吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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おっさん達の飲み会……推しの子時空だよね、ここ(笑)


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「お待たせしました」

 

 店員に案内されてやってきたのはまだ若いと言ってもいい年齢の男性だ。既にそこにいた男達の一人が労う。

 

「まだ時間前でしょうに。気が早いッスな」

「ウチって定時が六時で、急患は受け付けてないんで。終わるとやる事なくなっちゃうんですよね」

「羨ましいなぁ。こっちゃあ自営業だから休憩なんて概念ねえからね」

 

 煙草の火を消しながら答える男は、多少の無精髭と適当と言う言葉が似合うやや長めの髪を揺らしている。

 

「それはウチも同じだよ。やることなんて後から山ほど出て来やがる」

 

 サングラスの男も愚痴るように言ってグラスを傾ける。高級焼酎をロックで飲む、さも強そうな飲み方だ。

 

「そういや、彼女から聞きましたけど。社長の奥さん美人らしいですね」

「ああ、そりゃあ別嬪さんだよ。とても三十代には見えねえよ?」

「人の嫁を肴にして盛り上がんじゃねえよ。注文」

 

 社長と呼ばれた男がメニューを押し付ける。年若い男はそれを見てサラサラと注文票に書き込む。「皆さんは?」「もうやってる」「あとテキトーに摘めるもん幾つかお願い」との会話を経て呼び出しブザーを押す。店員がやって来て確認してから、また個室の扉はピタリと閉じた。

 

「いやあ、暖かくなって来ましたね」

「最近は冬が過ぎるとすぐ暑くなる。情緒がないったらありゃしない」

「お、監督らしいこと言いますね」

「それも最近は関係ないんですよ。CG使やぁ季節感もへったくれもない」

「技術の進歩は、どこにでもあるのですねぇ」

 

 四角いテーブルの一番奥に座るのは、この中では一番やさぐれたイメージの強い男だ。名前は五反田泰志。スタジオを構えて映画を取る監督業を生業としている。

 

 その正面に座るサングラスの男は派手なスーツと相まってチンピラのような様相だ。アイドル事務所の社長、斉藤壱護。美人の嫁と美女、美少女揃いを養う一国一城の主。

 

 最後に来た男はこの中では一番若そうであり、折り目正しいスーツを着こなしている。田沼医院の若先生、田沼造硯。こう見えても嫁も子供もいる。

 

 個室の酒場に集った彼らは、職種から言うとほぼ接点がない。また、飲み友だちと言うほど親しい間柄でもなさそうである。

 

 ほぼ無いとは言うけど実のところ一つだけ存在している。

 

「さて。今日のお誘いは何用でありますかね?」

「とぼけんなよ。俺の名前聞いてすぐに予定入れたくせに」

「はは。それでもいちおう聴いておこうと思いましてね」

 

 はぁ、と社長は嘆息する。観念するかのようだ。

 

「ウチの娘。アイのことだ」

「俺からのオファーでね。専門家の意見を聞きたくて」

 

 監督がそう補足する。なるほど、と上着を脱ぎながらネクタイを緩める。少し暑いのだろう。

 

「私は小児科とか外科とは専攻してますけどね。心の方は少し畑違いです」

 

 医者が手首のボタンを外す。どことなく色気のある仕草に監督が目を細める。そしてぽそりと一言呟いた。

 

「それでいい。専門家とかに見せたらヤバそうな気もするし」

 

 その言葉に剣呑なものを感じた社長が慌てたように問う。

 

「おいおい……マジか?」

「俺の気のせいならいいんだがね。そこの辺りを聞きたくて先生にご足労頂いたんだよ。あんた、主治医だろ?」

 

 その言葉に医者は笑いながら答える。

 

「まあ、そうですね。前任の方とは旧知の間柄ですし」

 

 内密にカルテを回してもらってもいる。当然、ここで言うつもりはないのだが。

 

「雨宮、吾郎医師、か。ニュースでやってたのは覚えてる。まさかアイが関係してるとは思わなかったけどな」

 

 監督が煙草に火を付けながらそうつぶやいた。

 

「そんなの報道されたらバレちまうだろ。直接は関係無いって事で伏せてもらってたんだよ」

 

 社長が答えたのは後ろめたさからだ。事の経緯を考えれば、雨宮医師の死に間接的には関わっているのだから。

 

「よくまあ、うまく止めたもんだな。地方ったってブンヤ連中はしつこかったろ?」

「その辺は、まあ。蛇の道は蛇って事さ」

「なるほどね。清廉潔白な社長様ってわけじゃ無さそうだな」

「軽蔑してくれていいぞ」

「いんや。気に入ったよ」

 

 ぐびり、とハイボールを傾ける監督。既に顔が赤いけど、まだ一杯目が半分以上残っている。酒豪のように見えるが、実はかなり下戸だったりするのだ。

 

「清濁併せ呑むってな、大人になんねえと出来ねえもんだ。若いうちはどっちかに偏りがちになるからな」

「そんなもんかね?」

「綺麗事だけじゃおまんまは喰えないってのを分かってるって事が大事なのさ。世の中、白や黒だけで回りゃあしない。殆どのやつが灰色だったり、白くなったり黒くなったりする。不変のやつなんていやしないよ」

 

 酒が回って饒舌になっているらしく、聞いてもいない持論を開陳する監督に、社長は呆れ、医者は口角をわずかに上げた。

 

「本題に戻しましょうか」

 

 このペースだと早めに潰れるかもしれない。医者はそう思い話を進めた。さすがにただの飲み会にはしたくはなかったのだ。

 

「そうだな。星野アイの容態はどうなんだ?」

「今のところは、経過観察というところですか。ある程度の兆候が見えるからといって精神疾患になるわけでもありませんし」

 

 監督の言葉をさらりと受け流す医師。社長はほんの少し、安堵の息を吐いた。

 

「ごく軽度のパーソナリティ障害が見受けられていたと、雨宮さんから報告がありました。まあ、私的なメールでの内容なので公式な記載はありませんが」

「パーソナリティ障害? 何だそりゃ」

 

 社長の言葉に医師は簡単そうに答える。

 

「人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困っている場合に診断される精神疾患ですね。アイさんの場合、ご本人が苦しんでるわけでもありませんし、周囲もそこまで苦労している状態ではないため、軽度と考えてますが」

「ええと。そうだという根拠は?」

 

 社長の疑問に、監督が答える。

 

「アイは、人の名前を憶えるのが極端に下手だ」

「そりゃ、確かにそうだけど」

「アイさんは大人の区別が付き辛いようですね。同世代の子達の名前はきちんと憶えてるのに、斉藤さんは佐藤と呼ばれ続けてますね」

 

 思い当たる事を言われ、社長は反論する。

 

「いや、それならミヤコだって間違うだろ」

「そうですね。大人でも女性は別なのかもしれません」

「ちなみに俺は名前で呼ばれた事はないな。『カントク』としか呼ばれない。名前を教えたけど『カントク』って言い続けてたな」

「私も『お医者さん』でした。そう考えると斉藤さんはまだマシな方と言えますね。名前を間違っても役職名で呼ばれないだけ」

「言われてみれば……最初の頃は『社長』って呼ばれてたな」

 

「ヘイお待ち。生と刺し身の盛り合わせ、たこわさにフライドポテトです」

「ありがとう」

 

 いきなり入ってきた店員がテーブルに皿を並べていく。酒はとりあえず医者が注文した生中だけだ。「では、ごゆっくり」と出ていく店員に社長が悪態をつく。

 

「ノックくらいせんか。常識だろ」

「そうですねぇ。ところで皆さんは常識というのはどうやって身に付けると思いますか?」

 

 医者は生中を持ったまま、そう語る。水滴がぽたりと落ちた時に監督が口を開く。

 

「そりゃあ、経験だな。大人だろうと子供だろうと、その社会での常識は教えられて覚えるもんじゃない」

「そうですね。人の精神構造も同じです。経験から来るものが大半で、そこに本人の感受性によって様々な精神性を構築していく」

 

 社長がフン、と鼻で笑う。何を当たり前なことを、と。

 

「ええ。ですので精神に疾患が起こるのは外的要因と内的要因が絡み合います。さらに経験した全ての事を記憶している人はまず居ません。意図的にせよ意図せずにせよ忘却してしまう事柄も多いのです」

 

 監督がここまでの話を聴いて疑問に思った事を言う。

 

「それはあれか? 推論も出来ないから逃げ口上してるのか?」

 

 濁った瞳に輝きが宿る。しかし医者は頓着せずに言葉を続ける。

 

「アイさんを本質的には理解出来てない事が大前提なのです。そしておそらくは地球上どんな精神医だとしても、一個人の全てを理解するのは不可能だと言うこともご承知下さい」

 

 医者はぐびり、とジョッキを傾けた。一息で半分ほどまで飲み切るとようやく息をつく。

 

「私もアイドルオタクの端くれです。アイさんが恙無く暮らせるのが一番だと考えてますし、そうであって欲しいと願ってもいます」

 

 医者はそれなりに苦悩している様子である。社長はツマミの皿を彼に押し付けた。

 

「そいつは嬉しい事だ。応援してくれてるのにこんな事依頼する俺等の方が悪人だよ」

「全くだね。スマン、悪気はなかったんだ」

「いえ。自身の不甲斐なさを恥じるばかりです」

 

 医者は背筋を伸ばし二人へと相対する。覚悟を決めた視線に二人も居住まいを正した。

 

「それまでのアイさんの兆候は実際微々たるものでした。それは彼女の精神の強さに由来するものです。ですが、少々異なる事態が発生してます」

「それは?」

「サバイバーズ・ギルト」

 

 医者の口から出た言葉は、馴染みのない物だった。医者はそれを説明する。

 

「『雨宮吾郎医師の死は、自分のせい』。この罪悪感が、今の彼女を苦しめています」

「!」

「! そ、そんなまさか……」

 

 驚愕する監督と社長。自分とは直接関わりのない者の死。そこに罪悪感を抱くとはどういうことなのか。

 

「アイさんの罪悪感を刺激してるのは、雨宮ハルナさんです」

「そ、それはどういう……」

「いや、そういうことか」

 

 社長は理解出来なかったが、監督は即座に理解した。流石にノミネート回数だけは多い監督である。

 

「ハルナを見る度に思い出す。『本当は雨宮医師と一緒に暮らして幸せだったのに』『自分がそこで子供を産もうとしたから雨宮医師は亡くなった』『だから悪いのは自分だ』と。そう考えてるのか」

 

 監督の言葉に、医者は頷く。

 

「これは実際どうであったか、ではありません。アイさんがどう感じたか、が重要なのです」

「そ、そんなの。どうすりゃいいんだよ……」

 

 社長が狼狽える。本来、あそこを選んだのは自分なのだ。責めるべきは自分ではないのかと考えるも、先の言葉でそれは意味が無いと悟る。

 

「人の罪悪感を消すのは、時間の解決くらいしかありません。意図的に治すのは無理でしょう」

 

 罪悪感のあまり記憶を失うというケースまであるのだ。そうなっていないだけまだマシなのだろう。

 

「一つ、症状を緩和させる方策もあります」

 

 医者は顔から表情を消し去ってつぶやく。そこから導き出される答えは一つだけだった。

 

「雨宮ハルナさんを引き離す。罪悪感の元を遠ざけて刺激を抑える事が寛容かと」

 

 

 ガラッ

 

「へい、お待ち。天ぷらの盛り合わせに、土手煮と割子蕎麦三枚、あとうま塩ラーメンねっ!」

「あ、どうもありがとうございます」

「「いや、食い過ぎだろーがよっ!」」

「ご飯食べてないので」

 

 テーブルが一気に手狭になって、今までの緊迫した空気はどこかへ消え去ってしまった。




社長(斉藤壱護)

森伊蔵をロックでキメるオヤジ。酒に強いイメージだけど酔うと面白いおっちゃんになる。強くはないんだ(笑)
良かれと思った事が首を絞めるなんて、よくあることなんだよね。『それは悪手だよ(クス)』

監督(五反田泰志)

子供部屋おじさんは酒強くなさそうなイメージだけどどうなんだろ。ここでは中年の愛酒ハイボールを選んでます。『15年の嘘』を撮るにあたりアイの現状を把握するのが目的でした。なので治療とかそういうのは興味ありません。そういうトコ、ドライなんだ。

医者(田沼造硯)

またしても登場、田沼医院の若先生。専門でないのに色々と調べるのは雨宮医師からのメールのせいもあり、アイドル好きの性もあり。ただ、一方向に突き抜けた医者ばかりじゃないのも意外と多かったりします。多方面にアンテナを伸ばすタイプの医者は、天才肌の方が多いそうで。たぶんこの人もそんな感じ。

(注意)なお、このあとがきは全部妄言なので信じないように(笑)
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