吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
「あわわっ! ちょっと、こっち見ないでよっ!」
「わ、バカッ 手ぇ上げんな。押さえとけ、落ちるから」
台本の通りに台詞を読む。言われると簡単だけど、これほど難しいことはない。思ったとおり、カットが入った。
『かなちゃん。もう少し感情落としていいよ』
「は、はいっ」
『アクア君はもう少しだけ焦った感じで』
「分かりました」
かなが台本に注釈を入れてる……全部ひらがななのは御愛嬌だ、幼児だからね。俺も倣って注釈を書き入れる。言語化されない演技をするにはその人物像の解釈が必要になってくる。今回はジェスチャーも入れられない声のみの演技だ。ハードルはより高くなる。
今回の収録は俺とかなだけである。ルビーとミヤコは有馬のお母さんと一緒に中にいるけど、音を出さないという条件付きだ。
この音を出さない、というのが意外と厄介だ。なにせ子供というのはじっとしてないものだ。普通は外で待たされるのだがその点うちの妹は出来が違う。
『ルビーちゃん、ホントに大人しくしてるね』
「ありがとーございます」
ガラスの向こうの音響監督の言葉に満面の笑みを浮かべるルビー。ミヤコの膝の上でおとなしいのは、中身が『自制のきく大人の女性』だからなんだろう。言われたことはちゃんと出来るのが、うちの妹の良いところである。
『じゃあ二人とも、今のシーン最初から』
「「はい」」
そして収録は再開される。有馬の優秀さは大したもので、その後は特に止められることはなかった。ついでに言えば俺も及第点を出せたようで嬉しい。
昼休み中、ミヤベさんと対話する機会があった。俺たちはハルナ謹製のサンドイッチ(俺達のは小さいの)を頬張りつつ会話をしていた。
「二人とも滑舌がすごくいいね。逆に子役なのか疑問に思われるほどだよ」
ギクッ
ミヤベさんの言葉に冷や汗が流れる。コイツ、実は俺が大人だと気付いたのか?
「私はお母さんに習って早口言葉とかの練習をしてます」
「この子、根を詰め過ぎてしまうので。やめさせるのが大変なんです」
「で、でも……勝ちたいから」
「向上心があるのは結構ですが、子どもの内は喉も弱いので。かなちゃんも程々にね」
ミヤベ氏と有馬たちとの会話を黙って聴いている俺たち。すると、彼はこちらに話を向けてきた。
「アクア君は、度胸がいいね。物怖じしないし、声もよく通る。もしかして君も何かしてる?」
「特には何も」
これは本当だ。幼い身体に過度な練習などは成長の害になりかねない。ルビーにも言ってはあるし、ハルナもそれは理解してくれているようで、長時間に及ぶトレーニングはしてないのだ。
今の時期は知識を溜め込むことを優先する時期。特に言語や国語力などは子供の頃に構築するといつまでも力を発揮してくれる。なので俺は本を読んでばかりいる。まあ、好きだというのもあるがね。
「この子達はほら、ヲタ芸ダンスが得意でして」
「そう言えば苺プロでしたもんね。私もあの双子ちゃんが来るとは思わなくて。後で写真いいですか?」
「公表無しなら」
「それはもう。ウチの子も喜びます」
ミヤコと会話するミヤベさん。てか本人の許可は? まあ、いいけど。SNSとかに出さないなら別にいいや。
「そう言えば。私も見たわよ」
「あ゛〜……見ちゃいましたか」
「なによ、そのイヤそうな顔っ!」
いや、だって。お前バカにしそうだもん。なんかフザケてるみたいに言いそう。
「スゴイじゃない。アンタも妹も息ぴったりだし。動きだってほぼ赤ん坊に出来る動きじゃなかったわよ」
「本当に凄いと思ったわ……」
有馬かなと有馬母が感心してこちらを見てくる。……なんかむず痒い。ルビーを見ると、やっぱり俺と同じようにモジモジしてた。
基本自己肯定感の低い俺達だから、褒められるのは意外と弱い。アイやハルナはいつもだから気にしてないけど、他の人に言われるのはむず痒いのだ。
「「え、えへへ」」
「つまりあの身体能力が演技に活かされてるわけか」
そういうわけではないと思うけど。まあ、肺活量とかは普通の幼児よりはあるだろうから関係無くはないか。
昼休みが終わると、今度はメインのお二人の収録が始まった。これは場面から言って幼児化から開放された後のエピローグに当たる部分。
なんで俺達のあとに撮ってるのかと言うと、俺達の演技を見てからの方が情感が籠もるから、というものらしい。
『かなちゃんの黒はとっても元気で良かったわ』
『アクア君のアーチー、クールで良いよね。僕ももう少しクールに決めないと』
収録に行く前にそんな事を言っていた二人だけど。確かにいつもの二人とは違う演技にも見える。
こういう影響ってあるんだな。
考えていると作業をしながらミヤベさんが話しかけてくる。
「本来の放送では順番を変えてとか分けて撮るとかあんまり余裕ないけど、今回は映画だからね」
「ふぅん」
週ごとに放送されるアニメだとスケジュールはかなりキツく、声優さんたちもなるべく集めて撮るのがほとんどなのだとか。広いスタジオの意味はそういう事らしい。
今日の収録はあくまで俺達の部分と今回の映画では出番の少ない主役の二人の部分に限ったものだ。名脇役の暮間警部とか他の人達は別日に撮るそうだ。
二人の収録が終わったら、今日のところはここでおしまい。予定ではあと三日ほどで収録は終わる。
ちなみに今日はルビーの出番はなかったのは知ってたけど、空気に慣らせるために同行してもらった。コイツのことだから浮かれてしまうのは目に見えてるし。
帰りのタクシーの揺れはなかなかに心地よくて。少しボンヤリとした夢見心地というのかな。そんなわけで帰り際の有馬との会話をなんとはなしに思い出した。
『すごかったね。声優さん』
『そうだな。プロって感じがしたよ』
声だけで世界を創り出す。
それは役者とは似ていても違う所も多い。その勉強が出来ただけでも儲けものだと思う。
特に有馬は役者志望。どんな場においても的確な演技を求められるわけだから、経験が大いに越したことはない。
俺は、どうかな?
面白いとは思うし、褒められればまたやりたいとも感じるけど。それは『やりたいこと』とは違う気がする。
前の人生において、芸能界とは『華やかで遠い世界』であり、応援するだけの立場だった。
「ねえ、ミヤコ」
「ん? なあに?」
眠りそうなルビーを抱っこしているミヤコに聞いてみる。
「俺は役者に向いてる?」
「うーん、そうねえ」
ミヤコは少し考えてからこう答えた。
「私は向いてるとは思うわ」
「なんで?」
即座に聞き直したら、やはり少し考えてから答えた。
「貴方は賢いから。きっと何でも出来るわよ」
それは。ある意味説明の放棄だった。明確に言語化出来ないから適当にはぐらかして褒める。たぶん、普通の子供ならこれでもいいのかも知れないけど、あいにくと俺は違う。
「ふふ。何か不満そうね」
「べつに……」
ミヤコが、笑う。バカにされてるわけではないとは分かるけど。
「賢いのは本当よ。貴方には母親譲りの顔もある。たぶん、外見だけなら向いてるとは思う」
ミヤコはルビーの髪を撫でながら呟く。
「でもね。芸能事務所に居るからってその道に進むのは早計よ。こんな商売は本来は水物なの。当たり外れは普通にあるし、顔が良くても失敗する子はいる。私みたいにね」
……ミヤコは失敗なんてしてないと思うけど。社長夫人なんて立場だし。
「だから周囲の言葉に流されないでね。褒められて喜ぶのは分かるけど」
そっと、髪を撫でられた。
ルビーにするように優しく。
それはアイともハルナとも違う。
ミヤコだけのものだと、理解できた。
星野アクア
役者と違った演技の世界。ちょっと演技に興味が出たのかな? 前世の自分と比較して違い過ぎる世界観に戸惑うようにも見えます。思い悩む幼児(イケメン)……絵になるわぁ(フリル談)
星野ルビー
今日はほんとにお邪魔虫。だけど持ち前の明るさは周りを和ませます。ミヤコさんに撫でられて眠る幼なルビー……イイネ(フリル談)
有馬かな
声だけでも演技をこなす天才少女。年齢に見合わぬ努力家で、有馬母も若干困り気味。アクアに勝とうと過剰なレッスンをしているけど、大丈夫なのか。頑張る有馬さん……意外とイケますね(フリル談)
有馬佳世
かなを売り込む事ばかりしてる……訳でもなく、それなりにかなを気遣う一面も見せます。美人な若奥様……これはこれで(フリル談)
斉藤ミヤコ
周りから見ると親子なんだけど、それを言えないもどかしさ。それでも可愛い子どもたちに変わりはありません。子供いそうにない美人妻……ありデスね(フリル談)
ミヤベ氏
音響監督の立場としてはあまり乗り気でなかった今回の仕事ですが、モチベーションは上がってます。子供らしからぬ賢さを持った未来の原石を見て、そう思わない人は少ないでしょう。
ただのオッサ……オジサマですわね(フリル談)
声優さんたち
ミヤベ同様に良い刺激を頂いた二人。
『でもあの子。私の子供の頃と声ソックリっ!』
『あの男の子も、将来良い演技しそうだね。これはウカウカしてられん』
突然でてきたフリル様
意味はありません(笑)