吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
途中で視点が変わります。今回はアイでもハルナでもなく、今まで視点にならなかった人物からのものです。
「はい、たかみー。 はっぴーばれんたいーん♪」
何をとち狂ったか。
アイがそんな事を言って赤い包みを渡してきた。緑のきれいなリボンでラッピングされたそれは、どう見ても量販店で売られている既製品ではない。
「ど、どういうつもり?」
「え? だから、はっぴーばれんたいーん♪」
「そうじゃなくて!」
私の声にきょとんとするアイ。周りのメンバーもびっくりしてるので、コホンと咳払いをしてから真偽を問う。
「なんで私にこれを贈るのかしら?」
「友チョコだよ? ニノちゃんもはっぴーばれんたいーん♪」
「ふぇっ? ああ、アタシも?」
「みんなのもあるよ〜♪」
……これは。たぶん、本気で友チョコとやらを贈るつもりなのかな?
ま、まあ。一昨年は長期休養、昨年は復帰ライブと我々に迷惑をかけた、というのは分かります。分かりますが、あのアイが? 空気を読まない事で定評のあるあのアイが、よりにもよってバレンタインデーの贈り物とか……明日は雪かな?
「わ、手作りぃ? アイぽんがんばったねぇ」
「えへへー」
めいめいに褒められて照れてるアイ……ん、うん。
「本当にご自分で?」
「いや、実はハルちゃんに教えてもらったんだ♪」
「そうだと思いました」
みーりゃんの諦めたような笑顔。マジメな雰囲気のあの子も、こんな顔するのね。意外。
「アイちゃん、料理できたんだね」
ほんわりと笑うなべちゃんだけど、この子も意外と突き刺さる事を言ったりする。
まあ、確かに。ファンはともかくウチらの中でのアイのイメージではない。最初期の頃はコンビニのおにぎりやパンとか食べてた。歳を考えれば当たり前かもしれないけどね。
わたし? 当然シェフのお手製弁当を持参してましたわ(ホホホ)
そんなアイも復帰後は弁当を持参するようになっていた。又聞き(みーりゃん経由)の話によると、ハルナが作っていたらしい。
雨宮ハルナとは何者か。
これも又聞きだけど、どうやら社長の養女ということになっている。つまりアイと同じ扱いなわけだけど、アイと違ってこの子は家庭的なスキルを持っているらしい。
『練習の時にテーブルいっぱいのお弁当広げてね。ちょっと驚いちゃったわ。しかもどれも美味しいし。アイさんの肌つや良くなってるの、絶対あの子の仕業だよ』
みーりゃんの言っていた言葉が蘇る。言われてみると社長やマネージャーのミヤコさんも、少し活気が戻っている様子であり……信憑性は高そうな話だ。
「開けてもいい?」
「どうぞ〜」
ありぴゃんが紐を解いて包みを開けると、そこには色とりどりの塊があった。
「わ、なんかスゴっ」
「そうでもないよ? 手間はかかったけど、やることはそんなに無かったから」
私も包みを開けてみた。
塊はパイ生地みたいなものを練り込んだチョコらしく、黒、白、オレンジ、赤、緑、青、黄色と七色になっていた。
「黒はビター、白はホワイトチョコ、オレンジはオレンジピール入り……だっけかな? 赤はりんごのドライフルーツで、緑は抹茶。黄色はバナナのやっぱりドライフルーツで、青はラムネなんだって」
「だって、て。それじゃハルナがお膳立てしてるじゃない」
「いやー、さすがにイチから作るのはハードル高くて〜。教えてもらいました(ペコリ)」
アイに食ってかかるみーりゃん。あれ、随分と気安いな。その
「た、食べてみても、いいの?」
「もちろんっ! 今じゃなくてもいいからね」
ニノの言葉に答えながら、着替えのために出ていくアイ。
「食べるの、それ?」
「ひゃう、いやあの、その」
ニノが慌ててる姿はいつもながらかわいい。けど、それを口にするのは早計な気がする。私たちがしてきた事を考えると。
「うん、おいしい♪」
「みーりゃんっ!?」
「たかみーさんは気にし過ぎですよ。ハルナが監修してるなら毒なんか入るわけ無いですし」
「わ、わたしはそういうつもりでは……」
それを危惧したのは事実だ。
でも、アイとてそんな事をするわけがないことも理解はしてる。だからこれは気持ちの問題だけなのだ。
「アイさんもハルナさんも気になんてしてませんよ? むしろ気遣ってくれてます。和解するのが「そこまでにしよ?」」
みーりゃんのセリフに被せて止めたのはめいめいだった。
「みーりゃんの言いたいことも分かるけど、気持ちのすれ違いは簡単には埋まらないよ」
「……わたしは、一番最後だからそういうの分からないんですけど」
「それならそれでいい。でも、みんなの気持ちも理解して。性急に解決できることじゃないんだから」
その言葉には、さすがに反論できなかったみーりゃん。そこにADさんから入りの連絡が入った。わたし達はプロで、私情は挟んでいけない。
途中で合流したアイにも笑顔で応え、ステージへと向かう。アイの衣装だけ私たちと違うのは、理由があるから。それにしても。
今日も綺麗だね。
まあ、可愛さではニノに負けるけど。
今日の現場は『Mスタ』。『ザ・ベスト
アサリTVの第一スタジオには大勢のスタッフが集まり、今回出演する歌手、グループ、バンドなどが出番を待っていた。
「おはようございます、皆さん」
「おはよう」「お、おはよう」「おはようね」「おはよおぉ」「おはよ」「おはようございます、ハルナさん」
挨拶に来たのは雨宮ハルナ。いや、芸能人としてなら『ハル』が正しいかな。アイと色違いの衣装に身を包んだ彼女も、最初に会ったときからはずいぶん変わった気がする。
「今日は宜しくお願いいたします。アイさんの足手まといにならぬよう、誠心誠意努めて参ります」
むう。いい子ちゃんな回答だ。こういう所が鼻につくんだよね。
「あら、いい心掛けね。せいぜい場を暖めてね」
「、そんな言い方……」
「いえ。先鋒は続く方への道慣らしもするもの。鋭意努力致します」
口を挟もうとするみーりゃんを遮るハル。みーりゃんとの関係は本当に良好らしい。マジメっ子同士で仲が良いようだ。
「ハルちゃん、そろそろだよ。みんなもあとでね〜♪」
「はい。では失礼します」
一礼してアイの元に行くハル。二人の身長差はあまりない。アイが小さいのか、ハルが高い……訳もないか。でも。
並ぶと少し、大きく見えた。
目の錯覚だと思いたかったけど、どうやらそうではなかった。
『そうね (そうよ) 近すぎて』
Bメロに入る辺りから、曲調が変わりアイの問いかけるような声がハルの歌をサポートする。
『きみのこと 理解(わか)らなかった』
アイがそのまま続けて歌う。B小町の時とは違う発声。ハルに合わせたのか柔らかく包み込むような声色。
『昨日も 一昨日も』
『明日も 明後日も』
後半重なるように歌う二人。背中合わせでカメラに斜めに構える。アイが正面でハルは後ろ。
『一緒にいられるなんて』
『そんな確証 あるはずないのに』
二人の切ない合唱。なぜなのか、心に重いものがのしかかるような気持ちになる。
『キミと居たい(who are you?)』
『キミを知りたい(who the heck are you)』
サビに入る。ハルの声にアイが、アイの問いかけにハルが応える。この辺りの盛り上がりは、さすがヒムラさんだと納得の出来。
『想いを募らせていても
届くうちに届けたいよね』
二人の問いかけのハーモニー。低めのハルと高いアイの唄声が調和する。
『If it comes true, please love me』
二人のユニゾンは、音域をカバーし合っていて心地良い音色だ。叶うならば愛してほしいとの切ない詩を引き立てるように楽曲も盛り上がる。
『たとえ、届かなくても この気持ちは変わらないよ』
そして最後のコーラス。
切ない想いが炸裂する。
その表現力はどこから来るのか。
私たちと対して変わらない、どこにでもいる少女のはずなのに。
「たかみーさん?」
「え……」
みーりゃんがハンカチを差し出していた。気が付けば、わたしは涙していたらしい。配慮ができる後輩ですこと。
「ありがと」
「どういたしまして」
曲が終わり、二人が司会の方と話し始める姿を見守る私たち。
「PVより高めてきたわね」
「お二人ともよかったです」
「うん、うん」
みんなが口々にそう言っている。他の演者たちにも好評なようだった。
少ししてアイが戻ってきた。衣装は私たちとお揃いのB小町のもの。いつものサイドテールにはうさぎのマスコットが揺れている。
「おまたせっ♪」
屈託のない笑顔。作り物の笑顔でしか会話しなくなったはずなのに。
今日のそれは、まるであの日のよう。
「……」
「え、どしたの。たかみー?」
思わず出た言葉はいつもの言葉。
「なかなか仕上げてきたじゃないの。前座としては良い出来よ?」
「でしょー? ハルちゃんがんばってたから、ちょーっと気合入っちゃった♪」
そして。
「みんなも気合入ったでしょ?」
悪戯して、うまくいったみたいな微笑み。ああ、確かにしてやられたわ。
「B小町さん、出番でーす」
「B小町さん入りまーす」
そして、私たちの順番。
「いきますわよ、みんなっ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
感動させられたなら、それもまとめて周りに返してやるわ。B小町はアンタだけだと思わせないんだからっ!
「……スゴいね。みんな気合入ってるじゃないか」
B小町の内情は聞いていた。まさかここまで仕上げてくるとは思わなかった。
技術だけはうまくなった最近のライブだけど、何かが違っていた。正直、そのまま腐っていくのだと思っていたら……面白いものだ。
アイだけが輝いて見えていた。
他の子は賑やかしの脇役ばかりだと。
なのに、今日は違っていた。
ライブじゃない、からではない。
私はライブだって何回も観に行ってる。
なら、Mスタだから? Mスタに出たことだって彼女たちは何度もある。環境だけ、じゃない。
「『STARRY the Moon』……君か、ハル。君なのか」
同じ事務所から出てきたデュオでアイをパートナーとしている。起爆剤になったのはこの子、なのかもしれない。
興味深い。
その瞳に輝く光はアイのものともわずかに異なる。
その佇まいは可憐な少女なのに、何故か老成したもののそれ。
あどけない笑顔には、抱えきれない哀しみを宿し。
アイのように強烈な輝きで照らすことはないけど。
その眼は観るものを引き寄せてしまう。それはまるで深淵を覗くかのように。
「フ、フフフ……」
まさかこんな事があるとはね。
あのときの少女が、こんな輝きを放つとは。
たのしみだ。
本当に愉しみだよ。
暗い部屋で蠢くそれは、来たるべき日に向けて暗躍する。それを知るものは、今は数が少ない。
たかみー
お嬢さまキャラなのか高飛車キャラなのかはてさて両取りの可能性もありそうですが、ウチではこんな感じになりました。
めいめい
B小町の抑止力。仲裁役が染み付いてるのか、好きでやってるのかは不明。
ニノ
B小町のマスコット枠。たかみーのお気にでもある。ちょっとおどおどした感じがそそるんすかねぇ(笑)
なべちゃん
オリ設定。のんびり枠。でもときどき辛辣な事をズバッと言っちゃうアイと似たような空気読まない系でもある。
ありぴゃん
オリ設定。細かいことに拘らないスパっとした性格。なので女子同士の軋轢とかメンドーとか思ってそう(笑)
みーりゃん
名前も性格も完全オリキャラ。マジメっ子なのでいちいち反論したりするけど、それはマジメゆえ。タイプから言うと風紀委員。
星野アイ
バレンタインデーに備えてチョコの作成をして臨んでます。ハルナに手伝ってもらったけど、それは間違いなく親愛の証。内心受け取ってもらえなかったりとか捨てられたりとかドキドキしてます。
雨宮ハルナ
生放送での出演はおそらく初ですが、無表情なので緊張してるようには見えてません。でも、傍にアイがいるから、平気です。なんならテンションも上がります。あとに続くB小町のために。
なぞの人
暗い部屋の中でテレビ画面を見つめるひと。やってることがあの少年と一緒なのは、傍目には同族だから。根っこはもっと違いますけどネ(ペッ)
歌に関して。
ただのポエムなので、詳しくはツッコまないで下さい。作詞って難しいんだね(笑)