吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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新章突入……というわけでもなく。まだ二歳の夏辺りです。


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『明日の午後にそっちの事務所行くから。待ってなさい』

 

 そんなメールが俺の携帯に届いた。なんでこのメアド知ってんの、アイツ?

 

「あ、それ? 私が教えちゃったんだ。かなちゃん知りたがってたから」

「アイ……なんてことを」

 

 情報を流したのは母でした。はは、笑えない……寒いなこのダジャレ。

 

「だってかなちゃん、アクアのこと大好きでしょ?」

「えっ!?」

 

 え、なにこの爆弾発言。

 このオレに……気があるだと?

 

「はは、ないわ。アイツ、俺にやたらと噛みついてくるし」

 

 そう答えるとアイは指を頬に当ててやや首を傾ける。あざとい仕草に思わずどきっとしてしまう。

 

「そうかなー? かなちゃん嬉しそうにしてたよ。あと、明日お仕事の話があるってミヤコママが言ってたし。たぶんそのことだと思うよ?」

「えー、あたしも行く〜」

「大人しくしてるのよ、ルビー。いちおうお仕事だし、かなちゃんにまた怒られちゃうからね」

「はーい♪」

 

 あちらの二人は呑気であるが、俺としては気が気ではない。確かに借りがあるから断れないだろうけど、ようやく町を出歩いても気にしなくてよくなってきたのに。

 

「は、ハルねー……」

「お仕事では仕方ないですね。アーくんは出来る子です。がんばってね」

「はい……」

 

 蜘蛛の糸は無かったんや……

 有馬かなという鬼に煉獄でいびられる俺の姿が幻視できてしまった。

 

「ハルちゃん、明日は収録だっけ?」

「はい。たかみーさんと」

 

『まるごとB小町』では、最近ハルナとB小町メンバーという流れが多い。理由はアイ自身が別件での仕事が多いせいだ。ファッション誌のモデルやバラエティ番組などの仕事も増えてきてる。

 

「そっか。がんばってね♪」

「はい。精進します」

 

 かくいうハルナとて、このところ忙しいようだ。ティーン誌のモデルがこの間あったし、B小町のみんなとのレッスンも出来るようになっていた。たぶん、アイの代役としての役割も任されるようになっているのだろう。

 

 そして先ほどとは一転して闇のオーラを放つ者がひとり。

 

「うう……おにいちゃんばっかりズルい。私もおしごとしたい」

 

 ルビーがぶー、と頬を膨らませて不満げな様子だ。その前のCMの仕事でめっちゃ目立ってたからいいじゃん。

 

 もっとも、その天真爛漫な姿が一般視聴者さまの脳を焼いたせいで、俺たちは変装しなきゃいけない羽目にもなったわけだ。少し自重するくらいで丁度いいんだ、お前は。

 

「あ、ルビーにも出番あるかもってミヤコママ言ってたよ?」

「えっ、? ホント?」

「えっ、? マジ?」

 

 コイツとセットだとろくな目にあわないと思うんだけどな。気が重いよ。

 

 

 

 

「久しぶりね、アクア。ちょっと大きくなったかしら?」

「ああ、まだお前にゃかなわんけどな」

 

 事務所にやって来た有馬は、ちゃんとしたよそ行きの恰好をしていた。隣りにいるのは母親と有馬の事務所のマネージャー。けっこう若くて線の細い男だ。ちなみに有馬の母親も若くて美人さんである。

 

 俺たちはソファーで待たされる事になった。まあ、仕事の内容とか契約とかは俺達が直接関われる年齢でもないし。相手をするのは社長とミヤコ。

 

 そこで、有馬がこそっと耳打ちしてきた。

 

「ウチのお母さん、昔女優志望だったんだって」

 

 なるほど。それならなんとなく分かるな。

 

「うん、あの器量なら納得だ。若くて綺麗だよ」

 

 そしたら有馬が頬を膨らませた。先日のルビーのようである。

 

「むう。そういうのは、私に言うべきセリフじゃないかしら?」

「え、だって有馬もかわいいじゃん」

「え゛……」

 

 思ったままに答えたら、変な声出された。あれ? なんか間違えたか?

 

「ああ。有馬もお母さんのように綺麗になるよ。間違いない」

「あ、ありがとお……」

 

 ちゃんと褒めたらお礼を言ってきた。なんだ、会話出来るじゃん。どうも居丈高なイメージだったけど、よく考えたらまだ幼児だ。怖がる必要なんて無かったんだ。

 

 

「それじゃあ、ピーマン苦手なんだ」

「ピーマン好きな子供なんて居ないわよ。苦いじゃない」

「分かるわー。おれも実は苦手」

「でしょお? でも、お母さん食べさせようとするのよ? ひどくない?」

「俺は別にそこまで苦労はしてないぜ? ハルねーの手にかかればなんてこと無いんだ」

「え、マジ?」

「マジマジ」

 

 俺はハルナに教えてもらった方法を有馬に伝えた。方法は簡単。ピーマンを横に切って湯がくだけ。これだけで苦みが薄くなって食べやすくなる。

 

「こんどお母さんにやってもらお」

「全部は消えないけどな。でもずいぶんとマシになるぜ」

「ハルナさん、スゴイわね」

 

 有馬の中でハルナの株がさらに上がったようだ。いい傾向だ。

 

「ときに、いもうとはどうしたの?」

「ああ。実はね」

 

 昨日の夜に少し熱が出たのだけど、今日は大事を取ってお留守番である。もちろん、アイも一緒だ。今ごろアイを独占できてご満悦だろう。

 

「元気そうなの?」

「ああ。有馬に感染(うつ)しちゃ悪いし」

「そ。ならよかった」

 

 ほっとした笑顔は、やはり子供らしくて可愛い。泣いた演技ばかり注目されてるけど、笑顔の方がより目を引くな。

 

「ときに。今回のオファーの内容は聞いてる?」

「いんや」

「あら、本当に言わなかったんだ。マジメね」

 

 そこで告げられた内容は、意外なものだった。

 

 

 

 

 

 日を改めた後日。都内某所に居を構えるスタジオ。雑居ビルのようにも見えるそこは、多くの作品を生み出した場所でもあった。

 

 俺たちは双子と有馬かな。保護者として有馬の母とミヤコが入ったそこには、四十がらみの男性が待っていた。

 

「はじめまして。音響監督のミヤベと申します」

「はじめまして。こちらは有馬かな。私は母の有馬佳世と申します」

「はじめまして。こちら、アクアとルビー。私は保護者の斉藤ミヤコと申します」

 

 大人たちの挨拶が終わり、ようやくロビーから中に入る。

 

「うお……」

 

 思わず声が出てしまった。

 そこは前世でも見たことのない場所。多くのマイクが並ぶ部屋と、ガラスを隔てた音響設備が並んだ部屋に分かれたそこは。

 

「こちらがアフレコスタジオになります」

 

 そう。

 俺たちは、アニメのキャラボイスを演じる事になってしまったのだ。

 

 

「はじめまして。狼谷(ろうや)(くろ)役の(ばん)めぐりです」

「はじめまして。朝市(あさいち)良勝(よしかつ)役の鬼塚(おにつか)剛也(たけや)と申します」

「「はわわわ〜」」

 

 妙齢の男女との挨拶で、子どもたちは揃って奇声をあげていた。

 

「ヤバッ! 黒ちゃんだよ、お兄ちゃん」

「ああ、間違いない。それにアーチー。カッコいいっ!」

「す、スイマセン。完全に舞い上がっちゃって」

 

 双子が喜び、有馬はひたすら謝っていた。声優の二人と音響監督は苦笑するしかなかった。ちなみに親の方は全く動揺もしてないのでかなりおいてかれている。

 

 

 

 

『安楽椅子探偵、黒の事件簿』

 漫画原作のアニメであり、月曜十九時のゴールデンタイムに長いこと君臨している。

 

 狼谷黒は引き籠もりの高校生であり、クラスメイトの朝市良勝は彼女にプリントを届けるためだけに自宅を訪問した。

 

 そこで自室の中で飢え死にしそうな黒を発見。一人暮らしをしている良勝は緊急事態だからと家にある僅かな食材で黒に食事を与えた。

 

『アンタ、料理上手じゃないっ! 助手にしてあげるっ!』

『ええっ?』

 

 お人好しな良勝は黒の仕事に巻き込まれていく。その仕事とは安楽椅子探偵。事件の現場に訪れずに推理をする、引き籠もりの黒にとってはうってつけの職業であった。

 

 

 

 だいたいのあらすじはこんな感じだったと思う。引き籠もり美少女探偵とわりとイケメンな助手のコメディタッチなやり取り。半ば推理とは呼べない強引な推理も相まってお茶の間の子どもたち(あと大きな子どもたち)を虜にしている作品である。

 

 ちなみにルビーも俺も大好きであり、リアタイで見るのは当たり前になっていたし、DVDも幾つか買ってもらっている。

 

 今回のオファーはテレビでのものではなく、映画のものであった。劇中で毒の含まれた料理を食べてしまった二人。解毒用の薬を飲んだのだが、その効果が妙な副作用を出してしまい子供になってしまった、という内容らしい。

 

 勘の良い方は気付いただろうけど、その子供になった二人を演じるのが俺達、という事になるそうだ。

 

「え、つまり……主役?」

「主役はわたし。アンタは脇役。まあ、主役並みに出番はあるけどね」

 

 有馬の言葉を補足する音響監督。

 

「鬼塚くんは見ての通り大人の男性だし、蕃さんは今、喉の具合が良くなくてね。子供の声が出せないんだ」

「はあ……」

 

 本来、子供の声を当てるのはだいたい女性の声優さんになる。男性で子供声が出来る人はかなり少ない。男性は二次性徴期に声変わりでかなり変わる事が多いためだ。

 

 女性でも声変わりはあるが、男性ほどは変わらないため子供の声などをだすのも比較的容易なのだ。

 

 しかし、負担はやはりかかるらしい。今回のオファーは蕃めぐりさんの喉の不調が一番の原因だろう。

 

「けど、君たちを使ってみたいと思ったのはそれだけじゃないんだ」

 

 音響監督のミヤベさんは、制作サイドの裏話的な事を話してくれた。

 

 曰く。事務所間の配分という事らしい。声優にも事務所が幾つがあって、そのしのぎを削るやり取りが裏で行われているのだとか。二人分の席を増やすとなるとその配分が変わってしまうのだとか。

 

 これがモブのような役なら持ち回りでもやれるらしいが、今回はメイン二人だ。当然、どこの事務所も自分の所の声優を推してくる。そこで監督が面倒臭くなったのか、鶴の一声を発した。

 

『俺はリアル志向だ。子役にやらせよう』と。

 

「また随分とはっちゃけましたね」

「きみもそう思う? だよねえ」

 

 ハハハと笑う音響監督。

 

「そこで五反田監督の映画に出てた君たちを見つけて、監督からの紹介でオファーを出した、という経緯なのさ」

 

 なるほど。あの映画が原因だったのか。有馬はともかく俺なんかが呼ばれた理由は何なのか分からなかったけど、ようやく合点がいった。

 

「にしても、君たちは本当に二歳なのかい? 随分と大人びててビックリしたよ。ウチの子とは大違いだ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺が礼を言うと有馬も続けて言う。こういう機転が利くのも有馬のいいところだ。ルビーだと『ほへ?』とか言ってそう。

 

「ほへ?」

 

 いや、言わんでいいから。

 

「……これは少し面白くなるかも」

 

 音響監督(ミヤベ)さんの呟きに、俺は少し嫌な予感がした。




星野アクア

声優デビューに少しテンション上がります。原作はどうかは分からないけど、こちらの吾郎はオタクなので声優とか気になるに決まってんだろ、という感じです(笑)

星野ルビー

お兄ちゃんと一緒にアニメ見てるのかわいいねw ちなみにさりなちゃんも少し影響出ててアニメは嫌いじゃないです。

星野アイ

ちゃんとママしてるアイ。かなの好意はちゃんと見抜いてます。アイドル業務とマルチタレント業務が7:3くらいになってます。

雨宮ハルナ

甘やかしお姉ちゃんも今日は出番少なめです。アクアの仕事に対しては少し懐疑的ですが、それを口にすることはありません。

斉藤ミヤコ

双子の奇行にはもう慣れた感じかと思いましたが、まあ慣れたかな? 疑問に思ったりしなくなったのは慣れなんだろうね(笑)

有馬かな

ちょっと大きくなったかなちゃん。でもまだ幼稚園にも入ってないんだよなぁ……アクアとの会話が違和感あり過ぎワロタ。

有馬佳世

オリ設定発動。有馬母のままでもいいかと思いましたが、今更かと思って似たような名前をチョイス。かなの仕事も順風満帆であり、今のところはまだ不穏な影は見えない。

かなのマネージャー

事務所サイドの人間も出しとこうと思いましたが、さすがに名前は付けませんでした。必要ならそのうち付くでしょうし。若くてイケメンとか、フラグにならなきゃいいな(笑)

仕事の面々

声優さんはご存知の方々。名前は当然変えました(笑)。劇中劇なので、アニメの作品はあまり深堀りしないほうが良いかと思ってます。分かりづらくなるからねw

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