箸が、止まる。
……
なるほど。
彼女は家族に捨てられたのか。
「今は斉藤社長が後見人って事になってるけど、別に同居してる訳じゃないそうだ。家族に思い入れがあるのはそうした事情からなんだろうな」
彼の言葉は続いている。
だけど、私は半分くらいは聞きそびれていた。気も
母親との別れ。
私の場合とは違う。
死別と生別の差はあれど、共に別れたことに変わりはない。
「……でだ。話も聞いちゃったし、後押しもしてしまった君に相談がある」
「……」
「……ハルナ?」
「っ、は、はいっ?」
マズイ、ぼっとしてた。
怪訝そうな顔でこちらを覗く彼に居住まいを正す。
「いや、別に怒るつもりはないけど、どした?」
「い、いえ。べつに、なにも」
「……あ」
そう言って、頭をかく。どうも気付いてしまったらしい。彼は立ち上がると私の側に腰を下ろす。
「……すまん」
「……」
黙る私の頭に彼が手を添える。撫でるわけでもなく、時折、ぽんぽんと優しく叩いてくれる。
母と死別した私。その事を思い出すと体調を崩しがちになる。いわゆるトラウマというやつだろうか。
その度に、彼はこうしてくれていたのだ。元来の優しさなのだろうか。それとも義務感だろうか。
私には計りかねるけど、この際はどちらでも良い。
「……ありがとうございます」
「他人行儀な言葉はやめてくれ。俺にだけは、そんな言葉は使うなよ」
じんわりと伝わる体温。
それは心地よく、いつまでもそうしていたくなる魔法のようだ。
「もう……だいじょぶ」
「本当か?」
「ホント」
だから、自分から離れる。
ずっと寄り添うなんて、無理な話だから。
「さあ、食べますよ、先生。ご飯の貯蔵は十分ですから」
「いや、だからなんでそんなの知ってんだよ……」
それはもちろん、あなたのよく見る掲示板やら動画サイトやらですよ(どや)
ほどなく、夕食が終わり。
夕闇が辺りを覆い尽くす。
病院からも離れているし、この辺には他に民家もない。かすかに響く秋の虫もすっかり大人しくなったので、辺りは静寂に包まれる。
思ったより疲れていたのか、床に入るとすぐに眠りに落ちた。
──暑い。
いや、熱いのだろうか?
抱きしめられた私は顔を見上げる。
そこには、頭から血を流して白目を剥く母の姿。
「ひっ……」
後ろを向くと、運転席に座る父はひしゃげた鉄に押しつぶされて、どうなっているのかも分からない。
周りは炎がちらついていて。
このままでは危ないと思い逃れようとする。
『……ドコに、行くの?』
その両腕が動かない。外せない。
まるで石像に抱かれているようだ。
なのに、声は聞こえてくる。
「愛してるの……一緒にいましょ……?」
懐かしい母の声のはずなのに。
それは怨霊の囁やきに聴こえた。
これは夢だ。
それは分かっている。
──あの時。
私は私に目覚めて、危険から身を守るために母の腕から逃れて車を降りた。
だから、命を長らえたのだ。
「一緒に……賑やかで、楽しそうな……家族に……」
なのに、この母は手を離してはくれない。このままでは……
──はっ
目を覚ますと、いつもの部屋である。
寝汗をかいてしまったけど、その他に粗相はしていなかった。子供の頃は布団を濡らしてしまい、彼に迷惑をかけたものだ。
「……あ」
いつもは隣の部屋で寝ているはずの彼が、何故か隣で寝ていた。
私の手を握って。
この人はいつも、さり気なく支えてくれる。手から伝わる暖かさ。それだけでは物足りないと感じた。
「そんな毛布じゃ、寒いですよ」
秋も深まってきてるんだから。
そんな言い訳は苦しいかな?
掛け布団の中で、彼の顔を眺める。暗くてほとんど見えないけど、ほっとする。
「おやすみなさい」
あの夢は今日はもう見ない。
きっと。
・・(´・ωゞ)ムニャムニャ・・
『な……』
ありのままに話すぜっ
ハルナの具合が悪そうだったから様子を見に来たら、やっぱり悪夢にうなされていた。寝静まるまで手を握ってあげていたのだが、どうやら寝落ちしてしまったようだ。
そして気付いたら。
同衾していた。しかも、俺に貼り付くようにしがみついてた。いやいやいや、なにしてんのハルナさんっ? 慌てるな、落ち着け、まずは深呼吸だ。
スゥーッ
あ、いい匂い。
なんだかミルクのような甘い香りがするな……スンスン
ちがーうっ!
そうぢゃねえだろっ!
とりあえず離れないと。
く、意外な力でくっついてるな。力任せに外そうとすると強く握ってしまって傷つけそうだし。いや、本当に。
おれに……どうしろというのだ……
・・( ゚д゚)パチッ・・
目を覚ますと、目の前に彼はいなかった。代わりに、私の手の中には彼のスウェットが残されていた。
部屋着を脱ぎ捨てて部屋を出たらしい。器用なことをするなぁ。
それを抱くと彼の残り香がした。
ああ、安心する。
障子から差し込んだ朝の光が部屋をほんのりと照らし出している。
さて。
朝ごはん、作らないと。
私は名残惜しいと思いつつも、体を起こした。今日も一日、がんばろう。
雨宮ハルナ
病院内と違って、家では少しくだけた話し方をするようになった。一人で水炊きを出汁から作れる……小学生にしては料理スキルが高いな。
いつの間にか吾郎に安らぎを覚えるようになる。PTSDは快方にむかっていた。今回の発作は久々だったため、かなりキツかったらしい。クンカクンカ
雨宮吾郎
ハルナに追い剥ぎ(?)されたひと。後日、風邪をひくことになるフラグ完成である。
原作では研修医のあと別の病院に通ったと匂わせていたけど、こちらではそのまま正式に常勤となっている。理由は当然のようにハルナのためである……ご都合主義とも言う(笑)